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「物性なんでもQ&A」(#1-#299)


最新のQ&A(#1300-) Q&A(2)#300-#699 Q&A(3)#700-#999 Q&A(4)#1000-#1299 「50音順キーワード索引」
   
アップした日付
質問項目
分類
質問者
2003.12.15 299. 粗さの単位KA材料 法政大高松さん
2003.12.13 298. 溶液の吸光係数光物性 T大学Oさん
2003.12.13 297. 太陽電池の温度上昇による効率低下光電変換 M高専Oさん
2003.12.09 296. スチール缶とアルミ缶材料/金属 日本化学工業協会高橋さん
2003.12.08 295. 絶縁体のバンドギャップ光物性 東芝三菱電機産業システム田畑さん
2003.12.08 294. インダクタンスと磁気電磁気 セルバック大沢さん
2003.12.08 293. ファラデー効果はなぜ起きる磁気光学 室蘭工大佐藤さん
2003.12.03 292. 酸化タンタルの色光物性 東理大住大さん
2003.12.01 291. 金属光沢について金属/光物性 日本航空専門学校教員谷村さん
2003.11.28 290. 緩和弾性率材料/物性 S社Kさん
2003.11.28 289. 金属の臭い金属/物性 K大学Iさん
2003.11.21 288. ステンレス鋼の耐酸性金属/物性 竹中工務店結城様
2003.11.20 287. スパッタクロム膜の最適膜厚金属/物性 H社Mさん
2003.11.18 286. 可変スモークガラス光学素子 V社Mさん(質問日 03/10/27)
2003.11.17 285. 水の紫外線吸収光物性 H社松山さん
2001.5.07 284. 水中での紫外線の減衰光物性 山形大学 横田憲司さん
2003.11.16 283. オペアンプ回路の飽和現象電子工学 八尾市前川さん
2003.11.15 282. 金属微粒子の赤外光物性金属/光物性 電機会社Hさん
2003.11.13 281. オパールの色とシリカ粒子のサイズ光物性 A高校Mさん
2003.11.13 280. CVDラジカルの平均自由行程ものづくり A社Sさん
2003.11.11 279. シリコンの屈折率半導体/光物性 岐阜大Sさん
2003.11.10 278. 空気の熱膨張係数気体/物性 V社Sさん
2003.11.08 277. LEDの発光の原理光物性/デバイス K大学Yさん
2003.11.01 276. Alの焼鈍材と圧延材金属/物性 X大知能生産システムMKさん
2003.10.30 275. 結晶中のポテンシャル固体物理 長岡技科大高原さん
2003.10.30 274. カーボンの赤外透過率光物性 高校教諭大島さん
2003.10.28 273. 鉄の固有振動数物性 静岡県石田さん
2003.10.27 272. スピン依存平均自由行程磁性/伝導 広島大Wさん
2003.10.26 271. 人工オパールと天然オパールの屈折率のちがい光物性 A高校Mさん
2003.10.25 270. 電析膜の光学的バンドギャップ半導体/光物性 早大Iさん
2003.10.23 269. ダイヤモンドと黒鉛の色のちがい光物性 日本化学工業協会高橋さん
2003.10.22 268. 異方性物質のファラデー効果磁気光学 東大松原さん
2003.10.21 267. 高耐電圧・高誘電率材料電気材料 S社Nさん
2003.10.21 266. 金属結合金属/固体物理 H社Kさん
2003.10.20 265. 磁心材料の具備条件磁性 C大学鈴木さん
2003.10.19 264. 規則配列はなぜランダム配列より安定か材料/物性 九大Keethさん
2003.10.18 263. 希土類磁石の結晶場磁性 N社Kさん
2003.10.13 262. 延伸した高分子の異方性化学/光物性 学生市川さん
2003.10.12 261. トレハロースの立体構造と旋光性化学/光物性 慶大Oさん
2003.10.08 260. 高校理科における半導体関係半導体 高校3年 小坂さん
2003.09.30 259. 表面プラズモンを理解するための本光物性 K社Aさん
2003.09.30 258. 中赤外における金属の反射金属/光物性 矢崎総業宮崎さん
2003.09.29 257. MBEはなぜ非平衡結晶成長なのかものづくり T大学Sさん
2003.09.20 256. 脆性材料の延性モードでの切削材料/金属 K大学Oさん
2003.09.19 255. 反発係数の算出物性 F社Oさん
2003.09.19 254. 焼結金属材料の電気抵抗熱劣化金属/伝導 T社Mさん
2003.09.12 253. ナノ結晶シリコンの発光メカニズム半導体/光物性 A社Kさん
2003.09.09 252. αコバルトとβコバルト金属/磁性 東北大Mさん
2003.09.06 251. 比透磁率の膜厚依存性磁性 高橋さん
2003.09.01 250. 硫化銀の誘電率誘電率O社中川さん
2003.08.30 249. 昆虫の構造色について光物性大学受験生星さん
2003.08.27 248. ステンレスの磁化金属/磁性 S社Oさん
2003.08.27 247. 渦電流の発生について電磁気 M社Iさん
2003.08.27 246. ITOのキャリア密度と反射率光物性TK大学Fさん
2003.08.24 245. 「光と磁気」p.66 図4.3間違い磁気光学 旭化成 小高さん
2003.08.20 244. ITOの結晶構造固体物理 S大学碇さん
2003.08.19 243. 金属はなぜ光る金属/光物性 佐合さん
2003.08.13 242. 酸化クロムの硬さについて材料/物性 M社Yさん
2003.08.12 241. 透磁率が1でない物質の誘電率測定誘電率 井上さん
2003.08.09 240. マンセル明度と反射率色彩 勝呂優香さん
2003.08.07 239. 二酸化珪素と炭素の誘電率誘電率 N社清水さん
2003.08.06 238. ITO電極を用いた水の電気分解反応電気化学 G社のMさん
2003.08.06 237. 液晶の解説書に疑問光デバイス 化学会社Mさん
2003.08.04 236. 夕日の色の謎色彩 沖縄西原中2年大迫さん
2003.07.31 235. シリコンの光伝導スペクトル半導体/光物性 半導体企業Yさん
2003.07.30 234. 磁性ガーネットの光学定数磁気光学 リコー桂川さん
2003.07.30 233. 交流電場への液晶分子の配向光デバイス 東北大大学院生Oさん
2003.07.30 232. 真空の導電率電磁気/導電率 ワクチン製造メーカーTさん
2003.07.24 231. 酸化アルミニウムのnとkについて光物性 C大学Sさん
2003.07.25 230. 熱測定の際のダミーの選定基準熱的性質T大学Tさん
2003.07.23 229. 真鍮の結晶構造金属/物性 H社Kさん
2003.07.23 228. 分極率の高エネルギー側のふるまい誘電率 化学会社Mさん
2003.07.23 227. k-空間の物理的説明固体物理 電気会社Tさん
2003.07.20 226. 鉄・銅・真鍮の密度 金属/物性 S中学Hさん
2003.07.18 225. 白色絶縁体について光物性T社Mさん
2003.07.17 224. ポリブタジエンの伸縮性化学中央大伊古田さん
2003.07.14 223. アンモニアの固有振動モード光物性 理科大山口さん
2003.07.11 222. 熱収縮熱的性質 主婦 Hさん
2003.07.10 221. 身近にある磁性材料磁性 I大学Tさん
2003.07.07 220. 熱抵抗について熱的性質/伝導 S社Uさん
2003.07.03 219. Ti-Ni形状記憶合金の状態図について 金属/物性 信州大学4年Tさん
2003.06.30 218. ITOの溶解化学 N大学Oさん
2003.06.29 217. 二酸化炭素の自然界での分解化学 T中学13才Kさん
2003.07.02 216. 斜め入射反射における位相の飛びについて光物性 S社MSさん
2003.06.28 215. 反射の際の位相のずれ光物性 S社MSさん
2003.06.20 214. 真空の耐電圧電気工学 森本さん
2003.06.19 213. 金属結合と共有結合の関係金属/固体物理 Iさん
2003.06.19 212. 金属の吸収端とプラズマ振動数金属/光物性 O社Mさん
2003.06.18 211. 焼結法と状態図材料/ものづくり M大学Yさん
2003.06.17 210. 酸化チタンの光伝導(2)光電変換 N社Hさん
2003.06.13 209. 透過率とシート抵抗光物性/伝導 東大M2村瀬さん
2003.06.12 208. 鉄の相変態と格子定数金属/物性 電気会社山下さん
2003.06.11 207. 磁石の大きさと電磁誘導磁性/電磁気 W大学Kさん
2003.06.05 206. ぬれた石はなぜ黒い色彩 成蹊大川田さん
2003.06.03 205. 光の周波数における透磁率磁性 東大先端研 馬さん
2003.06.03 204. シリカガラスの赤外屈折率光物性 TQ社Aさん
2003.05.29 203. 現像銀は何故黒いか金属/光物性 コニカ大谷さん
2003.05.28 202. アルミニウムのUV反射率金属/光物性 C大学Uさん
2003.05.27 201. ITOの成膜条件と物性値の関係ものづくり/物性 KK大学Nさん
2003.05.21 200. シュブニコフ・ドハース(SdH)振動磁性/固体物理 TK大学Hさん
2003.05.14 199. 空気と水の誘電率誘電率 苫小牧高専森さん
2003.05.13 198. 光ファイバー中のラマン散乱光応用/光物性 A社Mさん
2003.05.13 197. ブリルアン領域固体物理 某大学福井さん
2003.05.10 196. グラファイトカーボン物性値物性 T社Sさん
2003.05.08 195. サファイアのエッチャント材料/化学 F社Kさん
2003.05.07 194. アルミニウムの反射率金属/光物性 F社Wさん
2003.05.02 193. 酸化チタンの光伝導光電変換 N社Hさん
2003.04.22 192. BLTの赤外スペクトル光物性 F大Tさん
2003.04.21 191. FEDの封止法ディスプレイ T社Yさん
2003.04.21 190. 不純物準位計算法固体物理 M社Nさん
2003.04.16 189. 金属結合の原子モデル金属/固体物理 R社Iさん
2003.04.10 188. シリコンの超音波反射半導体/音波物性 半導体会社RYさん
2003.04.10 187. 円筒電子レンジとソーラーエアコン電気電子工学 商品開発会社Yさん
2003.04.09 186. セラミックのマイクロ波透過電磁気 Tさん
2003.03.19 185. ITOの熱伝導率熱的性質 S社Sさん
2003.03.18 184. 転位密度の測り方結晶工学 熊本大学浅田さん
2003.03.15 183. 接触面積と電流による損傷電気工学 Nさん
2003.03.14 182. 引き上げ法で金属が作れるか金属/ものづくりK社Kさん
2003.03.10 181. ハードディスクに対するX線の影響磁性/物性Sさん
2003.03.07 180. 磁区と結晶粒磁性 K社Tさん
2003.03.05 179. 炭素のマイクロ波加熱電磁気 S株式会社Sさん
2003.02.26 178. 白金黒と銅粉の違い(金属微粒子の反射)金属/光物性 A高専Tさん
2003.02.10 177. 磁歪について磁性 K社Tさん
2003.02.10 176. シリコンウェハーの斜め入射UV反射率半導体/光物性 C大学大学院Uさん
2003.02.09 175. 液晶の赤外特性光デバイス/光物性 H社Nさん
2003.02.03 174. 規格化周波数と薄膜の反射率光物性 岡山理大中瀬さん
2003.01.31 173. CIS太陽電池におけるCdSの光伝導度光電変換 T大学Eさん
2003.01.29 172.焼結体のEPMA分析物性 T大学江原さん
2003.01.28 171. 黒くなった液晶表示ディスプレイ O社Kさん
2003.01.27 170. 磁性フォトニック結晶における光局在光物性金沢工大佐々木さん
2003.01.22 169. 斜め入射の光吸収光物性Sさん
2003.01.21 168. 45度入射の薄膜の反射・透過の計算法光物性 OS大学MNさん
2003.01.21 167. 有機ELについてディスプレイ佐藤さん
2003.01.20 166. レーザ照射と吸収の増加光物性 理科大花田さん
2003.01.20 165. チタンとカーボンの光吸収金属/光物性 岡山大行司さん
2002.01.18 164. アルミと酸化アルミの光学的性質光物性 田岡さん
2002.01.10 163. 温水の超音波伝搬音波物性山梨大学Mさん
2002.01.09 162. セラミクスのマイクロ波焼結ものづくり M社Iさん
2002.01.07 161. 整流作用について電子工学 romansuさん
2002.12.28 160. 機能材料のための量子工学固体物理日大鈴木さん
2002.12.26 159. コバルト置換YIGについて磁気光学 S社Kさん
2002.12.22 158. 電析膜の光吸収光物性 早大Iさん
2002.12.20 157. 同位体の購入材料北Texas大、神(ジン)さん
2002.12.13 156. 屈折率分散のない材料光物性 C社Aさん
2002.12.12 155. 中赤外域のファラデー効果磁気光学 R社Kさん
2002.12.06 154. 半導体についたヨウ素を除くには半導体/化学北Texas大、神(ジン)さん
2002.12.02 153. 超伝導ギャップとスピンギャップ超伝導 T大江原さん
2002.11.29 152. 多層膜の反射率光物性 ニュークリエイション坂井さん
2002.11.25 151. 高分子光物性光物性/光化学 T大学Iさん
2002.11.22 150. 磁気相転移磁性 某国立大のMさん
2002.11.21 149. X線吸収光物性 筑波大Tさん
2002.11.21 148. 結晶粒界結晶工学 東京理科大下田さん
2002.11.19 147. 色素増感太陽電池光電変換 H大Sさん
2002.11.18 146. 磁性フォトニック結晶磁気光学 S社Kさん
2002.11.18 145. 放射性夜光塗料(光物性工学講義ノートへの指摘)色彩/光物性 TKPLABさん
2002.11.15 144. 半導体のサブギャップ吸収半導体/光物性 東京理科大田中さん
2002.11.13 143. 光伝導について光電変換 神戸大細川さん
2002.11.10 142. 熱電効果について熱的性質/伝導 RYOさん
2002.11.08 141. YIGと反射膜磁気光学/光物性 金沢工大佐々木さん
2002.11.08 140. IH鍋電磁気 Eセンター重松さん
2002.11.06 139. Birch-Murnaghan の状態方程式物性T大学Tさん
2002.11.06 138. 光学ローパスフィルタ用IRフィルタ光学素子/光物性 C社Aさん
2002.11.04 137. 絶縁体の光吸収光物性 東京理科大田中さん
2002.10.31 136. 薄膜の柱状構造材料/物性T大Eさん
2002.10.29 135. キャリア活性化半導体/物性 日産自動車金子さん
2002.10.29 134. 透明電極光物性 H大Sさん
2002.10.29 133. 金属微粒子のプラズモン励起 金属/光物性 N大Kさん
2002.10.28 132. 金属のキャリア濃度金属/物性 N大Oさん
2002.10.18 131. 光触媒光化学 M社Fさん
2002.10.18 130. 液晶ディスプレーのIPSモードディスプレイ N社Mさん
2002.10.15 129. 金属の有効質量金属/物性 N大Oさん
2002.10.15 128. 表面プラズモン共鳴バイオセンサーについて光物性/バイオ M.A.さん
2002.10.11 127. 円偏光の反射光物性 T社Kさん
2002.10.10 126. 複素誘電率について誘電率 M工大Tさん
2002.10.09 125. 鉄心のB-H曲線磁性 衛藤さん
2002.10.03 124. 逆格子の参考書固体物理 島根大Hさん
2002.10.02 123. エバネッセント波について光物性 *大Kさん
2002.10.02 122. RFイオンプレーティング用コイルのマッチングものづくり/電磁気 T大Eさん
2002.09.28 121. 光学的バンドギャップとホトニックバンドギャップ光物性 O社Kさん
2002.09.23 120. シート抵抗について伝導 法政大学Hさん
2002.09.21 119. 硬さと反発係数機械的性質 H高Mさん
2002.09.18 118. Si半導体中の電子の有効質量 半導体/物性K大Iさん
2002.09.14 117. デバイ温度と結合力物性/熱的性質 N大Hさん
2002.09.03 116. 導波管の磁場と磁性体 磁性/電磁気 S研Nさん
2002.09.01 115. 電子の性質について知りたい固体物理 Nさん
2002.08.22 114. メタルの上に材料を積層したときの反射率の求め方金属/光物性 M社Yさん
2002.08.18 113. なぜ、コイルの中に磁石を入れるだけで、電気が生じるのですか電磁気 中学生伊藤さん
2002.08.13 112. ウィレマイトの誘電率がわかりました誘電率 N社Uさん
2002.08.07 111. ウイレマイトの誘電率誘電率 N社Uさん
2002.08.01 110. North Coast EO-817 Detectorの仕様を知りたい計測 Olivierさん
2002.08.19 109. コメント「エクセルで薄膜の反射率が計算できる」光物性 大塚電子大川内さん
2002.07.29 108. 光学定数から薄膜の反射率を計算できるか光物性 N社Sさん
2002.07.12 107. X線消滅則について物性 同志社大SC-219さん
2002.07.12 106. ハーフメタルについて金属/磁性 A社Bさん
2002.07.08 105. 物質の温度低下について熱的性質 N社林さん
2002.07.08 104. 電子レンジによる炭素の加熱電磁気 同志社女子中高物理科北野さん
2002.07.07 103. 誘電体を含むコンデンサ電磁気 九工大Fさん
2002.06.28 102. うつぶせの洗面器力学 武井さん
2002.06.17 101. 誘電体中の光の伝搬光物性 Mさん
2002.06.05 100. 金属結合について金属/物性 ウシオ電機池内さん
2002.05.31 99. ランセット磁区磁性 高岡さん
2002.06.02 98. 太陽電池の本光電変換 T大Eさん
2002.05.28 97. 水分子の結合角物性 Mさん
2002.05.25 96. 高熱伝導率材料熱的性質/伝導 ウシオ電機池内さん
2002.07.0697. 95. bilayer-CIS太陽電池における低抵抗CdSの役割光電変換 T大Eさん
2002.05.22 94. CIS太陽電池におけるCdSの役割光電変換 T大Eさん
2002.05.20 93. 亜鉛の光吸収係数金属/光物性 T大Tさん
2002.05.20 92. カーボン粒子を含むゴムの誘電損失誘電率 A社Nさん
2002.05.16 91. 金属の熱膨張係数金属/熱的性質 B社Yさん
2002.05.12 90. 励起子ポラリトン光物性 筑波大小山さん
2002.04.19 89. ガラスの高温での結晶化について物性 Davidさん
2002.04.22 88. 空気と水の質量について物性 Aさん
2002.04.19 87. 斜めギザギザ構造からの発色(反射光)について光物性 T社Yさん
2002.04.13 86. 振幅反射率とエネルギー反射率光物性 MKさん
2002.04.04 85. リンゴはなぜ赤い色彩 印刷会社Kenjiさん
2002.04.03 84. 斜め入射の反射における複素数の屈折角光物性 O社Oさん
2002.04.02 83. はんだのぬれ上がり金属 ロンさん
2002.04.02 82. 光の吸収係数について光物性 市嶋さん
2002.03.29 81. カー楕円率によるヒステリシス磁気光学 日立中研松山さん
2002.03.28 80. 「光と磁気」への質問(誤植の指摘)磁気光学 阪大諏訪さん
2002.03.21 79. 表面粗さと反射率の関係光物性 半導体メーカTYさん
2002.03.09 78. 半田メッキ上の半田くずの検出法金属/計測 半導体メーカTYさん
2002.03.08 77. Ta2O5薄膜の組成について物性 A社HSさん
2002.03.04 76.1次元格子のデバイ温度固体物理 K大学稲葉さん
2002.02.19 75. 「新しい磁気と光の科学」についての質問磁気光学 東大志村さん
2002.02.18 74. シリコンの硬さ半導体/機械的性質 K大学UJさん
2002.02.18 73. XRDの配向性とは物性 Daisuke Yoshidaさん
2002.02.06 72. MOディスクの動作原理磁気光学 T.K.さん
2002.01.31 71. アモルファス磁性体とは磁性 熊本さん
2002.01.28 70. In2S3の結晶構造について結晶工学 都城高専Hさん
2002.01.24 69. スピネル構造の密度・硬度について結晶工学 同志社大tj6041、tj6153さん
2002.01.23 68. 非線形磁気光学について光物性/非線形 K大学Nさん
2002.01.21 67. 半導体の誘電率に関する質問半導体/誘電率 筑波大学小山さん
2002.01.19 66. 光ファイバのレイリー散乱について光通信/光物性 Tさん
2002.01.17 65. 酸化チタン(III)について材料 DS大学岡本さん
2002.01.16 64. 有効質量について固体物理 D大学Ikedaさん
2002.01.10 63. 励起子発光について光物性 N大学Kさん
2001.12.20 62. 光学吸収端の裾光物性T社Yさん
2001.12.21 61. CVDと真空ものづくり K大学Tさん
2001.12.20 60. 磁性薄膜の光学測定磁性/光物性 KM大学Nさん
2001.12.18 59. 比誘電率が大きいとは?誘電率 池田さん
2001.12.10 58. フェルミディラック分布固体物理 Aoki Kojiさん
2001.12.10 57. 宝石について色彩/光物性 N.Okamuraさん
2001.11.24 56. 整流作用の実用例電気工学 Takaさん
2001.10.30 55. ポリマーの色と電気伝導化学/光物性 バンドー化学 武居さん
2001.10.10 54. 硬さと表面張力金属/機械的性質 T社IJさん
2001.10.10 53. 岩石と木材の見分け方材料/計測 KSさん
2001.10.10 52. 暗所での色彩の見え方色彩 ATさん
2001.9.27 51. 最近の磁性半導体の話題磁性/半導体 阪大 金村さん
2001.8.28 50. CDの虹色色彩 Nonoguchiさん
2001.9.07 49. 誘電率の周波数分散誘電率 D社Mさん
2001.8.22 48. 炭素の性質物性 Y社Nさん
2001.6.26 47. 光学定数の抽出法光物性 MTさん
2001.6.26 46. 金属の誘電率金属/誘電率 豊田工大 松浦さん
2001.6.21 45. オシロスコープと磁界磁性 Kotaro Takahashiさん
2001.6.13 44. 材料の硬さと延性について材料/機械的性質 B大学THさん
2001.5.23 43. 光電変換材料光電変換 阪大Nさん
2001.5.11 42. 光子と電波のちがい電磁気 Mさん
2001.5.15 41. PEMによる磁気光学効果測定におけるフィードバック回路磁気光学 K大学Sさん
2001.5.16 40. 反強磁性体の磁気光学効果磁気光学 東大Kさん
2001.5.07 39. 朝日と夕日の色の違い色彩/自然 
2001.4.27 38. ミリ波帯の誘電損失電磁気  
2001.4.27 37. 低周波における金属の誘電率金属/誘電率T さん
2001.4.10 36. 固体の熱膨張係数熱物性S社Sさん
2001.3.13 35. 液晶ディスプレー(2)ディスプレイTK社MTさん
2001.3.05 34. 斜め入射の金属の反射率金属/光物性A社Tさん
2001.2.28 33. 有機ELについて金属/光物性TK社MTさん
2001.2.19 32. ショアーの硬さ金属物性長江さん
2001.2.20 31. 「光と磁気」への質問:プラズマエンハンスメント磁気光学東大Mさん
2001.2.06 30. ブラウン管の振動ディスプレイNさん
2001.2.06 29. 液晶ディスプレイディスプレイTK社MTさん
2001.1.18 28. 圧電セラミクスとPb誘電体物性九大日野さん
2001.1.22 27. 裏面反射を拾わない反射率測定光物性X社Uさん
2000.11.626. 積分球を用いた拡散反射光物性阪大産研MJさん
2000.10.2325. 薄膜の吸収スペクトルから干渉縞を除くには?光物性阪大産研MJさん
2000.9.1724. 光伝導の測定法光物性I技研Tさん
2000.8.2123. 塗料の分光特性光物性警察大学校Yさん
2000.7.722. レポート一般Yさん
2000.7.1021. 16進数電子工学MYさん
2000.7.320. アナログ通信とディジタル通信通信工学MYさん
2000.6.3019. LSIの発展のきっかけになった発明半導体デバイス通信高校Yさん
2000.6.2818. 水分を含んだ物質の分光測定Wさん 
2000.1.717. 太陽電池パネルを設置したい光デバイス阿部さん
2000.1.2416. 群論を学びたい一般九大Kさん
 15. 透明磁性体磁性東大Mさん
 14. 微小磁区の観察磁性S電機Mさん
2000.6.1313. キャリア濃度電子物性阪府大*;*;さん
2000.6.812. 光の波動性と粒子性光学農工大Nさん
2000.6.111. 非接触でp,n判定できるか半導体物性K精工㈱Mさん
2000.6.110.「光と磁気」磁気光学阪大M.Y.さん
2000.5.219. フェライト磁性埼玉大澤田さん
2000.5.108. 「光と磁気」磁気光学阪大M.Y.さん
2000.5.97. 光速を超音波の速度まで落とせるか?光物性農工大Nさん
2000.5.96. 黄錫鉱は人工的に作れるか結晶成長学鉱物科学研究所の####
 5. 金属の反射スペクトル光物性TS社$$$$
2000.4.244. 音波音波物性農工大Nさん
 3.「光と磁気」(初版)磁性M.Y.さん
2000.03.312. アルミパイプの中を磁石が回りながら落ちる磁性伊藤家の食卓リサーチ担当さん
 

1.スチール缶が方位磁石になる

磁性伊藤家の食卓リサーチ担当さん



1.スチール缶が方位磁石になる


Q: 先日は、わたくしめの突然のメールにお忙しい所、たいへん詳しくお答を頂きまして、本当にありがとうございます。ご多忙の所、貴重なお時間を割いていただきまして大変恐縮しております。先生に教えていただきましたメカニズムがたいへん分かりやすく、今まで、苦戦していた謎がするすると解けていくようです。わたくし自身、水に浮かべたスチール缶が方位磁石のように回りだしたときは、とても信じられませんでしたが、スチール缶の製造工程に、このような秘密が隠されていたとはたいへん驚きです。先生から教えていただきましたメカニズムがたいへん分かりやすかったので、そのまま制作のほうに提出してみようと思っております。今後また、何かありましたら、先生のお力をお借りできましたらと思っております。今後とも、何卒よろしくお願い致します。
日本テレビ  伊東家の食卓 リサーチ担当  ****
A:**様、佐藤勝昭です。
satokats> 私は、16年前まで前NHKに勤めており、新任の大阪放送局でVTRなどを担当後、東京の研究所で技術研究を行っていました。放送については、ある意味でご同業なので、ご質問の趣旨を理解し、民放でこのようなまじめな番組をお作りになっておられるご苦労に敬意を表します。
 さて、1つ1つのご質問に答える前に、「磁性体一般」について、簡単に解説しておきます。**さんは、「磁化」などという専門用語をお使いになっているので、理科系ご出身と拝察します。従って釈迦に説法かも知れませんが、大学で学ば れた復習だと思って、読んで下さい。磁性体には、大きく分けて、常磁性体、反磁性体、反強磁性体、フェリ磁性体、強磁性体などの種類があり、このうち、常磁性体(例えばルビー、クロムみょうばんなど)、反磁性体(アルミニウムなど)、反強磁性体(黄銅鉱など)は「自発磁化」をもたず、従って、通常の磁界では磁石に吸い付きません。
 実用的に使われる磁性体は、強磁性体(鉄、コバルト、ニッケルなど)とフェリ磁性体(フェライト、磁性ガーネットなど)の2種類で、自発磁化を持ちます。そこで、以下では、磁性体といえば「強磁性体、フェリ磁性体」をさすものとして話します。自発磁化というのは、外部から磁界を加えなくても、原子磁石がそろってある方向を向くようなものです。
 自発磁化を持つからといって永久磁石になるわけではありません。ハードディスクやウォークマンの磁気ヘッドに使われるパーマロイとよばれる磁性体は鉄とニッケルの合金ですが、この磁性体は、磁界を加えないときは、磁気を帯びていません。この種の磁性体を軟らかい磁性体(軟質磁性体)とよびます。これは、磁性体の内部がいくつかの「磁区」とよばれる領域に分かれていて、それぞれの磁区の中では、原子磁石がそろえあっているのですが、磁区同士はさまざまな方位を向いていて、全体として磁化をうち消し合っているのです。外部から磁界が加わるとそれに比例した磁化が発生しますが、外部磁界を切ると元に戻ってしまいます。
 一方、ハードディスク媒体やカセットテープに塗布されている磁性体(ハードディスクではコバルトとクロムの合金が、カセットテープでは酸化鉄や酸化クロムやコバルト燐などが使われます)は、電気信号に応じた磁界が加わると、その方向に磁化され、磁気を切っても記憶しています。これを、残留磁化といいます。また、逆の磁界をかけて、磁化状態を反転することが出来ます。反転するには、一定以上の強さの磁界が必要でこれを保磁力といいます。記録媒体に使う磁性体のような記憶が残る磁性体を、やや硬い磁性体(半硬質磁性体)と呼びます。永久磁石は、この保磁力が恐ろしく大きな磁性体で、硬質磁性体といいます。
 さて、ご質問にお答えしましょう。スチールと一口に言っても、ステンレススチールなどの合金の中には、自発磁化を持たないものもあれば、スチール缶に用いる半硬質磁性のもの、よく焼きナマした釘のように軟磁性のもの(普通の釘は半硬質です)などがあります。合金材料の構成比、圧延の仕方、焼き鈍し方などの方法によって、保磁力は大きく変化しますから、物質本来の性質ではないので「技術磁化」などと呼ばれています
。    **>『中身を出したスチール缶に方位磁石を近付けると、方位磁石が反応します。』

satokats>方位磁石の磁針は、弱く磁化した強磁性体が使われます。磁針が触れたことは、スチール缶がすでに磁化していたことを示しています。缶のスチールは残留磁化をもっているので、軟磁性ではないのです。これは、スチールの圧延の際に磁気異方性が誘導され、磁区の向きが完全にはバラバラではないことを示唆します。

**>そこで、本当に方位磁石が反応するのか、実験してみました。
**>①コーヒーに方位磁石が反応するのか実験…缶コーヒーの中身をカップに移し、方位磁石を近付けてみました。⇒結果・コーヒーは方位磁石を反応させる飲み物ではありませんでした。
satokats>これは当たり前です。コーヒーはほとんど水ですから弱い常磁性か反磁性でしょう。

**>②次にコーヒーの「缶」が方位磁石に反応するのか実験…中身を出したカラの缶に方位磁石を近付けてみました。⇒アルミ缶の場合…方位磁石は反応しませんでした。
satokats>アルミニウムは「反磁性体」ですから、磁石にくっつきません。強い磁気を急に近づけると、レンツの法則で、この磁気の変化をうち消そうとアルミの内部に渦電流がながれます。(電気のメータでくるくる回るアルミ板が見えますが、この原理が使われています。)

**>⇒スチール缶の場合…方位磁石は反応を示しました。
**>③そこで、スチールが方位磁石に反応するのか、と考え、スチールウールを方位磁石に近付けてみました。
**>⇒結果・スチールウールに方位磁石は反応しませんでした。
satokats>スチールウールは、非常に細いスチールの繊維が絡み合っています。非常に細いためにその方向が磁化容易軸となっていますが、いろんな方向に向いているので全体としては残留磁化がうち消しています。強い磁石にはくっつくはずですが・・。さびにくくするためクロムなどを添加してあるものは常磁性になっていることがあります。

**>スチール缶に方位磁石が反応したのは…スチール缶を方位磁石に近付けたことにより、磁気誘導によって、スチール缶が一時的に磁化されたためと考えてもよろしいのでしょうか?
satokats>方位磁石は非常に弱い磁束しか出しませんから、これによりスチール缶が磁化したとは考えられません。はじめに述べたように、スチールがすでに磁気を帯びていたのでしょう。

**>④さらに、スチール缶が方位磁石の代用にならないかと思い、中身を出したカラのスチール缶を水をはった洗面器に浮かべて、方位磁石と同じように南北を指すのか実験してみました。
**>⇒すると、なんと、水をはった洗面器に浮かべたスチール缶が方位磁石のように南北を指しました。
satokats>このことはまさに、スチール缶がはじめからある方向に残留磁化を持っていたことをしめします。

**>

  • ●飲み口の方が北を指しました。
  • ●南北の精度は「はぼ」というレベルです。
  • ●タイプの違うスチール缶をいくつか使い実験してみました所…
  • 5.2cm×10.4cmの通常のコーヒー缶→飲み口がほぼ北を指す。
  • 6.2cm×12.0cmの柔らかいスチール缶→飲み口がほぼ北を指す。
  • 6.2cm×12.0cmの固いスチール缶→北を指さなかった。
  • 6.2cm×9.8cmの固いスチール缶(ミルクティーがよく入っている缶です)→北を指さなかった。
  • …という、結果が得られました。
    > **>そこで、スチール缶について調べてみました所…
  • ●缶用のスチールは回転するローラーの間に通し、うすくした後、電解処理という方法でクロムという金属を加えたティンフリースチールと言うものを現在では、ブリキの変りに、9割という割合で使われています。>
  • ●スチール缶の製法には、2種類あります。
  • *ふた・胴・底の3つに分けて、それぞれ製造し、繋ぎ合わせる方法(3ピース缶)
  • *底と胴の繋ぎ目がなく、底と胴を一体としてスチールからくりぬき、それにふたを繋ぐ方法(2ピース缶)
  • ●スチール缶と一口に言っても、フタはアルミニウム製。
    ちなみに、実験の際、使用したそれぞれの缶は…
  • 5.2cm×10.4cmの通常のコーヒー缶と6.2cm×12.0cmの固いスチール缶は3ピース缶
  • 6.2cm×12.0cmの柔らかいスチール缶と6.2cm×9.8cmの固いスチール缶は2ピース缶…でした。
  • **>鉄の性質上で、このような、方位磁石のように南北を指すような性質として考えられるメカニズムは存在するのでしょうか?
    satokats>まさに圧延や型抜きにより発生した「誘導磁気異方性」や「逆磁歪効果」のために、作製時点である方向を向いて磁化したのですね。薄いほど、この効果は大きいと思われます。鉄の固有の性質というよりは、製造工程で誘起されたもので、「技術磁化」のよい例だと思います。

    **>佐藤先生が磁性研究等を専門とされていて、強磁性体についても、お詳しいと知りましてメール致しました。
    satokats>より詳しくは、東北大学金属材料研究所や東北大学工学部材料物性工学科に専門家がおられると思いますのでおたずね下さい。


    2. アルミパイプの中を磁石が回りながら落ちる

    Q:いつも大変お世話になっております。
    先日は、『スチール缶が方位磁石になる』という件で、たいへんお世話になりました。お忙しい所、わたくしめの疑問に、適切なお答等をいただきまして、本当にありがとうごさいます。番組云々以外で、わたくし個人としましても、大変興味深く、また勉強になりました。実は、また磁石関係で、別件で、またメカニズム解明に苦戦している件がございまして…ご多忙中、ご迷惑とは思いましたが、先生にお伺いするのが一番と思い、メールをうってしまいました。
    たいへん恐縮なのですが、なにかアドバイスを頂けますと、たいへん助かります。なにとぞよろしくお願い致します。
    視聴者のかたから下記のような投稿がありました。
    *****************視聴者情報************
    (小学校6年生クラス全員からの情報でした)

    『アルミパイプの中に磁石を落とすと、磁石はらせん状にゆっくりと落ちていく。』

    そこで、視聴者情報に基づき、私の方でも、ネオジム磁石を取り寄せて実験してみました。

    1. <垂直に落とした時>
      ●直径3cm×長さ1mのアルミパイプの中に直径2.5cm×高さ2.0cmのネオジム 磁石を落としてみました。
      ⇒ネオジム磁石はゆっくりとぐるぐるまわりながら落ちていく。(フワッとした感じでした・落とし方によってはらせん状に…)
      そこで、他の磁石でもできないか?…と思い、フェライト磁石でも実験してみました所,途中磁石が回転するもののストンッと落ちました。つぎに…
    2. <斜めに落とした時>
      ●同じアルミパイプの中に、直径2.5cm×高さ2.0cmのネオジム磁石を落とした時
      ⇒垂直に落とした時と同じ結果が得られました。
      ●フェライト磁石を落とした時⇒アルミパイプの内壁を転がるように下へ落ちました。
      そこで…直径2.5cm×高さ2.0cmのネオジム磁石と同じ形をしたアルミの塊を同じように垂直の場合と斜めに落とした場合と落としてみたらどうかと思い、実験してみました。
      ●垂直に落としてみた時⇒落とし方により、内壁に引っかかったり…っとありますが、比較的ストンッと下へ落ちました。
      ●斜めに落とした時⇒ぐるぐる回りながら落ちましたが、ネオジム磁石のようなフワッとした感じはありませんでした。まるで、アルミパイプ内の内壁にぶつかっているように見えました。
    3. ちなみに、アルミパイプ以外のパイプではどうか、と思い…アクリルパイプでも同じように実験してみました。
      ⇒結果は…すべて、どの場合でも、そのままストンっと下へ落ちました。

      ***********************************
      **>これは、『電磁誘導』といわれる現象で説明しても差し障りありませんでしょうか?

      satokats>アルミなどの磁石につかない金属の近くで磁石を動かすと、磁石の磁束が金属を貫通し、さらにその金属を動かすとそれに伴って磁束の束も移動して磁界が変化するため、電磁誘導が起こり、その結果、金属中で、その磁束の変化を打ち消すように渦を描いたような電流が流れ(渦電流)、アルミなどの普段磁石につかない金属も電流が流れているときにだけ磁石になり、その内部を流れる渦電流によって生じる磁界により引き合いや反発が起こります。

    4. そこで…
      **>どうして引力が少なくなるの?…という疑問なのですが…
      アルミパイプの中を磁石が落下すると、磁界の変化によって電磁誘導が起こり、アルミパイプ内にその磁石の磁束の変化を打ち消そうと渦電流が流れます。その結果、アルミパイプのような磁石にくっつかない金属であってもアルミパイプ内に磁界ができ、引き合いや反発が起こるため、アルミパイプ内を磁石が移動するのに強い抵抗を受け、磁石の落下の加速度が小さくなり、引力が小さくなって、ゆっくり落下するものと思われます。

      …という説明をしたとしても、差し障りありませんでしょうか?

    5. ちなみに…
    6. どうして、ネオジム磁石はアルミパイプの中をゆっくりと(フワッと)落ちるのですか?
    7. どうして、ネオジム磁石はアルミパイプの中をぐるぐる回りながら落ちていくのですか?
    8. これは、アルミと磁石の組み合わせだからこそ、できることなのでしょうか?
    9. アルミの塊がぐるぐる回りながら落ちていったのは、摩擦で説明できるのでしょうか?
    10. お忙しい所、細かい質問ばかりになってしまいまして、大変申し訳ございません。また、この投稿内容も、まだオンエアが決定しているわけではないのですが制作前段階のメカニズム解明を大変急いでおります。

    お名前を先生に無断で放送することや、ご出演を強要するような事は一切致しませんので、ご安心下さい。また、今回の件が、ご研究の分野とかけ離れているものだったとしましたら大変申し訳ありませんでした。もしも宜しければ、どのような分野の先生に伺えば良いかアドバイスを下さいませ。何卒よろしくお願い致します。

    日本テレビ  伊東家の食卓 リサーチ担当  ****


    A:
    ****様、佐藤勝昭です。  応用物理学会開催中で、大学に行っておらず、家からお答えします。
     小学生の質問ということで、なるべくやさしく解説しなくてはなりませんね。今の質問はアルミパイプの中で磁石を落下させる話でしたが、逆に強い磁石のN極とS極を向かい合わせておき、上からその間を通り抜けてアルミ板が落下するときにも同様に、磁極の間でふわふわとおちます。理由は、**さんの説明の通りです。アルミニウムの反磁性のためにアルミを通り抜ける磁束の変化を妨げるように渦電流が流れて逆向きの磁束変化がアルミに誘起され、それとNdFeB(ネオジミウム鉄硼素)磁石(略称ネオジム磁石)の磁化との反発で力が働きます。変化を妨げる方向ですから上向きの力が働くので、あたかも引力がなくなったように見えるのです。

      Q>『アルミパイプの中に磁石を落とすと、磁石はらせん状にゆっくりと落ちていく。』
    sato>パイプなので、反磁界は周り中のアルミから生じており、その分布が均一ではないので(試料の近くは強く遠くは弱い)くるくる回ります。

    Q>(フワッとした感じでした・落とし方によってはらせん状に…)
    > sato>運動は反磁界の大きさ、試料の形状、重さ、パイプの太さによって条件が変わるので、いろんな運動が起きます。

    Q>そこで、他の磁石でもできないか?…と思い、フェライト磁石でも実験して>みました所途中磁石が回転するもののストンッと落ちました。
    sato>ネオジム磁石に比べフェライト磁石は磁力が弱いので、誘起される反磁界も弱いのです。

    Q>つぎに…
    <斜めに落とした時>
    **>同じアルミパイプの中に、直径2.5cm×高さ2.0cmのネオジム磁石を>落とした時
    ⇒垂直に落とした時と同じ結果が得られました。
    sato>最初だけ斜めでも一度壁に衝突した後は、運動は垂直の場合とほとんど同じでしょう。

    **>フェライト磁石を落とした時⇒アルミパイプの内壁を転がるように下へ落ちました。
    sato>反発力が弱かっただけです。

    **>そこで…直径2.5cm×高さ2.0cmのネオジム磁石と同じ形をしたアルミ>の塊を同じように垂直の場合と斜めに落とした場合と落としてみたらどうかと思い、実験してみました。
    >●垂直に落としてみた時⇒落とし方により、内壁に引っかかったり…っとありますが、比較的ストンッと下へ落ちました。
    >●斜めに落とした時⇒ぐるぐる回りながら落ちましたが、ネオジム磁石のようなフワッとした感じはありませんでした。まるで、アルミパイプ内の内壁にぶつかっているように見えました。
    sato>アルミ同士なら電磁誘導はおきません。

    **>ちなみに、アルミパイプ以外のパイプではどうか、と思い…アクリルパイプでも同じように実験してみました。
    **>⇒結果は…すべて、どの場合でも、そのままストンっと下へ落ちました
    Q>これは、『電磁誘導』といわれる現象で説明しても差し障りありませんでしょうか?
    sato>良いでしょう

    Q>アルミなどの磁石につかない金属の近くで磁石を動かすと、磁石の磁束が金属を貫通し、さらにその金属を動かすとそれに伴って磁束の束も移動して磁界が変化するため、電磁誘導が起こり、その結果、金属中で、その磁束の変化を打ち消すように渦を描いたような電流が流れ(渦電流)、アルミなどの普段磁石につかない金属も電流が流れているときにだけ磁石になり、その内部を流れる渦電流によって生じる磁界により引き合いや反発が起こります。
    sato>完璧です。説明の言葉はちょっと難しいですから、優しい言葉に言い換える必要がありそうです。

    Q>そこで…どうして引力が少なくなるの?…という疑問なのですが…
    アルミパイプの中を磁石が落下すると、磁界の変化によって電磁誘導が起こり、アルミパイプ内にその磁石の磁束の変化を打ち消そうと渦電流が流れます。その結果、アルミパイプのような磁石にくっつかない金属であってもアルミパイプ内に磁界ができ、引き合いや反発が起こるため、アルミパイプ内を磁石が移動するのに強い抵抗を受け、磁石の落下の加速度が小さくなり、引力が小さくなって、ゆっくり落下するものと思われます。
    …という説明をしたとしても、差し障りありませんでしょうか?
    sato>「引力が小さくなり」というのは不正確です。地球の引力は不変ですから、「地球の引力をうち消すように上向きの力が働き」とすべきでしょう。

    Q>ちなみに…
    Q>①どうして、ネオジム磁石はアルミパイプの中をゆっくりと(フワッと)落ちるのですか?
    sato>反磁性による磁化は、磁束の変化によって生じるので、落下速度に比例します。従って、急に減速するのでフワッという感じになるのでしょう。

    Q>②どうして、ネオジム磁石はアルミパイプの中をぐるぐる回りながら落ちていくのですか?
    sato>もし、磁石が完全に球形でパイプの内径に比べて十分小さく、かつ正確に円筒の中心軸にそって落ちたとすると、その運動はおそらくスピードが落ちるだけで回転はしないでしょう。しかし、中心軸からずれていると、磁石に近い側の内壁は大きな磁束の変化を感じその結果反磁界も強くなりますが、磁石から遠い内壁の反磁界は弱くなります。従って、近寄った壁から強い反発を受け、反対側の壁に向けて運動します。こうやってジグザグに落ちますが、磁石が球形でなければ、力の向きには斜めの成分も生じますから、近くの内壁にぶつかり、くるくる回るのでしょう。

    Q>③これは、アルミと磁石の組み合わせだからこそ、できることなのでしょう>か?
    sato>電気抵抗が低い反磁性体なら何でも結構です。銅でも亜鉛でも真鍮でも、起きると思います。電気抵抗が高いと電子が円運動をする前に減衰してしまうので渦電流とならず、反磁界は弱いでしょう。また、いうまでもないことですが、鉄、コバルト、ニッケルなど強磁性体ではくっついてしまうので実験になりません。

    Q>④アルミの塊がぐるぐる回りながら落ちていったのは、摩擦で説明できるのでしょうか?
    sato>内壁にぶつかったとき反跳を受けますが、内壁が円形なので斜めに跳ね返され、内壁の別の場所にぶつかりながら落ちていくので回るように見えるのでしょう。摩擦があると、反発係数が小さくなるので、壁に沿って回っていくように見えるかも知れませんが、摩擦だけではくるくる回りません。

    **>お忙しい所、細かい質問ばかりになってしまいまして、大変申し訳ございません。また、この投稿内容も、まだオンエアが決定しているわけではないのですが制作前段階のメカニズム解明を大変急いでおります。


    3.「光と磁気」(初版)

    Q: 佐藤さんがお書きになったテキスト「光と磁気」を購入したいのだけれども,絶版で手に入らない,と学生が言っています.どうすればよいのでしょうか.お尋ねします.

    M.Y.

      A: 版元に問い合わせましたところ、もとの版が活字を拾ってつくられたものであるため、既にすり増しができない状態になっているそうです。それで、qualityは落ちるけれど写真版で増刷することを考えているそうです。私としては、応用磁気学会誌の連載講座に書いた新しい部分も加えて、全面改定したいと考えているところです。Y先生のrequestにつきましては、とりあえず急ぐので、どこかの書店で余っているのがあれば、調達して欲しい旨、伝えておきました。

    追伸、長い間、絶版になりご迷惑をおかけしました。2001年11月に改訂版できました。ぜひお読み下さい。


    4. 音波

    Q: こんにちは、Nです.質問があるのでメールを送ります.
    1.  空気中の光はなぜ横波で進むことができるのですか.
    2.  音場は固体中では縦波と二つの横波になるらしいんですけど、これが固体内で反射をすると、縦波は横波に、横波が縦波にかわるらしいんですが、これはなぜですか。
    3.  空気中の音波は、押す力と押し返す力によって進みますが、押し返す力は、何が押し返すのですか.
    4.  光のスペクトルは1波長では連続ですが、10波長でも連続ですか.
    もし分かりましたら、返事をください.

    --------------------------
    A: N君、佐藤勝昭です。

    1. 光は、物質の移動をともなう波ではないので基本的に音波と異なります。ご存じのように光の伝搬はマクスウェル方程式に従います。▽D=0なので光は基本的に横波です。 2,3については、質問する前に、音波物性に関する参考書を1冊きちんと読まれることをおすすめします。特に押す力と押し返す力の問題は、圧縮性流体の本質的なことですから、そのような基本的なことは自分で勉強してください。さらに詳しく勉強したいとき、固体中の音波に関することは、Y先生またはP科のN先生のほうが専門ですので、両先生に聞いてください。
    2. 質問の意味がよくわかりません。1波長しかない光のスペクトルは1本の輝線が出るだけで「連続」であるわけがありません。基本的な知識の不足です。

    5. 金属の反射スペクトル

    Q: はじめまして、TS社のの$$$$というものです。本日は急なお電話で申し訳ありませんでした。
    当研究所では現在MO-SILの研究開発を行なっています。今後、さらに光ディスクの高密度化が進むことが考えられ、私は今後の技術動向の調査探索の仕事を4月から行なっています。
    光ディスクの高密度化には色々な方法が考えられますが、一つにはレーザーの短波長化が挙げられるかと思います。現在、400~410nmのLDが実用化にかなり近づき つつありますが、私どもはさらなる短波長の200~300nmの領域を一つのターゲットとしてとらえ膜材料の探索から進めることも考えております。(反射膜、誘電体膜)
    そこで、金属の反射率などについてインターネットで調べていたところ佐藤先生の研究室のHPに出会ったというわけです。(私も、以前から先生のお名前は知っていましたが(著書で)...。)そこで、電話でもお話しましたが、金属の反射率(スペクトル)などについてのレビューのようなペーパーや本などがありましたらご紹介頂けないでしょうか?
    A: 金属の反射率については、PalikのHandbook of Optical Constants in SolidsおよびLandolt BoernsteinのニューシリーズのIII-15bに詳しく載っています。詳しくは、研究室にお越し下さい。 $$$$>本日は御忙しい中、時間を空けて下さり有意義な話しをどうもありがとうございました。貸していただいた本は、急いでコピーし、返却致しますが、会社の休日の都合で5/8の週になってしまいそうです。申し訳ありませんが、ご了承願いたいと思います。 今後もよろしくお願いします。


    6. 黄錫鉱は人工的に作れるか


    Q: 初めまして、鉱物科学研究所の####と申します。天然の鉱物を取り扱って いる会社に勤めております。
    先生のご著書「金色の石に魅せられて」を大変興味深く拝読致しました。
    黄銅鉱や黄鉄鉱の結晶を作るところは、また、私は天然のインジウムの鉱物に興味ありますので、硫化インジウム銅(ロケサイト=インジウム銅鉱)については大変興味深いです。さて、天然のに黄錫鉱(Cu2FeSnS)という黄銅鉱に近縁な鉱物があります。さらに錫をインジウムで置き換え更に鉄を亜鉛で置き換えた桜井鉱(Cu,Zn,Fe)3(In,Sn)S4という鉱物があります。これらの鉱物は気相化学輸送法で合成できるものなのでしょうか?

    A: メールありがとうございます。黄錫鉱は、人工的に作製されていると思います。(米国鉱物学会編Sulfide Mineralogy参照)。桜井鉱のように多元素になりますと、ストイキオメトリの制御が難しいと思います。なお、最近はMBE(分子線エピタキシ)法などによって複雑な組成の物質も(薄膜ですが)可能になっています。私の研究室では、MBEによって高温超伝導体Bi2Sr2CaCu27-xを作製しています。龍谷大学の和田隆博先生はstannite構造の複雑な化合物の薄膜成長に成功しておられます。


    7. 光速を超音波の速度まで落とせるか?


    Q: 今日はNです。また質問があるのでメールを送ります。

    光の速度は一定ですが、この光速を何かを用いることによって、超音波と同じ速度まで落とすことはできませんか。

    A: 物質中の光速c'は、物質の屈折率をnとするとc'=c/nで与えられます。物質のnはせいぜい5程度ですから、音速にまで落とすのは困難です。しかし、全反射光学系における表面付近の近接場は基本的には伝搬しないので、超音波とのカップリングは可能です。実際そのような研究が行われているのではないかと思います。


    8. 「光と磁気」

    Q: 佐藤 様
    「光と磁気」(初版)26頁16行目から[改訂版p.28,line4)
    金属はシグマを,絶縁体ではイプシロンを用いる,としてその理由の説明がありますが,理由の説明がわかりにくいのです.

    M.Y.
    -------------------------------
    Q; Y先生、佐藤勝昭です。
     イプシロンεにおいて光の周波数がゼロの極限を考えると、直流での誘電率になります。直流での誘電率は絶縁体では有限ですが、金属では無限大であることは電磁気学の基本です。一方、シグマσにおいて周波数0の極限は直流における普通の導電率ですから、金属では有限の値をもつが、絶縁体では0です。(ε=1+4πiω/σにおいて、ω→0のときσ'→0としますと、誘電率は一定値になります。)
    金属において無限大に近づく大きな誘電率を使うよりは、有限の値をもつ導電率を使う方が扱いやすいでしょう。どちらを使った方が都合がよいかは、実用的な問題で、物理的にはどちらを使ってもよいのです。


    早速にお返事有り難うございました.よくわかりました.
    M.Y.

    9. フェライト

    Q: 私は、最近フェライトを勉強した学生で沢田という者ですが、特にHPに関しての質問 というわけではないのですが、スピネルフェライトに関する質問をさせていただきます。スピネルフェライトには、正スピネル、逆スピネルというものがあって、Zn等は正スピネルだと知りました。ここで、なぜZnやMn(80%正)等は正スピネルとなり、Co等は逆スピネルになるのでしょうか?よろしかったら、簡単で結構ですのでお教え下さい。

    A: スピネル構造には、遷移金属イオンのはいるサイトとして八面体サイト(B-site)と、四面体サイト(A-site)があることはご存じの通りです。Aに2価イオンがはいり、Bに3価イオンが入っているとき正スピネル、Aに3価イオンがはいりBの半分を3価イオンが、残りの半分を2価イオンが占めると逆スピネルといいます。フェライトと呼ばれるものの大部分は逆フェライトで、Zn, Mnは例外的です。正スピネルになるか、逆スピネルになるかは、イオン半径、安定な価数、結晶場の大きさなどさまざまな因子があるので、それほど簡単な話ではないと思います。ちなみにCdCr2S4などカルコゲンクロムスピネルではほとんどが正スピネルです。これはCr3+イオンが四面体位置にはいると結晶場的に不安定になるからだと考えられています。これに対しFe3+は四面体位置でも八面体位置でも結晶場的に安定です。あとは2価イオンの方が四面体位置と八面体位置のどちらで安定かどうかということで決まるのではないかと存じます。  埼玉大学には、平塚信之教授というフェライトの世界的な専門家がいらっしゃいますから、むしろ平塚先生に直接聞かれた方がよいのではないかと存じます。E-mail addressは、hiratuka@fms.saitama-u.ac.jpです。

    沢田>質問にお答え頂きありがとうございました。この事については、本などで勉強してみても箸にも棒にもかからない状態だったので、少し前に進めたと思います。しかし、残った疑問はやはり自分の力で解決しなければ意味はないと感じるので、何とか自分で頑張ってみようと思います。それでは、失礼します。

    佐藤>さっそくのお礼状有り難うございます。結晶場の話は難しかったかも知れませんね。もし、自分で勉強されてどうしてもわからないことがあれば、私の研究室を訪ねてきてください。あなたの理解度に合わせてやさしく解説します。


    10.「光と磁気」

    佐藤勝昭様、
    (1) 「光と磁気」(初版)47頁 (3ー66)式の分母は正しいでしょうか.
     (a)  n02ーn2ーk2は、  n2ーn2ーk2+ではないでしょうか  (b)  4n0は4n2k2
    のように下付きの0が不要ではないでしょうか
    M.Y.
    ----------------------
    A: Y先生、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。お返事が遅くなりました。ファックスまでお送りいただき恐縮です。大変トリッキーな感じがしますが、実はどちらも同じなのです。
    (n02-n2-k2)2+4n02k2
    =(n02-n2-k2+2i n0k)(n02-n2-k2-2in0k)
    ={(n0+ik)2-n2}{(n0-ik)2-n2}
    =(n0+n+ik)(n0+n-ik)(n0-n+ik)(n0-n-ik)
    一方、
    (n02-n2+k2)2+4n2k2
    =(n02-n2+k2+2ink)(n02-n2+k2-2ink)
    ={n02-(n+ik)2}{n02-(n-ik)2}
    =(n0+n+ik)(n0-n-ik)(n0-n+ik)(n0+n-ik)
    となり、順番が変わっているだけで同じなのです。
    -----------------------------------------------------------------
    教科書の説明不足で余計なお手間をおかけしたことをお詫びします。

    Y> よくわかりました.こんなに化けて同じになるとは思いませんでした.有り難うございました.
    M.Y.

    追伸: なお、改訂版(2001.11発行)第3章(p.48)では、煩雑さを避けるため、この導き方をしておりません。


    11. 非接触でp,n判定できるか


    Q: 前略 益々清栄のこととお慶び申し上げます。はじめまして、私はK精工㈱のMと申します。突然のメールでお許し下さい。さて、先生の研究室のホームページを拝見させていただきましたところ、先生の講義の内容が、今私が調べていることと関連の深いことがわかりました。そこで是非とも質問したいことがありましたのでメールをお送りしました。
    [質問事項]
    Q1.シリコン表面を非接触にてn形半導体か、p形半導体かを判定する方法はありますか?また、もし装置として市販されているものがございましたらメーカー名などを教えていただければ幸いです。
    Q2.半導体の導電率を非接触にで測定する方法はありますか?また、これも装置として市販されているものがございましたらメーカー名などを教えていただければ幸いです。
    現在、私の会社ではシリコンウエーハ(特にφ300mmなど大口径ウエーハがメインですが)等の平坦度検査装置の開発を行なっております。近頃、平坦度測定以外でウエーハの物性を測定できないか、との要望がユーザーからあるため、装置に組み込める(特に検出原理が非接触の)測定装置がないか調査しております。
    私の不勉強で大変恐縮ではございますが、メールにてお教え頂ければ幸いです。何卒宜しくお願い申し上げます。草々

    ---------------
    A: M様、メールありがとうございました。
    Q1.
    非接触で半導体の評価をしたいとのご質問ですが、タイプの判定には光を使うとよいかもしれません。たとえばn型シリコンにはドナー不純物(Pなど)がドープされているので、ドナーによる吸収や発光を検出してやれば可能かと思います。p型ではアクセプタによる吸収や発光を使えると思います。詳細は、田島先生(文部省の宇宙科学研究所教授、 E-mail=tajima@pub.isas.ac.jp)がこのような研究の世界的権威ですからメールされてはいかがでしょうか。

    Q2.
    非接触で導電率の判定をされるには、キャリア密度が高ければ、赤外の反射スペクトルからDrudeの法則を使って推定できます。ただし、いくつかのパラメータは別の測定から決めておく必要があると思います。


    12. 光の波動性と粒子性


    Q: こんにちは、Nです。また質問したいことがあるので、メールを送らせて頂きます。光には波動性と粒子性と言うパラドックスが存在しますが、ディラクの理論によりますと、「粒子として遇すれば粒子としての振る舞いを示し、 波動として遇すれば波動としての振る舞いを示す。」と書かれていて、これで解決したことになっていますが、私の考えでは、上の理論はただ現象を言葉で言っているようにしか思えません。どうして上の理論で光のパラドックスが解明できるのかを教えてください。

    A: N君、佐藤勝昭です。
     光に限らず電子も含め量子的粒子はすべて波動性と粒子性の2面性をもって います。これはパラドックスでも何でもなくそれが実体なのです。2つのス リットを使って干渉させる実験をすると、その観測により粒子としての実体が 抑制され、波動という側面が見えてくるのです。一方、フォトンカウンティン グ法を適用すると粒子としての性質が見えてくるのです。

    N> 私の質問に対する返事ありがとうございました。しかし、先生の返事の中でちょっと納得いかないところがありました。それは光の2重性の解明方法です。ある授業の中で、物理現象を解明するには、実験結果とそれを理論づける何かが必要だということを聞いたことがあります。しかし、先生の答えによると、ただ、実験結果を言葉にしたに過ぎないと思います。やはりこの現象に対する論証は難しいのでしょうか

    satokats>N君、佐藤勝昭です。
     理論というものはすべて、実験事実に基づいて作られています。量子力学は、観測された実験結果をできるだけシンプルに理解する方法として提案され、成功を収めてきました。量子力学では波動関数という概念が導入され、その絶対値の二乗が確率分布を与えると考えられています。このことが正しければ量子力学でははじめから2重性が前提となっているわけです。従って、「2重性を論証せよ」というのは、「量子力学を論証せよ」というのと同じです。量子力学の論証は、観測の問題と深く関わっています。我々は、系を一切乱すことなく系を観測できないからです。例えば光で見るということは光と対象となる量子との相互作用をすることだからです。「スリットを置く」という実験をすることが、すでに系に相互作用を与えているのです。従って、いまだに観測の問題は物理学の根本に関わる問題として残されており、すでに論証されたのか論証されていないかさえ人によって違ったこたえが返ってきます。申し訳ありませんが、この話は、これ以上は私の手に負えません。物理システムの三沢助教授は量子コンピューティングや量子テレポーテーションなどをテーマとしてfsオーダーの超短パルス光を用いた計測技術に取り組んでおられます。三沢先生は、東大理学部物理を出ておられるので、彼なりのしっかりしたお考えを聞かせてもらえると思いますので、彼に尋ねてください。


    13. キャリア濃度

    Q: こんにちわ。
    私、大阪府立大学工学部材料工学科で勉強しているのですが、今回、キャリア濃度についてのレポートがでて、色々、文献や、HPで検索していました。そして、探しているうちに、この、ページについた訳なんです。非常に、わかりやすく質問に答えていらっしゃっていて、「あぁ、講義もわかりやすいんだろうなぁ・・・」と、思いました。

    さて、今回、メールを書かせて頂きましたのは、ちょっと、勉強を進めているうちに、ある疑問が沸いてきて、どこを探してもその答えはなく、先生ならご存知かと思いまして、突然で本当に失礼だとは思うのですが、お答え願えないでしょうか・・・?

    それは、「半導体の、キャリア濃度はn=C*T(3/2)*exp(-E/2kT)で求められます。与えられた温度を代入すると、わかります。が、もし、融点を超えてしまったら、どうなるんですか?実際に測定することはできないですが、キャリアは、どうなってしまうんですか? 融点ということは、振動と関係ありますか?

    と、いうことなんですが、お忙しいとは思いますが、もしも!ちょこっと暇な時間があれば、お返事もらえないでしょうか。お願いします。

    大阪府立大学 *;*;
    ----------------------
    A: *;*;様、佐藤勝昭です。  メールありがとう。大阪府立大学の電気系には私の古くからの研究仲間である山本信行先生が半導体の研究をしておられます。優しい先生ですので、一度訪ねてご覧なさい。農工大の佐藤教授の紹介だといえば、温かく迎えてくれますよ。

     さて、ご質問の件ですが、
    *;*;> もし、融点を超えてしまったら、どうなるんですか?実際に測定することはできないですが、キャリアは、どうなってしまうんですか?

    satokats> 半導体を加熱して融点を超えると融液という液体になります。液体は固体よりやや密度が低く原子と原子の平均距離が離れています。また固体結晶にあったような規則正しい配列がなくなり乱れています。このため、もはや結晶のバンド構造とは異なった電子状態になります。
     バンドギャップは存在せず液体金属(HgやGa)のようになります。

    シリコンの融液成長法としてCzhochralski法を知っていますね。融液に浸した種結晶を回転しながら引き上げる方法です。このとき、液面付近での温度変動があるとよい結晶が得られません。この温度変動は対流によって起きるのです。そこで引き上げ装置を強い磁界に中に置くと、あたかも回転する金属円盤に磁界をかけたときのように、レンツの法則で反磁界が発生し、制動がかかります。すなわち磁界をかけたとたんに対流がピタリと納まって液面の温度が一定になります。この方法をMCZといいます。
    *;*;> 融点ということは、振動と関係ありますか?
    satokats> 格子振動のエネルギーはデバイ温度の程度です。デバイ温度が高いほど熱容量が小さいです。PbとAlのデバイ温度を比べると、前者は80K程度、後者は400K程度です。一方、融解点はPbが600K, Alが933Kですから、デバイ温度が高いほど融点が高くなっているように見えます。たぶん、関係があると思いますが、きちんと両者の関係を論じた書物を見たことがありません。(不勉強で申し訳ありません)

    追記(2009.12.27)
    ものの本によれば、格子振動と融点の間にはリンデマン則という法則がなりたちます。固体の融解は,格子における原子振動の振幅が大きくなって,隣接原子との衝突が起こるためであると考えられています,分子の振動数 νと融点Tmの間の関係は、
    ν=(1/πρa)(2kTm/m)1/2
    で表されます。ここに、a は分子間距離,ρ は衝突が起こるまでの距離の分子間距離に対する割合、Tm は融点,k はボルツマン定数、m は分子の質量です。
    また、デバイ温度θDと融点Tmの間にはリンデマンの融解公式
    Tm=C'MθD2 ν2/3
    がなり立つとされています。ここにMは平均原子量、Vは体積です。


    14. 微小磁区の観察


    Q: S電機のMと申します。突然のメールで失礼いたします。現在当社では、YIG単結晶薄膜における光とマイクロ波の相互作用に関する研究を推進しております。そのなかでの疑問ですが、光の波長程度に周期を制御した強磁性細線配列格子をYIG表面上に形成したとき、強磁性配列格子の有無によるフェリ磁性体単結晶の磁区構造変化を観測する手法は存在するでしょうか?もし存在するのであれば、上記概要の研究にご関心のある大学あるいは公的研究機関に所属されている研究者の方をご紹介いただけないでしょうか?

     以上、当社におきましては早急に検討したく、おさしつかえなければぜひご教示賜わりたくお願い申しあげます。ご繁忙のところお手数をおかけしますが、なにとぞよろしくご高配のほどお願い申しあげます。

    A: 光スピニクスに関する先端的なご研究に敬意を表します。お尋ねの強磁性細線の有無による磁区構造の変化ですが、マイクロ波の磁界での応答を見る必要があるのでしょうか?それとも静磁界での磁区の変化でよいのでしょうか?マイクロ波の応答を光学的に見るのは、不可能ではないが大変難しいのではないかと拝察します。

     静磁場であれば、ランダム磁区かストライプかは分解能の高い磁気光学顕微鏡で可能かと存じます。また、磁区がストライプになれば裏側で見たときに回折光が得られますから、磁気応答する1次の回折線が見られるかどうかで判断が可能かもしれません。もっとも、磁気薄膜を付けたために生じる効果があるかもしれないので、分離に注意が必要ですね。 私の乏しい知識ではこの程度しかお答えできません。ご質問の趣旨をきちんと理解しているかどうか不安ですが。

    この問題に関心を持っていただける他の公的研究機関の研究者としては電総研の安藤功児様、東北大の大谷先生、東工大の阿部先生、名工大の奥田先生あたりでしょうか。 -----------
    M>M@S電機です。早速のご教示、深く御礼申し上げます。前回のメールで言葉足らずの部分がありましたが、先生のご指摘のとおり、我々が期待するところは「静磁界での磁区観察」です。
     さて、下記ご教示を基に、スタッフ一同で今後の研究の進め方について検討いたしました。つきましては、メールにある『高分解能磁気光学顕微鏡』をお持ちで、我々の研究を共同で進めていただける方をご推薦いただけないでしょうか(この分野の権威である佐藤先生にご指導いただくのがベストですが...)?大谷さんにつきましては個人的なお付き合いもあるのですが、上記実験装置は保有されていないと思います。
     以上、身勝手なお願いですが、よろしくご検討下さい。

    satokats> 本来ならMO-SNOMがよいのですが、反射型はいま私どもで開発中です。透過型はあるのですが、ガーネットが488nmのレーザ光を透過しないので使えないのです。
     通常の金属顕微鏡という光学顕微鏡に冷却型の高感度CCDカメラを付けてクロスニコルでやれば、後の画像処理にもよりますが、波長程度の分解能が得られます。これなら、当研究室でも可能ですし、貴社でも液晶関係の研究室でお使いではないかと思うのですが。 顕微鏡が良くなれば、波長以下まで結構見えます。共焦点型(conforcal)の顕微鏡を使えば、かなりよい画像が得られます。(小倉での応用磁気学会で日本科学エンジニアリングがデモをやっていました。電話は、0426-27-7211です。)キーエンスでも、共焦点型の高分解能顕微鏡を売っています。偏光が可能かは、聞いてみないとなんとも言えません。


    15. 透明磁性体


    Q: 東大H研究室で、O先生のもとで研究を行なっている修士1年のMと申します。カレントコンテントで、透明磁性体について検索していたところ、佐藤先生の研究室のホームページがピックアップされました。ホームページでの質問と回答のページでは、丁寧に回答がされていて、非常にためになりました。そこで、是非おうかがいしたいことがありまして、メール致しました。青色とか緑色といった、可視領域の短波長側で光が抜けてくるような磁石は存在するかご存知でしょうか?私の作成している磁性膜は、プルシアンブルー類似体を用いたもので、金属イオンとしてバナジウムイオンとクロムイオンが入っています。透明で、かつ青色(lmax=620nm)や緑色(lmax=730nm)をしております。私達が調べた範囲ではどうやら存在していないようなのですが、実際のところどうなのでしょうか。お忙しいとは思いますが、是非教えてください。O先生からも、失礼のないように佐藤先生にメールしてみればいいんじゃないか、とのアドバイスを頂きまして、メール致しました.
    ------------------
    A: メールありがとうございました。H研でプルシャンブルーを磁性体として研究しておられることはよく存じております。これまでの透明磁性体は、赤外透明であって、可視透明ではありません。もっとも、低温で強磁性のものであれば、CrBr3というものが知られていますが、室温で強磁性のものはありません。プルシャンブルーはその意味でも面白い物質だと思っていますが、スピン密度が低いので、磁性体としてみた場合にはやや不満足な気がしますが・・

    16. 群論を学びたい


    Q: 昨年7月に大阪で開催された結晶工学スクールに参加した九州大学D1のKです。結晶工学スクールで先生が担当された「結晶の格子と電子状態」について質問があります。あれから半年も過ぎて質問するという失礼をお許し下さい。
    質問は群論についてです。講義の中で先生が「群論とは手続きだと思ってください。」とおっしゃっていましたが、私は分子軌道法をGaussian98を使ってスペクトルと比較することとなりました。XPS等のスペクトルと比較する際に群論の知識が必要です。そこで質問ですが、初心者向けの群論のテキストを紹介して頂けませんか。図書館で見ましたが、以上に複雑な本ばかりでした。
    お忙しいとは思いますが宜しくお願いします。
    私は現在SiもしくはSiCに希土類元素をドープイングした薄膜を作製する研究をしています。薄膜成長法は超音速フリージェットCVD法です。
    それでは失礼します。

    -------------
    A: 群論を勉強したいとのこと。ゆっくり勉強する気なら数学屋の書いた群論の本を読んで1から勉強するのがよいでしょうが、お急ぎの方にはおすすめできません。(「群」という概念は持っていたほうがよいとお考えでしたら、培風館あたりからやさしい入門書が出ています。)分子軌道法でクラスタの電子状体の計算する場合は点群の知識があれば十分です。結晶のバンド構造の場合は周期性による並進対称性が入るので空間群の知識が必要です。
     私が修士学生の頃読んだ新楽(にいら)著の、たしか「化学者のための群論入門」(共立全書)という本が、具体例から入っていて分かりやすかったです。次に、比較的分かりやすいのが、ランダウリフシッツの「量子力学」の中にある対称性の議論の中ででてくる群論の話がコンパクトにまとまっていると思いました。本格的に理解するには、犬井哲郎著「応用群論」(裳華房)が、しっかり書けていて、勉強になると思います。数学的な式の導出の部分がやや面倒ですが、それほど難しくはありません。点群の配位子場スペクトルへの応用については、田辺・菅野・上村著「配位子場理論とその応用」(裳華房)がおすすめです。


    17. 太陽電池パネルを設置したい


    Q: 大変興味深くホ-ムペ-ジを拝見しております。その後の太陽光発電所の様子はいかがでしょうか。実は私もパネルを上げようかと思っているのですが、まだ3KWH機器なると400万円近く。、また補助金をもらっても100万円程度とかなり高いものになりますので悩んでます。お時間があるときで結構ですのでSuggestionをお願いします。

    ---------------
    A: メール有り難うございました。
     太陽光発電の件ですが、その後もしっかりと発電しております。ホームページのデータは、古くなっていますが、現在は、JQA(日本品質管理機構)が測定装置をとりつけ自動測定しています。
    価格は、太陽電池の普及にともない現在シリコンの原材料不足が続いており、値下がりは期待できません。私の家の場合屋根材一体型ですので、瓦を敷く分が安くなっていますが、あまり参考になりません。私の場合、補助金なしでやったので、600万円以上かかりました。それにくらべれば、300万なら安いと言えます。
     3kW型なら、月平均300kWh発電しますから、給湯や調理にガスをお使いならば、電気代はほとんどタダになります。それでも30年でやっと元がとれる程度でしょうか。でも、地球に投資すると考えてぜひご使用になることをおすすめします。


    18. 水分を含んだ物質の分光測定


    Q: 今日は、初めまして。Wというものです。
    実は、一ヶ月ほど前から、佐藤先生のホームページをたまに見させていただいていました。一問一答形式になっているページがとても興味深く、大学を出ていない私にはすごくためになりました。ありがとうございました。
    ところで、今、私の会社では、分光計を使った仕事を始めまして、そのことでよくわからないことがあり、佐藤先生に質問しようと思ったのです。もしよかったら教えてください。
    水分を含んだ物質に光をあてると、OH分子の結合振動によって970nm、1450nm、1940nmの光が吸収されますよね。その原理を使うと、どろどろした有機物(果物をつぶしたものなど)に光をあてると、その水分含有量に応じてその波長の光は吸収されます。ところが、このことは実際に確認しましたが、これと同じことを無機物にしてみても、うまく含有量に応じた値が返ってきませんでした。これにはどういうわけがあるのでしょうか?何かわかることがあれば、教えてください。そもそも有機物、無機物という区分け自体、間違っているのかもしれませんが。

    ------------
    A:メール有り難うございました。ホームページを参考にしていただき有り難うございます。いろいろご意見をいただければ幸いです。
     ご質問の件ですが、水の分子振動のモードは結合の仕方によって大きく変わります。水が遊離の形であれば、H-O-Hにおける分子振動が970nm=10309cm-1、1450nm=6896cm-1、1940nm=5155cm-1に出ます。はじめの2つはO-H2の伸縮モード(3500cm-1)の3次および2次の高調波だと言われています。また、5155cm-1の吸収はH-O-Hの変角振動モード(1600cm-1)の3次高調波光です。これらの振動はHをD(重水素)に変えると振動数が低いエネルギーに移ることが知られています。振動数ω0は√(K/M)に比例するのでMが2倍の大きさになると1/√2になります。(Kは原子間のバネ定数です)もし無機物質で重い金属と結合していれば振動の波数はグンと低波数に移ります。先ほどの970nm、1450nm、1940nmの吸収は分子振動の高調波ですから、振動数が低下すれば、高調波も低波数になり、長波長に移動します。それで見られなかったのでしょう。
     無機・有機の違いではなく、水が遊離の水のままで存在するか、結合しているかの違いではないでしょうか。(貴方の扱っておられる物質の名前がわかりませんので、一般論でお答えしました。従って、違っているかも知れません。)
    -------------------------------------------------------
    W>詳しい回答をいただきありがとうございました。 あえて結論だけを簡単に言うと、水は遊離の状態では970nm、1450nm、1940nmの3波長を吸収するが、無機物質で重い金属と結合していると、その3波長は、長波長に移動し、確認できなくなる、ということですね。
    水分含有率に応じた値が出なかった(水の吸収線が明確にでない)物質の写真を添付しました(すべて同じ物質です)。その物質は私どもの客先から提供された物なので、 詳しいことはわからないのですが、汚泥を処理する時に使われるもので、アルミなどの無機物質が含まれているそうです。
    「無機物質で重い金属と結合している」というのが、よくわからないのですが、この試料の場合はどうだと思われますか?写真を見てわかることが何かありましたら、教えてください。
    すみません。 前回のメールで間違いがありました。実際に試してみたのは、970nmと1450nmだけで、1940nmは調べていません。(うちの分光計では1600nmまでしか調べられないのです。)
    水をセルに入れて水の吸収線を透過法で調べる時に、970nmは1cmセルでよいが、760nmは吸収が弱いので最低10cmセルが必要になります。それと同じように、1450nmでは、吸収が弱いから駄目だが、1940nmなら吸収が強いから確認できるという可能性はありますか?何か気がつくことがありましたら、教えてください。
    ---------------------------------------
    satokats> 写真を見ましたが、あれの「透過率」をどのようにして測定されたのか、不思議です。写真5.jpgが測定の様子なのでしょうか。光ガイドで白色光を照射し、試料から散乱されてきた光をもう一つの光ガイドで受け、分光器に入れて光センサで検出しているのですね。これは決して透過スペクトルの測定ではなく、一種の「散漫散乱反射」(diffuse scattering)スペクトルの測定法です。しかし、正式に散漫反射を測定するには、積分反射球というものを使います。これを使って反射率Rを求めると、透過率Tは、T=1-Rで求められます。積分反射球は、日製産業、日本分光などから市販されています。 水の分子振動をモニタにつかおうというアイデアはユニークで、何か別の測定に応用できるのではないかと存じます。 ---------------------------------------
    追伸
    「無機物質で重い金属と結合している」というのが、よくわからないのですが、この試料の場合はどうだと思われますか?写真を見てわかることが何かありましたら、教えてください。という質問に答えていませんでした。申し訳ありませんが、これを見ただけでは何とも言えません。無機化合物なら、XRD(X線回折)を測定すべきでしょう。

    ---------------------------------
    W: 回答ありがとうございました。

    > 写真5.jpgが測定の様子なのでしょうか。

    写真の通りに実験しております。ですから、あれは、「中途半端な」散漫散乱反射光の測定ですね。どうやら間違って理解していたようです。

    それに関連する質問ですが、「一般に、試料に光があたった場合、その照射された光は、透過光、反射光、吸収される光、にわけられる。」と私は理解していましたが、それで良いのでしょうか?たとえば、「試料に水分が含まれていれば、970nm前後の光が多く吸収され、糖分が含まれていれば、910nmの光が多く吸収され、そして照射光の中で、吸収されなかった分が、透過と反射にある割合でわけられる」ものだと、理解していました。

    しかし、その考え方では、佐藤先生の> これを使って反射率Rを求めると、透過率Tは、T=1-Rで求められます。という説明とは矛盾してしまいます。透過率と反射率が、(増減に関して)ほぼ同じものだと思っていたので、前のメールで「透過率」と書いてしまったのだと思います。私はどのあたりで誤解しているのでしょうか?わかることがあれば、教えてください。
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    satokats>説明不足で、誤解を与える表現をしてすみません。
     おっしゃるとおり「一般に、試料に光があたった場合、その照射された光は、透過光、反射光、吸収される光、にわけられる。」の通りです。従って吸光度をA、透過率をT、反射率をRとすると、A+T+R = 1と表されます。
     もし、すべて吸収されてしまって透過光がないような場合はT=0なので、A=1-Rです。一方、もし、吸収が非常に少ない物質の場合はA=0なのでT=1-Rです。試料の透過率が試料と空気との屈折率の違いのみから生じているばあいがこれに相当します。
     W様の場合は、吸収が非常に強い場合なので、おっしゃるようにA=1-Rとしてよいと思います。ただし、上の式は散乱されて出てきた光がすべて積分球で集められたと仮定していますので、あのような方式で吸光率が正確に求められるかどうかは不明です。でも目安にはなりますね。

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    19. LSIの発展のきっかけになった発明


    Q:はじめまして、私、岡山県の通信高校に通ってるYと申します。現在、電子工学に興味があり、特に半導体に興味があるのです。それなので、私は教えてくださる先生もいないため、大変困った状況となっております。そこで誰か教えてくださる方はいないかなと、インターネットで探してる状況であります。そこでどうか私にこれから述べることについて教えてくれませんか?よろしくお願いします!

    質問:半導体分野の発展、特に大規模集積回路(LSI)の発展をもたらすきっかけになった発明とLSI作製における基本技術を三つ上げ、これについて詳しく説明してください。というものなのです。期待してます!

    A: 私は、LSIの専門家ではありません。知っている範囲でお答えします。大規模集積回路(LSI)の発展をもたらすきっかけは、キルビー特許です。米テキサスインスツルメンツ(TI)のJack Kilbyによるもので、この発明は「半導体の上に電気回路を作る」というアイデアで、その後の集積回路の基礎となりました。

    LSIにおける3つの重要技術というのが何を指すのかはよくわかりませんが、(1)大口径の高品質のシリコン単結晶を作る技術、(2)そのシリコン単結晶を切断して研磨し基板を作製する技術、(3)基板上に写真製版技術を用いて回路パターンを焼き付け、エッチングによって回路以外の部分を削り落とし、そのパターンどおりの配線をしたり、トランジスタやコンデンサを作り込む技術(フォトリソグラフィ技術)が重要です。NHKで昔放送された「電子立国日本の肖像」という番組の内容が、その時の相田プロデューサによって出版されています。


    20. アナログ通信とディジタル通信


    Q: アナログ通信方式とデジタル通信方式について詳しく説明してください。あとその特徴を教えてください。期待してます!

    A: 前回の質問に対する回答はあれでよかったのですか?忙しい時間を割いてお答えしているのですから、あなたはつぎの質問をする前に、一言、分かったとか、ありがとうとか言えないのですか?メールでのエチケットですよ。
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    アナログ通信方式とデジタル通信方式との違いですが、私は、材料物性系の専門家であって、通信工学の専門家ではありませんから、一般的なことしか答えられませんが、アナログ通信というのは現在の中波ラジオや現行TV映像のAM(=amplitude modulation)方式, 超短波ラジオやTV音声に用いられるFM(=frequency modulation)のように信号に応じて振幅や周波数を連続的に変化させておこなう通信方式をいい、1つの通信のために一定の周波数領域(バンド幅)を占有します。中波ラジオでは1つの放送局あたり9kHz、FMラジオでは15kHz、通常のTV放送では6MHz、ハイビジョンでは8MHzです。これに対して、ディジタル通信方式では、信号をディジタル化して2進数に変えて、0,1のパルス列として送ります。これはCDで音楽を楽しんだりDVDで映像を楽しんだりするのと同じです。パルスはクロックに従ってタイミングをとって送られていますから、タイミングをずらせて送れば、同じチャンネルを使って同時にたくさんのパルス信号列を送ることができます。携帯電話の大部分はそのようにして送っているのです。映像は大変情報量が多いので、適当な圧縮をして、情報量を少なくして送ります。これが、MPEG方式というディジタル通信方式です。また、ディジタルでは、映像、音声、データ、プログラムなど何でも送れますからアナログ方式よりはるかに融通の利く通信方式だといえましょう。もっと詳しく知りたい方は、NHKのホームページに12月から始まるBSディジタル放送の方式のことがわかりやすく書かれていますよ。

    21. 16進数

    Q: 佐藤先生お久しぶりです。先日は失礼しました。前回電気についてお世話になったMYです。また質問があります。どうか教えてください。
    質問: 次の十進数を八ビット二進数に変換し、十六進数で表してください。ただし負の数は二の補数で表現してください。お願いします。
    1)   0            2)    1
    3)  -1            4)   10
    5)   -10           6)  127
    7)  -127           8)  -128

    ---------------------
    A: この問題に関しては、たくさんの参考書や演習問題集があります。2進数の基本演算なので、自分でやってください。何でもかんでも、メールで答を教えてもらっていては、あなたの実力が付きませんよ。 参考までに16進数での答は、 (1)00, (2)01, (3)FF, (4)0A, (5)F6, (6)7F, (7)81, (8)80 ----------------------------------------------------------------------------------------------------

    22. レポート

    Q: こんにちは、先日は半導体について詳しく教えてくださいましてありがとうございました。
    ところで大学のレポートのシステムを伺いたいのですが、半導体のもたらすきっかけとなった発明をあげよと、例えば学校からレポートを書けとなったら、半導体のはじめにホールのドナーなどの発明などありましたが、そのようなことを、いろいろ書いたほうが良いのですか?それともレポートの時は、先ほどショックレーなどの三人の発明のことについて詳しく書いたほうが良いのですか?あと上手な大学のレポートの書き方をどうか教えてください。よろしくお願いします。レポートはこれから大学に良くと必要になりますから。あと半導体のもたらすきっかけになった発明について教えてください。
    ---------------------
    A: レポートについての質問ですが、こうしなければならないというきまりがあるわけではなく、出題者の意図に応じて、ケースバイケースで判断する必要があります。レポートを出させることの趣旨が、「授業で学んだことを復習し、確認しなさい」ということであれば、授業の範囲以上に書く必要はありません。一方、「授業では十分教えきれなかったことを自分で調べなさい」という趣旨のレポートの場合は、授業内容に関係することの背景や、その前提となった論文などを、図書館やインターネットで調べて、レポートします。研究室での論文講読のレポートの場合などは、その論文の内容紹介にとどまらず、その研究の経緯や、そこに引用されている論文まで調べて、その論文がどのくらいオリジナルで、しかもインパクトがあるか、それをさらに進めるには、どのような研究が必要であるか、などを議論しなければなりません。 レポートは、他人のために義務的に書くのではなく、そのレポートを通じて、自分が一歩でも前進するよう「自分のために」書くのだと言うことを忘れないでください。


    23. 塗料の分光特性

    Q: 先生のホームページをいつも拝見し、楽しく、興味深く感じております。私は、最近、車本体やナンバープレートの塗膜片から、交通事故や車両利用犯罪の追跡捜査について、分光的な研究を始めたところです。その過程で、先生のホームヘージの存在を知りました。ところで、ふと、初歩的な疑問にとらわれてしまったのですが、差し支えなければ お教えいただけませんでしょうか。
     それは、「白色」(例えば白顔料の酸化チタン)と「黒色」(黒顔料のカーボンブ ラック)は、どのような光学的過程で生じるのであろうか、ということです。RGBが適切に混ざれば、白に見えるということではなくて、酸化チタンの分光的反射特性が、可視光から赤外にわたって一様に反射していること、そして、カーボンブラックが一様に吸収しているという現象をどのように理解すればよいのだろうか、という疑問です。
     この分野はまったくの専門外なのですが、無機物の配位子場吸収帯、電荷移動吸収帯 があること、有機物の分子による吸収(赤外領域)があることなどが市販の解説書には記載されており、概略は理解できるのですが、上記の「黒」と「白」につきまして
  •  なぜ、一様に反射したり、吸収したりするのか?
  •  その一様な反射や吸収の特性は、赤外のどの領域まで持っているのか?
  • という疑問につきあたります。 おいそがしいところ真に恐縮ですが、何かご指摘いただければ幸いです。よろしくお願い申しあげます。 
    ---------------
    A:
    y>「白色」(例えば白顔料の酸化チタン)と「黒色」(黒顔料のカーボンブラック)は、どのような光学的過程で生じるのであろうか、ということです。RGBが適切に混ざれば、白に見えるということではなくて、酸化チタンの分光的反射特性が、可視光から赤外にわたって一様に反射していること、そして、カーボンブラックが一様に吸収しているという現象をどのように理解すればよいのだろうか、という疑問です。

    satokats> 酸化チタンは、可視光線に対して無色透明で屈折率が、赤(650nm)で2.86、黄(560nm)で2.94、青(480nm)で3.08と、ほぼ一定の値(n=3)を持っています。従って、反射率もR=(n-1)^2/(n+1)^2=4/16=1/4=0.25=25%と一定です。顔料は多結晶体をバインダで練り上げたものですが、いろんな粒子を透過しいろんな粒子で反射されても、選択反射や選択吸収が起きないので「白い」のです。一般に無色透明の結晶体が粉末や微粒子になると白く見えます。塩は結晶化すると無色透明ですが、粉になると白いですね。吸収に波長依存性がないのは、酸化チタンの光学吸収端(band gap)が3.5eV(紫外線354nm)付近にあり可視領域の光は透過するからです。一方、屈折率のピークは吸収端付近で最大値4を取り反射率も36%に増加しますが、紫外線の領域なので人間の目には色が付いては見えないのです。

    satokars>カーボンブラックは炭素の微粒子の集合体で、(おそらくフラーレンやナノチューブも含まれているのでしょうが)基本的にはグラファイトでしょう。この物質の光学定数はc軸に垂直の面と平行な面とで大きく異なります。(これは、グラファイトの蜂の巣構造の面内は共有結合であるのに対し、面間はファンデアワールス結合であるためです。c面に垂直入射した光について示すと、赤の光に対してはn=2.86, k=1.3, 黄色ではn=2.68, k=1.36, 青ではn=2.64, k=1.3とほぼ一定です。吸収係数α=4πk/λは2.5×10^5cm^-1(赤)、3.0×10^5(黄)、3.5×10^5(青)とほぼ一定で、反射率については、n=2.7, k=1.3とするとR={(n-1)^2+k^2}/{(n+1)^2+k^2}=(1.64^2+1.3^2)/(3.64^2+1.3^2)=0.293となり反射率は可視域で30%一定です。従って、グラファイトの単結晶は「黒光り」の状態にあります。
    このように可視光領域に大きな吸収があるのは、この物質が半金属だからです。すなわち、バンド構造は価電子帯の頂と伝導帯の底との電子波数が異なっており、しかもエネルギー的には重なりがあるのです。このため、光学遷移が連続的におきます。一方、c面に垂直な方向から見るとこの物質はバンドギャップが0.12eV付近にある半導体です。このため、キャリア数がすくなく、通常の金属に見られるような自由電子の集団運動によるDrudeの反射が見られません。従って、グラファイトの微粒子の集合体では、粒子中に入った光は10^5cm^-1におよぶ強い吸収のためほぼ吸収されるのです。たとえ、通り抜けても、散乱された光は別の微粒子に吸収され、光は戻ってこなくなります。

    satokats>上のような説明でご理解いただけたでしょうか。なお、TiO2の光学定数はPalik:Handbook of Optical Constants of Solid I (Academic Press 1985)p799, Graphiteの光学定数はPalik:Handbook of Optical Constants of Solid II (Academic Press 1991)p455から引用しました。


    24. 光伝導の測定法


    Q: おせわになります。I技研営業課のTともうします。先日、突然の御電話にもかかわらず丁寧にご説明して頂きありがとうございました。
    先日、佐藤先生にお伺いした件は工業試験場からの依頼物件でございましてその依頼内容は弊社には取扱った実績がない商品で、何処に問い合わせてよいものか見当もつかず先生にご相談したしだいです。
    つきましては、ご多用のところ恐縮に存じますが、先日お問い合わせしました件の続きのお話ですが、測定したい物は、薄膜の電導率です。薄膜に電極を付けた物に光を当てて電導率を測定したいのですが、なにか良い測定システムをご紹介頂けませんでしょうか。
    -------------------
    A: メール有り難うございました。
    光電導率を測るだけならそれほどむずかしいものではありません。すでに電極が着いているのであれば、単に電圧をかけておいて流れる電流の、光を当てないときと当てたときの違いを測るだけでよいのですから。ただし、、暗抵抗が非常に高いものや、光伝導がひじょうにひくいものでは、それなりに工夫が必要です。光伝導が弱いものの場合は、光をチョップして、断続し、電流はロックインアンプで検出します。また、電話でも申しましたように、光強度や光のスペクトル分布を考慮しないと材料評価としては、意味がありません。 もう少し、具体的なことがわからないと、十分なアドバイスをすることができません。あしからず。

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    25. 薄膜の吸収スペクトルから干渉縞を除くには?


    阪大産研のMJです。 急のメール大変申し訳ありません。 ところで、過去の結晶工学スクールで、反射スペクトルをとる時の話として、 干渉がスペクトルにのるときに、その干渉を分をキャンセルする方法が、 あると聞いたのですが、それについて詳しく教えて貰えませんか。 よろしくお願いします。
    追伸
    先生のホームページを見させてもらいました。 身の回りにある、金属や、磁性体、そして半導体などの固体の性質についての 素朴な疑問と答えが載っておりとても興味深かったです。 特に金属の様々な見た目の色についての記述は具他的に書かれており、 固体の奥深さを改めて感じました。

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    MJ様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。 干渉縞をsupressするには、TとRのスペクトルを測定し、 T/(1-R)を求めれば、ほとんど干渉は消滅します。 exp(-αd)=T/(1-R)としてαを求めて下さい。 なお、これには、近似がはいっています。 正確な議論は、下記の論文をご覧下さい。
    R.H.Klazes et al. Phil. Mag. 45 (1982) 377.
    Y.Hishikawa et al. JJAP 30 (1991) 1008
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    26. 積分球を用いた拡散反射


    阪大産研のMJです。
    先日は、干渉スペクトルのキャンセルの仕方について、ご教授ありがとうございました。 さっそく論文を調べて測定してみました。
    ところで、我々の使用しています分光光度計の関係上、反射スペクトルを取るときには、積分球を使用し、 拡散反射を取る仕組みになっています。
    拡散反射よりKubelka-Munkの式より吸収係数/散乱係数=(1-Rd)^2/2Rdとして吸収係数を求める場合、そのままこの吸収係数を使い、直接なり間接なりの半導体の バンド端を決定しても良いのでしょうか。(直接遷移の場合(αhν)^2として)。 それから、この拡散反射率および拡散透過率を利用して、干渉スペクトルの式に当てはめても良いのでしょうか。 拡散反射(透過)と一般的な反射(透過)との関係が良くわかりません。教えてもらえませんか。 また測定した感覚では、拡散反射においては(一般の反射測定に比べて)バンド端が強調されて、観測されていたように思えます。 なんか不思議な感じです。いろいろ書いてしまいましたがよろしく願いします。
    ---------------
    追伸
    今先生のホームページが研究室で大流行です。QアンドAは身近なことでも意外に知らないことについて丁寧に答えられており、みん なのお気に入りになっています。

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    A: MJ様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私のHPが人気との由、嬉しく存じます。これからもっと充実し ていきたいと思っています。
     さて、積分反射球を用いる場合の吸収の求め方ですが、この前にご紹介した干渉のキャンセル法 は、基本的にはspecular reflection(鏡のような反射)を前提としています。なぜなら散乱された 光は、干渉に寄与しないからです。従って、たとえば、日立のU-3410に反射のアタッチメントをつ けるとかの方法により、積分球を用いない普通の反射測定をされた方がよいと思うのですが・・。
     積分球を用いて吸光度を測るのは、粉末試料のときは有効ですが、薄膜についてはお薦めできま せん。(hνα)^2 vs hνなどのプロットでバンド端をきめる場合には、吸収係数測定のlinearity が保証されていなければなりませんが、一般には、拡散反射から測定された吸光度のlinearityは 余りよいとは言えないのです。


    27. 裏面反射を拾わない反射率測定


    Q: 突然のメールで失礼いたします。私はX社薄膜室のUと申します。現在、ブラウン管ガラスの反射防止膜開発の仕事をしております。  反射率測定についてインターネット上にて調べていましたところ、偶然佐藤先生のホームページを見つけました。
     実は大変基本的な問題で申し訳ございませんがご教示頂きたいことがありましたので、メールを送らせていただきました。  現在、ガラス上に反射防止膜を成膜しまして、その表面反射率を分光光度計にて測定していますが、その時裏面反射を拾わないようにラッカーにて裏面を黒く塗りつぶ す方法を採っています。しかしながら、完全にシャットできるわけではなく、極低反射領域(0.数%台)の測定では、値が高めに出てしまうようです。  この裏面反射を拾わないようにする方法として何か良い方法はございませんでしょうか?
     もしくは良い測定機がございましたらご紹介いただけませんでしょうか?
    お忙しい所大変申し訳ございませんがよろしければご回答下さいますようお願い申し上げます。(2000.12.27)
    ---------------------------------------
    A:  U様、メールありがとうございます。
    文面だけからは詳細がわかりませんが、もし反射防止膜自身の裏面反射を消すというのならそれ は無理です。それは膜の裏面からの反射との干渉を使って反射防止にしているからです。
    一方、ブラウン管ガラスの裏面反射を消すのであれば、これは裏を黒くしても意味がありません。 反射はガラスと塗料の界面での屈折率のミスマッチで起きるのですから、反射はやっぱり起きます。
    ガラス裏面での反射率は、ガラスの屈折率ng、塗料の屈折率をn、塗料の消光係数をkとして、 R={(n-ng)^2+k^2}/{(n+ng)^2+k^2}で与えられます。ガラスの屈折率をng=1.5、塗料については よくわかりませんが、仮に黒鉛が使われているとして屈折率をn=2、消光係数を0.7としますと、 R=0.058となり5.8%も反射します。つまり、黒い塗料は界面から塗料に透過して行く光を吸収す るだけです。
    一番よいのは裏面をサンドペーパなどで荒らして黒い塗料を塗ることです。つまり 黒いすりガラスです。裏面の凹凸で光を散乱させてそれを塗料で吸収してしまえばよいわけで す。これなら、散乱光のうち、表面に戻った分だけが寄与するので少なくとも1桁は減らせると 思います。(2000.12.27)
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    AA: X社のUです。
     先日は、ご回答いただきありがとうございました。先生のご教示の通り裏面を荒らして測定したところ、 かなり、裏面反射を抑えた測定値が得られました。お返事及びお礼が遅れまして申し訳ございませんでした。(2001.1.19)

    28. 圧電セラミクスとPb


    Q: 自分はここの大学の生徒ではありませんが、インターネットで調べものをしていたと ころ、ちょうど分かりやすいここのHPに行き着きました。
    ちなみに今自分が調べていることは、携帯電話などに使われている「圧電セラミク ス」です。ここの資料はわかりやすく、大変参考にさせていただきました。
    しかし調べている途中、ここで書いていない気になる点がでてきました。 すると、「質問は遠慮なくどうぞ」とあったので、あつかましくメールを差し上げ た、というわけです。(笑)
    そこで質問の内容なんですが,
    ○圧電セラミクスにはすべてと言っていいほどPbが使われていますが、環境に良く ないPbがそこまでして使われなくてはならないのはPbにどのような利点があるからで しょうか?
    突然のメールで本当に失礼しました。
    お返事お待ちしています。
    九州大学3年 日野隆博(2001.1.18)
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    A: 日野君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。今の学生さんは、何でもインターネットで調べものをするのですね。これ からの情報化社会の姿が見えてくるようです。
     さて、お便りの件ですが、圧電材料にPbが使われている理由と、毒性・安全性の問題ですね。
    圧電材料としては、必ずしもPbが必要というわけではなく、BT(BaTiO3), LN(LiNbO3)などの ようにPbの入らないものもあります。実際テレビの中間周波数用のSAW filterにはLNが使われて います。ただ、PZT(Pb1-xZrxTiO3)の圧電定数は、LNより1桁大きいのと、焼結体(セラミ クス)として作りやすく、価格が安いことなどから最もよく使われています。
     Pbを口に入れたり、肌につけたりすると鉛毒といって慢性の症状がでるので危険ですが、PZTはデバイスの中に 使われているのですから直接触れることはないので安全です。また化合物の場合毒性は結合状態にもよりますが、 元素の毒性とは異なっており、それほど心配しなくてもよいのではないでしょうか。例えば砒素は猛毒ですが、 ガリウム砒素GaAsはそれほど心配がありません。貴方のCD-driveにもMDにも半導体レーザが使われていて その中身はGaAsを主体とした化合物半導体ですが、Asが入っているからといって大騒ぎしていないでしょう。 それと同じです。(2001.1.18)
    -------------------------------------------------------------------------------------
    AA: 素早い返答どうもありがとうございました!
    圧電材料の文献は非常に量が少なく、苦労してましたので大変助かりました!
    これからももっと勉学に励んでいきたいと思います。(2001.1.18)
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    29. 液晶ディスプレイについて


    QQ: 佐藤勝昭教官 殿
    はじめまして。私、通信事業をやっておりますT-K社 技術部のM.Tと申します。 突然メール致しまして誠に申し訳ありません。
    実は今、液晶について調べておりまして、インターネット検索していましたら、佐藤教官の 物理システム工学科2年次「材料物性工学概論」のHPにたどりつき、拝見させていただきました。 学生の質問に1つ1つ丁寧に答えて下さっていて、非常に暖かいHPに感じましたし、 私自身非常に勉強になりました。
    もし、よろしかったら、わたしも液晶で疑問に思った点があるのですが、 ご存知であれば教えて頂けないでしょうか?
    お忙しい中誠に申し訳ありませんが返信頂ければ幸いです。
    Thu, 1 Feb 2001 20:17:48
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    Q1・単純マトリクスとアクティブマトリクスの構造がよくわかりません。
    (単純マトリクスについて液晶面の電極を格子状に並べ、横と縦にそれぞれ電圧を 加えてその交点にある液晶を制御するとありますが、X軸方向、Y軸方向それぞれの 電極と液晶はどういう構造になっているのかいまいちわかりません。ねじれの位置み たいな感じに電極がなっているのでしょうか?そして、そのすきまに液晶が入ってい るという感じなのですか?)
    ----------------------------------------------------------
    A1・メール有り難うございました。私は、液晶の専門家ではないので、詳細につ いては、間違っているかも知れませんが、大づかみにご質問にお答えします。 詳しくは、液晶関係の書物または液晶関係のサイトでお調べ下さい。
    透明電極というのを知っていますか。In(インジウム)Sn(スズ) の酸化物は、ITOと呼ばれますが、透明な電気伝導体です。
    透明電極はガラス板の上に短冊状のストライプとして+付けられています。 このガラス2枚を電極を内側にして向かい合わせ、電極の短冊の向きが互いに直交するようにします。
    そしてこの2枚のガラス板の間の隙間(数ミクロン)に液晶を注入します。しかしこれだけでは、液晶はランダムに配向するので、液晶ディスプレイとして使 えません。液晶をガラス板に平行に配向するためには、(2枚張り合わせる前に)電極の上にPI(ポリイミド)など*の配向剤をスピンコート(回転する基板の上に液を 垂らし、振りとばして均一に塗布する方法)して、配向したい方向に、布を用いてこすります。これをラビングといいます。(なんと原始的な!と驚くなかれ) すると、界面付近の液晶分子はこすった方向に配列します最近では、光を用いて配向する研究も盛んです。(*)従って、向かい合うガラス板の液晶の配向方向を90度ねじっておけばツイストできるのです。
    注(2001.2.25)
    1. +アクティブマトリクスの場合ITOは、カラーフィルター側の基板全体に、TFT基板 ではそれぞれの画素毎に形成されています。
    2. LCDもかっては、ほとんどTNもしくはSTNタイプだったのですが、今日では視 野角改善のため、IPS(In Plane Switching)VA(Vertical alighnment) な どさまざまな方式が使われています.
    3. 「液晶ディスプレイの原理」に関しては シャープのサイトがわかりやすいで す。*
    (*ご注意していただいた林様、ありがとうございます。)
    =========================================
    Q2・液晶の構造のところを調べていると、電極が導線とかかれたもの、配線とかかれたもの、走査線とかかれたものとかありますけど、これらは同一のもののことをいって いるのですか?
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    A2・アクティブマトリクス方式では、液晶を配向させる電極に供給する電圧を 制御するための薄膜トランジスタがあり、このトランジスタをOn-Offするため の配線があります。この配線を導線とも言っているのです。
    一方、走査線というのは、テレビの画面に絵を出すために画面上を挿引する線のことを言います。 通常のNTSC方式のTVでは525本の走査線を用います。ハイビジョン(HDTV)では走査線の数は1025本です。 横方向のストライプ電極の本数を走査線の数と一致させることもありますが、もっと荒いこともあります。
    =======================================
    Q3・有機ELディスプレイは薄型化、低消費電力化、軽量化しやすいといわれています が、それはなぜですか?
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    A3・液晶は自分で光を出すことがなく裏に光源が必要です。有機ELディスプレーは、液晶と違って自ら発光するので、 光源を別に必要としないから、薄型化・軽量化が可能です。消費電力については、液晶と異なり電流注入が必要 なので、現在では必ずしも低消費電力とは言えませんが、、今後発光効率が改善されれば、低消費電力に なるでしょう。
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    Q4・有機ELではアクティブマトリクス方式の方が単純マトリクス方式よりも、消費電 力が低くなるということですが、それはなぜですか?(調べたら、単純マトリクスは 走査線が1本づつ選択している間だけ発光しているがアクティブマトリクスは1フレー ムづつ表示する時間光つづけるからとありました。よく意味がわからなかったので)
    -------------------------------------
    A4・フレームというのは、1枚の画面全体を言います。上に述べたように画面 は525本の走査線によって構成されます。単純マトリクスでは走査線を順番に1 本ずつ選択して光らせ残像を利用してずっと光っているように見せますから、 1/525に平均化されるので、1本をかなり強く光らせないといけないのです。一 方、アクティブマトリクスでは、選択された画素をずっと光らせ続けるので、 それほど強く発光させる必要はないのです。
    2 Feb 2001 01:11:42
    ==============================================================================
    AA: 早速のお返事とご回答、誠にありがとうございました。
    非常にうれしく思っております。とても勉強になりました。お忙しい中本当にありがとうございました。2 Feb 2001 15:34

    30. ブラウン管の振動について


    Q: はじめまして。
    Nと申します。突然のメール送信をお詫びするとともに、お忙しい中申し訳ありません。
    大変興味深く、貴殿のホームページを拝見させて頂いております。
    一つ質問がありますが、もしよろしければ教えていただきたくメールしました。
    テレビのブラウン管は、大きなコンデンサと言われています。 このブラウン管の管面に手の平を近づけて、完全に接触させずに微妙 な距離を保った時に、ブルブルと機械的振動が伝わってくると思います。 静電気ではなく、機械的な振動です。
    この現象は、どう理解したらよいのでしょうか?
    CRTをコンデンサと考えた場合、この電極に働く力という考え方でいいのですか? お忙しい中申し訳ありませんが、理論を教えて下さい。
    (6 Feb 2001 17:29)
    ===============================================================
    A: N様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。私のホームページを見ていただきありがとうございます。
    ご質問の件ですが、私は、手との間には強い静電力が働くのは感じたことがありますが、わたしは 残念ながらおっしゃるような振動を感じた経験がありません。我が家の TV(SonyのWEGA)でやってみましたが、振動は感じません。
    もし、振動を感じられたとすれば、振動の周波数はいくらでしょうか?
    もし60Hzであれば、垂直同期の周波数なので、電子ビームが画面の同じ場所に戻ってくる周波数 ということになります。静電的な理由で振動するとすれば、ビームが到達して電流が流れたことによって コンデンサの電荷量が変化したのでしょうか。その可能性がないとは言えません。
    そのほか振動の原因としては、ブラウン管の首の部分に偏向ヨークというコイルがありますが、 これを使って磁界によって電子ビームを左右および上下に振っているのです。これにも左右に振 るための水平同期周波数(17.5kHz)と、垂直に振るための垂直同期周波数(60Hz)が印加されてお りますから、コイルが振動して、ブラウン管に伝わっている可能性もあります。
    あるいは、シャドウマスク(これは磁性体です)がその磁界を受けてわずかに振動しているかも 知れませんね。(ちなみに、SONYのトリニトロン管にはシャドウマスクがありません)
     私は、むかし、NHKに勤めてはいましたが、ブラウン管やTVセットの専門家ではないので、 正しいお答えができるか心配です。むしろ、テレビメーカーには専門家が多いと思いますので、 そちらに問い合わせてはいかがでしょうか。
    (06 Feb 2001 20:44)
    ===================================================
    AA:おはようございます。Nです。
    早速のご返事ありがとうございます。また、疑問にぶち当たりましたら、宜しくお願いします。
    (07 Feb 2001 10:09)

    31. 「光と磁気」への質問:プラズマエンハンスメント


    Q1: 以前メールをお出しした東大工学部M1のMと申します.お返事どうもありがとうございました.そこでぜひ佐藤先生に御質問させていただきたいと思います.
    ------------------------
    1) まず,光の旋光性についてお聞きしたいと思います.
    よく有機の物質で,不斉炭素をもっているか螺旋構造をしていると直線偏光の振動面が 回転すると思いますが,この二つはどういう考え方をすると一つの概念で統一的に理解 できるのでしょうか?
    また同じ事を磁性体にあてはめることはできるのでしょうか?
    -------------------------
    2)金属磁性体の磁気光学効果において,プラズマエンハンスメントとよばる現象が あります.佐藤先生のお書きになった‘光と磁気’にはプラズマ・スプリッティングに よるモデルとプラズマ共鳴によるモデルがのっていました.
    このプラズマの位置でのエンハンスメントの原因はもう分かっているのでしょうか?
    --------------------------
    3)磁気光学材料の性能指数の大きいものに金属磁性体が多く,また,そのほとんどがプラ ズマエッヂにおけるものだとお思いますが,これにはなにか金属磁性体のプラズマ特有 の理由があるのでしょうか?
    (Sat, 17 Feb 2001 09:20:19)
    ===============================================================
    A1: M様、佐藤勝昭です。
    以下に各項目にお答えします。
    1. 自然旋光性の起源は、結晶のもつ対称性にあります。この結果誘電テンソ ルの非対角成分が生じれば、旋光性が現れます。
      例えば、小川智哉「結晶物理工学」(裳華房,1976)p.205, §6.3 ランダウリフシッツ「電磁気学」(井上他訳:東京図書)第2巻§83「自然旋光性」にもあります。
    2. 磁気光学効果の大きさは、誘電率の非対角成分ばかりでなく誘電率の対角 成分に依存します。複素カー回転角ΦK=εxy/(1-εxx)√εxxなのでプラズマ周 波数付近では分母が小さくなって磁気光学効果は大きな値になります。これを プラズマエンハンスといいます。
    3. 自由電子による本来のプラズマ周波数は紫外域にありますが、バンド間遷 移との混成の影響で低い周波数領域に見かけのプラズマ端がきます。これをパ インズはハイブリッドプラズモンと命名しています。(Pines:Elementary Excitation in Solids)
      貴金属の色は、このハイブリッドプラズモンが可視域 に来たことによります。PtMnSbの1.8eVにおけるカー回転のピークはプラズマ効 果であるとわかっています。詳しくは、丸善 実験物理学講座6「磁気測定I」 p.223(拙著部分)をお読み下さい。
    (Sun, 18 Feb 2001 00:26:21)

    Q2: お返事どうもありがとうございました. ぜひこれから勉強させて頂きたいと思います.
    佐藤先生のお返事はとてもわかりやすく大変参考になりました.
    しかし,僕の勉強不足で一つもう一度質問させて頂いてもよろしいでしょうか?
    -------------------
  • プラズマエンハンスメントのことなのですが,複素回転角の分母が小さくなるため カー回転角が大きくなりうるということはよくわかりました.
    絶縁体のカー回転を考えた時は,右回り円偏光と左回り円偏光に対する応答の違い を考えればカー効果の生じる理由が分かったのですが,プラズマエンハンスメントを 物理的に理解するにはどのように考えるとよろしいのでしょうか?
  • -----------------
    たびたび申し訳ありませんが,もしお知りであれば教えて頂けないでしょうか? どうぞよろしくお願いいたします.
    (Mon, 19 Feb 2001 10:19:09)
    =================================================================
    A2: M様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。
  • プラズマの状態では、誘電率が負になるのですが、この原因は別として、ここ では、現象論的に説明しておきます。
    見かけの誘電率がぴったり1(実数部のみ)だとする と、屈折率は1ですから、空気から入ったとき反射も屈折も起きません。従って誘電 率が1になる波長では、反射は全くありません。従って、この波長の光は物質 中に閉じこもってしまいます。何回も磁気光学効果を受け、無限大になりま す。このように、反射率を犠牲にすれば、いくらでも磁気光学効果をエンハン スできます。実際には誘電率は複素数なのでぴったり1になることはありませ んから、反射率は0ではなく有限の値になり、増強された磁気光学効果が観測 されます。
  • (Tue, 20 Feb 2001 00:45:00)
    -----------------------------------------------------------------
    QQ:東大工学部のMと申します.
    お返事どうもありがとうございました.
    とてもわかりやすく答えて頂いて,胸の中がちょっと晴れ晴れしたような気がします. またいつか疑問にぶつかる時が来ると思いますが,もしよろしければまた御質問させて いただきたいと思っております.
    この度は,本当にどうもありがとうございました.
    (Thu, 22 Feb 2001 05:56:49)

    32. ショアーの硬さについて


    Q: 初めまして私は愛知県豊田市の木型屋に勤める長江と申します。 ここ10数年はNCモデル加工機による製作が殆どで木型屋と言っても大半が 樹脂(合成木材)製の製品です。 NC加工の効率化を図るには加工速度や加工代を増やせば良いのですが 素材の硬さによって異なります。 そこでお聞きしたいのですが物性の硬さで「ショア‐D」と言う単位が有るのですが この単位の意味や測定方法等を教えて頂きたいのです。 初歩的な質問で申し訳無いのですが宜しくお願いします。
    (01年2月19日 15時36分)
    ------------------------------------------------------------------------------------
    A: ホームページの書き込みありがとうございました。
    私は、材料工学の専門ではないのですが、書物に基づいてお答えします。
    ショアー硬度(Shore hardness)というのは、先端にダイヤモンドを取り付けた小さなハンマーを 試料表面に落下させたときの跳ね上がりの高さから求めた硬さのことを言います。  ハンマーを落とすときの高さをh0、跳ね上がりの高さhとすると ショアー硬さHSは次式で定義されます。
    HS=(10000/65)×(h/h0)
    ダイヤルで直読できる構造のショアー硬度試験機をD型といいます。このほか、目測するタイプのもの にC型、SS型があります。
    (打越二弥著:機械材料(東京電機大学出版局1987)p.21による。)
    詳しくは、機械材料関係の書物、ハンドブックなどで調べて下さい。 (2001.2.22, 11:30)


    33. 有機ELについて


    Q:佐藤勝昭教官 殿
    突然のメールで申し訳ございません。
    以前にご返答いただきました、T-KのM.T.です。この前は大変ご親切に私どもの質問にご返答頂きまして 本当にありがとうございました。大変勉強になりました。
    現在も液晶に続き、有機ELについて調べていまして、有機ELに対する疑問点があり、 いろいろなHPを探したのですがそれに関する資料がなくて、佐藤教官がもしご存知であれば、たびたびご無礼となっていることは承知ですが、 もしよろしかったらぜひ教えて頂きたいと思いましてメールさせて頂きました。
    ご返答頂ければ幸いです。

    疑問点

    1. 有機ELディスプレイは電圧をかければかけるほど明るく発光するのか?
    2. 有機ELのカラー表示方式にはRGBの蛍光材料を順に配置するのとカラー フィルタを利用している方法の2つを聞くが違いはなになのか

    お忙しい中申し訳ありませんが、もしよろしければご返答の方宜しくお願い致しま す。(Wed, 28 Feb 2001 11:07:22)
    ----------------------------------------------------------
    A: 有機ELは私の専門ではありませんので、その道の専門家に伺いました。
    1.  有機ELは無機ELと異なり電流動作です。電流とともに輝度が増大し、  ある臨界値を越えると切れてしまいます。
    2. 理想的にはRGBのEL材料を配置する方が明るいはずですが、有機ELのRの発光効率が低いの で、G、Bとのバランスが悪いようです。(出光ではBを励起光源に使って色素変換でRを出してい るとのことですが・・・)フイルタ方式では白色ELを用いているので、液晶と同様のカラー表 示になります。
    (Wed, 28 Feb 2001 12:47:17)
    追加情報です。
    1. 山形大学の城戸先生のホームページに有機ELの詳細が記載されているようで す。
    2. 参考書といたしましては  (株)サイエンスフォーラム から出ております  「有機EL素子開発戦略」が有ります。
    (情報をいただいたS様ありがとうございます。佐藤勝昭)(Wed, 28 Feb 2001 17:55:47)
    ----------------------------------------------------------------
    QQ:佐藤教官へ
    早速のお返事ありがとうございました。
    私のために有機ELの専門家の方にお聞きして頂くということまでしていただき、 たいへんお時間、お手数をとらせてしまい、申し訳ないです。
    佐藤教官のご厚意で大変助かり、勉強になりました。 ありがとうございました。
    Wed, 28 Feb 2001 14:11:16

    34. 斜め入射の金属反射率について


    Q1:佐藤勝昭教官 殿
    はじめまして、A社のTと申します。
    全くの素人でご質問するのもお恥ずかしいのですが、何卒、ご教授ください。
    光の反射についてですが、媒質が空気・ガラス等については、下記理論式が成り立つと 把握しております。
  • RP=tan^2(φ1-φ2)/tan^2(φ1+φ2)
  • RS=sin^2(φ1-φ2)/sin^2(φ1+φ2)
  • TP=sin(2・φ1)・sin(2・φ2)/{sin^2(φ1+φ2)・cos^2・(φ1-φ2)}
  • TS=sin(2・φ1)・sin(2・φ2)/sin^2(φ1+φ2)
  • ※ RP:P偏光入射での反射率、RS:S偏光入射での反射率
    TP:P偏光入射での透過率、TS:S偏光入射での透過率
    φ1:入射角、φ2:屈折角
    媒質が金属においては、どのような理論に基づいているのでしょうか。
    その場合、上記のような偏光の違いを理論式で導けるのでしょうか。 本件について、学べる著書などがございましたら、ご紹介ください。
    以上、お忙しいところ恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。(Thu, 1 Mar 2001 12:28:31)
    ---------------------------------------------------------------
    A1:T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。Tさんが書かれた斜め入射の反射率の公式は 金属の場合にも適用できます。その際、φ1とφ2の関係として知られている スネルの法則sinφ1/sinφ2=n2/n1においてn1は空気なら1とおいて良いのですが、 n2の代わりに、複素屈折率N2=n2+iκを用いればよいのです。すると、φ2は 複素数になります。(複素数の角度って考えにくいですが、数学的にそうなると 理解下さい。)こうして求めたφ2をあなたの書かれた公式に代入し、2乗のところを 絶対値の2乗とすればよいのです。 なお、2乗しない式ではrp, rsともに複素数になります。エリプソメトリで測定されるのは、rp/rs の絶対値と位相です。
     理論式は、例えば、山田・佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社 サイエンティフィク)p.151-154をお読み下さい。(Thu, 1 Mar 2001 18:40:56)
    ---------------------------------------------------
    Q2:A社のTです。 お忙しいところ、ご教示いただきまして、ありがとうございました。
    早速、計算を試みたところ、複素屈折率値次第で、大きく様子が異なりました。
    誤計算をしていることも考えられますが、正しい複素屈折率の物性値を代入したいと考えます。 複素屈折率を構成する屈折率実数部n2と屈折率虚数部κ(=α・λ/4π、α:吸収係数) の物性値を理科年表等で調べてみましたが、見つかりませんでした。
    単純金属(金、銅、アルミ等)の上記物性値は、存在するのでしょうか?
    何度も恐縮ですが、よろしくお願いいたします。 また、ご紹介いただいた本は、早速、後日、探してみたいと思っております。(Fri, 2 Mar 2001 16:07:53)
    --------------------------------------------------------------------
    A2:  単純金属の複素屈折率n,κについては、
    Palik:Handbook of Optical Constants of Solid I (Academic Press 1985)p799, Palik:Handbook of Optical Constants of Solid II (Academic Press 1991)詳細なデータがあります。
     また、Landolt-BoernsteinのNew Series III-15b(Springer)に金属の光学定 数があります。(Sat, 3 Mar 2001 15:41:11)
    -------------------------------------------------------------------
    QQ:愚問にお付き合いいただき、ご教示いただきまして、ありがとうございました。 早速、本を探してみたいと思っております。
    今後も、ホームページを拝見させていただきたいと思いますので よろしくお願いいたします。(Sat, 3 Mar 2001 15:55:33)

    35. 液晶ディスプレイについて(2)


    Q:佐藤勝昭教官 殿
    何度も突然のメールで申し訳ございません。 T-K社のM.T.です。 この前はご返答と情報を誠にありがとうございました。 非常に助かりました。
    今回は液晶についての質問なのですが、 いろいろなHPを探していて、探せば探すほど頭が混乱してきます。
    左藤教官がもしご存知であれば、たびたびご無礼となっていることは承知ですが、 もしよろしかったらぜひ教えて頂きたいと思いましてメールさせて頂きました。
    ご返答頂ければ幸いです。
    疑問点は
    1. 液晶分子は電圧がかかると配向が変わりますよね。 であれば、右側の液晶分子が縦に並んでいるので電圧がかかっている 場合だと思うのですが、光遮断状態となっています。光遮断状態が人間の目には暗く なって見えない部分だと思っているのですが、ということは光らせたくないドットに電圧をかけるのですか? それとも、光遮断状態があかるくみえるところなのでしょうか?
    2. 図で偏光子、検光子とでてきていますがどんな役割をしているのですか? ガラス板となにがちがうのでしょうか?
    3. 液晶という物質にお目にかかったことがないのですが、実際見てみたらどんな物 質なのですか? 液体なのですか?
    (Mon, 5 Mar 2001 19:21:14)
    ==================================================
    A. ご質問にお答えします。
    1. 液晶にはポジ型とネガ型とがあるのはご存じですか。入射側と出射側の偏 光子を直交させた場合(ネガ)と平行の場合(ポジ)とがあります。あなたの 図はネガ型です。従って、電圧をかけたドットが暗くなります。白い画面に電 圧をかけたところのみ黒い字を出す場合に都合がよいですね。  逆に、偏光子を平行にしておけば、電圧をかけたところが明るくなります。
      ふしぎQ&Aの「液晶」の項目も参考にして下さい。 (Mon, 5 Mar 2001 22:01:18)
    2. 偏光子・検光子はどちらも特定の偏光状態のみを透過する素子で、自然光を直線偏光にするときに 偏光子といい、その光が何かの物質を通って偏光状態が変化した様子を検出するときに検光子といいます。 ガラス板に垂直入射で自然光を入れても偏光しません。(注意:斜め入射の場合、偏光します。)
    3. 液晶は、分子が配向しているだけで、本質的に液体です。瓶に入れて売っています。
    -------------------------------------------------------------

    偏光(polarized light)について

    光は、電磁波の一種で、電界と磁界が時間的空間的に振動して伝わります。
    式で書くと電界EはE=E0sin (ωt-kx) のように三角関数で表されます。
    (ここにE0は電界の振幅を表し、ωは角周波数、tは時間、kは波数(k=2π/λ、xは位置です) 電界も磁界も向きと長さをもつベクトルです。電界と磁界は直交しています。
    直線偏光とは、電界が(従って直交する磁界も)ある特定の向きを向いて振動しているような場合です。
    太陽の光や、白熱電球の光などは、電界ベクトルが様々な方向に振動しています。これを自然偏光 といいます。
    もう少し詳しく書いておきましょう
    光の進む方向と磁界Hを含む面を光の偏りの面あるいは偏光面(電波工学では偏波面)と呼びます。
    電界Eを含む面のことは振動面と呼んでいます。
    偏光面が一つの平面に限られたような偏光を直線偏光と呼びます。
    直線偏光を取り出すための素子を直線偏光子といいいます。直線偏光子には色々の種類があります。
    液晶ディスプレーに用いるのは、プラスチックの偏光子です。射出してシートを作るとき引っ張り応力をかけておくと 分子の向きがその方向にそろって、ある方向の直線偏光を吸収するようになります。これが偏光子の原理です。
    方解石のように、光の偏光の向きによって屈折率が違うような結晶をプリズム状に加工して、2個向かい合わせに 貼りあわせた偏光プリズムという偏光子もあります。偏光プリズムはMDやMOのドライブに用いられています。
    レーザ光は偏光子を用いなくてもそれ自身で直線偏光になっています。

    36. 熱膨張係数について


    Q:佐藤勝昭教官 殿
    はじめまして.私はS社のSと言います.
    固体物性の知識に乏しく,インターネットで検索していたら,佐藤先生のHPに辿り着けました.
    私の固体(特にセラミック)の物性に関する疑問にお答えしていただければ幸いです.

    1. 固体の熱膨張特性は,何によって決定されるのでしょうか?
        ⇒私の認識では,以下のように理解してましたが正しいでしょうか?
         「各結晶の,格子振動に対する温度依存性により個々の物性が決定する.」
    2. 上記の認識が正しい場合,格子振動の温度依存性に何らかの傾向はありますか?
        ⇒例えば,酸化物の方が窒化物よりも格子振動の温度依存感度が高い とか...
    3. 格子振動の温度依存性に傾向が無い場合は,熱膨張特性の推定は困難で,測定してみなければ解らないのでしょうか?
        ⇒ここで言う推定とは,あるベースの材料(例えばアルミナ)の熱膨張率を下げたい場合, 「何を添加したら良いか?」等の狙いを絞ることは困難なのか? という意味です.
    お忙しいところ申し訳ありませんが,ご指導を宜しくお願いします.
    なお,メールでの問い合わせによる失礼を,深くお詫びします.
    (Date: Mon, 9 Apr 2001 15:14:21 +0900)
    ----------------------------------------------------------------
    A: S様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。私は熱膨張の専門家でないので 正しいお答えができるか心配ですが、固体物理の一般論で お答えします。
    (Q1)固体の熱膨張特性は,何によって決定されるのでしょうか?
    (A1)線熱膨張係数をαとすると、α=γCv/3Bと表されます。ここに γはグリュナイゼン定数(Grueneisen constant)、Cvは定積比熱、 Bは体積弾性率(bulk modulus)です。すなわち、熱膨張係数は、 系の振動モードについてグリュナイゼン定数の平均をとったもの です。γは、全エネルギーのボンドの長さに対する3階微分で、 調和振動子からのずれ(非調和)の項です。従って体積弾性率 から評価できます。一方、γは振動モードの周波数ωを系の 体積Ωで対数微分したものでも表され、
    γ=-∂ln(ω)/∂ln(Ω)
    で与えられます。従って、フォノンのスペクトルから決めることが出来ます。
    (Q2)格子振動の温度依存性に何らかの傾向はありますか?
      ⇒例えば,酸化物の方が窒化物よりも格子振動の温度依存感度が高い とか...
    (A2)一般にイオン結合と共有結合さらには金属結合を比較すると γがどうなるかは、簡単ではありません。物質のバンド構造と関係させて 論じたのは、フィリップスが最初ではないかと思います。
    J.C.PhillipsのBonds and Bands in Semiconductors(邦訳「半導体結合論」、 吉岡書店)の第4章p.114を読んで下さい。
    最近は、
    第1原理バンド計算が進んだので、γを理論的に評価できると 思います。共有結合のイオン化およびメタル化によりγがどう変わるかは  W. A. HarrisonのElementary Electronic Structure (World Scientific, 1999)を参照して下さい。
    HarrisonのTable 2-6(p.90)によりますと、TOフォノンの周波数の体積変化から 見積もったγはダイヤモンド1.19、シリコン0.98、ゲルマニウム1.12、 ガリウム砒素1.39、セレン化亜鉛1.45とイオン性が強くなるに従って 大きくなる傾向があります。理論的にもほぼこの傾向が示されています。
    (Q3)熱膨張特性の推定は困難で,測定してみなければ解らないのでしょうか?
    (A3)上の質問とも関連しますが、今後は理論によって予測することが 可能になるのではないかと期待しています。
    Date: Mon, 09 Apr 2001 18:09:34 +0900
    -----------------------------------------------------------------------
    QQ:S社のSです.早速の返信,ありがとうございました.
    大変参考になりました.佐藤先生より紹介していただいた文献を参考に, 更に知識を深めていきたいと思います.
    お忙しい中,時間を割いて頂きありがとうございました.
    Date: Mon, 09 Apr 2001 18:09:34 +0900
    -----------------------------------------------------
    第1原理バンド計算というのは,何らの経験的パラメータを用いずに エネルギーバンドを計算する方法で、通常局所密度汎関数法という 方法が使われます。シュレーディンガー方程式の代わりに電子密度 に関する微分方程式をとく問題になります。
    バンド計算を専門とする理論家に伺ったところ、熱膨張係数は 原理的には断熱ポテンシャルの非調和項を計算すればいいので バンド計算から求めることは可能であるが、物質を系統的に調べて その物理的起源を特定するような泥臭い仕事をするバンド計算屋は いまのところ見あたらないのではないかということでした。
    Tue, 10 Apr 2001 15:57:59 +0900 (JST)

    37. 低周波における金属の誘電率について


    Q: はじめまして。Tと申します。 現在、FDTD法を用いた電磁波解析ソフトを使って近接場の計算を行ってます。 残念ながら、この計算ソフトには負の誘電率を入力することができないので具体 的な金属との相互作用を計算することができません。
    これに関するメーカ側の説明としては、「ミリ波以下の低周波の領域では比誘電 率は1に近似できるので金属を含めた計算は可能ですが、光の領域(周波数の高 い領域)では比誘電率が負になるのでそのような計算はできません」とのことで した。
    私は、金属の比誘電率はプラズモン共鳴の周波数以下では負になると考えていた ので、上記の説明が今一つ理解できません。ミリ波の領域において比誘電率が1 に近似できるということは、光の領域からミリ波の間のどこかにもうひとつ共鳴 周波数が存在するように思えるのですが、それを説明する資料が見当たらず困っ ています。
    どのように解釈すればよろしいのでしょうか?
    お忙しいところ申し訳ありませんがよろしくお願いします。
    Date: Fri, 20 Apr 2001 10:40:33
    ---------------------------------------------------------
    A:T様、佐藤勝昭@農工大です。
     メールありがとうございました。
    電磁界解析ソフトは、おそらく多くの仮定の下に問題を解いているので、 そのままの形で現実問題に適用するのは危険です。
    「ミリ波以下の低周波の領域では比誘電率は1に近似できる」というのは まったくのうそっぱちです。Drudeの式でわかるように、自由電子プラズマ による誘電率の実数部は、低エネルギー側で-無限大にむかって発散します。 光の領域からミリ波の間のどこかにもうひとつ共鳴周波数が存在するなんて ことはありません。
    Date: Fri, 20 Apr 2001 11:40:19
    -----------------------------------------------------------------------
    QQ:農工大 佐藤 様 さっそくのお返事ありがとうございました。大変参考になりました。
    メールの内容で一点確認しておきたいのですが、複素誘電率の実部が低エネルギー側 で発散するのは Drudeの式で電子の速度にかかる係数が無限小(緩和時間が無限大) のときと考えてよろしいでしょうか?
    それと、HPに記載されているAgの光学定数の出典(Landoolt Bornstein)について知 りたいので、お手数でなければ教えていただけないでしょうか。
    以上、よろしくお願い致します。
    Date: Mon, 23 Apr 2001 14:37:49 ------------------------------------------------------------------
    AA:T様、佐藤勝昭です。
     お尋ねの件、おっしゃるとおり、誘電率の実数部は
    ε'=1-ωp2/(ω2+1/τ2)
    ですので、τが有限ならばω→0のときε'=1-(ωpτ)2という一定値に近づきます。
    τが∞ならば、ε'は-∞になります。

    Agの光学定数の出典は、Springerから出ているLandolt-Boernsteinのハンドブック のシリーズがありますが、そのNew SeriesのIII-15bという巻のp210から、Optical properties of pure metals and binary alloysという節が始まっており、その中に Agも載っています。このシリーズは大抵の大学図書館にはあると思います。

    Date: Tue, 24 Apr 2001 18:34:16
    --------------------------------------------------------------

    38. ミリ波帯の誘電損失


    Q:マイクロ波帯域での誘電損失の機構について、先生の講義内容の中では 「マイクロ波帯ではイオン分極による損失が無視できない」、「赤外吸収の 少ない材料を使用する」旨記載されています。
    このときマイクロ波~ミリ波帯におけるイオン分極の遅れによる損失量は、 材料の組成または結晶構造からある程度定量的な予測が可能でしょうか? 材料の固有振動数、赤外吸収端等から見積もることができるのでしょう か?それともその他に適切な手法がございますでしょうか。
    質問者は非公開にするようにとの要請ですが、 授業内容にかかわることなので、一般性があり、公開すべきと考えました。 Date: Thu, 19 Apr 2001 20:42:00
    ---------------------------------------------------------------------------
    A:結晶構造から理論的に予測できるのは、どのような波長に吸収帯が生じるか ということと、その吸収帯が赤外活性かラマン活性かというようなことで、 実際の材料における損失の強さや、吸収帯幅の広さは、結晶の品質にかかわる 量なので予想はむずかしいと思います。FTIRなどを用いて、実際に測定するのが 一番ではないでしょうか。
    PalikのHandbook of Optical Constants of Solids I, II(Academic Press) にいろんな物質の光学定数n+iκが採録されています。例えば、
     
  • TiO2(rutile):I-p795 0.103μm-36.4μm  
  • NaCl(rocksalt):I-p775 0.04-30590μm  
  • BaTiO3(barium titanate):II-p789 0.03-100μm
  • お望みの波長範囲のデータがないときは、ローレンツモデルで外挿するとよいでしょう。
    Date: Fri, 20 Apr 2001 11:17:43
    ---------------------------------------------------------------------------
    QQ:ご紹介いただいた書籍のデータをもとにローレンツモデルでの外挿を進めることができました。 大変ありがとうございました。
    Date: Mon, 23 Apr 2001 21:41:21

    39. 朝日と夕日の色


    Q:なんで朝日と夕日の色は違って見えるのですか?
    Date: Sun, 29 Apr 2001 19:12:52
    -------------------------------------------
    A:質問するときは、ご自分の所属などを明らかにしてください。 また、ホームページを見ての質問の場合は、その旨書いてください。
    朝日も夕日も空気中を長い距離進んでくるため、波長の短い光の成分が散乱さ れて赤色に見えるのは同じです。朝は、人類の活動の少ない時間ですから、ち りや煙、排気ガスなどが少ないので散乱が少なく、夕方は人間の1日の活動の 結果としてちりやほこり、煤煙、排気ガスなどが空気中に多く散乱が多くなっ ています。それで、夕日の方が朝日より赤いのです。
    Date: Wed, 2 May 2001 00:32:18

    40. 反強磁性体の磁気光学効果


    Q: 佐藤先生の「光と磁気」を読んで、磁気光学効果の 勉強をしている学生です。佐藤先生のHPでQ&Aの コーナーがありましたので、質問させていただきます。(東大K)
    1. 反強磁性体では、磁気光学効果は現われるのでしょうか。
      反強磁性体でも外部磁場をかければ、磁化が生じるので 磁気光学効果が現われるような気がするのですが。 反強磁性体の磁気光学効果の報告例はあるのでしょうか。
    2. また、反強磁性体の磁気光学効果はどのような取り扱いをされているのでしょうか。
      巨大な磁場をかけると、反平行スピンを平行になると思うので、 フェロ磁性体と同様に取り扱うことができるのでしょうか。
    よろしくお願い致します。 Date: Wed, 16 May 2001 14:58:31
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    A: K様、佐藤勝昭@台北旅行中です。
     メール多謝。光と磁気をお読みいただきありがとうございます。
    1. ご質問の件、反強磁性において、ゼロ磁界では磁気光学効果 はありませんが、有限温度で磁界をかけた場合、磁化率相当分の磁気光学効果 が見られます。例えば,電総研(現、産総研)の安藤さんはMnTe(ZB)のMCDを 測定して、それより、反強磁性ネール温度を決める仕事をしておられます。 ando-koji@aist.go.jpにお尋ねください。
    2. また、超強磁場で反強磁性体にスピンフリップを起こして磁気光学効果を測定す ることもできます。たしか、ウラニウムの化合物でSchoenesがやっていたと思いま す。旅先なので、手元に資料がありません。お許しください。
    3. 非線形磁気光学効果を使うと、多くの情報が得られますが,これは、Fiebigらの 論文を参照してください。非線形磁気光学効果については、菅野、対馬、佐藤、 小島編「新しい磁気と光の科学」(講談社2001.5)をご参照ください。
    Date: Wed, 16 May 2001 19:21:15
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    41. PEMによる磁気光学効果測定のフィードバック回路


    Q: K大のSです。
    以前よりPEMを用いた磁気光学測定装置を用いた測定を行って参りました.現在 の装置では受光部にフォトマルを用いておりますが,測定精度を上げるためにPM からの直流成分を一定に保つようにフォトマルの感度を変化させるためのフィードバ ックをかける必要が生じております.このフィードバック回路について,もしご利用 の装置の回路図または参考になる文献等が御座いましたらばご紹介頂ければ幸いで す.尚,浜松フォトニクスなどの企業に尋ねましても,社外秘と言うことで教えて貰 うことができません.誠に勝手なお願いですが宜しくお願い致します.
    Date: Tue, 15 May 2001 19:33
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    A: S先生,佐藤勝昭@台湾です。  メールありがとうございました。旅先ゆえ手元に資料がありませんので、定性的 にお答えします。電源は1200Vの高圧電源モジュールで、外から電圧を印加すること によって、電圧を変化できます。ロックインの出力のオペアンプのボルテージフォ ロアを介し、反転増幅器に入力し、先の電源の制御電圧にフィードバックしていま す。設定電圧は、反転増幅器の非反転入力側に加えています。
    詳細は帰国後連絡します。
    Date: Wed, 16 May 2001 01:09:44

    42. 光子と電波のちがい


    Mと申します。
    先生のHPは,よく拝見させていただいております。
    私は一応理学系の学部を卒業したのですが,大学の時不勉強だったため 物理の基本的なことがよく分かっていません。
    物性なんでもQ&Aのコーナーを見て,日頃気に掛かっている事を 質問させていただきます。(物性なんでもQ&Aの趣旨に合っているか分かりませんが) 御時間が許す範囲で回答またはヒントなどを頂ければ幸いです。
    質問は,量子力学または物理一般の基本に関することです。
    1. ディラックの量子力学の冒頭あたりに,光子は,自分自身としか干渉しないとあります。
      もし,そうでなかったらエネルギー保存則が成り立たない。しかし電磁気では, 重ね合わせの原理が成り立つはずで,空間内のある位置の電場も磁場もあらゆる 電場,磁場の寄与の和になるはずです。光の場合は,コヒーレントの問題がある ので何となく納得してしまいそうですが,電波の場合は,全然別の発信器からの 電波であっても位相を合わすことができると思うので干渉させることが出きると 思うのですが。こう考えるのは,何か思い違いや基本的な知識の欠落が有るため でしょうか?
    2. 基本的に光子に関してマクスウェルの方程式で記述される場と量子力学の波動関数の関係がよく理解できません。
      マクスウェルを元に,有る程度近似を加えた波動光学とその波長を小さいと近似 した幾何光学の関係は,理解しているつもりですが,これと同じように波動光学 と量子光学の関係を説明するとどのようになるでしょうか?
    3. 偏光に関しての質問です。偏光は,演算子であり,その固有関数が直交する直線偏光であったり, 左右の円偏光であると理解しているのですが,これは正しいでしょうか?
    4. そう考えれば直線偏光をある時は,そのまま直線偏光として扱い, ある時は左右の円偏光の重ね合わせと考える方法も有る程度納得できる気がして います。
      ただ,そうだとしてもその時々で考え方をかえるのは,トリッキーな気がしてしまいます。例えば直線偏光を左右の円偏光の重ね合わせと考えると都合がいい場合でも,直 線偏光をそのまま直線偏光と考えて同じ現象を(手間は掛かるとしても)説明出 きる物なのでしょうか?
    Date: Fri, 11 May 2001 13:56:36
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    M様、佐藤勝昭です。
     ご質問について、私にもよくわからない点がありましたので、農工大物理システム の助教授で量子光学の専門家である三沢和彦先生(kmisawa@cc.tuat.ac.jp)にM様の 質問をぶつけたところ、次のような回答を得ました。
    1. 2本の光ビームを干渉させるとき、1個の光子がどちらかのビームに沿って飛んでいると考えると、すべてを誤解してしまいます。光も電磁波なので、重ね合わせの原理が成り立つのは変わらない。ただし、光が電磁波として波の性質を顕著に表すには、多数個の光子を集めてこなければならず、1個の光子の干渉とは状況が違うことになります。
      光子の干渉は光子の存在確率の重ね合わせであり、これは電磁波の重ね合わせとは直接対応がつきません。
    2. 量子力学には、2段階あります。
      第1量子化は、質量を持っている物質に波動の性質を取り入れて、波動方程式としてのシュレディンガー方程式を解く問題。第2量子化は、質量のあるなしに関わらず、波動場を粒子の集合として記述する問題。単純に波動関数といっているのは、第1量子化の範囲だと思われますが、光子に関する電磁場と量子光学の関係は第2量子化の範疇です。そこで、問題を区別しなければなりません。
      波動光学は、単純に波動方程式に沿って波の伝搬を議論します。量子光学は、波動方程式に現れる単振動の部分を調和振動子と扱って、調和振動子のエネルギーを生成消滅演算子で書き換え、形式的に独立した光量子の集まりとして考えます。この場合、光子が飛んでいく様子を直接波が伝播していく様子と対応させることはできません。対応させるには、「波束」という概念が必要です。
    3. 直線偏光二つと円偏光二つを使い分けるのは、2次元平面を直交座標で考えるか極座標で考えるかの違いと同じで、座標(基底)の取り方の問題です。場合によって都合のよい方で考えればよいと思います。
    なお、第2量子化については、たとえば、Kittel: Quantum Theory of Solids などをご参照下さい。
    Date: Mon, 21 May 2001 20:12:23
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    QQ: “光も電磁波なので、重ね合わせの原理が成り立つのは変わらない。 ただし、光が電磁波として波の性質を顕著に表すには、 多数個の光子を集めてこなければならず、1個の光子の干渉とは状況が違うこ とになります。光子の干渉は光子の存在確率の重ね合わせであり 、これは電磁波の重ね合わせとは直接対応がつきません。” という説明で何となく納得できる気がしてきました。
     言葉しか知らなかった“第2量子化,生成消滅演算子”が理解の鍵にな るのだということも分かりました。キッテルの本は,手元に無かったので, 取りあえず手元にあったディラック量子力学の“ボゾンの集まり”や第2量子化 が出てくる部分を斜め読みしてみました。
    “ボゾンのとる独立な状態のそれぞれに伴って一つずつの振動子が存在している。 これが光の粒子論と波動論との統一をなしとげることができるのである。” という記述も見つけました。とにかくこの辺の勉強をしてみるつもりです。
    (といってもディラックは,ちょっと取っつきにくいので,ご紹介いただいた キッテルのQuantum Theory of Solidsなどを当たってみたいと思います。) -------------------------------------------------------------

    43.光電変換材料

    Q: 前略
    突然のメールにて、恐縮ではありますが、初めてご連絡させていただきます。 小生 大阪大学のNと申します。実は、紫外域での適当な(比較的 扱いが容易 で、高感度、できれば自前で真空蒸着等にて製作可能)ものを探しております。
    透過型の光電変換面として、ストリークカメラやゲートカメラの光電面材料に採 用したいと思っておりますが、なかなか適切な情報を入手する事がで来ません。 一般的には所謂 マルチアルカリ、バイアルカリと呼ばれているものが良いよう ですが、自分の研究室で扱うには不向きなように聞きます。
    いづれにせよ、どのような材料が、何故良いのかというような基本的な指導原理 がわかりません。もちろん、「仕事関数が対象となるphoton energyより低くな ければならない」くらいのことはわかるのですが、その仕事関数がどう計算され るのか、1あるいは2次電子の放出確率あるいは捕獲率がどう計算できるのか等  不勉強にて手が着きません。 試しに、WWWで「光電変換 可視光」と検索を してみたところ、先生の試験問題がヒットしました。
    光物性の講義をもたれている先生なら、適当なテキストなり参考文献をご教授い ただけるのではないかと、失礼を顧みずメールさせていただきました。 是非とも、アドバイスいただけますようお願い申し上げます。
    草々
    Date: Wed, 23 May 2001 16:34:26
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    A: N様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    光電面をお探しとのことですが、光電子放出材料は、(古い本ですが)、 光物性ハンドブック(塩谷他編。朝倉書店、1984)p.573に載っています。 紫外域ではあまりデータが載っていません。
     私は、授業では一通りの説明をしますが、光電子の専門家ではありません。  阪大には、基礎工に菅滋正教授という光電子放出の専門家(特に放射光) がおられますので、彼にお尋ね下さい。親切に教えて下さるるはずです。 Date: Wed, 23 May 2001 21:51:15
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    QQ: 佐藤先生
    突然のメールに早速のご回答恐縮致しております。
    先ずは、お教えいただいたハンドブックに目を通し、 菅先生に連絡を取ってみようと思います。
    有り難う御座います。
    草々
    Date: Thu, 24 May 2001 11:03:57

    44. 材料の硬さと延性について


    はじめまして、B大学のT.Hです。先生のHPで金属の不思議というところを読ませていただきメールしました。私は、衝撃圧力のもとでの材料の特性について勉強しております。現在の興味は、衝撃圧力のもとで金属の硬さや衝撃圧力のもとで金属の延性というように区別して考えると関係があるように思うのですが、硬さと延性というのは何か関係がありますか。教えてください。お願いします。
       T.H
    Wed, 13 Jun 2001 20:58:48
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    A::
    TH様、佐藤勝昭です。 多忙のため、お返事が遅くなりました。
    私は、機械工学の専門家でなく、物性の専門家ですので、あなたの期待するお 答えになるかどうかわかりませんが、ダイヤモンドは硬いですが、衝撃を加え ると簡単に劈開して破壊されます。一方、金に衝撃を加えて降伏点を超えても 破壊されず、非可逆的に変形します。これが延性です。このような性質の違い は、ダイヤモンドと金属の化学結合の違いにあります。前者は共有結合で結合 の方向性がはっきりしているのに対して、後者は金属結合なので等方性です
    。 金属結合では自由電子の海に原子核が浮かんでいるというイメージですが、共 有結合では原子と原子の間にある電子が結合を作っています。これが金属では 延性が強く、共有性のダイヤモンドが硬い原因だと思います。
    Saturday, June 16, 2001 1:35 AM
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    QQ:佐藤先生、ご多忙中にもかかわらず、非常に丁寧にお答え頂き有難 うございました。先生のご意見を元に、自分の研究に役立てていきたいと思います。
    Sat, 16 Jun 2001 04:55:10

    45.オシロスコープと磁界


    Q:始めまして、私は文系の学生で、最近物理について勉強し出したのですが、磁石に ついて質問があります。オシロスコープの水平掃引の輝線に磁石を近づけたとき、N が左のときは、下にへこみ逆の時は上に盛り上がるのは何故ですか?宜しくお願いし ます。
    Thu, 21 Jun 2001 00:27:42
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    A:T様、佐藤勝昭です。  オシロスコープのCRT(ブラウン管)は電子銃から放出された電子が加速され偏向されて表示面の蛍光体を励起して輝点が生じます。TVのブラウン管では電子ビームの偏向に磁界を用いていますが、オシロでは電界を用いています。つまり、電子ビームは電界及び磁界で曲げられます。磁界で電子ビームが曲げられる現象はローレンツ力によって説明されています。高校の物理の教科書にも出ています。ローレンツ力は =-e(v×)で表されます。ここにeは電子の電荷、b>vは電子の速度ベクトル、は磁束密度のベクトル、×はベクトル積を表しています。ベクトル積なので力は電子ビームの方向にもBにも垂直の方向に働きます。従ってブラウン管の表面の上または下方向に曲げられるのです。N→SというようにBの符号が代われば、曲げられる方向が上下にスイッチされます。
     文系の方ということですが、高校の物理の範囲ですので、上の説明が納得いかないときは、高校時代の教科書をもう一度見直して下さい。
    Thu, 21 Jun 2001 10:14:17
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    46. 金属の誘電率


    はじめまして。名古屋にある豊田工業大学の学部1年の、松浦祐介と いいます。
    僕たちは今、工学セミナーというグループ研究で、電磁波の吸収と遮 蔽について調べているのですが、いろいろ文献を調べていくうちにマク スウェル方程式などに行き当たりました。そこで、電波の吸収と遮蔽に は誘電率と透磁率が関係してるらしいことがわかりました。そして、今 回シールドに使用している鉄・銅・アルミの誘電率を調べてみたのです が、物理定数の本にも、理科年表にも、その他の本にも載っていません でした。酸化された金属の誘電率しか載っていないのです。色々考え て、あまりに小さすぎて測れないのだろうかとか、誘電率を測るときに 光を通して測るというようなことも聞いたので、光が通らない金属は測 れないのだろうかなどという考えも意見として出たのですが、分かるな ら手元に数値がほしいのです。値がわかるなら、ぜひ値がほしいです が、できたら、載ってる本など、調べ方を教えてもらえないでしょうか (まだまだ調べなくてはいけないことが山積みなので)。
    お願いいたします。
    Tue, 26 Jun 2001 14:29:02
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    松浦君、佐藤勝昭です。
     金属の誘電率ですが、どのあたりの周波数の数値が必要かで 話が違ってきます。
    Landolt-Boernsteinという何10巻もあるハンドブック のなかのIII-15bにOptical constants of metalsというのがあります。 これをみれば、誘電率の実数部と虚数部のデータが、光子エネルギーhν に対して示されています。多くの金属では赤外線より低い周波数の電磁波 に対する誘電関数はDrudeの法則によって記述されます。先に紹介した 本には、Drudeの式とそのパラメータの各金属についての値も出ています から、そこに必要な周波数をいれれば、誘電率の虚数部と実数部のおよそ の値は得られるでしょう。
    なお、Drudeの式については、山田・佐藤他著「機能 材料のための量子工学」(講談社)の第4章に記載してありますから、 参考にして下さい。
    Tue, 26 Jun 2001 15:39:36
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    47. 光学定数の抽出法


    Q1:前略 益々清栄のこととお慶び申し上げます。はじめまして、私はM.Tと申しま す。突然のメールでお許し下さい。
    先生の研究室のホームページを非常に興味深く拝見させていただきました。その中で 物性なんでもQ&Aのコーナーを発見し、現在私が取り組んでいる問題に対して、先生 に質問させて頂きたいことがありましたのでメールを送らせていただきました。
    私はこれまで、誘電体薄膜の光学定数(n,k)を抽出するために、膜厚の異なる透過率波長分散測定データを用いて、ある展開式にフィッティングさせることにより、各波長におけるn,k値を算出してきました。しかし、この度、ポリイミドの光学定数抽出も同様の手段によって行おうと試みたところ、どうも上手くいきませんでした。

    そこで先生にご質問なのですが、
    (1)使った展開式というのは誘電体薄膜のみならず、ポリイミドのような有機物、プ ラスチックに対しても成立する式なのでしょうか?
    (2)また、そもそも誘電体薄膜においても、屈折率nと同様に、消衰係数kもその式によってフィッティングできる物性値なのでしょうか?

    以上の質問に対して御教授頂ければ幸いかと存じ上げます。
    Thu, 5 Jul 2001 17:36:21
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    A1: MT様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。ホームページをご訪問いただき感謝します。
    ご質問の件ですが、私は、不勉強のため、その展開式がどんなものか全く存じ上げ ません。
     一般論としていえば、透過率のスペクトルだけから、n、kを正確に決めるのは、 不可能とまではいわないまでも、難しいものです。おそらく、いろんな条件の 制限のもとに行われているのではないでしょうか?LCDは複屈折がありますから もっと複雑です。基本に立ち返って、透過率、反射率のスペクトル、分光エリプソ などを総合して、検討する必要があるのではないでしょうか?

    Thu, 5 Jul 2001 19:16:10
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    Q2: 佐藤勝昭殿
    非常に迅速な御回答、誠に有難うございます。
    用いた展開式は、「光工学入門」小川力、若木守明、実教出版株式会社に載っている式です。
    私の推測では、誘電率の波長分散と密接な関係があると思うのですが、式そのものを 導出しているような文献は私も見たことは無く、ただ天下り的にぽんと式がそのまま 乗っていることが多いです。単なる経験式なのでしょうか?
    ご指摘のように分光エリプソで光学定数を測定する方法も以前試みたことがありますが、分光エリプソで測定したデータ、特にk(消衰係数)は、測定手段に依存しない物質固有の普遍的なデータなのなどうかいつも疑問に思います。
     kについては、丁寧に解説している書籍が少ないこともあって、その物理的な意味についての理解がいまいち不足しています。
    物質の中で生じる光の吸収の物理的メカニズムは、SiO2のような無機化合物の場合と、配向膜、フォトレジストのような有機物の場合とでは、同一なのでしょうか?
    なお、先生にお尋ねした内容とその御回答が研究室のホームページに掲載されるとの旨が記載されておりましたが、誠に勝手ながら、n,k抽出の具体的手順について書いてある部分は、内容がよく判らないように若干ぼやかして頂くようお願い申し上げます。
    Fri, 6 Jul 2001 09:37:30
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    A2:NT様、佐藤勝昭です。  多忙のため、お返事が遅くなりました。図書館で光工学入門を探したのですが、貸し出し中で参照できませんでした。しかし、おたずねの式(希望により具体的な式はHPには書きませんが・・)は、誘電率の分散という観点からは何の根拠もない式です。
     消光係数kについてkについて、「丁寧に解説している書籍が少ないこともあって、その物理的な意味についての理解がいまいち不足しています。」ということですが、kと吸収係数αとの間には、α=4πk/λ=2ωk/cという関係が成立します。(たとえば、山田・佐藤ほか著「機能材料のための量子工学」第4章p148参照)ここにωは光の角振動数、cは光速です。一般に透明な誘電体のkはほとんどゼロです。

    「物質の中で生じる光の吸収の物理的メカニズムは、無機化合物の場合と有機物の場合とでは、同一なのでしょうか?」との質問ですが、
     無機物質の光吸収は、基本的にはバンド間の電子遷移(価電子帯→伝導帯の光による電気双極子遷移)によって決まります。これに対して有機物では、分子におけるHOMO(highest occupied molecular orbital: 電子に占有された最も高い分子軌道)→LUMO(lowest unoccupied molecular orbital:電子に占有されない最低の分子軌道)の遷移です。両者は基本的には同じようなものですが、後者では局所的に光学遷移がおきるという特徴があります。
    無機物のバンド間遷移の場合は物質全体に広がった電子状態が関与するので周期性からの乱れや、ドナー、アクセプタなどの不純物準位による遷移が吸収を作ります。(SiO2はアモルファスなので周期性がないので吸収端はシャープではなく広がったスペクトルとなります。)液晶の配向膜には複屈折がありますので、分子の方向と偏光の向きとの関係で見かけの屈折率は、大きく変わります。これは、電気双極子の形成のされ方に異方性があるからです。一般に異方性のある場合には、通常のエリプソメトリは無力です。従って、何らかのモデルをたてて、光学的シミュレーションによって膜の光学定数を推定するしか方法がないと思います。ただ、世界にはいろんな研究者がいますので、配向膜やレジストの光学定数を測っているかもしれません。
    Mon, 9 Jul 2001 21:36:17
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    Q3: 佐藤勝昭 教授殿
    懇切丁寧なご解説、誠に有難うございます。非常に参考になりました。

    申し訳ありませんが、あともう数点の質問について御教授お願い申し上げます。
    物理的根拠が特に無い経験式であるならば、nのみならずkの波長分散も同じ式でフィッティング可能と考えてもよろしいのでしょうか?
    無機物と有機物では、事情が異なるかもしれませんが・・・・・。

    ところで、αとkとの間に成り立つ関係式は、何らかの物理的な関係(電子遷移等)から導出されたものでしょうか?それとも、これは定義なのでしょうか?
    先生が執筆された著書で解説されているのなら、是非参照させていただきますが・・・。

    有機物の場合には、「局所的に光学遷移がおきる」ということは、可視光領域(380~780nm)の範囲内で、且つシャープな吸収スペクトルが観測される場合があるということでしょうか?有機物の光学的性質について解説がされている教科書等をご存知であれば、ご推薦ください。
    Wed, 11 Jul 2001 09:08:43 +0900
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    A3: MT様、佐藤勝昭です。
    >nのみならずkの波長分散も同じ式でフィッティング可能と考えてもよろしいのでしょうか?
     光学的に透明な配向膜にkの波長分散があるとは考えにくいのですが、k(λ)は吸収スペクトルに対応しますが、もし何か不純物や欠陥による吸収があるとすれば、ローレンツ型またはガウス型の曲線になるし、吸収端の裾であればアーバック則に従うでしょうから、展開式にフィットすることは無理があると思います。もう少し、具体的な事例について図をお送りいただくとかがないと、これ以上議論しても無駄ではないかと存じます。

    > 無機物と有機物では、事情が異なるかもしれませんが・・・・・。
    無機物でも有機物でも基本的には同じことです。

    > ところで、αとkとの間に成り立つ関係式は、何らかの物理的な関係(電子遷移等)から導出されたものでしょうか? それとも、これは定義なのでしょうか? 先生が執筆された著書で解説されているのなら、是非参照させていただきますが・・・。
    そもそも吸収係数は光強度が距離とともに指数関数的に減衰するときの減衰の様子を表すパラメータで、x=0での強度をI(0)、距離xにおける光強度をI(x)としますと、
     I(x)=I(0)exp(-αx) (1)
    と表されます。
    一方、複素屈折率N=n+ikを使って、物質中の光(電磁波)の伝搬を考えますと、位置xにおける電界E(x)は
     E(x)=E(0)exp(iωNx/c)=E(0)exp{iω(n+ik)x/c}=E(0)exp(-ωkx/c)exp(iωnx/c) (2)
    と書けます。exp(-ωkx/c)は距離xとともに電界が減少していく様を表し、exp(iωnx/c)は距離とともに振動していく様を表します。
     ところで光強度I(x)は電界E(x)の絶対値の二乗に比例しますから
     I(x)=E*(x)・E(x)=|E(0)|^2・exp(-2ωkx/c)=I(0)exp(-2ωkx/c) (3)
    となります。(1)と(3)を等しいとすると
     α=2ωk/c=4πk/λ  (4)
    が導かれます。山田・佐藤ほか著「機能材料のための量子工学」(講談社)第4章p147-148、式(4.1)-(4.5)を参照してください。同じことを書いてあります。

    > 有機物の場合には、「局所的に光学遷移がおきる」ということは、可視光領域(380~780nm)の範囲内で、且つシャープな吸収スペクトルが観測される場合があるということでしょうか?
     実際、たとえば、CD-Rに使われている有機色素は、半導体レーザの780nm付近にピークを持つようなものが使われています。DVD-R用の色素は650nmにあわせてあります。(たとえば、浜田恵美子:CD-Rの発展とDVD-Rへの展開;日本応用磁気学会第98回研究会資料H9.1.30-31, p37)
     また、J-会合体などを使ってPHB(photochemical hole burning)の研究が行われていますが、非常に鋭い吸収なので、波長多重して高密度記録できるとして盛んに研究されています。

    > 有機物の光学的性質について解説がされている教科書等をご存知であれば、ご推薦ください。
     日本語で書かれたよい教科書は知りません。

    小生は、ボランティアでQ&Aをやっていますので、一般論でしかお答えできません。お仕事関係の個々の問題への質問であれば、しかるべきルートで、できればきちんとした形で対応したいと存じます。ホームページやメールは便利ですが、一般論では、間違った対応をする可能性があります。老婆心ながらご注意申しあげます。
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    48. 炭素の性質


    Q1:Y社のNです。
    炭素の性質を教えて下さい。
    ブタンガスを燃焼させて発生する炭素(すす)の性質と特性は?
    Date: Thu, 9 Aug 2001 20:06:26 +0900
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    A1:中島様、佐藤勝昭です。
     炭素の性質と言っても、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、カーボ ンナノチューブ、カーボンナノコイルなどいろんな形態をとりますし、それぞ れで物性が異なりますので、メールでお答えできる内容ではありません。
     炭素の何を知りたいのかをお伝え下さい。
    なお、ブタンガスやメタンガスの燃焼によるすすについては、大部分がグラ ファイトの微粒子と存じますが、中にはわずかでしょうが、C60(フラーレン) やカーボンナノチューブも含まれているのではないかと存じます。 Date: Sat, 11 Aug 2001 20:57:42
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    Q2:お忙しいところ、ご回答頂きありがとうございました。
    ブタンガスの燃焼した時炭素はグラァイト、フラーレン、カーボンナノチューブと教 えていただいてとても参考になりました。
    この3つのカーボンの性質を教えて欲しいと思います。
    例えば、グラファイト系であれば潤滑性をもつとかです。
    金属の表面にこれらが付着した時に摩擦抵抗がどの位変化が起きるか教えて下さい。
    Date: Mon, 20 Aug 2001 11:43:47 +0900
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    A2: N様、佐藤勝昭です。
     グラファイトの結晶構造は、炭素でできた六角形の蜂の巣が何枚も重なった 層状構造をしています。各層の中の炭素は共有結合によって結びついているの で結合が強いのですが、層と層の間はファンデアワールス力という分子間力に よって弱く結びついているので、簡単にはがれる(劈開といいます)性質を持ち ます。(雲母も層状構造をしているので簡単にはがれますね。あれと同じで す。)鉛筆の芯はグラファイトでできていますから、紙に押しつけて動かすと はがれ落ちて、紙に字が書けるのです。電気的には半金属だといわれていま す。一般に層状物質は、よく潤滑剤に使われます。例えばモリブデンの2硫化 物MoS2は袋ナット(コンプレッションシール)のねじがかみ合って動かなくなる のを防ぐために使われます。グラファイト系ではただのグラファイト粒子より も耐熱性のあるフッ化グラファイトが減摩剤として使われるようです。炭化水 素を熱分解して作製したピロリティックグラファイトは平滑性が高く耐薬品性 が高いのでるつぼなどに用いられます。
     フラーレンは炭素60原子でできたサッカーボール型のかご状の粒子で、ヘ リウム雰囲気中で炭素電極間でアーク放電させたときにできるススの中に含ま れます。おそらく、炭化水素を熱分解しても、ホンのわずかでしょうがフラー レンができていると思われます。カリウムと結合してフラーレン結晶を作りま す。これは超伝導を示すので注目されます。この粒子が潤滑剤になるかどうか はわかりません。
     カーボンナノチューブも炭素でできた細長い籠で、非常に強度が強いので建 材に用いることができるとされています。また、この物質は針状で電界を印加 すると電界放出が起きるので、点状の電子源として用いることができます。  針状なので潤滑にはおよそ向いていないと存じます。
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     なお、お答えに当たって、物性について岩波「理化学辞典」を参照しました。
    Date: Tue, 21 Aug 2001 01:19:27 +0900
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    Q3:ご丁寧な回答をして頂き誠にありがとうございました。
    先生もお忙しい中私のような物にいろいろ教えてくださいまして、ほんとうにうれし く思います。
    ある品種の電線を製造するときの条件として導体に絶縁被覆(ポリエチレン)をする 直前にブタンガスを銅線に当てて押出ししています。
    導体引抜荷重といって絶縁体から銅が抜ける荷重を調査をしてきましたが、荷重が安 定している場合の銅線の表面を成分分析をかけたところ、炭素(C)の含有量に差が出 たのでいろいろな質問を今までお問い合わせした次第です。
    導体にブタンガスを当てた場合炭素がポリエチレンとの親和性を高める効果はあるの でしょうか?
    Date: Wed, 22 Aug 2001 11:55:17 +0900
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    A3:N様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。製造現場では、いろいろなノウハウがあるのですね。 表面分析で炭素が検出されたということは、ブタンガスが熱分解して炭素が表面に 付着したものと思いますが、そもそもブタンガスを吹き付けるやり方というのは、 貴社だけのノウハウなのですか?それともギョーカイの常識なのでしょうか。
     「炭素がポリエチレンとの親和性を高める効果」については、よくわかりませんが そもそもポリエチレンは(-CH2-CH2-)nという構造でCでできた骨格に水素が付いている のです。ブタンもC4H10ですから、おそらく、ブタンの分解物(カーボンとは限らない。 未飽和炭化水素の可能性あり)とポリエチレンの付着性はよいと思います。
    問題は、銅との付着性です。銅はポリオレフィンとは親和性があるが、エチレンや ブタンのような飽和炭化水素とは悪いとされています。(本学化学系の平野助教授に 伺いました。)従って、ブタンを吹き付けた際に不飽和の炭化水素ができて、それが、 親和性を高めている可能性があります。あるいはもっと単純に炭素の微粒子が銅の 結晶粒界に入り込んで、付着性を高めているのかもしれません。
     あまりよいお答えになっていないと存じますが、これ以上のことになると、企業へ のコンサルタントという色合いをもち、ボランティアワークとしてのなんでもQ&Aの 範囲を超えますので、ご勘弁ください。
    Date: Wed, 22 Aug 2001 14:26:38 +0900
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    A3':本学の平野先生から次のようなコメントがありました。
    先ほどの御照会の件ですがその後少し考えてみましたが、おそらく銅よりもポリエチ レン(電線には現在でも絶縁性の高さと柔軟性から塩化ビニールを使うのが主流です が)にブタンが作用していると考える方がよいのではないかと思いました。
    ブタンは炭化水素ですのでポリエチレンや塩化ビニールは溶解しませんが膨潤すると 思います。これによりポリマーの柔軟性が高まり銅と密着するようになるのではない かと思います。
     一般に炭化水素は炭素鎖が長くなるにつれて有機物の溶解性が増加する傾向にあり ます。ブタン(C4H10)は室温で気体ですが炭素鎖の1つ伸びたペンタン(C5H12)は液体 ですのでブタンは室温において溶解性の最も高い炭化水素の気体であるといえます。 また膨潤してもブタンは絶縁性があり、密着した後には気体になって拡散してしまう ので溶媒が残留したりする恐れがないのもメリットかと思います。
    正確なところはわかりませんが、あとから思い付きましたので取急ぎご連絡いたしま した。
    Date: Wed, 22 Aug 2001 15:17:56 +0900
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    QQ:度々の質問にお答え頂きありがとうございました。メンバー一同先生に感謝しており ます。又よろしくお願いします。
    Date: Wed, 22 Aug 2001 19:36:09 +0900
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    49.誘電率の周波数分散


    Q1:佐藤先生
    私、D社のMと申します。いきなりのメールで失礼致します。
    私、紫外可視領域の光を照射した時の物質の誘電率の変化に興味を持っております。 先生の研究室のホームページ(特に学生さん?とのQ&Aのページ)を拝見し、御教授 いただこうと思いました。
    ホームページに周波数と誘電率の変化のグラフが掲げられてありますが、これについ ての詳しい説明は先生の御著書の「応用物性(オーム社)」に記載されてますでしょうか? 特に、誘電率が一度上昇して急に下降し、再度上昇に転じ安定する部分が、実測デー タとして存在するのかが気になっております。
    この点についての記載が「応用物性」あれば、この本で勉強したいと考えております。 記載の有無(購入の為)、実測データの有無について教えていただければ幸いです。
    不躾な質問で申し訳ございませんが、御教授お願い申し上げます。
    貴重なお時間を頂くことに恐縮いたします。
    よろしくお願い申し上げます
    Date: Fri, 07 Sep 2001 14:32:32 +0900
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    A1: M様、佐藤勝昭です。  メールありがとうございます。光照射による誘電率変化は難しい問題ですね。 構造的な変化とか、トラップされた電子状態の変化を伴いますので、単純な話 ではすまないようです。
     さて、おたずねの件ですが、誘電率の周波数分散のグラフは、拙編「応用物性」 にもあるのですが、バラバラになっているので見にくいので、むしろ佐藤勝昭・ 越田信義著「応用電子物性工学」(コロナ社、1989年初版)の第2章2.7節の 方がお勧めです。
     また、佐々木昭夫著「現代電子物性論」(オーム社1981)の4.1.5節には、 式を使った詳細な記述があります。誘電率の分散曲線のうち、配向分極が消滅し イオン分極に移る部分はデバイ型の分散で、イオン分極が消滅し電子分極のみに なる部分はローレンツ型の分散になります。電磁波の電界によるイオンの振動が 付いていけなくなる周波数で、後者の分散がおきます。光学フォノンとフォトン との共鳴状態がおき、ポラリトンと呼ばれます。 実測データは古くから多くのデータの集積があります。たとえば、Palikの Handbook of Optical Constant of Solids I,II(Academic Press, 1985, 1991) やLandolt-Boernsteinのシリーズに載っています。 (もちろんすべての物質というわけではありませんが・・)
    NaClについてはPalikのI巻のp775にあります。お役に立てれば幸いです。
    Date: Fri, 07 Sep 2001 15:25:16 +0900
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    QQ: M@D社です。
    お世話になります。早速、ご丁寧な解説をありがとうございました。 ご紹介頂いた本を入手して、勉強してみます。
    それで理解できないようでしたら、またお手数を掛けるかもしれません。
    どうもありがとうございました。
    Date: Fri, 07 Sep 2001 16:53:34 +0900
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    50. CDの虹色


    すいませんが質問させていただきます。
    CDが虹色に見える理由を考えているのですがどうしてもわかりません。
    虹色に見える理由は穴のないところで反射した光と穴に入って反射した光が干渉して 虹色に見えるということまでは分かるのですが、色の波長とCDの溝の波長と色が強 め合う角度を入れて説明することができません。もしよかったら教えて頂けないで しょうか?
    よろしくお願いします。
    Date: Tue, 28 Aug 2001 16:46:11 +0900
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    Nonoguchi様、佐藤勝昭です。
     CDが虹色に見えるのは、約100nmの穴(ピット)において干渉で光が戻ってこないように設計されている ので、トラックに沿って反射率が低く、そのトラックが1.6μmごとに配列しているの で、回折格子として働いています。ブラッグの回折条件2dsinθ=nλによって 入射角θの違いによって回折される波長λが異なるため虹色に見えるのです。
    (この部分は、当初案内溝によるとの説明をしましたが、CDには案内溝がないというご指摘を 読者からいただきましたので、訂正しました。(2003.9.26) Date: Tue, 28 Aug 2001 16:53:15 +0900
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     たまたまみていて、CDの虹色の説明が目にとまりました。 以前、MOの開発に携わっていましたので、CDについても多少の知識 があるつもりです。CDの虹色は深さ70nmの穴と表面との光路差による 干渉色だと思います。CDは、もともと穴がありますので、それを頼りに トラッキングできるようです。CDには案内溝はないはずです。  ところが、MOは光磁気記録で、記録しても穴があくわけではありま せんので、案内溝付きの基板が必要になるわけです。  すでにどなたか指摘されたかも知れませんが、念のため。

    51. 磁性半導体について


    佐藤勝昭先生

    私は大阪大学理学部のM2の金村雅仁というものです。突然のメール でお許し下さい。佐藤研究室のHPを楽しく拝見させていただいています。 さっそくですが磁性半導体について質問してもよろしいでしょうか?
    よく論文などで磁性半導体のM-H曲線の図が載っていますがその際に 強磁性を示しているのか超常磁性を示しているのか区別の仕方を教えていただきたい です。超常磁性では保持力や残留磁化が小さく、強磁性では明確なヒステリシス が現われると私は解釈しておりますがヒステリシスが小さくなまっているような場合 はどのように判断すればよいのでしょうか?また超常磁性は強磁性微粒子において よく観測されますが、もし磁性半導体を作ろうとした結果、超常磁性を示したならば それは磁性半導体ではなく、半導体に強磁性微粒子が混ざったものということになるので しょうか。
    あとこの間の応物(愛工大)で室温強磁性半導体GaMnNの作製に成功したという 発表がありましたがこの件に関して佐藤先生はどのように考えておられますか? (私は初日には大阪にいたので聞き逃してしまいました。)
    お暇なときで結構ですのでお答え頂けたたらうれしいです。
    Date: Thu, 27 Sep 2001 16:44:40
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    金村様、佐藤です。
     メールありがとうございました。
    今、仙台にきており、宿からメールしています。 資料がないので、十分なお答えができません。
    ご質問のことですが、マイナーなヒステリシスが見られながら、MHに明確な飽 和が見られない場合超常磁性と強磁性とが重畳していると解釈されます。
    一方、異方性の変化に基づいてヒステリシスは小さくて、さらにMがHとともに 増えているケースもあります。このあたりは、慶應義塾大学の宮島先生にお尋 ねになると、よくわかるように教えていただけると存じます。
    ULVACの方のGaN:Mnが940KのTcを持つ件は私も注目しています。ただ、低温で 急にMSが減少することが見られているので、単相ではないと思っています。 たぶん明日からの仙台のミーティングでも話題になると存じます。 また、連絡します。
    Date: Thu, 27 Sep 2001 21:22:12
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    金村様、佐藤勝昭@仙台です。
    今日の半導体スピントロニクスシンポジウムでGaN:Mnについての報告がULVAC の園田さんからあり、多くの質問がありました。結晶性・異相などについての 検討はしっかりしていて、信頼できると思いましたが、磁性のデータについて は、訳のわからないところがあり、東北大の宮崎先生から厳しい指摘がありま した。また、Mn濃度が約3-4%で、しかもホール密度が10^19cm^-3程度で940Kに およぶTcが生じていいのだろうかという議論もありました。
     もう少し、詰める必要があると感じました。
    Date: Fri, 28 Sep 2001 23:06:39
    -------------------------------------------------- 追伸
     低温での磁化の増大、MH曲線の形状などから見て、単一相とは思えないと いうことです。だから、GaN:Mnは変だというのではなく、高いTcをもたらし ているものが何かということを明らかにする必要があると思います。
     なお、電気伝導について、n型をp型と修正したのは、元の測定が、下地層 やキャップ層の特性が分離できていなかたっためと説明していました。
    Date: Sat, 29 Sep 2001 06:50:57
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    52. 暗所での色彩の見え方


    Q: はじめてメールさせていただきます。
    わからない事がありネットで調べ物をしておりましたら、佐藤先生のHPに行き着き ました。
    メールでの質問をさせていただけますでしょうか? 勝手を言って申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
    色彩について調べています。 資料や先生のHPなどでだいぶ理解をしたのですが、まだ解からない事があります。
    光量が少ない時(暗い所)に、白や黄色は良く見える色です。 このことは反射率が関係しているのでしょうか? また、波長との関係はあるのでしょうか? 私は波長が長いものが光量が少ない所でよく見える色だと思っていたのですが、一番 波長の長い赤は暗いところでは良く見えません。
    光量の少ないところでは、どのような順番で色は良く見えるのでしょう? そしてその理論はどのようなものなのでしょう?
    お忙しいところ申し訳ありませんが、質問にお答いただけますでしょうか。 よろしくお願いいたします。(AT)
    Date: Wed, 10 Oct 2001 04:38:36
    ------------------------------------------------
    A: AT様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    色彩については、それほど専門ではありませんので、私の知識の範囲でお答えします。
    白というのは、「色」ではありません。白く見えるものは、あらゆる波長の光をほぼ 同程度に反射(または散乱)しているのです。人間の目は赤と緑と青に感じる視細胞 しかないので、この3つの色を適当に混ぜ合わせるとあらゆる色が表現できるのです が、3色全部あわせたものが白です。従って、白の物体は赤の波長も緑の波長も青の 波長も反射(または散乱)するので、合計したエネルギー密度が高くよく見えるわけ です。一方、黄色ですが、これは赤の波長成分と緑の波長成分があるので、白ほどで はありませんが、単色に比べればエネルギー密度が高いのです。さらに、暗い場合は 色を感じる3つの視細胞より光強度を感じる視細胞がよく働くのですが、その細胞の 視感度のピークは緑の波長付近にあります。それで、赤と緑の波長成分をもつ黄色は 目立つのではないでしょうか。このほか動物が本能として黄色のものに警戒心をもつ という先祖代々長年の経験によって蓄積された情報処理機構が、黄色を強く感じさせ る原因としてあげられるでしょう。このように、色彩感覚というのは、「物理」だけ では理解できない「心理」的な要素を含んでいるのです。この点が「測色学」と「分 光学」との違いではないかと思います。
     ご理解いただけたでしょうか。
    Wed, 10 Oct 2001 09:24:27
    ---------------------------------------------------------
    QQ:昨日、質問の回答をいただいたATです。
    不躾なお願いにもかかわらずお答えいただき、大変ありがとうございました。 お答えいただいたものは、大変参考になりました。
    また解からない事があった時、お聞きしてよろしいでしょうか?
    なにぶん不勉強なもので、頼りにさせていただければと思います。
    先生のHPは大変面白く、これからも拝見させていただきます。 今回は本当にありがとうございました。
    Date: Thu, 11 Oct 2001 01:42:34
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    53. 岩石と木材


    Q: はじめまして。
    物質について調べている際に、 こちらのHPを拝見して、メールさせて頂きました。
    岩石などの鉱物と木片を判別する良い方法があれば教えていただけないでしょうか。 実は仕事の関係で、ベルトコンベアーで流れてくる岩石群の中から、木の根っこなど を見つける。 ということをしたいと思っています。
    石と木片では、無機物と有機物になると思うので、それを判定できれば。。と思って いるのですが、 上記の用途では、非破壊でかつ短時間に判断しなければならないので、なかなか良い 方法が見つからず困っています。
    石と木片の違いについて、またそれを判断する方法についてご存じでしたら教えてく ださい。
    現在は両者の熱伝導に違いがあることから、適度に加熱して、その熱伝導の違いで判 断しようと考えています。
    これについても、良い悪いなどのアドバイスがあればお願いいたします。
    お忙しいところ申し訳ありませんが、どんな些細なことでもかまいませんので 教えていただけますようお願いいたします。
    KS
    Date: Wed, 10 Oct 2001 14:06:17
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    A: KS様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
     一般には、材質で判断するのでなく比重で判断する場合が多いようです。 実際、家電のリサイクルにおいては、すべてを粉砕して、巨大な扇風機 で吹き飛ばして、重さによる分別をおこなっているようです。水に浮かべて、 比重の違いで分別する方法があるようです。
     おたずねのようにベルトコンベア上の岩石と木片の場合にどうするかは 簡単ではありません。赤外線検出器で長波長の放射を見れば違いが見える と思います。赤外線カメラで観察してみてはいかがでしょうか。もし、 加熱したり冷却したりしたあと赤外線カメラで見れば,比熱の違いにより 色が違って見えるはずです。
     超音波を使う方法もあると思いますが、石と木とでどれほど反射が違うかは やってみないと定かではありません。
     X線を使えば木はC,H,Nなど軽い元素からできているのに対して、石は重い元素が 含まれるので、異なった吸収を示すはずです。
     そのほかのやり方としては、普通のTVカメラで撮影した画像を、画像処理の ソフトで区別するやり方があります。たとえば、高速道路の車を撮した画像から 車種を読みとるようなことまで行われています。
     あまりよい回答になっていませんが、専門家ではありませんのでご容赦ください。
    Wed, 10 Oct 2001 18:42:56
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    54. 硬さと表面張力


    Q:T社のIJです。お世話になります。
    「硬さ」についてネットで調べていましたところ、本HPを見つけました。 参考にあることがいろいろあり興味深く見させていただきました。

    はんだ濡れ性についていろいろ調査しているのですが、濡れ性は金属の表面エネルギー が関与していることは文献等で知っています。いろいろと調査しておりますと、金属や 表面処理の表面の硬さが、はんだ濡れ性に影響しているようなのです。
    そこで、表面の「硬さ」と「表面エネルギー(表面張力)」の関係があるかどうか知りたい のですが、相関はあるのでしょうか。ご存知でしたら教えてください。

    以上、よろしくお願いいたします。
    Date: Wed, 10 Oct 2001 16:40:25
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    A1: IJ様、佐藤勝昭です。
     私の手に負えない問題です。本学(農工大)の機械システム工学の山本先生が、 専門家をご存じということなので、メールを転送してそちらから答えていただきます。 あしからず。
    Date: Wed, 10 Oct 2001 19:24:01
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    A2: IJ様、農工大・山本隆司です。  本学、佐藤勝昭教授からIJ様のメイルを転送していただきました。 私はトライボロジーを専門にしている関係から、お問い合わせの内容 に興味があり、とりあえず私の見解をお伝え致します。濡れ性の専門家 が別にいますので、後日、適当な研究者をご紹介することも検討致しま す。

    1. 硬さについて

       まずはじめに議論を円滑に進める意味で「硬さ」について、私の見解を 記述しておきます。「硬さ」は、質量、温度、密度などの物理量と異なっ て、測定対象の種類や定量化にあたっての測定法の種類によって測定値が 大きく影響を受けるという点をまず指摘しておきたいと思います。他にも、 引っ張り強さ、疲労強度などを例示すればお分かりいただけると思います が、機械工学に関連する諸量にはこの類の「物理量」が多く存在します。
       確かに「硬さ」は材料の一つの固有の性質を表してはいますが、それを 実際に定量化するには、現状では、何らかの方法で対象である材料の変形 を試みて、その過程の経時変化を調べるか、最終的に変形過程が終了して 残留した形状変化によって、「硬さ」を量的に表示する以外にはないので す。恐らく、超音波を当てるなどしてその反射状況を調べて非破壊(非変 形)による「硬さ」測定も将来開発される可能性もありますが、現状では、 材料を塑性変形させて、その結果残留する形状変化と負荷荷重との関係か ら「硬さ」が量的に表示されているのです。
       IJ様は材料の専門家とお見受けしましたので、すでに硬さの測定法は ご存じと思いますので、詳細は省きますが、ダイヤモンドや硬質金属製の ピラミッド型の角錐や球を材料に押しつけることによって生じる圧痕の面 積と負荷荷重の関係(負荷荷重/圧痕の面積)で硬さを表示する方法が一 般的です。HV、HB、HRc、などの「単位」は塑性変形現象を利用した硬さ 測定法によるもので、また、材料の弾性的な反発の程度によって硬さを量 的表示するHSもあります。
       これは、たとえの話しですから、適当に聞いていていただいて結構です が、蒲鉾の硬さ測定法というのもあるのです。蒲鉾はご承知の通り、歯ご たえが問題になりますが、いわゆる弾性に富んでいるため、金属材料のよ うに塑性的な変形はしませんので、反発の程度によって量的に表示するよ うです。
       さらに、モースの硬さ試験のように標準試料をあらかじめ準備しており、 測定対象に試料をこすってどちらに傷がつくかどうかということで相対比 較によって、硬さを表示する方法もあります。

       要するに「硬さ」は材料の固有の物性値として扱え ない、一義的に決定できない性質をもっており、対象と測定方法によって 表示が異なってしまうという点に留意する必要があります。 従って材料に本来備わっている物性値とは異なる特性をもっている点にも 留意していただきたいと思います。
      誤解を恐れずに言えば、「硬さ」の物理的な意味は不明といってよいので はないでしょうか。

    2. 濡れ性との関係について

       上の記述でおおよそご理解いただけたのではないかと思いますが、私の 見解では材料の「濡れ性」は、測定法、特に圧子との接触状態に影響を与 えという観点から「硬さ」の表示値に影響が表れるということは理解できます。表面エネルギーのしかりです。しかし、「濡れ性」が塑性変形に影 響を与えるかどうかは、「濡れ性」が直接影響を与えるのではなく、硬さ に影響を与える他の物性の指標として(濡れ性は表面物性の中でも測定が 比較的容易です)取り上げられているではないかと推定しています。つま り変形過程での回復現象(材料によって、除荷過程で変形が戻ることは十 分にあり得ます。また、ソ連の研究成果(真偽のほどが現在も議論されて います)に、レビンダー効果というのがあります。単結晶を引っ張った時 に、表面活性の程度によって、塑性変形が変化を受けるという指摘です。 これについては、最近ではあまり触れる研究者はいなくなりました。

    佐藤教授が極めて時宜にかなった学外者への学術活動に関する啓蒙活動を 行っている点に敬意を表して、IJ様の質問に若干のコメントを加えさせ ていただきました。IJ様のご質問もなかなか本質をついたおもしろい内 容として読ませていただきました。
    今後とも、東京農工大学をお引き立て下されば幸いです。
    Date: Wed, 10 Oct 2001 21:27:54
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    QQ:T社IJです。お世話になります。
    佐藤様、お忙しい中ご対応ありがとうございます。
    ご紹介いただきました山本先生からも、早速、大変に丁寧なメールをいただきまして 大変感謝しております。我々設計者としては、各分野においてはどれも素人なので、 普段から勉強しながら製品開発をしております。何か問題に当たった際には調べごと をするのですが、なかなか適切な文献や情報に出会うことができずいつも苦労してい ます。今後においてもお知恵を拝借いただくことがあるかもしれませんが、どうぞ よろしくお願い致します。ありがとうございました。
    Date: Thu, 11 Oct 2001 09:47:12
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    55. ポリマーの色と電気伝導


    佐藤先生
    拝啓 晩秋の候 貴職益々ご清祥のこととお喜び申し上げます。
    メールを初めて差し上げます、バンドー化学株式会社中央研究所の 武居正史(たけすえまさふみ)と申します。
    現在、私はポリマー加工メーカーにおいて、光・電気機能性ポリマー材料の研究を 行っており、色々検索していたところ、先生のHPのQ&Aコーナーに たどり着きました。
    まだ、HP全部を見ておりませんのに失礼ですが、質問させて下さい。 なお、内容は公開していただいて全く差し支えございません。
    ①GaPの色をバンドギャップから求めているQAを見ましたが、 そのやり方はポリマーにも適用できるのでしょうか?。
    ②ITOやZnO2は透明なのに、なぜ電気を良く通すのでしょうか?。 バンドギャップと導電性の関係はどのように考えればよろしいのでしょうか。 ポリアセチレンは金属光沢を持っているようですが、これを透明にすることは 理論上可能なのでしょうか?。
    以上、先生のご専門をわきまえない質問になっている可能性もありますが、 何らかの道しるべをいただければ幸いです。
    末筆ながら貴職のご繁栄をお祈り申し上げます。
    恐縮ながらご回答をお待ち申し上げます。
                                       敬具
    Date: Tue, 30 Oct 2001 13:45:17
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    武居正史様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    ①GaPの色をバンドギャップから求めているQAを見ましたが、
    > そのやり方はポリマーにも適用できるのでしょうか?。
    無機の半導体の場合は、電子のエネルギーがバンド構造になっているので、 その透過光はバンドギャップに相当する波長(λ=hc/Eg)より長い波長の光 がすべて含まれています。従って、ZnSならば、Eg=3.6eV(λ=344nm紫外線) なのでこれより長いすべての波長を通しますから無色透明に見えるし、 CdS(Eg=2.4eV;λ=516nm青緑)であれば、緑から赤にかけてのすべての波長の 色が目で合成されて黄色く見えます。
     CHからなるポリマーの場合、HOMOとLUMOの間のエネルギーギャップは一般 には高いエネルギーをもち、紫外線領域にありますから、ほとんどのものが 無色透明です。もちろんこのギャップが可視光領域に来れば、着色します。
     しかし、もし、色素が含まれていると、特定の波長に吸収帯を生じるので、 その補色が透過して色が着きます。カラーフィルターみたいな働きをしてい るのです。たとえば、緑の波長を強く吸収する色素を含むと、赤と青が透過 して紫色に見えます。

    > ②ITOやZnO2は透明なのに、なぜ電気を良く通すのでしょうか?。
    > バンドギャップと導電性の関係はどのように考えればよろしいのでしょうか。
    > ポリアセチレンは金属光沢を持っているようですがこれを透明にすることは
    > 理論上可能なのでしょうか?。
     電気を通すということと透明ということは必ずしも矛盾しません。キャリア (電気の運び手)の数が十分多く、かつ、キャリアの移動度が大きければ、 バンドギャップの如何に関わらず良好な電気伝導性を示します。ReO3は緑色 透明ですが、銅よりも高い導電率を示すことで有名です。GaNも透明ですが、 半導体レーザとして使えているのですからかなり電流を流せます。ダイヤモ ンドもドーピング次第ではp形にもn形にもなり、良導体になります。
     金属光沢をしている原因が、自由キャリアのプラズマ振動によるとすれば、 キャリアが少なくならないかぎり透明にはなりません。(ITOもZnOもキャリア 密度が増えると、赤外領域に自由キャリア吸収が増え、光の透過性が悪くなる ことが知られています。)もし、金属光沢の原因が屈折率が高いことによるなら これはキャリア密度と無関係です。シリコンも金属光沢していますが、無添加 のシリコンは絶縁物です。高い屈折率の原因は、強いバンド間遷移によって います。シリコンのギャップは赤外にあることも原因して、決して透明には できませんよね。ポリアセチレンの場合にどちらなのか、私は有機物の専門家では ないのでわかりません。
    Date: Tue, 30 Oct 2001 18:04:24
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    56. 整流作用の実用例


    Q: 整流作用の実用例はどのようなものがあるのですか?もしよければ教えてください。 お願いします。
    Date: Sat, 24 Nov 2001 12:16:09 +0900
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    A:Taka様、佐藤勝昭です。
     ダイオードの整流作用のことをお尋ねでしょうか?
     実用例として最もポピュラーなのは、交流を直流にすることです。
    ご存じのように、電灯線から家庭に来ている電気は交流100Vです。一方、電気 カミソリ、トランジスタラジオ、ノートパソコン、ディジタルカメラなどは直 流電源で動作します。従って、交流から直流に変換する必要があります。この とき、ダイオードの整流作用を使います。
     このほかラジオなどでは高周波の信号をダイオードの整流作用を使って直流 にします。この直流には音声や音楽の低周波信号が重畳しています。この低周 波の交流成分をとりだして音声信号としてスピーカやイヤホーンを鳴らします。
    Date: Sat, 24 Nov 2001 19:51:26 +0900
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    57.宝石について


    Q:はじめまして。N.Okamuraです。ホームページをみて勇気をもって質問させていただきます。 7歳になる息子が最近宝石に興味をもっていて、先日も「宝石の中身は何?何でできているの ?」と聞くのです。本人はいたってまじめで何日も考えているようです。子供にもわ かりやすく物質の構造を説明するのはどうしたらよいでしょうか?また わかりやす い本があれば教えていただけませんか?専門の方が多い中 場違いは承知しておりま すが、どうぞよろしくおねがいします。

    Mon, 10 Dec 2001 00:07:01
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    A: N.Okamura様、佐藤勝昭です。  メール有り難うございました。 お子さまが宝石にご興味をお持ちということで、大変結構なことだと思いま す。好奇心が科学を産み、科学を育てるからです。
     さて、一口に宝石といっても、いろんなものがあります。
    ●ダイヤモンド、ジルコニアなど無色透明でキラキラ輝く石の場合、輝く原因 はカットの仕方にあります。ブリリアントカットとかファセットカットといっ て、全反射によってキラキラ光ります。ダイヤモンドは、炭素(あの真っ黒な 炭の元になる元素です!)が地中の恒温高圧下で、ダイヤモンド構造という結 晶構造になったもので、世の中で最も硬く、モース高度の基準になっていま す。
    ●コランダム(鋼玉)という鉱物があります。これも硬い石で、無色透明で す。宝石になるとサファイヤといいます。これは酸化アルミニウムの結晶体で す。コランダムが微量(数ppm)のクロムを不純物として含むと黄色から緑色を 吸収しその補色の赤紫に着色します。微量の鉄を含むとグリーンサファイヤ、 チタンを含むとブルーサファイヤになります。
    ●エメラルドやアクアマリンはベリルBe3Al2Si6O18という鉱物に微量のクロム やコバルトが入って着色したものです。スピネルMgAl2O4にコバルトが固溶した ものもアクアマリンといっています。
    ●水晶は酸化珪素SiO2の結晶体です。透明で、方向によって屈折率が異なり、 複雑な見え方をします。水晶より硬いものを宝石といっています。
    ●オパールは結晶体ではなく、非晶質(アモルファス)の中に微粒子が周期的 に並んでいるため、回折現象が起きて虹のような彩光を示します。
    ●猫目石キャッツアイはネコの目のような1条のすじが特徴です。これは、石  ができるときに、中に含まれた内包物が析出し同じ方向に伸びているために回 折がおきるのです。
    ●真珠は、貝の中に入れた異物の回りを何層にも膜が取り巻いてできたもの で、膜が薄いため光の干渉が起きて美しい色が付きます。
    くわしくは、下記のサイトも参考にしてください。
    美奈子の部屋
    「宝石の話」 というホームページには、1.ダイヤモンド、 2.コランダム 3.エメラルド 4.オパ-ル 5.クリソベリルのことが 比較的詳しく説明されています。

    本ですが、「たのしい鉱物と宝石の博学事典」 著者 堀秀道編著 出版社 日本 実業出版社(1999-5-20)定価 本体1600円(税別) サイズ B6 ISBN -534-02930-6 がお勧めです。本の紹介については、The Stone Lifeというホームページのな かに「石の本」 というページがあります。ここにいろいろ載っていますので、 参考にしてください。

    カットの種類については、 Happy Liricというサイトの宝石の話というページも参考にしてください。

    化学としてダイヤモンドの結合を知りたいなら、 「有機化学の散歩道」 が参考になります。(ちょっとむずかしいかな)
    Date: Mon, 10 Dec 2001 02:11:19 +0900
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    AA:お忙しい中、ほんとうにありがとうございました。
    日曜日に子供と書店にいってみます。(こどもの目線で、違う角度からものを考える のは楽しいものですね。)
     ていねいに教えてくださり、ほんとうにありがとうございました。
    Date: Tue, 11 Dec 2001 01:25:18 +0900
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    58.フェルミディラック分布


    Q:Aoki Kojiです。フェルミ・ディラック分布とは何か?ボルツマン分布との違いは?
    Date: Sun, 9 Dec 2001 19:01:36 +0900
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    A: Aoki Koji様、佐藤勝昭です。  ご質問ですが、 フェルミ・ディラック分布というのは、電子のようにスピンをもち、パウリの排他律が働くような粒子(フェル ミ粒子)に適用できる量子統計です。絶対零度においては、フェルミ・エネルギーと呼ばれるエネルギーよりも 低いエネルギーの状態における占有確率は1,フェルミエネルギーより高いエネルギーの状態の占有確率がゼロ となります。フェルミエネルギー丁度のエネルギーでは占有確率は1/2になります。
    ゼロでない有限の絶対温度Tにおいてフェルミ粒子がエネルギーEの状態を占める確率をフェルミ分布関数または フェルミ・ディラックの分布関数といいます。f(E)=1/{1+exp(-(E-Ef)/kT)}で表されます。詳しくは、量子統計 の本を読んでください。ボルツマン分布は、量子力学的制約のない古典的粒子の分布関数で、f(E)=exp{-E/kT}と かけます。
    フェルミ分布については、
    量子物性工学2001.5.25の授業のプリント(pdf file)のp5の式(3.17)を参照してください。
    Date: Mon, 10 Dec 2001 10:15:10 +0900
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    59. 比誘電率が大きいとは?


    Q:はじめまして。私は池田和繁といいます。福岡県に住んでいる19歳の大学生(工学部 ・機能材料工学科)です。二つ質問があるのですが、まず、比誘電率が大きいという ことはどういうことなんですか?あと、比誘電率の性質を教えて下さい。よろしくお 願いします。
    Date: Tue, 18 Dec 2001 18:48:29 +0900
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    A:池田様、佐藤勝昭です。 ご質問に簡単にお答えします。 比誘電率は、電界が加わったときの電気分極のできやすさを表す目安です。 電気分極には、界面分極、配向分極、イオン分極、電子分極の寄与が足し合わ されたものです。界面分極はセラミクスなど多結晶体で見られる現象です。配 向分極は液晶分子のように永久双極子を持つ系で見られます。イオン結晶では イオン分極のしやすいものが誘電率が大きいです。一方、シリコンなどではイ オン性がないので、ほとんどは電子分極によるものです。電子分極は、バンド ギャップの小さなものほど大きくなる傾向があります。詳細は、たとえば、佐 藤・越田共著「応用電子物性工学」コロナ社)p.70-75をお読み下さい。 比誘電率の性質も上に述べた分極の原因と関係します。 直流から低周波では、すべての分極の寄与が加わっていますが、周波数を高く すると、まず、界面分極が0となり、さらに周波数を上げると配向分極が周波 数についていけなくなり0になります。さらに周波数を上げ、赤外になるとイ オン分極がついていけなくなって0となり、可視光領域では電子分極のみが寄 与します。また一般に比誘電率は複素数です。誘電率の実数部は分極のできや すさに関係しますが、虚数部は損失を表します。電子レンジで食品が暖まるの は虚数部のためです。 誘電率は一般にはテンソルで表されます。対角成分が通常の誘電現象に関係し ます。非対角成分は、磁気光学効果など偏光の回転に寄与します。誘電率の光 学的寄与については、拙著「光と磁気」をご参照下さい。
    Date: Wed, 19 Dec 2001 00:13:32 +0900
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  • 60.磁性薄膜の光学測定
    はじめてメールを差し上げます。K大学大学院M1のNと申します。
    いつもわかりやすい当HPに感謝しています。
    物性およびレーザ光学に興味を持っているので、現在、佐藤 先生の御著書および紹介されている論文をたよりに勉強を 進めておりますが、疑問点があり、メールさせていただきました。
    私どもの研究室では、磁性薄膜の研究をしており、エリプソに よる光学特性の測定等による形状異方性の研究を行っております。 それらに加えて、(線形、非線形)磁気光学効果を利用した 薄膜評価により、更なる知見が得られないものかと思いまして お尋ねいたします。
    1. 試料(スパッタ作製)の薄膜表面は、レーザ波長オーダの粒の   集まりであるため、一様ではありません。影響がありますでしょうか?
    2. 現在、実験系はエリプソ用の光学系ですが、磁気光学効果を   測定できる系にシステムアップするのは、難しいことでしょうか?
    師走のため何かとお忙しいとは思いますが、ご回答の程、よろしく お願いいたします。
    Thu, 20 Dec 2001 13:45:27 +0900
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    Q:K大学大学院N様、佐藤勝昭です。メール有り難うございました。
    ご質問の件ですが、
    1. .試料(スパッタ作製)の薄膜表面は、レーザ波長オーダの粒の
        集まりであるため、一様ではありません。影響がありますでしょうか?
      通常の測定ではレーザビームの広がりはレンズを使っても50μm程度でしょう。 従って、0.5μm程度の粒径の薄膜の場合、ビームスポットの中に10000個もの 結晶粒が入りますから、その平均値を見ることになります。従って、roughな 表面であれば、散乱が増えるので、見かけのκ(消光係数)が増加しますが、 媒体が等方性で、かつ粒界に隙間がなければ、屈折率の測定には影響がないと 思います。農工大で分光エリプソを用いて太陽電池薄膜の評価をしておられる 齊籐先生に伺いましたが、ぎっしり隙間なく結晶粒が詰まっておれば関係ない とのことです。しかし、隙間が空いていると空気の屈折率との平均を見ること になると言っておられました。
    2. .現在、実験系はエリプソ用の光学系ですが、磁気光学効果を
        測定できる系にシステムアップするのは、難しいことでしょうか?
      分光エリプソの光学系と磁気光学の光学系を共通にした装置もトヨタの関連会社 から市販されています。磁気光学効果の測定装置も基本的には、エリプソメータ であって、左右円偏光に対する屈折率の差を求めれば回転角が、左右円偏光に対 する消光係数の差を求めれば、楕円率がわかります。従って、難しいことでは ないと思います。上記装置は豊田工業大学の鈴木孝雄先生が指導されて開発され たので、鈴木先生にお尋ねになれば、教えていただけると思います。
    Date: Thu, 20 Dec 2001 15:46:09 +0900
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    QQ: 佐藤先生
    お返事ありがとうございました。
    実際の実験上での留意点は、なかなか教科書には 載っていないものなので、非常に参考になります。 磁気光学効果について知識を深めてゆきたいので、 今後ともいろいろご指導の程、よろしくお願いいたします。
    では、失礼いたします。
    Date: Wed, 26 Dec 2001 11:38:10 +0900
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    61.CVDと真空


    Q: 突然のメールで申し訳ありません。
    私はK大学材料工学コース3回生のTと申します。
    先日、レポートが出てインターネットで調べていてこのページにたどり着きました。 お忙しいとは思いますが、質問に答えていただければ幸いです。

    質問なのですが、Si薄膜を堆積させるのに用いられるCVDについてなのですが、試料 を真空中で加熱しガスを噴きつけSiを堆積させるそうですが、この真空中で行うこと の理由が知りたいのです。
    他の物質があるとSiだけでなくその物質まで堆積してしまうということは分かるので すが、その他に理由はあるのでしょうか?

    また、堆積させた膜の観察にSEM、TEM等を使いますが、このSEM、TEMにおいても真空 中で行うそうですが、この場合の真空である理由を教えてください。

    私が勉強不足であるために、先生にお時間をとっていただくのは本当に申し訳ありま せんが、よろしくお願いいたします。
    それでは失礼致します。
    Date: Fri, 21 Dec 2001 03:31:45 +0900
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    A: T君、佐藤勝昭です。
     レポートの課題を安易にインターネットで聞こうというのは 安直にすぎます。私の学生がそのような形でレポートを書いたとしたら 点を上げません。一種のカンニングですから。
     ここでは、ヒントだけあげますので、自分で考えてください。
    1. CVDには常圧CVDと減圧CVDがあります。真空とは限りません。
    2. Siのplasma CVDの原料にはSiH4が使われますが、  この原料の危険性を「化学便覧」で調べてみなさい。  1気圧で使うのと低い圧で使うのとどちらが安全ですか。
    3. SEMやTEMには電子ビームを使います。電子ビームは  空気中でどうなるか考えてみましょう。
    4. レポートには、必ず、農工大の佐藤先生にヒントを  もらったと正直に書きなさい。
    Date: Fri, 21 Dec 2001 11:59:20 +0900
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    QQ:すいませんでした。Tです。
    深夜に自宅のインターネットで調べようと思い、 検索をしていて先生のホームページに行き着き、質問をしてしまいました。
    深夜だったため調べる手段がなかったもので。
    今日、朝一で図書館に行き調べわからないところを教授に質問したため 先生からのこのメールを読む前にレポートが完成しました。
    まだ分からないところもありそのことを教授に伝えたら次回の授業で説明してもらえ ることになりました。
    本当にすいませんでした。
    Date: Fri, 21 Dec 2001 13:33:33 +0900
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    62. 吸収端の裾


    Q:佐藤勝昭教授殿
    以前もメールで質問させて頂いたT社のYと申します。
    佐藤先生共著の「機能材料のための量子光学」の光吸収のところ で、半導体の吸収端の低エネルギー側にすそを引いている場合の記述がありますが、 これがもし酸化物(多電子系)の場合だと、低エネルギー側のすその原因として、 一般的にどのようなことが考えられますか?
    Date: Thu, 20 Dec 2001 17:49:26 +0900
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    A:Y様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。
    酸化物(多電子系)の配位子場遷移のline shapeは、バンド構造の場合と異なり 周期性の乱れから出るのではなく、ほとんどの場合はフォノンサイドバンドと 呼ばれる機構からでています。もちろん、結晶場の乱れによるinhomogeneous broadeningが起きる可能性があります。これは、いわゆるPHB(photochemical hole burning)に利用されていることはご存じのとおりです。
    酸化物の局在系の遷移には、このほか、電荷移動遷移という遷移があります。 この遷移は、酸素イオンのp軌道から遷移金属のd電子系への遷移です。この 場合は一種のバンド間遷移です。従って周期性の乱れも遷移のlineshapeに影響 します。
    一般論でお応えしましたが、もう少し具体的な話であれば、HPの質問ではなく 正式のルートできちんとアクセスしてください。
    Date: Thu, 20 Dec 2001 20:44:11 +0900
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    63. 励起子発光について


    Q:はじめまして、N大学のKと申します。
    質問なんですが、励起子発光とはどのようにして起こる発光なのでしょうか?図書館 に行っても、これに関して載っている本が見つけられなかったので困っています。
    どうか、ご教授お願いします。
    Date: Thu, 10 Jan 2002 19:15:27
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    A: K様、佐藤勝昭です。
     説明に当たって、貴方のバックグランドがわからないので、仮に電気電子系の大学院修士課程学生だとしてお 答えします。
     半導体のバンドギャップEgより大きな光子エネルギーを持った光を入射すると光は吸収されますが、そのと き、伝導帯には電子が励起され、価電子帯にはホールが残されます。この電子・ホールがクーロン力によって結 びつくと、その束縛エネルギーExだけ低いエネルギーEg-Exをもった状態が現れます。これを自由励起子といいま す。この状態は、電気的に中性ですから電気を運ぶことはありません。電子とホールは互いの周りを周回してお り、その固有状態はあたかも水素原子の固有状態のような離散的なエネルギー準位となります。水素の電子のイ オン化エネルギーは13.6eVですが、励起子の束縛エネルギーは13.6×(μ*/mo)/(εr)^2で表されます。(ここに μ*は電子とホールの換算質量です。μ*=1/(1/me+1/mh))
    自由励起子状態にある電子とホールが再結合するとそのエネルギーを光として放出します。これが自由励起子発光です。  励起子を構成する電子またはホールがそれぞれアクセプタやドナーに捕捉されると、束縛励起子となります。 一般の半導体で、吸収端付近に最もよく見られるスペクトル幅の狭い発光線は束縛励起子発光です。
     励起子については、キッテル固体物理学第7版(丸善)の11章に詳しく載っています。また、佐藤勝昭編著 「応用物性」(オーム社)114頁には励起子吸収が、126頁には励起子発光が載っています。山田・佐藤他著「機 能材料のための量子工学」(講談社)172頁に励起子吸収、184頁に励起子発光が載っています。
       なお、N大学には、電気系に小林敏志先生という半導体や発光の専門家がおられますので、もっと詳しくは、そちら に教えてもらってください。
    Date: Thu, 10 Jan 2002 20:01:22 +0900
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    64.有効質量

    Q:D大学のIkedaです。
    「バンド構造と有効質量の関係について」および「バンド構造によりキャリアーが電子またはホールになるわけ」 をおしえていただきたいのですが。
    Date: Wed, 16 Jan 2002 13:19:04
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    A: D大学Ikeda様、東京農工大学佐藤勝昭です。
    メール有り難うございました。
    あなたがどのような学習歴をお持ちであるかわからないので、電気電子系の3年生 であると仮定してお答えします。
    自由電子の場合には、電子の運動エネルギーEは、運動量をpとすると、 E=(1/2)mv2=p2/2mと書けますが、運動量pは電子の波数kを使ってp=h'kと表せる ので(h'=h/2π)、E=(h'k)2/2mと表すことができます。つまり、kの2乗に比例し、 その係数は質量mに反比例します。
    固体中の電子については、エネルギーは自由電子のように単純ではなく、バンド 構造で表されるので、kの複雑な関数ですが、伝導帯の底(エネルギーが一番低い ところ)では、近似的にエネルギーはkの2乗に比例すると見ることができます。 しかし、そのときの係数は、自由電子の場合のE=(h')2/2mからはずれています。 ここで、有効質量m*を導入すると、固体中の電子のエネルギーEはkの関数として E=(h'k)2/2m*と表すことができます。もちろん、有効質量m*は自由電子の質量とは違い もっと小さな値になっています。
    一般的には、有効質量m*はk-空間における電子のエネルギー分散曲線E(k)をkで 2回微分したd2E(k)/dk2(曲率)に反比例し、係数はh'2です。
    詳しくは、佐藤・越田著「応用電子物性工学」(コロナ社)p.44第2章の式(2.38) を参照してください。
    Date: Wed, 16 Jan 2002 17:25:07 +0900
    キャリアが電子またはホールになることについてですが、
    半導体ではバンドギャップを隔てて、伝導帯と価電子帯がありますが、 絶対零度では、価電子帯は電子で満ちていますから、空きがないので電気伝導に 寄与しません。一方、伝導帯には電子がないので伝導に寄与しません。従って 半導体は、絶対零度では絶縁体です。
    もし、何らかの方法で、伝導帯に電子が存在する状態を作れば、その電子が伝導に寄与し、 n型の半導体になります。一方、何らかの方法で、価電子帯に電子の欠損(ホール)を 作ることができれば、p形の半導体になります。電子の欠損は、あたかも、正の電荷を もつキャリアとして振る舞うからです。
    Date: Wed, 16 Jan 2002 20:34:16 +0900
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    65.酸化チタン(Ti2O3)の物性値

    Q: DS大学岡本です。
    ホームページを見ました。
    酸化チタン(Ti2O3)のいろいろな物性値が知りたいのですが教えてもらえます か?密度、エンタルピー、エネルギー等わかることがあればなんでも教えて下さ い。お願いします。
    Date: Thu, 17 Jan 2002 17:05:20 +0900
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    A:岡本様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。
     酸化チタンにはTiO[酸化チタン(II)]、Ti2O3[酸化チタン(III)]、TiO2[酸化チタン(IV)] があります。お尋ねのTi2O3[酸化チタン(III)]ですが、式量は143.8, 紫黒、三方晶(a=5.431Å,α=56゜36')、 比重4.6、分解温度2130℃、線膨張係数9.0×10-9 (@150℃)、水、酸に不溶、濃硫酸に可溶とあります。
    生成のエンタルピーなどは、記載ありません。
     私は酸化チタンについては実際に研究していないので、手元にこれ以上のデータが ありません。ご自分で図書館に行って調べてください。
    (化学便覧I-194頁、理化学辞典、Wycoff「Crystal Structure」、新版「物性定数表」(1978,朝倉書店)による.)
    DS大学なら、電気電子の大鉢教授 (tohachi@eml.doshisha.ac.jp)が結晶にお詳しいので結晶成長などについては、教えて いただけるのではないかと存じます。
    Date: Thu, 17 Jan 2002 18:05:48 +0900
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    66.光ファイバのレイリー散乱について


    Q: Tです。
    偶然HPで見つけたのでメールしました。
    光ファイバーのレイリー散乱の損失曲線を出したくて、文献などを見て 探しているのですが、どうしてもわかりません。
    求め方などわかりますか?
    (eを底とする)単一成分ガラスの散乱損失です。
    どういうところから、等温圧縮度や想定温度、固化温度が出てきたのかが わかりません。
    もしよろしければ教えてください。
    Date: Fri, 18 Jan 2002 14:35:31 +0900
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    A1: T様、佐藤勝昭です。  メール有り難うございます。出かけていてメールを見るのが遅くなりました。 さて、光ファイバのレイリー散乱の式ですが、電子通信学会編、岩崎裕監修 「オプトエレクトロニクス材料」(1986,コロナ社)の
    p.39,p.40に載っていますが、要するに 散乱強度は波長λの4乗に逆比例します。比例係数には、屈折率の2乗平均値 <δn2>2がかかっています。
    屈折率の揺らぎには、密度の揺らぎと、組成の揺らぎの両方が寄与します。
    前者は、(dn2/dρ)2・<δρ>2 と書けます(3.3式に誤植有り注意)が、密度揺 らぎは<δρ>2=(ρ2)βkTf/δVと表されます。ここでβは等温圧縮率、Tfは 仮想温度(想定温度)です。Tfは石英ファイバーのガラス状態を表すパラメータで、 液体状態の凍結を温度で表したものです。一方、(dn2/dρ)=(n4)Pとあらわされ ますが、Pは光弾性定数です。
    なお、R.D.Mauer: Glass fibers for optical communication", Proc. IEEE 61 [4] pp.452-462 (1973)が引用されています。 詳しくは、それをお調べ下さい。
    Date: Sat, 19 Jan 2002 14:16:23 +0900
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    AA1:お返事ありがとうございました。
    まさかこんなにはやくメールいただけるとは思いませんでした。
    本当にありがとうございます。
    助かりました。頑張ってみます。

    T
    Date: Sun, 20 Jan 2002 02:34:47 +0900
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    Q2:佐藤先生へ。
    たびたびすいません。 レイリー散乱の光強度の式がわかりません。
    波長の4乗に反比例することと、8/3Pi^3というのはどこから出てきたのですか? 散乱断面積と関係あるのですか?
    Date: Wed, 23 Jan 2002 05:43:24 +0900
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    A2: T様、佐藤勝昭です。
     レイリー散乱の散乱確率の導出については、 小林浩一:「光物性工学」(裳華房1997)p.166-170に詳しく載ってい ます。txt形式で式の誘導を再録するのは面倒ですから、図書館に行っ て、この本を探してください。3200円ですから、買っておかれてもよい のではないでしょうか。この本はSI系で書かれています。前に紹介した のはcgsなので8/3Pi^3がついています。
    Date: Wed, 23 Jan 2002 11:32:22 +0900
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    67.半導体の誘電率(温度依存性他)


    Q: 佐藤勝昭 先生:
    こんにちは。筑波大学の小山と申します。
    突然のメールで失礼します。

    現在、半導体(GaAs)を用いたデバイスに関する研究をしております。研究結果の 解析をするにあたり、GaAsの屈折率(誘電率)の温度依存性、自由キャリア依存性 について勉強しております。WWWでキーワード検索をしたところ、佐藤勝昭研究 室のホームページを見つけ、教えて頂きたいことがあり、メールを書かせて頂い ております。よろしくお願い致します。

    「1997年度前期「光物性工学」での質問ペーパへの回答です。」のページの「5 月27日配布:5月20日の質問回答」に誘電率の温度依存性についての質問があり ました。これに関連することで、波長940 nmに対するAlGaAsの誘電率の温度依存 性を調べております。先生が講義でお使いになられているテキストは、この件に ついて参考になりますでしょうか?もし、よろしければテキストを教えて下さ い。

    次に誘電率のキャリア濃度依存性についてですが、一般的に屈折率変化⊿nはキ ャリア密度変化⊿Nに対して、⊿n=-a*⊿Nなる関係をもっていますが、ある論文 (J.Appl.Phys. 51(8), 4365 (1980))でキャリア濃度が小さい時(*1017程度)の 時には⊿nが正になることが報告されています。このようなことは考えられるの でしょうか?
    Date: Mon, 21 Jan 2002 17:19:27 +0900
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    A:筑波大学、小山様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。
     GaAsの940nmにおける誘電率の温度依存性についてのご質問ですが、私の教科書 に温度変化までは書いてありません。そもそも、半導体の誘電率の温度変化は、 ほとんど研究はされていないと思います。従って、基本に立ち返って考える必要 があります。
     比誘電率はεrr'+iεr"と書けますが、イオン分極による誘電率を無視すれば、 εr'、εr"と光学定数(屈折率n、消光係数k)の間には、εr'=n22, εr"=2nκと いう関係が成り立ちますが、一方、消光係数kと吸収係数αの間には、α=2ωκ/c =4πκ/λの関係が成り立ちます。(このあたりは、「機能材料のための量子工学」 (講談社1995)の拙著部分第4章p.148をご参照下さい。)
     GaAsのような直接遷移型半導体では、α=B{(hν-Eg)(1/2)}/hνという関係が 成り立ち、バンドギャップEgはEg=Eg0-AT2/(T+β)のように温度に依存します( J.Pankove:"Optical Processes in Semiconductors", Dover, N.Y. 1971, p.27) から、これにより、一定の波長(あるいは光子エネルギーhν)におけるα、従って κは温度依存性を示すことになります。屈折率と消光係数はクラマースクローニヒの 関係で結びついており、吸収端付近でkが立ち上がるとき、nのスペクトルはkの 微分形のような変化をしますから吸収端付近にピークができます。温度変化でkの 立ち上がりのエネルギーが変化すると、nのスペクトルのピーク位置が多少変化し ます。しかし、近似的には屈折率nはあまり大きく温度変化しないので、εrの実数 部、虚数部の温度変化はκの温度変化で決まると思います。このほか、εrには、 上で無視したイオン分極の寄与が多少あり、これも温度変化に寄与します。
      次に誘電率のキャリア濃度依存性についてですが、これも原理に立ち返って 考えるべきと存じます。自由キャリアは、Drudeの式に従って、誘電率に影響 を及ぼします。高濃度ドープの場合にGaAsの反射スペクトルがどのように変化 するかは、Pankovの前掲書p.92に出ています。なお、自由電子のプラズマ振動 によるDrudeの式については前掲の拙著のp.158-160をご覧下さい。
     あまり現象論の式や経験則の式にとらわれず、自分で原理に従って考えて見ら れることをお勧めします。
    Date: Mon, 21 Jan 2002 18:39:19 +0900
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    QQ:佐藤勝昭 先生:

    筑波大学、小山です。ご回答ありがとうございます。 先生から頂いた回答を参考に、検討してみます。 今回はありがとうございました。
    また、何かありましたら、宜しくお願い致します。 失礼します。
    Date: Mon, 21 Jan 2002 19:07:55 +0900 (JST)
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    68.非線形磁気光学効果


    Q: 佐藤先生

    昨年末、当HPにて磁性薄膜の光学測定について、ご指導いただいた K大学のNです。その折は、ありがとうございました。
    以降、先生の御著書および解説文にて、勉強を続けております。 そこで、再度、質問をさせていただきたくメールいたしました。

    1.巨大非線形カー効果に関するRasingらの論文で、非線形複素  カー回転角が±90度に近づくという点について、少し詳しく教えて  下さい。垂直入射の場合、Z成分がなくなりEp=0となるのは理解でき  るのですが、R=0となることがわかりませんでした。

    2.非線形磁気光学効果の実験には、現在、Tiサファイアレーザが  使われているようですが、それは、どんな理由からなのでしょうか。  ひとつは、波長レンジが広いことが考えられますが、他には、何で  しょうか?(例えば、反応が極短時間であるとか)
     その点を詳説または考察している論文および書籍等ありましたら  ご紹介いただけませんでしょうか?

    3.2.に関連するのですが、実験したい試料に対して、どのような  光源(波長やパルス幅等)が適するのかは、どのような考察の  元に決めるのでしょうか。
    実際に、システムを組み上げてみたいのでご指導をお願いいたします。
    Date: Wed, 23 Jan 2002 12:37:54 +0900
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    A:K大学N様、佐藤勝昭です。 1.どの論文のことを指しておられるかよくわかりません。少なくとも、 私の解説で、R→0と書いた覚えはありません。いずれにせよ、SHG応答 は線形の光学現象とは異なるので、単純には理解できないかもしれませ ん。

    2.以前はYAGレーザが使われていました。いずれにせよ、SHGがおきるに は大きな電界が必要です。しかし、平均エネルギーが大きいと試料が損 傷を受けますので、パルスレーザを用いるのです。チタンサファイアレ ーザは100fsの程度の短い時間なのでピークの電界を高くとれますが、 パルス間隔が長い(といっても繰り返し80MHzもあります)ので平均電力 は数百mWに抑えることができるのです。

    3.吸収の強い波長帯を使うかどうかで状況が違ってきます。現象も違っ てきます。たとえば、透明な酸化物や半導体で、バンドギャップより高 エネルギーの光を当てると、実際に吸収が起きますから、共鳴形となり ます。あるいは2光子過程でバンド間遷移が起きる場合にも、1光子ず つでは非共鳴ですが、2光子として共鳴過程が起きます。
    2光子足しても吸収が起きないがSHGがでるような完全に非共鳴のプロ セスもあります。共鳴過程が入っている方が、SHGの断面積は大きいで すが、吸収があるので、表面しか見られません。
    パルス幅ですが、何を測るかでかわってきます。吸収が強い場合なるべ く狭いパルスを用いないと熱的な損傷が大きくなります。しかし、時間 が短いと不確定性原理のためにスペクトル幅が広がるので、精密な分光 測定をするのには適していません。
    このようなことを総合してレーザを選ぶべきでしょう。

    ●E-mailの知識だけでやるのは、難しいかもしれません。一度、見学に お越し下さい。
    Date: Wed, 23 Jan 2002 16:00:56 +0900
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    AA:佐藤先生
    K大学Nです。
    お返事ありがとうございました。

    是非、お邪魔させていただきたいと思っております。
    もう少し、下勉強をして問題点等を明らかにした上で、再度、連絡させていただき ます。その際には、よろしくお願いいたします。
    Date: Tue, 29 Jan 2002 10:17:55 +0900
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    69.スピネル構造の密度、硬度


    Q1: はじめまして。スピネル構造MgAl2O4とZnAl2O4とMnAl2O4とFeAl2O4の密度につて 教えてください。できれば、下4桁までおねがいしていいですか?匿名希望
    Date: Thu, 24 Jan 2002 18:24:14 +0900
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    Q2: スピネル構造の硬度・耐久決定の基準ってなんですか?何か特別な式とかあれば 教えてください。
    Date: Thu, 24 Jan 2002 18:13:12 +0900
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    A: 同志社大学の学生諸君、農工大佐藤勝昭です。
     メール有り難う。同志社大学でスピネル構造について宿題が出たので すか?学科は何で、授業科目は何ですか?宿題の解答を直接インターネ ットで教えてもらうのはカンニングと同じです。私のWeb siteは百科事 典ではありません。私も図書館に行かないと、データがありません。調 べる方法だけをお教えします。それでもわからなければ、もう一度質問 してください。

     無機物の密度は「化学便覧I.基礎編」に載っています。しかし、有効数字は4 桁もないと思います。
     原理から出す方法を教えます。まず、AB2C4正スピネル構造では立方 晶単位格子にA、B、Cが何個入っているかを調べましょう。(ヒント: AB2C4が8分子入っています。)次に、理科年表で各元素の原子量を調 べましょう。原子量はモルあたりで出ていますから、アボガドロ数で割 った値が、各元素の重さです。すると、単位格子の重さMがわかるでし ょう。次に、WyckoffのCrystal StructureのVol.3にいろいろなスピネ ルの格子定数aが載っています。これは4桁程度知られていると思いま す。立方晶ですから、単位格子の体積Vはa3です。M/Vが密度です。計 算の際SI系とcgs系をごっちゃにしないよう気をつけよう。

     硬度といってもいろいろあります。しかし、
    硬さと濡れ性の項にあります ように、硬度というのは「物理量」ではなく、変形させてその程度から 判定しているのです。鉱物の硬さを表すには、モース硬度が使われます。 モース硬度の基準については、理科年表の地学の「主な鉱物」の項目に 載っています。様々な硬度については私の材料物性工学の講義録を参照してください。なお、「耐久」などというのは、物理量として決定でき るものではありません。
    Date: Thu, 24 Jan 2002 19:49:07 +0900
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    70.In2S3の結晶構造について


    Q: はじめまして 都城高専のHと申します。
     突然で大変申し訳ありませんが質問させていただきたいとおもいます。
     今、私達は卒業研究で3元系太陽電池を作るための第一段階として、 まず2元系のIn2S3を使って、真空蒸着法を用い、 純度のよい薄膜の作成を目的として研究してしております。
     そこでIn2S3の構造など詳しい情報が欲しいのですが、 いろんな文献を探してもそれらしいものが見つからなくて困っています。
    なにかいい文献、情報等ありましたら教えていただきたいと思います。
    Date: 27 Jan 2002 13:35:44 +0900
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    A: 都城高専H様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。お尋ねのIn2S3ですが、Landolt Boernstein New Series III Vol.17h, p12-13のTable によりますと、 In2S3には、α、β、γの3つの相が存在します。
    α相の結晶構造は、立方晶のdisordered defect spinel type で空間群 は、Oh7-Fd3mで、格子定数はa=5.36Åです。この相は693-1023Kで安定 な高温相ですが、Inが過剰の場合、T=300Kでβ相が安定化します。
     H.Hahn, W.Kiinger: Z.Anorg.Chem.260(1949)97.(ドイツ語)
    β相の結晶構造は、正方晶のordered defect spinel typeで、空間群は D4h19-I41で、格子定数はa=7.618Å、c=32.33Åです。この相は、T= 693K以下で安定であると記されています。
     H.D.Lutz, H.Hauseler: Z.Naturforsch. 26a (1970) 323.
     K.D.Kundra, S.Z.Ali: Phys. Stat. Sol. (a) 36 (1976) 517.
    γ相の結晶構造は、層状構造で、空間群は菱面体構造D3d3-P-3ml、格子 定数はa=3.8Å、c=9.04Å、T=1023K以上で安定であるが、As、Sbなどの 不純物があるとT=300Kであるということです。
     R.Diehl, R.Nitsche, J.Ottermann: Z. Naturwis. 51 (1970) 670.
     R.Diehl, C-D.Carpentier, R.Nitsche: Acta Crystallogr. B32 (1976) 1257.
    従って、通常にInとSを化学量論組成比で秤量して、真空封入し、700℃ くらいで焼成し、急冷すれば、α相ができると思われますが、In過剰組 成から出発すると、β相ができるようです。700℃で焼成し、徐冷する とβ相になります。
     たぶん、X線回折パターンはJCPDSファイルにあるはずです。
    Date: Mon, 28 Jan 2002 19:16:45 +0900
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    AA:お返事のメール有り難うございました。大変ためになる解答でした。書いてあった文献などを探し、さらに調べてみることとします。ありがとうございました。
    Date: 29 Jan 2002 09:29:52 +0900
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    71.アモルファス磁性体について

    Q: こんにちわ。
    突然のメール、誠に申し訳ございません。
    私は、電気工学を専攻している学生です。
    材料の分野で、質問があるのですが、よろしいでしょうか?
    アモルファス磁性体とはどういったものなのでしょうか?
    よろしくお願い致します。
    Date: Mon, 28 Jan 2002 03:33:18 +0900
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    A: クマモト・ミキオ様、佐藤勝昭です。  メールありがとう。
     お尋ねの「アモルファス磁性体」ですが、貴方が使っているMDやMOの 媒体として使われているTbFeCoという合金薄膜は、アモルファス磁性体 の代表選手です。
     アモルファスamorphous(非晶質)というのは、morph (形)がない(a-は否定の接頭辞)ということで、原子配列が結晶のよ うな
    長距離秩序を持たない固体のことを言います。液体では原 子は不規則でランダムに並んでいますよね。この状態を凍結したのがア モルファスなのです。たとえば、Fe, Si, Bなどを混ぜてるつぼで高温 に熱して融解しておき、高圧ガスの力でノズルから、高速回転する金属 ドラムに向けて噴射すると、液体が急冷されてアモルファスになります。 このような材料は、急冷アモルファス合金とよばれます。一方、MDの TbFeCoは冷却した基板にスパッタ法で成膜することでアモルファスにな ります。
     アモルファス磁性体の特徴は、原子配列には長距離秩序がないのに、 磁気的には長距離秩序をもち、強磁性やフェリ磁性になることです。こ れは、金属強磁性の起源とも関係していますが、伝導帯の3d電子間の交 換相互作用によって磁性が生じているからです。
     なぜアモルファス磁性体がMDに実用されるかというと、
    (1)アモルファスTbFeCoは垂直磁気異方性をもち、かつ、磁気光学効果 が大きい。
    (2)光磁気記録ではレーザ光を1μm以下に絞って使うが、多結晶媒体だ と粒界による光散乱のためノイズが大きいのに対し、アモルファスだと 粒界がないので、低雑音である。
    (3)低温成膜なので、ポリカーボネートなどの安価なプラスチック基板 に成膜することができる。
    (4)金属間化合物ならば組成比が1:2とか1:3とか定比でないと形成され ないが、アモルファスだと任意の組成比がとれるので、特性を調整しや すい。
    などの特徴があるからです。
     急冷非晶質合金薄帯は、磁気的に非常にソフトであるという性質をも ち、トランスの磁心としてヒステリシス損が少ないという優れた特性を 示します。もし、日本で、柱上トランスや変電所のトランスの磁心をす べてアモルファス合金にすれば四国4県の電力消費量くらいを節約でき るという話を20年くらい前に聞いたことがありますが、特許の関係で 普及しないと言うことです。
    (磁性体でなければアモルファスの状態はいっぱいあります。たとえば、 電卓についている太陽電池セルはアモルファスシリコンですし、CD-RW やDVD-RWに使われている相変化記録媒体はInSbTeなどのアモルファス合 金薄膜ですし、ワイングラスや窓のガラスはアモルファスです。)
     詳しくは、専門書を読んでください。堂山・山本編「アモルファス材 料」(東京大学出版会、1985)などが読みやすいと存じます。
    Date: Thu, 31 Jan 2002 11:06:56 +0900
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    AA:私のような見ず知らずの者に、あのように詳しく説明してくださって、 とても嬉しかったです。
    アモルファスに対しての理解が深まったと同時に興味もさらにわきました。 ほんとうにありがとうございました。
    熊本 幹雄。
    Date: Mon, 4 Feb 2002 01:36:06 +0900
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    [注]長距離秩序long range orderとは、いくつもの原子にもわたって全体として 規則をもっている状態のことです。

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    72.MOディスクの動作原理

    Q: t.k.です。MOの動作原理を教えてください
    Date: Tue, 5 Feb 2002 14:37:40 +0900
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    A: tk様、佐藤勝昭です。

    (ご質問のあるときは、所属・名前を明確にしてください。Web上で匿 名にしたい時はその旨書いてあれば、対処します。会社の方か、学生さ んか、大学の研究者かでお答えの仕方が異なります。)

    MO(光磁気)ディスクの動作原理についてお答えします。(貴方が理科 系の学生さんで、磁性体について一応の基礎知識があるものとしてお答 えします。)
    光磁気記録は、レーザ光を光磁気記録媒体膜の部分に1ミクロン以下の スポットに集光して、光磁気記録媒体として用いられている磁性体のTc (キュリー温度)以上に加熱して磁化をいったん消し他後、冷却過程で外 部磁界の方向に磁化して記録します。記録された状態では、垂直磁気記 録(ディスク面に垂直に上向きまたは下向きに磁化が向いている状態)と なっています。
    磁気記録された状態を読み出すのに、ハードディスクでは磁気ヘッドを 使うのですが、MOディスクでは、磁気光学効果を用いています。磁気 光学効果とは、磁化の大きさ及び向きに応じて、入射した偏光の方向が 回転する効果です。透過の磁気光学効果をファラデー効果、反射の磁気 光学効果を磁気カー効果といいます。光磁気記録用の磁性体薄膜は薄い ので、透過して裏にある金属膜で反射した光と、膜面で反射した光が干 渉しあうので、ファラデー効果、カー効果の両方が効いています。 この効果のために、記録されたビットに偏光を当てると、磁気がディス ク面に対して上向きか下向きかで、反射して来た光の偏光の向きが異な ります。そこで、適当な角度を向いた偏光子を通してやれば、光強度の 強弱に変わるので、光センサを使えば、電気信号の強弱として読み出せ ます。
    関連リンク:講演OHP(power point):Internet Explorerで閲覧下さい。
  • 高密度光記録をめざして
  • 磁気光学の応用 
  • 詳しくは、私の書いた本「光と磁気(改訂版)」(2001.11)の第7章を 参考にしてください。
    Date: Wed, 6 Feb 2002 15:51:39 +0900


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    73.XRDの配向性


    Q:Daisuke Yoshidaです。
    XRDの配向性とは何ですか?

    TiN[200] TiN[220] などの意味がわかりません。
    TiN[200]はTiN[100] ではないのですか?
    Date: Sun, 17 Feb 2002 17:06:22 +0900

    -------------------------------------------------------------
    A:Daisuke Yoshida様、佐藤勝昭です。
    th1156@mail4.ac.jpに返信しましたが、メールが帰ってきてしまいました。
     メールありがとうございます。おたずねの件ですが、「XRDの配向性」 という言葉は正確ではありません。「XRDで観測した多結晶薄膜の配向 性」という意味ではないでしょうか。
    TiN[200]はおそらくTiN薄膜をX線回折(XRD)で観測したときの200回折線 が見られたということをそのように表現したのではないでしょうか? 200回折線は結晶の100面からの2次の回折線を見ている場合と、本当に 200面からの1次の回折を見ている場合が混じって出ています。それで は、100回折線は出ないのでしょうか。それは、X線回折の消滅則により ます。詳しくはキッテルの固体物理学入門第7版の第2章「逆格子」の 図17などを参考にしてください。
    多結晶試料での各回折線の強度は、結晶構造、原子散乱因子などから計 算ができます。ランダムに結晶方位が向いていても、200回折線が220回 折線と同じ強度とは限りません。しかし、200回折線が、計算される多 結晶の220回折線より遙かに強い場合には、その薄膜は(100)配向してい ると考えてよいでしょう。
    なお、結晶学において、[hkl]は方位を表す指数、(hkl)は面を表す指数 です。従ってTiN[200]という書き方は間違いです。材料関係のお仕事を されるならば、最低限そのあたりのところは勉強しておいてください。
    Date: Mon, 18 Feb 2002 10:22:46 +0900
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    74.シリコンの硬さ


    Q: 突然のメールで失礼します。私、K大学の修士1年のUJと申します。
    物性値を調べていたら、このページにたどり着き、質問させていただこうと思いました。

    薄膜を作製する際に、シリコン基板を用いることがありますが、その硬さはどの程度でしょうか?(漠然としていて 申し訳ありません)できればロックウェル硬さやブリネル硬さで教えていただければと思います。
    お手数だとは思いますが、よろしくお願いします。

    Date: Mon, 18 Feb 2002 19:17:16 +0900
    --------------------------------------------------------
    A1: UJ様、佐藤勝昭です。
     半導体は機能材料として調べられているので、構造材料的な評価があ まりされているとは思えません。シリコンウェハーに剛球を押しつけて 硬さを測ると劈開してしまうので、バルクでないと測れないと思います。 ただ、最近はマイクロマシンなど、シリコンを加工して機械材料として 使うので、その関係の方ならデータをお持ちかと思います。それで、東 北大学でマイクロマシンをやっておられる羽根先生にメールを出してお きましたので、お返事をいただけたら転送します。
     お役に立てずごめんなさい。
    Date: Mon, 18 Feb 2002 20:59:11 +0900
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    A2: K大学大学院 UJ様、農工大 佐藤勝昭です。
     マイクロマシンで有名な羽根先生から次のようなメールを頂きました。 ご参考にしてください。
    ---------------------------------------------
    シリコンの単結晶の材料特性として,幾分ばらつきもあるようですが, 教科書的な値としては下記のようになっています。ロックウェル硬さや ブリネル硬さの測定では,大きな圧子を用いるので,試料が壊れるなど 問題があり,測定値はあまり見当たらないようです。結晶なので,金属 のような塑性変形が生じにくいので,あまり測定されていない,あるい は測定してもあまり信頼できる値にならないのではないかと思います。 もっと微小領域で測定できるナノインデンターのような測定器を用いれ ば,測定できるのではないかとのことです。
    1. 降伏強度:7.0x1010dyne/cm2
    2. ヌープ硬さ:850kg/mm2
    3. ヤング率:1.9x1012dyne/cm2
    シリコンの機械強度についての研究をされている先生は名古屋大学の佐 藤一雄教授sato@kaz.mech.nagoya-u.ac.jpです。マイクロの引っ張り試 験を行ってみえます。お尋ねいただければ,もう少し詳しく説明いただ けます。
    Date: Wed, 20 Feb 2002 13:24:54 +0900
    ---------------------------------------------------

    75.「新しい磁気と光の科学」についての質問


    Q: 佐藤勝昭先生
     はじめまして。突然メールを差し上げまして,大変申し訳ございません。
    私は,東京大学先端研橋本研究室でD1の志村重輔と申します。
    先生の著作である「新しい磁気と光の科学」の第6章を読んでおりまして, いくつか疑問に思った個所があります。
    佐藤先生のHPを拝見させていただき,質問させていただいた次第です。 ご回答頂けましたら幸いです。

    (1)
    まず,145ページの式(6.9)中におけるテンソル成分につきまして, 1行5列目の要素と1行6列目の要素とは入れ違い, つまり誤植ということで宜しいでしょうか?
    (2)
    次にこのテンソルそのものにつきまして,
    χxxz = χxzx = χyyz = χyzy, χzxx = χzyy, χzzz
    という関係式を用いてノンゼロの要素を決めておられますが, 等方性・非磁性表面でこの関係式が成り立つ理由がわかりません。 例えば等方的でなく,特定の点群の特定の面の場合はどう考えれば 宜しいのでしょうか。

    (3)
    上記(2)の質問に関しまして,Rasing らによる 「Nonlinear Magneto-optics for Magnetic Thin Films」には 答えがありそうですが,unpublished の資料であるため入手できません。 不躾なお願いで大変恐縮ですが,先生にお時間があるとき, 実際に私が先生の研究室に出向きまして, 拝見させていただくことは可能でしょうか?

    (4)
    入射光の偏光面の制御に用いられているベレック補償子というのは, バビネ補償子と同じ,すなわち呼称の違いだけでしょうか?

    以上,どうかよろしくお願いいたします。
    Date: Tue, 19 Feb 2002 10:59:27 +0900
    -------------------------------------------------------
    A: 志村様、佐藤勝昭です。
     拙著を丁寧に読んで頂き有り難うございます。何しろ、あの本の執筆 当時、「光と磁気改訂版」、「応用物理ハンドブック」、実験物理学講 座4「試料作製技術」、実験物理学講座6「磁気測定I 」、物理学辞典  「カルコパイライト」の項目、などが同時進行していまして、注意力散 漫になっていたので間違いも多いかと存じます。Criticalに読んでいた だければ幸いに存じます。
     さて、
    (1)ですが、 ご指摘の通り誤植です。よくチェックしていませんでした。

    (2)については、結晶の対称性と非線形感受率テンソル要素のノンゼロ成分との関係は、 Y.R.Shen"The Principles of Nonlinear Optics"のTable 2.1にまとめ られています。たとえば、hexagonal 6mmならば、生き残る成分は、xzx =yzy, xxz=yyz, zxx=zyy, zzzが消えない要素です。

    (3)Rasingさんから頂いた原稿のコピーがありますので、郵送します。コピ ーをとったらご返却下さい。

    (4)ベレック補償子は、バビネ板と違って、波長に応じて調整する必要があ りません。詳細は、
    New Focus社のWeb site をご参照下さい。 日本ではIndeco社が扱っています。
    Date: Tue, 19 Feb 2002 14:58:09 +0900
    ----------------------------------------------------
    AA: お忙しい中,早速のご回答を大変ありがとうございます。
    (2)ありがとうございます。早速 Shen の論文を入手し,勉強したいと思います。
    (3)非常に嬉しいです。佐藤先生のご好意に,感謝いたします。
    (4)ベレック補償子という名前は,先生の本で始めて知りました。 色々と教えていただき,この度は大変ありがとうございました。
    > (佐藤ギャラリーお薦めです!)
    拝見させていただきました。。。こんなすごい絵を描かれる先生とは存じませんでした。 昔学会で行ったエジンバラの絵は,懐かしみながら拝見させていただきました。

    これからも,よろしくお願いいたします。
    Date: Tue, 19 Feb 2002 16:48:46 +0900
    -----------------------------------------------------
    Q2:佐藤勝昭先生
    「新しい磁気と光の科学」の内容につきまして, 重箱の隅をつつくようで大変恐縮なのですが,
    151ページ表6.3のキャプションの最後にある参照文献番号 8) は, これは表6.2のキャプションの最後につくべきではないでしょうか? また,174ページの 8) の最後にある文章「表6.3はこの文献に従う.」 は「表6.2はこの文献に従う.」となるべきでよろしいでしょうか?
    この一連の部分で私は混乱してしまい,先日の私の質問(2)に至りました。 先生からメールでご回答を頂き,また Rasing 先生の原稿を斜め読みし, この部分で自分が誤解していたことに気づきました。
    このたびは,大変お騒がせ致しました。

     これからも,よろしくお願いいたします。
    Date: Thu, 21 Feb 2002 18:12:11 +0900
    --------------------------------------------------------
    A2: 志村様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。ご指摘有り難うございました。
    いろいろ出てきますね。参照文献番号は表6.4につけるべきでした。
    本文のp151下から2行目に8)を引用してあります。なお、p174については 「表6.4はこの文献に従う」とすべきでした。お詫びして訂正します。
    Date: Thu, 21 Feb 2002 19:38:26 +0900
    --------------------------------------------------------

    76.1次元格子のデバイ温度


    Q1:佐藤勝昭先生
    はじまして,私はK大学の学生です.授業で習ったデバイ温度についてご質問があり ます.全長LのN個からなる1次元格子について,(1次元)デバイ温度Θ1を求めたと ころ次式となりました.
    Θ1=(h/k)・3(N/L)・V
    ここで,hはプランク定数,kはボルツマン定数,Vは音速です.

    まず,上式で正しいのでしょうか?

    次に,この式中の音速Vは縦波音速Vlと横波音速Vtから次式で求まる平均音速を意味 しているのでしょうか?
    3/V=1/Vl+2/Vt
    それとも,(3次元)デバイ温度の導出方法との比較から類推される次式の音速を意 味しているのでしょうか?
    1/V=1/Vl+2/Vt それとも,また別の速度を意味しているのでしょうか?

    よくわかりません.お手数でなければ,教えていただけないでしょうか?よろしくお 願い致します.
    Date: Fri, 01 Mar 2002 12:45:00 +0000
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    A1:稲葉様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。
    おたずねの件ですが、原理に基づいて計算すればよいのです。
     1次元の格子振動の状態密度は、1つのモードについて
     D(ω)dω=(L/π)(dk/dω)dω=(L/π)(1/v)dω
    となります。
     LAモードの音速vL、TAモードの音速vTとします。
    いま、LAモードの状態密度をDL、TAモードの状態密度をDTとすると、
     ωD
    ∫ {DL(ω)+2DT(ω)}dω=3N
     0
    となりますから、
    (L/π){(1/vL)+(2/vT)}ωD=3N
    ここで平均の音速vを
     (1/v)=(1/vL)+(2/vT)
    と定義すると、
    ωD(L/πv)=3N
    従って、ωD=3πNv/L
    Debye温度ΘDは、h'=h/2π、ボルツマン定数kBとすると
    ΘD=(h'/kB)ωD=(h'/kB)(3πNv/L)=(3/2)(h/kB)(N/L)v
    となり、あなたの導かれたものはfactorが2だけ違っています。
     ご自分でもう一度確かめてください。
    Date: Sat, 2 Mar 2002 11:46:39 +0900
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    Q2: 佐藤勝昭先生

    早速のご回答誠に有難うございました.大変参考になりました.

    あと,進行波で考えた場合と定常波で考えた場合で求まるデバイ温度は異なってくる のでしょうか?つまり,λを波長とした場合,進行波ではnλ=2L (n=0,1,2,3,..N),定常波ではnλ=L(n=0,±1,±2,±3,..±N/2)となると思いま す.これに基づき1次元の格子振動の状態密度を考えた場合,1つのモードについて 前者は,先生がおっしゃっていた
    D(ω)dω=(L/π)(dk/dω)dω=(L/π)(1/v)dω
    となり,後者は
    D(ω)dω=(L/2π)(dk/dω)dω=(L/2π)(1/v)dω
    となると思います.そのため,最終的に求まるデバイ温度も両者で異なってくる気が するのですが...僕自身何か大きな勘違いをしている気がします.宜しければご教 授下さい.
    Date: Sat, 02 Mar 2002 04:08:14 +0000
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    A2: 稲葉様、佐藤勝昭です。
    進行波で考えた場合、kには正負の値があるので、
    D(ω)dω=2×(L/2π)(dk/dω)dω=(L/π)(1/v)dω
    結局1次元鎖で考えたのと同じ状態密度数を与えます。
    Date: Sat, 2 Mar 2002 14:42:03 +0900
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    AA: 佐藤勝昭先生
    有難うございました.周りに相談できる人が居ないため,本当に助かりました.
    Date: Sat, 02 Mar 2002 05:49:59 +0000
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    77.Ta2O5薄膜の組成について


    Q: 佐藤先生へ
     こんにちは、真空蒸着のビギナーのHです。(社名・名前を匿名でお願いします。)
    現在、蒸着した膜質を調査中です。その中で、Ta2O5の膜の元素構成比について お伺いします。XPSで元素を測定してますが、Ta2O5実膜の最適元素構成比が分かった ら教えてください。
    また、実膜の元素にどうしてもCが混入してしまうのですが、Cの影響はあるのでしょう か?更に、Cの含有率の範囲(○○%以下が好ましい等)がありましたら教えてください。
    Date: Thu, 07 Mar 2002 10:24:48 +0900
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    A: H様、佐藤勝昭(旅先:京都)です。
     質問の意味がわかりません。
    Ta2O5がきちんと化学量論比でできていたら、 Ta:O=2:5となっているはずですが、実際に薄膜を作るとずれていることがよく起きていると聞いています。こ の元素比がどこまでずれてもよいかは、私はTa2O5の経験がないので、しかる べき方にお聞きください。
    Cが含まれているときの影響についての質問ですが、どのような性質を問題に するかによると思います。単に高い誘電率が欲しいということか、リーク電流 を減らすことが問題なのか、薄くしたときの耐電圧がどうかなど、いろいろの 側面があると存じます。何に使おうとしているかによると思います。
     応用物理学会の講演会のプログラムなどで、関係している専門家を捜してお たずねください。Ta2O5ではないが、PZTなど高誘電率酸化物の薄膜成長をやっ ている農工大の上野先生がご存じかもしれませんので、お尋ねになってくださ い。(E-mail=tomoueno@cc.tuat.ac.jp)
    Date: Fri, 8 Mar 2002 07:11:36 +0900
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    AA:佐藤先生へ

     旅先からの回答有難うございます。
    色々な蒸着条件での膜質を調査しているのですが、理論値通りにならずもしかしたら 考え方が間違っているのかもしれないと思っていたところにこのページを見つけたので お聞きしました。
     農工大の上野先生にも相談してみようと思います。
    Date: Fri, 08 Mar 2002 16:21:06 +090
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    78.半田メッキ上の半田くずの検出法


    Q: 匿名でお願いします。私は半導体メーカに勤める34歳男性TYです。

    ICの外部リードは、実装のために半田めっき(すず90%、鉛10%)が なされているのですが、その半田めっきが削れて半田屑(鉛90%、すず 10%)がリード上に付着する場合があります。これは製造工程中では不良 と判定すべきものですが、半田めっきが銀色に対して、半田屑も銀色をして いるため、画像処理で検査しようとしても、区別がつかず検出が難しい状況 にあります。
    そこで相談ですが、何か照明を工夫することによって、半田めっきと半田屑 を明確に区別できるような方法はないでしょうか?

    よろしくお願いします。
    Date: Sat, 9 Mar 2002 01:47:41 +0900
    ----------------------------------------------------------------
    A: TY様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。旅先でデータが手元になく、確定的なこと はいえないのですが、半田は鉛に比べ電気伝導率が高いので、反射率も高く、 おそらくプラズマ周波数も高いのではないかと、推察します。従って、同じ銀 色でも波長依存性が異なるはずです。一度、分光光度計を用いて2つの金属の 反射スペクトルの違いを測定されてはいかがでしょうか。たとえば、赤外の1 μmと可視で緑の500nmの波長の反射率の比率を比較すれば、違いがわかるか と存じます。
    なんでもQ&Aは、あくまで「物性」についてのQ&Aですので、一般論でお答えし ました。これ以上具体的な問題解決については、佐藤に直接ご面会して頂く か、農工大TLOを通してご相談ください。時間が許す限りいつでもご相談に応 じます。
    Date: Sat, 9 Mar 2002 20:10:21 +0900
    ----------------------------------------------------------------
    AA:早速丁寧な回答いただきありがとうございました。ご助言の通り、分光光度計を用い た測定をやってみたいと思います。また何かあったらよろしくお願いします。
    Date: Wed, 13 Mar 2002 23:27:54 +0900
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    79.表面粗さと反射率


    Q: こんばんわ、半導体メーカ勤務T.Yです。また疑問点について教えて下さい。  Q1.金属面での光の反射において、光の波長と金属表面の表面粗さの間にはど ういう関係があるのでしょうか?
     例えば、波長より表面粗さが小さいとどうなって、逆に表面粗さが大きい とどうなります?また、表面粗さと反射率はどういう関係にあります?

     Q2.「入射角=反射角」は、表面が多少凸凹であっても、成り立つものでしょ うか?(凸凹での乱反射によって、反射率の減少が多少見られると思いますが、 -入射角度方向に一番反射するのでしょうか?)

     Q3.金属の光沢は、電気伝導率に比例すると考えてよいのでしょうか?
    カーボンは金属では無いですが、導電性です。カーボンも光による振動電 界によって光沢があるのでしょうか?また、金属以外の物質の光沢は、 表面粗さのみによるものでしょうか?
    Date: Thu, 21 Mar 2002 00:26:10 +0900
    ---------------------------------------------------------------
    A: TYさん、佐藤勝昭です。
     ご質問の件ですが、わかる範囲でお答えします。
    Q1.金属面での光の反射において、光の波長と金属表面の表面粗さの間には どういう関係があるのでしょうか?例えば、波長より表面粗さが小さいとどう なって、逆に表面粗さが大きいとどうなります?また、表面粗さと反射率はど ういう関係にあります?
    >
    A1:表面の粗さによる反射率の低下は、光の散乱によると考えればよいので す。波長より1桁以上小さい周期と振幅の凹凸であればほとんど反射率は低下 しないのですが、波長が短くなるとともに散乱が増加していきます。レーリー 散乱のメカニズムが働いていると考えられます。
    波長と同程度の表面荒さならば、もし周期的なら回折現象が起き特定の角度に 強く反射します。もし完全にランダムなら全方向に一様に散乱されます。 表面荒さと反射率の関係は私は存じません。おそらく、経験則しかないと思い ます。ミラーを作っている会社ならば、データをもっているかも知れません ね。
    >
    Q2.「入射角=反射角」は、表面が多少凸凹であっても、成り立つもので しょうか?(凸凹での乱反射によって、反射率の減少が多少見られると思いま すが、-入射角度方向に一番反射するのでしょうか?)
    >
    A2:反射面が平面と見なせるならば「入射角=反射角」が成立するはずです。 しかし、たとえば斜め蒸着した金属では、表面のモルフォロジーがのこぎりの 刃状になって、反射の強くなる方向が入射角=反射角の関係からずれる可能性 があります。たしか、斜め蒸着された金属の屈折率および消光係数の方位依存 性の論文を見た記憶があります。
    >
    Q3.金属の光沢は、電気伝導率に比例すると考えてよいのでしょうか?カー ボンは金属では無いですが、導電性です。カーボンも光による振動電界によっ て光沢があるのでしょうか?また、金属以外の物質の光沢は、表面粗さのみに よるものでしょうか?
    >
    A3:反射の現象は、空気と物質の間に屈折率や消光係数のちがいがあれば生じ ます。電気回路において、電源と負荷の間にインピーダンス・マッチングがと れていないと、反射が起きて、電力を負荷に供給できないことは、ご存じで しょう。光もこれと同じなのです。光の振動数の電界に対して、空気と物質の インピーダンスの違いがあると、反射が起きるのです。したがって、金属でも 半導体でも、絶縁物でも、屈折率や消光係数のちがいがあれば反射が起きるの です。
     ミクロに見ると金属の反射率は、自由電子のプラズマ振動にもとづくドルー デの法則に従います。プラズマ振動数の二乗は電気伝導率に比例しますが、反 射率と伝導率の間に単純な関係は成立しません。詳細は、たとえば、山田・佐 藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社1995)の第4章p.159をお読み下さ い。カーボンやシリコンなどの反射は、ミクロにはバンド間遷移による強い吸 収の存在によって生じた屈折率と消光係数に基づいています。前掲書のp.167を ご参照下さい。
     表面荒さの効果は、金属・非金属にかかわらず起きています。
    Date: Thu, 21 Mar 2002 23:41:14 +0900
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    AA:早速丁寧な回答をいただき、ありがとうございました。 非常に勉強になりました。
    また疑問があったときはよろしくお願いします。 ありがとうございました。
    Date: Sat, 23 Mar 2002 01:15:42 +0900
    -----------------------------------------------------------------

    80.「光と磁気」への質問5:(誤植の指摘)

    Q: はじめまして。
    大阪大学大学院の学生で諏訪と申します。 当方、分析化学の研究室に所属しており、 磁場を用いた新しい分析手法を研究、開発したいと考えております。
    そこで、先生の「光と磁気(改訂版)」を勉強中なのですが、 少し行き詰まっており、失礼ながらメールで質問させていただきます。

    まず、問題3.7のヒントで、
    電磁波
    E = E0exp(-iωt+iKr)、H = H0exp(-iωt+iKr)
    をマックスウェル方程式に代入して得られる、
    ωμ0H = K×E、ωεε0E = -K×H
    という式で反射光だけ符号が変わるのはなぜですか?
    波数ベクトルKに符号の違いは入りそうな気がするのですが...

    また問題3.7のヒント中について
    境界面内で、全ての場は同一でなくてはならない、即ち、
    E0x = E1x = E2x
    E0y = E1y = E2y
    とあるのですが、43項の(3.64)式には、s偏光について
    E0s + E1s = E2s
    とあります。このあたりのつながりが良く分かりません。

    あと、至る所で固有方程式という言葉が出てくるのですが
    これは、線形代数学で言う固有方程式ではなく、
    例えば、Ax = 0(Aは正方行列)という連立方程式で ベクトルxが非自明解を持つ為の条件が
    datA = 0という事と理解してよろしいでしょうか?

    物理学科の基礎的な光学や物理数学を講義なさっている先生に聞けば、 良いのかも知れませんが、ご執筆された先生に質問すれば 最も良い答えを頂けるのではと思い、メールを出した所存です。
    お忙しいようでしたら、参考になる文献、教科書の名前だけでも結構です。 よろしくお願いします。
    Date: Thu, 28 Mar 2002 23:25:44 +0900
    ------------------------------------------------------------
    A: 諏訪様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。各質問にお答えします。

    回答1:
    p56の1行目の式において、誤植をみおとしていました。
    反射のKは、入射光と同じ座標系で書くと、-Kとしなければなりませ ん。従って第1行目の式は
    反射は E1exp(-iωt-iK1・r), H1exp(-iωt-iK1・r)
    と修正してください。
    ご指摘有り難うございました。

    回答2:
    ご指摘有り難うございました。
    これも、誤植です。媒質1のx(y)成分と媒質2のx(y)成分の連続性なので
    E0x + E1x = E2x
    E0y + E1y = E2y
    としなければならないと存じます。確かめてみてください。
    この点は、初版でもミスになっていて気がついていませんでした。

    回答3:
    数学の定義と違うかもしれませんが、理化学辞典によれば、
    n次の正方行列Aが与えられたとき、文字xと単位行列ちからできたxE-A の行列の行列式を0とおいた、xについての方程式det(xE-A)=0を固有方 程式というとあります。たとえば、p.55の7行目の式はまさにこの形を しています。固有方程式という言葉はこの意味で使っています。

    回答4:
    自分で式を導いているので、間違いがあるかもしれません。
    参考書としては、p.221に掲げたLandau-Lifshitsが下敷きになっていま す。
    今後ともよろしくお願いします。
    Date: Fri, 29 Mar 2002 18:10:10 +0900
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    81.カー楕円率によるヒステリシス


    Q: 佐藤 先生
    日立中央研究所の松山と申します.先生のHPを見てメール しました.
    先生の「光と磁気」でKerr効果を勉強しているのですが, 以下の疑問点について教えてください.

    1.現在Kerr効果を利用して磁性試料のヒステリシスループ (MHループ)測定がよく行われていますが,この場合測定する ものはKerr回転角です.Kerr楕円率を測定することで,同様 にヒステリシスループを得ることができるのでしょうか?また, ヒステリシスループの形状はKerr回転角と楕円率で同じ形状 になるのでしょうか?

    2.Kerr楕円率は試料の磁化と入射光線(波長一定)の波数 ベクトルの積に比例するのでしょうか?

    3.Kerr楕円率がヒステリシスループ測定に利用されない理由 は何かありますか?

    以上,よろしくお願いします.
    Date: Fri, 29 Mar 2002 10:48:42 +0900
    ---------------------------------------------------
    A: 松山様、佐藤勝昭です。
     光と磁気をお読み頂き有り難うございます。
    ご質問に簡単にお応えします。
    1.カー楕円率でヒステリシスループをとってもいっこうに構いません。 「光と磁気」(旧版、改訂版ともp.17)の図2.11(旧版では図2.13)にア モルファスGdCo薄膜のガラス基板側から測定したヒステリシスが掲載さ れています。どちらでも測定できることがわかるはずです。
    ヒステリシスは、磁性を反映しているので、回転角でも楕円率で同じで すが、符号や大きさは、どの波長で測るかによって異なります。
     また、先の図2.11にありますように、カー回転の最大波長(800nm) ではカー楕円率は急激に減少してゼロを横切るので(これはクラマース クローニヒの関係によります)回転角ではヒステリシスがほとんどでな いということもおきます。
     図では、カー回転のヒステリシスの方が短波長では斜めになっていま すが、これは、基板側から測定したために、ガラス基板のファラデー回 転が重畳しており、この効果が短波長ほど大きくなるためです。一方、 ガラスのファラデー楕円率は透過域ではほとんど無視できるので、楕円 率ではきれいなヒステリシスが測定できます。

      2.極カー効果においては、カー回転角もカー楕円率も磁化に対して同 じ振る舞いをします。光の入射角が小さい(垂直入射に近い)ときはθK もηKもk・Mに比例すると考えてよいと思います。しかし、角度が大き いと、斜め入射のカー回転の式(改訂版p50 式(3.89)によりますので、 やや複雑になります。

    3.カー楕円率が利用されないのは、普通のクロスニコル法では、楕円 率を測定するために4分の1波長板を挿入しなければなりませんから、 簡単な回転角の方を使っているのです。PEMを使った円偏光変調法なら 楕円率を測定する方がアナライザなくてもよいので簡単です。また、ガ ラス基板のファラデー回転の影響を受けにくいことも楕円率の利点です。 ただ、先の例でもわかるように、波長によっては、楕円率が著しく小さ くなる場合があります。逆に、カー回転が小さいがカー楕円率は大きい という場合もあります。スペクトルを調べて、よい波長を選ぶことが大 切です。
    Date: Fri, 29 Mar 2002 17:34:24 +0900
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    82.光吸収係数について


    Q: はじめまして市嶋と申します。

    Q: はじめまして市嶋と申します。
    佐藤先生のHPを拝見してメール差し上げましたが,光の吸収係数について教えていただくことはできませんでしょうか。
    シリコンの吸収係数を応用した米FoveonのCMOSについて調べています。表面から,青,緑,赤の波長をシリコンで吸収して電子を取り出すというものです。

    質問1:
    これは物質の吸収係数によるもので,波長の短いものほど吸収されてしまうという点までは透過光強度の式として理解できました。ただ,そこで疑問が生じます。波長の短いものほどエネルギーが大きいのでは。←屈折率が関係してくるのでしょうか。
    また,水の場合は波長の長い赤い色が海面近くで先に吸収されてしまいます。
    これらは,反射光と透過光,吸収光の関係で説明がつくのでしょうか

    質問2:
    また,光学定数というのは物質によって大きく変わるものなのでしょうか。また,吸収係数がマイナスの値を持つようなことはあるのでしょうか。

    突然の質問で申し訳ありません。お答えいただければ幸いでございます。

    Date: Tue, 2 Apr 2002 02:10:11 +0900
    ----------------------------------------------------------------
    A: 市嶋様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。ご質問にお応えします。

    回答1:
     シリコンの光学吸収端は、シリコンのハンドギャップ(1.1eV)に相当 する光の波長1100nm付近にあり、バルクのシリコンでは、これより短い 波長の光は吸収されてしまいます。従って、赤・緑・青・紫という可視 光線(ご指摘の通り、波長が短いのでバンドギャップよりエネルギーの 高い光子です)はすべて吸収されます。吸収の程度は、光学遷移(注: 物質が光を吸収して、低い電子状態から高い電子状態に、変化すること を光学遷移といいます)の確率および光のエネルギーに比例します。シ リコンは、吸収端付近の波長では間接遷移ですが、可視光付近では、直 接遷移になっています。k(=電子の波数)空間でエネルギーバンドを表 した場合、価電子帯と伝導帯のk依存性が平行になっているような部分 があって、これが、シリコンの吸収のピークを作っています。このエネ ルギーは3.3eVですから、波長にすると376nmの紫外線です。従って、吸 収係数(単位長さあたりの光の吸収率)は、吸収端からこのピークに向か って単調に増加する傾向があります。すなわち、短波長ほど吸収が強く なるのです。
     このように、シリコンなど固体の光吸収をきちんと理解するには、バ ンド構造や光学遷移の物理学的基礎が必要です。たとえば、山田・佐藤 他著「機能材料のための量子工学」第4章p166以降をお読み下さい。

    回答2:
    水の赤外吸収は、光学遷移によるものではなく、水の分子振動の固有周 波数が赤外域にあって、赤外光が水の分子振動を引き起こし、その際に ダンピング項による損失を受けてエネルギーが失われる現象です。シリ コンの場合は、電子の関係する量子現象であったのですが、水の場合は、 分子やイオンが関係するような巨視的な現象です。

    回答3:
    光学定数n、kは、物質固有の電子構造や分子構造を反映したものなの で、物質毎に異なります。従って、吸収スペクトルを丁寧に測定すれば 物質の同定ができるのです。
    吸収係数は負になることはありませんが、誘導放出が起きる場合は、 負の吸収係数の状態であるといってもよいと思います。

    お役に立てば、幸いです。
    Date: Tue, 2 Apr 2002 10:38:17 +0900
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    83.はんだのぬれ上がり


    Q: 先生 、こんにちは。ロンと申します。技術の仕事を20年位してます。
    こちらのホームページは、大変勉強になると感心しながら拝見しております。

     はんだのぬれ上がり(高さ)で、質問がありあます。
    メニスコグラフでは、はんだのぬれ性試験(いかにスピーディにぬれるか?) が測定出来ますが、私が知りたい事は、垂直にぬれ上がるはんだは、いくらの 高さ迄ぬれ上がるか?という事です。毛管現象に於けるそれの高さの、文献等 はあるのですが、(例えばSMD部品のコンデンサのような、端子が壁の如く垂 直に立った壁面をはんだがいくらの高さ迄ぬれ上がるのか?)
    というような事を数式で説明したいのですが、(式の意味からして、はんだが 部品の壁面をぬれ上がって来てもせいぜい何mm程度迄ですよ。という理論。) いかがなものでしょうか?

           ■□□ はんだはPCB上に充分あるものとします。
          ■□□ ←SMD(左半分図)
    ↑    /■□□ //// … はんだフィレット
    H   //■□□ H … はんだのぬれ上がり。(高さ)
    ↓  ///■□□ ■…SMD部品端子。
    ---------------- ←PCB
    ----------------

    Date: Tue, 02 Apr 2002 10:35:26 +0900
    -----------------------------------------------------------------
    A: ロン様、佐藤勝昭です。
    メール有り難うございました。ホームページをご覧いただき有り難う ございます。大変申し訳ないのですが、私は、ハンダのぬれについての 知識はほとんどございません。私には、田中和吉著「はんだ付け技術」 (工学図書、昭和49年)くらいの知識しかなく、表面張力、毛管現象が 関与しているということくらいしかわかりません。そもそも液体金属の ぬれ現象を物理学的に理解するには、相手の金属の種類や表面状態(平 坦性、清浄度)など多くのパラメータが知られていなくてはならないと 思います。従って、おっしゃるような数式がもし得られたとしても、特 定のケースの狭い範囲でしか成立しないもので、一般化できないのでは ないでしょうか。
     専門外なので、この程度しかお応えできなくてすみません。
    Date: Tue, 2 Apr 2002 11:21:36 +0900
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    84.斜め入射の反射における複素数の屈折角


    Q: 初めまして。O株式会社のOと申します。
    先生のHPを見まして、感心するとともに、こういうHPこそ必要であると痛感する次 第です。HPを読んでいるうちに、長年疑問に感じていた事を質問したくなり、メール を差し上げる次第です。
    現在私は、反射分光や分光エリプソを使って光学定数や膜厚 を解析することをやっており、解析プログラムなど自作したりしていますが、
    「複素屈折率における複素数の角度の解釈」をとりあえず棚上げして現在に至っており、 是非この機会に先生の解釈を伺いたく存じ上げます。以前に物性なんでもQ&Aの
    斜め入射の金属の反射率でも軽くふれられていますが、 複素屈折率でスネルの法則をはめると、複素数の角度になりますが、これは 一体どういう具合に解釈すれば、また、どういう物理的像を想像すればよいのでしょうか?
    お考えをお聞かせいただければ、幸いです。
    Date: Wed, 03 Apr 2002 19:18:41 +0900
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    A: O様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。電磁気学において電界や磁界は(量子 力学の波動関数とは違って)あくまで実数の現象ですが、複素数を用い るのは、数式上で扱いやすく、形式的にシンプルに表現するためにすぎ ません。それでは、純実数の電界が入って、実数の電気分極と純虚数の 電気分極が生じたとしましょう。虚数の電気分極は、実数の電界から時 間的に90°位相がずれた分極が生じていることを表しています。同様 に、複素数の屈折率というのは、実数の電界に対しては実数の屈折率 (普通の意味での屈折率n)が適用され、速度が1/nになりますが、9 0°だけ位相ずれのある分極が起きると、エネルギーの散逸が生じ、虚 数の屈折率(消光係数κ)をもって振幅が減衰していくことを表してい ます。
     このことから考えると、実数の電界が角度θoで入射して、実数の分 極は屈折角θ2の実数部の方向に進んでいきますが、90°位相がずれ た分極は、屈折角θ2の虚数部の方向に減衰していくと解釈できると思 います。これが、私なりの解釈です。いかがでしょうか。
    Date: Wed, 3 Apr 2002 19:51:24 +0900
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    Q2: ご丁寧に、こんなに早くご回答頂きまして、誠にありがとうございます。 また、この問題に関しまして、これほど明快にお答えを頂いたのも初めて、感謝いた しております。
    厚かましいとは存じ上げますが、少し疑問がございますので、お考えをお聞かせいた だければ幸いです。
    ガラスにアルミニュウム薄膜を蒸着してハーフミラーとしてよく使いますのでので、 45度傾けたアルミニュウムに可視光を入射するということは現実に良く行っている ことで、これといって特異な現象もなく、何ら不思議なことはありません。ところが、 HOC(Handbook of Optical Constants of Solid )によれば、Al(アルミニュウム)の波 長500nmにおける屈折率nと消衰係数kは、 n=0.769、k=6.08です。そこで第一の疑問といたしまして、

    >同様に、複素数の屈折率というのは、実数の電界に対しては実数の屈折率
    >(普通の意味での屈折率n)が適用され、速度が1/nになりますが、9
    >0°だけ位相ずれのある分極が起きると、エネルギーの散逸が生じ、虚
    >数の屈折率(消光係数κ)をもって振幅が減衰していくことを表してい
    >ます。

    Alの複素屈折率の実数部分は1より小さく、とすると、「速度が1/nになる」というこ とは、どう考えればよろしいのでしょうか?

    HOCのnkを使って、空気からAlに入射角45度で波長500nmの光を入射したときのAl内 の屈折角を実際に計算してみました。Alの複素屈折率NをN=0.769+i6.08とし、空気の Nを1として計算すると、45度で500nmの光を入射したときのAl内の角度は、 0.823-i6.545(degree)となりました。屈折角の虚数部が負の値になります。そこで第 2の疑問です。

    > このことから考えると、実数の電界が角度θoで入射して、実数の分
    >極は屈折角θ2の実数部の方向に進んでいきますが、90°位相がずれ
    >た分極は、屈折角θ2の虚数部の方向に減衰していくと解釈できると思
    >います。

    屈折角の方向が負の値というのは、どのように考えればよろしいのでしょうか?もし かしたら計算間違いかもしれませんが、何とぞよろしく御願い申し上げます。
    Date: Thu, 04 Apr 2002 00:40:48 +0900
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    A2: O様、佐藤勝昭です  金属の屈折角について詳細な解析に基づくご指摘を頂き有り難うございまし た。たしかに光の速度がc/nとすると、n<1のとき光速よりも速くなってしまい ます。こんなことは、物理的におかしいですね。
    c/nについては、もう一度元に帰って見ましょう。複素屈折率をN=n+ik (波をexp(-iωt)で考えています)と仮定するとc'=c/N=c/(n+ik)={c/(n2+k2)}*(n-ik) となるので、正確にはc'の実数部Re(c')=nc/(n2+k2)であって、 光速を超えることはありません。
    (後でつけた注:これは、n<1, k~0 では成立しません。この議論は、誤りで、後述のように位相速度については、 光速より速くてよいと書くべきでした。)

     このように金属で屈折率nが小さな値をとるのは何故でしょうか。このために は誘電率の実数部を考える必要があるのです。Al(アルミニュウム)の波長 500nmにおけるn=0.769、k=6.08を用いると、ε1=n2-k2=-36.37と、大きな負 の値をとります。これは、金属の伝導電子による電界の遮蔽が起きて、中に入 り込めないことを示しています。たとえ入ったとしても入った光の大部分は吸 収されます。従って、金属の中のnの意味は、透明な誘電体のnのような意味を 失っている見かけのものだと言えましょう。
     屈折角の虚数部が負ということですが、これは、位相が90°遅れているか 進んでいるかの違いなのです。i=exp(iπ/2), -i=exp(-iπ/2)と考えればよい と思います。

    Date: Thu, 4 Apr 2002 02:04:29 +0900
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    Q3:佐藤勝昭先生、ご回答頂きまして、ありがとうございました。
    早々にお答えくださったにも関わらず、お礼が遅くなりまして、申し訳ございません でした。
    屈折率の問題は、簡単なようで、奥の深いものを感じます。この問題に関して疑問が 鬱積していましたので、しつこいようですが、もう少しお教えいただければ幸いです。

    > たしかに光の速度がc/nとすると、n<1のとき光速よりも速くなってしまい
    >ます。こんなことは、物理的におかしいですね。これについては、もう一度元
    >に帰って見ましょう。複素屈折率をN=n+ik(波をexp(-iωt)で考えています)と
    >するとc'=c/N=c/(n+ik)={c/(n2+k2)}*(n-ik)となるので、正確にはc'の実数
    >部Re(c')=nc/(n2+k2)であって、光速を超えることはありません。

     つまり、n/(n2+k2)は1より大きくなることはない、ということだと思うのです が、数学的には、nkの値が物理的に意味のある値の範囲で、n/(n2+k2)は1より大き く成り得ますし、また、実際にHOCによれば、Alの遠紫外域のnkの値ではn/(n2+k2) は1より大きくなります。例えば、72.93nmにおけるnkは、n=0.474、k=0.0423ですの で、n/(n2+k2)=2.09304になり、c'はcの約2倍にもなってしまいます。これはどの 様に解釈すればよろしいでしょうか?

    > 屈折角の虚数部が負ということですが、これは、位相が90°遅れているか
    >進んでいるかの違いなのです。i=exp(iπ/2), -i=exp(-iπ/2)と考えればよい
    >と思います。

    虚数部が負ということは実数部に対して90度位相が遅れた成分の角度と考えればよ ろしいのでしょうか?
    Alの波長82.66nmにおけるn=0.125、k=0.153という値で角度を計算すると、45度入射に 対して虚数部の角度が-113.024度になったのですが、これは、位相の90度ずれた成 分は反射されていると考えるべきなのでしょうか?
    しつこいようで申し訳ございませんが、何とぞよろしく御願い申し上げます。
    Date: Sat, 06 Apr 2002 01:44:37 +0900
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    A3:O様、佐藤勝昭です。
     確かに、ご指摘のケースではc'=c/N=c/(n+ik)で考えてもc'>cになりますね。c/Nは 単色平面波についての位相速度を与えています。従って、位相速度はcを超えているの でしょう。位相速度は光速を超えてもいいようです。昔(40年も前のことですが)、京 大の学生時代に湯川秀樹先生の「物理学通論」という講義を受けたことがあります が、先生は、「たくさんの人が旗をもって一列に並んでいて、予め打ち合わせておい て旗を上げれば、旗の上がる様子は光の速度より速く伝わっているように見えるよう にすることもできる。これが位相速度だ。」と説明しておられたのを記憶していま す。
     物質中を伝搬する光は、光と分極波の混成した状態となっていて、光の場と電気分 極の波との間でエネルギーのやりとりをしながら伝わります。そのため、通常の場合 (n>1の場合)は光は物質中を電気分極を引きずりながら伝搬します。それで、伝搬速度 は光速より遅くなるのです。逆にn<1のとき、光は電気分極との相互作用で、見かけ上 位相が進んだように見えるのでは無いでしょうか。これは、あくまで私の考えですか ら正しいかどうかわかりません。光学の専門家に尋ねておきます。

    Date: Sat, 6 Apr 2002 22:21:19 +0900
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    QQ: 佐藤勝昭先生、ご丁寧にご回答頂きましてありがとうございました。

    > 確かに、ご指摘のケースではc'=c/N=c/(n+ik)で考えてもc'>cになりますね。c/Nは >単色平面波についての位相速度を与えています。従って、位相速度はcを超えているの >でしょう。位相速度は光速を超えてもいいようです。

    X線が金属を通過する時に屈折率が1より小さくて、光速が見かけ上大きくなるのを説 明するために、よく位相速度と群速度の違いにおいて、位相速度は光速を超えてもよ いからという説明を見かけます。もう一つ、昔読んだ本の中で(本の題名著者失 念)、本来スネルの法則は、各空間における運動量の比が角度の正弦の比に等しいと すべきで、屈折率とは、あくまで運動量の比、あるいは波数の比とすべきで、運動量 の表現が媒質と媒質に入った電磁波、電子波などの相互作用によって異なるので、光 速を越えることはない、というものでした。例えば、光の運動量はp=hν/vですが、電 子波ではp=mvであると言う具合で、vのpに対する依存性が逆になっているので、ドブ ロイ波のような電子波で屈折率が1より小さくても光速を越えることはない云々とい う説明だったと思います。私には今一つ理解出来なかったので、もしかしたら位相速 度が光速を越えるということと、このことは同義かもしれませんが。X線の場合、金 属中においては、kはほとんど0でnが1より小さいという状況で、少し議論は単純か もしれませんが、遠紫外などにおいて、kが無視出来ない状況において、この運動量に よる解釈や位相速度による解釈とその結果必然的に出てくる複素数による屈折角の表 現など、統一して、何とか誰にでも説明出来るように、できれば物理的イメージを簡 単に描ける様に、理解できればと思っている次第です。一見簡単に見えるスネルの法 則ですが、ごく身近にある金属に対して適応するだけで、かなり難しいものになって しまうのが、不思議な気がします。結局私も含めて多くの一般の人が光が粒子性と波 動性の2面性をなかなかイメージ出来ないのと同様に、この問題も簡単にはイメージ できないかもしれませんし、もしかしたら、我々が受けてきた教育や世に出ている本 の中には、実はかなり省略された簡単なケースだけを説明してきて、本質を説明して こなかったために、ちょっとした応用において、すぐに破綻をきたしているのかもし れません。だとしたら、くやしいと思いますし、その為にも先生が主宰なさっている このHPは意義深いものがあると思いますので、今後のご活躍をお祈り申し上げます。 また、この件に関しまして何か解りましたら、何とぞご教授のほど、よろしく御願い 申し上げます。

    Date: Sun, 07 Apr 2002 16:18:18 +0900
    -----------------------------------------------------------------------
    AA: O様、佐藤勝昭です。
     本学物理システム工学科の光エレクトロニクス分野の三沢助教授にO様のメー ルを転送して、検討して頂きました。
     「複素屈折率でスネルの法則を適用したときの複素屈折角の物理的意味」 についての回答です。

    ----------------------------------------------------------
    複素屈折率の問題について、回答がまとまりましたので、お送りします。
    -------- ご質問のポイントを、
    1)複素屈折率でスネルの法則を適用したときの複素屈折角の物理的意味
    2)複素屈折率の実部がn<1となるときの位相速度の物理的意味
    3)例題として、空気からAlに入射角45度で波長500nmの光を入射した時の屈折角
    の3点に集約してみたいと思います。

    1)の回答だけでもかなり長くなりますので、まず1)についてのみお答えします。

    物理で扱う複素量は形式的なものであり、実際の物理量は実数量であるということは、 よく耳にすることと思います。波動の問題では、
    ψ(x,t)=Acos(kx-ωt)
    という波の式を
    ψ(x,t)=Aexp[i(kx-ωt)]
    と書き表しますが、これは「計算が終了した時点で実部をとる」という暗黙の了解に 基づいています。つまり、本当のところは
    ψ(x,t)=Re{Aexp[i(kx-ωt)]}
    と書くべきところをRe{}の部分だけ省略していると考えるべきです。
    では、この波の式はどこからでてくるのかというと、これはマクスウェル方程式から 導出される波動方程式
    ∂2ψ(x,t)/∂x2+k2ψ(x,t)=0
    という波動方程式の解となっています。

    一方、金属中を伝搬する電磁波の場合にマクスウェル方程式を変形していくと、波の 式を複素表示したときには、波数kの部分が複素数を許すとすれば、上の波動方程式 と同じ式の形になります。そこで、形式的な複素屈折率n=n+iκを定義することにな ります。

    ここで重要なのは、計算が終了した時点で実部をとる、という約束を忘れてはいけな いことです。
    波の式
    ψ(x,t)=Aexp[i(kx-ωt)]
    のkをk=nω/cと書き換えて代入すれば、
    ψ(x,t)=Aexp[i(nωx/c-ωt)]
    ここで複素屈折率に置き換えて
    ψ(x,t)=Aexp[i((n+iκ)ωx/c-ωt)]
    さらに変形すると、
    ψ(x,t)=Aexp[-κωx/c+i(nωx/c-ωt)]
    =Aexp[-κωx/c]exp[i(nωx/c-ωt)]
    となりますが、実部をとれば、
    ψ(x,t)=Aexp[-κωx/c]cos[ω(nx/c-t)]
    となります。
    この最後の実部のみが物理的意味があるものであり、その途中で実部と虚部をそれぞ れ議論することは、思わぬ誤解を招くことになります。この点がスネルの法則で複素 屈折角を表面的に捉えてしまう原因となっています。

    最後の式をみると、cos[ω(nx/c-t)]は通常の正弦波ですが、exp[-κωx/c]はxとと もに減衰する関数で、この部分が金属中に電磁波が進入するとともに消失していくこ とを物理的に表しています。

    さて、前置きが長くなりましたが、複素表示のスネルの法則は
    sinθt=(sinθi)/n
    となり、形式的にはn=n+iκと複素数になります。しかし、複素表示はあくまでも波 の式の中で使い、最終的に実部をとらなければなりません。
    そこで、金属中での波の式
    ψ(x,t)=Aexp[i(k・r-ωt)]
    を2次元的に考えましょう。ここで、k,rはベクトルとなります。光がxy平面内で金 属に入射したとし、界面方向をx軸、界面に垂直な方向をy軸ととると、この波の式は ψ(x,t)=Aexp[i(kx・x+ky・y-ωt)]
    と内積の形で書かねばならず、屈折角θtに対して、
    kx=nω/c sinθt, ky=nω/c cosθt
    と成分表示します。この時の金属内での屈折角θtがスネルの法則に従い、形式的に 複素数だとします。

    しかし、重要なのは、「この時点で屈折角の実部と虚部の物理的意味を議論してはい けない」、ということです。

    ここで、スネルの法則から
    kx=(n+iκ)ω/c sinθt=(n+iκ)ω/c (sinθi)/(n+iκ)=ω/c (sinθi)
    ky=(n+iκ)ω/c cosθt=(n+iκ)ω/c √1-sin2θt
    =(n+iκ)ω/c √1-(sinθi)2(n-iκ)2/(n2+κ2)2
    とkxは実数で、kyは複素数になります。
    計算の簡略化のために
    kx=kxr
    ky=kyr+ikyi
    とそれぞれの実部と虚部kxr,(kxi=0),kyr,kyiを使って表してみます。すると、
    波の式は
    ψ(x,t)=Aexp[i(kxr・x+(kyr+ikyi)・y-ωt)]
    =Aexp[i(kxr・x+(kyr+ikyi)・y-ωt)]
    =Aexp[-kyi・y]exp[i(kxr・x+kyr・y-ωt)]
    となり、最終的に実部をとって、
    ψ(x,t)=Aexp[-kyi・y]cos[i(kxr・x+kyr・y-ωt)]
    この最終的に実数となった式で初めて物理的意味を議論することになります。

    ψ(x,t)=Aexp[-kyi・y]cos[i(kxr・x+kyr・y-ωt)]
    この式より、波は金属中をベクトル(kxr,kyr)の方向に進み、振幅は界面に垂直なy方 向に進むにつれ、減衰する、という解釈となります。金属中の電磁波でおもしろいの は、
    「波が界面に斜めに進んでいるとしても、振幅は界面からの深さだけの関数として減 衰する」
    という点です。

    ご質問の答えとしては、屈折角は
    tanθ=kxr/kyr
    から計算すべきで、スネルの法則を単純に適用した複素屈折角から議論してはいけな い、というのが結論となります。

    Date: Wed, 10 Apr 2002 21:03:05 +0900
    ---------------------------------------------------------
    QQ:この度は、私の興味本位の質問に対してご丁寧にフォローいただき、誠にありがとう ございました。
    また、三沢和彦先生におかれましたは、実にご丁寧にご解説いただき、感激いたしま した。
    内容をじっくり読ませていただき、よく理解できました。
    今後はさらにこれをもとに自分なりに式などをフォローして、他の人にもわかりやす く説明できるようにしたいと思います。
    三沢和彦先生にccまたはお礼のメールを差し上げることも考えましたが、直接ではあ りませんでしたので、突然で失礼に当たるかと思い、誠にお手数をおかけして申し訳 ないとは存じ上げますが、何卒よろしくお伝え下さいますよう、お願い申し上げます。 今後ともよろしくお願い申し上げます。

    取り急ぎお礼まで。
    Date: Thu, 11 Apr 2002 11:39:13 +0900
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    85.リンゴはなぜ赤い


    Q: 初めまして、入社して3日目の私なんですが、印刷業界に入社したのですが、こんな 質問をされて、困っています。なぜ、林檎は赤く見えるのでしょうか?佐藤先生教え て頂けないでしょうか?
    突然このようなメールを送って申し訳ありません
    Date: Thu, 4 Apr 2002 22:34:55 +0900
    -------------------------------------------------------------------
    A: kenji様、佐藤勝昭です。
    「なぜ、林檎は赤く見えるのでしょうか」という質問には、2つの意味が含ま れています。
    1つは、化学的な原因をたずねる質問です。
    リンゴの皮には、アントシアン系の色素が含まれています。これは、美しい花 の花びらや紅葉する葉に含まれている色素です。酸と結合すると赤く発色しま す。この色素を透過し、散乱されて出てきた光は、波長600nm-700nmの波長の光 が多く含まれています。 もう1つは、この波長帯の光が「赤く見える」ということは、どういうことかとい う質問です。これは、測色学の分野であって、人間の目の仕組みと結びついて います。人間の視細胞には、赤、緑、青の波長帯に感じる3種類の視細胞しか ありません。この3種類の細胞の刺激の度合いによって色が区別されていま す。リンゴでは赤(610nm-780nm)を感じる細胞のみが刺激されるので赤く見えま す。ミカンから反射・散乱されてくる光は、550-700nmの波長帯の光が多く含ま れています。すると赤に感じる細胞と緑に感じる細胞とが刺激されて、黄色に 感じます。
    印刷の会社では、光のp3原色(赤、緑、青)の代わりに、その補色である色 の3原色(シアン、マゼンタ、黄色)を使います。前者は加色混合で、後者は 減色混合です。マゼンタの色素は、緑を吸収して、青と赤が出てきます。一 方、黄色の色素は青の色素を吸収して赤と緑が現れます。マゼンタと黄色を重 ねると、赤のみが透過して赤く見えます。

    Date: Fri, 5 Apr 2002 01:27:16 +0900
    ---------------------------------------------------------------------

    86.振幅反射率とエネルギー反射率


    Q: 初めてメール致します。
    基礎的な事で恐縮なのですが、なかなか納得できず教えて頂きたいのですが、 標題にあります振幅とエネルギー反射率(透過率)の意味が、理解できません。 できるだけ、簡単に説明していただけないでしょうか。
    宜しく御願い致します。
    Date: Sat, 13 Apr 2002 15:57:47 +0900
    -------------------------------------------------------------------
    A:MK様、佐藤勝昭です。
     光は電磁波です。電界と磁界が直交して伝搬します。
    電界をEとしますと、電磁波のエネルギーPは|E|^2に比例します。
    電界についての複素反射率rを考えると、入射光の電界をEin、反射光の電界をErefと して、
     r=Eref/Ein
    として表されます。一方、エネルギーの反射率Rは, 入射光のエネルギーPin、反射光 のエネルギーPrefとすると、
    R=Pref/Pin=|Eref|^2/|Ein|^2=|r|^2
    と表されます。
    Date: Sat, 13 Apr 2002 18:33:10 +0900
    -------------------------------------------------------------------

    87.斜めギザギザ構造からの発色(反射光)について

    Q: T社のYです。
    HPを拝見し、その内容の高さ・濃さに感激しております。 構造発色に関して、直角三角形の斜辺を上にして並べた構造(⊿⊿⊿:これらを隙間 なく並べた構造です)からの反射光の色は、回折でしょうか?干渉でしょうか? 私の理解の範囲は、以前の御質問にもあったCDの虹色は回折(2dsinθ=nλ)、水 面上の油膜の虹色は干渉(4ndcosθ=mλ、n:屈折率)が分かっている程度です。光 学の素人に、分かりやすく解説頂きたくよろしくお願い致します。
    Date: Fri, 19 Apr 2002 21:46:14 +0900
    --------------------------------------------------------------------
    A: T社Mさん、佐藤勝昭です。  メール有り難うございました。 斜めギザギザ構造の周期が光の波長程度のものは、一般に「回折格子」と呼ばれてお ります。隣り合う構造の滑らかな面で反射された光線の間の干渉で生じる回折によっ て着色します。溝の中心の間隔d、入射角Θi、回折角(強めあって出てくる方向)Θ d、単色光の波長λとすると、nを整数として  d(sinΘi-sinΘd)=nλ の関係により、隣り合う溝から反射した波面間の光路差が波長の整数倍の時に強め あって回折光が出てきます。従って、回折現象には干渉の現象が関与しています。 Date: Sat, 20 Apr 2002 20:22:40 +0900
    ------------------------------------------------------------------
    Q2:佐藤先生、早速にお答え頂き、誠にありがとうございます。

    恐れ入りますが、再度、お教えください。
    「干渉で生じる回折」という表現が分かりにくく、再度ご説明いただけますでしょう か?
    すると、①細溝構造、②積層膜構造、③斜めギザギザ構造からの反射光の着色の現象 は、すべて異なる原理的と考えてよろしいでしょうか? また、これらの回折および干渉光を強くするには材料の特性がどうあるべきでしょう か?
    Date: Sun, 21 Apr 2002 09:57:07 +0900
    ----------------------------------------------------------------
    A2;Y様、佐藤勝昭です。
    基本的には、①細溝構造、②積層膜構造、③斜めギザギザ構造のいずれも光の干渉が 関係しています。②は積層方向に見たとき1次元のファブリペロー共振器で、特定の 波長の光のみを反射または透過します。①③は回折格子で波長に応じた特定の角度方 向に反射する現象です。②の変形として誘電体の円柱を2次元に並べた2次元フォト ニック結晶もあります。特定の波長帯の光の伝搬が抑制される現象です。いずれも光 の波動の振幅が特定の位置で強調される現象で、一般にブラッグ反射と呼ばれる波動 の位相の強めあいが関与する現象です。
    ギザギザなど2次元の構造を作る場合は、方向によって色が変わりますから、玉虫 色(虹彩色iridescence)といわれます。オパールの虹色はコロイド状に微粒子が規則 的に配列したことによって生じる典型的なiridescenceです。2次元フォトニック結晶 という見方もできます。
    Date: Sun, 21 Apr 2002 16:35:48 +0900
    ---------------------------------------------------------------
    Q3:佐藤先生
      またもや早速にご連絡頂きありがとうございます。
      ②の構造では、反射強度R=(n1^2-n2^2)/(n1^2+n2^2):n1,n2は屈折率:の原理的 な関係がよく知られておりますが、①、③には、このような構造を形成している物質 の特性との関係が明らかではないか、種々の要因があって単純に明記できないとのこ とでしょうか?
    何度も申し訳ありません。
    フォトニッククリスタルは私も大変興味があります。
    また、将来ご質問させて頂くかもしれません。
    Date: Sun, 21 Apr 2002 16:56:05 +0900
    ---------------------------------------------------------------
    A3:Y様、佐藤勝昭です。
     回折格子からは高次光が回折しますが、回折光が特定の次数に集中するよう構造を 最適化したものをブレーズ格子といい、最も強い回折が生じる出射角をブレーズ角と いいます。
     回折格子の効率については、その道の専門書があるはずです
    Date: Sun, 21 Apr 2002 23:30:16 +0900
    --------------------------------------------------------------
    AA:佐藤先生
    ご丁寧なご回答いただき、おぼろげながら、全体像がわかったような気がしていま す。ありがとうございました。私の知識のなさで、的を得ていない質問多々あったと 思いますが、即答いただき、先生のこのような啓蒙活動にあらためて、敬意を表しま す。専門書で勉強意欲が湧いてきました.
    Date: Mon, 22 Apr 2002 01:59:47 +0900
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    88.空気と水の質量


    Q1: こんにちは。
    以前質問をさせていただいたAと申します。
    その節は大変ありがとうございました。
    その後も先生のHPを拝見し、楽しみながら勉強させていただいております。

     さて、再び分からない問題が出てきてしまいましたので、よろしければ教えていた だけますでしょうか。
    物質の質量の事です。
    気体や液体が、他の物質に与える影響を調べております。
    ものの本で、空気の質量は28.986gということが分かりましたが、水(淡水)や海水 の質量は何グラムなのでしょうか。
    地上と水中での影響を比率で比較したいので、重さを知りたいのです。
    また、質量の求め方などやさしい計算などあれば、教えていただけますでしょうか。
    いつもかってな質問をさせていただいて申し訳ありませんが、宜しくお願いいたしま す。
    Date: Mon, 22 Apr 2002 03:17:03 +0900
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    A2: A様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。HPをお読み頂き感謝します。
    > ものの本で、空気の質量は28.986gということが分かりましたが、
    > 水(淡水)や海水の質量は何グラムなのでしょうか。
    さてご質問の「質量」とは、単位体積あたりの質量(密度)でしょうか。
    1モルの質量でしょうか。空気の28.89というのは1モル(22.4リットル) の分子量のことです。密度にしますと1.29×10^-3g/cm^3です。空気の 密度は、温度や気圧によって異なります。詳細は、理科年表(丸善)の 「物理/化学」の物性の項にあります。
    水の密度は、もともと体積の単位の定義に使われていたのです。1964年 までは1リットルとは「1気圧において最大密度の温度(約4℃)におけ る純粋な水1kgの体積が1000.028cm^3である」と定義されていたのです。
    従って、細かいことをいわなければ密度は1.00です。しかし、厳密には、 水の密度は温度によって異なります。これも理科年表に出ていますので ご自分でお調べ下さい。「淡水」という言い方は、川の水という意味で しょうか? その場合は、含まれるミネラルなどによって大きく変化す ると思います。同じ理科年表によれば、海水の密度は、1.01-1.05と書 かれており、これは場所によってかなりのばらつきがあるのだと思いま す。
    > 地上と水中での影響を比率で比較したいので、重さを知りたいのです。
    何に対する影響ですか?浮力のことをおっしゃっているのでしょうか? 浮力については、排除した体積に液体の密度をかけただけの力が上向き に働くことが知られています。
    > また、質量の求め方などやさしい計算などあれば、教えていただけま
    >すでしょうか。
    物質の化学式がわかれば、原子量を使って1モルあたりの分子量を求め ることができます。1モルとは22.4リットルです。従って気体の場合は、 分子量を22400cm^3で割れば密度が得られます。固体結晶の場合は、結 晶の単位胞に何分子入っているかを調べ、単位胞の体積を調べて、まず 1分子あたりの体積を計算し、アボガドロ数倍すれば1モルの体積がわ かります。先に求めた分子量を、この体積で割れば単位体積あたりの質 量、すなわち密度が計算できます。(ただし、1気圧、25℃における 値です。)液体や非晶質の物質の密度は、それほど簡単ではありません。 構造のモデルを立ててやれば、計算できると思いますが、モデルに依存 するので、実際には実験的に決めるしかないと思います。
    Date: Tue, 23 Apr 2002 12:35:30 +0900
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    Q2:   早速の質問への回答ありがとうございました。
    実は今回、ものが地上と水中で落下する時受ける抵抗を調べておりました。(地上で は風、水中では対流(海流)などの影響は無視して)
    詳しい事は私には分かりませんが、引力による落下は地上では空気による抵抗を受 け、水中では水による抵抗を受けるわけですよね。
    そのとき落下する同じ物体が受ける抵抗は、地上と水中ではどの位(何倍)違うのか を知りたかったのです。
    先生のご説明を拝見すると、水は空気より1000倍(978倍)の重さがあると解 釈してよろしいのでしょうか。(細かい事は無視したとして)
    また、地上で「A」というものを落下させた時に受ける抵抗を「甲」とした時、 「A」を1000%(978%)に拡大して水中で落下させれば受ける抵抗は「甲」 になるのでしょうか。

     今になって、大学は物理を専攻しておけば良かったと悔やまれます。 いつもご面倒をおかけしてすみません。
    また、私の説明の不備から、ご理解され難いかと思われますがお許しください。
    Date: Wed, 24 Apr 2002 02:27:23 +0900
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    A2: A様、佐藤勝昭です。
     抵抗は、質量だけでなく、流体の粘性が関与する現象です。
    この問題は、流体力学など複雑系の物理の専門家がお答えした方がよい と思いますので、私の学科の複雑系工学講座の先生にこのメールを転送 して考えて貰います。
    Date: Wed, 24 Apr 2002 21:05:41 +0900
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    89.ガラスの高温での結晶化


    Q: ME会社のDAVIDです!
    HPを拝見し、その内容の高さ・濃さに感激しております
    基礎的な事で恐縮なのですが、なかなか納得できず教えて頂きたいのですが 非晶質ガラスを13500℃まで加熱するとき、結晶化が加熱段階で起こりますか? そして、核生成は普通表面で起こりやすいが、そのとき物質の移動は融液と関係が 有りますか?、もし関係があるとしたら、その融液がどこから来ましたか? もう一つは1350℃でできた結晶は冷却する時は相転移などが状態図に従って 起こる可能性がありますか?分かりやすく解説頂きたくよろしくお願い致します。
    Date: Wed, 24 Apr 2002 11:36:52 +0900
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    A: DAVID様、佐藤勝昭です。
     HPをご覧いただき有り難うございます。
    私はガラスの関係の仕事をしていないので、正しくお答えできる自信が ありません。ガラス関係の専門家にお尋ね下さい。
     一般論ですが、非晶質を加熱するとき結晶化が起きることはあります。 たとえば、非晶質合金を空気中で加熱するとき、酸素と反応して結晶が 形成されるようなケースです。また、もともと液体状態が無理やり凍結 して非晶質になったため、熱平衡では存在しない組成となっていたよう な場合にゆっくり昇温したことで平衡状態として相分離や析出が起きた りして、結晶相が現れる様な場合です。これは、DTAなどを測定すれば ピークが生じるのでわかると存じます。この際の結晶相分離は、核発生 と成長という過程をとると思われますが、今のような場合に必ずしも、 表面からとは限らず、反応熱などによって不均一な部分から析出が起き る可能性もあります。そのとき、平衡状態図上は融液と共存ということ もあり得ます。
    一般論でお答えしました。
    Date: Wed, 24 Apr 2002 12:27:19 +0900
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    90.励起子ポラリトン


    Q: こんにちは。筑波大学の小山と申します。
    以前、GaAsの屈折率とキャリア密度の依存性について(特に屈折率の増大に関し て)の質問をしました。その節は、非常に有用な回答を頂き、ありがとうござい ました。おかげさまで実験データの解析もすることができ、今、論文を執筆して おります。本当にありがとうございました。

    今回も宜しくお願い致します。
    半導体(主にGaAs系)を用いた光デバイスとして励起子ポラリトンを用いたレーザ が提案されていると聞きました。興味を持ったので、色々な文献をあたってみた のですが、十分な認識を得るに至りませんでした。そこで、Webにて検索したと ころ、佐藤先生の質問への回答ページに「励起子ポラリトン」の言葉を見つけま した。
    突然のメールで失礼ですが、もし、よろしければ

    ①励起子ポラリトンについて
    ②それを用いたレーザ発振について

    教えて頂けませんでしょうか?また、それに関する文献などありましたら、お教 え下さい。
    お忙しい中、すみませんが、宜しくお願い致します。

    失礼します。

    Date: Sun, 12 May 2002 16:54:37 +0900
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    A: 小山様、佐藤勝昭です。
     メール有り難う。前の回答がお役に立てて嬉しいです。
    ご質問の励起子ポラリトンについてお答えします。
    ポラリトンというのは、ω-k分散のグラフにおいて、光学モードのフォノンの分散曲 線と、光の分散関係(ω=ck)がクロスするときに、相互作用があると、両方の分散曲線 に反発が起き、上の分枝(upper polariton)と下の分枝(lower polariton)の間に分裂 が生じ、ギャップが開くことが知られています。アルカリハライドのレストストラー レン反射はこれによります。光子とフォノンが相互作用しているため、光とイオン分 極がエネルギーのキャッチボールをしている状態になっています。
     励起子ポラリトンは、光とカップルする相手が光学フォノンではなく、励起子であ るという点が、ポラリトンとの違いで、upper polariton, lower polaritonの分散が 分裂する様子は、同じです。光子と励起子(電子分極)がエネルギーのキャッチボール をしている状態です。スタンフォードのサイトに
    山本先生による よい講義録が載っています。
     20年くらい昔に、CuClなどで励起子ポラリトンが見出され、現阪大教授の伊藤正 先生が東北大学におられた頃に、非線形光学を用いた研究論文を出しておられまし た。
     GaAsやGaN系の量子構造に閉じ込められた励起子ポラリトンについては、非線形光学 特性など面白いことが多いのですが、レーザへの応用研究が始まったのはごく最近のことです。 励起子ポラリトンについては、私の友人の1人で東大の五神真教授 gonokami@ap.t.u-tokyo.ac.jpが詳しいので、そちらにおたずね下さい。
    Date: Mon, 13 May 2002 00:59:20 +0900
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    91.金属の熱膨張係数


    Q: こんにちは。B社でプロジェクターの研究・開発をしておりますYと申 します。
    先生のHPを興味深く拝見させていただきました。とても分かり易く書かれていてHPの 維持にもかなりの時間と労力が使われていることに敬服いたしております。

    私も最近仕事を続けていくうちに基本的なことで分からないことが山ほど出てきてそ の都度先生の書かれているようなサイトを見ては基礎知識を増やしている毎日です。 今後ともこのような物性の啓蒙活動をされていかれることを切に希望いたします。

    今回お尋ねしたいのは、金属の熱膨張係数と線膨張係数の違いです。ガラスと同じく らいの熱膨張係数を持つ材料をHPより探していたところ、この2つの表記にあたり、 よく分からなくなってしまいました。

    熱膨張係数は単位(/℃)として書かれているのに対し、線膨張係数については(at 22℃)と書かれていて単位が見当たりません。熱膨張係数というからにはその金属に 熱を加えた場合に体積の膨張する度合いを示すものと考えられますが、線膨張係数と いうのはいったい何を示すのでしょうか?また具体的には直径10mm長さ30mmのニッケ ルに100℃の熱を均一に加えたとすると、その長さの変化はどのように計算すればよ ろしいのでしょうか?

    ちなみに某HPではニッケルの熱膨張係数は0℃~100℃で13.3x10^-6/℃ 線膨張係数 は(x10^-5)22℃ということです。

    お忙しいこととは存じますがよろしくお願いいたします。
    Date: Thu, 16 May 2002 18:33:43 +0900
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    A: Y様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。
     膨張率(膨張係数)についてのご質問ですが、理化学辞典(岩波)によれ ば、「圧力一定のもとで物体が膨張するとき、その比率の温度変化に対 する割合を表す量。普通は体積変化に関する体膨張率α=(dV/dθ)/Vo、 (Vは体積、θは温度、Voは0℃における体積)を意味するが、固体の場 合は、長さの変化に対する線膨張率β=(dl/dθ)/lo,(lは長さ、loは0 ℃における長さ)を用いることもある。・・・(中略)・・膨張率の定義 としては、標準にとる体積や長さを上のようにVo, loとしないで、α= (dV/dθ)/Vのように各温度での体積や長さに対する相対的な比を用いる こともある。」と書かれています。
     新版「物理定数表」(朝倉書店、1969)では、固体の線膨張率として、 β=1/l(dl/dT)とする定義を採用し、Niについて293K(20℃)でのβとし て、12.8×10^-6 deg^-1と記されています。
     ご質問の熱膨張係数(単位deg^-1)は、長さに対する膨張率である「線 熱膨張率」を表しています。
     長さ30mmのNiに100℃だけ温度上昇させたときの伸びdl=β×l×100= 12.8×10^-6(deg^-1)×30(mm)×100(deg)=12.8×3×10^-3(mm)=3.84× 10^-2(mm)となります。直径の方は無視して下さい。
     一方、各温度におけるdl/lo(長さの伸びを0℃における長さで割った もの:無名数)は「線熱膨張」と定義されています。さきほどの線熱膨 張率を用いて、22℃の「線熱膨張」を計算すると、dl/lo=β×22=12.8 ×10^-6(deg^-1)×22(deg)=28.2×10^-5となります。

     ホームページは便利ですが、きちんとしたことは、ご面倒でも図書館 まで足を運んで、きちんとした書店から出ている書物で調べられた方が、 安全だと思います。
    Date: Thu, 16 May 2002 20:00:54 +0900
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    AA:佐藤勝昭教授殿、

    Y@Bです。丁寧なご回答ありがとうございました。
    やはり図書館に自分の足を運んで調べてみることは基本ですね。 ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
    Date: Fri, 17 May 2002 11:05:55 +0900
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    92.カーボン粒子を含むゴムの誘電損失


    Q: 佐藤先生。
    どうもはじめまして。A社のNと申します。
    誘電体材料の現象についてご指導頂きたくメールいたします。
    ゴム中にカーボン粉末を分散させたシートの誘電率虚部(周波数10~80GHz)は、 どのようなメカニズムで誘電損失を生じているのでしょうか。
    参考書等で調べてみると、高い周波数(周波数10~80GHz)では、静電容量に電流が 流れるため、抵抗にも電流が流れると書いてあるのですが、今ひとつピンときません。 また高周波での誘電損失を上げたい場合、材料のどのような物性値、形態を制御すれ ば良いのでしょうか。
    突然のご質問、大変恐縮なのですがご指導いただけないでしょうか。
    よろしくお願いいたします。
    Date: Mon, 20 May 2002 16:09:27 +0900
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    A: A社N様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。
    ゴムは誘電体で、カーボンは伝導体(電気抵抗体)ですから、 カーボン粉末を分散させたゴムシートは、等価的には抵抗Rとコンデン サCが直列につながった回路と見ることができるでしょう。すると、こ の回路のインピーダンスはZ=R+(1/iωC)と書けます。
     もしωが1/RCよりも小さいならばR<<1/iωCとなるのでZ=-i/ωCとな って、ZはCのみで表されます。従って見かけの誘電率は実数部のみとな り損失は無視できます。逆にωが1/RCよりも大きいならばZ=Rとなり、 見かけの誘電率は虚数部のみとなります。
     Rが小さいほど損失は大きくなるのですが、クロスオーバの周波数ω= 1/RCも大きくなるので、高い周波数でしか効果がありません。
     カーボン粒子の抵抗を下げるには、低抵抗金属の添加(グラファイト 構造にはいろんな金属をインターカレートできるので、低抵抗化可能) がよいのではないかと存じます。
     これ以上は、一般論の範囲を超えますので、別途ご相談下さい。
    Date: Mon, 20 May 2002 16:40:39 +0900
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    AA: 佐藤先生
    早速のお返事どうもありがとうございました。
    大変参考になりました。等価回路として考えると納得いきます。
    また今後もご指導のほどよろしくお願いいたします。

    まずはお礼まで。
    Date: Tue, 21 May 2002 08:14:28 +0900
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    93.亜鉛の光吸収係数


    Q: 私はT大学のTと申します。先日、私の先輩が金属の光吸収係数について 佐藤先生に質問メールを差し上げ、回答をいただきました。ありがとうござ います。金属の光吸収係数はSpringerから出ているLandolt-Boernsteinの ハンドブックシリーズがあり、その中のNew SeriesのⅢ-15bという巻のp210 からのOptical properties of pure metals and binary alloysという節の中に 単体の金属は載っているという事はわかりました。しかし私たちの大学の図書 館にその本はなく、コピーを取り寄せることなら出来るようなのです。そのため ページ数を指定しなければならないので、金属、特に亜鉛(Zn)の光吸収係数 が載っている具体的なページ数を教えていただけないでしょうか?文章が長く なってしまい申し訳ありません。どうかよろしくお願いします。
    Date: Mon, 20 May 2002 23:09:46 +0900
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    A: T様、佐藤勝昭です。  LB II-15b p.372-373です。かなり荒っぽいデータしかありません。 今、図書館にいってコピーしてきたので、scannerでjpgとしたものを添 付します。
    p372, p373
    Date: Tue, 21 May 2002 11:08:19 +0900
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    Q2:  昨日メールを差し上げたT大学のTです。Znの定数表 をわざわざ送っていただき、大変ありがとうございます。 感謝しております。ところで、このデータでは5μm~8μm、 特に8μmの光吸収係数を求めることはできるのでしょうか? 8μmのZnの光吸収係数を知りたいのですが、どうしたらよい のでしょうか?昨日に引き続き、お忙しいところ大変恐縮です が、どうかよろしくお願いします。
    Date: Tue, 21 May 2002 13:51:51 +0900
    ---------------------------------------------------------
    A2:T様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。あの表から、読みとれないとは、勉強不 足ですね。λ=8μm(hν=1.2398/λ=0.155eV)における消光係数は、表 からκ=40.7ですから、消光係数と吸収係数の関係式α=2πω/c=4π κ/λを使えば、
     α=4×3.14×40.7/8×10^-6[m]=6.39×10^7[m^-1]
     =6.39×10^5[cm^-1]となります。
    (α=2πω/cについては、たとえば、山田興治、佐藤勝昭他著:機能 材料のための量子工学[講談社1995] p.148をご参照下さい。)
    Date: Wed, 22 May 2002 12:46:38 +0900
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    94.CIS太陽電池におけるCdSの役割


    Q: はじめまして、T大学、工学研究科応用理学専攻N研のEといいます。
    突然で申し訳ないのですが、いくつかお聞きしたいことがありますので、答えて頂けるとうれしいです。

    質問1
     現在、私はCIS太陽電池の界面層であるCdSの研究をおこなっております。 ここで、CdSの役割ですがp‐CIS上に、n‐ZnOを直接製膜しますと両者の 接合がうまくゆかないということで、界面層としてCdSが用いられているわ けですが、このうまくゆかない理由が知りたくて今回メールさせて頂きました。 以下に現在自分が考えております理由を示しておきます。
    1.  CISの表面は非常に凹凸が激しいためこのような表面上にはZnOがうまく   製膜できないのではないだろうか。
    2.  CISのバンドギャップが1.04eV、一方のZnOは3.2eVであり両者のバンド   ギャップの大きさに3倍程度の差があるためバンドの接合がうまくゆか   ないのではないだろうか。
    といったようなことを考えてみたのですが、確かなことがわかりませんので、 是非教えて頂きたいと思います。

    質問2
     CBD法によるCdSのCIS上への製膜が、PVD法で行なった場合よりも良いとされ る理由はいくつかありますが、その中の1つにCBD法によるCdSは高抵抗である ため、太陽電池のシャントパス抵抗を低減できるというものがあります。とこ ろで、シャントパス抵抗とはなんなのでしょうか。またこの抵抗を低減できる から良いとされるのは何故なのでしょうか。ぜひ教えて下さい。

     大変お忙しいとは思いますが以上の件よろしくお願い致します。 それでは、失礼します。
    Date: Wed, 22 May 2002 19:49:25 +0900 (JST)
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    A: E様、佐藤勝昭です。
     私は、最近はCIS太陽電池から遠ざかっているので、最新の解釈がど うなっているのか把握できていないのですが、私の知る範囲でお答えし ます。

    > 質問1
    > 1. CISの表面は非常に凹凸が激しいためこのような表面上にはZnOがうまく
    >   製膜できないのではないだろうか。
    sato> CISがでこぼこであっても、CdSは付着するのですから、それは理 由にはなりません。CISではa=5.78Å、CdSの閃亜鉛鉱構造ではa=5.8Å なので、格子整合に近いのですが、ZnOはウルツ鉱構造で、格子定数はa =3.25、c=5.2ですから格子定数の違いの方が関係しそうですが。
    > 2. CISのバンドギャップが1.04eV、一方のZnOは3.2eVであり両者のバンド
    >   ギャップの大きさに3倍程度の差があるためバンドの接合がうまくゆか
    >   ないのではないだろうか。
    sato> CdSの働きは、当初考えられたn形層としてではなく、障壁(バリ ア)層として働いていると考えられています。CBDでは、CdがCISに拡散 して界面付近がn形層となって、Burried junctionになっているのでは ないかとされています。龍谷大の和田先生はその立場です。ZnOをスパ ッタやMOCVDなどでつけても、Znの拡散が起きないのでn-CISができない ということも考えられます。実際昭和シェル石油では、CBDでZn系の膜 をつけて高い効率を出しています。
    >
    > 質問2
    >  CBD法によるCdSのCIS上への製膜が、PVD法で行なった場合よりも良いとされ
    > る理由はいくつかありますが、その中の1つにCBD法によるCdSは高抵抗である
    > ため、太陽電池のシャントパス抵抗を低減できるというものがあります。とこ
    > ろで、シャントパス抵抗とはなんなのでしょうか。またこの抵抗を低減できる
    > から良いとされるのは何故なのでしょうか。ぜひ教えて下さい。
    >
    シャントというのは並列という意味です。太陽電池では、pn接合の拡 散電位差を用いて電子とホールを分離し、さらにCIS/CdSではCdSバリア 層によって、キャリアの再結合を防いでいますが、CdSが低抵抗だと、 並列に抵抗をつないだのと同じになって、再結合が起きるのでしょう。 詳しくは、太陽電池に関する書物をお読み下さい。

    なお、T大学開発工学部の勝井先生、松下先生のグループはCISをは じめ多元化合物を研究しています。そちらにもお尋ね下さい。
    Date: Wed, 22 May 2002 21:01:07 +0900
    ------------------------------------------------------------
    Q2: T大学、工学研究科 N研のEです。

    わざわざ質問に答えて頂きありがとうございました。もう1つ質問させていただきます。

    質問
     CIS上に直接ZnOが製膜し難いのは格子整合のためだということですが、 単結晶膜ならば格子不整合がデバイスの能力を大きく左右するというこ とがわかるのですが、多結晶膜の場合格子整合だとか結晶構造の違いだと かいったことはどの程度効いてくるのでしょうか。

    度々質問して申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。 それでは、失礼します。
    Date: Wed, 22 May 2002 22:08:25 +0900 (JST)
    -----------------------------------------------------------
    A2: E様、佐藤勝昭です。
     以前にCdS/CISのTEM像を見たことがありますが、CdSはCIS多結晶膜のそれぞれの結 晶粒に対してエピタキシャルに成長していました。下地(基板)が多結晶の場合も、格 子整合がとれる系では、上に載せた膜の結晶は下地と無関係に成長するのではないよ うです。このあたりが、重要な点と思います。
    Date: Thu, 23 May 2002 00:23:43 +0900
    -----------------------------------------------------------
    AA2: T大学、工学研究科 N研のEです。

    度々、質問に答えて頂きありがとうございました。
    今後も質問(疑問が生じる度に)させて頂きたいと 思いますので、よろしくお願い致します。 それでは、失礼します。
    Date: Thu, 23 May 2002 01:53:01 +0900 (JST)
    -----------------------------------------------------------

    95.bilayer-CIS太陽電池における低抵抗CdSの役割


    Q3-1:T大学、N研のEです。
    いつも質問させて頂いております。

    以前、佐藤先生にCIS太陽電池デバイスを作製するにあたりバッファー層の CdSが高抵抗である方が良い理由をお聞きしました。ところで最近、CIS/CdS (高抵抗)/CdS(低抵抗)/ZnOというデバイス構造があることを知りました。 この低抵抗のCdSの役割は何なのでしょうか。もしご存知でしたら教えて下さ い。
    よろしくお願い致します。それでは、失礼します。
    Date: Sat, 6 Jul 2002 00:44:48 +0900 (JST)
    ---------------------------------------------------------------
    A3-1:E様、佐藤勝昭です。
     多分低抵抗CdS/ZnOの界面の性質を改良するためだと思います。
     私はその論文は知りません。現論文を読んでみて理由が書いてないか確かめて下さ い。それでもわからないなら、その論文をお送り下さい。
    Date: Sat, 6 Jul 2002 01:06:05 +0900
    ---------------------------------------------------------------
    Q3-2:Eです。
     前回の質問であるCIS/CdS(高抵抗)/CdS(低抵抗)/透明導電膜という 構造についてですが、この構造は論文にではなく次の本にかかれていました。
      薄膜太陽電池の基礎と応用
      小長井 誠 編著

    この本にCIS太陽電池について書かれている章があり、“bi‐layer”法による 作製の説明をしている部分で図示されていた構造です。この構造をもう少し正確 に記述しますと、
    ガラス/Mo(2μm)/CuリッチCIS(2μm)/InリッチCIS(1μm)/ 高抵抗CdS(0.05μm)/低抵抗CdS/透明導電膜

    となっております。これは、私の推測ですが、CdSは1980~90年前半では主 に真空蒸着法により作製されていたようです。このときのCIS(or CdTe) 太陽電池におけるCdSは窓層として考えれていたようで、特性としては低抵抗、 高透過率のものが求められていたようです。様々な論文をみますと、Inなど をドープしてひたすら低抵抗化しようとしています。したがって、この構造 はバンドギャップの異なる窓層を2層積層していると考えられます。しかし、 このような構造を作ることでどのような利点があるのかわかりません。
    以上の事柄につき何かコメントを頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。
    それでは、失礼します。
    Date: Tue, 9 Jul 2002 23:16:49 +0900 (JST)
    ---------------------------------------------------------
    A3-2: E様、佐藤勝昭です。
     bi-layer法はCISの作製技術としては大変クラシックなもので、CBD- CdSがまだ使われなかった頃のものです。これはBoeing社のMickelsenら が開発した手法です。Cu-rich CISは結晶性がよくgrainが大きいので、 最初はこれを蒸着しますが、ほとんど金属的なので、In-rich層を蒸着 して全体としてほぼstoichiometryに持っていきます。この上に窓層の CdSを蒸着法で作製するのですが、CdとInの相互拡散を防ぐために低温 でCdSを積みます。しかし、これでは高抵抗になるので、Inなどを添加 したCdSを低抵抗化して、透明電極とのマッチングをとっていました。
     1970年代の話ですから、Eさんもあまり深く追求する必要はない と思います。
     それから、何度も言うようですが、私は、最近CISから離れているの で、龍谷大学の和田先生twada@rins.ryukoku.ac.jpなど、この関係の最 近の専門家にメールされることをお勧めします。
    Date: Wed, 10 Jul 2002 19:07:13 +0900
    ---------------------------------------------------------
    Q3-3: Eです。
     前回の質問に対しての解答ありがとうございました。ところで、 佐藤先生は私のことを理論家と思われているのではないでしょうか。 実は私は実験家であります。CdSの作製は現在CBD法が主流でありま すが、CIS太陽電池デバイスの量産を考えた場合間違いなく、オール ドライプロセスでデバイスを作製した方が効率はいいはずです。そ こで、私は敢えて抵抗加熱の真空蒸着法によりCdSを作製しておりま す。しかしどのような実験をすればオリジナルになるのかというこ とで現在頭を悩ませております。さて、今日佐藤先生から頂いた解答 に関しましていくつか疑問点がありますので、質問させて頂きます。
    CdとInの相互拡散を防ぐために低温でCdSを積むと高抵抗になるという ことですが、このとき抵抗値はどの程度の値なのでしょうか。私の経験 ですと例えば室温でガラス基板上にCdSを堆積さますと、抵抗値は室温で 数kΩです。CBD法でもCdSを作製したことがあるのですが、このとき抵 抗値は室温で数百MΩでした。したがいまして、私のCdSに対する認識と しましては数kΩという値は低抵抗であるということになります。また、 低抵抗化して透明電極とのマッチングをとるということですが、何の マッチングをとるのでしょうか。

    お手数ですが、解答の方よろしくお願い致します。
    龍谷大学の和田先生にも前回佐藤先生にさせて頂いた質問をしてみようと 思います。メールアドレスなど教えて頂きありがとうございました。
    それでは、失礼します。
    Date: Wed, 10 Jul 2002 22:08:38 +0900 (JST)
    ---------------------------------------------------------
    A3-3:E様
    E様、佐藤勝昭です。
     Boeing社のCdSについて論文に書いてある以上のことまで私が知っているわけがない でしょう。
     なんでもQ&Aは、特定の問題についてコンサルタントするためのものではなく、 みんなが情報を共有するとよい話題についてお答えするものです。
     まして、私は、あなたの指導教官ではありません。もっとコミットせよというなら N先生を通じてきちんとしたルートで話しを つけて下さい。ネットでのサービスに甘えてはいけません。
    Date: Fri, 12 Jul 2002 00:37:51 +0900
    -------------------------------------------------------------
    Q3-4:Eです。
    度々の質問で佐藤先生の時間をとらせてしまい申し訳ありませんでした。 確かに、私はネットでのサービスに甘えておりました。すいませんでした。
    それでは、失礼します。
    Date: Fri, 12 Jul 2002 02:57:15 +0900 (JST)
    -------------------------------------------------------------
    Q4:Eです。
    前回は本当に申し訳ありませんでした。あのような議論は、よくよく 考えてみれば自分の指導教官とすべきことでした。おいそがしいとこ ろ、申し訳ありませんが今回も質問させて頂きます。
    CIS系にかぎらず、太陽電池にはサブストレート型とスーパーストレート型 の2種類の構造があります。今のところ、CIS系太陽電池においてスーパー ストレート型では高い変換効率は得られていないそうですが、異なったバン ドギャップをもつCIGSを用いてタンデム型の太陽電池を作成するとき、スー パーストレート型は重要な技術になるそうです。それはなぜなのでしょうか。
    お忙しいところ、申し訳ありませんが解答を頂ければ幸いです。
    それでは、失礼します。
    Date: Sun, 14 Jul 2002 16:12:38 +0900 (JST)
    ------------------------------------------------------------
    A4: E様、佐藤勝昭です。
     サブストレート形というのは現行の大部分のCIS電池のように金属基 板の上にCIS/CBD-CdS/透明電極とした構造です。当然のことながら光は 膜側から入れます。これに対してスーパーストレート形は、アモルファ スシリコン太陽電池のように、透明基板側から光を入れるタイプをいい ます。この場合は透明基板側に窓層を置く必要がありますから、透明基 板上に透明電極をつけその上にCBD-CdSをつけ、その上にCIS多結晶をつ けます。タンデム構造だと、このCISの上にバンドギャップの狭い材料 の太陽電池構造を積むことになります。
    サブストレート形でタンデムにしようとすると、狭いバンドギャップ材 料をMo/ガラス等につけ、その上にCISをつけることになります。
    スーパーストレートでも、タンデムのサブストレートでもMo/ガラス以 外の基板にCISを成膜しなければならないので大きな結晶粒が得られな いので、なかなか難しいのです。
    Date: Thu, 18 Jul 2002 19:59:43 +0900
    --------------------------------------------------------------
    AA4:Eです。
    お忙しい中丁寧な解答をありがとうございました。
    それでは、失礼します。
    Date: Thu, 18 Jul 2002 23:17:02 +0900 (JST)
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    96.高熱伝導率材料


    Q: 佐藤勝昭先生、はじめまして。 私は、ウシオ電機勤務の池内満と申します。先生のHPの「物性 なんでもQ&A」を拝見させていただきました。
        連続的にハイパワーで動作するデバイスの場合、廃熱が重要な問題になります。 高い熱伝導率を持つ絶縁体材料として、BeO、c-BN、ダイヤモンド、グラファイト(C 軸に垂直な方向)、SiC、AlN等がありますが、室温付近で、これらの材料がなぜ高い 熱伝導性を示すのかがわかりません。
      Kittelの「固体物理学入門」によると、フォノンによる熱伝導率Kとして
        K = (1/3) C v l
    (C:比熱、v:フォノンの速度、l:フォノンの平均自由行程)を導いています。サファ イアのように、低温における熱伝導率は高くても、高温(室温)では、フォノン散乱 が増加するため、熱伝導率が急激に低下するのは理解できます。なぜ、上記のような 材料は、熱伝導率の低下が少ないのか、不思議です。(CuやAgのように、熱伝導に電 子輸送の寄与が大きいものは納得できるのですが。)
      室温付近で、高い熱伝導率を持った絶縁体材料は一般的にどのようなものなのか、 その材料の作製できる可能性について、ご教授いただければ幸いです。
    Date: Fri, 24 May 2002 09:54:50 -0700
    ------------------------------------------------------------
    A: 池内様、佐藤勝昭です。
     絶縁体材料の熱伝導はフォノンによるものです。一般的には、
           Θ
    κ∝(T^3/vs)∫ τ(ω)(x^4/(e^x-1)^2)dx
           0
    ただし、x=(h/2π)ω/kTです。kはボルツマン定数です。
    ここにT:温度,vs:音速,Θ: デバイ温度、ω:フォノン周波数,τ : 散乱時間 です。(Callaway:Phys. Rev. B (1954) 1046)
    デバイ温度は、関与するフォノンの周波数の上限をνmとするとΘ=hνm/kで与えられ ます。フォノンの周波数は元素の質量のルートに反比例しますから軽い元素ほどνmは大きい のでΘは高くなります。
    散乱の緩和時間τの逆数は散乱の確率を表しますが、これは、欠陥による散乱、ウム クラップ散乱、粒界散乱の和になっています。従ってこれらの散乱が小さいほど緩和 時間τは長くなります。
    BeO、c-BN、ダイヤモンド、グラファイト(C>軸に垂直な方向)、SiC、AlN等はいずれ も比較的軽い元素から構成され、デバイ温度が高いという点は共通でしょう。
    その他には、粒界散乱の少ない単結晶がよいとか、欠陥の少ないものがよいとか、挙 げることができます。
    Date: Sat, 25 May 2002 01:13:25 +0900
    -----------------------------------------------------------
    AA: 佐藤勝昭先生、
      池内満です。 早速、丁寧な御返事、ありがとうございました。
    高熱伝導材料を探すための、考え方の取っ掛かりがわかりました。「デバイ温度が高 く、不純物や欠陥の少ない単結晶の材料」という方向で調べてみます。
    今後とも、ご指導のほど、よろしくお願いします。
    Date: Sat, 25 May 2002 07:59:14 -0700
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    97.水の結合角


    Q: Mです。ご多忙中のところを大変恐縮ですが、佐藤勝昭先生にお教えを賜りたくメールをさせ ていただきました。水(液体)のH-O-Hの結合角度の測定に関しまして素人の立場から質問させてい ただきます。水ビジネスとしてこれまで多くの種類の水、あるいは浄水装置が販売されてい ますが、身体に良いという医療面での利用から、配管や容器のスケール除去にいたるまで、多 岐にわたっております。その中で水の結合角度が104.5度という記述が多く見受けら れますが、その結合角度は本当に正しく、固定した値なのでしょうか。
    下記の点につきまして教えていただきますようお願い致します。
    (1)液体の水の結合角度を実際に測定し、角度を求めた研究者名、測定装置、測定方法
    (2)その結合角度を求めるまでのステップ(計算式を含む)
    (3)温度の影響、あるいは試験装置からの材質成分の溶出等による不純物の影響が もし考えられるとすれば、結合角度にどのような影響を及ぼしていることが考 えられるでしょうか。鉄、亜鉛、銅、・・・等の金属不純物の混入による結合角度への 影響はどのように考えたらよいでしょうか。
    (4)液体としての水の結合角度の測定を日常のルーチン分析としてとらえた場合、 簡単に実施できるものでしょうか。それとも結合角度を測定することは非現実的なこ とでしょうか?
    (5)塩類によるものではなく、浄水装置を通した結果、凝固点(氷点)がマイナス 5度Cという水があったと仮定した場合、その水の結合角度に変化が起きていることは考え られるでしょうか。たとえば結合角度が145度、あるいはそれ以上に大きくなるようなことが起 こり得るでしょうか。
    以上、よろしくご教示をお願い致します。
    Date: Tue, 28 May 2002 15:22:57 +0900
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    A: M様、佐藤勝昭です。  メール有り難うございました。集中講義のため新潟大学に出張していたためお返事 が遅くなり申しわけありません。
     私は、固体物理が専門なので、液体の分子のことはよくわかりません。それで、私 の所属する学科で、化学に詳しい鵜飼先生に尋ねてみました。
    鵜飼先生は、「・・・このようなことにきちんと答えられる人が果しているでしょうか?私 ではお役にはたちませんし、どなたか代わりの人といわれても、すぐに思い当たりま せん。」ということで、一般論としてと断った上、次のようなサジェスチョンを頂き ました。取り急ぎ、それをもって返答とさせて頂きます。
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  • 私のわかる範囲ではぼんやりとしかお答えできませんが、水の結合角の測定は 基本的にM様の目的にはそぐわないように思われます。
    「水の結合角度が104.5度」というのは気相の水の結合角です。多分、水蒸気の 電子線回折で決めたものとおもいます。ポテンシャルエネルギー曲面の最低エネル ギー位置を言っているに過ぎず、3モードのゼロ点振動で揺らいでいます。平均角度 が測定されるだけです。量子化学計算による孤立した水分子の結合角は、かなりよく 再現されています。また、温度が上がれば回転分布があがり、平衡原子配置はずれま す。
    そもそも結合角はOH結合の電子対と、O原子の孤立電子対の反発によるものです。 液体の水の中では水素結合がありますので、不純物が混じる以前に電荷の不均衡、2 つのHO結合(水素結合があれば実質3つのHO結合)の不均衡を起こして結合角は 変わっていると思います。具体的にいくつかは知りませんが多分角度が開くのではな いでしょうか。
    また衝突により絶えずついたり離れたりしていて同一の構造を保っていないと思いま す。水の中での H^+の移動度がものすごく高いのは電子移動して水素結合の位置を変 えるだけで、実質 H^+が輸送できたことになってしまうからです。 またすべての水が中性ではなくて10^-7程度は電離して、H3O^+ とOH^-になって、その まわりに水分子がついてイオンのクラスターを作っています。
    今だと液体の水の角度は放射光による回折やEXAFSなどが利用可能だと思います が、不勉強で成果を知りません。ルーチン分析としては可能だと思いますが。
    「浄水装置を通した結果、凝固点(氷点)がマイナス5度Cという水があったと仮定 した場合、その水の結合角度に変化が起きていることは考えられるでしょうか。たと えば結合角度が145度、あるいはそれ以上に大きくなるようなことが起こり得るで しょうか。」というご質問ですが、これは何かそういったデータをおもちなのでしょ うか?例えば減圧条件で水を凍らせてみたとか、冷却のし方で過冷却状態を作ってし まったとか?どちらにせよ相転移していなければ液体の状態と代わらないと思います が。
    以上正確なところがわからずご質問に対してはまったくお役にたたず申し訳ありま せん。
  • ------------------------------------------------------------------
    ということです。
    他の方にも当たってみますが、ご質問にぴったりの研究者はいないのではないかと存 じます。
    Date: Fri, 31 May 2002 01:21:54 +0900
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    98.太陽電池の本


    Q: こんにちは、T大学工学研究科、N研のEです。
    佐藤先生。
     太陽電池に関する本についてですが、今私は薄膜太陽電池の基礎と応用 と言う本を時間があるときに読んでおります。しかしもっと基礎的なこと 例えば、太陽電池の発電原理などから書いてある本で何か佐藤先生のお勧 めの本がありましたら、ぜひ教えて下さい。
    よろしくお願いいたします。

    それでは、失礼します。

    Date: Sat, 1 Jun 2002 17:47:03 +0900 (JST)
    ----------------------------------------------------------------
    A:E様、佐藤勝昭です。
     太陽電池の基礎に関しては「太陽エネルギー工学」(浜川・桑野編、培風館1994)がおす すめです。ISBN4-563-03603-X C3355です。
    Date: Sun, 2 Jun 2002 16:19:05 +0900
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    99.ランセット磁区


    Q: はじめまして。高岡と申します。

    調べ物をしていたところ佐藤先生のホームページに検索であたり、訪問をさせていただきました。
    なんでもQ&Aというコーナーで質問をさせていただきます。
    磁区観察をするにあたって、ランセット磁区というものがどういうものなのか(B-Hカーブへの影響など) わからないのでよろしかったら教えていただけないでしょうか。

    あと、磁区の特性等でお勧めの文献がありましたらよろしかったら、お願いいたします。

    基本的な質問で大変恐縮で申し訳ありませんが、 よろしかったらおねがいいたします。
    Date: Fri, 31 May 2002 22:13:25 +0900 (JST)
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    A: 高岡様、佐藤勝昭です。
     Lancet磁区というのは、変圧器の磁心に使われる{110}面で<001>の方 向性を持った方向性電磁鋼板(Goss鋼板)において、磁化容易軸が表面か ら約1°以上傾いたとき現れるランセット形(尖頂アーチ形)の補助磁区 のことです。
     詳細は、文献をお読み下さい。
    A. Hubert et al. Z. Angew. Phys. 15 (1965) 521. Y.A.S.Shur et al. Fitz. metal. metalloved., 22 [5] (1966) 702. 詳しくは、専門家、たとえば、新日鐵の新井聡さん にお尋ね下さい。
    Date: Mon, 3 Jun 2002 12:40:29 +0900
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    100.金属結合について


    Q:佐藤勝昭先生、ウシオ電機勤務の池内満です。 先般、高熱伝導材料について御指導 いただき、たいへん、ありがとうございました。
        さて、金属の原子間ポテンシャルを探していて、金属結合とは何なのか、わから なくなってしまいました。 金属原子の原子間ポテンシャルとして
      Φ(r) ∝ (cos(a r))/r^3 (a=4πsqrt(2mEf)/h)
    のような、周期的に変動しながら小さくなる表記がありました。
    (河村行雄著「パソコン分子シミュレーション」 海文堂 1990、p.19、2.10式)
      金属結合について、先生のホームページの「金属についてのQ&A」コーナーで、 次のように説明をされています。
    (11)マイナスの電荷の海にプラスの電荷が浮かんでいて、プラスの電荷が等間隔 に並ぶと静電エネルギーが低くなる。
    (15)...金属結合は、原子の外殻電子のうちs,p電子が結晶全体に広がることによっ て全エネルギーが低下することが原因です。

      イオン結合や共有結合の場合は、原子どうしが近づいたときのクーロン力や交換 力のような、はっきりした物理的イメージが持てるのですが、金属結合については、 イメージがつかめません。 『金属の場合(たとえばNaの場合)、原子どうしが近づ き、3s電子が摂動をうけ、エネルギー的に拡がったバンドを形成し、バンドの下に沈 んだ電子の持つエネルギーと自由空間のエネルギーの差が結合エネルギーになる』と 漠然と思っていました。しかし、この描像では、なぜ「プラスの電荷が等間隔に並ぶ」 のか、わかりません。また、プラスイオンは電子によって静電遮蔽されていてイオン の電子殻どうしが接触しない限り、大きな斥力にはならないのではないでしょうか?
        金属の電子構造にとって重要な「周期的なプラス電荷の配列」の成因と、金属中 のプラスイオンの感じる(原子間)力について、ご指導いただきたく、よろしくお願 いします。
    Date: Wed, 05 Jun 2002 19:16:02 -0700
    ------------------------------------------------------------------
    A:池内様、佐藤勝昭です。
     金属の凝集(Cohesion in metals)は固体物理の古くて新しい問題で、 ほとんどの固体物理学の教科書が扱っています。
    古くは、Zeitz:Modern Theory of Solids (McGraw-Hill, 1940)Section 78 (p.348-)
    近藤淳「金属電子論」(裳華房1983)第4章のp.60付近。
    最近では、M.P.Marder: Condensed Matter Physics (John Wiley&Sons, 2000) Chap.11 Cohesion of Solids, 11.4 Metals (p.272-)にわかり やすく論じてあります。
    凝集エネルギーを自由電子球同士の距離Rsの関数として書くと、電子雲 とイオン殻の古典的なクーロン相互作用、電子の運動エネルギー、交換 エネルギーの和で書かれ、Rs=1.6a0の時に極小になります。これは、実 験結果の値が2-6であるのと比べて小さいのですが、これは電子相関の 効果だと考えられています。
    いずれにせよ、電子同士、電子とイオンのさまざまな相互作用の結果自 由電子球同士がある距離離れて周期的に並ぶとエネルギーが極小になる と考えているのです。
    詳しくは、上記参考書をお読み下さい。
    Date: Wed, 5 Jun 2002 20:57:49 +0900
    -------------------------------------------------------------------
    AA:佐藤勝昭先生、池内満です。
     御多忙の中、早速の御返事、ありがとうございました。 御紹介いただいた本を調べてみます。
      まずは、お礼まで。
    Date: Wed, 05 Jun 2002 21:50:41 -0700
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    101.誘電体中の光の伝搬


    Q:Mです。光の伝搬について1つお聞きしたいことがあるんですけど、光が誘電体の中に入ると 誘電体の反対側からまた光が出てきますよね?つまり光は伝搬してますよね?
    その仕組みというか、どうやって光は伝搬しているかを簡単でいいので教えていただ けると有難いのですが。
    よろしくお願いします。
    Date: Mon, 17 Jun 2002 17:14:14 +0900
    ---------------------------------------------------------------------
    A:M様、佐藤勝昭です。
     よい質問ですね。
     光は、誘電体に入ると、誘電体の中で電気分極を引き起こします。こ のとき、光のエネルギーは失われません。(virtualな励起状態だから です。)誘電体中では、光の場と電気分極の波とがエネルギーのやりと りをしながら進んでいきます。誘電体を出て行くときは、電気分極から エネルギーを返して貰って、純粋な光に戻るのです。
    ------------------------------------------------------------------
     誘電体中を伝わるときは、電気分極の波を引きずりながら進むので、 光の位相速度が遅くなるのです。
    Date: Mon, 17 Jun 2002 18:29:33 +0900
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    102.うつぶせの洗面器


    Q:はじめまして。武井と申します。
    物性なんでもQ&Aを見て来ました。
    場違い、不躾な質問で申し訳ありませんが、 ネット上で調べてみてもわかりませんのでご教授ください。

    昨夜、小学1年生の娘とお風呂に入っていると、 洗面器を逆さにしたまま水中から持ち上げようとして、 「どうしてこんなに重たいの?」と尋ねられました。
    どうして洗面器内の水の量以上に重くなるのでしょうか?
    私は表面張力ではないかと思いましたが、 その線で調べてみても回答は得られませんでした。
    ぜひご教授くださいますようお願い申し上げます。
    (子供にも理解できるように教えていただけると なおさらありがたいです。)

    追伸。
    「リンゴはなぜ赤い」勉強になりました。
    独学で物理を勉強しようとしていた中学生の頃を思い出しました。
    Date: Fri, 28 Jun 2002 21:14:20 +0900
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    A:武井様、佐藤勝昭です。
    メール有り難うございます。
     洗面器の水が外に流れ出ないのであれば、洗面器を底面積S,高さhの円 柱とすると、底面積S,高さhの水柱があるのと同じですから、水柱の重 さだけのはずです。洗面器内の水の量以上に重くなるというのは 引き上げようとするとき、もっと下の水まで引き上げようとするので、 重く感じるのでしょう。もし、深さが無限の洗面器なら、10mまで水を持ち 上げることができます。それ以上あげると天井に真空ができてしまいま す。 Date: Wed, 3 Jul 2002 12:23:19 +0900
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    103.誘電体を含むコンデンサ


    Q: はじめまして。私は工業大学の大学院生でFと申します。
    今回、佐藤先生にお尋ねしたいのは電磁気学の誘電体を含む平行板コンデンサーの話です。
    この分野の本をいろいろと調べてみたのですが、よく理解することができなかったので、 思い切って質問のメールを送ることにしました。

      図のように並行板コンデンサーの間に誘電体が挿入されているときの静電容量を考えたいのですが、これを図(a)のように分けて考えた場合と図(b)のように分けて考えた場合では、それぞれ違う答えが出てしまいます。(a)の考え方の方が正しいそうですが、なぜ(b)の考え方では正しい答えが出ないのでしょうか?
    Date: Sun, 07 Jul 2002 23:07:45 +0900
    --------------------------------------------------------
    A: F様、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。質問に答えます。
    (a)図の左のコンデンサにおいて右のコンデンサと同じ位置(破線)で電位を 計算すると、左のコンデンサではV/2ですが、右のコンデンサではV/(1+εr)と なって、電位差が異なるのです。もし電位が等しければ(b)図のようにしても よいでしょうが、電位が等しくないので、(b)とは等価ではないのです。
    Date: Tue, 09 Jul 2002 01:13:26 +0900
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    QQ: ご返答ありがとうございます。
    こうやって先生の説明を読むと、本当に基本的なことだったなぁと思います。 ちょっと難しく考え過ぎていました…
    本当にありがとうございます。
    Date: Tue, 09 Jul 2002 17:47:52 +0900
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    104.電子レンジによる炭素の加熱


    Q: 佐藤勝昭先生,突然のメールで失礼します。
    同志社女子中高物理科の北野功治と申します。
    電子レンジに炭素の粉をいれて加熱すると,マイクロ波を吸収してたいへん高温にな るのですが,そのメカニズムがよくわからず困っています。ご教示いただけましたら 幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
    Date: Mon, 8 Jul 2002 21:12:21 +0900
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    A: 北野様、佐藤勝昭です。
     電子レンジによる物質の加熱には、誘電損失によるものと、直接の抵 抗損失による分があります。
     水やご飯が加熱されるのは、誘電損失があることが原因です。電子レ ンジではマイクロ波を物質に当てますが、この電磁波によって分子が振 動するときに、電磁波と位相をそろえて振動すれば吸収は起きないので すが、分子振動が電磁波の振動から遅れると、電磁波の吸収が起きます。 これによって物体の加熱がおきます。
     一方、また、物質に電気伝導性があっても、マイクロ波の吸収が起き ます。金属は電気伝導性がよく損失が非常に大きいのですが、抵抗が低 すぎて表面付近でマイクロ波の電界をショートしてしまうので、表面付 近でバチバチと放電してしまいます。炭素は適当な大きさの抵抗をもち マイクロ波が中に侵入するので、その抵抗成分によってマイクロ波が吸 収され加熱されるのです。カーボンに直流電源をつないだとき加熱が起 きるのと同じ原理です。
    Date: Tue, 9 Jul 2002 12:07:08 +0900
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    QQ:佐藤勝昭先生 私の「電子レンジによる炭素の加熱について」のメールに早速ご返答いただきたいへ んありがとうございます。
    抵抗損失という,水の加熱とはまったく違う仕組みで加熱されていたのですね。 水の場合もマイクロ波の振動数で振動することが熱運動になると(勝手に)考えてい ましたので,ずれが加熱の原因という点が特に勉強になりました。
    お忙しいところをわざわざ早速にご返答いただき感動です。どうもありがとうござい ました。
    Date: Tue, 9 Jul 2002 12:33:00 +0900
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    105.物質の温度低下について


    Q: 始めましてN電気工業の林と申します。先生ひとつ教えてください。物質には金属、 非金属などいろいろな物質があると思いますが、外気温が低下していったときにそれ につられて最も早くかつ低下していく物質は何でしょうか?できればイオン化傾向の ように順番をつけて知りたいのですが。つまり変温動物ならぬ変温物質を知りたいの です。特にガラスより早いものかつ低下するものが知りたいです。よろしくお願いし ます。
    Date: Mon, 8 Jul 2002 22:29:22 +0900
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    A: 林様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。
    よく海水は温まりにくく冷めにくいのに対し、陸地は暖まりやすく冷め やすいので、昼と夜で温度差が逆転して、昼と夜では逆方向の風が吹く などという話を聞かれると存じます。これは、陸地の比熱が海水の比熱 より小さいことによります。比熱とは、「単位質量の物質の温度を単位 温度だけ上昇させるのに要する熱量」(岩波:理化学辞典)です。陸地 は砂や岩石でできているとすると、その比熱は0.84ー1.0(Jg^-1K^^1)で す。これに対して水の比熱は4.2、海水は3.93です。従って、陸地は海 より4倍も暖めやすく冷めやすいのです。
     このように暖めやすさ冷めやすさを表すのが比熱です。正しくは定圧 比熱容量というのだそうですが、これが小さいものほど、冷めやすいと いえます。この一覧表は、理科年表(丸善)に掲載されています。たとえ ば、2002年版のp504には様々な物質のモル熱容量が載っています。(こ れはモルあたりですから、グラムあたりにするには、分子量で割る必要 があります。)これによれば、モル熱容量は物質によらずほぼ一定値で 20-50JK^-1mol^-1という値をとります。質量あたりにするとずいぶん差 がでます。
    種々の物質の比熱容量(グラムあたり)は1986年版理科年表のp468に出て います。同じガラスでも、クラウンガラスは0.67, フリントガラスは0. 50, パイレックスは0.78, 石英ガラスは0.84-1.04です。岩石やセラミ ックスで ガラスより小さなものは見あたりません。金属や合金なら比 熱容量の小さなものはいっぱいあります。真鍮は亜鉛の含有量で異なり ますが0.37程度と小さく、ステンレスは0.51程度です。
    化学便覧にも多くの物質の比熱が掲載されているので、参考にしてくだ さい。
    Date: Tue, 9 Jul 2002 11:47:38 +0900
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    106.ハーフメタルについて

    Q: A社のBです。昨日(2002.07.11)の結晶工学スクールでは短い時間にもかかわらず、 バンドダイヤグラムに関する御話をわかりやすくして頂きありがとうございまし た。
    そこで質問があるのですが、お答えできる範囲で御回答して頂けないでしょうか?
    (質問)
    御講演の時に出てきました「ハーフメタル」についてよくわかっていません。 御話の中で「TMR、スピン偏極で注目されている…」とおっしゃっていました。 単語からスピントロニクスに関することだと思います。

    講演のときのOHPの図だとdownスピンが占有するバンドは半導体的であり、 upスピンが占有するバンドは金属的である物質=ハーフメタル という認識で正しいのでしょうか? (図面からの想像)

    もし上記の私の解釈が正しければなぜupスピンとdownスピンでバンドが違うのか?

    講演ではハーフメタルとしてPtMnSbを例示されていました。
    Mn(3d電子系)はHund則によると5重縮退しており、軌道量子数l=3からdownスピン、 次にl=2にdownスピン、…と先にdownスピンが占有するので、upスピンとdownスピン の電子の占有率が異なるのでそれがバンドに効いてきている(?)のでしょうか?

    またもし上記の私の認識が正しい場合は、PtMnSbのつくる結晶場によって、5重縮退 が分裂する(?)可能性はないのでしょうか?(その場合、downスピンとupスピンはどの ように占有されるのでしょうか?)

    以上、生半可な今までの知識(特にHund則)で自分なりの考えを記載しましたが、 御回答よろしく御願い致します。
    Date: Fri, 12 Jul 2002 15:41:40 +0900
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    A: B様、佐藤勝昭です。
     大学の自己評価作業と、21世紀COE(いわゆるトップ30)の作 業がかち合っていて、お返事が遅くなりました。
    ご質問の件簡単にお答えします。
    > (質問)
    > 御講演の時に出てきました「ハーフメタル」についてよくわかっていません。
    > 御話の中で「TMR、スピン偏極で注目されている…」とおっしゃっていました。 単語からスピントロニクスに関することだと思います。
    >
    > 講演のときのOHPの図だとdownスピンが占有するバンドは半導体的であり、 upスピンが占有するバンドは金属的である物質=ハーフメタル という認識で正しいのでしょうか? (図面からの想像)

    sato> その認識で結構です。

    > もし上記の私の解釈が正しければなぜupスピンとdownスピンでバンドが違うのか?

    sato> 講演でもお話ししたように、Feにおいても、d-電子帯のうちup- spinバンドとdown-spinバンドは交換相互作用のために分裂しています が、分裂が十分でないため、up-spinバンドとdown-spinバンドの重なり が生じています。もし、up-spinバンドがそのままで、down-spinバンド だけがずっと高いエネルギー位置に移動したなら、ハーフメタルになる でしょう。実際のハーフメタルのバンド構造はもっと複雑なので、そん なに単純ではありませんが・・・。

    > 講演ではハーフメタルとしてPtMnSbを例示されていました。
    > Mn(3d電子系)はHund則によると5重縮退しており、軌道量子数l=3からdownスピン、 次にl=2にdownスピン、…と先にdownスピンが占有するので、upスピンとdownスピン の電子の占有率が異なるのでそれがバンドに効いてきている(?)のでしょうか?

    sato> PtMnSbにおけるMnのd電子軌道はPtやSbの電子と混成しています からそんなに単純ではありません。Mnのモーメントは4μBですからMn3+ になっています。バンド計算でハーフメタル性を指摘したのはオランダ のde Grootら(JAP 55, 2151 ('84))です。計算したらそうなったという だけで、詳細な解釈はありません。その後多くの人が計算を手がけてい ます。H.Ebertの相対性理論を取り入れた理論的考察(JAP 69, 4627 (1991))によればMn3dバンドの交換分裂は3eVもあり、down-spinの3dバ ンドは、フェルミ準位より1eV上にあります。V.N.Antonovによる最新の バンド計算では、Mn のdown spin3d帯とSbのdown spin 5s, 5dが混成し てdown spin側の伝導帯の底を作っています。down spinの価電子帯の頂 はPtの6p, Mnの4p, Sbの5pが混成して形作っています。一方、フェルミ 準位付近のup spinのバンドは主としてMnのp-d混成軌道にPtやSbのpが 加わったものとなっています。

    > またもし上記の私の認識が正しい場合は、PtMnSbのつくる結晶場によって、 5重縮退が分裂する(?)可能性はないのでしょうか?(その場合、downスピンと upスピンはどのように占有されるのでしょうか?)

    sato>PtMnSbのような系では、局在したMnイオンのイメージで結晶場を 考えることができません。なぜなら、多数の自由電子の存在のために、 核からのクーロン力や、Hund則に効く電子間のクーロン相互作用は遮蔽 を受け、もとの形ではあり得ないのです。また、混成のために、原子の 軌道角運動量はよい量子数ではなくなっています。従って、ご質問のよ うな局在モデルでなく、結晶全体に広がったバンド電子のモデルの方が、 この系をよく説明できるのです。
    Date: Thu, 18 Jul 2002 19:29:46 +0900
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    AA: 佐藤勝昭 様
    御世話になります。A社のBです。
    メール拝読致しました。
    御多忙な業務の中、御返答して頂き、ありがとうございました。 教えて頂きました文献で勉強させていただきます。

    従来の半導体(独立した一電子の近似モデル)と違い、 このようなPtMnSbなどの物質は局在電子と遍歴電子の相関がある多電子のモデルな ので難しいのですね…。

    また、勉強してわからない事があるとは思います。 そのときはまた御質問などさせていただく事があると思いますが、よろしく御願い 致します。
    Date: Fri, 19 Jul 2002 10:46:36 +0900
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    107.X線消滅則について


    Q: 同志社大学機能材料工学科のSC-219です。  ホームページを見て、初めて質問メールをします。x線回折における消滅則に ついて、各構造について出来たら教えてください。
    Date: Fri, 12 Jul 2002 18:38:51 +0900
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    A: SC-219様、佐藤勝昭です。  超多忙のため、お返事が遅くなりました。
     X線回折の消滅則については、Kittelの第2章に詳しく説明してあり ますから、それを読んでください。
    体心立方格子では、指数(v1,v2,v3)に対してv1+v2+v3=奇数なら消滅 面心立方格子では、3つとも奇数か、3つとも偶数でないと消滅 すべての構造については、International Table of Crystallographyと いう書物を参考にしてください。
    Date: Thu, 18 Jul 2002 19:45:12 +0900
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    108.光学定数から薄膜の反射率を計算できますか?


    Date: Mon, 29 Jul 2002 17:19:55 +0900
    Q: はじめまして。N社Sと申します。

    先生のHPを拝見させて頂き、光学定数に関する質問等を見つけました。かねてか ら疑問であった点について、ご教授願いませんでしょうか?

    表題にも書きましたが、薄膜(厚さd、約50nm)の光学定数n、kの各波長 においての測定値が判っている場合、その値から、単色光が垂直入射したときの 薄膜からの反射率を計算することが出来ますでしょうか?それとも何か不足の ファクターがありますか? 計算式が分かると有り難いのですが。

    よろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 29 Jul 2002 22:03:51 +0900
    A: S様、佐藤勝昭です。
     薄膜の吸収や反射には、多重反射と干渉が関与してきます。
    薄膜の場合、空気と基板の界面、基板との界面という2つの界面が関与してい ます。(もちろん基板の裏からの反射も多少関係ありますが、通常は無視しま す。)
    空気(屈折率1とします)と薄膜の界面での電界の反射率r0, 電界の透過率t0と しますと、
    r0=(1-n-ik)/(1+n+ik), t0=1-r0
    膜から空気への反射率は-r0、透過率は1+r0です。
    一方、薄膜と基板(屈折率ns)の電界の反射率r1, 電界の透過率t1については、
    r1=(n+ik-ns)/(n+ik+ns), t1=1-r1
    となります。
    従って、反射の電界Erは、(空気との界面での反射光)+(基板との界面での反射光 が空気との界面を透過した光)+(基板での反射光が空気との界面で反射され、 基板で反射し空気との界面を透過した光)+・・・・となります。薄膜の中を通過 するとき、光は位相の変化を受けるので、それも考慮すると、
    Er=E0r0+E0(1-r02)r1exp(i2φ){1-r1r0exp(i2φ)+(-r1r0)2exp(i4φ)+・・}
    =E0r0+E0(1-r02)r1exp(i2φ)/{1+r1r0exp(i2φ)}
    =E0{r0+r1exp(i2φ)}/{1+r1r0exp(i2φ)}
    と表せます。ここにφ=2π(n+ik)d/λは薄膜の中を光が進むときの位相の変化 です。(これは複素数です)従って
    電界の反射率rは、
    r=Er/E0={r0+r1exp(i2φ)}/{1+r1r0exp(i2φ)}
    で表されますから、光強度の反射率Rは
    R=|r|2=r*r (r*はrの共役複素数)
    によって計算できます。
    このように、反射率を計算するには薄膜の光学定数だけでなく、基板の屈折率 も必要です。
     藤原史郎編「光学薄膜」(共立出版1985初版)p.12-18が参考になります。
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    Q2: Date: Tue, 30 Jul 2002 13:52:25 +0900
    N社Sです。
    早速のご回答ありがとうございます。このような質問に迅速に、また、わざわざ 出典までお調べ頂きまして感激しております。どうもありがとうございました。

    具体的な事例を申しますと、シリコンウエハ(d=750μm)上のシリコン酸 化膜(d=50nm)からの反射率を求めたかったのです。そのときに、シリコ ン酸化膜を透過した光が、シリコン表面に到達し、そこからから反射するとした 場合の反射率の割合を計算したかったのです。
    この場合、シリコン酸化膜からの反射率と透過率を計算すれば、シリコン基板の 屈折率も必要でしょうか?

    再三ですが、よろしくお願いいたします。

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    A2:Date: Tue, 30 Jul 2002 14:14:14 +0900
    S様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございます。シリコンの酸化膜SiO2(あるいはSiOx)は 石英ガラスですから、紫外光まで透明です。従って、50nmのSiO2なら多 重反射を考えなければ全く無意味です。基板面の反射にはSiの光学定数 が必要です。この場合、n, kともに必要です。私が書いた式においてns =n2+ik2として下さい。シリコンおよびSiO2の光学定数の正確な値 はPalikのHandbook of Optical Constants of Solids (Academic, 1985) に載っていますからそれを使ってください。SiO2(amorphous)はp749, Siはp552です。
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    Q3:Date: Tue, 30 Jul 2002 16:33:24 +0900
    たびたびすみません。N社Sです。
    本当にありがとうございます。
    頂いた式は理解できました。

    ついでといってはなんですが、これに関してあと2点ほど質問があります。
    たいへん初歩的な質問で恥ずかしいのですが、複素数の計算方法です。光学定数 n-ikをどうやって計算するかです。エクセルで複素数を計算するコマンド等 ありましたか?関数電卓で、複素数計算可能なものあるのですが、今手元にない んです。
    あと、ご紹介頂いたHandbook of Optical Constants of Solidsですが、 このデータブックは、光学定数以外にどのようなデータがあるのでしょ うか。
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    A3:Date: Tue, 30 Jul 2002 19:46:16 +0900
    S様、佐藤勝昭です。
     私は、電界の式にexp(-iωt)の形を採用しているので複素屈折率とし てn+ikを採用していますが、結果は変わりません。
     エクセルでは計算できませんが(注02.08.19:間違い
    エクセルで計算できるそうです。) Mathematicaなら式の通り、あるいはFortranでも複素数が使えます。
     複素数がいやなら、面倒ですが、実数部と虚数部に分けて計算してください。
    なお、Handbook of Optical Constants of Solidsには、光子エネルギー と屈折率、消光係数の関係が出ています。
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    109.コメント「エクセルで薄膜の反射率が計算できる」


    Date: Sun, 18 Aug 2002 16:02:53 +0900
    C1: 大塚電子の大川内です。
    先生のHPを見ておりましたら、2002.07.29にN社Sさんの「光学定数から薄 膜の反射率を計算できるか」という ご質問の中に、「エクセルで計算は可能か?」と いう問いがございました。
    私の手元にあるMicrosoft Excel 2000には、いくつかの複素数関数が用意されてお り、これらを使うことにより結構短時間に先生の式を用いて反射率の計算を行う事が できましたので、エクセルシートを
    添付書類でお送りさせて頂きます。Windows上でご 覧頂けます。

    SiO2、Siの屈折率消衰係数nkはHandbook of Optical Constants of Solidsから内挿し て、各波長のn, kを求めました。
    先生がHPにお書きになっていらっしゃるのは垂直入射の反射率の式で、せっかく計算 するなら、各入射角に対応した計算をしようと思いましたが、P成分とS成分をそれぞ れ計算するのが面倒になり、結局垂直入射(0度入射)のみで計算するようにしました。 膜厚値を入力すると、そのSiO2膜厚値の反射率が計算されます。

    エクセルで計算すると。比較短時間で計算できますし、オーバーヘッドも少なくて良 いのですが、複素数の四則演算にも関数を使わなければならないので、式が煩雑にな りやすく、これ以上複雑な反射率の計算にはやはりC++やFortranなどを使った方が、 良いと思った次第です。

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    Date: Mon, 19 Aug 2002 02:05:50 +0900
    CC: 大川内様、佐藤勝昭です。
     エクセルで複素関数が使えることをお教え頂きありがとうございました。
    この情報をHPに貼り付けることをお許しいただけるでしょうか。
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    Date: Mon, 19 Aug 2002 09:54:41 +0900
    CA: このようなものでよろしければ、どうぞお使いください。
    これからも、よろしく御願い申し上げます。
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    (添付のExcel file の著作権は大塚電子㈱大川内様にあります。また、佐藤は計算式をチェック していませんので、結果について責任を持てません。ご利用される場合は、各自チェック 願います。)
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    110.North Coast EO-817 Detector


    Date: Thu, 1 Aug 2002 16:44:51 +0200
    Q: Dear Prof. Sato,
    I am looking for technical information on a liquid nitrogen-cooled Ge detector (North Coast 817L). Indeed, a laboratory will lend one to our team but unfortunately none in their lab is able to give some accurate technical specifications (sensitivity, time resolution) because they have lost the notice and because they do not have use it since a long time.
    A research made on internet lead me to your web site. In the list of your equipment I have seen that you have excately the same detector: Please, could you give some informations on the performance of this detector ? If you have a notice (in english) , would it be possible for you to send me a copy ?
    Many Thanks in advance for your help.
    Best regards,
    Olivier Guillois
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    Date: Tue, 6 Aug 2002 16:51:00 +0900
    A: Dear Dr. Guillois
    I looked for manuals for EO817 Ge-detector and finally found an old copy of the manual.
    There were three types EO-817, EO-817L and EO-817P, NEP
    corresponding to 2x10-14 WHz-1/2, 1x10^-15 WHz-1/2, and 2x10-14 WHz-1/2, respectively. The last type is characterized with its fast response; 200-300ns. I was wrong to have written to you that our detector is 817S. In reality the type that I used in the time response measurement was EO-817P.

    The detector needs a power supply. The specification of model 823A Bias supply is as follows:
    1. Bias voltage range: 0-500V in 50V steps
    2. Bias polarity: negative
    3. Bias volyage variation with line voltage: plus-minus 1% change for plus-minus 10% line voltage change
    4. Short circuit curent: 50 microamperes
    5. Internal resistance: 20 megohms
    6. Preamplifier power: plus-minus 12V; each at 10mA
    7. regulation: 0.05% line and load
    8. ripple: 1mV RMS
    9. Input voltage: 105-125VAC, 60Hz or 210-250VAC, 50Hz; 5W

    The specification of EO-817 detector is as follows:
    1. Operating temp.: 77K
    2. Operating bias: -300V typical
    3. Detector area: 0.25cm2
    4. NEP(1.4, 100, 1): 2x10-14 WHz-1/2 (1x10-15 for 817L)
    5. Responsivity: 4x108 V/W (5x109 for 817L)
    6. Time constants: Two switch selectable;
      approx. 0.1-0.2 (L) and 0.5-1.0 msec (H),
      (approx. 1-2 and 5-10 msec for 817L)
    7. Window: sapphire
    8. Operating position: Vertical or horizontal

    According to the manual supplied by Japanese agency, the time response depends on the response of the preamplifier installed in the detector and is different from sample to sample.
    Therefore the time response was measured by one of my student and found that the EO-817P detector has a serious oscillating response around 0.2 mirosecond as shown in the
    attached file.
    The detector EO-817P became out of order by accident and I bought EO-817L, for which I never have tried to measure the time response.

    The spectral Response available is as attached. No details can be resolved from the figure. My feeling is that the edge position around 1800nm wavelength is slightly enhanced.
    You'd better calibrate the spectral response using a calibrated standard halogen lamp.

    Best regards,
    Katsuaki
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    Date: Tue, 6 Aug 2002 09:56:00 +0200
    AA:Dear Prof. Sato,
    Many thanks for your answerand the given informations. That's very kind of you, and no doubt it will help us. . I will read it more in details but I can already say that these are the informations I needed concerning the time response.

    Best regards,
    Olivier Guillois.
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    111.ウイレマイトの誘電率


    Date: Wed, 7 Aug 2002 14:28:05 +0900
    Q: N社のUと申します。
    ウイレマイト(Zn2SiO4)の誘電率を調べていてこのサイトにたどり着きました。 屈折率、比重、硬度は出てくるのですが、誘電率がなかなかありません。
    ウイレマイトの誘電率が記載されている文献がありましたらご紹介していただけないでしょうか。 屈折率から誘電率を計算できると思いますが、知りたいのは1MHz付近の誘電率です。
    勝手な質問で申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。
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    Date: Wed, 7 Aug 2002 16:07:28 +0900
    A: U様
    メール有り難うございます。たしかに、alfa-Zn2SiO4(Willemite)の格子 定数、屈折率の異方性のデータは、ne=1.715, no=1.695 (Na D-line)として Landolt BoernsteinIII/d1に載っていますが、誘電率のデータはないですね。
    もしイオン分極による誘電率の寄与があまり大きくなければ、ε=n2とし て2.94程度ではないかと存じます。
    この物質はMnを添加することにより緑色蛍光材料としてPDPなどに使われていますので、 蛍光体屋さんに聞けばわかるのではないかと思い、蛍光体の権威であるT大学のY先生に伺いましたが、 ご存じないということでした。必要なら、ご自分で測定されるほかないのではないでしょうか。
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    Date: Wed, 7 Aug 2002 16:38:06 +0900
    AA: 佐藤先生
    早速のご回答、ありがとうございます。
    また、別の先生にも聞いていただき大変感謝しております。
    実はウイレマイトを合成して測定を行なっていますが、客観的なデータとして文献値があればと思い調べています。
    測定の方は、イオン分極による寄与がかなり大きくなっています。
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    112.ウィレマイトの誘電率がわかりました


    Date: Tue, 13 Aug 2002 11:06:05 +0900
    佐藤先生
    ウイレマイトの誘電率の件ではいろいろとご指導いただき大変感謝しております。
    新たな情報を入手することができましたので、お知らせします。

    東京大学工学部環境海洋工学専攻 「技術官ネットワーク」 のサイトにもメールで質問をだしてまして、回答をいただきました。以下に その内容をお送りします。(掲示板のQ253に対する回答)

     ウイレマイトは日本語では亜鉛結晶釉と言って、陶器の釉薬の1つとして、 用いられる物で、白や水色、橙色などがあります。結晶はかなり大きく、 直径4~5cmにもなるものもあります。名前の通り、酸化亜鉛(亜鉛華)が 多く含まれます。ウイレマイトの研究は日本では陶器を作っている一部の 研究者しか研究していないため、参考文献が少ないのです。これに対し、 アメリカではかなり研究されているようです。コロンビア大学の研究施設 としてErathscapeという組織があってそこで物性値などをインターネットで 公開していました。それによると以下の表のようになっていました。(森田)
      誘電率
    理論値(計算値) 8.62~13.78
    実験値      8.08~14.35

    参考文献:EarthscapeのHP
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    Date: Tue, 13 Aug 2002 12:57:55 +0900
    U様、佐藤勝昭です。
     重要な情報をお教え頂き有り難うございました。
    さっそく紹介させて頂きます。
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    113.なぜ、コイルの中に磁石を入れるだけで、電気が生じるのですか


    Date: Sun, 18 Aug 2002 16:43:52 +0900
    Q: どこの、ページを見ても調べることができなっかったので このページに、アクセスしました。
    僕は、中学生です。最近、電磁誘導について習いましたが 疑問に思ったことがあったので質問します。
    電磁誘導の理屈はわかったのですが、 なぜ、コイルの中に磁石を入れるだけで、電気が生じるのですか。その理由を教えて 下さい。
    なるべく、早く教えてもらえると幸いです。
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    Date: Mon, 19 Aug 2002 02:02:22 +0900
    A: 伊藤君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。コイルに電流を流すと磁界が発生することは知っていますね。
    逆にコイルに静磁界を加えた時はどうでしょう?このときはコイルに電気は生じませ ん。
    しかし、磁界を変化させたときはどうでしょう。するとコイルには、磁界の変化 をさまたげようとして、逆向きの磁界を発生させる方向に電気が流れるのです。
    この 電気は磁界の変化が終わるとなくなってしまいます。これが、電磁誘導の仕組みなの です。
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    114.メタルの上に材料を積層したときの反射率の求め方


    Date: Thu, 22 Aug 2002 14:28:18 +0900
    Q1: はじめまして。M社のYと申します。
    先生に教えて頂きたいことがあります。

    フレネル係数を用いて、メタル上に誘電体を積層した時の反射率(周波数帯:18~40 GHz)を求めています。 現在、メタルの誘電率を0とおいて、各界面のフレネル係数を求め、計算してみました。
    この結果、積層している誘電体の誘電率・誘電損失をいろいろと変化させても、反射率が全て 1になってしまい、誘電率の違いによる反射率の変化が見られません。
    これは、メタルの誘電率が間違っているためでしょうか?
    どのようなメタルの誘電率で計算すればよいか教えて頂きたいと思っています。

    よろしくお願いします。
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    Date: Thu, 22 Aug 2002 18:54:28 +0900
    A1: Y様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。
    光学定数から反射率が計算できますかの質問の回答に述べたように 誘電体の第1界面の振幅反射率r0、基板との第2界面での反射率r1とすると、 誘電体/基板という構造の振幅反射率は
    r=Er/E0={r0+r1exp(i2φ)}/{1+r1r0exp(i2φ)}
    となります。
    従ってもし、基板の誘電率が0、従って屈折率が0であれば、r1=r1=(n+ik-ns)/(n+ik+ns)=(n+ik)/(n+ik)=1
    また、誘電体の消光係数kを0とすると、r0=(1-n)/(1+n):実数
    従って、r={r0+exp(i2φ)}/{1+r0exp(i2φ)}
    エネルギーの反射率RはR=r*r={r02+2r0cos2φ+1}/{1+r02+2r0cos2φ}=1
    となり、確かにφ=2π(n+ik)d/λの如何に関わらず反射率は1です。
    しかし、メタルの誘電率はゼロではありません。自由電子プラズマ振動を考慮したDrudeの法則により、マイナスの大きな値になっています。たとえば、銀の0.005eV(=1.2THz)における誘電率の実数部ε'は-193000, 虚数部ε"は731000、屈折率n=531, 消光係数κ=689となっています。(Landolt Bornstein III-15b) Drudeの式に従えば、周波数が低いともっと大きな負の値になっているはずです。その値を用いて計算し直して下さい。プラズマ周波数はメタルによって異なりますから、メタルとして何を用いたのかが重要です。
    ------------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 23 Aug 2002 10:42:28 +0900
    Q2: 佐藤勝昭先生

    早速、丁寧な御返事ありがとうございます.
    不明な点があったので、それについて先生に教えて頂きたいと思います。

    ①銀の0.005eV(=1.2THz)における誘電率の実数部ε'は-193000, 虚数部ε"は 731000、屈折率n=531, 消光係数κ=689となっていますが、n=√ε で屈折率 を求めると、値が異なるのですが、この場合は、どのようにして屈折率は求め るのですか?n=√ε では求められないのですか?

    お忙しいところすみませんが、よろしくお願いします。
    以上
    ---------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 23 Aug 2002 12:49:47 +0900

    A2: Y様、佐藤勝昭です。
     ご質問にお答えします。
    n=√εの式は、複素数についても成り立ちます。
    n+ik=√(ε'+iε")として、両辺を二乗し、実数部と虚数部を比較すれ ば、ε'=n2-k2、ε"=2nkが得られます。
    逆に解けば、
    n2={ε'+√(ε'2+ε"2)}/2, k2={-ε'+√(ε'2+ε"2)}/2
    が得られますから、それぞれのルートをとれば、n, kが求められます。
     山田・佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社)p148参照下さ い。
    ------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 23 Aug 2002 11:11:10 +0900
    AA: 佐藤勝昭先生
    早速、丁寧な御返事ありがとうございます。 この与えられた式を用いて、計算してみます。
    また、勉強してわからない事があるとは思い ます。そのときはまた御質問などさせていた だく事があると思いますが、よろしく御願い致 します。
    -----------------------------------------------------------------

    115.電子の性質について教えてください。


    Date: Sun, 01 Sep 2002 21:38:46 +0900
    Q: 私は、現在水質分析の仕事をしているNといいます。最近電子の性質について 疑問に思ったことがあるので質問させていただきます。
    電気(電子)が流れて電球や電化製品が動くと思うのですが 最近、「電子は非常に安定で質量や特性が変わっているわけではなく 電子が通過しただけで電球がついたりする。」と言う事を聞いたのですが 電球や電化製品を動かしたエネルギーはどこから生まれるのですか?
    それは、電子が流れたときの摩擦か何かでエネルギーが生まれるのでしょうか? だとするとその電子を動かしてるエネルギーはどこから来るのですか? 非常に基礎的な事だとは思いますが、どうか教えてください。

    まことに勝手なこととは思うのですが、電子の物性について研究している大学で おすすめの所などありましたら教えていただければと思います。
    -----------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 2 Sep 2002 02:00:12 +0900
    A: N様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。電子についてのご質問にお応えします。
    あなたが読まれた文章の「電子は非常に安定で質量や特性が変わっているわけで はなく電子が通過しただけで電球がついたりする。」というのは、「電子自身が壊れ て仕事をするのではなく、電子のもつ運動エネルギーによって仕事をする」というこ とを表しているに過ぎません。
     電子が動くと電流になります。電子を「動かす」には電子に運動エネルギーを与え なければなりません。Nさんもよくご存じ のように、電球のフィラメントのような導体に電流を流すには、電圧を加えなければ なりません。電球に加えた電圧Vと流れた電流Iの積IVが電力Pです。電力とは、毎秒消 費されるエネルギーを表しています。このことは、電球をともすために加えた電圧の 供給源である電池や発電所からP=IVだけのエネルギーが毎秒供給されているのです。  つまり、電子を動かすために電源からエネルギーを供給していて、電球ではそのエ ネルギーがフィラメントにおいて消費され、熱に変換され、「黒体輻射」の原理で光 に変換されます。中野さんが「電子が流れたときの摩擦か何かでエネルギーが生まれ る」と書いておられますが、電子が流れるときに導体を構成する原子の振動によって 摩擦が生じ、電子のもっていた運動エネルギーを消費しているのです。
    上に述べたような電子の基本的な性質は、高校の教科書に載っています。
     導体だけでなく、半導体中の電子の動きや物性を理解するには、「電磁気学」の知 識が必要です。さらに詳細に理解するには、「量子力学」の知識が必要です。  電子について学ぶには、どこの大学でも、理学部物理学科、工学部電気電子工学 科、工学部応用物理学科などで学ぶことができます。もちろん私の所属する「工学部 物理システム工学科」でも、もちろん学ぶことができます。
     しかし、大学の物理コースでは、何に役立つかわからない基礎から出発して、徐々 に専門に近づくようにカリキュラムが編成されていますから、知りたいことに到達す るまで、3年もかかりまどろっこしいし、結局、試験に通るためだけに勉強するよう になってしまいがちです。わざわざ大学に行かなくても、本屋さんで、量子力学、電 子物性の関係の教科書を買ってきて、独学で勉強されればよいと思います。大学に 行っても、自分で勉強する気持ちにならない限り、教授がすべてのことをやさしく教 えてくれるとは限りません。自分で学ぶ姿勢さえあれば、独学で十分です。わからな いところが出てきたら、それを理解するために必要な基礎に帰って、そういう本を 買ってきて読めばよいでしょう。
     すでに、お仕事に就いておられる方なら、社会人入学制度や、聴講生、科目等履修 生などの制度もあります。放送大学の「物理学」を受講されてもよいでしょう。大学 に入ることにこだわらないでよいのではないでしょうか。
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    Date: Tue, 03 Sep 2002 21:54:07 +0900
    AA:電子について質問したNです。
    無から有が生まれるのかな?
    とか思っていましたが流石にそんなことはないと言うことが分かりました。 大学入試の件ですが、佐藤教授のおかげで選択肢相当広がりました。
    これからちょっと放送大学のホームページでも見てみようと思っています。

    本当にありがとうございました。
    ちなみに、行かないとは思いますが、もし農工大に行くようなことがあったら、仲良くしてください。では
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    116.導波管の磁場と磁性体


    Date: Tue, 3 Sep 2002 19:09:21 +0900
    Q: はじめまして、S研のNと申します。
    磁性体の化学分野の応用を模索しており、マイクロ波照射実験を始めたのです が、矩形導波管中の磁界の強さがどの程度のものなのか分かりかねています。 多分、相当に弱いと思っており、インピーダンスやエネルギーから試算できない かと考えています。実際には(たとえば100WでWRJ-2導波管の最大振幅)、 どの程度なのでしょう。
    (
    添付ファイル「導波管の磁界計算」) そして、そこで得られる振幅は小さくても周波数の高い交番磁界中で、 磁性体に熱的損失が生じるはずですが、その磁性体がサブミクロンの紛体であっ ても、質量が同等ならば、単磁区粒子と同じ程度のような熱損失が生じるのでしょう か。

    また、高周波においてμ''も減衰するようですが、これもsnoek_limitと呼んで いいのでしょうか。
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    Date: Wed, 4 Sep 2002 10:01:18 +0900
    A: N様、佐藤勝昭です。
     メール有り難うございました。私は、電波吸収は専門外なので、詳し くはその道の専門家(たとえば、電波吸収体の研究者)にお尋ね下さい。 ここでは、一般的な回答をしておきます。
     添付された文書にあるマイクロ波磁界の推定は、間違いないと存じま す。実際に強いマイクロ波電磁界を得るには、キャビティの構造にして 共振させる必要があります。強磁性共鳴(FMR)の実験ではマイクロ波キ ャビティの磁界の強い部分に試料を置いて測定します。従って、磁界は キャビティのQをかけた大きさに強められていると思います。  マイクロ波の吸収は、異方性磁界により磁気モーメントが歳差運動を 起こす強磁性共鳴(自然共鳴)の周波数付近で最大になります。共鳴周 波数以上では、μはローレンツ形の変化をします。μ'はこの共鳴周波 数付近から単調減少します。μ"は共鳴周波数付近で最大をとり、徐々 に減少します。μ"の周波数依存性は共鳴曲線のなせるわざで、これは Snoekの限界ではありません。
     回転磁化機構を仮定すると、異方性の強いものほど共鳴周波数は高く なりますが、初透磁率も落ちるので、μの高周波特性に限界があるとい うのがSnoekの限界線の考えです。
     粉体は、微粒子の集合体ですが、ある寸法より小さいと微粒子は単磁 区になっていると考えてよいのではないでしょうか。この寸法は、 100nm程度と考えられます。微粒子同士が接近して互いに磁気的に結合 しているならば、多磁区構造をとるかもしれませんがマイクロ波領域で は磁壁移動による共鳴は考えられないので、基本的には回転磁化機構が 有効です。従って、Snoekの機構は粉体にも適用できると存じます。
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    Date: Wed, 4 Sep 2002 11:34:49 +0900
    AA:早速の御回答ありがとうございます。

    佐藤先生の講義や著作への質問や、身の回りの物理現象に関する質問など、 バラエティに富み、また盛況なQ&Aコーナーにひかれ、甘えて質問をさせていた だきました。

    電磁波に関する質問は過ぎたものとも思いましたが、 それは、磁性体に対するミクロな領域への磁場エネルギー注入を考えているから のことで、物性に重きを置きながらも、電磁波の物理的作用もにらんでいることを表明する 若干の気持ちもあり、前置きのようなつもりでさせていただきました。

    なかなかに的確なご回答を頂き、少し雲が晴れるような気持ちがいたしました。
    今後もサイトを拝見すると共に、御付合い・交流が出来ればと願っております。

    何か新しい知見が得られたときなど、ご意見を伺わせていただきたいと考えてお りますし、固体物性などの見識が乏しいので、つまらない質問さえしてしまうかもしれません。
    その折は、お時間と気持ちの許せる範囲でよろしくお願いします。

    まずは、挨拶までに。
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    117.デバイ温度と結合力


    Date: Sat, 14 Sep 2002 02:48:42 +0900
    Q: 現在、磁性の勉強を行っているN大のHと申します。
    結合力の違いによってデバイ温度に差が出てきますが、 共有結合、イオン結合、金属結合の結合力を比較する 方法はありますか?
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    Date: Sat, 14 Sep 2002 21:00:55 +0900
    A: N大H様、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。ご質問のデバイ温度と結合力の関係ですが、簡単な式で直接に 結びつく関係にはありません。
     デバイ温度ΘDとは、フォノン(格子振動)の最大の角振動数ωDを温度に換算した量 ですが、フォノンの状態密度はω2に比例して増加するので、フォノンの振動数の重 み付き平均と考えてもよいでしょう。音響モードのフォノンの振動数ωは構成する元 素の質量の和をM、結合の定数をCとすると、ω2∝C/Mで表されます。従って、結合力 が強くても、質量が大きいとあまり大きな値をとりません。逆に、結合力が弱くて も、軽い元素なら大きな値になります。結晶において、元素同士を結びつける結合力 ですが、凝集エネルギーが尺度となります。凝集エネルギーを距離で微分したものが 結合力です。
     希ガスの結合は、弱いファンデアワールス結合ですが、2-20kcal/mol程度です。金 属結合も電子の海に原子核が浮かんでいるので弱い結合です。凝集エネルギーは 100kcal/mol程度です。イオン結合は静電エネルギーによるので強い結合です。イオン 結晶の代表格アルカリハライドは200kcal/mol程度です。共有結合は電子の交換力で結 合しているので強い結合です。ダイヤモンドの凝集エネルギーは711kcal/mol、シリコ ンは446kcal/mol程度です。
     一方デバイ温度を比べますと、ファンデアワールス力では、Ar:92K、Kr:72K, Xe:64K、金属結合では、Li:344K, Na:158K, K:91K, Rb:56K, Cs:38K(重い程小さくな ります)、共有結合では、C:2230K, Si:645K, Ge:374K, Sn:200K, Pb:105K (これも重 いほど小さくなっている)
     磁性体を勉強しておられるようですが、遷移金属のFe, Co, Niは、Li, Kなどの単純 な金属結合ではありません。d電子のため共有結合に近い強い結合をもっています。 Fe,Co,Niの凝集エネルギーは400kcal/mol程度です。デバイ温度は450K程度です。
     以上の内容はキッテルの固体物理学に掲載されていることを紹介したまでです。自 分でじっくり本を読んでください。

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    118.Si半導体中の電子の有効質量


    Date: Wed, 18 Sep 2002 14:30:49 +0900
    Q: はじめまして、K大のIと申します。
    Si半導体にドナー不純物をドープしたときの電子の有効質量はドープした物質に よって違いはあるのでしょうか?

    googleで検索した結果 「物理システム工学科2年次「材料物性工学概論」(94 番教室)第10回プリント 2000.6.15」 のHTMLで 「シリコン中の伝導電子の有 効質量比m*/mは0.25」 となっていたのですが、K大の集中講義では 「Si結晶 中のリンドナー不純物に束縛されている電子の有効質量は0.45m」 と教え てもらいました。リンの代わりにアンチモンをドープしたら有効質量も代わるの でしょうか?
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    Date: Fri, 20 Sep 2002 13:37:57 +0900
    A: K大I様、佐藤勝昭です。
     お返事が遅くなりました。
    シリコンにn形不純物をドープして、不純物に束縛された電子を熱的に 伝導帯の底に励起した場合、その電子の有効質量は、不純物の如何に関 わらず、シリコンのバンド構造で決まります。シリコンの伝導帯の構造 は複雑で、多谷(multi valley)となっているので、正確には方位によっ て違ってきます。さらにそのvalleyの等エネルギー面は回転楕円体で表 されるので、軸方位に平行か垂直かで質量が違ってきます。たとえば、 Siの<100>谷における伝導帯電子のm*/mは<100>に平行な場合0.916と重 く、<100>に垂直な場合0.192と小さくなっています。私が講義プリント で示した0.25という値は、電気伝導に寄与する平均的な値です。
     一方、あなたがお尋ねの「Si結晶> 中のリンドナー不純物に束縛され ている電子の有効質量は0.45m」というのは、不純物に束縛されて その周りを運動している電子であって、伝導電子の有効質量ではありま せん。水素のようなモデルを考えると、ドナーに束縛された電子のエネ ルギー準位(伝導帯の底とのエネルギー差)ΔEは、 ΔE=m*e4/(8ε2h2)で与えられます。ΔEは光学的に調べることがで きるので、これからm*を見積もることができます。束縛している中心が 変わればこの値は当然変わってきます。ドナーとしてリンを考えた場合 とアンチモンを考えた場合では、違っていても不思議はありません。 たとえば、GaP中のドナーの束縛エネルギーは酸素では893meV、硫黄で は104meV、セレンでは102meV、テルルでは89meVです。この違いは原子 の電気陰性度の違いによると考えられ、中心殻効果と呼ばれています。  おわかりいただけたでしょうか。 -----------------------------------------------------------
    AA:Date: Fri, 20 Sep 2002 18:59:47 +0900
    佐藤勝昭先生、K大学3回生Iと申します。
    先日、電子の有効質量について質問させていただきました。見当違いの質問に対して丁寧なお返事大変感謝しております。
    いただいたメールは大変参考になりました。ありがとうございます。

    先生のHPの油絵を壁紙にさせていただきました、お気に入りは「古城のある風景」と「セーヌを望む」です。新しい作品にも期待しております。
    すてきな作品ありがとうございました。
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    119.硬さと反発係数


    Date: Sat, 21 Sep 2002 10:27:25 +0900
    Q: はじめまして、H高のMです。 うちの高校では卒業前に自分でテーマを決めて実験をして発表をするのですが、僕は 物体の硬さと反発係数の関係について調べたいと思っています。このページの下のほ うで硬さは定量化できないと書いてあったのですが、物体をばねと考えてばね係数の ようなもので表すとか、物体をある一定の力で押したときの変化率などで表すという 事はできないのでしょうか? ------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 21 Sep 2002 14:41:38 +0900
    A: M君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。硬さと反発係数の関係を調べるのは面白いですね。
    硬さを表す方法としては、モース硬度、ビッカース硬度、ショアー硬度などありま す。モース硬度は、基準になる硬度の天然鉱物とこすり合わせて、傷のつきかたで決 めます。ビッカース硬度はダイヤモンドのピラミッド型の角錐や球を材料に押しつけ ることによって生じる圧痕の面積と負荷荷重の関係(負荷荷重/圧痕の面積)で硬さ を表示する方法です。ショアー硬度は、先端にダイヤモンドを取り付けた小さなハン マーを試料表面に落下させたときの跳ね上がりの高さから求めた硬さのことを言いま す。ハンマーを落とすときの高さをh0、跳ね上がりの高さhとするとショアー硬さHSは 次式で定義されます。HS=(10000/65)×(h/h0)。これと反発係数を関係づけることがで きるでしょう。あとは自分で考えてください。
     バネ係数に相当する物理量は、弾性率といいます。応力と歪みの関係を表す比例係 数です。弾性率が大きいということは、同じ力で押しても歪みが小さいのですから、 硬いと言えるでしょう。
    体積弾性率を掲げると、C(ダイヤモンド)は4.43、Cu(銅)は1.37、Fe(鉄)は1.68、 Au(金)は1.73です。一方、モース硬度は、C(ダイヤモンド):10、Cuは2.5、Auは2.5で す。よく対応していますね。
    いろいろの硬度は機械系の教科書かハンドブックを見て下さい。
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    120.シート抵抗について

    Date: Mon, 23 Sep 2002 16:17:51 +0900
    Q: 法政大学で物性工学について学んでいるHです。現在イオン注入層 の電気的特性の評価について研究しております。そこでシート抵抗について疑問に 思ったことがありましたので質問いたします。
    Q1. シート抵抗Rsは、抵抗率ρ(Ω.cm)/接合深さd(cm)で、電気的に活性な不純物の 濃度と反比例の関係にあるρを接合深さdで割った値ですよね。 そこで次元だけを 考えると(Ω.cm)/(cm)=Ωとなりますが、なぜ(Ω/□)という次元で与えられるので しょうか? 慣例的に使われているのでしょうか? すみませんがよろしくお願い致 します。
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    Date: Fri, 27 Sep 2002 02:10:23 +0900
    A: H君、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。応用物理学会出席のため、お答えが遅くなり、ご めんなさい。
    シート抵抗という概念は、ウェハーや薄いドープ層の評価のために用いられる便宜上 の概念です。材料の抵抗率を測定するのに比べ材料の抵抗を測るのは易しいからで す。4端子法で測定すれば、ある係数をかけるだけで求められるからです。
    抵抗率ρ、厚さtの層のシート抵抗Rsは、あなたの言うように、
    Rs=ρ/tで定義されます。厳密に言えば、シート抵抗の単位はΩですが、しばしば、 Ω/□(正方形当たりΩ)と書きます。こう書くのは、Rsが与えられたとき、長さL、 幅Wの長方形の抵抗値Rが、R=Rs×L/Wですぐに計算できるからです。
    また、4端子法からRsを求めることや、シート抵抗についてのQ&Aは、
    フォーポイントという計測器会社のページ を参照してください。
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    Date: Sat, 28 Sep 2002 12:18:28 +0900
    佐藤先生、お忙しい中大変分かりやすい解説をして頂きましてどうもありがとうござ いました。とても参考になりました。
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    121.光学的バンドギャップとホトニックバンドギャップ


    Date: Sat, 28 Sep 2002 15:02:55 +0900
    Q: はじめまして、O社のK と申します。
    太陽電池関係の文献を読んでいると「光学的バンドギャップ」という言葉が出 てきます。この言葉と「ホトニックバンドギャップ」とは同義なのでしょうか ?
    ネットで「光学的バンドギャップ」を調べていてこのページに到達しました。 NETには「知っていて当たり前」のような文献しか無く区別がつきません。ま た、太陽電池の材料で「光学的バンドギャップが狭い方が有利」とは少ない光 エネルギーで多くの電子正孔対ができるから発電効率がよくなる為、と理解し ていいのでしょうか?宜しくお願いいたします。
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    Date: Mon, 30 Sep 2002 15:48:34 +0900
    K様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。
    おたずねの件ですが、光学的バンドギャップとフォトニックバンドギャ ップは全く別の概念です。
     半導体の電子のエネルギー構造が価電子帯(Valence Band)と伝導帯 (Conduction Band)から成り立っていて、その間に電子がとることので きないエネルギーの範囲があることはご存じですね。このエネルギー範 囲のことを禁制帯(Forbidden Band)または、バンドギャップ(Energy Band Gap)といいます。バンドギャップの大きさを通常はEgと書きます。 バンドギャップができる理由は、電子の波が結晶格子の周期的なポテン シャルエネルギーと相互作用をして、特定の波長の電子波が定在波とな ることによって生じます。詳しくは固体物理学の教科書を読んで頂く必 要がありますが、要するに電子が波であることから由来しています。  このバンドギャップの値を決める方法として、キャリア(伝導帯の電 子または価電子帯のホール)密度の温度依存性から決める方法と、光吸 収スペクトルにおいて吸収係数が立ち上がるエネルギーから決める方法 があります。「光学的バンドギャップ」というのは、このように光吸収 スペクトルから求めたバンドギャップのことです。
     一方、「フォトニックバンドギャップ」というのは、光の波長と同程 度の周期をもつ人工的な周期構造において、光波がとることのできない エネルギー帯が生じるという現象を、電子波のアナロジーで、フォトニ ックバンドギャップと名付けたもので、1次元の周期構造については、 光学の言葉で「ふぁぶりぺろー共振器」として知られている話です。多 層膜の干渉による着色などと同様の現象です。最近は、2次元、3次元 の周期構造が人工的に作製できるようになったので、それを使って、低 閾値の半導体レーザを作るなどの試みが行われています。京大の野田先 生、横浜国大の馬場先生などが有名で、多くの解説を書いておられます。 要するにフォトニックバンドギャップは光の波 についての現象です。
     次に、太陽電池の材料で「光学的バンドギャップが狭い方が有利」と いう話ですが、これは、昔からLoferskiの法則というのがあって、太陽 光の分光エネルギー分布との関係で、最も変換効率の高いバンドギャッ プは、1.4-1.5eV付近にあることが理論的に知られています。必ずしも バンドギャップが低い方が有利とはいえません。
     おそらく、貴方は、アモルファスシリコンの太陽電池のことを調べていて、 そのような表現にゆき当たったのでしょうが、太陽電池に用いられる 水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)のバンドギャップは1.7eV付近にあり、 太陽光の分光エネルギー分布の内、低いエネルギー(=長波長)の光を 光電変換できないので不利という話を読まれて、そういう質問になった のではないかと推察します。アモルファス太陽電池においては、低エネルギー 部分を補うため、a-SiGe:H太陽電池とのタンデムにしたり、多結晶シリコン やCISの太陽電池とのタンデムにするなどの工夫もされています。
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    122.RFイオンプレーティング用コイルのマッチング


    Date: Wed, 2 Oct 2002 16:14:29 +0900 (JST)
    Q: T大学、工学研究科のEと申します。
    お忙しいところ申し訳ありませんが、下記のことにつきまして ご存知でしたら、教えて下さい。

    現在、私はRFイオンプレーティング装置の放電の実験を毎日のように やっております。今回お聞きしたのは高周波電力を印加するRFコイル についてです。
    質問
    1. マッチングのとりやすさとコイルの太さ、コイルの巻き方には関係  があるのでしょうか。現在、コイルの材質にはSUS304を用い、太さ  は3φです。コイルの形状は螺旋状に1,2回まいてあります。一応  Arガスで放電はしています。

    2. RFコイルの技術的なことに関する文献などご存知でしたら、教えて  下さい。

    よろしくお願い致します。
    それでは、失礼します。
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    Date: Thu, 3 Oct 2002 12:40:29 +0900
    A:E様、佐藤勝昭です。
     イオンプレーティングについて、私は以前にS電気のK氏とと共同研究し、 CuInS2の薄膜を作っていましたが、私自身では経験がありません。
     一般にインピーダンスマッチングはコイルのインダクタンスと抵抗値 によって決まるのですが、ステンレスは銅に比べて抵抗率が高いので、 マッチングがとりにくいかと存じます。またコイル部分だけでなくどの くらいマッチングボックスから離れているかにも関係してきます。また コイルの太さも抵抗値に関係すると思います。特に13MHzの高周波はコ イルの表皮を流れるので、太いものは表面積が大きいので抵抗が低くマ ッチングをとりやすいと思います。巻き方についてですが、1-2ター ンと言うことなのであまり影響がないと思います。
     イオンプレーティング装置の場合、コイルだけでなく、チェンバーが 小さいと周りのチェンバー(アースに落ちている)との間に浮遊容量もあ るので、コイルだけのインピーダンスでは説明できない部分もあるかと 存じます。従って、ケースバイケースになりますので納入業者とよくご 相談された方がよいでしょう。
     この件についても以前のCdS/CISの場合と同様、指導教官とよく討議 して下さい。
    ------------------------------------------------------
    A2:追伸
     S電気でRFイオンプレーティングをやった経験をお持ちのS研究員に 話を伺ったところでは、放電を起こすだけだからステンレスの抵抗値は 問題にならない。マッチングボックスで十分対応できるといっていました。
    彼らは1/4インチ(6mm)φのステンレスを6ターンくらい巻いていたとの ことです。浮遊容量は多少問題になるが、マッチングについては問題ない とのことでした。太いものを用いている理由は、放電でやられて細くなる ので、なるべく太いのを用いているが、1/4インチは人力で曲げられる 限界といっていました。
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    123.エバネッセント波について


    Date: Thu, 3 Oct 2002 08:34:49 +0900
    q: はじめまして。*大のKと申します。偶然このHPをみつけ、訪問させていただきまし た。
    私は今エバネッセント波について勉強しているのですが、その発生する原理がよくわ かりません。私は下のような式を自分で解き(誤っているかもしれませんが)電磁波 が全反射するときにも透過光に指数関数的に減少する電磁波があるというところまで はおぼろげながらわかってきたのですが、それが原子、分子レベルで何がおこってい るのかがわかりません。できればなるべく言葉でエバネッセント波の発生する原理を 教えていただけないでしょうか?ご迷惑をおかけいたします。よろしくお願いしま す。

    屈折率N>nとなる媒質Ⅰ、Ⅱに電磁波がNからnに入射し、その入射角、反射角を θ、屈折角をθ’としたとき、透過光の電界ベクトルは (kは波動ベクトル、Y軸 は画面に垂直にとり、Z-X面で考えている)
        E(x,y,z,t)=E。exp(jwt)exp{jk(xcosθ’+zsinθ’) -① 
    となりスネルの法則より
       sinθ'=N/n *sinθ  -②
    cosθ'*cosθ'=1-(N/n)(N/n)sinθ*sinθ      -③  
                
    ③式を①式のcosθ'に代入すると、入射角θが臨界角以上(sinθ">n/N)で入射した ときx成分は指数関数的に減少する。
    -----------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 3 Oct 2002 10:53:55 +0900
    A: *大K様、 メールありがとうございます。
     エバネセント波について、ご自分で勉強されたことは、正しいです。
    あなたの計算通り、臨界角を超える入射角で媒体1から媒体2に入った 光の波動ベクトルは、媒体2の中では純虚数になり、伝搬することがで きません。従って、光の場は存在するが、伝搬せず距離とともに減衰す るのです。
     これのミクロな物理的意義ですが、媒体1と媒体2の境界面付近にお ける電気双極子の振動から生じる電磁界が位相をconstructiveに(強め 合うように)そろえておれば媒体2の中へと伝搬しますが、臨界角以上 で入射するとdestructiveに(打ち消し合うように)合成され、前には 進行しなくなるのです。しかし、電気双極子のすぐそばには伝搬しない 電磁場(近接場)が存在しており、これは伝搬する波ではないので強め合ったり 弱め合ったりすることはなく、媒体2に向かって電磁波が進行しない場 合にも残るのです。これがエバネセント波です。電気双極子としては、 原子でも分子でもよいと思います。
     もし微小な電気双極子が伝搬する電磁波の中に置かれたとしますと、 その電気双極子は電磁界で振動しますが、その周りには近接場が存在し ます。その場の及ぶ範囲に別の電気双極子を置きますと、今度は両者が 結合した系となり、2番目の電気双極子から伝搬する電磁波が発生する ことになります。これが、走査型近接場顕微鏡(SNOM)の原理です。
     電磁場を第2量子化してフォトンという粒子を考えますと、近接場は フォトンのトンネリングと考えることができます。従って、フォトント ンネル顕微鏡(PTM)という概念が生じます。厳密に言えば同じではない のですが、近接場顕微鏡とほとんど同じものと考えられます。
    -------------------------------------------------
    Date: Tue, 8 Oct 2002 01:04:39 +0900
    Q2: *大Kです。先日は質問にお答えいただきありがとうございました。早くに丁寧な回答 をしていただいたにも関わらず、お礼のメールが遅れ申し訳ありませんでした.
     あのあと、さっそくSNOMについて調べてみたのですが、そこで使われている光ファ イバプローブについて少し疑問があったので、教えていただけないでしょうか?
    Q:文献に光ファイバプローブはエッチングすることによりコア部とクラッド部のエッ チングスピードの違いから先鋭化することができ、さらにアルミを蒸着して先端の一 部だけエッチング除去することで微小開口をもつファイバプローブを作ることがで き、その開口の大きさが励起波長以下ならば、励起光は全反射しファイバの先端には エバネッセント波が誘起される、とあったんですが、開口径が励起波長より小さいと なぜ励起光は全反射するのでしょうか?
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    Date: Tue, 8 Oct 2002 13:00:24 +0900
    T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。光は回折限界によって光の波長λと とレンズの開口数NAで決まるd=0.6λ/NAより小さなスポットに集光でき ません。(普通のレンズではNAは約0.6です)これと同じ理由で、波長よ り小さなピンホールがあると光は通り抜けられないで全反射するので す。
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    124.逆格子の参考書


    Date: Thu, 3 Oct 2002 16:13:18 +0900
    Q: 島根大学Hです。HP拝見させていただきました.
    物理を勉強してます。
    質問:逆格子がどうしても頭に描けないのです。
     良い参考書があれば教えてください。
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    Date: Thu, 3 Oct 2002 16:50:20 +0900
    A: H様、佐藤勝昭です。
     逆格子を学ぶ特効薬はありません。地道に式をフォローし、自分で例 題を解いてみて初めて納得できるものです。
     私は、Kittelの固体物理学の第1章Crystal Structures, 第2章 Reciprocal Latticeを丁寧に読み、問題を解けば、一応の理解が得られ ると思います。私の研究室では、英語版を4年生のための輪講で読んでおり、 この2章に4-5回の時間をかけています。
     あと、
    応用物理学会結晶工学分科会の結晶工学スクールのテキストが わかりやすくできています。テキストが欲しい人は応用物理学会にメー ルして下さい。島根大学なら梶川 靖友先生が結晶工学分科会の幹事なので先生に尋ねてみて下さい。
     実際には、X線回折や、電子線回折の実験をするときに必然的に必要 になりますので、そのときに勉強した方が身に付くと思います。
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    125.鉄心のB-H特性


    Date: Wed, 09 Oct 2002 16:28:32 +0900
    Q: 衛藤久幸です。ちょっとお聞きしたいのですが、
    (1)鉄心のB-H特性が飽和を示すことについて磁区(domain)      の概念から考察せよ。
    (2)ヒステリシス曲線の大きさや形と、磁性材料の用途との間に       はどのような関係があるか。
    この2題がわからないので、教えてください。お願いします。
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    Date: Wed, 9 Oct 2002 19:51:53 +0900
    A:衛藤様、佐藤勝昭です。
     宿題(課題)を直接専門家に聞くのはカンニングと同じです。
    私の講義録をヒントに自分で考えてください。
    (1)
    「材料物性工学概論」第12回講義  第11回の問題:
     「電子物性工学Ⅱ」第9回(12/4)の学習内容
    (2)「材料物性工学概論」第13回プリント 2000.7.6 第12回の問題解答
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    Date: Thu, 10 Oct 2002 08:41:19 +0900
    QQ: お返事ありがとうございました。
    佐藤先生の講義録を参考にして考えてみます。
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    126.複素誘電率について


    Date: Thu, 10 Oct 2002 02:48:05 +0900

    はじめまして。 私は、工業大学で誘電体の研究をしている学部生のTと申します。

    複素伝導率(σ’、σ”)と複素誘電率(ε’、ε”)についてですが、いろんな書 物やホームページで調べてみたのですが、難しく書かれてあって理解できません。 この2つの用語について、わかりやすく優しく教えていただけないでしょうか。

    よろしくお願いします。
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    Date: Thu, 10 Oct 2002 14:36:53 +0900
    T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。
    あなたは、電気電子の学生であるとしてお答えします。
    普通は、誘電率も伝導率も実数で、誘電率は絶縁体に対し用い、伝導率 は金属や半導体に使うと考えているかもしれませんが、それは直流に対 してのみ通用する概念です。交流理論では、交流の電界E、電流密度Jに ついてsin, cosを使わずに、それぞれ、E=E0exp(jωt)、J=J0exp(jωt) で表します。(ここにE0, J0は実数とします。また、交流理論では虚数 の単位をjで表します)
     伝導率σはJ=σEで定義されます。もし伝導率σの物体に角周波数ω の高周波電界E=E0exp(jωt)を加えたとき、φラジアンだけ位相の遅れ た電流密度J=J0exp(jωt-jφ)の電流が流れたとしますと、
     σ=J/E=(J0/E0)exp(-jφ)となります。ここでJ0/E0=σ0とおくと、
     σ=σ0 exp(-jφ)=σ0 cosφ-jσ0 sinφと表せます。実数部をσ'、 虚数部をσ"と表すと、σ=σ'-jσ"となります。これを複素伝導率と いいます。ここにσ'=σ0 cosφ、σ"=σ0 sinφです。伝導率の実数部 は、電界と同位相で流れる電気の流れやすさを表しています。一方、虚 数部は、電界に対して90度位相が異なる電流の流れやすさを表してい ます。
      同様に、誘電率εは電束密度Dと電界Eの関係を与える係数で、D=ε Eで定義されます。もし誘電率εの物体に角周波数ωの高周波電界E= E0exp(jωt)を加えたとき、電束密度D=D0exp(jωt-jφ)で表せるとし ますと、
     ε=D/E=(J0/E0)exp(-jφ)となります。ここでD0/E01とおくと、
     ε=ε1 exp(-jφ)=ε1 cosφ-jε1 sinφと表せます。実数部をε'、 虚数部をε"と表すと、ε=ε'-jε"となります。これを複素誘電率と いいます。ここにε'=ε1 cosφ、ε"=ε1 sinφです。
    電束密度Dと電気分極Pの間には、D=ε0E+Pの関係が成り立ちます。従 って誘電率の実数部は、電界と同位相で生じる電気分極Pに対応してい ます。一方、虚数部は、電界に対して90度位相が異なる電気分極に対 応しています。
     電束の時間的変化があると変位電流Jp=dD/dtが流れます。このDにD= (ε'-jε")Eを代入すると、Jp=jω(ε'-jε")E=ωε"E+jωε'Eと書く ことができます。これを=σEと書くと、σ'=ωε"、σ"=ωε'となりま す。σとεでは実数部と虚数部がひっくり返っています。誘電率の虚数 部は、伝導率の実数部と同じ働きをする、つまり、エネルギーの消費を ともなうということがわかります。それで、誘電率の虚数部を誘電損失 と呼ぶのです。電子レンジで食品が暖まるのはこの誘電損失のためです。  誘電体の良さを測るための尺度としてtanδ=ε"/ε'が使われます。 この数値が小さいほどよい誘電体になります。
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    Date: Thu, 10 Oct 2002 15:39:39 +0900
    QQ:こんにちは、昨日質問をした工業大学のTです。
    お忙しい中、お返事ありがとうございました。
    大変勉強になり、これからもがんばって研究を続けていきたいです。
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    127.円偏光の反射


    Date: Fri, 11 Oct 2002 09:33:02 +0900
    Q:初めまして、T社のKと申します。
    HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見しました。
    早速ですが教えてください。
    ピックアップ光学系ではLDから出た直線偏光を、これを透過する向きに 設置された偏光板に通し、さらに1/4波長板で円偏光(たとえば右回転)に 変換し、この光を反射面(光ディスク)に当て、戻ってくる光を左回転の円偏光 とし、この光が元の1/4波長板を通ると直線偏光に戻り、偏波面の方向が 往路と90°変るので次の偏光板で遮断されてしまい、ディスクからの反射光 をLDに戻さないよう光アイソレーターとして利用されてます
    さてここで教えてください。
    上記光学系でLD→偏光板→1/4波長板と通ってきた光を金属面に斜め(入射 角45度程度)に入射させた場合、反射光の円偏光の回転方向は反転するので しょうか?
    よろしくお願いします。
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    Date: Fri, 11 Oct 2002 10:42:11 +0900
    T社K様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    ご質問の円偏光の回転方向ですが、入射光の進行方向をz軸にとったと き、z軸方向に右ねじを進める方向を右回りとしておきます。電界ベク トルの先はx軸正からy軸正へと回転します。これが反射してもこの回 転自身は保存されますから、反射光の進行方向をz'軸にとって、その方 向についてみれば、左回りに回転していると考えられます。
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    Date: Fri, 11 Oct 2002 16:16:09 +0900
    Q2:佐藤先生
    T社のKです。
    ご回答ありがとうございました。
    回転方向は反射しても変わらず、出射側から見た場合と入射側から見た 場合では見る方向が違うために反転するという理解でよろしいでしょうか? 次のような問題を解決したいのですが偏光を使う等何か良い方法はないでしょうか?
  •  レーザー光を金属物体(径200μm程度のハンダボール)に斜めからスポット結像  させ、そのスポット像を正反射側の位置検出素子(PSD素子)に結像させ三角測量法  にてボールの高さを測定したいのですが、ハンダボールが密集しているため隣接する  ボールに散乱光が当たりノイズとなり測定誤差がでてしまいます。そこで1次反射光  のみ透過し、2次もしくはそれ以上の反射光をカットしたいのですが何か良い方法は  ないでしょうか?
  • -------------------------------------------------------
    Date: Fri, 11 Oct 2002 19:51:26 +0900
    A2:K様、佐藤勝昭です。
     金属では屈折率だけでなく消光係数が大きいのでガラスの場合のよう なp偏光とs偏光の違いによる反射率の差は大きくありません。また、 半田ボールによる反射では、表面の凹凸などのため、偏光が保たれない 可能性があります。偏光によって1回反射と2回反射を区別するのは大 変困難かと存じます。
     むしろ、顕微鏡下で、密集した金属ボールを移動させ、垂直に光を当 て戻ってきた光を検出して、サーボでレンズを動かし、焦点を結ぶよう に追いかければ(丁度、光ディスクのフォーカスサーボの原理)、どれ だけレンズを動かしたかで高さを読みとることができるでしょう。
     なお、個別のご相談は、ネットでのオープンな議論になじまないので、 これくらいにとどめておきます。
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    128.表面プラズモン共鳴バイオセンサーについて


    Date: Tue, 15 Oct 2002 11:47:09 +0900
    Q: 佐藤勝昭 先生

    はじめまして。私は生物系の学部に所属していますM.A.と申します。突然メール致し まして誠に申し訳ありません。
    後輩に質問されて検索していましたら、先生のHPの質問コーナーにたどり着きまし た。
    私たちは、溶液中の生体高分子の相互作用を解析するため、表面プラズモン共鳴バイ オセンサー(Surface Plasmon Resonance Biosenser)について調べています。 生物系ですのでアプリケーション中心に調べていたのですが、装置の原理に興味を 持った後輩から色々と質問され、答えられずに困っております。
    質問の一つは、
    「エバネッセント波は縦波か横波かどちらか?」 というものです。
    単純に、「電磁現象だから横波じゃないの」とこたえたのですが、明らかに納得して いない様子で・・・・・

    もう一つは、
    センサーの金属表面と高分子を、適当な長さの分子(リンカーと呼んでいます)で結 合するのですが、 「リンカーの長さと感度は、どのような関係にあるのか?」
    というものです。

    先生の御専門とは異なるかもしれませんが、ご存知であれば教えて頂けないでしょう か?
    お忙しい中誠に申し訳ありませんがHP上かメールでお返事頂ければ幸いです。
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    Date: Tue, 15 Oct 2002 12:55:29 +0900
    A: M.A様、佐藤勝昭@parisです。
     エバネセント波の電界は空間的には振動しない波ですが、時間的には光の周 波数で振動しています。電磁波の電界は横波ですから、エバネセントになって も縦波になることはありません。
     Linkerということばははじめて知りました。高分子と金属表面の間のエバネ セント結合をさせるための媒体とすれば、その距離が長ければ長いほど、結合 が弱くなるでしょう。
     旅先で、資料なしにお答えしているので間違っているかもしれません。
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    Date: Tue, 15 Oct 2002 15:34:30 +0900
    AA: 佐藤先生

    早速のお返事どうもありがとうございます。
    教えていただきましたことを参考に、色々調べてみたいと思います。

    Linkerについてですが、センサー表面の金属(一般には金)と固定したいタンパクの 結合は非常に弱いため、金と強く結合するチオール基を有するリンカーをタンパクに 結合させたり、あるいは金の表面をタンパクと親和性のある物質でコーティングする などの方法がとられています。
    どちらの方法にせよ、金属とタンパクの距離が離れてしまいますので、感度は低下し てしまうでしょう。

    ところで先生は現在パリにいらっしゃるのですか?
    パリに住んでいる知人から、「こちらの様子を知りたければこのWebカメラを見るよ うに。」と教えてもらいました。

    http://www.canon.fr/frames/webcam.htm

    そちらはまだ暗いようですね。
    このような時間にお手数をかけまして申し訳ありませんでした。
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    129.金属の有効質量


    Date: Tue, 15 Oct 2002 21:44:56 +0900
    Q: HPの物性なんでもQ&Aを見てメールを送りました
    . N大学のOと申します.
    大学での研究で金属中の電子と格子の相互作用を調べております.
    室温でのAu,Ag,Cu,Al,Ni,Ti,Mo,Cr,Zrの電子の有効質量の値を知りたいので すが教えてもらえないでしょうか?
    またどういった本を参考にすればよいでしょうか?
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    Date: Wed, 16 Oct 2002 13:08:27 +0900
    A1: N大学 O様、佐藤勝昭@Parisです。
     旅先で資料がないので、簡単なお返事しかできません。
    金属の有効質量は、サイクロトロン共鳴あるいはドハースファンアルフェン効 果の実験があれば、決められると思いますが、どの資料を読めばよいかわかり ません。たとえば、Seitz-TurnbullのSolid State Physicsのシリーズに、金 属のサイクロトロン共鳴、とか、Schbnikov-de Haasのchapterがあったと思い ます。あとは、光学的な決め方です。Landolt BoernsteinのHandbookシリーズ に金属の光学的性質を集積したものがあります。(ホームページの金属の誘電 率とか光学定数の質問回答にあるはずです。)これには金属の反射率からどの ようなDrudeのパラメータで説明できるかが出ています。やや任意性があるの で、正確かどうかわかりません。Au,Ag,Cuのような貴金属の場合、m*/m=1とし ていたのではないかと思います。遷移金属のNi,Ti,Crは3dバンドが狭いので m*/m>1の可能性があります。
    帰国後調べてみます。
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    Date: Wed, 23 Oct 2002 13:08:31 +0900
    A2:O様、佐藤勝昭です。
     LB N.S. III 15b は見つかりましたか?手元のコピーによれば、 Drudeの式に用いている有効質量比(m*/m0)は, 下記の通りすべての金属 について1.0を使っています。()内は、光学以外のデータのようですが、 原著に当たっていないので、よくわかりません。
    Au: 1.0 (0.98-1.04),Ag: 1.0 (0.87-1.06),Cu: 1.0 (1.45),
    Al: 1.0 (1.41-1.55),Ni: 1.0,Ti: 1.0,Mo: 1.0,Cr: 1.0,Zr:1.0
    となっています。
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    Date: Wed, 23 Oct 2002 13:27:36 +0900
    N大のOです.
    AA:メールありがとうございました.
    図書館でLBを調べたところわかりました.
    現在,金属をフェムト秒レーザで加熱し,その後の表面の温度変化をプローブする実 験をおこなっております.その際,電子ーフォノンカップリングファクタという, 電子と格子の相互作用の大小をあらわすパラメータを計算するときに有効質量が必要 だったのです.本当にたすかりました.
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    130.液晶ディスプレーのIPSモード


    Date: Fri, 18 Oct 2002 15:44:13 +0900
    突然のメール送信をお詫び申し上げます。N株式会社のMと申します。
    先生のHPを拝見させて頂き、かねてから疑問であった点について、質問させていただきます。

    従来、LCDの表示モードはTN,STN等が主流でしたが、近年、LCDの広視野角化(高速応答)を目的として、IPS,VA等の表示モードが出てきました。
    IPSでは、『片側の基板に電極を2本配置し、両電極間に発生する電界によって、液晶を同一平面内で回転させることにより、光の透過量をコントロールしている』と、種々の文献、資料等で説明されております。
    (⇒ "http://www.nanoelectronics.jp/kaitai/lcd/4.htm")
    IPSにおいても、ラビング処理が施されていると思いますが、ラビングの影響により、基板界面の液晶は、ラビング方向と同一方向の配向を保っていると推測します。故に、電界によって液晶が回転しうるのは、液晶セル内において中心部のみであると考えられるので、TFT側から入ってきた光は、セル内中心部分に近づくに従い、旋光しますが、CF側に抜けていくときには再びもとの配向(ラビング方向と同一方向)に戻り、結局、光の透過量が変わらないのではないかと考えられます。

    Q:何故 IPSモードでは液晶を基板と同一面内で回転させることで2枚の偏光板を通り抜ける光の透過量をコントロールすることができるのでしょうか?

    TNモードのように、液晶分子に沿って偏光面が回転するイメージをもっている私には、IPSモードのしくみがよくわかりません。
    お忙しい中、恐縮ですが、お教え頂ければ幸いです。
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    Date: Mon, 21 Oct 2002 16:26:16 +0900
    N社M様、佐藤勝昭です。
    A: メールありがとうございました。国際会議のためパリに出張していたのでお返事が 遅くなり申しわけありません。
    私は最近の液晶ディスプレーの動向をよく把握していませんので、本学、電気電子工学科の飯村靖文助教授にお話しを伺いました。
    IPS液晶に電界を印加したとき、「基板界面では配向しており電界による液晶分子のねじれが両界面のすぐそばで起きていて、真ん中付近は一様に面内回転している」というM様のご指摘はその通りだそうです。電極の大きさが数十ミクロンもあるのに、液晶の膜厚が数ミクロンと薄いので、電界は一様にかかっていると考えてよいそうです。
     確かに、液晶の厚さが数10ミクロンもあれば、偏光がねじれに沿って回転しながら伝搬する「導波モード」で考えてもよいのですが、TNの場合もIPSの場合も、最近の5μm以下の薄いセルの場合、「ねじれに沿って偏光が回転する」というのは素人にわかりやすくするための説明で、実際にはretardationの大きさが適当であると丁度端っこで直線偏光にするように設計することができるのです。ねじれの部分は薄いので、retardationにほとんど効かず、真ん中付近のdirecterの回転によるretardationだけで決まっているのだそうです。
     ここのところがわかりにくいのですが、たとえば、半波長板の光軸に対し+45°傾いた直線偏光を入れると-45°傾いた偏光が出てきますね。半波長板の中でどのような偏光状態で伝搬するかは考えなくてよいでしょう。それと同じようなものだと考えてください。
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    131.光触媒


    Date: Fri, 18 Oct 2002 19:19:19 +0900
    佐藤勝昭様

    初めまして.M株式会社のFと申します.
    Webで光触媒について調べているうちに,先生のHPに たどり着きました.半導体の光触媒(水の完全分解)作用に関して,質問があるの で,お答えいただける範囲でよいので,教えていただけませんでしょうか.

    Q1.酸化チタンなど光触媒は光照射によって発生する 表面付近のキャリアに分布が水の酸化還元反応を引き起こす という解釈は間違っていないでしょうか?また,水や水素・酸素の 拡散律速を無視した場合,キャリア濃度の分布が大きい(光照射量が多い) ほど水の分解は促進すると考えていいのでしょうか?

    また,Q1を前提として質問させていただきますが,

    Q2.光を照射せずに酸化チタンに通電した場合もキャリア分布が発生 すると思うのですが,水の分解が起きるのでしょうか? Q3.光の照射と同時に電極を近づけて光触媒に電圧をかけた場合, キャリア分布が大きくなると思うのですがそれによって水の分解反応が 促進されたりするのでしょうか?

    Q4.キャリアの分布ができる材料は多々あると思うのですが 光触媒に限らず,キャリア濃度に分布ができる場合(例えば熱電材料), 水の分解は光触媒反応と同様に起こると考えてよいのでしょうか?

    見当違いな質問をしているかもしれませんが,ご教授ください. よろしくお願いいたします.
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    Date: Sun, 20 Oct 2002 16:42:17 +0900
    A: F様、佐藤勝昭です。
     光触媒において、光がどのような作用を引き起こすかは、まだ完全には理解されて いないのではないでしょうか。UV光が関与するのですから、バンドギャップを越えて 電子励起が起き、キャリアが生成することは確かでしょう。水のRedox(酸化還元電位) とTiO2の価電子帯の頂の関係がどうなっているかはわかりませんが、TiO2のホールが 水に注入されるならば、電気分解を引き起こすことは確かです。「表面付近のキャリ アが水の酸化還元反応を引き起こす」という定説が間違っているとは思えません。
     しかし、TiO2の中を流れる電流による単なる通電では、キャリアの分布の変化は起 きないので、電気分解は起きないでしょう。もう一つ別の電極(たとえばPt)との間 に電流を流すのであれば起きると思います。この際光の照射があれば、電気分解は推 進されるでしょう。しかし、表面付近のキャリア濃度に分布ができるだけでは起きな いでしょう。酸化還元電位との関係などいろいろな条件が必要ではないでしょうか。
     しかし、私は光触媒だけでなく「触媒作用」については、完全な素人です。間違っ た解釈をすると、あなたをmisleadすることになるといけませんので、個別のお答えを 控えさせて頂きます。
    -------------------------------------------------------------- Date: Mon, 21 Oct 2002 09:54:45 +0900
    AA: 佐藤 勝昭様
    お察しのとおり,光半導体が光を受け取ってなぜ キャリアを生成するのか,などの理論的な理解が できていません.半導体物理の入門書を入手しましたので 少しずつ勉強していきたいと思っています.
    お忙しいところ,お返事ありがとうございました.
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    132.金属のキャリア濃度


    Date: Mon, 28 Oct 2002 13:40:54 +0900
    Q2: N大学のOです.
    先日はどうもありがとうございました(
    有効質量の件). 再度,お聞きしたいことがありましてメールしました.
    実は電子濃度ne(m-3)をしりたいのですが,Kittelの固体物理学入門には いくつかの物質についての値は載っていたのですが,Mo,Ni,Ti,Zr,Nb,Vなどの 載っていない物質に関してデータは見当たりませんでした.
    LBにも見当たりませんでした.
    参考になるものがありましたら教えてください.
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    Date: Mon, 28 Oct 2002 20:16:39 +0900
    A2:O様、佐藤勝昭です。
     Drudeの式から求めたキャリア濃度nはplasma frequency ωpから求め られます。拙著「光と磁気」(改訂版)p.64 式(4.16)より
    、 ωp2=(n e2/m*ε0)です。したがって、ωp[rad/s] がわかれば、 n=m*ε0ωp2/e2 [m-3]として求められます。 一例として、Moのh'ωpは文献によってばらついていますが、5.2-6.2eV の間にばらついています。仮に、6eVとしておきますと、ωp=9.11x10 15[rad/s]です。これを代入すると
    m*=m=9.1x10-31[kg]、e=1.6x10-19[C]、ε0=8.85x10-12[F/m]として n=9.1x10-31x8.85x10-12x(9.11x1015)2/(1.6x10-19)2 =2610x1025=2.61x1028[m-3]=2.61x10-22[cm-3]ということになります。
    h'ωpはLBに出ていますので、同様に計算してください。
    ただし、LBでは、どのような式を使ったかが、A, B, C, Dとなっていま すので、正確には、それぞれの文献に戻ってください。しかし、だいた いの値でよいのなら、上記の方法でも大きな違いはないと確信していま す。
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    Date: Tue, 29 Oct 2002 11:06:49 +0900
    佐藤様,名古屋大学のOです.
    早速,LBおよび佐藤様の「光と磁気」にて調べてみます.
    どうもありがとうございます.
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    133.金属微粒子のプラズモン励起


    Date: Tue, 29 Oct 2002 01:59:46 +0900
    Q: 初めまして、N大のKと申します。
    HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見しました。
    早速ですが教えてください。
    物性の勉強をしているのですが、「金属微粒子のプラズモン励起のメカニズム」につ いてなかなか理解することができません。わかりやすい説明をお願いしたいと思いま す。よろしくお願いします。
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    Date: Tue, 29 Oct 2002 12:34:45 +0900
    A: Kさん、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    金属では、自由電子の集団運動のためにプラズマ振動がおきます。その固有周波数はプラズマ周波数とよばれます。プラズマ(角)周波数をωpとすると、ωp=√(ne2/m*ε0)の関係が成り立ち、ダンピング項がなければ、ωp以下では誘電率は負となり、光は全反射されます。
     一方、金属薄膜が誘電率εmの誘電体と接しているとき、界面に電荷の揺らぎが生じる(界面上に正電荷の分布と負電荷の分布が波状に生じる)と、それによる表面プラズマ振動が存在しますが、この波は界面から離れるに従って指数関数的に減衰するエバネセント波です。表面プラズマ周波数ωspは、ωspp/√(1+εm)で与えられます。  同様に誘電率εmの媒質中に分散した誘電率ε(ω)の金属微粒子でも表面プラズマが考えられます。微粒子が球状をしているとしますと、
    ε(ω)=1-ωp22=-{(l+1)/lmを満たす角振動数ωのところで、整数lで指定される表面プラズマが生じます。l=1のモードはFroehlich modeと呼びます。l→∞では、平面の表面プラズマになります。(この文章は、大成誠之助「固体スペクトロスコピー」(裳華房1994)のp31「表面プラズマ」の項を参照しました。)

     プラズモンというのは、プラズマ振動を第2量子化して得られる量子で、振動の振幅が大きいのはプラズモン量子が多数励起されたと解釈するのです。
     以上、金属微粒子においては、金属自身のプラズマ周波数より低いとびとびの周波数でプラズマ振動が起きるのです。これを微粒子で表面プラズモンが励起されたといいます。微粒子の周りにはエバネセント場があるので、ここにもう一つの微小物体を近づけると、散乱され伝搬する光波に転換されます。これが、金属微粒子を用いた近接場顕微鏡(SNOM)の原理です。

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    134.透明電極


    Date: Tue, 29 Oct 2002 15:51:03 +0900
    Q: はじめまして。
    私は、H大学学校教育教員養成課程に所属していますSという者です。
    突然メール致しまして誠に申し訳ありません。
    私は、「光合成とエネルギー」をテーマに卒論を書いているのですが、実験の最に 必要になった、透明電極について調べていてこのWebページにたどり着きました。 質問は、「透明電極とはどのような物なのか。」「どこが開発した物なのか。」「 購入するにはどうしたらいいか。」という3点です。
    お忙しい中誠に申し訳ありませんがご存知であれば教えて頂ければ幸いです。 よろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 29 Oct 2002 20:31:14 +0900
    A: H大S様
     メールありがとう。透明電極とは、SnO2:Sb(アンチモン添加酸化スズ, 通常NESAと呼ばれる)、In2O3:Sn(スズを添加した酸化インジウムindium tin oxide=ITO)、ZnO:Al(アルミニウムを添加した酸化亜鉛)など、酸 化物の薄膜で導電性のあるものをいいます。一般に酸化物はバンドギャ ップ・エネルギーEgが大きく、光学吸収端が紫外線の領域にあるので、 可視光は吸収されず透過しますから透明です。多くの酸化物はキャリア (電子またはホール)密度が低いので絶縁体になりますが、NESAやITOや ZnO:Alなどはキャリア密度が高く、金属的な伝導を示します。これが透 明電極の原理です。
    (電子情報通信学会編「先端デバイス材料ハンドブック」オーム社1993, p430, または, 応用物理学会編「応用物理ハンドブック」丸善2002, p. 389参照)
     透明電極の歴史は古く長い間主流としてはNESAが使われていました。 たぶん、米国の航空機用ガラスの会社が霜の付着防止用として電流が流 せるガラスを開発したのが最初だと思います。
    PPGという航空機部品の 会社のホームページには
    「In 1946, PPG introduced NESA glass windshields with a transparent electrically conductive coating for deicing and defogging capabilities on commercial and military aircraft. When commercial jets appeared in the mid- 1950s, they were equipped with bird-resistant windshields of laminated NESA glass. NESA glass windshields are designed for aircraft equipped with AC power. A conductive coating of pyrolytic tin oxide is applied to the inboard surface of the windshield's outboard ply. Resistivity range is approximately 30 ohms/square and higher, and power dissipation 6 watts/square and lower. 」とあります。
    ITO付きガラスの購入は、日本電気硝子㈱、旭硝子㈱、日本板硝子㈱な ど液晶用の透明導電膜付きガラスを作っている会社に問い合わせてくだ さい。
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    Date: Fri, 01 Nov 2002 12:04:38 +0900
    AA: H大学のSです。早速のご回答ありがとうございました。
    旭硝子㈱に問い合わせをし、資料請求をしました。
    また質問することもあると思いますが、そのときは宜しくお願いいたします。
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    135.キャリア活性化


    Date: Tue, 29 Oct 2002 19:01:58 +0900
    Q: 東京農工大学 佐藤先生
    お世話になります。
    突然このようなメールをさせて頂き失礼かもわかりませんが、ご容赦下さい。
    私は自動車会社の研究所で化合物半導体(SiC)の研究開発をしております。
    実は「温度とキャリア濃度」の相関を調べておりまして、先生のHPを拝見 させて頂きました。
    先生の、学生の向学のために尽力されていらっしゃる様子に感じ入りました。

    それで、唐突で恐縮ですが質問させてください。
    「物質の不思議Q&A」の「半導体の不思議」で、 No25の先生の回答の内容についてです。 基本的なことです。

    「ドナーやアクセプタの束縛エネルギーをΔEとすると、キャリア数nは
    n=n0*EXP(-ΔE/kT)
    という式を挙げられ、例えばΔE=100meVの不純物のときは、室温でn=0.018n0となり、2%以下しか 活性(キャリアを放出)しない」とご説明されています。
    また、それより下では、シリコン中のドナーの束縛エネルギーを24meVと計算され、同様に室温で40%程度 活性(キャリアを放出)する、と書かれています。

    私は、
    n∝EXP(-ΔE/kT)は認識しておりましたが、その係数がn0(不純物濃度)だと は、知りませんでした。
    また、私の認識では、「室温の熱エネルギー~25meVで、束縛エネルギーが24meV であれば、ドナー(もしくはアクセプタ)はほぼ100%キャリアを放出する」 というものですが、間違っていますでしょうか?

    それとも、私は、先生の書かれた「束縛エネルギー」を、いわゆるバンドギャップ中 の「不純物準位」と解釈しておりますが、違いますでしょうか?

    突然質問させて頂きまして恐縮です。
    もしご回答が頂けるのでしたら、何かのついでのおりで構いません。

    まずはご質問方々ご挨拶まで。
    日産自動車㈱ 金子佐一郎
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    Date: Tue, 29 Oct 2002 21:02:15 +0900
    K様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
     ご指摘の通り、キャリア密度の正確な導出は、もう少し複雑です。
     佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社1991)の第2章のp39に詳しく出 ていますが、正確にはフェルミ分布を考えなくてはなりません。
    この本の式(2.27)にありますように自由電子濃度が低いn<Ndの領域では n=√(NdNc/g)・exp(-Δεd/2kT)と書いてあります。つまり正確にはドナー の活性化エネルギーはドナーの束縛エネルギー(伝導帯から測ったドナ ー準位の深さ)の1/2なのです。従って、24meVの束縛エネルギーの場合 はexp(-12/50)=0.7866となり、80%活性化しています。
     また、Noというのは間違いで、√(NdNc/g)とするのが正しいことは、 いうまでもありません。ここにNcは伝導帯の底の実効状態密度です。これも 先の本の式(2.9b)にあるように、Nc=2(m*kT/2πh'^2)^3/2というややこしいものです。 それで、私は、入門時の学生におよその概念をわかって貰うために、かなり雑 な話をしています。正確さを求めて、本質がわからなくなるといけない からです。ここでは、expの依存性によって如何に大きな変化をするかを認識して 欲しかったので、厳密さに目をつぶって、あのような表現をしました。
    しかし、確かにHPにはり付けますと、一人歩きをするのでまずいので、 訂正をいたしました。
     ご指摘ありがとうございました。
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    Date: Wed, 30 Oct 2002 13:52:56 +0900
    東京農工大学 佐藤先生

    昨日の突然の質問に対しご回答頂きまして どうも有難うございました。
    該当の箇所を修正して下さりましたようで、恐縮しております。

    「わかりやすく本質を教えるため」には、こまかいことは 後回しでいいと、私個人的には本当にそう思いますし、 そういう融通の利く先生に出会えずに、理解に時間がかかった、 遠回りした、ということは誰しも経験してると思います。

    私は、そういう先生のご配慮を妨げるようなことをするつもりは 毛頭なくて、単にわからなかったので質問させて頂きました。

    ご回答どうも有難うございました。

    取り急ぎご連絡方々御礼まで。
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    136.薄膜の柱状構造


    Date: Thu, 31 Oct 2002 01:45:13 +0900 (JST)
    T大のEと申します。
    度々質問させて頂いております。
    今回、薄膜の成長に関してお聞きしたいことがありメールさせて頂き ました。

     1つ例を挙げさせて頂きますと、RFイオンプレーティングでは10-3Torr 程度で作製した薄膜と10-5Torr程度のガス圧で作製した薄膜とでは、前者 の場合柱状構造となりますが、後者では緻密な構造になるそうです。ここ で言う緻密な構造と言いますのが、具体的にはどんなものなのかよくわか りません。また、柱状構造はなぜよくないのでしょうか。ちなみに材料に もよるでしょうが、抵抗加熱の真空蒸着の場合柱状構造はできやすいので しょうか。
    お忙しいところ申し訳ありませんが、御解答を頂ければ幸いです。 それでは、失礼します。
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    Date: Thu, 31 Oct 2002 12:36:38 +0900
    E様、佐藤勝昭です。
     柱状構造は、文字通り柱のように基板上に結晶粒が立っている構造で、 柱と柱の間には隙間ができます。緻密な構造というのは、結晶の粒と粒 の間が密着して隙間の少ない構造です。スパッタで作製したMoなどは柱 状だけれど隙間のない構造をしています。もちろん、ごろごろした丸い 構造をもつ場合もあります。抵抗加熱でも柱状構造はできると思います が、あなたのいうとおり、材料によるでしょう。
     RFイオンプレーティングによるCISの作製に関しては、 「物理系学術誌刊行協会(IPAP)」(JJAP, JPSJを出版しているNPO)が 2002に刊行した「Japanese Research Review for Pioneering Ternary and Multinary Compounds in the 21st Century」という本のp151-161に、 H. Sano, K. Kondo, K. Sato: Growth of CuIn(S,Se)2 Films by Ionized Cluster Beam and Ion Plating Techniquesというのがありますので、 参考にしてください。
    この本は図書館にないかもしれませんが、T大学なら開発工学 部の松下先生がお持ちのはずです。
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    137.絶縁体の光吸収


    Date: Mon, 4 Nov 2002 02:28:45 +0900
    Q: こんにちは、以前質問をさせていただいた東京理科大4年の田中 と申します。前回は丁寧にご回答いただき、ありがとうございます。 先生のホームページは私のような光関連の研究をしている者にとっては 非常にありがたい存在であると感じています。
     現在、私はレーザーの研究をしているのですが、金属、半導体、 絶縁体の光吸収について疑問をもちました。金属に光を当てた場合、 金属には自由電子が豊富にあるため、その自由電子によって吸収や 反射が起こると教科書等に書いてありました。また半導体については 価電子帯から伝導帯への電子のバンド間遷移が起こり、光吸収が起こ るということまでは理解できました。しかし絶縁体に関しては、少し疑問 があるのです。絶縁体はバンドギャップの非常に大きな半導体と考える ことも出来ますよね?半導体の場合には入射する光のエネルギーE=hν がバンドギャップエネルギーEgよりも大きければ、電子を価電子帯から 伝導帯へ遷移させ、光の吸収が起こります。絶縁体に関してもバンド ギャップエネルギーEgよりも大きな光エネルギーを持つ光ならば電子を 遷移させられると思うのですが、絶縁体はバンドギャップが非常に大きい ため、大抵の光は吸収せずに、透過してしまうのでしょうか?だとしたら 絶縁体の全ては透明物質ということになるのでしょうか?また高分子など の絶縁体に関してはどうなのでしょうか?あるいは光の吸収は電子と光の エネルギーのやり取りだけでは説明できないのでしょうか?
     かなり長くなってしまい申し訳ございません。お忙しいところ恐縮ですが どうかよろしくお願いします。
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    Date: Mon, 4 Nov 2002 13:35:14 +0900
    A: 田中君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。私は現在超多忙なのですが、あなたのようなファンが多いので「なん でもQ&A」のコーナーは、続けていかなくっちゃと頑張っています。
     さて、金属、半導体、絶縁体の光吸収の違いを問題にしておられますので、電子構 造との関係でご説明します。
     金属でも、半導体でも、絶縁体でもバンド間遷移が光吸収の主な原因です。
     金属においては、あなたの言うとおり自由電子起源のDrude則で決められるような誘 電率のスペクトルが付け加わりますが、バンド間遷移による誘電率のスペクトルとの 重畳により、合成された誘電率は複雑なスペクトルを示します。銀では、4eV付近で誘 電率がゼロをよぎり、これ以下の周波数(光子エネルギー)では誘電率の実数部は負 となり、100%近い高い反射率をもたらします。4eV以上のスペクトルは殆ど銀のバンド 間遷移によるものです。
     半導体においては、価電子帯から伝導帯への光学遷移が光吸収と反射とを決めてい ます。シリコンが銀色の金属光沢をしているのは何故でしょう。シリコンでは、 3.5eV, 4.5eV付近に反射のピークがあり、4eVでは反射率は70%に達しますが、これ は、直接光学遷移によるピークです。強い吸収があると電子分極による誘電率が大き くなるため、屈折率も大きくなり、この結果反射も大きくなります。シリコンの強い 反射は、金属の場合と違って価電子が関与するのです。
     一方、絶縁体とは何でしょう。
    バンドギャップが大きいだけでは、絶縁体になると は限りません。ITO, SnO2など透明導電体(TCO)は無色透明ですが、あたかも金属のよ うな電気伝導をもちます。GaNもバンドギャップは4eV近いのですが、半導体としてp n接合を作りLEDさえ作ることができます。ドナーとアクセプタの補償によってキャリ アが殆どいない状態が絶縁体なのです。ドープしなくても真性格子欠陥(intrinsic defect)によってドープされます。バンドギャップが1.5eVしかない不透明なGaAsでさ え、Crを添加すればキャリアを捕獲して「半絶縁性」という状態になります。
     従って、絶縁体においても、光吸収の主原因はバンド間遷移です。しかし、不純物 や欠陥による吸収帯がバンドギャップ以下の光子エネルギー領域に生じます。透明物 質における着色現象は、このような吸収帯によるものです。
     高分子における光吸収は、価電子帯から伝導帯へのバンド間遷移に相当するHOMO(最 高占有分子軌道)からLUMO(最低非占有分子軌道)への光学遷移が原因ですが、一種の励 起子状態です。高分子の場合、電子励起によって分子結合が変化することもありま す。
    --------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 4 Nov 2002 20:58:16 +0900
     東京理科大学の田中です。大変お忙しい中、早速のご回答ありがとう ございます。絶縁体としての定義はバンドギャップが大きいことではなく、 キャリアがほとんどない状態なのですね。また絶縁体の光吸収に関しても バンド間遷移が起こり、バンドギャップ以下の光子エネルギーでも不純物 や格子欠陥によって吸収があることがわかりました。自分は光吸収につい て、簡単なモデルで説明がつくと考えていましたが、そう単純ではないので すね。
     今回は大変お忙しい中、丁寧にご回答いただき、大変ありがとうござい ました。
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    Date: Tue, 5 Nov 2002 13:42:31 +0900
    A2: 田中君、佐藤勝昭です。
     あなたの理解でよいと思いますが、少し付け加えさせて頂きます。  4年生には難しいと思って、前回の回答に書かなかったのですが、絶 縁体には、バンドギャップが開いている通常の意味での絶縁体(Wilson の絶縁体)と、本来は金属なのだけど電子相関のために電子の移動が妨 げられる絶縁体(Mott局在)、ランダムなポテンシャルの揺らぎに電子が 捉えられて電子が局在する絶縁体(Anderson局在)などがあります。  遷移金属の酸化物、たとえば、NiO, MnOなどはMott insulatorと考え られています。3dバンドが電子相関によって2つに分裂し、その間にギ ャップが生じます。このようなギャップをMott-Hubbard gapと呼びます。 Mn2+(3d^5)からMn2+(3d^5)へ電子が移動するときに同じスピンの電子は 同じ軌道に入らないのでエネルギーの変化はないが、反対向きスピンの 電子が来ると同じ軌道に入るためクーロンエネルギーが高くなって、移 動せず局在したほうが安定であるというのが電子相関の原理です。この ような酸化物絶縁体では、遷移金属イオンの3d^n多電子系特有の配位子 場遷移が見られます。MnOの緑色の着色の原因は配位子場遷移によるも のです。 また、MnOの場合、Mott-Hubbard gapの間に酸化物イオンの 2pバンドが入り込む形になるので、酸化物イオンの2p軌道からから遷移 金属イオンの3d軌道への電荷移動遷移による強い光吸収も見られます。 このため、MnOのギャップは、電荷移動ギャップと呼ばれます。  一方、Anderson局在の例はアモルファスSi:Hです。ギャップ内に状態 密度が存在しますが、電子はポテンシャルの揺らぎの深いところに捕捉 されて動けないので絶縁体になります。  難しいでしょうが、今後勉強してください。 -------------------------------------------------------

    138.光学ローパスフィルタ用IRフィルタ


    Date: Wed, 06 Nov 2002 11:33:21 +0900
    Q: C社のAと申します。HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見いたしました。 突然のメール送信をお詫び申し上げます。
    現在、私は光学ローパスフィルターの原理等を調べています。
    光学ローパスフィルタには複屈折板や位相板の他に、赤外カットフィルターが用いら れています。
    この赤外カットフィルターはなぜ必要なのでしょうか?
    お忙しい中、恐縮ですが、頂ければお教えください
    -----------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 6 Nov 2002 13:16:01 +0900
    A: A様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。この関係の専門家である電気電子工 学科の高木助教授に尋ねましたところ、オプティカルローパスフィルタ (光学空間周波数低域透過フィルタ)はCCDカメラなどでモワレを消去 したりするために使われていますが、赤外カットを入れるのは、CCDカ メラが赤外に感度を持つので可視光域に限るために入れているだけで、 ローパスフィルタとしての作用には関係ないということです。
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    Date: Wed, 06 Nov 2002 13:32:26 +0900
    AA: Aです。私の勉強不足のため先生にお手数をかけさせ申し上げありませんでした。
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    139.Birch-Murnaghan の状態方程式


    Date: Wed, 06 Nov 2002 17:22:33 +0900
    Q:こんにちわ、T大学Tです。
    HPをみて質問させていただきます。
    超高圧(1万気圧以上)において物質のBulk Modulusを比較しようと思います。
    そこで
    Birch-Murnaghan の状態方程式を用いて0気圧のときのBulk Modulusを計算したいのですが、次式

    P=3/2K{(ρ/ρ0)(7/3)-(ρ/ρ0)(5/3)}{1+3/4(K'-4)[(ρ/ρ0)(2/3)-1]+・・・・・}

    においてK(0気圧のときのBulkModulus)、K'、ρ0(0気圧のときの密度) を求めたいのです。ここでわかっているのはPとρです。
    この場合いくつかのデータからフィッティングをすると思うのですが 私はエクセルVBAでかかせて見たいと考えています。 とりあえず、とった方法とはK'は4と仮定します。 ρ0を細かく変化させてKを出していきます。 変化させるρ0ごとに、各圧力におけるKを求めます。 当然Kにばらつきがでます。
    そのKの平均を求めて、平均から各値の差を二乗値にして足しました。 (真のKはどの圧力においても一定であると考えたので・・・) この二乗値の総和が最小(極小)になるρ0を最適値としてきめ、 真のKをそのときの各圧力において算出したKの平均としました。
    なんだか最小二乗法の変形みたいですが、どうもこのような 方法でよいのかわかりません。問題はどこにあるでしょうか。
    また、カレイダグラフに搭載されているアルゴリズムは だいぶ違うようですし、エクセルのVBAで実現できるような 方法がありましたらお教えください。
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    Date: Wed, 6 Nov 2002 21:19:59 +0900
    A:T様、佐藤勝昭です。
     私は、超高圧の専門家ではないので、その状態方程式を使ってよいも のかどうかよくわかりません。
    Kを一定にしてよいのでしょうか。超高圧の専門家の岡山理科大学の 財部健一先生(takarabe@das.ous.ac.jp)にお尋ねになってはいかがでしょうか。 農工大の佐藤の紹介だと言ってください。
    なお、式の物理的意味はともかくエクセルでフィッティングするのは難 しいのではないでしょうか。FittingはMathematicaを使われたらいかが でしょうか。
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    Date: Wed, 06 Nov 2002 22:14:15 +0900
    Q2:佐藤様
    お忙しい中、早速のご返事ありがとうございます.
    私はあまり詳しいわけではありませんが、状態方程式は有名論文中で使われているの でこの状態方程式を使うことは妥当であると思います.
    またBulk Modulus Kは一定でよいと考えています.
    超高圧状態ではBulkModulus はもはや一定ではなく、圧力によって変化するので 0気圧でのKの比較になるというふうに理解していますが・・・.
    この式のKは0気圧でのKの値です.
    一度 Mathematica に挑戦したいと思いますが、 どちらにしてもフィッティングのアルゴリズムが知りたいのですが・・・ お忙しい中、本当にありがとうございました.
    このように質問できるのは心強いことです. また、ご紹介ありがとうございました。
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    Date: Fri, 8 Nov 2002 19:59:46 +0900
    A2:田中様、佐藤勝昭です。
     Birvh-Murnaghanについては、 東大の安田先生のサイトでよくわかりました。貴方の考えでよいと思いました。
     なお、お尋ねのフィッティングのアルゴリズムですが、Mathematica でも簡単にできるのは整数べき関数の場合です。そこで、Birch- Murnaghanの展開式において、ρ1/3を新しい変数xに置き換え、簡単 のため3/4(K'-4)=aとし、ρ0-1/3=bとすると
    P=3/2K{b7ρx7-b5x5}{1+a[b2x2-1]+・・}
    =3/2K{(1-a)(b7x7-b5x5)+ab9x9-ab7x7+・・}
    =3/2Kb5{-(1-a)x5+(1-2a)b2x7+ab4x9+・・}
    =Ax5+Bx7+Cx9
    となるので、このようなべき多項式に最小二乗法でフィットして係数を 決めるのはそれほど難しくないのではないでしょうか。(素人考えで申 し訳ありません。間違っているかもしれませんが。)
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    Date: Mon, 11 Nov 2002 17:09:06 +0900
    AA: 大変に参考になりました。いただきました式を検討してみます。
    またよろしくお願いします。
    ありがとうございます。
    -----------------------------------------------------------------

    140. IH鍋


    Date: Fri, 08 Nov 2002 16:36:42 +0900
    Q: 物性なんでもQ&Aを見てメールしました。
    始めましてEセンターの重松と申します。
    他の人から相談されたことについてお教えください。
    IH(電磁誘導加熱で渦電流のまさつ等によって加熱される) で調理する鍋ですが材質についてはアルミの表面に鉄粉をコーティングしているもの ですが初めは普通に暖かくなるのですが、途中から加熱しなくなるというのですがそ の原因について知りたいのですが。鍋の形状は加熱できるものと変わらないというこ とです。よろしくお願いします。
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    Date: Fri, 8 Nov 2002 18:22:07 +0900

    A: 重松様、佐藤勝昭です。
     私はIHの専門家ではないので一般論でお答えします。鉄の鍋であれば、 鍋全体が発熱体となりますので、話は簡単なのですが、鉄粉の部分で発 熱し熱輸送でアルミが加熱されるのですから、鉄粉で発熱した熱量ΔQ、 アルミの鍋の熱容量Cとすれば、断熱状態ならばΔT=ΔQ/Cとなります。 鍋の熱容量Cが大きければ温度は上がりません。それでも、絶えず熱を 与え続ければ、温度は積分されどんどん上昇するはずですが、実際には、 温度が高くなると熱放射や伝導で熱は逃げますから、どこかでバランス します。その到達温度が低いだけのことでしょう。従って、発熱量を多 くするためにコーティングの量を多くするか、鍋の熱容量を下げるため、 薄い鍋を使うか、熱放射を少なくするように二重構造にして、間に空気 の層をはさむとかを考えればよいのではないでしょうか。
     なお、アルミ/鉄粉コーティングを何層かにすれば、効率が上がると 思いますが、どこかのメーカーで出していたのではないでしょうか。
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    141.YIGと反射膜


    Date: Thu, 8 Nov 2018 16:58:43 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生
    金沢工大の佐々木と申します。HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見い たしました。突然のメール送信をお詫び申し上げます。

    私は光アイソレータなどに利用されているYIGについて研究しています。
    シリカ基板上に、SiO2-Ta2O5-SiO2-Ta2O5-YIG-Ta2O5-SiO2というようにして反射 膜を作製しました。
    この反射膜の果たす役割はなんですか?そもそも、反射膜とはどのようなものな のでしょうか?
    質問の意味が分からないかもしれませんが、平たく言うと、なぜYIGの前後に反 射膜を作製する必要があるのでしょうか?ということです。
    もうひとつ質問があります。よく光アイソレータの説明で、「光源-偏光板①- ファラデー回転子-偏光板②」という図が用いられていますが、偏光板②は 必要ない気がするのですが、どうなのでしょう?

    (光源から出た光は偏光板①を通り、ファラデー回転子で45°回転され偏光板② を通る。戻ってきた光は偏光板②を通り、ファラデー回転子でさらに45°回転さ れるので偏光板①と直交するので、光は戻っていかないという図です。)
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    Date: Fri, 8 Nov 2002 18:48:05 +0900
    A: 佐々木様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。背景がわからないのですが、貴方は、 金沢工大の学生さんで、指導教官からSiO2-Ta2O5-SiO2-Ta2O5-YIG- Ta2O5-SiO2の構造を作るように言われたのだが、意味がわからないとの で質問しておられるとしてお答えします。
     本来は、テーマを与えた指導教官に聞くのが筋だと思いますが、何か 事情があって聞けないのではないかと拝察します。

    第1のご質問:
     ご質問の構造は、1次元磁性フォトニック結晶というものです。これ については、豊橋技術科学大学の井上先生がご専門です。たとえば、
    磁性フォトニック結晶のサイトには、(SiO2/Ta2O5)5/Bi:YIG/(Ta2O5/SiO2)5  という構造による光学応答のスペクトルが描かれています。基本的に、 誘電率の異なる2種類の光の波長オーダーの媒体層が交互に積層した 多層構造(たとえば、SiO2/Ta2O5反射膜)を作ると、ある波長領域の 光が透過できなくなります。これは電子波に対する周期ポテンシャルが 作るバンドギャップに似ているのでフォトンに対するバンドギャップと 考えてフォトニックギャップといいます。あるいはこの構造をフォトニック結晶 といいます。
     この構造の一部に周期性を乱す層を入れますと、そこに光が局在し、 透過域が生じます。この層として磁性体を使ったものが磁性フォトニッ ク結晶です。磁性体の中だけで磁気光学効果が起き、光もこの部分に集 中するので、大きな磁気光学効果が期待できるというのが、井上先生の 主張です。これにより本当に性能指数が上がるのかという疑問を投げか ける研究者もいますが、私はコメントする立場にありませんので、判断 は貴方の指導教官にお任せします。

    第2の質問:
     光アイソレータで第2の偏光板は必要ないのではないかという質問で すが、光ファイバーからの戻りビームは、単純な鏡で反射されたビーム と違って、いろいろの方向の偏光が含まれています。ファラデー素子で 45°回したあと偏光板①を通り抜ける偏光がたくさん戻ってくるので す。それでは困るので、偏光板②を入れるのです。
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    Date: Mon, 12 Nov 2018 13:14:32 +0900
    AA: 佐藤勝昭先生
     素早い回答ありがとうございました。今後は磁性フォトニック材料についても 勉強していきたいと思います。
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    142.熱電効果について


    Date: Sun, 10 Nov 2002 23:08:01 +0900
    Q: はじめまして、大学に入りたてのRYOというものです。今回、ゼーベック (Seebeck)、トムソン(Thomson)、ペルチェ(Peltier)効果について調べる事になった のですが、いろんな文献やHPをあたっても難解でよくわかりません。簡潔に教えてい ただけないでしょうか?
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    Date: Tue, 12 Nov 2002 15:51:41 +0900

    A: RYO君、佐藤勝昭です。
     応用物理学ハンドブック(丸善2000)p.522に簡潔に書いてあるので 参考にしてください。その内容を以下に解説しておきます。
     ゼーベック効果は、熱起電力効果ともよばれ、導体の棒状試料の両端 に温度差を与えると、電子が高温側から低温側に運ばれ、高温側が正に 低温側が負に帯電し、電位差が生じる現象です。n形半導体では、高温 側が正ですが、p形半導体では高温側が負です。(ここに、n形半導体 というのは、電子が電気を運ぶ半導体で、p形半導体というのは、ホー ルが電気伝導を運ぶ半導体です。詳しくは、半導体の勉強をしなければ なりませんが、1年生ではちょっと難しいかもしれませんね。)  電位差を温度差で割ったものがゼーベック係数です。
     熱起電力は、物質によって異なるので、2種類の導体を接触させて電 位差を生じさせるのが熱電対という温度センサです。
     トムソン効果は、単一の導体に温度勾配を与えて電流を流すときに、 ジュール熱(抵抗による電力消費にともなう発熱)以外に熱が放出され たり、吸収されたりする現象です。この効果により単位時間に発生する 熱量は電流密度(単位断面積あたりの電流)と温度差に比例します。この 比例係数をトムソン係数といいます。同じ温度差があるときに電流の向 きを反対にすると、この熱量の符号が反対になります。(ジュール熱は 電流の向きに関係ないので、区別できるのです)トムソン係数は、ゼー ベック係数の温度勾配に比例しますから、もし、ゼーベック係数が温度 に対し一定ならこの効果は生じません。
     ペルチエ効果は、異なる物質を接触させたときに、境界面でジュール 熱以外の熱の発生や熱の吸収が起きる現象です。電流は境界面をはさん で連続的に流れますが、熱量(エネルギー)は連続とならないことから生 じます。特に電子がp形半導体とn形半導体の接合面を抜けて通るとき に接合面から熱を持ち去ります。電流を反対に流すと、通過の際に熱を 発生します。これを使ってコンプレッサーのない冷蔵庫を作ることがで きますが、今のところ効率が低いので、特殊な用途以外には使われてい ません。
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    143.光伝導について


    Date: Wed, 13 Nov 2002 15:46:24 +0900
    Q: HPを拝見させていただいております、神戸大学工学部M1の細川大輔と申します。
    光伝導度について質問させていただきたいと思いメールさせていただきました。
    試料に光を当てた時に電流が増加するのは光のエネルギーを受けて、価電子帯にあった電子が 伝導帯にいくからと理解してよろしいのでしょうか?
    また光伝導度のスペクトルに束縛励起子や自由励起子のためのピークがでるのは なぜなのでしょうか?
    すごく基本的なことをお聞きして申し訳ないのですがご教授お願いいたします。

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    Date: Wed, 13 Nov 2002 22:04:15 +0900
    A: 細川君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。
    導電率σは、キャリア密度n、移動度μ、電荷qとすると
     σ=nqμ
    と書けます。貴方の言うように光照射により価電子帯から伝導帯に電子 が励起されたり、ドナーから電子が励起されたりしてキャリア密度nが 増加するとσが増加します。このため、同じ電界Eが加わっているなら、 σが増加した分だけ電流が増加するのです。増分はΔI=(Δn)qμEと 書けます。これが光電流です。
     光伝導スペクトルに励起子のピークが出るのはなぜかというのは、本 質をついた質問です。なぜなら、励起子は電流を運ばないからです。
     励起子の束縛エネルギーはたとえばGaAsでは5meV程度なので、液体ヘ リウムの温度では、解離しませんが、液体窒素の温度ではkT~6meVとな って励起子は解離します。するとキャリアになって伝導に寄与します。  もう一つのケースは、励起子が解離しないで、基底状態に緩和すると き、そのエネルギーを他のセンターが吸って、伝導帯に電子を励起する Auger(オージェ)過程です。フレンケル励起子などでは、このようなエ ネルギー伝達による過程が普通だと思います。励起子に限らず、遷移金 属不純物の結晶場遷移で光伝導が出る場合に、このような過程が考えら れています。
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    Date: Thu, 14 Nov 2002 16:22:10 +0900

    Q2:神戸大学の細川です。
    早速のお返事重ね重ねありがとうございます。 明日も実験なので、とりあえず波長の範囲を広げて測定してみようと思います。
    ところで吸収端のお話をされていましたが、 先生のHP他で読んでみたのですが、ちょっとイメージができていない状態です。 申し訳ないのですが、吸収端についてご教授お願いしたいのですが...。
    なにからなにまですみません。
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    Date: Thu, 14 Nov 2002 18:15:10 +0900
    A2: 細川様、佐藤勝昭です。
     光学吸収端について説明して欲しいと言うことなのですが、 通常の電気電子系または物理工学系のM1学生なら習っているはずですし、 知っているべきです。キッテルにも載っていますし、
    拙著でいえば、 佐藤・越田著「応用電子物性工学」(コロナ社、1989)のp.94-98
    佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社、1991)のp.109-119
    山田・佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社、1995)のp169- 172
    などに説明していますが、バンドギャップを超える光学遷移に伴って、 ある光子エネルギー以上になると吸収が増加していくとき、その光子エ ネルギーを光学吸収端または、光学的バンドギャップといいます。
     吸収端付近の吸収スペクトルは、(許容遷移の場合)
    直接遷移ならα=A(hν-Eg)^(1/2)/hνのように立ち上がり、
    間接遷移ならα=B(hν-Eg)^2/hνのように立ち上がります。
     ここにαは吸収係数、hνは光子エネルギーです。
    わからないことがあるとHPで調べるというのもよいですが、HPに頼らず に、自分で教科書をじっくり読む習慣をつけないと、大学院生としての 実力がつかないですよ。
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    Date: Thu, 14 Nov 2002 23:38:54 +0900
    AA2: 神戸大学の細川です。
    本当に自分で調べないといけないなあと思いました。
    今回は本当にありがとうございました。
    HPの更新がんばってください。
    楽しみにしています。
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    144.半導体のサブギャップ吸収


    Date: Fri, 15 Nov 2002 11:31:30 +0900
    Q: 東京理科大の田中です。
    前回の質問の回答で、 絶縁体にもいろいろあり、ますます一筋縄ではいかないことがわかりました。
    今後頑張って勉強しようと思います。
     ところで、絶縁体に関しては不純物や欠陥による吸収があり、光子エネルギーがバ ンドギャップエネルギーよりも小さくても吸収が起こるということでしたが、 半導体に関してもそのようなことがいえるのでしょうか?それとも半導体に関しては 別の吸収機構があるのでしょうか?大変お忙しいところ大変恐縮ですが、どうかよろ しくお願いいたします。
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    Date: Fri, 15 Nov 2002 14:54:04 +0900
    A: 田中様、佐藤勝昭です。
     半導体も絶縁体も基本的には同じです。
    半導体におけるギャップ内吸収についてまとめてみましょう。
    (1)フォノン(格子振動の量子)による吸収
     半導体にイオン結合性があると赤外線領域の光が、フォノンのうち光 学モードのフォノンと結合し吸収が現れます。たとえば、アモルファス シリコン(a-Si:H)では2000cm-1(=0.25eV)付近にある赤外吸収によって よい膜か悪い膜かを判定します。また、不純物による局在モードのフォ ノンを検出して、シリコン単結晶の不純物分析につかうことも行われて います。
    (2)自由電子による吸収
     金属だけでなくキャリア数の多い半導体には自由電子による吸収があ ります。自由電子のプラズマ振動による吸収はドルーデの式で表されま すが、これは、光子エネルギーとともに1/{1/τ2+(hν)2}で変化しま す。太陽電池の透明導電膜の導電率を上げるためにキャリア数を増やす と、自由電子吸収が増加して赤外透明度が落ち、却って変換効率が落ち ることがあります。
    (3)バンド内遷移による吸収
     半導体の価電子帯は、スピン軌道相互作用によってサブバンドに分裂 しています。フェルミ準位が価電子帯の中に来ますと、価電子帯内のサ ブバンド間の吸収が生じます。縮退したGaAsでは、0.2, 0.4eVにこの吸 収が報告されています。
    (4)格子欠陥による吸収
     NaClなどアルカリハライドでは、紫外線を当てると色が付く現象があ りますが、これは金属の空孔(空格子点vacancy)ができて、それに捕ま った電子が関与した光学遷移が起きるからです。半導体でも、バンドギ ャップが小さいからわかりにくいだけで、紫外線を当てると生じる光吸 収が見られることがあります。このような点欠陥をこの業界では「色中 心」(color center)と呼んでいます。空格子点以外にも、格子間原子 (interstitial atoms)、置換欠陥(antisite defects)や、これらの複合 欠陥ができて、吸収を生じます。
     LEC(液体封止チョクラルスキー)法で作製したGaAs単結晶には、有名 なEL2欠陥があります。これは、AsがGaのサイトを置換したことによっ て生じるantisite欠陥で、1.2eV付近に幅の広い吸収を生じます。逆に 吸収強度からこの欠陥の濃度を推定します。この欠陥は深いアクセプタ として働き、るつぼから導入された珪素などのドナー不純物から生じた 伝導電子を補償して、GaAsを半絶縁性にするのに役立っています。
    (5)不純物準位とバンド状態との間の遷移による吸収
     ドナーに捉えられた電子が赤外線を吸収して伝導帯に励起されるよう な遷移があります。Ge:Auではこのような遷移を用いて赤外線を検出し ます。GaAs:Crでは価電子帯からCr3+の不純物準位に電子が遷移して、 Cr2+を作るような遷移や、Cr2+の不純物準位から電子が伝導帯に移るよ うな遷移が見られます。CuAlS2:Feにおいては、価電子帯からFe3+の3d 準位への電荷移動型(charge transfer)吸収が見られます。
    (6)不純物の内殻で生じる多電子状態間遷移による吸収
     遷移金属イオンや希土類イオンが半導体中に入ると、3dn電子系にお ける多電子状態のつくる多重項(multiplet)間の遷移による吸収が見ら れます。これは、ルビーでCr3+の3d3多重項による吸収がピンクの原因 になっているのと同じです。母体が半導体になっただけのことです。例 としては、ZnS:Co, ZnS:Mn, CuAlS2:Mnなど豊富にあります。
    (7)励起子吸収
     束縛励起子、自由励起子による吸収です。自由励起子の場合、電子・ 正孔対を作るための束縛エネルギーだけバンドギャップより低い光子エ ネルギーで励起子吸収がおきます。束縛励起子の場合、さらにドナーや アクセプタに束縛されている電子または正孔の束縛エネルギーだけ低い エネルギーに現れます。
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    これらの大部分は、PankoveのOptical Process in Semiconductors (Dover1971)に載っています。拙著:応用電子物性工学(コロナ社1989) p94-p112を一度読んでみてください。
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    Date: Fri, 15 Nov 2002 16:15:57 +0900
    AA: お忙しい中、丁寧なご回答ありがとうございます。半導体においては バンド間遷移による吸収だけでなく、フォノン吸収や、自由電子による 吸収など、さまざまなのですね。
    ちょうど来週から研究室のゼミでPankoveのOptical Process in Semiconductorsを訳すので、隅々まで理解できるように頑張りたいと 思います。今回はどうもありがとうございました。
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    145.放射性夜光塗料(光物性工学講義ノートへの指摘)


    Date: Mon, 18 Nov 2002 13:20:22 +0900
    Comment: 参考情報
    検索中
    光物性工学講義ノート(97.7.8) 拝見させて頂きました。

    夜光塗料として、50年以上前はラジウムなどの放射性物質が崩壊する ときに出す発光を使っていましたが、危険なので、燐光材料を使うよう になりました。

    との記載がありますが夜光塗料を製造しているメーカのホームページには以下の記載があります。

    精工舎も1991年3月20日の新聞紙上で、「5年以内に放射性夜光塗料を全廃する」ことを 宣言する。

    との記載があります。確かに「ラジウム」の使用は1960年代に終わっていますが「ラジウム などの放射性物質」と書くと全ての放射性物質を使っていないと取れる可能性もあります。

    現在国内で生産されている一般用の時計には使われていませんがまだ入っているものが流通されているものがあります。(中古等として)

    参考までに。TKPLAB技術部
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    Date: Mon, 18 Nov 2002 14:58:13 +0900
    A: TKPLAB技術部様、佐藤勝昭です。
    ご指摘ありがとうございました。講義ノートに注を付けました。
    今後ともよろしくお願いします。
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    146.磁性フォトニック結晶作製法


    Date: Mon, 18 Nov 2002 14:23:48 +0900
    S社のKと申します。
    突然のメールをご容赦下さい。
    HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見させていただきました。
    11/8付けで金沢工大 佐々木様 が磁性フォトニック結晶につい て質問されておりましたが、私も興味があり質問させていただきます。

    例えば、(SiO2/Ta2O5)5/Bi:YIG/(Ta2O5/SiO2)5 という構造 体を作製しようとすると、Bi:YIG結晶化のための600℃以上の 加熱により、多層膜の周期構造が乱れてしまい、フォトニック 結晶として機能しないようです。
    そこで
    1.Bi:YIGを低温(300℃程度以下)で作製する方法があるので  しょうか?
    2.あるいはBi:YIGに代わりに、赤外領域で透明で、室温で磁  気光学効果が大きく、高温熱処理無しでも作製できる材料  がありえるのでしょうか?

    よろしくお願い申し上げます。
    ----------------------------------------------
    Date: Mon, 18 Nov 2002 15:03:35 +0900
    A: S社K様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。
    1.私も、低温プロセスに興味があります。
     第25回日本応用磁気学会学術講演会概要集p194 に、加藤英樹、松下毅、井上光輝: 反射型1次元磁性フォトニック結晶の特性という講演概要が出ています。
    それによると、「従来はアイソレータ仕様を満たすために磁性膜を2層用いる必要があり、 熱処理を2回行う必要があったが、磁性層を1層とし、熱処理が1回ですむようにした。」
    「ガラス基板として直径30mm、厚さ0.8mmのコーニング#1737ガラス基板を用い 多層膜の熱処理は電気炉による急速熱処理法により行った。」と記載されています。
    結果は、短波長側において、反射特性が理論と一致したとありますから、構造の乱れは 少なかったのではないかと存じます。磁気光学特性については記載がありません。
    たぶん低温プロセスではないと存じます。急速加熱がポイントではないでしょうか。
    2.Bi:YIGに代わりに、赤外領域で透明で、室温で磁気光学効果が大きく、高温熱処理 無しでも作製できる材料ということですが、それがあれば、誰も苦労しないと存じます。
    --------------------------------------------------
    Date: Mon, 18 Nov 2002 16:47:42 +0900
    AA: 佐藤先生

    お忙しいところ、早速のご回答ありがとうございました。
    第25回日本応用磁気学会学術講演会概要集p194も参考にさせていただ きます。
    また質問させていただくことがあるかもしれませんが、そのときはよろ しくお願いいたします。
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    147.色素増感太陽電池


    Date: Mon, 18 Nov 2002 17:42:22 +0900
    以前、HPで「物性なんでもQ&A」コーナーを拝見させていただいて透明電極に ついて質問させていただいたH大に所属していますSです。
    私は「光合成とエネルギー」をテーマに卒論を書いているのですが、いろいろ調べ ている間に色素増感太陽電池が出てきました。
    質問は4点です。
    「色素増感太陽電池とはどういうものですか。」
    「色素に果実の色素を使っている例がありましたが、クロロフィルでは代用できませ んか。」
    「色素増感太陽電池の基礎を学ぶためにおすすめのHP、図書はありますか。」
    お忙しい中誠に申し訳ありませんがご存知であれば教えて頂ければ幸いです。
    よろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 19 Nov 2002 10:43:02 +0900
    H大S様、佐藤勝昭です。
     私は、この関係の仕事をよく知らないので、集光形太陽電池をやって いる本学電気電子工学科の吉岡一也技官に尋ねましたところ、この関係 は、岐阜大学大学院工学研究科環境エネルギーシステム専攻 (又は 岐 阜大学工学部応用精密化学科)箕浦秀樹教授が専門家なので、そちらに 問い合わされたらよいのではないかと示唆がありました。
    HPは次の通り
    1.
    箕浦研のサイト
    2.箕浦先生が岐阜県と進めている共同プロジェクトのサイト
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    Date: Tue, 19 Nov 2002 14:43:03 +0900
    H大のSです。
    早速のご回答ありがとうございました。
    御専門以外の質問をして申し訳ありませんでした。
    紹介していただいたHPを参考に深めていきたいと思います。
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    148.結晶粒界


    Date: Thu, 21 Nov 2002 13:36:57 +0900
    東京理科大学3年の下田と申します。
    ちょうど材料物性に関しての疑問があってネットで検索しているときに このHPを見つけましたので、質問させていただきます。

    只今、我々の実験で「未知試料の物性調査」というものを行っております。
    具体的には、学年を20の班に分けて、 渡された未知試料を1年間かけて構造などを調べていくというものです。

    ここまでの実験により、我々の班でも試料内に含まれるであろう 元素などは突き止めてきました。
    しかし、2つ以上の物質があるときの結合部の構造が分からなくて悩んでおります。

    単結晶の場合、一つの単位格子が秩序を持って広く並んでいるわけですが、 多結晶のような場合、単結晶同士が並んだところではどのように 2者はくっついているのですか?
    一番端にある単位格子の元素を共有されたような形となって、
    くっついているのでしょうか?

    突然の質問で申し訳ありませんが、 ご回答宜しくお願いいたします。
    -----------------------------------------------------
    Date: Thu, 21 Nov 2002 16:37:38 +0900
    東京理科大下田様、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。面白い研究テーマを貰っているのですね。2つの 物質の同定をするのに、界面の構造が必要なのでしょうか?X線解析で は、2つの多結晶パターンが、混在して見えるだけでしょう。結晶の界 面の構造が問題になるような物理量は、両物質が反応する場合を除けば、 ほとんど検出できないと思いますが・・・
     それはともかく、結晶の粒界がどうなっているかというご質問ですが、 ケースバイケースでいろいろです。すなわち、面を共有する場合、稜・ 辺を共有する場合、格子点を共有する場合などです。なかには界面付近 で互いに入れ子になる場合もあるようです。
     同じ結晶構造をもつ結晶粒同士が双晶になる場合、面を共有します。  多元化合物の中にはアンチサイト欠陥を作ることによって入れ子構造 が安定化する場合もあるようです。
     余りよいお答えになっていないかもしれませんね。
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    149.X線吸収


    Date: Fri, 22 Nov 2002 00:05:51 +0900
    Q: 佐藤様
    こんにちは
    以前質問させていただいたT@筑波大学です。
    HPを見て質問させていただきます。
    非常に素朴な質問なのですがよろしくお願いします。
    ダイヤモンドは光をよく通します。またX線もよく通します。
    しかし、原子番号が大きいもの、たとえばモアッサナイト(SiC)はニセダイヤとして 使われるほど透明度が高いものですが、X線の透過率はあまりよくありません。
    (これは原子番号が大きいためと教科書には記載されています) エネルギーの高いX線は通さなくて可視光線は通すのはなぜでしょうか。
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    Date: Fri, 22 Nov 2002 01:20:48 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。あなたは、固体の電子構造についてどれくら い常識があるのでしょうか?それによって答え方が違うのですが、物理工学系 の方と考えてお返事します。
    光の遷移とX線の遷移とでは始状態が違います。 DiamondもSiCも可視光を通しても紫外線は吸収します。可視・紫外光の吸収は 外殻電子の作る電子状態のうち満ちた価電子帯から空いた伝導帯への遷移によ ります。
    一方、X線の吸収は内殻電子がFermi準位以上の空いた状態への遷移に よっておきます。Cについては内殻は1sまでですが、Cより原子番号の大きなSi では1sに加えて2pまでが内殻になります。従って、Cでは1s→伝導帯というK吸 収端でX線吸収が始まりますが、Siでは2p→伝導帯のL吸収端が寄与します。1s に比べ2pはFermi準位からのエネルギーは小さいので、SiはCに比べよく軟X線 を吸収するのです。
    -----------------------------------------------------

    150.磁気相転移


    Date: Fri, 22 Nov 2002 16:46:27 +0900
    Q: はじめまして。某国立大のMというものです。
    「物性なんでもQ&A」いつも拝見してます。
    今日は質問があってメールしました。
    最近、磁気相転移について学ぶ機会があり、磁気相転移の原理はわかったのですが、 Curie温度を境に「急に」磁性が失われるというところがいまいち分かりません。
    なぜ「徐々に」ではなく「急に」失われるのか教えていただけないでしょうか。 いろいろ文献を探しましたが、なぜかということは書いてありませんでした。
    どうかよろしくお願いします。
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    Date: Fri, 22 Nov 2002 19:57:52 +0900
    A: M君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。水と氷のような第1種相転移では2相が共存する準安定領域があ るので、見かけの転移は緩やかですが、強磁性体の秩序・無秩序転移は、 第2種の相転移といって準安定相をともなわない相転移なので2つの相 の間は急に変化します。強磁性体においてCurie温度以下では、各原子 の磁気モーメントが交換相互作用によって互いに向きをそろえあうとい う長距離秩序が生じていて全体が強磁性になっています。この相互作用 の強さよりも熱擾乱の方が強くなると、磁気モーメントはランダムな方 向を向いて常磁性になってしまいます。しかしよくみると、確かに強磁 性・常磁性という点では突然なのですが、自発磁化の大きさを温度に対 してプロットすると磁化は温度とともに徐々に小さくなっていき、キュ リー温度を超えるとゼロになります。一方、常磁性状態でも、キュリー 温度のすぐ上では、短距離秩序によって磁気モーメントがある程度大き なクラスタになっていて、それがゆらゆら動いているので、揺らぎが大 きく、従って磁化率が高くなっています。高温側からキュリー温度付近 まで冷却すると磁化率は発散します。そういう意味では、転移は準備段 階があって起こるべくして起きているのです。
    --------------------------------------------------------

    151.高分子光物性


    Date: Mon, 25 Nov 2002 08:09:41 +0900
    東京農工大学 佐藤勝昭先生
    はじめまして、T大学のIと申します。
    物性なんでもQ&Aをみてメールを送らせて頂いております。

    現在、高分子のレーザーアブレーションの工学利用に関する研究をしております。
    材料はPVCやABSなど種々用いて実験しておりますが、 一般に高分子にはスズなどの金属や炭酸カルシウムなどの無機物が添加物として含ま れており、 主にどの物質によってレーザーが吸収されているかが重要な要素と考えています。
    高分子材料の物性資料は多く出ておりますが、 光物性について数値情報がまとまっている参考文献はありませんでしょうか?

    加えて質問なのですが、 添加物として混入している場合、吸収についてどのように考えればよろしいのでしょ うか?
    ストレートに考えれば、吸収係数∝密度と思われますが....。
    よろしくお願い致します。
    -----------------------------------------------------------
    Date: Mon, 25 Nov 2002 16:01:52 +0900
    T大学I様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    高分子自身の光物性は専門外です。図書館でLandolt Boernsteinのシリ ーズで探してください。
    たいていの有機物は可視光透明ですが、紫外線領域に吸収端があると思 います。可視光線領域の色は、不純物によります。金属の微粒子分散系 では、マクスウェル・ガーネットの式で表されるような特異な着色現象 がありますが、普通は金属は不透明なので割合で、光の透過が制限され るのではないかと存じます。
     あまりよいお答えではないかもしれませんがお許し下さい。
    ----------------------------------------------------------
    Date: Mon, 25 Nov 2002 20:42:44 +0900
    東京農工大学
    佐藤勝昭先生

    質問のメールを送らせていただいたT大学Iです。
    お忙しいところ、ご回答ありがとうございました。
    微粒子分散系の着色については全く認識がありませんでしたので、 興味をもって調べてみたいと思います。

    これからも先生のHPから参考情報を得ることがあると思います。 今後とも、「物性なんでもQ&A」を公開してくださるようお願い致します。

    この度は、ありがとうございました。 今後ともよろしくお願いいたします。
    --------------------------------------------------

    152.多層膜の反射率


    Date: Fri, 29 Nov 2002 19:12:54 +0900

    Q:佐藤先生
    株式会社ニュークリエイション坂井と申します。
    前回は、
    光学定数から反射率が計算できますかにおいて、光学定数から反射率を計算する方法について質問したものです。その節はどうもありがとうございました。
    その後、大塚電子(株)大川内様より、エクセルでの計算式を頂きました。大変 ありがたく、使用させていただいております。どうもありがとうございました。 この場をお借りしてお礼致します。
    さて、前回の質問では、2層だけでしたが、3層以上になった場合を想定し、頂 いたデータを基に、考えてみたのですが、入力の問題か、うまくいきません。今 行おうとしていることは、空気、Si、SiO2、Siの順番で、垂直入射した場合を考 えたのですが、もう1層増えた場合、最終的なSi層からの反射率がどのようにな るかを計算すればよいかです。大塚電子(株)大川内様の「これ以上複雑な反射 率の計算にはやはりC++やFortranなどを使った方が、 良いと思った」というコ メントにもありますが、3層以上になると、エクセルでは難しいのでしょうか。
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    Date: Fri, 29 Nov 2002 19:51:51 +0900
    A:坂井様、佐藤勝昭です。
     多層の場合によく行われるのは、2層についての光学定数を等価的な1層の光学定数に 繰り込んでしまい、その層と新たな第3層との界面を考える仮想屈折率 の方法です。私は、磁気光学の計算にその方法を用いています。詳細は 省略しますが、複素屈折率N2=n2-iκ2の下地層の上に、厚さh1で複素屈 折率N1=n1-iκ1の薄膜をつけたとき、これを仮想的複素屈折率N0の1層 の媒体に置き換えることができます。
    N0=N1×{1-r exp(-2iφ)}/{1+r exp(-2iφ)}
    ここに、r=(N1-N2)/(N1+N2), φ=2πN1h1/λ このプロセスを使えば、何層でも繰り返すことができます。
    一度お試し下さい。
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    153.超伝導ギャップとスピンギャップ


    Date: Mon, 02 Dec 2002 14:36:14 +0900
    Q: はじめまして。
    HPをみてメールさせていただきました。

    早速ですが、質問です。。。
    私は今、超伝導について勉強しているのですが、専門書やHPなどで「超伝導ギャッ プ」や「スピンギャップ」という言葉が頻繁にでてきますが、どの部分が(or何 が)ギャップとしてあらわれているのか、わかりません。

    また、初学者に適したオススメ超伝導入門書がありましたら、教えてもらえたら 幸いです。

    駄文になってしまいましたが、どうぞよろしくお願いします。
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    Date: Tue, 3 Dec 2002 14:19:14 +0900
    A: 江原様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私は、超伝導については、素人に近い のですが、自分の理解の範囲でお答えします。
     超伝導ギャップというのは、通常金属(常伝導帯)とのトンネル接合 (SIN接合ともいう)や、超伝導体同士のトンネル接合(Josephson接合, SIS接合ともいう)を作ったときのI-V特性に見られる「ある閾電圧Vcまで 電流が流れないで閾値を超えると急激に流れる現象」からその存在が示唆さ れました。SIN接合の場合この閾電圧Vcは超伝導ギャップを2Δ(eV)とす ると、Vc~Δです。超伝導ギャップ2Δは、超伝導状態のクーパー対を 壊し2個の電子または2個のホールをつくることに対応します。従って I-V特性は鍋を縦に切った断面のような形(U字形)になります。しかし高 温超伝導体の場合は、V字形になったりするので、I-V特性からΔを決め るのは難しいことがあります。超伝導ギャップは、超伝導状態から温度 を上げていきTcを超えるとなくなってしまいます。
     一方、スピンギャップというのは、CuO系高温超伝導体においてNMRや 中性子散乱のような磁気励起スペクトルに見られるギャップ構造で、Tc よりも上のTsgという温度で顕著に観測されます。本来CuO2面は電子相 関のためにMott絶縁体または電荷移動型絶縁体になっていて反強磁性が 見られますが、ホールのドーピングによって超伝導が生じるとされてい ます。このとき、ドープされたホールのスピンと、CuO2面におけるMott -Hubbard gap以下のエネルギーのdγ電子のスピンとのあいだに交換相 互作用が働いてスピン1重項をつくります。磁気励起スペクトルに見ら れる異常ピークは、このスピン1重項をこわすエネルギーに相当すると いえるでしょう。
     詳細は、立木昌、藤田敏三編「高温超伝導の科学」(裳華房1999) を お読み下さい。Mott転移付近の異常金属相に見られるさまざまな異常物 性は必ずしも確立しているわけではないようですが、d波超伝導に特徴 的な現象であると理解してよいでしょう。
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    Date: Wed, 04 Dec 2002 10:56:01 +0900
    AA: おはようございます。 先日、超伝導に関する質問をさせていただいた江原です。

    詳しい説明ありがとうございました。大変勉強になりました。早速、先生オスス メの本を読みたいと思います。
    また、何かあった際にはよろしくお願いします。
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    154.半導体についたヨウ素を除くには


    Date: Thu, 5 Dec 2002 21:13:51 -0600
    Q: こんにちは。はじめまして。
    神 ゆり といいます。University of North Texasで BSをEngineering Physicsで専攻しています。
    現在、大学三年生で、頼み込んで Dr. Golding(ケンブリッジ卒)という教授に付いて Research Assistantとして、 彼のLabで働いています。
     今日、半導体を作った時に使ったPlateでヨウ素が付いたもの をどう洗えばいいのかわからなくて インターネットでサーチして いる時、先生のWeb-siteをみつけました。
    今日、そのPlateを熱して、ヨウ素を拭き取って、 それを室温まで下げた後、
    その後、HNO3:HCl:Diwater=1:2:1で混ぜて、 それに一秒つけてみたのですが、
    何かいいアイディア・サジェスチョンはありますか?
      神 ゆり
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    Date: Fri, 6 Dec 2002 12:45:30 +0900
    A: 神 ゆり様、佐藤勝昭です。
     はるかテキサスからのメールありがとうございます。
    ヨウ素はアルコールに大変よく溶けますから、表面についたものなら、 超音波洗浄すれば簡単にとれると思います。
     私たちは、ヨウ素輸送法(正確にはchemical vapor deposition using iodine as a transport agent)によって半導体の単結晶を作っていま したが、表面にヨウ素が付着しますので、取り出してすぐエチルアルコ ールを入れたビーカーに入れて、10分ほど超音波洗浄し、純水で10 分ほど超音波洗浄し、最後に水を早く蒸発させるため再びアルコールに 入れてすぐに取り出して、デシケータにいれて乾燥させていました。  酸を使わないほうがよいのではないでしょうか。
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    155.中赤外域のファラデー効果


    Date: Wed, 11 Dec 2002 11:19:19 +0900
    Q: A社のKと申します。ファラデー効果に関して教えていただけないでしょうか。

    教えていただきたいのは、希土類鉄ガーネットの2~20μmにおけるファラデー 効果とできれば性能指数です。
    先生の書かれた本を見返したのですが、このような長い波長に関してはありま せんでした。
    もし何かデータか、理論値がありましたら、出典を御教え願えないでしょうか。 いつも申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます。
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    Date: Thu, 12 Dec 2002 15:11:54 +0900
    A: K様、佐藤勝昭です。
     鉄ガーネットの中赤外領域の磁気光学効果については、私の知る限り データがありません。
    一般的に考えれば、赤外域に何らかの吸収帯がない限り、ガーネットの 通常の赤外磁気光学効果の外挿でよいはずです。透明領域ではファラデ ー回転角はωε"xyに比例します(拙著「光と磁気(改訂版)」, 朝倉書 店, 2001, 式(3.57))から、同書の式(4.46)を用いてフィットできます。 中赤外ではω0ーωはγに比べて十分大きいのでθF=定数/(ω0-ω)2で 外挿してよいでしょう。ω0はたぶん2.5eV付近にあると思います。たと えば0.1eV(12.4μm)において考えますと1eVにくらべて、1/2.25くらい に落ちるでしょう。
     しかし、赤外域に吸収帯を作る元素たとえばCo、Rhが入れば、事情は 変わります。Coの入った場合には、かなり大きなファラデー回転ピーク が1.5μm付近に現れ、その裾が2μm以上も続きます。(前掲書p.124図6. 8)また、Rhを入れると0.9-1.2μm付近に大きなピークが現れ1.6μmでも かなりの値を示します。(K. Shinagawa:Magneto-optics, Chap.5, Fig. 5.25, eds. S.Sugano, N.Kojima, Springer, 1999)
     性能指数については、吸収係数との関係を考慮せねばなりません。ガ ーネットの赤外吸収のデータを持ち合わせていませんが、オーソフェラ イトのデータ(Wood, Remeika, Kolb:JAP41('70)5315.)によれば、8μm 以上でフォノンによる吸収が始まっています。
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    Date: Thu, 12 Dec 2002 17:42:02 +0900
    AA: 早速丁重なるご回答をいただきまして本当にありがとうございました。
    非常に参考になりました。いつも親切にご指導いただきまして、 感謝いたしております。
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    Date: Thu, 12 Dec 2002 18:01:47 +0900
    A2:K様、佐藤勝昭です。
     あれから、文献を調べていたら、YIGの赤外吸収のスペクトルが、D.L. Wood, J.P.Remeika:JAP 38 ('67) 1038のFig.1に載っていることが分か りました。それによると、吸収は5μmくらいから長波長に向かって増 大しているようです。詳しくは文献をお読み下さい。
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    156.屈折率分散のない材料


    Date: Fri, 13 Dec 2002 14:16:49 +0900
    Q:以前、
    IRフィルタについて 質問させていただいたC社のAというものです。
    たびたびの質問で申し訳ありません。

    光学異方性を持ち、屈折率波長依存性が少ない材料を探しています。
    入射光の波長と屈折率の関係は、どういった要素から求めることができるのでしょう か?よろしければお教えください。
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    Date: Fri, 13 Dec 2002 15:41:20 +0900
    A: A様、佐藤勝昭です。
     屈折率nの分散(波長依存性)は、誘電率εの分散によって決まってい ます。いま、透明物質を考えるとしますと、吸収の中心は直接光学遷移 のエネルギーω0にあると考えられます。
    このときの誘電率の実数部ε'の光子エネルギー依存性は、およそ、 ε'=1+(nq2/mε0){f/(ω022)}で決まっています。(拙著:光と 磁気(改訂版)p70, 式(4.33)においてγ<<ω0-ωと仮定しました)透明 領域の屈折率は√ε'です。
     従って、波長が短くなって(つまり、光子エネルギーが大きくなって) 、直接光学遷移に近づくとともに屈折率は増大します。光学異方性があ るということは、さらに、直接光学遷移に異方的選択則が働いていると 考えられます。 このように屈折率の分散は固体に固有な性質です。
     しかし、たとえば、赤外領域に強い吸収帯があって、可視域では透明 な物質もあります。そのような物質では、赤外部の吸収に基づく、負の 屈折率分散と、紫外域にある直接吸収の正の屈折率分散が相殺して、波 長に対して一定の屈折率になる場合がありかもしれません(実際の例を 知らないのですが・・)。光学異方性を保ちながらということになると、 赤外吸収にも異方性が必要で、そういう物質を設計するのは、試行錯誤 が必要だと思います。
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    157.同位体の購入

    Date: Fri, 20 Dec 2002 15:32:43 -0600
    こんにちは。
    大学の研究で今行っているプロジェクトで、どうしても Mercury、Cadmium、Tellurium、Seleniumの同位体を購入しなければ ならないのですが、この種の物質はどうやって手に入るでしょうか? 神 ゆり
    北テキサス大学
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    Date: Mon, 23 Dec 2002 09:59:42 +0900
    神 ゆり様、佐藤勝昭です。
     米国内のどの会社で同位体を入手できるかについて情報を持ちません。 日本では、ニューメタルズアンドケミカルズという会社で購入できます。 しかし、ご存じと思いますが、同位体は放射性の問題があり、簡単に 輸出入できないので、同社に米国での入手先をお問い合わせ下さい。
    mail : mail@newmetals.co.jp
    URL : http://www.newmetals.co.jp
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    158.電析膜の吸収


    Date: Sun, 22 Dec 2002 2:45:17 +0900
    初めまして早大のIと申します。
    現在、化合物半導体の作成を行っています。
    電析法により成膜を行っています。下地の基板には銅をもちいており、その上に化合物半導体の電析を行っております。
    そのため、薄膜の透過率を測定できず、バンドギャップの測定に困っております。
    ITO基板への電析も試みたのですが、上手くいかず、結局銅基板にしか電析が出来ない状況にあります。 当大学には、PLなどの測定装置もないので、どのようにして測定したら良いかを検討して、調べていたところ佐藤先生のHPを発見しました。

    ちなみに、UV/visはありますが、反射率しか測定できません。(銅基板へ電析したもの) 反射率から、バンドギャップを求めることは可能なのでしょうか?
    もし、可能でしたらその方法を詳しく教えていただけたら、光栄です。
    ちなみに、積分球を取り付けて反射率の測定をした方が良いのかどうかもあわせて教えて下さい。 宜しくお願いします。
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    Date: Mon, 23 Dec 2002 02:35:42 +0900
    I様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。お尋ねの件ですが、作製しておられる化合物半導体 の種類、膜厚、モホロジーなどによって状況が違ってきます。
     光学吸収端の決定で最も正確なのは、透過率を測定することであることは論を待ち ません。それでは、銅板に付いた試料の透過をどうやって測るのでしょう。
     第1の方法は測定したい部分の銅基板を額縁状に取り除く方法です。まず、全体を フォトレジストで覆い、取り除く部分を露光したのち現像して除去します。そして、 銅を溶解する酸でエッチングして、化合物半導体が露出したところで止めればよいの です。このためには、化合物半導体を溶かさず、銅のみを溶かす酸の種類と濃度と エッチング時間を予めテストしておく必要があります。酸でエッチングする代わり に、電析の逆プロセスで、電流を流して銅を溶け出させて他の電極に電着してもよい でしょう。
     第2の方法は、銅基板を反射板として用いる方法です。銅の表面が酸化しておら ず、膜と銅がぴったりと接しているならば、バンドギャップ以下のエネルギーにおい ては、半導体は透明なので、銅板の屈折率と消光係数と半導体の屈折率で決まる反射 率になります。吸収端以上のエネルギーでは、半導体自身の反射に変わります。この 変わり目がバンドギャップです。ただし、これは、半導体が十分に厚くってバンド ギャップ以上のエネルギーでは全く透過がなく、また透明領域でも干渉が無い場合で す。
     一方、膜厚が数100Å~数1000Åのオーダーでしかも表面がフラット(鏡面が出てい る)だと干渉縞が見られます。吸収係数を解析的に求めるのは簡単ではありません が、荒っぽい見積もりならスペクトルに干渉縞が出なくなったところがバンドギャッ プであると推定できます。
     第3の方法は、光伝導スペクトルです。裏が銅なのでこれを一方の電極とし、表の 面に薄く(200Åくらい)Auを蒸着して、分光器からの光を金薄膜越しに試料に当て、 裏表の電極間の電気抵抗を測定して、電気抵抗が急に小さくなる波長からバンド ギャップを推定します。
     このほかには、PLを測定する方法、PAS(光音響分光)、PDS(光偏向分光)などお 金をかければ、いろいろの手段があります。早稲田大学なら、地方大学に比べれば超 お金持ちですから、どこかの研究室に行けば必ず適切な装置を見つけることができる と思います。半導体関係の研究室、たとえば、大泊研究室などに相談されては如何で しょう。
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    Date: Tue, 24 Dec 2002 13:22:52 +0900
    早大のIです。
    ご丁寧な説明有難うございました。
    ご意見を参考にもう一度考慮してみます。

    第3の方法に示してある光伝導スペクトルの方法について、詳しく書いてある参考 書などをお知りでしたら、お教え願えないでしょうか?

    宜しくお願い致します。
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    Date: Tue, 24 Dec 2002 23:53:38 +0900
    I様、佐藤勝昭です。
     光伝導は、古くて新しい技術です。
    古くは、BubeのPhotoconductivity of Solids (1960)が有名ですが、
     技術情報協会編「導電性高分子材料の開発と応用」(絶版・CD-R版のみ)の第2節 「光物性の測定」に物質工学工業技術研究所 福田隆史氏の解説があります。また、 古い本ですが、今村他著「半導体物性測定法」(日刊工業、1965)に光伝導現象の 測定法について詳しい解説があります。
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    159.コバルト置換YIGについて


    Date: Thu, 26 Dec 2002 10:31:44 +0900
    Q: 東京農工大 佐藤先生
    以前質問させていただいたS社のKです。
    磁性ガーネットについて、色々と文献を調べていましたところ、 佐藤先生が著者の「Co置換磁性ガーネットにおけるコットンムート ン効果のスペクトル」(日本応用磁気学会誌 13、157-162(1989)) を見つけ、拝読させていただきました。ここには、YIGのFeの一 部をCoで置換すると、1.5μm付近の赤外領域でファラデー回転角が 増大することが示されています。
    非常に興味深いと思っておりますが、現在の光アイソレータにCoを 添加したYIGは使用されていないようです。なぜなのでしょうか? お忙しいところ申しわけございませんが、ご教授いただきたく、よろ しくお願いいたします。
    -------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 26 Dec 2002 13:00:03 +0900
    A: K様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。たしかにYIGに比べればエンハンスさ れるのですが、(Gd,Bi)IGなどに比べれば小さいと思います。
    また、Co導入により赤外域の光吸収も増加します。光吸収については、 私どもの論文をご参照下さい。
    K.Yasuhiro, K.Sato et al.:Optical Absorption Spectra in Cobalt- Substituted Epitaxial Magnetic Garnet Films Measured with Photothermal Deflection Spectroscopy; Jpn. J. Appl. Phys. 28, L656 (1989)
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    Date: Thu, 26 Dec 2002 14:03:56 +0900
    AA: 東京農工大 佐藤先生
    ご回答ありがとうございます。
    ご紹介いただいた論文も早速読ませていただこうと思います。
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    160.機能材料のための量子工学


    Date: Fri, 27 Dec 2002 20:13:04 +0900
    佐藤 勝昭 先生

    突然のメールで失礼致します。
    日本大学 文理学部 化学科 助手の鈴木浩一と申します。

    「機能材料のための量子工学」を読ませていただきました。
    知りたい内容(磁性、光機能、伝導性、誘電性)が、基本的なところから書いてあり、大 変すばらしい本だと思いました。
    研究室の輪講には英語の本が良いのですが、「機能材料のための量子工学」のような内容 が詳しく書かれている「英語の本」をご存知でしたら、教えて頂ければ幸いです。
    お手数をお掛けして申し訳ありませんが、宜しければ、よろしくお願いいたします。
    鈴木浩一
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    Date: Sat, 28 Dec 2002 11:20:05 +0900
    鈴木様、佐藤勝昭です。
     機能材料のための量子工学をお読み頂きありがとうございます。
    私は、4年次の卒業研究生に対し、Kittel: Introduction to Solid State Physicsの英語版を使っています。丸善から翻訳が出ていますし、「量子工 学」のカバーするほとんどの内容を含んでいます。ただし、量子力学の基礎な どは含まれていません。
     初版から第3版くらいまではとても基礎的でよい本でしたが、版を重ねるに つれ、新しいことがどんどん盛り込まれたため、1つ1つの記述が薄くなった ような気がします。それでも、初心者が固体物理に慣れるためには、よい本で はないでしょうか。
     光物性については、PankoveのOptical Process in Semiconductorsがお奨め です。
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    Date: Sat, 28 Dec 2002 11:36:43 +0900
    AA:佐藤勝昭 先生

    メールありがとうございます。
    Kittelの初版~3版とOptical Process in Semiconductorsを探して、見てみようと思いま す。
    ありがとうございました。
    今後とも、御指導御鞭撻の程よろしくお願いいたします。
    鈴木浩一
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    Date: Sat, 28 Dec 2002 14:19:57 +0900
    A2:鈴木様、佐藤勝昭です。
     Kittelの古いversionは入手できないと思います。最新versionを買わ れた方がよいでしょう。
     なお、最近の本では、Michael P. MarderのCondensed Matter Physics(John Wiley & Sons, 2000)がお勧めです。
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    161.整流作用について

    Date: Tue, 7 Jan 2003 12:56:18 +0900 (JST)
    整流作用について、具体例を中心に(身近なもの)詳しく教え ていただけませんか?
    追伸:このサイトに書いていた情報では不十分だといわれまし たので、具体例を中心に教えていただけないでしょうか?
    (romansu)
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    Date: Tue, 7 Jan 2003 19:55:41 +0900
    romansu様、佐藤勝昭です。
     匿名を希望されれば、ウェブにアップするときに匿名にしますから、 メールでは、所属、氏名などを明らかにして下さい。貴方の学習レベル によって、回答のしかたが変わります。仮に貴方が、電気系の大学3年 生で、先生から「整流作用」についてレポート課題を貰ったものとして お答えします。
     整流とは、交流を直流にすることです。
    電灯線の交流では電圧が正弦波的に正負に規則正しく変化しています。 電圧が正の時だけスイッチを閉じ、負の時はスイッチを開くと、正弦波 から上半分だけ切り出した周期的なパルス波形になります。これを半波 整流と言います。このパルス波形(脈流)をフーリエ級数展開すると、直 流分と交流成分や高調波成分に分けることができます。これを、交流成 分をカットする低域濾波器(Low pass filter)にかけると、直流成分が 得られます。
     正の時だけ回路を閉じ、負の時に回路を開くスイッチとして用いるの がダイオードです。pn接合ダイオードに順方向電圧を加えると、接合 部の拡散電位差によるバリアが減少するので、キャリアが接合部を通し て流れやすくなります。一方、逆バイアスすると、バリアが増大してキ ャリアの流れを抑えます。これがダイオードの整流作用です。  ダイオードをブリッジにすると正弦波交流の正の波形はそのまま通し、 負の波形は折り返して正にして通すことができます。これが全波整流波 形です。ダイオードブリッジについては、
    エレクトロニクスIIの授業プリント(2002.11.15)を見て下さい。
     身近な応用例は、貴方の使っているパソコンやオーディオ機器のACア ダプターです。上のページには、ACアダプターの回路図が出ています。 ACアダプターでは、電灯線の100V,50Hz(関西では60Hz)の交流を変圧器 (トランス)で低い電圧に下げ、ダイオードブリッジで全波整流して脈流 にし、コンデンサで平滑して直流にしています。
     最近のエアコンはインバータを使っていますが、インバーターでは、 電灯線の交流を整流していったん直流に変換した後、スイッチング回路 で再び周波数の異なる高周波に変換しています。エアコンでは周波数を 変化することにより回転数を制御しヒートポンプの熱流の制御をして温 度コントロールしています。インバーターはデスク用蛍光灯や電球型蛍 光灯にも使われています。高周波で放電するので点灯管が要らずすぐつ く、高周波なのでちらつかないなどの利点があります。
     AMラジオ放送では、1MHz前後の高周波搬送波の振幅を音声信号で振幅 変調して放送しています。受信機では、この信号を同調回路で取り出し、 ヘテロダイン法を使って搬送波の周波数を455kHzの中間周波に変換した 後、ダイオードで整流します。すると、音声の周波数で変調された脈流 が得られますが、DC成分を高域濾波器で取り除くとともに、中間周波数 成分を低域濾波器で取り除くと、音声信号のみを取り出すことができま す。この場合は整流と呼ばずに検波と呼んでいます。  こんなところでよいでしょうか。
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    162.セラミクスのマイクロ波焼結


    Date: Wed, 8 Jan 2003 20:52:14 +0900
    Q:佐藤先生はじめまして
    株式会社MのIと申します
    お忙しいところを不躾ではございますが、下記質問させてください
    2.45GHzマイクロ波による誘電加熱を用いたセラミックの焼結があちこちで研究 されておりますが、 誘電加熱を受けやすい、言い換えれば、高い発熱温度を発現しやすい物質という のは存在するのでしょうか
    誘電率、または誘電損失の大きい物質であれば発熱しやすいのでしょうか 誘電率が極めて高いとされているBaTiO3やPZT以外にも、Al2O3やZrO2なども焼結 する温度まで誘電加熱されている報告を見受けますが
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    Date: Thu, 9 Jan 2003 15:51:36 +0900
    A:M社I様、佐藤勝昭です。
     ほとんどのセラミクスはマイクロ波領域に誘電損失がありません。電 子レンジでセラミクスのお皿が加熱されないのはそのためです。従って 焼結する誘電体そのものではなく、焼結の際に用いるバインダーに誘電 損失の大きいものを用いているのではないでしょうか。私は、この方面 の専門家ではないので、間違っているかもしれません。
    ---------------------------------------------------------
    Date: Thu, 9 Jan 2003 16:07:38 +0900
    A: 佐藤先生
    株式会社MのIと申します
    分野違いの質問にも関わらず、早速ご返信を頂き、ありがとうございました
    今後もHPを楽しみに拝見させて頂きたいと思います
    がんばって運営下さりますよう、閲覧者の一人としてとしてお願い申し上げます また佐藤先生の専門分野に関して質問させて頂くことがあるかもしれませんが その際はよろしくお願い申し上げます。
    ---------------------------------------------------------

    163.温水の超音波伝搬


    Date: Fri, 10 Jan 2003 17:05:36 +0900
    Q: 山梨大学のMと申します。
    HPをみていろいろ勉強になりました。
    そこで質問なのですけど、現在私は、大学の研究で超音波について扱っています。
    下のようなアクリル板で水槽状のものを製作しました。この中に50℃の温水を入れる とアクリルはどのくらい膨張するのでしょうか?
    アクリルの膨張係数が7×10^-5 だと思うのですが。
    このケースの中に50℃の温水の中に超音波を入射すると、20℃前後の常温に比べある 程度超音波の速度が上がります.
    温度変化による超音波の伝搬速度はあるのですが、50℃という温度でアクリルの膨張 ないし、伸縮はありうるのですか?
                           いろいろ分かりにくい文章だと思いますが是非よろしくお願いします。
    ------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 14 Jan 2003 13:16:04 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
      私は、超音波の専門ではないので、同じ学科の中島春彦教授(hnakajim@cc.tuat.ac.jp)が、水の 超音波による精密測定を行っておられるので、そちらに伺いました。 中島教授から、以下のような回答がありました。
    ===============================================================
    ご質問の趣旨が理解できない面がありますが、質問をつぎのように推察して答え をつくりました。

    Q:アクリルで1m角の水槽をつくり、その相対する内壁に薄い超音波振動子を 貼り付け、水をはって超音波パルスの授受をし、水中超音波の伝播時間 t(T)を 測定した。T=20度とT=50度の時のt(20)とt(50)を比較せよ。

    A:xを伝播距離、vを音速とするとt=x/v。
    t(20)-t(50)=1/1483 - (1+0.00007*30)/1543=0.674ms - 0.649ms = +74us   温度上昇による水の音速増が大きく、熱膨張による伝播距離増を上回り、5 0度の時のほうが速く到達する。

    なお、データは日刊工業の超音波技術便覧にあります。
    温度  音速
    0 1403
    10 1448
    20 1483
    30 1509
    40 1529
    50 1543
    60 1551
    70 1555
    80 1555
    90 1550
    100 1543
    ==========================================================-
    もっと、くわしく知りたい場合、中島先生に直接コンタクトして下さい。
    -------------------------------------------------------

    164.アルミと酸化アルミの光学的性質


    Date: Fri, 17 Jan 2003 13:56:35 +0900
    Q: 佐藤先生様

    いきなりのメールで失礼いたします。田岡 幸一と申します。
    光に関する疑問点をインターネットで調べておりましたところ 佐藤先生のHPが目にとまりまして興味深く拝見させていただきました。

    光(材質)に関しましては非常に素人なものですからもしよろしければ 教えて頂けませんでしょうか?

    Q:アルミ(包材)は光を反射する(透過しない)のに酸化アルミ(包材) はなぜ光を透過(透明)してしまうのでしょうか。また銅(Cu)には なぜ色があるようにみえるのでしょうか。金属原子になぜ色があるのか もよくわかりません。

    素朴な疑問で申し訳ございません。どうかよろしくお願いいたします。
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    Date: Sat, 18 Jan 2003 00:26:46 +0900
    A: 田岡様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。田岡様の基礎知識がどの程度なのかわかりま せんので、まずは、一般的なことで書きます。
    アルミは金属です。金属には自由電子がたくさんあって、光の電磁場を受けて 自由電子が運動することで、光をよく反射します。一方、酸化アルミは、別名 アルミナともいい、碍子などに用いる絶縁物です。従って、自由電子は殆ど存 在しませんから金属のような反射は起きません。酸化アルミは紫外線を吸収し ますが、可視光線の吸収は殆どありません。従って無色透明なのです。
     古来、銅はあかがね、金はこがね、銀はしろがねと呼ばれるように貴金属は 特有の色があります。これは、自由電子の運動の固有振動数(プラズマ振動数) が金属ごとに異なることが原因です。その固有周波数より低い周波数の光(電 磁波)は強く反射されますが、この周波数以上では、反射率が低下します。一 例として、銅の場合、赤い光の周波数は、プラズマ周波数より低いので100%近 く反射しますが、緑や青の光の周波数では、50%くらいしか反射しないので、 赤く色が付いて見えます。一方、金では、赤と緑の光は強く反射しますが、青 の光の周波数は、プラズマ周波数より高いのであまり反射せず、人間の目は赤 と緑の視細胞が刺激されて黄色く見えます。銀では、プラズマ周波数が紫外線 の領域なので、可視光線はすべての周波数にわたって100%近く反射され、白く 見えるのです。拙著「金色の石に魅せられて」(裳華房)に、このあたりのこ とがもう少し詳しく載っていますので、図書館でお読みください。
     なお、自由電子の運動によってなぜ反射率が高くなるかは、ドルーデの式を 使って説明しなければなりません。概略は、私のHPの
    「物質の不思議Q&A」の 「金属の色と反射」を見てください。

     もっと詳しく知りたい場合、もし電磁気学や古典的な運動方程式に慣れてお られるようでしたら、
    材料物性工学概論の講義ノート をお読みください。
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    Date: Mon, 20 Jan 2003 09:18:46 +0900
    佐藤先生様

    佐藤先生、田岡幸一です。ご丁寧なお返事をありがとうございました。 これまで疑問に思っていたことがすっきりし、大変参考になりました。 私の大学時代の専攻は生物化学でしたのでこと材質、光の事となりま すと無知なことが多すぎて非常に困っております。
    勉強して知識を増やしていかなければと思っていましたところ、先生 のHPにたどりつきました。
    先生のHPは非常にわかりやすく大変参考になります。今後も先生の HPを基本としていろいろ勉強させていただきます。
    またわからない事が生じましたらメールにて御相談させていただきたい と思っております。お忙しいところ申し訳ございません。
    今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
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    165.チタンとカーボンの光吸収


    Date: 20 Jan 2003 14:07:13 +0900
    Q: 初めまして。私は岡山大学工学部の学生で行司といいます。私の研究室では金属材料の熱とふく射の測定に関する研究をしています。チタンとカーボンブラックの吸収係数を調べていましたところ先生のHPのことを知りました。そのおかげでLandolt-Boernsteinのハンドブックに吸収係数が掲載されていることはわかったのですが私の大学にもこの本は置いてありませんでした。そこでチタンの吸収係数について掲載されているページがありましたら教えていただきたいのです。
     また、カーボンブラックの吸収係数についてこの本に掲載されていたらそのページも教えていただけませんでしょうか。
     もし掲載ページが多いようでしたら波長域0.2~2.0μmの資料だけでもかまいませんのでどうぞよろしくお願いします。
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    Date: Mon, 20 Jan 2003 19:14:05 +0900
    A: 行司様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。HPを見て頂きありがとう。カーボンブ ラックは、グラファイト(黒鉛)のことでしょうか?チタンはLandolt- Boernstein (LB)に出ていますが、黒鉛は、いわゆる金属ではないのでLB には出ていません。PalikのOptical Constants of Solids II(Academic Press 1991)に出ています。
    吸収係数αではなく消光係数κが載っています。αとκの関係は、α=2 ωκ/c=4πκ/λです。単位は、κは無名数、λをcmで表せば、αをcm^ -1の単位で与えることができます。下記の表は、波長の代わりに光子エ ネルギーE(eV)で書かれています。波長λに直すには、λ[nm]=1239.8/E [eV]の式を使って下さい。nm=10^-9m=10^-7cmです。従って
    λ[cm]=1.2398x10^-4/E[eV]
    全部書き写すのは面倒なので、ピックアップしてあります。
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    チタン(LB III-15b, p308)
    E[eV]Extinction Coefficient κ
    0.645.19
    0.774.70
    0.894.37
    1.024.15
    1.514.01
    2.013.72
    2.503.19
    3.002.98
    3.502.87
    3.992.57
    4.492.17
    4.981.83
    5.481.66
    5.981.69
    Graphite (Palik p455)
    E[eV]Extinction Coefficient κ
    0.503.41
    0.603.25
    0.703.02
    0.802.91
    0.902.70
    1.002.40
    1.501.90
    2.001.73
    2.501.31
    3.001.28
    3.501.36
    4.001.66
    4.502.41
    5.002.48
    5.501.85
    6.001.35
    -------------------------------------------------
    Date: 21 Jan 2003 11:44:36 +0900
    Q2: 岡山大学の行司です。
    わざわざピックアップしていただきありがとうございました。
    とても助かりました。
    先生からのお返事をいただいてから私の大学の図書館で「PalikのOptical Constants of Solids II」という書籍を探したのですが研究室貸し出しとなっており閲覧することが出来ませんでした。ですから資料を書いてくださったことは本当に助かりました。
    あつかましいとは思うのですが、もう一つ質問よろしいでしょうか?
    チタンとカーボンブラック(グラファイト)の常温付近での比熱比を御存知ではないでしょうか?もしくはそれについて載っている資料を御存知ではないでしょうか?
    自分でも調べてみたのですがこれらの比熱比について述べている書籍はありませんでした。よろしくお願いします。
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    Date: Tue, 21 Jan 2003 14:34:18 +0900
    行司様、佐藤勝昭です。
     手元にある「新版 物理定数表」(飯田修一他編、朝倉書店1984)の p118に比熱とデバイ温度として載っています。
    C(グラファイト)は0.1697 [cal/(g ・deg)]、Tiは0.1248[cal/(g ・ deg)]となっています。
    一方、理科年表(丸善2002)によれば、定圧モル熱容量として、 C[石墨]は298.15Kで8.527[J/(K mol)]となっています。換算が面倒です が、たぶん同じ値になると思います。理科年表にTiは載っていません。
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    Date: 21 Jan 2003 15:38:46 +0900
    岡山大学の行司です。
    調べていただきありがとうございます。「新版 物理定数表」(飯田修一他編、朝倉書店1984)のほうはさっそく図書館に行って調べてみようと思います。私は熱物性ハンドブックなど熱工学系の本を調べていたのですが比熱比については載っていなかったのでとても助かりました。かさねがさねありがとうございました。
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    166.レーザ照射と吸収の増加


    Date: Mon, 20 Jan 2003 15:04:45 +0900
    Q: 東京農工大学 佐藤先生
    お世話になります。

    突然このようなメールをさせて頂き失礼かもしれないのですがご容赦ください。
    私は現在、固体の(特に半導体の)レーザーアブレーションについての研究を 行っている東京理科大学の花田と申します。
    以前、伝導型の異なるSiウェハを温度をあげてレーザー光を照射したところ n型Siの場合にはキャリアの増加から光吸収係数が増加したのではないか、 と思われる現象を見つけました。しかしながら、温度の増加は室温から200℃ 程度であり、ほとんどの教科書ではこの温度領域は出払い領域で、キャリアの増 加がないとのことなのです。
    ここからが質問なのですが、教科書には大体、出払い領域ではドナーもイオン化 しておりキャリアの増加が「ほとんど」ない、と書いてあります。ということは裏を 返せば少しはある、でよろしいのでしょうか?
    先生のHPを見させて頂きドナー準位からのキャリアの放出を室温を例にして約2% 以下の活性化しかない、とおっしゃっていましたが、その式に自分たちの実験を 当てはめると150℃ではドナの数の10%くらいのキャリアが放出されることになりま す。
    数としては少ないかもしれないのですが、実は出払い領域でもキャリアの増加はあ る、ということでよろしいのでしょうか?
    誠に、変な質問のように思われるかもしれませんが、よろしければ回答を頂たい という気持ちでいっぱいです。どうか、宜しくお願いします。

    花田

    PS ちなみに参照させて頂いたのは、「半導体について 25」のn0exp(-ΔE/κT) の式です。その後、「物性なんでもQ&A 135 キャリアの活性化」も参照させて 頂きました。宜しくお願いします。
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    Date: Mon, 20 Jan 2003 18:17:27 +0900
    A: 花田様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。実験の条件や実験結果の詳細が分からないので正しくお答えしているか分かりませんが、私の思いつくことを書きます。
     レーザ光を照射したときに光吸収係数が増加するという現象を、どうして貴方が「温度上昇によるキャリアの増加が原因であると判断されたのか」根拠が曖昧です。
     シリコンの温度を200℃に上げたとき、フェルミ分布=1/(1+exp(Ef-Ed)/kT)のほかに√Ncの因子がありNcはT^(3/2)で温度に依存するので、出払い領域でも多少のキャリア増はありますが、キャリア数は光吸収の増大を説明できるほど大幅には上がらないでしょう。
     レーザアブレーションに使うレーザはパルスレーザですから、平均パワーは小さくても瞬間的には1GW/cm^2に達するような大きな電界がかかり、これによって電子温度はかなり高くなっているはずで、瞬間的にはプラズマ状態になっているのではないかと存じます。これが光吸収を引きおこす可能性が十分に考えられます。パルスレーザを当てた場合、このほか、屈折率も変化します。このような現象を総称して非線形光学現象といっています。パルスレーザを当てたことによって生じた励起状態は、光パルスが0になったときに緩和して熱平衡状態に向かいます。従って電子プラズマも瞬間的にしか存在しませんが、非線形光学効果を起こすには十分でしょう。  光吸収の増大をこのような観点から見直してはいかがでしょうか。

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    Date: Mon, 20 Jan 2003 19:21:37 +0900
    Q2;佐藤勝昭 先生

    東京理科大学の花田です。
    丁寧なご回答、誠にありがとうございます。
    非線形光学現象について、これから調べてみよう と思います。

    僕が温度上昇によるキャリアの増加が原因で光吸収係数 が増加すると考えたのは「Handbook of optical constants of solids」という本に 載ってあった波長およびキャリア濃度と光吸収係数の関係が表にあり その値をプロットすることで(特定の波長内での話です)
                    α∝n^1.32∝λ^2.01
    という関係を導き出した事に始まります。
    また、実験自体は非常にシンプルでSi基板を50℃~200℃に 加熱した後、レーザー光を照射する(同じショット数です)、というものでした。

    すると、50℃の時の照射領域の直径、100℃の時の直径、 200℃の時の直径を段差測定器で測定した結果、温度の上昇に伴い直径が わずかながら増加していることがわかりました。このことは、基板温度の上昇に伴 い、吸収係数が増加し、基板上に来たガウスビーム の大きな半径の部分も、吸収係数が増加した分、吸収したのではと思ったのです。 レーザー光を集光してSi基板上に照射すると、表面温度が何万度にもなり、その、 何万℃+50℃、何万度+100℃、何万+200℃では、得られる照射領域の直径の 大きさに差がないのでは思い、レーザー光の影響よりも、照射前の基板加熱が 原因でキャリアが増大、吸収係数の増大が起きた、と思ったのであります。

    しかしながら、出払い領域でのキャリアの増幅というイメージがわきにくかった所が あり先生のHPを拝見した次第であります。これから、図書館にいって、まずは非線形光学 現象について調べてこようと思います。

    再度、丁寧なご回答、誠にありがとうございました。
    なにか、お気づきな点(もしくは間違っている点)がありましたら、よろしかったら時 間が空いている時にでも 返事をもらえたら幸いです。

    拙い文章および説明不足な点をお詫びしておきます。
    本当にありがとうございました。
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    Date: Mon, 20 Jan 2003 20:41:30 +0900
    A2:花田様、佐藤勝昭です。
     詳しい実験条件を教えて頂きありがとうございます。
    要するに、基板温度によって段差計で測定したアブレーション領域の直 径が増大したと言うことですね。私の述べた解釈では温度によらないは ずですから、非線形光学効果説は成立しませんね。
     あなたは、温度が上昇して吸収が増え、レーザビームの裾の部分でも 吸収されたために、アブレーションの領域が増えたと考えているのです ね。あなたが引用している、α∝n^1.32∝λ^2.01の式は、自由電子の プラズマ振動によるドルーデの式における損失項がキャリア数とともに 増大するという現象で、Free carrier absorptionと呼ばれる式ですが、 そもそもこれは、自由電子が10^19cm^-3とか10^20cm^-3とか存在する場 合に成立するもので、普通のn型シリコンに適用できるような話ではあ りません。
     そこで、物質の拡散係数が温度上昇とともに増大したと考えてみまし た。表面層が瞬間的に加熱され高温になって結合が切れ原子が飛び出し たとしましょう。すると、その部分を埋めようと融解していない部分か ら原子が拡散してきます。するとそこに空孔ができ、それをまた埋める 形で、その周辺から原子が拡散します。その結果、あたかも空孔が拡散 したように見えます。拡散係数は、温度に対してアレニュースプロット で直線になる活性型の変化をしますから、温度が高いほど、空孔の拡散 距離も長くなり、広い範囲に空孔が広がります。このため結合が切れる 領域が広がって、アブレーションが起きた領域が広がるのではないかと 考えてみました。
     空孔移動機構による拡散係数Dは
    D=(1/6)Zs^(2) νexp(Sf/k)・exp(-(hf+hm)/kT)とかけます。(深井: 拡散現象の物理(朝倉書店1988)p.84)
    ここにSfは空孔の生成エントロピー、hfは空孔の生成エンタルピー、hm は空孔の移動の活性化エンタルピーです。詳しいことは、本を読んで頂 くとして、拡散係数DはD=D0 exp(-Ea/kt)という活性化型の温度変化を します。ここで、シリコンにおける自己拡散の活性化エネルギー3-5eV、 D0=20を入れると200℃でもDは10^-33cm^2/sの程度となり、ほとんど拡 散が起きるとは考えられません。ただ、50℃では、10^-48の程度なので、 もし、D0がもっと大きな値であれば、50℃では観測できなかった拡散が 200℃で観測できるようになる可能性はあります。
    参考までに、私の考察を書き留めました。
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    Date: Tue, 21 Jan 2003 18:42:25 +0900
    東京農工大学 佐藤勝昭 先生

    東京理科大学の花田です。
    重ね重ね、何度も詳しいご説明ありがとうございます。

    固体のレーザーアブレーション一つをとっても、たくさんの現象が 考えられる事を知り、誠に勉強不足さを感じてしまいまいした。 先生がおっしゃっていた、物質の拡散現象と温度依存性について、 さっそく、図書館に行って調べてきました。

    また、一つ質問なのですが僕が使ったFree carrier absorption と呼ばれる 式ですが(α∝n^1.32∝λ^2.01)、この式は自由電子が10^19cm^-3とか10^20cm^-3 でしか成立しないとのことですが、僕が計算したところによると、今回使用したn型 SiウェハはSbが不純物であり、低抵抗率(0.0117~0.0124Ω・cm)←(この時点で、ある 程度キャリア数が大であるという事はわかると思います)で純度が99.999%のものであ ります。
    そこで不純物原子の数、つまり単位当たりに生じた自由電子の数nは
     n=6.02×10^23×(mD/MA)=6.02×10^23×0.00001×(6.62/121)=3.29×10^17  [cm^-3]
    (m:不純物元素の原子量 M:半導体 A:不純物元素の原子量 D:半導体の比重)
    となりキャリアの数が10^17[cm^-3]、分だけあることを確認しました。この値では 先ほどのFree carrier absorptionの式に成立しないのでしょうか?
     何度も丁寧なご回答、本当にありがとうございます。「物質の拡散現象」という事は 初めて聞いたので、勉強不足さを感じる反面、なにやら、わくわくするところがあります。これか ら、また勉強してみようと思います。誠にありがとうございました。また、よろしければ、お時間 の空いている時にでもなにか、間違っている点がありましたら、ご教授願えれば、と思います。お忙し いなか、本当にありがとうございます。
     花田
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    Date: Tue, 21 Jan 2003 19:04:49 +0900
    花田様、佐藤勝昭です。
     シリコンのキャリア密度を推定されたのですね。10^17であれば、自 由電子吸収の裾は10μm付近の赤外領域に来るので、CO2レーザのような 赤外線レーザでアブレーションしないかぎり、吸収に結びつかないでし ょう。詳細は、J.I.Pankove: Optical Processes in Semiconductors (Dover 1971)p.74以下のFree Carrier Absorptionの項を読んで自分で ご判断下さい。
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    167.有機ELについて


    Date: Tue, 21 Jan 2003 13:44:38 +0900
    Q: はじめてMail致します。 有機ELについてInternet上で調べたところ貴殿のHPを拝見いたしました。 素朴な私の疑問にお答え頂ければと幸甚です。

    最近新聞で有機ELを利用し三洋電気が携帯の画面用のものを量産するとのことです。液晶と違いバックライトを必要とせず、Laserアネーター?を利用したスイッチ(On/Off)で有機ELを発光させ、低電力で明るい画面を作り出せると話題になっています。(私の理解は素人なので間違いがあると思いますが、ご考慮ください)

    近年プラズマディスプレイ、液晶等と電器店には多数並んでいますが、各々の違いを簡単に教えて頂ければと思います。 また、有機ELとは前者とどのように違うのでしょうか?

    お忙しいとは存じますが、宜しくお願いいたします。

    佐藤 淳代
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    Date: Tue, 21 Jan 2003 17:15:39 +0900
    A: さまざまなディスプレイの違いについて簡単に述べます。
     大きく分けて、
    (1)自発光するものと、(2)光強度を制御するものに分けられます。
    (1)には、CRT(いわゆるブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイ)、EL(エレクトロルミネセンス)、FED(電界放出型ディスプレイ)があります。(2)にはLCD(液晶ディスプレイ)、DMD(ディジタルミラーデバイス)があります。
    (1)のタイプは赤・緑・青の3色の発光体の電子状態が、電子線(CRT, FED)、紫外線(PDP)、電界(EL)などによって励起され、基底状態に戻るときに光を出す「ルミネセンス」という現象を利用しています。
    一方、(2)のうちLCDでは、光が液晶を透過する光量を、液晶分子の配向を電気的に制御しています。光源には白色光を用い、画素ごとに赤・緑・青のフィルターを用い、各色を独立に制御してカラーを出しています。 DMDは一部のプロジェクタに使われており、1cm角にミラーを何十万個も並べてそれぞれを静電気で動かして光源からの光を画素毎に制御して表示を行います。マイクロマシン技術が使われています。
    今のところ、小画面ではCRTが最も高精細ですが、最近はLCDもかなり高精細になってきました。
     LCDはバックライトが必要なのですが、制御には電力が要らないので消費電力という点では有利です。しかしLCDは見る方向によってコントラストや色再現に問題があるので、大画面ではやや画質に難があります。
     有機ELはバックライトが不必要ですが、発光のために電流を流すので消費電力はLCDと同程度です。将来はもっと効率がよくなるでしょう。当初心配された寿命の問題もかなり解決されたと聞いています。有機ELの大画面化は次世代の課題のようです。
     PDPは大画面では最も高精細ですが発光効率が低いので消費電力の点が問題です。次世代の大画面ディスプレイとして、FEDが注目されています。これは、ブラウン管を薄くして、電子銃を無数に並べたもので、低速電子ビームで蛍光物質を励起して発光します。ミニ電子銃としてカーボンナノチューブを使う研究が進んだことにより、FEDの将来性が高くなりました。いまのところ、低速電子線によるよい発光材料が未開発なので商品化されていませんが、近い将来開発が進むのではないかと存じます。
     以上、私の知っている範囲で全体を見通してみました。この分野は進展が激しいので、細かいところは、違っているかもしれません。
    ------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 21 Jan 2003 17:31:20 +0900
    佐藤様

    早速にご回答有り難うございました。 東京農工大の方とは存じ上げませんでした。
    実は、大学時代(かれこれ20年ぐらい前)そちらの応用科学、松永先生の研究室でアルバイトをしておりました。(松永先生はご記憶してらっしゃるかわかりませんが??) これも何かのご縁でしょうか?
    当時は旧姓で鈴木 淳代と申しておりました。

    現在私は外資企業の半導体描画装置へ勤務しておりますが、もともと文系なので理科系に疎く先端技術の知識が不足気味です。。。

    今回ご回答頂きとても助かりました。 また、何かありましたらご質問させて頂くことがあるかと思いますが、宜しくお願いいたします。

    佐藤 淳代
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    168.45度入射の薄膜の反射・透過の計算法


    Date: Tue, 21 Jan 2003 00:41:59 +0900
    Q: 佐藤勝昭 様
    はじめまして、OS大学のM・Nと申します。
    先生の物理なんでもQ&Aを見てメールいたしました。
    お忙しいとは思いますがよろしくお願いいたします。
    フィゾー干渉計の反射率、透過率の勉強をしているのですが、薄膜の反射率、透過率 をExcelで計算できるようにするにはどうすればいいのでしょうか?
    薄膜の条件は
    ・ 一方(表面)からの入射は透過率が小さく、反射率が大きい。他方(裏面)から の入射は透過率が大きく、反射率が小さい。
    ・ 一方からの反射率と他方からの透過率をできるだけ大きく同じ大きさにあわせる (干渉のコントラストをあわせたい)
    です。この条件での直進入射と45入射の場合の反射率、透過率を求めたいのですがど うやって求めていけばいいかわからないのでご指導お願いいたします。
    --------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 21 Jan 2003 19:16:05 +0900
    A: OS大学M.N.様、佐藤勝昭です。
     フィゾー干渉計では、ハーフミラーを45度入射で用いますから、斜 め入射の薄膜の反射、透過を考えなくてはなりません。少なくとも私自 身は、そのような場合の光学計算をエクセルでやった経験はありません。  貴方の求めるような光学設計は光学薄膜を作製している会社なら、き ちんとした手法が確立しているのではないかと存じます。日本真空光学 などの専門の会社にコンタクトされてはいかがでしょう。
     光学薄膜の計算法は、藤原史郎編「光学薄膜」(共立出版、1985)の 第I編に石黒浩三先生が書いておられます。これに基づいて、自分でプ ログラムされてはいかがでしょう。
     なお、このコーナーはボランティアワークですから、自分のやったこ とのない計算手法まで、新たな仕事をつくって無償で提供することはで きません。
     共同研究でやるのであれば、指導教官を通じて、きちんとした手順を 踏んで頂きたいと存じます。
    -----------------------------------------------------------------

    169.斜め入射の光吸収


    Date: Wed, 22 Jan 2003 22:01:57 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生

    はじめまして。僕はある教育機関でレーザ溶接の研究をしているSと申します。 物性なんでもQ&Aをみて、力を貸していただきたくメールをしました。
    現在、僕は半導体レーザを用いて真空中でのステンレスのレーザ溶接の研究を行なっ ています。レーザヘッドを鉛直から斜めに45°傾けてレーザを母材にあてて溶接を行なった 際、以前に行なった鉛直からレーザを当てて溶接をした時よりもエネルギー密度が低いに もかかわらず、溶け込み深さが深いという結果がでました。
    本来はエネルギー密度が高いほうが溶込み深さは深いはずなのです。
    そして、指導教官から、「光の当てる角度によって、光の吸収率が違うのではない か、角度を傾けたほうが吸収率がよいのではないか、調べてみなさい」といわれて、 図書館とかで調べてみたのですが、本も見当たらず、光の方は全く未知の領域なので、 いきづまってしまいました。
    光の当てる角度によって、母材の光の吸収率はどのようにかわるのですか?
    もともと、レーザの吸収について調べていて、少し前の科大の花田さんと先生のやり とりを見つけて、読んでみたのですが、いまいちわかりません。
    まだまだ僕の力不足であることは十分承知です。
    もしよければ少しでも力を貸していただけないでしょうか?
    よろしくお願いします。
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    Date: Thu, 23 Jan 2003 00:56:18 +0900
    A: S君、佐藤勝昭です。
     斜め入射の方がレーザ加熱の効果が大きい原因としては次のことが考えられます。 あなたは、斜め入射の場合の反射率のことはご存じですか。レーザの偏光が入射面 (入射光と反射光を含む面)内にある場合(P偏光)と、入射面に垂直の場合(S偏 光)とで反射率が異なります。吸収のない物質では、ある入射角でP偏光の反射率は0 になります。この角度をブリュースター角と呼びます。(金属では吸収があるので、P 偏光の反射率は完全には0になりませんが・・)界面を透過する光の強度がどうなる かは、屈折率や吸光度によるので、単純ではありませんので、この現象が関与してい る可能性が高いと存じます。レーザの偏光がどうなっているのか、調べてみてくださ い。
     斜め入射の反射の式は、山田、佐藤他著:機能材料のための量子工学(講談社1995) のp.152をご参照下さい。
    --------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 23 Jan 2003 12:39:19 +0900
    QQ:佐藤勝昭先生

    ご多忙の中、返事を書いていただきありがとうございました。
    斜め反射の場合の入射率についてはあまり知らなかったので、 先生のご返事はすごく参考になります。
    先生の紹介してくれた書物を読んで、勉強したいと思います。 もし、また何かなにかあれば質問すると思いますので、 そのときはよろしくお願いします。
    東京に足を運ぶ機会があれば、先生の研究室にお礼にいきたいとおもいます。
    本当にありがとうございました
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    Date: Thu, 23 Jan 2003 14:02:00 +0900
    AA:S君、佐藤勝昭です。
     「機能材料のための量子工学」の該当部分は、私の
    物性工学概論のプリント がウェブにはり付けてありますのでダウンロードしてお読み下さい。
     このプリントには、P偏光とS偏光に対する複素振幅反射率rp、rsが与えられていますが、 反射界面におけるP、S偏光についての複素振幅透過率tp, tsは、1+rp、1+rsで与えられま す。(なぜ1-rpでなく1+rpかというと、反射光の電界ベクトルの向きを入射光と反対にと っているからです。)光強度の透過率は、振幅透過率の絶対値の2乗|t|^2です。
     もし、消光係数κがゼロで複素屈折率が純実数のnで表されるなら、入射角がBrewster 角に等しいときrp=0となります。すると、tp=1となるので界面を100%通り抜けることにな ります。従って、レーザの偏光(電界成分)がたまたま入射面内にあったなら、斜めにした ことによって反射を受けずに物質中に入るのです。もちろん、金属では複素屈折率はn+i κと与えられ、κはゼロでないので、100%ということはありません。
     このあたりのことは、光学では常識でどの教科書にも載っています。
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    Date: Fri, 24 Jan 2003 11:50:06 +0900
    佐藤勝昭先生

    返信が遅くなり、申し訳ありませんでした。
    改めて、詳しいご意見をいただき、本当に感謝しています。まだまだ勉強の段階で、 わからないことばかりですが、少しずつでも自分のものにしていこうと思います。 本当にありがとうございました。
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    170.フォトニック結晶における光局在


    Date: Sun, 27 Jan 2019 09:36:52 +0900
    Q: こんにちは。以前、
    YIGと反射膜 の質問をさせていただいた金沢工大の佐々木です。
    磁性フォトニック結晶について分からないことがあるので、 申し訳ありませんが再び質問させていただきます。
    以前の質問でお答えいただいたものの中に、「光が局在し、透過域が生じる」と ありますが、なぜ、光が局在することで透過域が生じるのかが分かりません。 磁性フォトニック結晶について詳しく書かれた本、HPなどがありましたら お教えいただけないでしょうか?図書館などでさがしてみたのですが、なかなか 見つからなくて困っています。
    よろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 27 Jan 2003 12:37:39 +090
    A: 金沢工大佐々木様、佐藤勝昭です。
     私の記述が不十分でした。「周期構造がある場合には、ストップバンドになっていて光 が透過しないが、一箇所周期を乱してやると、禁制がとけて、透過するようになる。この とき、空間的な光強度の分布を見ると、周期を乱している層に光強度が集中している」と いうことです。
     図書館で本を探しても見つからないと書いておられますが、何事によらず本になってい るような研究成果は数年前に確立したもので、最近の研究結果は学会誌の解説や原著論文 にしか出ていません。すでに本に書かれているような内容は、普通は研究対象にならないはずで す。学会誌の解説や原著論文は、学術系の検索システムでキーワード検索して初めて調べ ることができるもので、普通のGoogleなどでは引っかかってこないでしょう。
     本来は、指導教官とよく相談して、情報の手がかりを得るべきものでしょう。
    なお、非磁性のフォトニック結晶に関する解説は、
    ○馬場俊彦他:フォトニック結晶とその応用;応用物理Vol.67, No.9, 1998, 1041.
    磁性フォトニック結晶に関しては、
    ○井上光輝:乱れた系における光局在と磁気光学効果;日本応用磁気学会誌Vol.22 No.7, 1998, 1105.
    に詳しく解説されていますので、そちらを参照して下さい。
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    171.黒くなった液晶表示


    Date: Tue, 28 Jan 2003 13:22:41 +0900
    HPを見て私の質問にもご回答頂けたらと思いましてメールしましたO社Kです。 質問なのですが、車の時計のところが液晶表示なのですが、以前から大半が黒くなっ て見えない状態でした。
    ある情報で液晶部分を60℃位で長時間暖めると元に戻ると聞いたので、試しにドライ ヤーで暖めてみることにしました。
    30分程すると今まで真っ黒で見えなかった時計の表示が現れ元に戻りましたが、暫く すると(冷めたからだと思いますが)暖める前の状態に表示が戻ってしまいました。 素人ながら色々本を読んで液晶の性質を調べてみましたが、どうもよく解りません。 困りはてた末に質問をすることにしました。
    なぜ黒くなったのか、黒くなった液晶を暖めるとどうして一時的に直るのか、冷める と元に戻ってしまいますが、どうすれば元の液晶に戻すことができるのでしょうか、 教えて頂けないでしょうか。宜しくお願いします。
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    Date: Wed, 29 Jan 2003 17:28:38 +0900
    O社K様、佐藤勝昭です。
     ご質問の件ですが、文字以外の部分が黒くなる原因としては、状況が分からないので、 十分なお答えになっているかどうか分かりませんが、次のことが考えられます。
     一般にツイストネマティック液晶の場合、電界がかからないときは、液晶分子は液晶パ ネル面に平行な面内に向いており、方位のみが距離とともに徐々に面内で回転しています。 文字を表示させるときは、対向する電極間を電界が加え、その部分のみ液晶分子を面に垂 直に配列するようになっています。このとき偏光は変化を受けずそのまま通り抜けてくる ので、偏光子を予め直交させておくと光が透過せず黒く見えるのです。
    もし何らかの理由 で、液晶分子が電界がかかったと同じようにはじめから液晶パネル面に垂直に配列した状 況になっているなら、文字のない部分も黒く見えるでしょう。温度を上げることで垂直配 向性が解けて面内に配向するようになれば、暖めたときに文字以外の部分が白くなること が説明できます。このような状況は「焼き付き」と呼ばれ、液晶の経年劣化などで、イオ ンが界面に溜まったり、配向膜が変化したり、いろいろな原因が考えられます。
     貴方の車の時計の液晶表示装置にバックライトがついている場合、全体が黒くなる原因 の1つとしてバックライトの不具合が考えられます。バックライトに蛍光灯を用いる場合、 電極の劣化で放電が起きなくなった場合、温めると放電が起きる場合があります。バック ライトに加える交流電界を作るインバータの不具合という場合もあります。
    (液晶ディスプレイの専門家である本学電気電子工学科の飯村靖文助教授にお話をお伺 いしてお答えしました。)
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    Date: Wed, 29 Jan 2003 18:21:10 +0900
    QQ: 佐藤教授殿
    親切にご回答して頂きありがとうございました。
    回答して頂いた原因のなかにバックライトの不具合というのがありましたが、通電して いなくても同じ状態ですのでこれが原因とは考えられないですよね。
    ということは焼き付いた状態ということでしょうか。
    経年劣化した液晶は元に戻す方法はないのですね。
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    Date: Wed, 29 Jan 2003 19:05:30 +0900
    AA: K様、佐藤勝昭です。
     経年劣化した液晶は残念ながらもとに戻らないと存じます。車のダッシュボードの中は、 夏は60℃、冬はマイナス5℃という液晶にとっては過酷な温度条件があり、溶媒や液晶分 子の分解・化学変化などが起きる確率が皆無ではありません。もちろん各社、信頼性の点 では配慮されていますが、ある確率で劣化は起きると思われます。
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    172.焼結体のEPMA分析


    Date: Wed, 29 Jan 2003 14:35:52 +0900
    Q: 佐藤先生、お久しぶりです。
    以前
    超伝導ギャップとスピンギャップについて質問した T大学の江原です。
    またまたつまずいてしまったのでメールさせて頂きました。
    今、焼結体の組成分析をEPMAで行っているのですが、試料を目の細かい紙ヤスリ で研磨したあとでも、SEM像では測定面がボコボコで平坦性がとれてないように みえます。また、測定時のカウント数も単結晶にくらべ非常に低いです。
    ここで、鏡面研磨する方法と、表面が粗い試料に対してEPMA分析は意味をなすか についてお聞きしたいです。
    どうぞ、よろしくお願いします。
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    Date: Wed, 29 Jan 2003 16:41:11 +0900
    A: 江原様、佐藤勝昭です。
     私も、以前にパイライト系Fe1-xCoxS2多結晶試料 をEPMAで分析しようとして、有意な結 果が得られず、結局、酸に溶解して原子吸光法やICP法という破壊測定で分析した覚えが あります。SEMに附属したEDXという分析装置を使って多結晶試料の組成を測定した経験も ありますが、各結晶粒毎の組成がばらついているような場合、分析が困難でした。結晶粒 毎に組成がばらついているようだと、EPMAで平均的な組成を見ても結果にどれくらい意味 があるのか疑問になります。
     また、平坦でないと、ある結晶粒から出たX線が、他の結晶粒を通過して、回折を受け て検出器に達することもあり、定量的な分析はできないと思います。
     鏡面研磨の方法をお尋ねですが、材質によって様々です。一般的な半導体の場合、 CMP(化学機械研磨)といって研磨剤(ダイヤモンドペーストなど)と化学薬剤 (主としてアルカリ)を混合したSlurryを用いた研磨を行います。セラミクスの場合、 Slurryとして何を使えばよいかは、研磨剤を販売している会社と相談して下さい。
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    QQ: Date: Wed, 29 Jan 2003 17:15:01 +0900
    貴重なご意見を聞かせていただき、有難うございました。
    試料の組成分布をEPMAで線分析しようとしていたのですが、やはり難しそうですね。
    再検討してみます。では、失礼します。
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    173.CIS太陽電池におけるCdSの光伝導度


    Date: Fri, 31 Jan 2003 18:41:08 +0900 (JST)
    東京農工大、佐藤先生。
    T大のEと申します。
    CdS薄膜の光電気伝導度についてお聞きしたくメールさせて 頂きました。
     CIS太陽電池において光吸収層であるCISでは当然のことながら大きな 光電気伝導度が得られることが必要ですが、Au/ZnO/CdS/CIS/Mo/ガラス という構造のデバイスを作製した場合、CdSにおいては光伝導度が大きい 必要はないということを聞きました(むしろ光伝導度がでない方が良い)。
    これは私の考えなのですが、CIS太陽電池の開発初期においてはCdS薄膜は 真空蒸着法によって形成され、膜厚もCISの凹凸面を完全にカバーするため に5000Å程度が必要でした。しかし、このようにしますとCdSも大きな光吸 収係数を持ちますので、CISに有効に光が届かず損失になるためCdSは薄くし なければならないということですが、この損失になるといいますのはCdSの 光伝導度が小さいためこれに光を吸収されてしまうと有効に外部に電流をと りだせないということではないのでしょうか。こう考えますと、CdSの光伝導 度は大きい方が良いという結論に達します。また、CdSは光伝導度がでない方 がよいのならばそれはなぜなのでしょうか。
    お忙しいところ申し訳ありませんが、以上の件に関しまして何かコメントを 頂ければ幸いです。
    よろしくお願い致します。
    それでは、失礼します。
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    Date: Sat, 1 Feb 2003 09:50:26 +0900
    A: E様、佐藤勝昭です。
     現在では、CdSの役割はbuffer層と考えられています。従って光が当たって低抵抗に なるとbuffer層としての働きがなくなるのです。
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    174.規格化周波数と薄膜の反射率


    Date: Mon, 3 Feb 2003 17:07:05 +0900 (JST)

    佐藤先生

    はじめまして、岡山理科大学の電子工学科を専攻している中瀬 といいます。ホームページを見て先生にご指導願いたくメール いたしました。今、Q&Aに掲載されていたExcelを参考に使わせ ていただき、薄膜の反射率、透過率を出そうと周波数を膜厚で 規格化して計算しようとしているのですがうまくいきません。 簡単に規格化のやり方を教えていただけませんでしょうか?よ ろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 3 Feb 2003 20:44:51 +0900
    A: 中瀬様、佐藤勝昭です。
     
    あのソフトは、私が作ったものでないので、正確なお答えになっているかどうかわかりませんが、貴方の計算しようとしている概念についてお答えします。
    周波数を膜厚で規格化というのは「波長を膜厚で規格化」の意味でしょうか。しかし、波 長に対してnやkは定義されているので、はじめから規格化した値を使おうとすると、規 格化波長に膜厚をかけて波長を出し、それに相当するn,kを探して計算することになりま す。表にない波長が出た場合、n,kを内挿して求めるなどの手続きが必要になります。
     規格化するメリットが見えないのですが、・・・。
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    Date: Mon, 3 Feb 2003 22:17:16 +0900 (JST)
    Q2: 佐藤先生

    早速のご返答、ありがとうございました。
    波長を薄膜で規格化するのではなく、薄膜を波長で規格化する の間違いでした、私の勘違いで本当に申し訳ございません。薄 膜を波長で規格化する場合もやはり意味は無いのでしょうか、 お忙しいとは思いますがよろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 4 Feb 2003 01:30:49 +0900
    A2: 中瀬様、佐藤勝昭です。
     波長が固定されているのであれば、その波長でのn,kは定数になりますから、 規格化した膜厚に対して反射率を計算することは簡単です。膜厚に関係する量として は、列Mにφ=2πNfd/λがありますが、規格化膜厚d'=d/λが与えられれば、φ=2π Nfd'となります。あとは、自分で考えてください。Excelの計算の際に、n,kが定数で あることに注意してください。自分でお作りになったExcelファイルを添付でお送り下 さい。チェックしてあげます。
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    Date: Tue, 4 Feb 2003 13:15:21 +0900 (JST)
    Q3: 佐藤勝昭先生
    たびたび申し訳ございません。岡山理大の中瀬です。Excelを 作成するにあたってもうひとつだけ質問なのですが波長を500nm ~1500nmまでで計算しようと思うのですが、当然、波長が変わ るということは屈折率も変わるということですよね?波長から 屈折率を求めるということはできるのでしょうか、どう考えて も私ではわかりかねます、どうかご教授お願いいたします。
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    Date: Tue, 4 Feb 2003 13:55:15 +0900
    A3: 中瀬様、佐藤勝昭です。
     波長と光学定数(屈折率と消光係数)の関係は、ハンドブック類から表として得られます。 たとえば、なんでもQ&Aの2002.08.19 コメント「エクセルで薄膜の反射率が計算できる」 大塚電子大川内さん においては、「SiO2、Siの屈折率消衰係数nkはHandbook of Optical Constants of Solidsから内挿し て、各波長のn, kを求めました。」とあります。SiO2,Siについては、
    大川内さんのエクセルファイル
    にある表を用いることができます。
     波長をいったん決めると、その波長に相当するn,kの値を表から引っ張ってきてその値 を使うようにすればよいのです。たとえば、この表をそのまま活かしてSiO2の200nmにお けるn+ikを引用するなら、COMPLEX($G$5,$H$5)とすればよいのです。COMPLEX(G5, H5)と したときは、ドラッグして行を自動更新する時に(G6,H6), (G7,H7),...という風に値が変 わってしまうので要注意です。
     貴方の求めたい表は、別の場所(たとえば、D62のセルから)に作って下さい。Dの列は 規格化膜厚を順々に変えて書くことになります。一方たとえばB63のセルには、波長を書 き込みます。その波長に相当するn,kの値を探し出すプログラムが必要です。表にない値 を入力したときは、if文などを使って前後の波長値を探して、内挿します。これを、Si, SiO2についてやらなければなりません。その値を使って、あとは、
    大川内さんのやり方 と同じ手続きでやればよいのです。

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    Date: Tue, 4 Feb 2003 14:46:17 +0900 (JST)
    Q3: 佐藤勝昭 様
    ご指導、ありがとうございました。
    もう一度、基本に戻って勉強してみようと思います。
    いろいろとご迷惑をかけ、申し訳ございませんでした。
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    175.液晶の赤外特性


    Date: Sun, 9 Feb 2003 22:58:09 +0100
    Q: 佐藤教授殿
    H社のNと申します。(匿名にてお願いいたします。)HP物性なん でもQ&Aを見ました。
    現在、液晶の光学特性に関して調べています。赤外線(波長10um)計測に液晶を 用いたシャッタを使いたいためです。私をはじめ液晶経験者がおらず、また現在 海外拠点での活動のため、情報収集がはかどらずWEBで情報を探していて佐藤教 授のHPにたどり着きました。これまでWEB調査で液晶を用いた赤外線スイッチに 関しては強誘電性液晶の過渡応答時に発生する光散乱効果を用いる例(S製作 所)が見つかりました。しかしこれは交流パルス制御が必要であること、透過率 が約60%(@10um)と低い事など私たちの目的に合わないところが多いのです。社内 の液晶関係の方にも相談しているのですが赤外線を対象にしている方がおらず的 確な情報が得られていません。探している特性は「赤外線に対するON・OFFコン トラストが高く、単極性DC電圧制御が可能、薄型で消費電力が少ない。」です。
    初歩的な内容も含め以下の質問をさせていただきます。よろしくお願いします。
    ① 液晶の種類にはどのような物があるのでしょうか?②種類毎に赤外線 (波長10um)に対する光学特性(ON、OFF制御時の透過率、吸収・散乱率のデー タ)がわかる参考文献などあるでしょうか?(特性そのものについて紹介いただ けると幸いです)③ON、OFF制御性方式(単極性DC制御できるものがあります か?)、④状態遷移の応答性、
    ファラデー回転素子も検討しましたが広帯域波長制御ができない、磁気制御部が 大きいなどで目的に合わないと判断しました。液晶、ファラデー素子のほかに赤 外線など電磁波のスイッチ制御に適用可能な物性についても紹介いただければ幸 いです。
    たくさん質問してしまいましたが、どうかよろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 11 Feb 2003 01:41:53 +0900
    A: N様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私は、液晶の専門家ではないので、電気電子の飯村 靖文助教授(iimura@cc.tuat.ac.jp)に伺いましたところ、有機分子は赤外域に分子振 動による吸収帯があるので、吸収がかなり強いのではないか、また、10μmの赤外域ま で屈折率の異方性が保たれているかは、一概には言えない、たしかNHK技研の方が赤外 の光スイッチを研究しておられたようだという情報を下さいました。ゲストホスト液 晶ではどうかという質問をしてみましたが、面内配向と垂直配向の二色性が赤外でど の程度かという問題があるので、何とも言えないというご返事でした。
     液晶を光通信用スイッチとして用いることについては、電気電子の黒川隆志教授 (tkuro@cc.tuat.ac.jp)がやっておられたと思いますので、そちらに直接聞かれては如 何でしょう。液晶討論会のプログラムを調べて見ると、時間分解赤外分光法を用い た、PBLG-CRA膜の液晶配向力の解析などが行われており、characterizationとして赤 外は使われているようです。
    液晶討論会のHPを ご覧になっては如何でしょうか。
     これまで液晶は主として可視光用のディスプレイとして研究されてきたので、赤外 域に関してご質問のような研究は行われていないのではないでしょうか。むしろ、産 学連携で研究する格好のテーマではないでしょうか。その場合は、農工大TLOを通じて お尋ね下さい。
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    Date: Mon, 10 Feb 2003 21:37:04 +0100
    AA:佐藤教授殿
     貴重なご意見ありがとうございます。先ず、ご紹介いただいた液晶討論会HPを 確認してみます。大学の研究者の方とこのように(気軽に)技術、科学に関して 相談できる場を提供して下さっていることに感謝いたします。
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    176.シリコンウェハーのUV反射率

    Date: Mon, 10 Feb 2003 14:01:27 +090
    佐藤勝昭先生
    始めまして。C大学大学院S研究科M1のUとい います。Webに公開される場合、匿名(学科、氏名)を希望します。
    私は現在、SiウェハとUV光との関連を調べています。その過程でこのHPの存在 を知りました。
    SiウェハのUV光(365nm)に対しての反射率、吸収率は理論的にどのように 求めればいいのでしょうか?
    また、入射光がSiウェハに対し垂直でない時、どのような式を用いれば理論的な値 が求まるのでしょうか?
    できれば、簡単な説明、参考書籍(データブック)等教えていただけたら幸いです。 宜しく御願いいたします。
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    Date: Mon, 10 Feb 2003 21:14:09 +0900
    A1: U様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。垂直入射におけるシリコンの反射率は、屈折率nと消 光係数kが決まればR={(n-1)^2+k^2}/{(n+1)^2+k^2}で与えられます。これに100倍すれば% で出ます。各波長でのn, kの値は、PalikのHandbook of Optical Constants of Solidsに あります。斜め入射の場合は、
    なんでもQ&Aの該当する項目を見て下さい。

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    Date: Tue, 11 Feb 2003 19:54:36 +0900
    A2: U様、佐藤勝昭です。
     昨日は、会議等で時間がなくあわてて返事を書いたので、十分な説明をせず、失礼 しました。
    360nmにおけるシリコンの光学定数は n=6.04945, k=2.99399 です。
    入射角φにおける複素振幅反射率は
    P偏光(電界ベクトルが入射面内*)について、
    rp=[N2cosφ-{N2-(sinφ)2}1/2]/[N2cosφ+{N2-(sinφ)2}1/2]
    S偏光(電界ベクトルが入射面に垂直)について、
    rs=[cosφ-{N2-(sinφ)2}1/2]/[cosφ+{N2-(sinφ)2}1/2] です。
    光強度に対する反射率は、rp, rsの絶対値の二乗です。
    (山田、佐藤他著:機能材料のための量子工学、講談社、4.1.3節B、p.153の式 (4.28)) *入射面とは、入射光線と反射光線を含む面のことです。
    ここで、N=n+ikです。
    試しに、EXCELで作ってみました。ファイルを添付しますので、チェックして下さい。
    コラムB2に波長を10nm刻みで入力して下さい。
    貴方のEXCELにおいて複素関数が使えるようになっていなければなりません。
    「ツール」メニューのアドインにおいて「分析ツール」をチェックしておいて下さい。
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    Date: Wed, 12 Feb 2003 13:11:04 +0900
    AA: 佐藤勝昭先生
    C大学のUです。
    大変分かりやすく説明していただき、ありがとうございました。
     私の研究室は熱流体なので、光については相当おろそかにしていましたが、今回の事で光についての関心が高まりました。
    できれば佐藤先生の授業を聞いてみたかった・・・。という心境です。自分なりに頑張ってみるつもりではいますが、またつまらない質問をする事があると思いますので、その時は宜しく御願いします。
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    177.磁歪について


    Date: Mon, 10 Feb 2003 15:56:41 +0900
    Q: 始めまして。K社に勤務するT(匿名でお願いします)と申します。異動したばかりでまだ磁性材料1年生ですので磁性の知識が乏しい私としましては佐藤先生のHPは業務にプライベートにと大変活 用させて頂いております。
    ギャラリーも見させて頂いております。フォロロマーノがお気に入りです。
    早速ですが御質問させて頂きたいのは鋼(S55C)の磁歪についてです。
    「鉄族原子の形状は回転楕円体であり、回転軸が磁気モーメントの方向と一致して いる。」とあるHPより知りました。
    磁歪とは外部から磁場を印加された鋼の原子の磁気モーメントの方向が印加磁場方 向に向く(楕円体の長軸方向が磁場方向に揃う)ため、 印加磁場方向に歪むと言う事なのでしょうか?(質問1)
    また、何故鉄族原子が見 かけ上回転楕円体になるのか教えてください。(質問2)

    さらに「逆磁歪効果(磁歪の逆効果)」について質問です。この現象は例えば圧縮 荷重が鋼材料に掛かった場合、材料が縮む方向に歪むので 回転楕円体の長軸方向(磁気モーメントの方向)が圧縮荷重に対し鉛直方向に向い てしまう(原子が90°回る?それとも原子そのものは 回転しなくても磁気モーメント方向が90°変わる)と言う現象なのでしょうか ?メカニズムを教えてください。(質問3)宜しくお願いします。
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    Date: Mon, 10 Feb 2003 21:07:44 +0900
    T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。磁歪(磁気歪み)についてのお尋ねですが、磁歪を考える ときには、ミクロな発生機構と、マクロな現れ方を区別して考えなければなりません。
     ミクロには、強磁性体の本質として、自発磁化が存在する限り、磁気秩序を持つととも に結晶格子は歪みます。これを自発磁気歪みといいます。(佐藤編:応用物性、オーム社 p214) 磁化の方向が変わるとそれに伴って結晶変形が変わります。磁化がある方向を向 いたとき、結晶がこれに応じて歪み、その方向のエネルギーをなるべく下げるように磁気 異方性をエネルギーを作る。この歪みの大きさは、歪みに抵抗する弾性エネルギー(歪み の2次に比例)と磁気異方性エネルギー(歪みの1次に比例)との兼ね合いで決まります。 (金森:磁性、培風館p.123)
    立方晶のFeでも方向によって磁気歪み定数は異なります。回 転楕円体で表されるほど単純ではありません。たぶん、Fe原子の電子分布が回転楕円体的 になっているということを表現しているのでしょうが、あまりそれにこだわることはない と思います。
    マクロには、磁区構造が関係して来ます。各磁区内で結晶が磁化方向を主軸として磁気 歪みが起きているけれど、消磁状態では打ち消し合っています。磁界の印加とともに、磁 区内で磁化回転が起きると、各磁区の歪みはその向きをそろえ全体として変形します。 (近角:強磁性体の物理 下巻、裳華房p.107)
     逆磁歪効果は、磁化によって変形する現象がある以上、逆に張力によってその変形を助 けてやれば、磁化が変化するという現象です。磁歪現象が磁区に関係するのは、主にこの 逆効果を通じてです。(近角:強磁性体の物理 下巻、裳華房p.139)
     詳細は、近角先生の本を読まれることをお奨めします。
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    178.白金黒と銅粉の違い(金属微粒子の反射)


    Date: Sun, 23 Feb 2003 09:15:38 +0900
    Q: A高専NTと申します。HP大変興味深く拝見しています。
    金属微粒子はなぜ黒いのか理由を教えてください。Pt、Ni微粒子は白金黒というくら い真っ黒です。一方、銅粉、真鍮粉はバルク金属の色と同じです。後者は粒度が大き いのかとも思いますが、どう考えればよいのでしょうか。アルミナのような透明物質 は粉末になると乱反射で白くなるところまでは分りますが、ナノオーダーになると再 び透明になるような気もします。これは正しいでしょうか。
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    Date: Sun, 23 Feb 2003 11:28:26 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
    ホームページをご覧頂きありがとうございます。
     金属微粒子の色についてのお尋ねですが、微粒子といっても、形状によって様々 で、一概に言えないと思います。
     白金自体は、可視光全領域にわたって反射率が比較的高く、文字通り白い金属です。たと えば、マグネトロンスパッタ法でガラス基板上に作製した白金の薄膜は多数の結晶粒 からできていますが、粒界が接していて平坦性も高く、凹凸は光の波長以下なので反 射率も非常に高くなっています。私の研究室では、白金が空気中で安定であること、 反射スペクトルが平坦であることを利用して、磁気光学スペクトル測定の際の校正用 (非磁性の)鏡として用いています。
     一方、白金黒は、白金塩を還元したり、電気分解したりして作製するのですが、粒 子の形状が複雑で、極めて大きな表面積(20-40m2/g)を有するのが特徴です。(岩波: 理化学辞典)表面積が大きいので触媒や水素の吸蔵に使われます。この場合は白金微粒 子粉末に入射した光が、粒子内や粒子間で複雑な反射を繰り返し、外に出られなく なって反射率が極めて小さくなっているのだと考えられます。家からお答えしている ので、手元に資料がないので、正確な光学定数などを考慮しなければなりません が・・・。
     金や銀の粉末は形状が単純で反射を繰り返して減衰することがなく、比較的少ない 回数の反射で光が戻ってくるのと、反射率が、金の場合は600nm以上では91%以上、銀 の場合は可視光全域で92%以上もあるので、減衰しにくいこともあってバルクの性質を 保っているものと考えられます。
     アルミナのナノ微粒子粉末では散乱がどうなるかというご質問ですが、光の波長に 比べて十分小さい場合は、光はその粉体を連続体として認識するので、散乱されず透 明に見えると思います。おおざっぱには、光の散乱が大きいのは、粒子の寸法が、媒 体内での波長と同程度の場合だと考えておいて下さい。
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    Date: Sun, 23 Feb 2003 12:57:24 +0900
    佐藤先生
    AA: A高専のTです。早速、有難うございました。
    白金黒は粒度の問題ではなくて、形状が複雑なため(よく知りませんが、多分深い谷 が沢山ある)、反射回数が大きくなり、その都度1-Rだけ強度が下がるので、外に 出るときはRの強度になるということですね。
    真鍮、銅粉との差も納得できました。ナノ粒子についても理論的な根拠が分り、すっ きりしました。授業に自信をもって臨めます。
    ------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 26 Feb 2003 14:41:29 +0900
    AAA: 徳光様、佐藤勝昭です。
     Ptの反射スペクトルがわかりました。
    添付ファイルのように620nm(赤)で66.5%、560nm (緑)で64.2%、440nm(青)で58.5%というように、反射率は金ほど高くなく、スペクトルが 比較的平坦です。試しに10回反射するとどの程度の反射率になるかを計算すると、620nm では1.7%、560nmでは1.2%、440nmでは0.46%ですから真っ黒になるのでしょう。
    (参考資料:E.D. Palik:Handbook of Optical Constants of Solids, Academic, N.Y., 1985, p.333)
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    Date: Wed, 26 Feb 2003 17:10:38 +0900
    佐藤先生
    有難うございました。Ptの反射率が意外に低いのに驚きました。金属なら0.9位 はあるだろうと思っていましたが、物性に関してはデータを調べないと結論は出せな いことが分りました。これなら何度も反射すれば黒くなっても不思議はないですね。 また、屈折率とkが光学定数で、反射率はそこから計算で求める(エクセルなら簡 単)のが普通というのも勉強になりました。
    いろいろご教示いただき、御礼申し上げます。
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    179.炭素のマイクロ波加熱


    Date: Tue, 4 Mar 2003 11:57:55 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生

    初めまして、私はS株式会社のSというものです。
    最近、マイクロ波による物質の加熱に興味があり、いろいろ実験しているのですが その中で何でなのかが分からない点がありました。基本的なことかも知れませんが ご教示いただけたら幸いです。
  • Q1.電子レンジの中で炭素粉末を入れ加熱すると瞬時に高温になるが、同じ成分 の炭素でできた板を加熱しようとしてもほとんど昇温しないのはなぜなのでしょうか?
  • Q2.Q1と同様に炭化ケイ素(SiC)で行った場合にも粒状のものだとかなり昇温さ れるのですが、炭化ケイ素るつぼ(市販品)のものだとほとんど昇温されないのは なぜなのでしょうか?

  • お忙しいところ誠に申しあけありませんが、よろしくお願い致します。
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    Date: Wed, 5 Mar 2003 01:28:02 +0900

    A: S様、佐藤勝昭です。
     板の場合は、表面でマイクロ波が吸収されてしまい、内部まで届かないので、内部 は加熱されず、表面で発熱した熱のみが熱源となります。その熱によってどのくらい 昇温するかは熱容量を考えると必要がありますが、全体が温まるには少なすぎるので しょう。一方、粉末であれば、表面積の割合がバルクに比べ大きく、発熱が起きやす く、熱容量も小さいので昇温しやすいのでしょう。また、粉末の集合体なら、隙間も 多く、奥までマイクロ波が入るという点も有利でしょう。
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    Date: Wed, 5 Mar 2003 10:19:00 +0900

    QQ:「炭素粉末と板とのマイクロ波加熱に関しての違い」について お忙しいところ回答していただき誠にありがとうございました。 表面積の違いが異なる挙動を示していたのですね。

    ところで、先生から送っていただいた文章の中に
    「板の場合では表面でマイクロ波が吸収されてしまい・・・。」と
    ありましたが、これは誘導加熱によるものと考えて良いのでしょうか?
    よくマイクロ波照射による加熱で誘電加熱、誘導加熱という言葉が 出てきますが、炭化ケイ素や炭素の場合は誘導加熱で温度が上昇するのですか?
    金属だと反射、誘電体だと吸収、誘導加熱だとジュール熱??
    そのあたりが、いつも混乱してよく分からなくなります。
    基本的なことばかりお聞きし、ご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願い致しま す
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    Date: Wed, 5 Mar 2003 11:41:35 +0900

    AA: S様、佐藤勝昭です。
     誘電損失による加熱は、誘電率の虚数部ε"(ω)によります。電磁気学によりますと、 誘電率の虚数部と導電率の実数部σ'(ω)の間には、
     ε"(ω)=4πσ'(ω)/ω [cgs]
     またはε"(ω)=σ'(ω)/ωε0 [SI]
    の関係式が成り立ちます。従って、電磁気学的には、高周波において誘電損失と抵抗損失 とを区別することができません。
     誘電体の誘電損失は、電気双極子の運動が電磁波の振動についていけなくなるとき生じ ます。従って、等極性の炭素(グラファイト)では、誘電損失は考えにくいのです。ω→ 0(直流)としたとき、グラファイトではσ'が有限の値をもちますから、抵抗損失がマイ クロ波領域においても主であると考えるのが普通でしょう。一方、誘電体では直流でσ' が0になるので、抵抗損失ではなく、誘電損失を考えなければなりません。
     ご理解頂けたでしょうか。
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    Date: Wed, 5 Mar 2003 14:14:36 +0900
    QQQ:佐藤先生

    お忙しいところ回答していただきありがとうございました。 大変、勉強になりました。
    また、教えていただくことがあると思われますが その際はよろしくお願い致します。
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    180.磁区と結晶粒


    Date: Fri, 7 Mar 2003 20:56:26 +0900
    Q: 佐藤勝昭 様

    先日は大変ご丁寧に回答頂いたにも関わらず御礼が遅くなりまして 申し訳御座いません。改めて御礼申し上げます。K社のTです。

    また先生にお伺いしたい内容があります。ご迷惑でなければご教授ください。 磁性体の「磁区」は磁気モーメントが一定方向に揃った結晶体の集団と認識して おります。また磁気モーメントの方向が異なる集団との境が磁壁と考えております。
    この磁壁、結晶粒同士の境と一致する訳ではないのでしょうか?つまり、結晶粒と 磁区が一致している訳ではないのでしょうか?それとも全く関係のない物同士なの ですか?
    大変的外れな質問かもしれませんが宜しくお願いします。
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    Date: Sat, 08 Mar 2003 19:28:43 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
     「磁区」は磁気モーメントが一定方向に揃った「結晶体の集団」であるという認識 は間違いです。それだと単結晶内に磁区が存在することは説明できないでしょう。ア モルファス磁性体のように全体が一様で粒界のない材料、たとえばミニディスク(MD) に用いられるアモルファスTbFeCoにおいてレーザスポットによって円形の磁区が記録 できることなど説明できないでしょう。
     磁区はあくまで磁気モーメントのみについての現象です。強磁性体に磁区が生じる のは、表面に磁極ができ反磁界によってエネルギーが高まることを避けるために、磁 気構造が領域に分かれることが原因です。磁区については、添付ファイルの「磁性入 門」に簡単な解説をしていますので、お読み下さい。(この解説は、応用物理学会ス ピンエレクトロニクス研究会主催の「スピンエレクトロニクスセミナー」で行った講 義のテキストです。)
     もちろん、多結晶試料においては磁壁移動が粒界にピン留めされることがあります が、磁性体結晶粒同士が接近しておれば、交換相互作用が働きますので、結晶粒と磁 区が一致することは必ずしもありません。永久磁石では、結晶粒毎に磁化回転が起き るように微細化をし、さらに粒同士が交換結合しないようにして、BH積を高めること が行われますので、T様のおっしゃるような状況もあると考えます。
    --------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 15 Mar 2003 08:54:40 +0900
    AA: 佐藤勝昭 様
    K社のTです。
    本当にいつも大変丁寧な回答を頂ける上に今回はテキストまで添付頂き 有難う御座います。参考にさせて頂きます。
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    181.ハードディスクに対するX線の影響


    Date: Mon, 10 Mar 2003 19:15:59 +0900
    Q: 東京農工大学 佐藤勝昭様
    はじめまして。S(匿名希望)と申します。ハードディスクの媒体を開発しております。
    お迷惑でなければ、ご教授くださいますようお願いいたします。

    米国にて、輸入時の空港検査で、X線がHDD装置に照射 されますが、海外のお客様から、記録情報に与える影響 について、詳細な計算に基づいたコメントを求められていま す。発熱による熱緩和などにも影響しない強度だと思いま すが、定量的なコメントが必要です。

    テロ後、金属部品を使った装置には、比較的強力なX線が 照射されるようになったことが背景にあります。

    空港でのX線照射量は、
     照射線量 0.4 mR
     照射時間 1分以下
    とのことです。磁性膜に直接照射される線量も同値で結構です。

    お忙しいところ、大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
    -------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 11 Mar 2003 09:06:18 +0900 A1: S様、佐藤勝昭です。
     X線が残留磁化に及ぼす影響ですが、私どもは薄膜の結晶性の評価などにもっと強力なX 線を使っていますが、磁化に影響があるなどとは、夢にも思わず使っていました。  シンクロトロン放射光で円偏光で内殻を共鳴励起したりしない限り磁化に影響があると は考えられませんが、定量的にということですので、同じ学科の放射線の専門家の意見を 伺ってみようと思っています。お待ち下さい。
    ----------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 11 Mar 2003 12:58:40 +0900
    A1' S様、佐藤勝昭です。
     高エネルギー粒子線の研究をしている物理システム工学科の仁藤助教授に伺いましたと ころ、「ミクロで考えますと、X線は透過中はなにも反応せず一定の確率で物質 の軌道電子を光電効果によってたたき出すことによって全エネルギーを 失うだけです。たたき出された電子が局所的に周囲にダメージを与える わけで、X線が強いと言うことはこの電子発生ポイントの数が増えること だと思います。これがHDD装置の残留磁化に影響を与える程度になる のかはデータ不足でわかりません。実験してみる必要があるかも知れません。 α線のような重荷電粒子では一発で記録情報にダメージを与えると言われ ていますが、X線の場合、光電子一つ一つがダメージを与えるしきい値を 越えていなければ熱以外にダメージなしということかも知れません。 いずれにしても例を知りませんので、断定的なことは言えませんので ごめんなさい。」というお返事でした。
     要するに光電子放出の際に、格子欠陥が生じるならば、ダメージがあるかもしれないが、 やってみないとわからないと言うことのようです。確かにアルカリハライドでは、極低温 でX線照射すると、色中心という格子欠陥ができて着色します。金属や合金でも起きる可 能性はないとはいえないですね。磁壁が結晶欠陥にピン留めされているような場合には欠 陥を通じて、影響はあるかもしれませんが、通常は無視できると思います。
     定量性のない話で申し訳ありません。
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    Date: Wed, 12 Mar 2003 13:38:46 +0900
    Q2: 東京農工大学 佐藤勝昭様

    ご丁寧にありがとうございます。とても参考になりました。 ところで、先生のHPに強力な電子線やX線で格子欠陥が できるとの記述を見たことがありますが、どの程度の強度 でしょうか。
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    Date: Thu, 13 Mar 2003 15:08:10 +0900
    A2: S様、佐藤勝昭です。
     たしかに、10kV, 50mA程度の弱いX線照射でも、格子欠陥を作ることができます。ただ し欠陥の密度は、全原子の1万分の1程度以下の微量です。
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    182.引き上げ法で金属が作れるか


    Date: Fri, 14 Mar 2003 21:14:08 +0900
    Kといいます。K金属㈱に勤務してます。 (Web掲載時は匿名でおねがいします。)

    シリコン引き上げ装置がありますが、 なぜ、引き上げるのでしょうか? また、この装置でAu,Pt,Pd、もしくは、 これらの合金など 引き上げることができますか?

    この時期、入試その他でお忙しいところ 申し訳ありませが、教えてください。 よろしく、お願いします。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 15 Mar 2003 11:17:56 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    シリコンを融液から引き上げるのは良質で大口径の単結晶を作るためです。引き上げ 法(チョクラルスキー法)では、最初に種結晶を融液に浸しますと、種結晶の結晶格 子に倣って融液から結晶が成長していきます。その後、種結晶を回転しながら引き上 げていきますが、回転速度や引き上げ速度を精密に制御して口径を増大させていきま す。こうして円筒状の結晶ができるのですが、引き上げ中もロードセルで重量の変化 を測定しながら引き上げ速度や回転速度にフィードバックして口径が一定になるよう に制御されているのです。小さい種結晶から絞った細い首(ダッシュネッキング)を通 して太い円筒状のシリコン単結晶がぶら下がっているのですから、単結晶はいかに強 いかわかるでしょう。現在では直径40cm、長さ2mなんてビッグなシリコンが、 無転位で形成されるのですから芸術とも言えるでしょう。
     金属や合金の単結晶をチョクラルスキーでできるかというご質問ですが、もともと この手法は、J. Czochralskiが、融液面に接触させたキャピラリーに発生する結晶を 種子とし、錫Sn、鉛Pb、亜鉛Zn、アルミニウムAl、カドミウムCd、ビスマスBiの線状 結晶を引き上げたことに始まります。(結晶成長学辞典編集委員会編:結晶成長学辞 典、共立出版、2001年、p.167) Pt, Pdは融点がそれぞれ、1772℃、1554℃ですから 融解するのも、るつぼを用意するのも難しそうです。ゾーン融解法の方がよいと思い ます。なお、苦労してPt, Pdの単結晶を引き上げても用途があるのでしょうか。ご質 問されたということは、何かお考えがあってのことでしょうか。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 16 Mar 2003 18:11:20 +0900

    Q: 佐藤勝昭先生
    早々の、返答ありがとうございます。
    Tです。

    仕事で貴金属合金の溶解、鋳造をしている 職人です。
    合金の溶解時、酸素を吸収してしまい、 板材や線材にした時、いろいろ問題が出ます。 この引き上げ法で合金が出きて、圧延加工が できたらいいなと思い、質問したしだいです。

    宝飾品業界も不況で 指輪、ネックレスをつくるお客さんから いろいろな、合金の要望が増え。 たいへんです、その為、何かいい方法が ないかと、思いましたが、これは違いますね。
    たいへん、お世話になりました。
    どうも有り難うございます。
    --------------------------------------------------------------------------

    183.接触面積と電流による損傷


    Date: Sat, 15 Mar 2003 12:21:25 +0900
    Q1: お世話になります。Nと申します。教えて下さい。
    導体に電圧を印加した場合、熱が発生しますよね。
    一部抵抗が極端に高い箇所(なんらかの接触部等)では、 熱量が高くなると思います(スパーク現象?)。
    実際、その箇所が損傷するというのをよく聞きます。 この現象が理解できないのです。
    電圧値一定の場合、抵抗が高い箇所は、その分電流値は低下し、 熱量(ジュール熱)は低くなると思うのです。
    であるのもかかわらず、何故高抵抗箇所では、そのような 現象が発生するのでしょうか?
    -----------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 15 Mar 2003 13:38:33 +0900
    A1: メールありがとうございます。
     おっしゃるとおり、接触部の抵抗値が非常に高くなれば、電流は電圧を(負荷抵抗 +接触抵抗)で割った値に減少します。本来は抵抗がなく発熱のないはずの接触部分 に抵抗が生じるのですから、減少した電流値であってもそこにジュール熱が発生する ことは、十分考えられるのです。
     たとえば、100Vの電源に1kWの電熱器がつながっていたとしましょう。1kWですから 電熱器の抵抗は10Ω、電流は10A流れます。コンセントのプラグ部分の接触が悪くなっ て2Ωの接触抵抗が生じたとすると、電流は、100V/(10+2)Ω=8.3Aに減少します。プラ グ部分では、2Ω×(8.3A)^2=138W の電力が消費されます。本来、電力消費がないはず のプラグに138Wもの電力損失、従って、発熱が生じて損傷するのです。
    -----------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 15 Mar 2003 14:02:06 +0900
    Q2:早速のご回答ありがとうございます。あまりにはやくてビックリしました。

    先日とある小説を読んでおり、疑問に思ったので今回メールさせて頂いた次第です。

    (仕事の業務も電気系であり、興味をもち・・)

    その中で、

    人体に電圧を印加した(ex:200Vの電圧を右手と左手から印可)場合、 端子と人体の接触面積が小さい場合、その箇所が損傷するとありました。
    たしかにそうだろうと思ったですが、よくよく考えていると、疑問に思えてきました。

    接触面積が大きい(=低抵抗)場合の方が、電流値は大きくなり、発熱量も 大きくなるのでは?という疑問です。この場合、辻褄が合わなくなります。 おそらく私は何か根本的な勘違いをしているような気がするのですが、 それが分かりません。
    お手数おかけして申し訳ないのですが、教えて下さい。
    以上
    -------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 15 Mar 2003 20:08:25 +0900
    N様、佐藤勝昭です。
    A2: 人体の場合の話しは、私の専門外なのでよくわかりませんが、お尋ねの場合は電流 値で考えてはよくないと思います。体内は電解液が満ちた水槽のようなものです。体 内を流れるのはイオン電流ですが、電流の大きさは電位差で決まってしまうので、電 極の面積が狭いと、同じ電流が狭い領域に集中して電流密度が上がります。電流密度 が高いと皮膚や筋肉などの組織がやられやすいのではないでしょうか。
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    Date: Mon, 17 Mar 2003 09:46:33 +0900
    AA: 佐藤様、Nです。おはようございます。
    ご回答有難うございます。
    私も週末考えていたのですが、結局その箇所にかかる”電位差×電流×時間” で発熱量(=損傷レベル)が決まるわけですから、抵抗が高い箇所に電位差は大きくなり 、結果その箇所は損傷する、ということだと結論だしました。

    この為、あまりにも高抵抗になってしまうと、電流値は低くなる為、発熱量も低くなり、 損傷しない。ただし、中の上ぐらいの高抵抗が存在した場合、その箇所への発熱量は高く なり、損傷する。

    また何かありましたらメールうたせて頂きます。有難うございました。
    以上
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    184.転位密度の測り方


    Date: Tue, 18 Mar 2003 14:12:19 +0900
    転位密度の測定方法について教えてください。
    熊本大学大学院 浅田
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    Date: Tue, 18 Mar 2003 14:34:10 +0900
    浅田様、佐藤勝昭です。
     最も一般的な方法は、表面をエッチングして、エッチピットを出し、電子顕微鏡下でそ の数を数え、何カ所かで測定した結果を統計処理して、転位密度としています。
     このほか、基板とエピ膜の不整合転位については断面電子顕微鏡像を使って数えるなど の方法があります。
    --------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 18 Mar 2003 14:47:39 +0900
    返信ありがとうございます。
    また、質問させてください。
    ありがとうございました。
    --------------------------------------------------------------------------------

    185.ITOの熱伝導率


    Date: Wed, 19 Mar 2003 00:48:33 +0900
    S社のSと申します。(匿名にてお願いいたします。)
    HP物性なんでもQ&Aを見ました。
    現在、透明(可視域)でかつ熱伝導率の高い物質を探しています。
    薄膜でもいい(そのほうがいい?)と考えており、ITO膜がいいかなぁと 思っているのですが、ITOならITOで熱伝導率も比熱も見つけることができません。
    ITOの熱伝導率とかの物性値は、どの程度のものなのでしょうか?
    また、透明で熱伝導率の高い材料は他にないものなのでしょうか?
    (薄膜でなければ、サファイヤぐらいなのでしょうか?)
    お忙しい中、誠に申し訳ありませんがご存知であれば教えて頂ければ幸いです。
    よろしくお願いいたします。
    ---------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 22 Mar 2003 17:06:19 +0900
    S様、佐藤勝昭です。
     仙台に出張していたため、お返事が遅くなりました。
    お尋ねのITOの熱伝導率ですが、比較的大きく、19.55 mcal/cm・sec・K となっています。
    mcal/s・cm・K=0.4184[W/m・K]ですから、換算すると8.18[W/m・K]となります。
    詳しくは
    TosohSMDのデータシート をご参照下さい。
    また、MgOも比較的大きく、8-30 [W/m・K]です。
    理科年表によれば、 Al2O3 は室温で21[W/m・K]、水晶は9.3[W/m・K](//c)
    ということです。
    --------------------------------------------------------------------------------

    186.セラミックのマイクロ波透過


    Date: Wed, 9 Apr 2003 15:17:41 +0900
    はじめまして 会社に勤めるエンジニアのTといいます。
    今抱えている問題に対する回答が得られるか HPを確認させていただきましたが、明確なものが無かった為 メールさせて頂きました。
    マイクロ波での質問なのですが、マイクロ波には 透過、反射、吸収というモードが有りますが 透過に関して セラミック製の筒を使用しそこにマイクロ波を照射し プラズマ励起を行なっているのですが ここで使用するセラミックの外側表面の粗さに このマイクロ波の透過率は影響を受ける物なのでしょうか? ちなみにマイクロ波は2.45Gを使用しています。
    唐突な質問ですが、できれば御意見を受け賜りたくお願い申し上げます。
    -----------------------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 11 Apr 2003 13:59:06 +0900
    T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    マイクロ波の散乱は波長オーダーのでこぼこでない限り起きないと思います。セラミック の粗さの問題ではなくざらざらな方がそこに不純物が付着しやすいのでロスになるのではないでし ょうか。
    ------------------------------------------------------------------------------------

    187.円筒電子レンジとソーラーエアコン


    Date: Thu, 10 Apr 2003 09:57:08 +0900
    はじめまして、初めて質問させていただきます。私は大阪の商品企画会社におりま す、Y(匿名希望でお願いします)といいます。
    今まで文系だったのでまったく物理は解りません。しかし今回電子レンジとクーラー を商品化しようと思いましたが、わからないことが多々あるのでお助けください。 電子レンジはマイクロ波が壁に反射して物を暖める仕組みというのですが、そこで電 子レンジ自体をターンテーブルと同じ円筒型にして、反射する距離を短くして早く暖 めて少しでも省エネにできないかという案があります。それと、もうひとつは、電子 レンジの心臓部(マグネトン?)がターンテーブルの横にあるのに対し、それをター ンテーブルの上に持ってきて、(下は明らかに無理ですよね?)そのぶんの設置面積 を小さくできないか。ということです。
    次にクーラーですが、ソーラーパネルを使って運転させる事はできますか?その場 合、どれくらい大きなパネルが必要でしょうか?あと、コントローラーだけでいいの ですか?従来の室外機も必要ですか?
    本当に素人の質問ですみません。もし製品化できそうであるならばその旨、配慮して いただければ幸いです。宜しくお願いします。
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    Date: Fri, 11 Apr 2003 20:05:41 +0900
    Y様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    (1) 円筒型電子レンジ
    マイクロ波の専門家ではないので、正しくお答えできるかわかりませので、本学の通信工 学の専門家である
    宇野亨教授にお聞きしましたところ、食品を加熱する場合、特定の位置 に焦点が当たると温度むらができてよくないので、上手に壁に反射させることによって、 電波の強度を一様にしているのだそうです。従って、円筒型にすると壁の反射がどこかに 焦点を当てることになり、むらがひどくなるのではないかと言うことです。
    (2) 上からマイクロ波
    これも上と同様の理由で、一様にするのが難しいのではないかということです。
    (3)ソーラーエアコン
    これは、すでに三洋電機が試作していると思いますが小さなものならともかく大きなもの ではソーラーだけでは難しいでしょう。エアコンは気体と液体の相変化を用いているので、 圧縮したり膨張させたりするための機械部分を必要とします。これがエネルギーを消費す るわけですが、普通12畳の部屋用なら1kW以上必要ですから、太陽電池で動かすにはかな り大きなパネルを必要とします。ちなみに私の家の太陽電池は90cm×90cmのパネル35枚使 って5月の南中時に公称3kWです。我が家の場合電力線と系統連携しているので、エアコンが動いていないと きは電力会社に電力を供給していますが、エアコンが動くときはそれでは足りないのでそ の分を電力会社から供給をうけています。
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    188.シリコンの超音波反射


    Date: Thu, 10 Apr 2003 21:32:12 +0900
    「物性なんでもQ&A」のホームページを見ました。
    質問があります。(匿名希望でお願いします。)
    半導体関係の仕事をしています。
    ・ ホームページ内にシリコンにUV光を照射したときの反射率というものがありましたが、 超音波をシリコンに当てたときはどうなるんでしょうか。(水中です)
    ・ シリコンといってもウェーハのことで厚みが0.5-1mm前後だと考えてもらえますか。 超音波は500kHz~1MHzくらいです。
    いろいろと本を探してみたのですが、波長と媒体の厚みがほとんど変わらない場合に 関しては載っていません。
    よろしければ教えてください。よろしくお願いいたします。(RY)
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    Date: Fri, 11 Apr 2003 20:10:57 +0900
    RY様、佐藤勝昭です。
     私は、超音波の専門家ではないので、私の所属する物理システム工学科で超音波を専門 に研究しておられる
    中島春彦教授に伺いましたところ次のように回答を頂きました。 ====================================================================-
    回答
     シリコンの音響インピーダンスは 20*106(SI)、水は1.5*106(SI)ですから、反射率の 式r=(Z1-Z2)/(Z1+Z2)をつかって86%反射します。水からSiでもその逆でも。

    場合1.ひとつの境界平面の両側に両者が存在し、片方から平面波がやってくると86%反 射し、14%透過します。

    場合2.言われている厚さの板を水中に浸したときは、Siが共振し、2次的音波が両面 から再放射されます。

    場合3.Siが波長に比べ極端に薄いときはよく透過します。

    詳しくは式を立て、計算することになります。また、連続波とパルス、縦波と横波とで扱 いが異なります。

    参考書:
    1)丸善「超音波便覧」1999 2章、6章超音波スペクトロスコピー(中島)
    2)東京図書 ランダウリフシッツ「流体力学」第8章 音
    3)             同「弾性論」 第3章 弾性波 §22
    4)コロナ社 伊藤毅 「音響工学原論」全728ページ 第4章4.1 反射および
    鏡像→Google で書名で検索して必要なページをダウンロード可。
    5)高橋秀俊 裳華房 大学演習「回路」第3章 分布定数回路
                           第6章§2 音響系の類推、
    6)音響インピーダンスの値は「理科年表」をみてください。

    (中島)
    ======================================================================
    Date: Sat, 12 Apr 2003 12:51:31 +0900
    Q2: ありがとうございます。
    回答いただいた内容で再度質問させてください。
    場合1は水とシリコンの厚さが無限に大きい場合でしょうか。
    また、「式を立て、計算する」とありますが、場合2と場合3に関して
    超音波便覧に詳細が載っているということでしょうか。
    お手数おかけいたしますが、ご返事をおまちしております。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 12 Apr 2003 17:47:50 +0900
    A2:Y様、佐藤勝昭です。
     場合1は、界面における反射のみを考えた場合です。従って,厚さが無限に大きい場合と考えて結構です。  それぞれの場合の計算式は、光の場合と本質的に変わらないはずですが、音響インピーダンスの知識が必要です。
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    189.金属結合の原子モデル


    Date: Wed, 16 Apr 2003 18:05:36 +0900
    佐藤勝昭先生
    初めてメールをさせていただきます。
    R社のIと申します。
    工学部出身の編集者です。
    先生のWebサイトを拝見し、質問させて頂きました。

    既にWebサイトに掲載されていた金属結合についての質問 がありましたが、私の疑問とは異なるようなので、 メールさせて頂きました。

    (質問)金属結合状態での電子の状態

    金属結合での電子状態について、イメージがうまく掴めません。
    電子の軌道に着目した場合は、どのような模式図が適当でしょうか?
    半導体の解説書にはSiの例が載っていますが、その他の 金属の場合ではどのようになるのでしょうか?

    例えば、Alは価電子が3つなので、

    ●:電子
    ○:空の軌道
    ◎:原子核

    とすると、1個のAl原子では、

       ● ○
      ○    ○
        ◎
      ●    ●
       ○ ○ 

    と表せると理解しています。(最外殻電子は8個で安定する と理解しています。そこで、○+●で8個にしてあります。) Siでは、価電子が4個なので四方のSiとそれぞれ1個ずつ電子を 共有することで、8つの軌道がうまることは理解できます。
    (○はすべて●になります。)
    しかし、複数個集まった場合のAlでは

     ● ○ ○ ● ○ ○ ○ ●
    ○   ●   ●   ●   ○
      ◎   ◎   ◎   ◎   
    ○   ○   ●   ●   ○
     ● ○ ● ○ ● ○ ○ ●
    ○   ●   ●   ●   ○
      ◎   ◎   ◎   ◎   
    ●   ○   ●   ●   ●
     ○ ● ● ○ ● ○ ● ●
    ●   ●   ●   ○   ○
      ◎   ◎   ◎   ◎   
    ●   ●   ○   ○   ●
     ● ○ ○ ● ● ● ● ●

    このように、軌道はスカスカの状態になっているのでしょうか?
    このような理解で間違いではないでしょうか?
    逆にPでは、上記の場合、原子1個の周りに8個以上の電子が配置 される模式図になるのでしょうか?

    説明の対象は、原子は原子核と電子から構成されていて、 ある電子の軌道には電子に定員があり、電流の正体は電子の流れ ということを理解している文系出身の成人を想定しています。

    お忙しいところ、恐れ入りますが、ご回答頂けると幸甚です。

    なお、勝手ながら、Webへの掲載時は匿名にして頂けるよう、 お願い申し上げます。
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    Date: Thu, 17 Apr 2003 00:04:29 +0900
    I様、佐藤勝昭です。
     ご質問拝受しました。原子の周りの電子軌道は、I様の書かれるような粒が原子 核の周辺を回っているイメージではなく、電子雲として原子核の周りに確率分布して いるイメージを描いてください。
     金属においては、原子同士が接近していて、外殻のs電子は互いに重なり合い、各軌 道は2個の電子しか収容できないので膨大な数の分子軌道を形成します。 電子は、そ れらの分子軌道を自由に行き来し、もとの電子軌道から離れて結晶全体に広がりま す。これを非局在化するといいます。結局、電子はもとの原子核の束縛を離れ、結晶 全体に雲のように広がるのです。即ち、金属の電子は、孤立した原子の電子軌道では ありませんので、原子に電子とホールが束縛されているというあなたのイメージを捨 てる必要があります。正の原子核と負の非局在電子の間には強い引力が働き、金属の 凝集が起きます。これを「金属結合」とよびます。この状態を指して、電子の海に正 の原子核が浮かんでいると表現されます。 私のホームページで、
    物性工学概論のサイト にアクセスして、4/15の講義OHPの17番目のスライドをInternet Explorerでご覧下さい。
    英文をいとわなければ、 英国のケムガイドのサイトの説明をお読みになってください。
     シリコンの結合は金属と違って、隣り合う原子が結合方向の電子雲を共有すること によって結合しています。これによって、結合軌道と反結合軌道ができますが、周期的な 原子核のポテンシャルの効果により、両軌道のエネルギーに差が生じバンドギャップが開きます。
     NaClのようなイオン結晶では、原子核と電子のモデルで説明できますが、金属や半 導体では、原子の周りに電子の粒が存在するようなモデルは、一見分かりやすそうで すが、金属の実体を全く表していないので有害です。
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    190.不純物準位計算法


    Date: Mon, 21 Apr 2003 17:20:14 +0900
    Q: 佐藤教授様
    M社のNと申します。(匿名希望にてお願い申し上げます。)
    大変充実したホームページ(物性なんでもQ&A)を拝見させて頂き、 誠に嬉しく思っております。
    一点ご教示頂けませんでしょうか。
    バンド計算を利用して不純物準位を計算したいと考えておりますが、 スーパーセルを作成して求める方法は一般的なのでしょうか?
    セルが大きくなるに従い、かなり計算時間がかかるように思いますが。 誠にお手数ですが一般的な手法につき、ご教授下されば幸いです。
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    Date: Mon, 21 Apr 2003 20:02:43 +0900
    N様、佐藤勝昭です。
    A: メールありがとうございます。私は理論家ではないので、一般的にどの方法がよいとか の評価はできませんが、スーパーセルによる不純物準位の計算法は、阪大産研の吉田博先 生が確立しておられます。また、ランダムな不純物を扱うためにCPAを取り入れた方法は、 阪大理物の赤井久純先生がやっておられます。計算時間はかかると思いますが、最近はいろいろな工夫でかな り早くなっていると存じます。いずれかの先生にお尋ねになって下さい。
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    Date: Tue, 22 Apr 2003 11:33:38 +0900
    AA:佐藤教授様
    M社のNです。早速のご返信誠にありがとうございます。
    実は材料設計や探索の真似事を致しておりまして、 このようなHPは他になく、大変意義深いと感じております。 広範囲な質問に対し、親身なご回答をなされるのは、ご多忙な中、 大変なご努力と存じます。
    精緻なバンド理論と実用材開発の間には、大きな空白があり、 手がつけられていない研究領域が多々あるように感じております。 先生のご著書にもありますが、インタフェースを提供することは 将来、非常に重要となるように思います。
    今後とも、宜しくご指導・ご助言下されば幸いです。
    -----------------------------------------------------------------

    191.FEDの封止法


    Date: Mon, 21 Apr 2003 18:12:12 +0900
    Q: 佐藤勝昭様
    初めてメールさせて頂きます。 Yと申します(匿名にてお願い致します。)
    真空関係の仕事に従事しております。
    電界放出型ディスプレイ(FED)に関して調べているうちに 先生のHPを拝見させて頂きました。
    早速で申し訳ございませんが、質問させていただきます。 FEDは、電子源を多数形成したガラスパネルと、蛍光体等を 形成したガラスパネルとで構成されていますが
    Q 2枚のパネルの間は、真空になっているはずですが
    、   どのようにして真空にしているのかわかりません。
      パネル同士を貼り合わせた後に、排気口のようなところから   排気して、封じるのでしょうか。
    市販の本の写真等では排気管があるようにも見えません。
    また、製造順序の記載もありませんので、質問させて いただきました。
    また、どのような方法でパネル同士を貼り合わせているのかを、 教えていただければ大変助かります。
    お忙しいところ誠に恐縮ですが宜しくお願い申し上げます。
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 21 Apr 2003 20:24:33 +0900
    A: Y様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私も専門家ではないので、NHK技研の方に伺いましたと ころ、PDPと同様に貼り合わせて、排気管をつけて排気し封じ切るのが普通だということ でした。なお、真空中で貼り合わせて封じる方法もあるそうです。
     なお、Google検索で「FED 封止」として検索したら、
    アユミという会社のホームページにFED封止装置のカタログが載っています。
    「FED基板の真空中でドライ洗浄し、高精度アライメントの後、真空封止する装置です。 装置はロードロック室、洗浄室、アライメント・封止室により構成されており、全工程を 大気開放することなく連続処理することができます。高真空中でのアライメント精度は5 μm以下を実現しています。」と書かれています。
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    Date: Tue, 22 Apr 2003 11:15:43 +0900
    AA: 佐藤勝昭様
    お忙しい所、早速の返信有難うございます。
    今後も利用させていただくことがあるかと存じます。
    宜しくお願いいたします。
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    192.BLT(Bi3.25La0.75Ti3O12)の赤外スペクトル


    Date: Mon, 21 Apr 2003 22:40:04 +0900
    Q: こんにちは。F大のM1院生Tです。私の研究室では強誘電体薄膜(BLT)の研究をしてい るのですが先日FT-IRの測定をしたところ550cm-1,630cm-1,1080cm-1辺りに振動モー ドがみられました。論文などいろいろ探してみたのですが参考になりそうなのはあり ませんでした。何かいい文献があれば教えてほしいのですが。お願いします。匿名で お願いします。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 22 Apr 2003 12:28:37 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    BLTのOptical propertyに関する最新の論文はたぶんA.Hu et al.: Optical properties of Bi3.25La0.75Ti3O12 thin films using spectroscopic ellipsometry, J. Appl. Phys. 93 (2003) 3811. でしょうが、これには400-1700nmの可視-近赤外光のスペクトルは出て いますが、赤外については出ていません。

    また、THzの遠赤外については、
    Seiji Kojima, Naoki Tsumura, Mitsuo Wada Takeda, and Seizi Nishizawa: Far- infrared phonon-polariton dispersion probed by terahertz time-domain spectroscopy, Phys. Rev. B 67, 035102 (2003) がありますが、これは、ポラリトンの 分散を決定するのが目的なので、直接役に立たないでしょうが、フィッティングの結果と してTOフォノンとLOフォノンの波数を決めています。

    Di Wu, Aidong Li, Tao Zhu, Zhifeng Li, Zhiguo Liu, and Naiben Ming: .Processing- and composition-dependent characteristics of chemical solution deposited Bi[sub 4 - x]La[sub x]Ti[sub 3]O[sub 12] thin films, J. Mater. Res. 16, 1325 (2001)の Abstractには、Structure characterization was conducted by x-ray diffraction and Raman spectroscopy. The lowest lattice vibration mode around 116 cm-1 showed softening with increasing lanthanum composition. とありますから、参考になるかも しれません。(これはSpin-WebからAbstractのみを入手しました。)


    --------------------------------------------------------------------
                 

    193.酸化チタンの光伝導


    Date: Fri, 2 May 2003 18:42:07 +0900
    佐藤先生
    N社Hと申します。
    初めまして。酸化チタン薄膜および酸化チタン燒結体の光伝導度を測定したいと考 えております。
    ・酸化チタン薄膜の厚みは100nm程度あるいは300nm程度です。
    ・酸化チタン燒結体の厚みは10μm程度です。
    お忙しいとは存じますが、記載されている文献でも良いのでご教授頂けたら幸いで す。
    -PS-
    webに載せる際は、匿名でお願いします。
    ---------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 2 May 2003 23:39:54 +0900
    H様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
     光伝導を測定するには、最もシンプルには試料に電極を付けて直流電源をつなぎ、 間に入れた電流計で、光を当てないとき(Id)と光を当てたときの電流(Ip)を読みと り、その差を求めれば光電流(ΔI=Ip-Id)が求まります。
     光電流が暗電流に比べて小さいときには、光を回転チョッパーで断続して、その断 続に同期してロックインアンプなどで交流的に電流を検出することが行われていま す。
     電流を取り出すには、オペアンプで電流電圧変換回路を作って、電圧として測定し ます。
     光源としては白色光または単色光を用いますが、太陽電池材料(例えばアモルファス シリコン)の光伝導評価では、AM1.5の太陽光と同じスペクトルと強度(1kW/m^2)の光を 照射したときの、ΔIp/Id(光伝導比)が10^5であるなどとして、膜の評価に使っている ようです。
     さまざまな波長の単色光に対する光伝導を測定したものが光伝導スペクトルです。 白色光源を分光したとき波長によって光強度が異なるので、その補正をする必要があ ります。
     もし光電流が光強度に比例するならば、波長毎の光強度を「真空熱電対」などで測 定して、光電流を光強度で割ればよいのですが、必ずしも比例しないのです。 波長 によらず分光強度が一定になるように自動制御されている「定エネルギー分光器」を 用いるのが最もよいのですが、装置が高いのでどこでもできるわけではありません。 従って、正確な光伝導スペクトルを図るのは結構難しいようです。
    -----------------------------------------------------------------
     さて、酸化チタンの光伝導ですが、私は測定した経験がありません。ものの本によ ると、TiO2にはルチル、アナターゼ、β相などのさまざまな多形があるようです。バ ンドギャップも、結晶構造によって多少の違いがあるようです。バンドギャップは Rutile結晶で約3.0eV、Anatase結晶で約3.2eVにあることが知られています。  光伝導スペクトルのピークは、厚みが0.1μm程度の薄膜の場合、バンドギャップよ り高エネルギー域のバンド間遷移のピークで現れると思われます。一方、10μmのセラ ミクスの場合は、バンドギャップより高エネルギーで吸収のピークがある波長では結 晶性の悪い表面付近で光が吸収されるので、吸収のピークで光伝導スペクトルが却っ て減少する場合があります。
    -----------------------------------------------------------------
     Googleで「光伝導 TiO2」を検索したら、次のサイトがかかりました。
    「ヤングセラミストミーティングin中四国」第7回ミーティングのAbstractには 「β-TiO2の合成と光反応活性」と題して、「酸化チタンTiO2の多形の一つであるβ -TiO2の光伝導性、光反応活性を検討した。β-TiO2はアナターゼによく似た部分構造 を持ち、UV-可視吸収測定においてもアナターゼとほぼ同じ位 置に吸収を示すことか ら、バンドギャップエネルギーはルチル型よりもアナターゼ型に近いと考えられる。 多結晶質の焼結体をもちた光伝導度測定では、β-TiO2は380 nmにピークを持つ光伝導 性を示し、アナターゼに非常に似た作用スペクトルを示した。また365 nmの紫外光照 射下でアセトアルデヒドを分解することがわかった。」とあります。
    ------------------------------------------------------------------
     また、Googleで「photoconductivity TiO2」として検索したら、
    Golegoさんの文献リストに、Nickolay Golego, S.A. Studenikin, and Michael Cocivera: Bandgap Density of States from Transient Photoconductivity in TiO2という論文があります。
    -----------------------------------------------------------------
    また、European Society for Quantum Solar Energy Conversionの講演リストにおいて
    Tom J. Savenije, Marion van Brederode, Martien J.W. Vermeulen and John M. Warman: Contactless photo-conductivity measurements on heterojunctions of TiO2 and conjugated polymersという論文(Proceedings of the 12th Workshop on Quantum Solar Energy Conversion - (QUANTSOL 2000) March 11-18, 2000, Wolkenstein, Sudtirol, Italy
    が引っかかってきました。参考になるかも知れません。
    -----------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 6 May 2003 22:32:20 +0900
    AA: 佐藤先生
     お忙しい中、早速のご返答有難うございました。まずは、シンプルなやり方で測定 してみます。貴重な情報を有難うございました。
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    194.アルミニウムの反射率


    Date: Wed, 7 May 2003 18:39:02 +0900
    毎々お世話になっております、F社のWと申します(非公開でお願い致します)。
    HP拝見させていただき、金属反射を大変参考にさせて頂きました。
    私は、金属反射膜の研究を始めるにあたり、情報収集中に先生のHPにたどり着きました。
    初心者的な質問で申し訳ありませんがご教授願えれば幸いです。

    HPを拝見させて頂き個人的な理解としまして、金属反射の材料による違いは、物質ごとに
    ①バンド構造
    ②電子の質量
    ③フェルミ面での電子の密度
    ④誘電率
    が異なるからである。 ⇒自由電子が関与している。
    また、ドルーデの式より、キャリア数が多く、導電率が大きいほど反射率が高い傾向にあり、 ある周波数でその反射は遮断される。と理解しましたが、 Alの反射率が全く落ちてい (遮断されていない)ないのは、ある周波数が存在しないのでしょうか?

    また、その周波数等の文献をお持ちであれば是非拝見させていただきたいのですが。 以上宜しくお願い致します。
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    Date: Wed, 7 May 2003 21:38:11 +0900
    W様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
     金属の反射についてのご質問ですが、
    基本的には、貴方の認識のように自由電子のプラズマ振動によるDrudeの法則でよいので すが、実際の金属では、自由電子による誘電率への寄与(負の誘電率)の他にバンド間遷移 による吸収端付近での誘電率の分散の寄与が重畳しております。Drudeだけなら、プラズ マ周波数は9eV付近に来ますが、Auでは2.2eV付近、Cuでは2eV付近、Agでは3eV付近でバン ド間遷移が始まり、その結果、見かけのプラズマ周波数が低いエネルギーに来るのです。 Pinesはこれをhybrid plasmaと呼んでいます。(David Pines: Elementary Excitation in Solids, Perseus Books, 1966. pp.207-228)
    Alの反射率は1.5eV(800nm)付近にdipがあり86%程度に落ちています。私は、このエネル ギー付近でバンド間遷移が始まっていると思っていますが、その遷移強度はd電子の関与 するCu,Ag,Auに比べて弱いので、誘電率は負で、Drude則で決まる本来のプラズマ周波数 8eV付近まで0を横切ることなく、この結果、反射率が高エネルギーまで伸びているのだと 思います。しかし、1.5eV以上ではバンド間遷移が関与していることは確かでしょう。
    文献としては、Landolt-Bornstein New Ser. 15-IIIbがお奨めです。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 12 May 2003 08:49:29 +0900
    QQ: お世話になります、Wです。
    早急なご回答有難うございました。d電子がそれほど大きく関与しているとは 驚きです。
    また、先生お薦めのランドルトベルンシュタインの本が見つけることがで 来ませんでした。お手元に所有されてましたら是非拝見させて頂きたいのですが 如何でしょうか。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 12 May 2003 12:20:11 +0900
    AA: W様、佐藤勝昭です。
     本は農工大の図書館にあります。また、研究室にコピーがありますので、お越しになってご覧下さい。

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    195.サファイアのエッチャント


    Date: Thu, 8 May 2003 14:22:12 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生へ
    はじめまして。F社に勤務するKと申します。(匿名でお願い致します。)初めての メールで少し緊張しておりますが。
    先日会社の上司からサファイアのエッチングを依頼されたのですが、まずはサファイアとは一体どの ようなものなのか、 そして、どのような薬液で腐食されるのかをまず知るべきであり、自分自身でも調べ てはみたのですが まだまだ不十分で分からない状態であり、佐藤先生の力をお借りしたくメール差し上 げました。
    将来的にはそのサファイアにパターンニングして製品になっていくわけなのですが、 実際ちょこっとだけ実験しました。その内容は、材料:厚さ1mm 4×5.3cm角の透明 なサファイア基板を、35%の薄めないフッ酸に5分間浸したというものです。
    結果、全く腐食されませんでした。フッ酸だけではだめでしたので、フッ酸に硝酸や 塩酸などを調合しないといけないのではないかなと思いました。
    サファイアとは何か?またそれをエッチングする(腐食させる)液とはどのようなものがある のか、お忙しい中恐縮ですが、教えて頂けませんでしょうか?よろしくお願い致します。
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    Date: Thu, 8 May 2003 16:09:39 +0900
    A: K様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    私の知る限りサファイアの有効なエッチャントはないと思います。
    もしあったら、私も使いたいのですが。
    たとえば、
    UCOPのホームページにあるBlue and Green InGaN VCSEL Technologyという論文 にはNo efficient etchant exists for sapphire removal. と書かれていますし、
    Naval ResearchのホームページにあるNewsletter Report: Large Freestanding GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using GaAs as a Starting Substrateという論文 にも、
    However, it is neither very easy nor productive to separate the GaN layer from the sapphire substrate because sapphire is very hard and is not etched by any etchant.
    と書かれています。
    あとは、Ar-millingとかGa-ion beamを用いたFIBで物理的に剥離するしかないと思います。
    ------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 8 May 2003 16:27:48 +0900
    AA: 敏速な対応ありがとうございます。
    やはり、サファイアなどのファインセラミックスは耐薬品性に優れておりエッチング 加工は難しいのですね。残念ですが、自分なりに実験して上司に結果を報告したいと 思います。
    ご回答、本当にありがとうございました。
    ------------------------------------------------------------

    196.グラファイトカーボン物性値


    Date: Sat, 10 May 2003 13:38:03 +0900
    Q: T社Sです。突然のメールで失礼します。
    HPを見ての質問です。宜しくお願いします。
    WEB上には、匿名でお願いします。

    質問事項
    グラファイトカーボンの比抵抗、熱膨張係数、熱伝導度を教えて下さい。
    宜しくお願いします。

    お手数おかけしますが、宜しくお願いします。
    ---------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 11 May 2003 18:41:13 +0900
    A: T社S様、佐藤勝昭です。
     グラファイト(和名:石墨または黒鉛)の物性値は物理化学関係の大抵のハンドブッ クに載っています。
    例えば、理科年表によれば、
    線熱膨張係数:293Kにおいて((L-L0)/L0)/(T-293)=3.1x10^-6[/K](手元にある理科年 表1990年版p.469)
    熱伝導率:0℃において k=80-230[W/(m・K)](上述書p.477)
    ----------------------------
    ESPI社のホームページ のTechnical ReferenceのページのGraphiteの項 に物性の全般的な解説があります。
    物性値は、殆どがヤードポンド法, 華氏で出ていますので、SIに変換すると
    (1)graphite (aeromet grade)
    Electrical Resistivity (21℃)
     1350μΩ cm
    Thermal Conductivity (21℃):
     0.29(Cal/sec/cm/℃)=1.21[W/cm/K]=121[W/m/K]
    Coefficient of Thermal Expansion (RT to 1000 ℃):
     8.4 x 10^-6inch/inch/ ℃ =8.4x10^-6[m/m/K]

    (2)graphite (electro grade)
    Electrical Resistivity (21℃):
     1600μΩ cm
    Thermal Conductivity (21℃):
     0.25(Cal/sec/cm/℃)=1.05[W/cm/K]=105[W/m/K]
    Coefficient of Thermal Expansion (RT to 1000 ℃):
     8.2 x 10^-6[m/m/K]

    (3)graphite (lectromet grade)
    Electrical Resistivity (21℃):
     1900μΩ cm
    Thermal Conductivity (21℃):
     0.18(Cal/sec/cm/℃)=0.75[W/cm/K]=75[W/m/K]
    Coefficient of Thermal Expansion (RT to 1000 ℃):
     7.8 x 10^-6inch/inch/ ℃ =7.8 x10^-6[/K]

    (4)graphite (pyrolytic grade)
    Electrical Resistivity (21℃):
     0.5Ω cm
    Thermal Conductivity (21℃):
     3.5[W/m/K]
    Coefficient of Thermal Expansion (RT to 1000 ℃):
    horizontal 0.5 x 10^-6 [m/m/K]
     vertical 6.5 x 10^-6[m/m/K]
    -------------------------------------------------------------

    197.ブリルアン領域

    Date: Tue, 13 May 2003 12:55:39 +0900
    Q: はじめまして某大学の学生で福井と申します。先生にご質問させていただきます。
    逆格子とブリルアン領域の関係よくわからず、何冊か本をみても分かりやすくかいてあるのがありません。
    まことに恐縮ですがご回答おねがいします。
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    Date: Thu, 15 May 2003 00:30:03 +0900
    A: 福井様、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。ブリルアン領域(以後、BZと略称)を理解するのは、簡単でない かも知れませんね。BZを理解するのに近道はありません。KittelでもSeitzでもよいで すから、どんな本でも、きちんと式をフォローしながら読んでみて下さい。といって も、概念がわからないと、先に進まないと思うので、すこし、助け船を出しておきま す。
     ここでは、逆格子点についての知識があるものとして説明します。簡単のために、 格子定数がaであるような1次元の格子を考えます。
    このときの逆格子点は、・・-4π/a, -2π/a, 0, +2π/a, +4π/a, ・・・で表されま す。第1BZは、逆格子空間の[-π/a, +π/a]の範囲を指します。波数ベクトルkがBZ の境界上にあると電子波のBragg反射が起きます。波数kがBZの境界にあるとき、
     k=π/a
    ですが、これを波長λを使って書くと、k=2π/λを代入して
     λ=2a あるいは λ/2=a
    と書けます。すなわち、格子間隔がちょうど半波長に一致したときだということにな ります。これはまさにブラッグ条件なのです。
     3次元の場合は、もっと面倒くさいですが、
    結晶格子と電子構造(OHP) の16番目のスライドを見て下さい。
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    Date: Thu, 15 May 2003 12:07:28 +0900
    先日ご質問させていただいた福井と申します。
    ご回答ありがとうございました。
    逆格子については理解していたので先生のヒントを参考に、 そしてスライドを参考に本を読み返してみます。
    丁寧なご回答ありがとうございました。
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    198.光ファイバー中のラマン散乱

    Date: Tue, 13 May 2003 19:50:45 +0900
    Q: A社Mです。
    <質問内容>
    光ファイバー中でのレイリー散乱光強度とラマン散乱光強度の比 がどのように計算されるかご教授いただけますでしょうか?

    ある本では、レイリー/ラマン=10^4~10^6と見たことがあります。
    ラマン散乱光は双極子放射により発生し、その強度は ポインティングベクトルにて表されると思います。そこで、ラマン散乱光 の強度は、分極の2階微分の2乗に比例する様ですが、 具体的には、どのように計算すればレイリーとラマンの強度比が 数値で表せるようになるのでしょうか?

    お忙しいところ恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 13 May 2003 20:31:50 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。電子通信学会編、岩崎裕監修「オプトエレクトロニクス 材料」(コロナ社, 1983)のp.39-40に散乱特性が記載されていますが、レイリー散乱につ いては式が載っているのですが、ブリルアン散乱については、レイリー散乱強度の1/23、 ラマン散乱については、ブリルアン散乱の1桁ないし2桁小さいと書かれているだけで定量 性が有りません。論文としては、J.Schroeder et al.:Light scattering in a number of optical gradeglasses, J. Non-Crystal. Solids 13 pp.313-320 (1973)が引用されてい ます。
     私は、光ファイバーの専門家ではないので、計算方法まではお答えできません。
    本学の図書館の資料では、ファイバーガラスのラマン、ブリルアン散乱の断面積は見つけ られまませんでした。なお、ファイバー中の非線形光学として、誘導ラマン、誘導ブリルアンがあ り、論文も沢山でていますが、その中で、誘導過程の利得の値が出されており、 利得には散乱断面積がきいてくるので、ここから計算できるかも知れません。
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    Date: Thu, 15 May 2003 09:07:37 +0900
    AA: A社Mです。早速のご回答誠にありがとうございます。
    論文は取り寄せてみます。
    業務に役立てたいと思っております。
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    199.空気と水の誘電率

    Date: Wed, 14 May 2003 16:47:05 +0900 (JST)
    Q: はじめまして。北海道の苫小牧高専情報工学科5年の森といいます。
    ホームページを拝見させていただきました。

    私も是非教えをいただけたらと思い、メールしました。

    「常温常圧の空気と水ではどちらの方が誘電率が大きいと考られるか。」

    という問題なのですが、これは空気を構成している窒素分子と酸素分子と、 水の分子の構造の違いによるものでしょうか?それとも全然別のことでしょうか?

    誘電率の定義からわかりやすく教えていただけると幸です。
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    Date: Thu, 15 May 2003 00:29:56 +0900
    A: 森様、佐藤勝昭です。
     空気の比誘電率はほぼ1です。1からわずかに大きいのですが、そのズレは、5× 10-4程度です。これに対して、0℃の水の比誘電率は88もあります。正確な値は理科 年表の物理/化学の電磁気のところに出ています。
     

    比誘電率εrとは何でしょうか。

    真空中では、電束密度をD、電界をEとすると
      D=εoE
    と表すことができます。εoは真空の誘電率です。
     一方、媒質(空気、水)が存在すると電界によって電気分極Pが生じます。従って、
      D=εoE + P
    となります。Pは、中性分子が電界によって+eと-eに分かれて生じたミクロの電気双極 子exの総和です。xは+eと-eの電荷対の間の距離です。電気双極子の密度をNとする と、P=-Nexです。電界Eによって力-eEが働きます。すると電荷を原子に束縛している バネ定数をmωo2 (ωoは固有振動数) とすると、mωo2x=-eEとなるので、距離x=-eE/mωo2。すると
    P={Ne2/mωo2}Eと書けます。すると
      D=εoE + {Ne2/mωo2}E=εo{1+Ne2/mεoωo2}E
    これを、D=εrεoEに等しいと置くと、比誘電率εrは
      εr=1+Ne2/mεoωo2
    となります。これが誘電率のミクロな起源です

     従って、電気双極子の密度Nが大きいほど比誘電率εrは高くなります。
    空気の分子数の密度はアボガドロ数NAを1モルの体積22.6×10^3cm3で割ったものです からN=NA/22x103 [cm-3]です。一方、水の分子数の密度は1g/cm3、H2Oの1分子の 重さは18/NA[g]ですからN=NA/18 [cm-3]です。
     このように空気の密度Nは水の密度より3桁も小さいので誘電率が小さいのです。
    さらに、水は有極性ですから電気双極子として扱ってよいですが、乾燥した空気の分子の分極は電気双極子ではなく、 電気四重極子で起きているのではないかと思います。従って分極率が水の場合より2桁くらい小さいと思います。 このため、観測された5桁近い違いをもたらすのではないかと思います。
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    Date: Thu, 15 May 2003 12:52:16 +0900 (JST)
    AA: たいへん参考になりました。ありがとうございます。
    わかりやすい説明でよくわかりました。
    苫小牧高専 森
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    200.シュブニコフ・ドハース(SdH)振動

    Date: Wed, 21 May 2003 09:09:35 +0900

    Q: 初めまして、こんにちは私、TK大学のHと言います。
    このたびは先生に質問をさせていただきます。よろしくおねがいします。

    キャリアが自然の界面に二次元的に閉じ込められると、閉じ込められた方向に量子化 された複数のエネルギーレベルを持つことが知られています。
    そこに磁場を垂直な方向にかけるとランダウレベルがフェルミレベルを横切ることに 振動する(SdH振動と呼ばれる)波形の谷のもしくは山の部分をプロットし 縦軸1/B 横軸 ランダウ指数nのデータが論文などによくのっていますが、そのsaturationを起こす位置(depopulation) から量子細線などの面内の有効閉じ込め幅が見積もられるのですが。

    そこで質問です。なぜ1/Bが大きくなる(低磁場)が多くなるとsaturationをおこす のですか?
    サイクロトロン半径が低磁場側だと大きくなるその関係だとは思うのですが。 物理的メカニズムが理解できません。

    お忙しいなか申し訳ないのですがよろしくお願いします。
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    Date: Thu, 22 May 2003 18:46:15 +0900 A: H様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    お返事が遅くなってごめんなさい。私はSdH関係に疎いので、2次元 電子ガス系のSdH振動を観測して電界によるスピン軌道相互作用の制御効果(Rashba効果) を検証されたNTT基礎研究所の新田淳作博士に、お伺いしましたところ、下記のような回答を頂きましたので、お伝えします。
    ------------------------------------
    新田博士の回答:
    磁場の作る有効な閉じ込めポテンシャル と量子細線の閉じ込めポテンシャルの大小関係 によってフェルミエネルギー以下のサブバンド数(量子化されたエネルギーレベルの数) が決まりますが、一言でいえば、「弱磁場でサイクロトロン半径が量子細線の幅より大き くなるとサブバンド数は、量子細線の閉じ込めポテンシャルで決まるため、1/Bに依存し なくなるためです。」

    (1)定性的な説明
    磁場をかけないとき量子細線のサブバンド数NはおおまかにN=kf・W/(π) W;細線の幅  kf;フェルミ波数で与えられます。

    磁場をかけて、サイクロトロン半径が細線幅Wより小さくなってランダウ準位が形成され ると、サブバンド間のエネルギー差はhbar・ωcで与えられます。(ただしhbar: Plank constant/(2π)、 ωc=eB/m* サイクロトロン周波数)従ってサブバンド数はEf(フェ ルミエネルギー)をランダウ準位間隔で割ったN=Ef/hbar・ωcとなります。
    一方、磁場中のエネルギー準位はランダウ指数nを用いてE(B)=(n+1/2)・hbar・ωc+E0とな りますので、Nと同様にnはBの増加に対して同じように減少します。

    磁場を弱く(1/Bを大きく)していくとサイクロトロン半径lc=vfc (vf:フェルミ速度) が大きくなると細線中では、もはやランダウ準位を形成できず量子細線の形状が作る閉 じ込めポテンシャルが離散エネルギーを決定することになります。

    (2)少し詳しい説明をすると
    、 サブバンドの数Nは、磁場B中で、二次元電子ガスの場合大まかに次式となります。
     N=Int[1/2+Ef/(hbar・ωc)] 、Ef:フェルミエネルギー

    従って1/Bに従ってNは大きくなって行きます。一方、Bの増加とともにサブバンド数は小 さくなっていくことからmagnetic depopulationと言われています。

    一方、量子細線の閉じめポテンシャルを放物線で近似するとV(x)=(1/2)m*・ωo2・x2   (近似的に細線幅Wは W=2hbar・kf/m*ωoで与えられる。)
    磁場Bが弱くなって磁場による閉じ込めポテンシャルVeff(x)=(1/2)・m*・ωc2・(x-xo)2 が弱くなると静電的な閉じ込めポテンシャルV(x)で量子細線のサブバンド数がきまること となり、磁場に依存しなくなります。(1/Bを大きくするとsaturationすることとなる。)

    (3)私も不勉強でこの種の実験をやったことがなくあまりうまく説明できないのですが、
    Quantum Transport in Semiconductor Nanostructures
    C. W. Beenaker and H. van Houten: Solid State Physics Vol. 44 p80- (1991)
    に詳しく説明してあります。是非ご参考ください。
    -------------------------------------
    ということです。特に、最後に挙げた書物が役立ちそうです。
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    Date: Sun, 25 May 2003 14:27:37 +0900
    AA: TK大のHです。佐藤先生、並びに新田先生、先日の質問の適切なご回答ありがとう ございました。
    洋書のSolid State Physicsは今後時間をかけて読んで勉強していきます。
    お忙しい中ありがとうございました。
    --------------------------------------------------------------------------------

    201.ITOの成膜条件と物性値の関係

    Date: Tue, 27 May 2003 01:04:38 +0900
    Q: はじめまて質問させていただきます。匿名でお願いします。私はKK大学、先端材料工学科 の3年のNといいます。実験の授業でスパッタ装置を使用してITO薄膜を作製しています。 酸素濃度を変化させて薄膜の抵抗率、キャリア密度、キャリア移動度、膜堆積速度との関係性をレポートとして提出しなければいけません。しかしその関係性がわかりません。酸素濃度が 増加するとどうなるのでしょうか・・・お忙しいと思いますが教えてください。
    ---------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 27 May 2003 12:17:58 +0900
    A: Nさん、佐藤勝昭です。
     「酸素濃度が増加するとどうなるのでしょう」というのはあなたの実験のテーマですよ ね。それを実験せずに知りたいというのでしょうか。それだと、実験の意味がありません。 私が貴学の教員なら、貴方の実験の点数をつけないでしょう。
     それとも、ある実験データを得たのだが、考察ができないで困っているということでし ょうか。それなら、少しはお手伝いできるかもしれません。ITOの電気的性質は、自由キ ャリア密度と酸素欠陥密度に依存します。酸素が多い場合と少ない場合で、欠陥がどのよ うにできるかがポイントになります。

     CERAC社のホームページに
    ITO, TIN-DOPED INDIUM OXIDE FOR OPTICAL COATINGという論文が載っています。 英文ですが、易しい英語で書いてあるので、自分で訳してご覧なさい。

     また、Shabbir A Basharという方の
    Study of Indium Tin Oxide (ITO) for Novel Optoelectronic Devicesという論文
    2.1.2 Physical Structure and Properties of ITO Indium Tin Oxide is essentially formed by subsititutional doping of In2O 3 with Sn which replaces the In3+ atoms from the cubic bixbyte structure of indium oxide. Sn thus forms an interstitial bond with oxygen and exists either as SnO or SnO2 - accordingly it has a valency of +2 or +4 respectively. This valency state has a direct bearing on the ultimate conductivity of ITO. The lower valence state results in a net reduction in carrier concentration since a hole is created which acts as a trap and reduces conductivity. On the other hand, predominance of the SnO2 state means Sn4+ acts as a n-type donor releasing electrons to the conduction band. However, in ITO, both substitutional tin and oxygen vacancies contribute to the high conductivity and the material can be represented as In2-xSn xO3-2x. ITO films have a lattice parameter close to that of In2O3 and lie in the range 10.12 to 10.31.
    とあります。参考にして下さい。
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    202.アルミのUV反射率

    Date: Wed, 28 May 2003 17:37:24 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生
    C大学M1のUといいます。
    以前、
    SiウェハとUV光との関連について質問させていただきました。
    今回、新たに疑問に思うところがあり、2つばかり質問させていただきます。

     その後、Siウェハの反射率測定実験を行い、先生に教えていただいた理論値との比較を行いました。
     測定方法は、UV反射光の入射角(反射角)毎に得た強度データ(mW/cm^2)を、直接光強度データ(mW/cm^2)で割り、反射率を算出しました。

    UV光源はHOYA-SCHOTT製のUV光照射装置「EXECURE3000」で、水銀キセノンランプから放射されたUV光は、光ファイバーライトガイド、UV集光レンズを通って照射されます。
    UV光の強度測定はウシオ電機製の紫外線積算光量計「UIT-150」です。
    光学系は全てシグマ光機製の製品を用いています。

    実験装置の構成上、入射角(反射角)が20deg以下の測定ができなかったので、25deg~60degの範囲で得られたデータを用いて外挿を行い、0degでの反射率を予測しました。

    測定結果を添付ファイルの添付資料.xlsのシート名「Si反射率」に示します。
    グラフを見ると、S偏光成分とP偏光成分の算術平均とよく一致することが分かりました。
    ここで一つ目の質問です。
    この実験によって得られた反射率を理論的にどのように捕らえたらいいのでしょうか?
    単純に、UV光はS偏光成分とP偏光成分がランダムに照射されているから、理論反射率のS偏光成分とP偏光成分の算術平均とよく一致すると考えても見たのですが・・・。今ひとつ分かりません。

    Siウェハのほかに、Al合金(A6061)の反射率測定を行いました。この試料の表面は鏡面仕上げになっていますが、加工跡が筋状についていました。

    この試料を使った測定結果を、以前教えていただいた「Handbook of Optical Constants of Solids」 に出ていたAlの反射率のデータをexcelに入力し、添付ファイルの添付資料.xlsの シート名「Al反射率」に示します。
    Alの理論値反射率に対し、測定した値が相当大きく下回っており、グラフのプロファイルも 全く違っていることが分かりました。
    ここで二つ目の質問です。
    この結果をどのように捕らえたらよいのでしょうか?
    用いた試料の表面はの影響がここまで大きく効いてくるものなのでしょうか?
    また、純Alの理論値と、Al合金の実験値を比較すること自体が良くないのでしょうか。
    合金といってもAlが主成分なので特に問題ないとは思ったのですが・・・。

    いつもくだらない質問と要求ばかりですみません。
    よろしくお願いします。

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    Date: Wed, 28 May 2003 20:09:20 +0900
    A: U様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    実験条件および解析条件について疑問がありますので教えて下さい。
    (1) HOYA-SCHOTT製のUV光照射装置「EXECURE3000」のカタログによれば、光源の スペクトルは波長の異なる多数の輝線スペクトルから成り立っています。また、紫外線積 算光量計UIT-150については、検出器に254,365,405の3波長タイプがあり、 どれを使ったかによっても違ってきますが、どの波長で測定されたのでしょうか。反射率 は波長によって異なります。
    (2) 偏光子・検光子として何を用いたのでしょうか。少なくとも、写真には、偏光子・検 光子のかげも形もありません。ということは非偏光のデータだと言うことですね。そ れなら、理論的に導いたRs、Rpの平均値となってよいと思います。
    (3) Alの酸化を考慮されたでしょうか。

     一般にAlは低真空の場合蒸着中から酸化が始まります。従って、Alは表面が酸化してい てAl2O3になっているとして扱わなければなりません。厚みは数Åから数十Åのオーダー でしょう。測っているのはAlの反射率ではなく、Al2O3を介してAlの反射率を測っている ことになります。紫外線領域では特に深刻です。以下では、荒っぽい見積もりで、反射率 低下を説明します。Al2O3の膜厚がわからないので、空気/Al2O3/Alの構造で、 干渉を考えないとすると、空気とAl2O3の界面の透過、Al2O3とAlの界面の反射、 Al2O3と空気の界面の透過を考えることになります。
     今、波長がわからないので、310nm=4eVとします。
    4eVにおいてAlのn=0.268, κ=3.41、Al2O3のn0=1.81です。
    空気とAl2O3の界面の直入射の反射率R1はR1=(n0-1)2/(n0+1)2=0.083、従ってこの界面 の透過率T1はT1=1-R1=0.916となります。
    一方、Al2O3とAlの界面の直入射反射率R2は R2={(n-n0)22}/{(n+n0)22}=0.878
    従ってこの系の直入射反射率Rは、R=T1・R2・T1=0.9162・0.878=0.736
    すなわち、74%に低下してしまうのです。実際には干渉があるのでもっと反射率が低下す ると考えられます。
     せっかく、実験をされるのでしたら、条件をもう少し抑えておかれることをお奨めしま す。
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    Date: Wed, 28 May 2003 22:01:58 +0900
    Q2: 佐藤勝昭先生
    C大学大学院S研究科M1のUです。
    先ほどは言葉足らずで申し訳ありませんでした。

    実験条件及び解析条件については
    (1)紫外線積算光量計UIT-150は365nmを測定できるものを用いています。
    (2)偏光子・検光子は用いずに実験を行いました。(先生に質問されて、偏光子・検光子の存在を始めて知りました。)実験データは非偏光のデータです。
    (3)Alの酸化膜については、何も考慮していません。

    Al合金の反射率測定に用いた試料ですが、化学組成で
    Al94.1~96.1%,
    Cu<0.4%,
    Si0.5~1.0%,
    Fe<0.4%,
    Mn<0.3%,
    Mg0.5~1.0%,
    Cr<0.3%,
    Pb+Sn1.5~2.5%
    です。

    微量に添加されている元素が反射率に与える影響よりも、酸化膜が反射率に及ぼす影響のほうが はるかに大きく無視できないと考えてよろしいのでしょうか?
    酸化した表面の影響も考慮して、もう一度実験データを整理し直してみたいと思います。

    くだらない質問にとても丁寧に解説していただきありがとうございました。
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    Date: Thu, 29 May 2003 00:35:10 +0900
    A2: U様、佐藤勝昭です。
    (1) 波長365なら3.4eVですね。4eVとしての考察でもそれほど外れていないでしょう。
    (2) Rs, Rpをきちんと出すには偏光子を使わなければなりません。せっかくの実験で すから、偏光子を使って見て下さい。ただし、フィルム偏光子は紫外線を吸収するの でお薦めできません。グラントムソンなど方解石を用いたプリズム偏光子を使って下 さい。
    (3) Alは酸化しやすい金属です。真空中でも悪い真空なら表面は酸化物になります。 Alの高エネルギー側の反射率をきちんと求めるためには、高真空中で作成してすぐに 測るようにしなければなりません。
    (4) お使いになったアルミニウム合金はアルミサッシに使われるもので、耐食性にす ぐれているとのことです。どの程度の酸化膜ができているかはよくわかりません。
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    Date: Tue, 3 Jun 2003 21:35:10 +0900
    AA: C大学S研究科M1のUです。
    連絡が遅くなり申し訳ございません。 貴重なご助言ありがとうございました。
    これを参考に解析、実験をしてみたいと思います。
    今後また質問をする機会が多々あると思います。 その際はまたよろしくお願いします。
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    203.現像銀は何故黒いか

    Date: Thu, 29 May 2003 23:32:57 +0900
    Q: おもしろいホームページをありがとうございます。
    コニカ(株)の大谷博史です。
    実は、ハロゲン化銀乳剤の設計を中心に、カラーフィルム、カラーペーパーの開発を担当しております。
    質問に答えていただけるのでしょうか。

    ところで、質問ですが、
    「物性なんでもQ&A」の
    「2003.02.26 白金黒と銅粉の違い(金属微粒子の反射) A 高専Tさん 」の質問の回答に

    「金や銀の粉末は形状が単純で反射を繰り返して減衰することがなく、比較的少ない 回数の反射で光が戻ってくるのと、反射率が、金の場合は600nm以上では91%以上、銀 の場合は可視光全域で92%以上もあるので、減衰しにくいこともあってバルクの性質 を 保っているものと考えられます。」
    と先生がお答えになっています。

    例えばモノクロフィルムの現像銀は銀微粒子から形成されていますが、黒色に見えま す。銀粉末が銀の金属光沢に見えることと、何が異なるのでしょうか。
    何故、銀粉末と現像銀の色が異なるのか、教えていただきたいと思います。
    よろしくお願いします。

    以上。
    -------------------------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 30 May 2003 14:16:36 +0900
    A: 大谷様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。「現像銀はなぜ黒いか」というご質問ありがとうござい ました。私は、見たことがないのですが、海外のホームページでphotographic silver particleを検索してみると、粒子サイズは150-700nmとバラバラのようですね。
    日本の富士フイルムのサイトに銀粒子の形 態が載っていました。決して粒のそろったものではなく、もとのハロゲン化銀の形状を保 ったまま、ハロゲンが抜けたようなポーラスな形状を示しています。おそらく、微細構造 の大きさは、サブミクロン(100-500nm?)ではないかと推察されます。
     一方、Kodak社のサイト によると、「現像銀の形状はハロゲン化銀の粒の形状とほとん ど関係がなく、からみあった繊維状の形状をしており、その外縁はもとの銀塩の粒より広 がっている」と書かれています。
    The physical shape of the developed silver need have little relation to the shape of the silver halide grain from which it was derived. Very often the metallic silver has a tangled, filamentary form, the outer boundaries of which can extend far beyond the limits of the original silver halide grain (see the figure below). The mechanism by which these filaments are formed is still in doubt although it is probably associated with that by which filamentary silver can be produced by vacuum deposition of the silver atoms from the vapor phase onto suitable nuclei.
     このように複雑な形状のため、入射した光は、白金黒と同様に何度も反射を繰り返すこ とになり、たとえ反射率が92%あっても、30回程度反射すると光量は8%になりますから、 黒いのではないでしょうか。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 31 May 2003 01:08:51 +0900
    Q2: 佐藤先生、迅速なご返事、どうもありがとうございます。

    私も、先生の仰る通り、始めは現像銀が黒い理由を、多重散乱で納得しておりました。 現像銀は径が20~30nmのサイズののフィラメントで構成されており、それが何十にも 交錯しておりますので、入射光が戻ってこないためと思っていました。ところが、最 近、ちょっとした機会があって、金属銀粉末のSEM写真を撮影しましたが、50~200nm のサイズであり、色は銀金属特有の灰色に見えます。

    現像銀と銀粉末のサイズはあまり変わりませんので、疑問に思い、現像銀で多重反射 がないように、モノレーヤーに薄く塗布を行ってみましたが、やはり見える色は変わ らず、モノレーヤーの現像銀でも黒色に見えます。

    これらの結果からは、サイズや多重反射では銀粉末と現像銀の色の違いは説明できず、 「現像銀は何故黒いのか」という命題に全く答えられないでいます。

    写真業界は歴史が古く、感光過程のメカニズムは、ほぼ完全に解明されていますが、 こんな身近なところにも盲点があるというのが、恥ずかしくもあり、Scienceの世界 は奥が深いと感じています。

    少し長くなりましたが、御返事、アドバイスを頂けますか。
    基礎的な質問ですが、よろしくお願いします。

    以上。
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    Date: Sat, 31 May 2003 13:56:28 +0900
    A2: コニカ(株)大谷博史様、佐藤勝昭です。
     丁重なメールとご指摘ありがとうございます。
    白金も通常の方法で作製した白金粒は銀灰色で、電解法で作ったものは黒いようです。
    これは、電解法で作製した粒子の形状が複雑で極めて大きな表面積をもつと書かれていますので、 (おそらく金平糖のような)メゾスコピックな構造を持っているため と考えられます。HPでは、多重反射のみを原因としましたが、誘電率自体がすでに、マク ロな白金の誘電率とは異なっているということが十分に考えられます。
     現像銀の粒子のメゾスコピックな構造を考えることが重要でしょう。メゾスコピックな 構造体は、場合によっては新たなバンド構造をもち、バルクの物質とは異なった性質をも ちます。たとえば、CdSeの超微粒子では量子閉じこめによって、もとのバルクのCdSeのバン ドギャップよりも高エネルギーの青色の発光を示すことが知られています。
    たとえば、農工大物理システムの 谷研究室のホームページにサイズによってさまざまな色の発光を示す例が出ています。
     また、FeとAuを原子層レベルで積層した人工格子は、FeでもAuでもない新たなバンド構 造をもち、それに伴う新たな電子構造と新たな磁気光学スペクトルを示すことが 私どもの研究から明らかになっています。
     もし、これまでにメゾスコピックな観点からの現像銀の研究がないとすれば、それを明 らかにする研究は十分意味があると思います。テーマとされてはいかがでしょうか。
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    Date: Sun, 01 Jun 2003 23:02:43 +0900
    Q2: 佐藤先生、コニカ(株)の大谷です。
    まだ、送っていただい論文には目を通しておりませんが、少し微粒子の話しを勉強し てみようと思います。
    このようなきっかけを与えてくださいましたことに感謝いたします。
    又、何か疑問が出てきましたら、質問させて頂きます。
    貴重なお時間を割いていただき、本当にありがとうございました。
    以上。
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    Date: Mon, 2 Jun 2003 10:20:52 +0900
    A2: 大谷様、佐藤勝昭です。
     あれから、いろいろ考えていたのですが、そもそも銀の高い反射率の原因は、自由電子 の集団運動にあるわけですから、メゾスコピックな構造によって、反射率が低下するとす れば、
    (1)バンド構造が変化して、自由電子密度が極端に低下した
    (2)ポーラス構造など、欠陥の増加により、キャリアの寿命が極端に低下した
    のどちらかが考えられます。このような場合は、いずれにせよ、導電率の低下をもたらし ます。そのような兆候はないのでしょうか。
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    Date: Tue, 03 Jun 2003 23:26:36 +0900
    佐藤先生、コニカの大谷です。
    続いてのアドバイス、どうもありがとうございます。
    残念ながら、写真業界の論文では、先生のアドバイスにありますような現像銀の誘電 率、その他の報告は見たことがありません。 少しやらなければならないことを整理して、又ご相談させて頂きます。
    今後ともよろしくお願いします。
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    204.シリカガラスの赤外屈折率

    Date: Tue, 3 Jun 2003 13:27:32 +0900
    Q: はじめまして TQのAと申します。(WEB上は匿社名・匿名で お願いします)
    シリカガラスの光学物性についての疑問を解決すべくサイトを検索中、佐藤研のHPを 拝見し質問させていただきます。

    大変基本的な質問で恐縮ですが、シリカガラスの透過率0%波長域での吸収係数・消 光係数とはどのように求められるのでしょうか?

    光エネルギーの関係は 反射+吸収+透過=1 と理解しています。シリカガラスの透 過率は4.5μmより長波長では0%ですが、その領域の光は表面反射損失以外はすべて ガラスに吸収されると考えていいのでしょうか。

    ではその時の反射率は? 反射率はR={(n-1)/(n+1)}2から算出するとして屈折率は ?

    シリカガラスの屈折率は通常プリズム法にて測定しますが、吸収の強い赤外長波長域 での測定ができないのか、4μmを超える長波長側の屈折率は文献にもみあたりませ ん。
    Malitsonの式から任意の波長での屈折率が計算でき、これは実測値とほぼ一致します が、このMalitsonの式は4μm以上の長波長域でも使用できるのでしょうか?

    またMalitsonの式から算出した屈折率は複素屈折率の実数部の意味だと思いますが、 強吸収領域の屈折率は、複素屈折率の消光係数の項が無視できないように思います。 シリカガラスの消光係数はどのように求めたらよいのでしょうか。透過率0%では吸 収係数も私の知識(Lambert-Beer則)からは求められません。任意の波長での透過率 が0%の場合、消光係数または吸光係数を求めるにはどのようにしたらよいのでしょ うか?

    お忙しいこととは存じますが、ご教授のほどよろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 3 Jun 2003 14:19:13 +0900
    A: A様、佐藤勝昭です。
     シリカガラスの赤外領域の屈折率、消光係数は、Palik: Handbook of Optical Constants of Solids (Academic Press 1985)のp.761-763に掲載されています。
    ピックアップしておきますと
    波長(μm)屈折率n消光係数k
    3.8461.3954.96×10-5
    4.1671.3831.07×10-4
    4.5451.3422.56×10-4
    5.0001.3423.98×10-3
    6.2501.2396.52×10-3
    7.1431.0531.06×10-2
    ・・・・・・・
    500μmまでのデータが載っています。
    消光係数は透過の実験から求めたと書いてあります。
    文献としては、
    [1]C.M.Randall and R.D.Rawcliffe, Appl. Opt. 6, 1889 (1967)
    [2]H.R. Philipp, J. Appl. Phys. 50, 1053 (1979)
    などが引用されています。

    これをみると4.5μmより長波長でも透過率は0ではありません。 消光係数kを吸収係数αになおすには、α=4πk/λを用います。
    (佐藤注: 2003.6.3付では、うっかりα=2πk/λとしていましたが、 Aさんのご指摘で、ミスに気付きました。α=4πk/λが正しいのです。以下の記述も修正してあります。6/4)
    たとえば、5μmにおけるαは:
    α=4×3.14×3.98×10-3/5×10-4[cm]=100[cm-1]ですから、
    厚さd=0.1[mm]=0.01[cm]のシリカガラスの透過率Tは(反射を無視して)
    T=exp(-αd)=exp(-1)=0.36=36%
    です。
    一般に吸収の強い物質の屈折率を求めるには、偏光解析(ellipsometry)、反射ス ペクトルのKramers-Kronig解析を用います。
    [1]は干渉法で求めたと書いてあります。
    [2]は反射のKramers-Kronig変換に光吸収実験を援用して求めたとあります。
    ----------------------------------------------------
    いずれも古いデータなので、最近の純度の高いシリカガラスについては再度検討する必要 があるかもしれません。
     お役に立てたでしょうか。
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    Date: Tue, 3 Jun 2003 15:49:03 +0900
    Q2: 佐藤先生

    質問に対して早速ご解答いただきありがとうございました。
    わかりやすく解説していただき、大変参考になりました。

    >  シリカガラスの赤外領域の屈折率、消光係数は、Palik: Handbook of Optical
    > Constants of Solids (Academic Press 1985)のp.761-763に掲載されています。

    どう言う訳か弊社には Handbook of Optical Constants of Solids II しかなく、 手持ちの phisical sciences data 15, handbook of glass data (elsevier) には 4μmまでのnのみ、消光係数については記載がありませんでした。

    消光係数からT%の計算ですが、

    λ=5μm, d=0.01cmの時T%の計算はlogではなくlnを用いるのでしょうか? logで計算すると異なった値になるのですが。

    シリカガラスの試料1mmtを赤外分光光度計で測定すると、ほとんど透過率が0%で あったために早合点してしまいましたが、薄物で測定すれば透過率が0ではないこと がわかりました。

    ありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。
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    Date: Wed, 4 Jun 2003 12:18:13 +0900

    A2:A様
    ご質問の
    「消光係数からT%の計算ですが、・・・ λ=5μm, d=0.01cmの時T%の計算はlogではなくlnを用いるのでしょうか? logで計算すると違った値になるのですが。」にお答えします。

    吸収係数αの定義は、距離0における光強度I0、距離xにおける光強度I(x)とすると I(x)=I0 exp(-αx)
    です。従って、α=ln(I0/I(x))/xです。
    光学濃度ODはOD=log10(I0/I(x))ですから、
     α=OD/(log(e)・x)
    となります。
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    Date: Wed, 4 Jun 2003 13:06:32 +0900
    佐藤先生
    貴重なお時間を割いていただき大変ありがとうございました。
    佐藤ギャラリーも拝見させていただきました。
    数年前ポートランドに住んでいたこともあり、アメリカの風景 特にシアトルサン フランシスコのスケッチを拝見し当時を懐かしく思い出しました。
    これからもお忙しい研究の傍ら絵画の創作活動にもお励みくださいますよう。
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    205.光の周波数における透磁率

    Date: Tue, 3 Jun 2003 17:15:41 +0900 (JST)
    Q: 突然のメールですが、本当に申し訳ありません。
    教えていただきたいことは、磁化は分極と異なり、誘電体、導電体とも光の 周波数に追従できないので、透磁率は真空の透磁率と等しいということです。 上の言葉をどのように理解したら宜しいですか、教えていただけますか?
    以上です。
    よろしくお願いします。

    馬より
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    Date: Tue, 3 Jun 2003 20:47:09 +0900
    馬様、佐藤勝昭です。
     「磁化」とは、単位体積当たりの磁気モーメントの総計です。強磁性体において磁気モ ーメントMに、ある時刻から急に外部磁界Hを加えますと、M×Hのトルクが働き回転運動が 生じます。
    このときのMの運動方程式は
     dM/dt=-γM×H + αM×[M×H]
    というLLG方程式で表されます。
    ここにγはgyromagnetic ratio、αはempirical damping factorです。
    Hを急に加えると、磁化は歳差運動(味噌すり運動)をしながら平衡位置に戻っていきま す。αの存在のために、MはHの急な変化に追随できません。経験的には、ナノ秒程度の時 間が応答の最小値です。周波数で言えば、約2πGHzです。光の周波数はこの時間より5 桁も高いので、光の周波数の磁場H(ω)を加えても応答できず、その周波数の磁化成分M (ω)はゼロになります。従って、
     B(ω)=μH(ω)=μoH(ω)H(ω)+M(ω)=μoH(ω)
    すなわち、μ=μoH(ω)、透磁率は真空の透磁率と等しいのです。

     常磁性体のスピン磁気モーメントの場合、光を吸って磁気双極子遷移が起きます。非常 に弱い遷移などで、これによる磁化率χへの寄与は小さく、10^-6程度なので、μ=μo(1+ χ)はほとんどμoに等しいとして差し支えないようです。
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    206.ぬれた石はなぜ黒い


    Date: Thu, 05 Jun 2003 17:52:10 +0900

    佐藤先生。初めまして。
    成蹊大学大学院2年の川田塁と申します。
    現在「画像工学研究室」でCGに関する研究を行っています。

    光の反射について調べていたところ、先生のページを見つけました。 大変分かりやすくとても勉強になりました。

    ところで現在疑問に思っていることがあります。
    石やコンクリート、衣類は水に濡れると暗い色に見えますよね。
    これらの物質は表面が非常に粗いために乱反射を起こしていて 水に濡れることにより乱反射が抑えられるらしいということまでは分かったのですが、 具体的に濡れることによって反射特性がどのように変化したのか分かりません。

    突然のメールでこのような質問をして大変失礼ですが もしご存じであればお教えいただければ幸いです。

    P.S.先生のページはこれからも参考にさせていただきたいと思います。
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    Date: Thu, 5 Jun 2003 19:44:50 +0900
    川田様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。石やコンクリートが白いのは散乱(乱反射)によるもので す。石の成分はわかりませんが、主として酸化珪素SiO2からできているとして、屈折率は 1.46程度です。これに対して、水の屈折率は1.33程度です。
    透明物質同士の界面の反射率がR=(n1-n2)2/(n1+n2)2という式で計算できるとしますと、
    R=(1.33-1.46)2/(1.33+1.46)2=0.0169/7.784=0.002=0.2%です。
    要するに水と石は屈折率が近いので界面での反射が少なく光は石の中に入っていき、内部 で界面で反射したとしても反射率が低いので光が返ってこないと考えるべきではないでし ょうか。 衣類の繊維については、手元にデータがないので何ともいえませんが、屈折率 については似たような状況ではないかと推察します。
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    207.磁石の大きさと電磁誘導

    Date: Wed, 11 Jun 2003 22:06:29 +0900
    Q: 私はW大学R学部1年のKと申します。Web上では匿名でお願いします。
    質問の内容:物理の実験で電磁誘導をやったのですが、コイルの上方から磁石を落と してコイルを通過させると誘導起電力が発生しますよね。そして困っているところな んですが、Mathematicaというプログラムを使ってそのシュミレーションをし、磁力 はそのままで磁石の長さを短くすると誘導起電力はどう変化するか調べたところ、起 電力の最大値・最小値の絶対値が小さくなりました(V-tグラフにおいて)。私の考 えでは V=-dφ/dt より、φが一定で磁石が短くなればdtが小さくなるから Vの絶対値は大きくなると思うのですが、どこに間違いがあるのでしょうか。また、 小さくなる理由を知りたいです。是非先生のお力を貸して下さい。よろしくお願いします。
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    Date: Thu, 12 Jun 2003 01:33:45 +0900
    A: K君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。そのプログラムがどのような仮定をしているのかわからないの で、正確なお答えになるかわかりませんが、私の考えをお伝えします。
     磁石から漏れ出ている磁束は、磁石の磁化と逆方向にN極からS極に向かって閉じて います。
    添付の図に示すように長い磁石と短い磁石では外に漏れ出ている磁束の範囲 が異なります。あなたのお使いのプログラムでは、そのような状況をすべて取り込ん で計算しているのでしょう。このため、短い方が、磁束の変化が小さいという計算結 果になったのではないでしょうか。
    ---------------------------------------------------------------------------

    208.鉄の相変態と格子定数

    Date: Thu, 12 Jun 2003 08:59:27 +0900
    Q: はじめまして。
    電気関係の企業に勤めている山下といいます。
    突然メールしますが、分からないことがあるので教えてください。
    格子定数の温度変化について教えてください。
    (特にFeのA3、A4変態と格子定数の温度変化の関係について) その他、よい参考書やサイトがあれば教えていただけませんか。
    よろしくお願いします。
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    Date: Thu, 12 Jun 2003 12:05:57 +0900
    A: 山下様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。金属材料学は私の専門ではありませんが、私の知ってい る範囲でお答えします。
     Feは、固体の範囲で結晶構造の変化(相変態)が起きます。
    T<911℃ではBCC(体心立方)構造をとり、α鉄と呼ばれます。
    (T>780℃(キュリー温度)で鉄は強磁性を失い常磁性になりますが、この相をβ鉄と呼ぶこ とがあります。結晶構造はα鉄と同じです。なお、鉄のキュリー温度は書物によっては770 ℃と書かれています。)
    911℃<T<1392℃ではFCC(面心立方)構造をとり、γ鉄と呼ばれます。
    1392℃<T<1536℃(融点)では再びBCC構造となりますが、これはδ鉄と呼ばれます。
    A3変態というのは、911℃のα鉄からγ鉄への相転移(変態)のことです。
    A4変態というのは、1392℃のγ-δ相転移のことです。(A4変態の温度は、書物によって は1400℃と書かれていることもあります。)
    α鉄の格子定数は0.28665nm(25℃;Wyckoff, Crystal Structure, vol.2, 2nd ed., 1982, p.16)で、線熱膨張率は11.8×10-6[deg-1](飯田他編:物性定数表, 朝倉1984, p.124) で温度とともに増大します。
     一方、γ鉄の格子定数は0.35910nm(急冷して22℃で測定;Wyckoff, 前掲書p.10)です。 格子定数はγ相の方がα相より大きいのですが、体積の変化を見ていると、A3変態の際に 収縮します。これは、単位胞(unit cell)当たりの原子数が、α相(BCC)では2個であるの に対し、γ相(FCC)では4個なので、鉄原子当たりの体積は、α相0.2863×1/2=0.01170 [nm3]であるのに対し、γ相では0.01166[nm3]となって0.3%の減少となるのです。(注: この計算は25℃で変態した場合の仮想的な変化を示しています。911℃では、どちらの体積も(1+885×0.0000118)3=1.03倍になります。α相は0.012070, γ相は0.012029となり、0.33%の減少となります。)
     A4変態では、再び、FCCからBCCのδ相に戻ります。このとき、体積の膨張が観測されま す。δ相の格子定数は0.294[nm](1425℃, 前掲書)となるので、Fe1個当たりの体積は0. 01271[nm3]となります。γ鉄の1425℃での格子定数がわからないので、何ともいえませ んが、α鉄の膨張係数から推定すると、0.3591×(1+1400×0.0000118)=0.3650[nm]、従っ てFe原子当たりの体積は、0.01216[nm3]ですから、δ相の方が大きくなっています。
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    純鉄の相変態についてわかりやすく書かれている書物としては、
    打越二弥著「機械材料」(改訂版)(東京電機大学出版局, 1996)p.67がイチオシです。
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    Date: Thu, 12 Jun 2003 12:29:14 +0900
    AA: 詳しい説明ありがとうございました。
    また、わからないことがあったら質問させてください。

    参考書のほうも手に入れて読んでみます。
    ありがとうございました。
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    209.透過率とシート抵抗

    Date: Fri, 13 Jun 2003 04:25:51 +0900
    Q: はじまして。
     佐藤さんのHPをみて、メールしました。
    早速、ご質問ですがシート抵抗と透過率の関係をMaxwellの式から 導こうとしていますがでてきません。よく、透過率とシート抵抗値が一緒になって 材料の指標として使われているようです。
    お答えして頂けたら幸いです。宜しくお願いします。
    東京大学大学院 修士2年 電子工学専攻 村瀬
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    Date: Fri, 13 Jun 2003 12:41:02 +0900
    A: 村瀬様、佐藤勝昭です。
     ご質問は、「透明導電膜」についてであるとして、お答えします。
    この場合の透過率には、自由キャリアによる吸収が関係しています。
    この吸収はキャリア密度が関与します。
    一方、抵抗率あるいは導電率には、キャリア数と移動度が関与します。
    このあたりは、基本的には、Drudeの古典電子論がベースになっているのでマクスウェル の方程式からは導けないでしょう。
    ----------------------------------------
    自由キャリア吸収については、
    J.I.Ponkove:Optical Processes in Semiconductors (Dover, 1975)
    のp.74に詳しく載っています。
    古典電子論によれば、金属における自由キャリア吸収の吸収係数αf
     αf=Nq2λ2/(m*8π2nc3τ)・・・・(1)
    で表されます。
    ここに、Nはキャリア密度、nは屈折率、τは散乱の緩和時間です。半導体では τは散乱のメカニズムによって異なる波長依存性を持つので、αf
     αf=Aλ1.5 + Bλ2.5 + Cλ3.5・・・(2)
    のように表すことができるようです。
    一方、シート抵抗のもとになる直流の導電率σについては
     σ=Nqμ・・・・・・・・・・・・・・・(3)
    と表すことができます。ここに、Nはキャリア密度、μは移動度です。
    移動度μは、等方的な散乱の場合には、μ=qτ/m*と表せますから、σは
     σ=Nq2τ/m*・・・・・・・・・・・・・(4)
    となります。ただし、このτと自由キャリア吸収のτが同じである必然性は ありません。もし同じτであるとすると、自由キャリア吸収と導電率の間には、
     αf=σλ2τ2/(8π2nc3)・・・・・・(4)
    の関係が成り立ちます。
    --------------------------------------------------------------

    210. 酸化チタンの光伝導(2)

    Date: Sat, 14 Jun 2003 00:29:14 +0900
    Q1: 佐藤先生
    N社Hと申します。
    前回の質問に対するご助言を参考にさせていただき、まずはシンプルに薄膜の光伝導を測定してみました。
    その結果、光電流は10-8Aオーダーで観測され、暗電は観測されませんでした。
    暗電流は測定しなければいけないのでしょうか?そもそも光電流と暗電流の比をとって センシティビティを測定する理由はなんなんでしょうか?
    お忙しいとは存じますが、ご教授頂けたら幸いです。
    ---------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 14 Jun 2003 10:41:33 +0900
    A1: H様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    酸化チタン薄膜において光伝導が観測され、暗電流が観測できないと言うことですか ら、「よい」光伝導体なのでしょう。その場合には、無理に暗電流を測定する必要は ないでしょう。Ip=10-8A ということですが、電圧はどのくらい印加し、光源には何 を使ったのでしょうか?観測された光伝導が、どの波長に最も大きな感度をもつかを 調べる必要があります。これを光伝導スペクトルといいます。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 15 Jun 2003 09:44:16 +0900
    Q2: 佐藤先生
    早速のご返答有難うございます。お忙しい中大変申し訳ありません。光源はAM1. 5で、電圧は70V~250V程度印加しました。暗電流に関してましては、私の説明不 足でした。申し訳ありません。正確には測定器のレンジがμAまでなので計測できな いだけだと思われます。それで、測定器の購入なりを検討しなければいけないのです が、それを検討する前に、そもそもなぜ暗電流と光電流を測定し、その比をとってセ ンシティビティを求めるのでしょうか?光電流だけの測定では駄目なのでしょうか? これが分からないと購入理由を説明できないなーと考えておりまして、先生にメール でお尋ねさせて頂いた次第であります。
     光伝導スペクトルに関しましては、フィルターを購入して対処しようと考えていま す。
    お忙しいとは存じますが、ご教授頂けたら幸いです。
    -----------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 16 Jun 2003 00:23:36 +0900
    A2: N社H様、佐藤勝昭です。
     光源はAM1.5で、電圧は70V~250V程度で、0.01μAということは、かなりpoor なphotoconductorだということになりますね。それでも、dark currentが0.01nAなら ばIp/Id=10^3程度あると主張できます。
    しかしAM1.5では紫外線の成分が少ないのでTiO2はほとんど吸収せず、光伝導に寄与し ないでしょう。もし、可視光で感度があるならば、TiO2のギャップ状態が光伝導に寄 与していることになります。従ってスペクトルが重要です。
    なお、分光して測定すると、10-8Aより2桁以上電流が減るので、光を断続して ロックインアンプで測定する必要があるでしょう。OPアンプを使った電流電圧変換回 路において帰還抵抗を例えば10MΩとすると、10-10A でも1mVの電圧が得られるの で、ロックインアンプで楽に測定できます。
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    211.焼結法と状態図

    Date: Tue, 17 Jun 2003 16:17:50 +0000
    Q: M大学のYというものです。
    Z学科に所属しています。
    講義の中で焼結条件と状態図の関係を学習したのですけれども、よく理解することが できませんでした。
    よろしければ、焼結状態と状態図の関係を具体例を示して、具体的に説明してもらえ ませんか?
    よろしくお願いします!
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    Date: Wed, 18 Jun 2003 17:13:51 +0900
    Y君、佐藤勝昭です。
     申し訳ないのですが、私は物理屋であって、材料系の学科ではないので、焼結条件と状 態図の関係について正確にお答えすることができませんが、私の考え方を述べさせて頂き ます。
     焼結というのは、粉末の原料をもちいて結晶粒の大きな多結晶試料を固相から作製する 方法です。具体例として、通常の金属Aと遷移金属Bの金属間化合物を焼結法で作ることを 考えてみましょう。もしA-Bの2元状態図が添付図の(d)だとし、β相を作りたいとします と、化学量論組成AxByの融液から冷却しても、はじめにB相が析出し、それからβが析出 するのでB相のあんこをβ相の皮で包んだ「包晶」というものができてしまいます。しか し、AxBy組成の原料を固相のまま、β相のてっぺん付近の温度に長時間置いた後徐冷すると、所望のβ 相化合物のみを作製できます。
     具体例として磁性体金属間化合物の焼結法については、結晶成長ハンドブック(共立出 版1971)の第4章p793に詳細に記述されていますから、図書館で調べてご覧なさい。
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    Date: Wed, 18 Jun 2003 14:57:39 +0000
    AA:このたびはお答えをいただきたいへんありがとうございました。
    とても参考になりました。
    また疑問に思ったことが出てきましたらご質問させていただきますのでよろしくおね がいします。
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    212.金属の吸収端とプラズマ振動数

    Date: Thu, 19 Jun 2003 20:00:48 +0900
    Q1: 佐藤 勝昭 教授
    はじめまして、私はO社のMと申します。

    金属の反射率の波長依存性について興味を持ち,吸収端の波長がいかなる理由 によって決定されているのかを文献やインターネットなどで調べてまいりまして その結果、金属中の自由電子による遮蔽効果やプラズマ振動数、エネルギーバンド構 造などによって決定されているということが、理論的なこととして分かりました。

    しかしながら、Drudeの理論式からプラズマ振動数を計算してもまるで実際の値にな らず、おかしいなと思っていましたところで、佐藤教授のホームページのQ&Aで
    金属の反射 についてかかれた部分を拝見させていただきました。
    実に多くの質問に丁寧に答えておられて、知識の量はさることながら、その熱心なご 様子に感激いたしました。

    佐藤教授のホームページによりますと、
    実際の金属では”バンド間遷移による吸収端付近での誘電率の分散の寄与”があると のことでしたが、これはどういうことなのでしょうか。
    また、Auでは2.2ev、Cuでは2ev、Agでは3ev付近でバンド遷移が始まるとのこ とでしたが、その値を求める何か定性的な理論式などはあるのでしょうか。
    もしよろしければぜひご教授いただきたく思います。

    お忙しい中とは思いますが,どうかよろしくお願いいたします。

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    Date: Thu, 19 Jun 2003 20:59:11 +0900
    A1: O社M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    ご質問の「実際の金属では”バンド間遷移による吸収端付近での誘電率の分散の寄与”が あるとのことでしたが、これはどういうことなのでしょうか。」にお答えします。
     誘電率εには、実数部ε'と虚数部ε"があります。実数部が誘電現象(電気分極の効果) をもたらし、虚数部が損失(電磁波の吸収)を与えます。誘電率に限らず、電磁波に対する 物質のレスポンスを表す物理量(たとえば、磁化率、導電率など)の実数部と虚数部の間 には、Kramers-Kronigの関係式が成り立ち、両者は無関係ではありません。吸収端では誘 電率の虚数部ε"が立ち上がりますが、このエネルギーにおいて、実数部は分散型(N字型) の応答を示します。この成分が、Drudeの式で表される
    ε'=1-ωp2/(ω22)
    の形の誘電率実数部に重畳するのです。このため、吸収端付近でε'は急に立ち上がって、ゼロ に近づきます。金や銅ではゼロを横切りませんが、銀では明確にゼロを横切ります。この ように、バンド間吸収の開始のためにプラズマ端が低エネルギー側に来る現象をハイブリ ッド・プラズモンと呼びます。このことは、D.PinesのElementary Excitation in Solids (Perseus Books, 1966), p.207-228に載っています。同じ内容は、花村栄一「固体物理 学」(裳華房1986)のp.149に記述されています。
    第2のご質問の「また、Auでは2.2eV、Cuでは2eV、Agでは3eV付近でバンド遷移が始まる とのことでしたが、その値を求める何か定性的な理論式などはあるのでしょうか。」です が、これらの物質については、バンド計算が行われていて、Cuでは、Ef以下2eV付近以下 に高い状態密度の状態が存在すると報告されています。Auではこの値が2.3eV、Agでは4eV となっています。(金属のバンドダイヤグラムは、Landolt-Bornstein New Ser. III 13a に収録されています。)
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    Date: Fri, 20 Jun 2003 15:19:54 +0900
    AA1:佐藤 教授
    早速のお返事を、どうもありがとうございました。!
    誘電率εの、実数部ε'と虚数部ε"がそうした意味合いをもった式であったのですね。 またさらに勉強して参ります。
    それからご紹介いただきました書籍についても早速調べてみたいと思います。
    またバンド遷移が始まるあたりのエネルギー値はエネルギーバンドを計算して得た値 であるとのこと、初めて知りましたがすごいなと思いました。エネルギーバンドの計算は、 比較的実際の値に近いものを得られるのですね。計算機を使ってシミュレーションを されているのだと思いますが、こちらにつきましてもご紹介頂きました書籍を探して 調べてみたいと思います。そして状態密度が高いところというのは、つまり伝導バンド の頂点あたりということでしょうか。

    実に奥の深い内容があったということを知りました。
    そして私が道に迷って途方にくれていたところで、佐藤教授が行く道を照らして示し てくださったおかげでなぞがひとつずつ解けてまいりました。
    本当にどうもありがとうございます。
    また疑問が生じました際には、ぜひご教授をいただけたらと思います。 今後ともよろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 23 Jun 2003 12:07:49 +0900
    Q2: 佐藤 教授
    先日、金属の反射率の波長依存性について質問させていただきました、O社のMです。 先生のお返事のなかで誘電率εには実部と虚部があるとのご指摘をいただき、早速 いろいろな本を調べてみまして、私でもなんとか理解できそうな本を探し出しまし た。(お教えいただきました本書は、本屋に在庫がなかったため、まだ問い合わせ中で す。)
    身近にあった『光波電子工学』という題名の本に,入射する媒質に損失がある場合に 関して誘電率がε=ε'+iε”となり、屈折率はそれに伴ってn^2=εの関係から、N=n+ ikとなるということが分かりました。
    これらによって入射波が単純に、反射波と透過波になるのではなく、吸収も生じてく るため反射率+透過率=1にはならなくなり、やや複雑になるということもわかりました。 ところで、先生が教えてくださいました内容のなかで、”吸収端では虚数部が立ち上 がる”ということは、この虚数部が吸収に関与しているからでありますが,そのときに実数 部が分散型(N字型)をしているとはどういうことなのでしょうか。
    また”誘電率実数部に重畳するために吸収端ではε'が急に立ち上がってくるという ことなのですが、虚数部の変化が実数部の変化に寄与し、その結果、εの値が大きくなってくるという ことでよろしいのでしょうか。
    エネルギーの大きな吸収があれば、内部で励起が起こっているという現象につながっ て、損失を示す虚数部が変化し、誘電率が変化する…と、一連の事が先生によって明らか になってまいりました、とても面白く感激です。
    どうぞまたご返答をよろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 23 Jun 2003 14:49:12 +0900
    A2: M様、佐藤勝昭です。
     「”吸収端では虚数部が立ち上がる”ということは、この虚数部が吸収に関与している からでありますが,そのときに実数部が分散型(N字型)をしているとはどういうことな のでしょうか。」というご質問ですが、説明するにはすこし面倒な式が要りますので我慢 してつきあってください。
     Kramers-Kronigの関係式は、たとえば、山田興治、佐藤勝昭他著「機能性材料のための 量子工学」(講談社1993)第4章「光物性」p.154に解説してあります。再録しますと・・
    ----------------------------------------------------------- 
     誘電率、磁化率など外場に対する線形の応答を示すωの関数の実数部と虚数部の間には、 クラマース・クローニヒの関係式が成立する。右の図に示されるように, 誘電率の虚数部は電磁波がある特定の周波数ω0を中心とした山形のスペクトルを示す。
    これはω0付近の周波数を選択的に吸収することを表している。これに対して、実数部は ω0付近で正から負に符号を変える分散形の形状を示す。
     線形応答関数ε(ω)=ε'(ω)+iε"(ω)の実数部ε'と虚数部ε"とのあいだには、
    ε'(ω)=(2/π)P∫ dω'ω'ε"(ω')/(ω'2-ω2) (1)
    ε"(ω)=(-2ω/π)P∫ dω'ε'(ω')/(ω'2-ω2) (1')
    の関係式が成立する。第1式は、虚数部のスペクトルが(0,∞)の範囲で知られておれば、 実数部が計算で求められることを表している。第2式はその逆のプロセスが可能であるこ とを示す。Pは積分の主値を表す。
     第1式を部分積分すると、
    ε'(ω)=(1/2π)∫dω'ln|(ω'+ω)/(ω'-ω)|dε"(ω')/dω' (2)
    となるが、ln|(ω'+ω)/(ω'-ω)|はω'=ω付近でのみ大きな値をもつので、ε'(ω) はε"(ω)の微係数に対応する。これが、図においてε'がε"の微分形 のスペクトルとなる理由である。
    -------------------------------------------------------
    次に、「また”誘電率実数部に重畳するために吸収端ではε'が急に立ち上がってくると いうことなのですが、虚数部の変化が実数部の変化に寄与し、その結果、εの値が大きく なってくるということでよろしいのでしょうか。」という質問ですが、その通りの理解で 結構です。花村榮一「固体物理学」の6-12図を添付します。バンド の立ち上がりに対応するδε1(b)のスペクトルが、Drudeの項ε1(f)に重畳しているとして、実験値ε1(exp)を説明しています。
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     ネットで尋ねて学ぶだけでなく、時間がかかると思いますができるだけ、元に戻って、 いろんな本を読まれて、ご自分なりの理解をされることが重要かと存じます。
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    Date: Mon, 23 Jun 2003 18:40:06 +0900
    佐藤 教授

    度重なる面倒な質問にも、ひとつひとつ丁寧に対応してくださり、本当に感謝いたし ます。
    頂きましたご回答につきまして、疑問であったところが整理されました。
    先生の豊かな知識の数々に、頼ってしまっては申し訳ないと思いながらも、 自力ではなかなか解決できるレベルではなかったものですから、大きく前進すること ができまして、本当にありがたく思っております。
    でも先生のおっしゃる通りです、ここまで導いてくださったのですから、これからは また自分なりに練って理解できるように本を探して読んで参ります。
    ひとつひとつ知識を得ていくことでまた新たな発見をして参りたいと思います。
    でもどうしても、ど壺にはまって抜け出せなくなってしまいましたときには、またご 指導いただきたく思います。
    また引き続きホームページを拝見させて頂きます。 今後ともよろしくお願いいたします。
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    213.金属結合と共有結合の関係

    Date: Thu, 19 Jun 2003 20:49:30 +0900
    Q: 東京農工大学工学部物理システム工学科
     佐藤先生

    金属結合のモデルについて迅速にご回答頂いたのにもかかわらず、お礼が遅くなり、 大変失礼をしております。ご無礼の段、お詫び申し上げます。
    遅ればせながらお礼を申し上げたく、今回、ご連絡させていただきました。 ご丁寧なご回答、ありがとうございました。

    また、いただいた回答に対してのさらなる質問がございます。
    (質問)
    先生に頂いたご回答から、
      アルミニウムなど=金属結合
      シリコン(半導体)=共有結合
    と理解致しますが、金属結合と共有結合とは、どのような 関係(?)にあるのでしょうか。
    電子の存在する状態(動きやすさ?)から考えると、金属結合と イオン結合はちょうど対局にあるのかな?とも思います。
    では、共有結合はどうなのか?(そもそも、このようにイオン結合を 持ち出してくるのが適切かどうかという問題もありますが。
    先生のご指摘のように、原子の周りに電子が回転している太陽系型 モデルの呪縛から逃れられていないのかもしれません)
    金属結合では、電子の海(ほとんど連続した電子軌道)のために、 高い導電性を示すことは、説明図を拝見し、イメージできたと 思います。
    しかし、共有結合がバンドギャップを生じる理由、また、 そのときの電子の状態(軌道?)について、よいモデルがあれば、 ぜひ、ご教授下さい。

    よろしくお願い致します。
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    Date: Thu, 19 Jun 2003 21:36:48 +0900

    A: I様、佐藤勝昭です。
    「金属結合と共有結合とは、どのような関係(?)にあるのでしょうか。」というご質問 ですが、共有結合では原子と原子の間に明確な方向性をもった分子軌道が形成されていて、 原子と原子の間に電子密度の高いところができているという描像です。イオン結晶だと結 合分子軌道のエネルギーが低く、反結合分子軌道のエネルギーが高いのですが、共有結合 結晶の場合、反結合分子軌道のつくる「周期的に電子濃度の高いところ(負電荷)が原子 核付近(正電荷)に来る」場合の方が、結合軌道の「原子間に電子濃度が高くなる場合」 よりエネルギーが下がります。このため、エネルギーギャップが生じます。反結合性の軌 道が価電子帯、結合性の軌道が伝導帯となります。(必ずしも正確ではありませんが、お よその概念です。)価電子帯のスピンも含め4個の結合軌道がsp^3の4個の電子で満ちる と半導体になります。このバンド構造において価電子帯を電子が部分的に占有すると電気 特性は金属と同じになります。さらに金属では高い自由電子密度のために、原子核のクー ロンポテンシャルが遮蔽されて、束縛が弱くなり電子は全体に広がって行きます。
    ---------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 24 Jun 2003 14:52:44 +0900
    AA: 東京農工大学工学部物理システム工学科
     佐藤先生
    早速のご回答ありがとうございました。
    Webサイトのご回答を拝見致しましたが、当方の知識レベルでは、理解するのに、多少時間が必要なようです。 今しばらく勉強した後、再度、ご質問させて頂きたいと思います。
    今後ともよろしくお願い申し上げます。
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    214.真空の耐電圧

    Date: Fri, 20 Jun 2003 10:42:40 +0900
    Q: 佐藤研究室のHPを見て
    真空中(充分に低圧 10-7Torr程度)での真空の耐電圧はいくら程度と考えれば 良いでしょうか。
    数十KV/mm程度かと考えています.
    真空中の高電圧の取扱いを調査している退職した元エンジニアです。
    森本 洋示
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    Date: Fri, 20 Jun 2003 17:28:09 +0900
    A: 森本様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私は、真空装置は扱いますが、高電圧は扱ったことがな いので、多価イオンビームによる表面改質などの研究をしている
    原子過程工学分野で実際に実験を担当しておられる本橋博士に伺いましたところ、イオンビームを 流す実験をしている場合、10-7Torrの真空だと、1mmで1kVを目安にしているということ です。それ以上では放電が起きる可能性があるということです。
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    Date: Fri, 20 Jun 2003 18:34:01 +0900
    AA: 佐藤さま
    早速教えていただきありがとうございました。
    とりあえず、御礼まで。
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    215.反射の際の位相のずれ

    Date: Sat, 28 Jun 2003 23:52:41 +0900
    Q1: はじめまして。S社のM.Sです.
    ホームページを拝見させていただきました。
    私も是非教えをいただけたらと思い、メールしました。
    佐藤先生の
    講義録のエリプソメトリの原理について拝見させて頂きました.
    反射光の位相が,反射の際にずれることは数式からは理解できるのですが, 現象論的(感覚的?)にはどのうように理解したらいいのでしょうか?
    わかりやすく教えていただければ幸いです.
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    Date: Mon, 30 Jun 2003 14:01:32 +0900
    A1: MS様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    反射の際の位相の変化の物理的説明を求めるご質問ですが、私は以下のように理解してい ます。
     反射の現象をミクロに見ると、入射した光の電磁波によって、物体の表面に振動する電 気双極子が多数誘起されます。その振動する電気双極子から電磁波が放射しますが、電磁 波同士が特定方向に強め合って、反射光となります。
     もし、金属においてプラズマ周波数ωp以下の周波数ωをもつ光が入射した場合を考えますと、自由電 子プラズマ振動が生じます。これによる電気双極子は入射光の電界を打ち消す方向にでき ますから、振動の位相は丁度180度ずれます。これに対してωp以上では、電子の慣性 のため、プラズマ振動が入射電界の変化についていけなくなり位相の遅れを生じます。あ るいは、ωp以下でもバンド間遷移が起きますと光の共鳴吸収が生じ、それに伴って位相 のシフトが起きます。丁度、振り子のおもりを外部からの振動する力によって強制振動し た場合に、その運動の位相が共振周波数の前後で大きくずれるのと同じ現象です。
     ここに述べたような何らかの原因で電気双極子の振動の位相がずれると、そこから生じ る電磁波の放射、ひいては、それらが重ね合わされて出てくる反射光の位相のずれになる のです。
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    216.斜め反射の位相の飛び

    Date: Wed, 2 Jul 2003 02:12:45 +0900
    Q2: 佐藤勝昭先生
    先日,エリプソメトリの原理の物理的理解について, ご質問させて頂いたMSです.早速のご回答ありがとうございます.
    もしよろしければ,もう一点ご教授下さい.
    S偏光及びP偏光の光を斜め方向より入射させた場合, 確かS偏光とP偏光では,位相のシフト量が異なっていると思うのですが, これは,どのように考えればよろしいのでしょうか?
    物質表面で振動する電気双極子の振動方向が異なることに起因していると 考えればよろしいのでしょうか?
    --------------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 2 Jul 2003 19:23:42 +0900
    MS様、佐藤勝昭です。
     斜め入射の反射現象を電気双極子との関連で検討したことがなかったので、本学物理シ ステム工学科のT教授(量子光工学)にお伺いしました。以下は、T先生の答 えです。
    ------------------------
       
    1. 反射の際の位相シフトは偏光方向で異なります。   詳しくは HechtのOptics にあります。(添付図の(a)がS偏光、(b)がP偏光)  
    2. 1.の計算は通常の光学では、境界での連続条件から導いています。  「電磁波によって表面&固体内に電気双極子が生じ、それから発生する分極波と入射波 の重ね合わせが反射波・屈折波になる」という立場からいえば、質問者の指摘は正しいと 思います。ただし、具体的な計算は私は知りません。(ごく簡単な例、たとえば垂直入射 については、V.D. Barger & M.G. Olsson の電磁気学の教科書にあります) 近接場では、このような立場から検討していると思います(しかも波長以下の範囲の電場 を問題としている) 以上、あいまいな説明しかできず、失礼します。
    -------------------------------------------------
    ということで、電気双極子の立場から斜め反射の位相シフトをきちんと論じるのは、簡単 ではないようです。
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    Date: Fri, 4 Jul 2003 02:42:27 +0900
    AA2: 佐藤勝昭先生
    先日,エリプソメトリの原理の物理的理解について, ご質問させて頂いたMSです.
    お忙しい中,時間を割いて頂きありがとうございました.
    また,メールにてご質問させて頂き, ご教授を請うことあるかと思いますが, よろしくお願い致します.
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    217.二酸化炭素の分解

    Date: Sun, 29 Jun 2003 19:50:08 +0900
    Q: 二酸化炭素の分解は自然界でありえないことですか?
    T中学13歳K.Y
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    Date: Mon, 30 Jun 2003 13:07:45 +0900
    A1: K君、佐藤勝昭です。
     私は、専門家ではないので、私たちの大学の
    環境資源科学科の赤木教授に伺ったところ、 自然界でも地熱の作用などでメタンCH4などに変換されることがあるそうです。そのこと が記載された書物もあるそうですが、分かり次第、改めてお教えします。
    -------------------------------------------
    Date: Tue, 1 Jul 2003 12:57:28 +0900
    A2:K君、東京農工大学佐藤勝昭です。
     本日、赤木教授から次のような回答を得ました。
    高圧で還元的条件では、水素と反応しメタンと水を生成することが熱力学的に 予測できます。事実、海底の堆積物中では微生物がこの反応を利用してエネル ギーを取り出しています。海底のメタンハイドレートの成因の一つと考えられ ています。
    Encyclopedia of Geochemistry(Kluwer)という書物に記載されているとのことです。
    ---------------------------------------------------------------------------

    218.ITOの溶解

    Date: Mon, 30 Jun 2003 14:02:25 +0900
    Q: N大学工学研究科M1のOです。
    ITOは強酸や強アルカリに溶解せず、塩化鉄(Ⅲ)水溶液に溶けるのはなぜですか? ITOは酸化物からできているのに塩化鉄水溶液で溶解するのかがわかりません。また そのときの反応はどのようになると思われますか?
    教えてください
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    Date: Mon, 30 Jun 2003 14:35:49 +0900
    A: O様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    私は、ITOは守備範囲にないので、液晶の研究者である本学の飯村先生にお尋ねしました ところ、飯村研では、塩化鉄水溶液ではなく、塩酸でエッチングしてパターン化している ようで、塩化鉄水溶液との反応は知らないと言うことです。透明導電膜のパターニング、 エッチングについては、東レリサーチセンターから「透明導電膜の現状と展望」という調 査報告書が\58,000で出ているようなので、図書館に行って尋ねて見てはいかがでしょう。 図書館になければ、指導教員の方に購入をお願いしてはいかがでしょう。
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    219. Ti-Ni形状記憶合金の状態図について

    Date: Thu, 3 Jul 2003 16:13:38 +0900
    Q: こんにちは.はじめまして僕は信州大学4年のTと申します.
    現在,大学でTi-Ni形状記憶合金について研究しています.Ti-Ni形状記憶合金をより 詳しく知るためにその状態図を探しています.
    高温側(600℃以上)の状態図は見つかったのですが,低温側(600℃以下)の状 態図は見つかりませんでした.どうなっているのか教えていただけたらうれしいで す.
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    Date: Thu, 3 Jul 2003 20:10:54 +0900
    A: 信州大学Tさん、佐藤勝昭です。はじめから匿名のお尋ねはルール違反です。しかし、 メールでそのことを連絡したら宛先不明で返ってきましたので、ネットに貼り付けます。
     私は、金属工学ではないので、自分では形状記憶合金の相図については、見たことがあり ません。しかし、金属学会のページをネットで調べたら、 日本金属学会誌 第63巻 第2号 1999年2月pp.201-207に
    刑部 冨夫 川村 良雄 佐分利敏雄 堀川 宏:: Ni 過剰 Ti-Ni スパッタ薄膜のマルテ ンサイト変態と二方向形状記憶効果 という論文が掲載されており、673 and 823 K (400 -600℃)の相図をDSCを使って求めておられますので、参考にされてはいかがでしょうか。
    Abstractをコピーしておきます。
    J. Japan Inst. Metals,Vol. 63, No. 2 (1999), pp. 201-207
    Martensitic Transformation and Two-way Shape Memory Effect of Sputter-deposited Ni-rich Ti-Ni Alloy Films
    Atsuo Gyobu, Yoshio Kawamura, Toshio Saburi and Hiroshi Horikawa

    Abstract:
    The martensitic transformation and its associated two-way shape memory effect of sputter-deposited Ni-rich Ti-Ni alloy films were investigated.

    For investigation of the aging (without constraint) effect on the martensitic transformation behavior, deposited amorphous films were crystallized and concurrently aged by holding at various temperatures between 673 and 823 K. The specimens were analyzed with differential scanning calorimetry (DSC) and the following was found: In the Ni-rich side of the Ti-Ni alloy phase diagram, the B2 single phase region widens towards the Ni-rich side with increasing temperature and within this region the B2⇔R transformation temperature decreases with increasing Ni-content. This fact is useful for controlling the B2 ⇔R transformation temperature of Ni-rich Ti-Ni alloys.
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    220.熱抵抗について

    Date: Wed, 2 Jul 2003 20:14:23 +0900

    佐藤様
    はじめまして、私はS工業のUと申します。
    (Webに記載する場合は、匿名でお願いします。)
    HPを拝見さして頂き、早速ですが質問をさせて頂きます。

    現在放熱板の設計をしています。単純に放熱板(材質アルミ)の熱抵抗を求め どれ位の電力が放熱できるかを求めてから製品にしたいと考えています。
    熱抵抗(伝導)はフーリエの法則より(今回は対流・放射は考慮しません) 熱抵抗R=経路長L/熱伝達率λ*伝達面積Aで求めることが できます。このことより伝達面積Aが大きければ大きいほど熱抵抗Rは小さくなる ことは理解できます。熱抵抗Rを小さくする場合、ただ単純に伝達面積を 大きくすれば良いのでしょうか。私が疑問に思うところは、面積を大きくしても熱が 全体に伝わらないので、計算上は熱抵抗Rは小さくなりますが、実際にはある程度の 面積までしか放熱効果はないと考えています。
    そこで、佐藤様に教えて頂きたいのですが、理想(計算上)的な伝達面積Aとはどの ように考えればよろしいのでしょうか。
    お忙しい所、申し訳ありませんが宜しくお願い致します。
    ---------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 5 Jul 2003 10:27:33 +0900
    A: S社、U様、佐藤勝昭です。
     お返事が遅くなり申しわけありません。
     熱工学の分野はよくわからないので、熱電変換素子・材料の開発で有名な山口大学 の小柳剛教授に、メールでお尋ねしましたところ、下記のような返事を頂きましたの で、お伝えします。
    -------------------------------------------------------------
  • 私も伝熱工学の専門家ではないので,上手く答えることができるか 自信はありませんが,考えられることはお答えいたします。
  • U氏の疑問は,有限の大きさの熱源に対して,どのように熱が 3次元的に伝わっていくかだと思われます。
    熱抵抗で考えるよりも,伝わっていく単位時間あたりの熱量で考えると 放熱板は大きければ大きいほど放熱量が大きいのは確かですが, 放熱板の大きさに対する放熱量の効率が問題であり, 効率的な大きさが存在すると思われます。
  • これを解析するのは,伝熱方程式を3次元で数値的に解く必要が あると思われますが,伝熱ハンドブックなどを見るとU氏の 問題に合うような例が載っており,計算結果,または経験的な 放熱量(熱抵抗)が載っていると思われます。
  • 実際に図書館で本をあたっていませんが,インターネットで調べると 日本機械学会が出版しているソフト付きの本がありましたので,
    http://www.jsme.or.jp/kanb006.htm

    U氏にはこの本を読まれることをお奨めします。
  • ------------------------------------------------------------
    ということでした。
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    221.身近にある磁性材料

    Date: Thu, 10 Jul 2003 14:41:29 +0900
    Q: はじめまして、I大学のTと申します。
    物性なんでもQ&Aをみてメールを送らせて頂いております。
    現在、磁性材料の勉強を専攻しているのですが、どうもなかなか知識が頭に入ってきません。 そこでなにか身近にある磁気を応用したものがあったら考えやすいと思ったのですが、 なにかありましたら教えてください。
    よろしくお願い致します。
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    Date: Thu, 10 Jul 2003 16:14:08 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     磁性材料は、いろんなところに使われています。
    身近な磁性材料としては、モーターが挙げられます。
    自動車一つとっても、窓を上げ下げしたり、ワイパーを動かしたり、実にたくさんのモー ターが使われています。
    直流モーターは、永久磁石の回転子が、固定子という電磁石の中に置かれています。分割 された電磁石に流される電流を順次切り替え、磁界の回転を生じ、回転子に運動を与える のです。固定子のヨークにも磁性体が使われています。
    回転子の永久磁石は、磁性体のうち保磁力の大きな硬質磁性体です。硬質磁性体の強さを 表すのがBHmaxといって、ヒステリシスループの囲む面積です。
    コイルの巻いてある部分とモーターをぐるっと取り巻いている部分は磁気回路(磁束の通 り道)を構成しています。この部分に使う磁性体は、保磁力が小さく飽和磁束密度の大き な軟質磁性体(たとえば珪素鋼板)が用いられます。

    もう一つの例として磁気記録が挙げられます。
    あなたが、質問を書いたパソコンには、ハードディスクが入っていますね。ハードディス クの磁気円盤(ディスク)上には、0と1とで表したデータの列が磁気的に記録されています。 磁気ディスクには、半硬質磁性体であるCoCr合金が使われています。
    ディスクに外から0, 1の信号に対応する磁気を与えてディスク上の小さな磁石の向きを1, 1に対応する向きに並べ変えて記録します。このためには、FeNi合金などの軟質磁性体に コイルを巻いて磁束を作る必要があります。これが、書き込み(記録)用磁気ヘッドです。 記録された磁気の情報を読み出すには、磁気の向きと大きさによって電気抵抗が変化する ような効果(磁気抵抗効果)を示す磁性材料をもちいています。これが、読み出し(再生) 用磁気ヘッドです。
    この磁気ヘッドを、円盤状の任意の位置に持っていくのに、アクチュエータという一種の モーターが使われていますが、これにも永久磁石が用いられています。
    私の講義
    「物性工学概論」の7/8の講義ノートおよびOHPをご覧下さい。

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    222.熱収縮

    Date: Fri, 11 Jul 2003 01:25:37 +0900
    Q: 始めまして。
     Hと申します。理学部、物理学科を卒業し、現在は主婦をやっていますが、個人的趣味で 色々と興味のある事を検索していた際、先生のHPにあたり、少しひっかかっていた事を お尋ねしたいと思います。お手数をおかけしない範囲で結構ですので、お答えいただくと幸いです。

     HPなどで金属やプラスチックなどの物性表などを検索すると、金属などで「熱膨張率」という ものはあるのですが、低い温度になると熱により収縮はしないのでしょうか?
     また、その値は熱膨張と同じ割合で収縮するのでしょうか?

     なお、勝手ながら、WEB上での掲載はイニシャルでの掲載をお願いいたします。
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    Date: Fri, 11 Jul 2003 11:46:34 +0900
    A: H様、佐藤勝昭です。
     熱膨張係数は、温度の変化に対してどれだけ長さや体積が変化するかを表す係数です。 従って、熱膨張係数が正のときに、温度変化量が正(温度上昇)に対し、正の長さや体積 の変化(膨張)を与えますし、温度変化量が負(温度下降)に対しては負の変化(収縮) を与えます。中には、熱膨張係数が負の物質もあります。
     室温で膨張係数が与えられていたとすると、温度を下げたときも、室温に近い付近(た とえば0℃付近)までは同じ係数が適用されます。しかし、うんと低い温度、たとえば、 液体窒素温度(77K)までその係数が適用できるという保証はありません。一般に理科年表 などに載っている値は室温付近での値ですから、室温以外の温度付近でのきちんとした値 は、熱膨張係数の温度変化を調べなければなりません。一例として、新版「物理定数表」 (朝倉書店1984)のp.125には、NaNO3の線膨張係数の温度変化がをマイナス180℃からプ ラス250℃まで、a, b, c軸別にグラフにして示されています。これを見ると低温では、 熱膨張係数は確かに小さくなります。熱膨張はなぜ起きるのでしょうか、物質の凝集エネ ルギーが原子間の距離に依存しており、絶対零度では、エネルギーが最低になる距離にな っています。温度が上昇すると、格子振動の非調和項のため、原子間の平均距離が大きい ところでポテンシャルが極小になり、熱膨張が起きるのです。(たとえば、キッテル固体 物理学第5章参照)従って、極低温では熱膨張係数が小さく、温度が上がるに従って、増 えていくのです。
     このような説明でおわかりいただけたでしょうか。
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    Date: Fri, 18 Jul 2003 18:52:37 +0900
    AA:佐藤勝昭様
     熱収縮(Date: Fri, 11 Jul 2003 01:25:37)にて質問させていただきましたHで す。
     お礼が遅れまして申し訳ありませんでした。
     とてもご親切な返答、私でもわかりやすく大変参考になりました。
     ありがとうございました ------------------------------------------------------------------------------

    223.アンモニアの固有振動モード

    Date: Fri, 11 Jul 2003 14:25:54 +0900
    Q: 疑問なんですけど、何でアンモニアは固有振動数があり、12個ものモードを持って いるのですか?詳しく説明お願いします。
    東京理科大学理学部第1部物理学科所属2年山口兼司
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    Date: Sat, 12 Jul 2003 16:49:44 +0900
    A: 山口様、佐藤勝昭です。
     一般に空間におかれた1つの原子は3個の運動の自由度を持っています。
    アンモニアはNH3という分子構造をしていますが、4個の原子から成り立っているので、 12個の自由度を持っています。
    今、窒素と水素の2原子だけからなる分子を考えてみましょう。窒素と水素の間には 結合があります。従って、2つの異なった質量の点がバネで結びついて振動するので、 結合をバネ定数Kで表すとしますと(K/M)1/2の固有振動数で運動します。実際には、 4つの原子は勝手に動くわけではなく、Nを中心に周りの3つの水素が一斉に遠ざかったり 近づいたりする振動などいろいろなモードを持つのですが、その数は運動の自由度である 12と一致するのです。
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    224.ポリブタジエンの伸縮性

    Date: Thu, 17 Jul 2003 19:20:58 +0900 (JST)
    Q: なぜ、ゴムであるポリブタジエンは、cis型では伸縮性をもち、trans型では伸縮性にかけるんですか。
    中央大学理工学部応用科学化3年伊古田です。
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    Date: Thu, 17 Jul 2003 20:12:26 +0900
    A: 伊古田様、佐藤勝昭です。
     ブタジエンをポリマーにするときに、結合が曲がっているcis型の方が、結合が直線的 なtrans型より伸縮性に富むということで、たいていの有機化学の教科書に載っていると のことです。
    (私は、有機化学の専門ではないので、本学の有機材料化学科の米澤先生に お伺いしました。)
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    225. 白色絶縁体について

    Date: Fri, 18 Jul 2003 00:58:18 +0900
    Q: はじめまして。T社のMと申します。社名・氏名共に匿名でお願いいたします。セ ラミック絶縁体の開発を担当しています。元々有機合成出身のため、電気の世界で四 苦八苦しております。現在、焼結後の反射率向上を検討しています。手始めに、酸化 チタン粒子を混合してみました。反射率は向上しますが、絶縁耐圧が低下してしまい ました。酸化チタン自体の誘電率が高いためか、使用した酸化チタン粒子の粒子径が 比較的小さかったため、凝集によって緻密性が低下したためか、原因を推定・調査中 です。そこで、質問ですが、酸化チタンのように隠蔽性が高く、かつ絶縁性の高い材 料をご存じないでしょうか?あるいは、何か材料探索のヒントをご教示願えませんで しょうか?
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    Date: Fri, 18 Jul 2003 10:27:44 +0900
    M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。お答えする前に確認のため質問させてください。 隠蔽性という言葉がよくわからないのですが、どのような意味でお使いでしょうか。 酸化チタンにもTi2O3, TiO2(rutile), TiO2(anatase)などがあります。どの物質を使われ たのでしょうか。
    反射率が高いことは、透明物質の場合屈折率が大きいことを意味し、さらには、誘電率が 高いことを意味します。誘電率が高いとよくないのでしょうか。どのくらいの誘電率まで なら許せるのでしょうか。
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    226.鉄・銅・真鍮の密度

    Date: Sun, 20 Jul 2003 15:02:00 +0900
    インターネットでいろいろ調べましたが、わかりません。鉄・銅・真鍮(亜鉛20%銅 80%)の密度を教えてください。
    S中学校1年生 H
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    Date: Tue, 22 Jul 2003 06:20:33 +0900
    A: H君、佐藤勝昭です。
    いま、Madridにいて、手元に資料がありません。インターネットで得られる情報 は限られています。図書室に行って、「理科年表」をご覧なさい。
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    Date: Mon, 28 Jul 2003 19:45:38 +0900
    H君、佐藤勝昭です。
     理科年表によると、鉄の密度は7.874(g/cm^3) (20℃の値)、銅の密度は8.96 (g/cm^3) と書かれています。
    真鍮(Zn30%)は8.5-8.7(g/cm^3)となっています。(新版「物理定数表」p.23、朝倉書店 1984)
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    227.k-空間の物理現象

    Date: Wed, 23 Jul 2003 15:47:11 +0900
    ホームページを拝見しました。

    某電気メーカーで半導体デバイスに関する研究職をしているTという者です。
    仕事として半導体を扱っていながら、いまだに物性物理が馴染めず、苦労しています。 特に、バンド図の見方、k空間という概念がピンときません。
    ぜひ、以下の質問にご回答願えないでしょうか?

    質問:

    「k」あるいは「k空間」が、実空間において何を意味しているのか (どの様な物理量,物理現象に対応しているのか)、具体的なイメージを掴めないでいます。

    例えば、
    E(k)-kで表される固体のバンド図では、kの値として-π/a≦k≦π/aの範囲を取るとされて います。「k」とは「電子波の空間周波数」だといった解説がよくあります。
    と言うことは、k=0の点というのは、電子の波長が∞の場合、ということになります。 電子の波長が無限大、なんてことはあり得るのでしょうか?
    そもそも、電子というのは任意の波長を取り、固体中には任意の波長の電子が存在する、 ということなのでしょうか?
    固体の中には様々な波長の電子が存在し、その電子の波長とエネルギーとの関係を示 したものがE(k)-kで表されるバンド図である、と解釈して良いのでしょうか?
    E(k)-kにおける「k」の物理的意味、実空間における物理現象との対応についてご教示願いたく よろしくお願い致します。
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    Date: Mon, 28 Jul 2003 20:21:02 +0900
    電気メーカーT様、佐藤勝昭です。
    固体中の電子の波数kにh'をかけたものが運動量を表します。
    k=0の電子は、運動量がゼロですから、どの格子点にいる電子も 同じ位相で時間的に振動している状態です。これが波長∞ということです。
    一方、半波長がちょうど格子定数に一致すると、定在波になります。
    これが、ブリルアンゾーンの端っこの状態です。
     あなたの理解の通り、固体中の電子には、いろんな波長のものが 存在して、その電子の波長とエネルギーとの関係を示したものがE(k)-kで表される バンド図であると解釈してよいのです。
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    228.分極率の高エネルギー側のふるまい

    Date: Wed, 23 Jul 2003 15:51:38 +0900
    佐藤勝昭教授殿

    はじめまして。化学会社に勤務するMというものです。「物性なんでもQ&A」のホームページの関係あり そうな項目をいくつか見ましたが、私が抱えている問題は見あたらなかったので質問させていただきました.

    光学フィルムの、波長分散を考慮した複屈折率設計を分子軌道法や 結合分極率法でやっているのですが、以前から「高エネルギー側周波数 に対する屈折率はどのようになるのか」ということがわからないで います。
     分極率の周波数依存 1/(ω022)に おいてω>ω0となる範囲では分極率αは負になります。するとローレ ンツ・ローレンツ式(n2-1)/(n2+2)=Kαに負分極率を代入すると n2<1となりますが、はたしてこれでいいのでしょうか。仮に実 際の物質に対して高エネルギー側の光に対する屈折率を測定すると 1より小さな値が得られるのでしょうか。
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    Date: Mon, 28 Jul 2003 20:05:20 +0900
    A: 化学会社M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    おっしゃるとおり、電気感受率χは
    χ=-ΣjAj/(ω2+iω/τ-ωj2)
    と書けます。1つの遷移のみを考えると、ωjより高い周波数では負に なるのですが、一般には、もっと高いエネルギー領域にたくさんの遷移 が存在するので、重畳して負にならないのです。
    半導体で言えば、バンド間遷移より高エネルギー側に、内殻からの 遷移が加わるので、負になりません。しかし、内殻遷移の高エネルギー側 のX線領域では、屈折率は1以下になっています。
    また、可視光域でも非常に強い遷移が、スペクトル的に孤立していれば、 負になることは十分あり得ます。
    たとえば、CuFeS2(黄銅鉱)を金色に見せているのは、近赤外から2eV 付近に存在する強い吸収のため、χが2.5eV付近で急落することが 原因です。この付近では、nよりkが若干大きくなっていて、誘電率の 実数部は負になっています。
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    229.真鍮の結晶構造

    Date: Wed, 23 Jul 2003 14:52:01 +0900 Q: 佐藤勝昭先生、はじめまして。(Webに記載する場合は、匿名でお願いします。)
    K大学出身で理工学部を卒業しているH会社のKと申します。
    真鍮(Cu65Wt%Zn35Wt%)で化学の立体構造(例:面心立方格子、六方最密充填構造 etc)を教えてください。
    また圧延すると化学の立体構造は変わるのでしょうか?
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    Date: Fri, 25 Jul 2003 05:34:21 +0900 A1: K様、佐藤勝昭@Madridです。 旅先のため、資料が手元になく、お答えできません。帰国後回答します。
    なお、英語のサイトを探してご覧なさい。Googleでbrass crystal structureと すれば、いくつかのサイトが引っかかるはずです。たとえば、
    http://www.eng.uc.edu/~gbeaucag/Classes/XRD/Labs/Lab4html/Lab8Diff_Phase.html というサイトには、fccであると言うことが書いてあります。
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    Date: Mon, 28 Jul 2003 19:25:07 +0900
    A2: K様、佐藤勝昭です。
     帰国しましたので、おたずねの件、調べてみました。
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     真鍮(黄銅)は、CuとZnの合金ですが、Znが35%くらいまではα相、40%ではα+β相、 45%になるとβ相、さらにZnの濃度が高いとγ相になると書かれています。(岩波:理化 学辞典)
    α相は面心立方(fcc)、β相は不規則相では体心立方(bcc)、規則相ではCsCl構造(=単純立 方)、γ相は六方最密(hcp)です。(http://www.theophys.kth.se/~blanka/indexRes.html)
     α相は、比較的に延性(ductility)が高く、冷間圧延をしやすいと書かれています。 (オハイオ州立大の関連サイト参照)
    従って、Zn35%の真鍮はFCCで、圧延しても構造は変わらないと考えられます。
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    230.熱測定の際のダミーの選定基準

    Date: Thu, 24 Jul 2003 16:20:31 +0900 Q: 東京農工大学
    物理システム工学科
    佐藤 勝昭様

    はじめまして、私はT大学D学科の学生(4年生)のTと申します。
    佐藤研HPの「物性なんでもQ&A」、見させて頂きました。
    とてもいい企画で、参加された多くの方が有益な議論を されてますね。是非、私も参加させて頂こうと思いメール 致しました。

    私は結晶成長を専門としており、今、フラックス法での 単結晶育成を行なっています。ご存知のように、この育成 方法で結晶成長を行なうには、予め、電気炉内に置かれた 坩堝中の温度分布をきちんと測定しておく必要があります。
    実際の温度測定は坩堝内に熱伝対を差込み、電気炉の設定 温度を変えながら坩堝内温度を測定する事で行います。
    この時、測定温度を実際の結晶成長時の融液温度により近い 値にする為、坩堝内には結晶成長させたい材料と熱的性質が 近く、且つ、熱電対と反応しないもの(以下、Aとします)を 入れておく方が良いと考えられます。

    前置きが長くなりましたが、ここで質問です。上述のAを 選定する際のポイントですが、熱的性質として「熱伝導率」 or「比熱」の内、特にどちらが近いものをAとして選ぶべき なのでしょうか?
    ちなみに、私の行っている結晶成長では育成速度が0.1~ 2.0℃/hと比較的ゆっくりである為、「熱伝導率」よりも 「比熱」の値が近いものを選ぶべきではないかと個人的には 考えているのですが、間違っているでしょうか?(又、考え方 が根本的に間違っていたら申し訳ありません)
    (一応、指導教官にも尋ねたのですが明確な答えが返って来ず、 判断に困った為、佐藤先生に質問させて下さい)
    愚問かもしれませんが、どうか御教授下さいますよう宜しく お願い致します。
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    Date: Fri, 25 Jul 2003 05:52:07 +0900
    A: T様、佐藤勝昭@Madridです。
     メールありがとうございます。旅先なのと、文献などがないので、きちんとお答 えできませんが、融点が近く、熱伝導率、比熱ともに近いものが良いと思いま す。
     比熱と熱伝導率どちらをとるかは、実験の仕方によるでしょう。温度上昇さ せながら測定するなら「比熱」が重要でしょうが、定常状態なら「熱伝導率」が重要です。 ゆっくりした成長なら、定常状態として見た方がよいかもしれません。
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    231. 酸化アルミニウムのnとkについて

    Date: Thu, 24 Jul 2003 21:52:09 +0900
    A: はじめましてC大学のM1のSといいます。(匿名でお願いします。)
    先生に質問させていただきます。

    Al2O3のnとkについて調べていて、なにか参考になる データブックなどあったら教えてください。
    このホームページを拝見していて「Handbook of Optical Constants of Solids」 という本を調べてみたのですがよくわかりません。もしこの本の中に載っているのであれば何ページのどこに詳しい値がでていますか。

    よろしくお願いします。
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    Date: Fri, 25 Jul 2003 05:41:42 +0900
    A: S様、佐藤勝昭@Madridです。
    メールありがとう。旅先なので、手元に資料がありません。
    Al2O3も、サファイヤの場合と、アモルファス、多結晶で異なります。
    サファイヤの場合は、異方性があるので注意してください。
    たぶん、Handbook of optical constants in solidsの第2巻にあると 思うのですが、探してみてください。
    また、古い本ですが、工藤恵栄著「分光学的性質を主とした物性基礎図表」 という本にも出ています。図書館で探してください。
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    Date: Fri, 25 Jul 2003 12:20:36 +0900
    AA: 早速の回答ありがとうございます。
    Handbook of optical constants in solidsの第2巻を調べて見つけることができました。
    本当にありがとうございました。
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    232.真空の導電率

    Date: Wed, 30 Jul 2003 01:52:37 +0000
    Q: HPを拝見させていただきました。
    ワクチン製造メーカーに勤めている、Tと申します。
    突然メールしまして大変恐縮ですが、教えていただきたいことがあってメールしました。

    凍結乾燥をしたバイアル瓶は真空度試験をします。
    真空度試験とは、バイアル瓶の中で電気が放電するかどうかで確認する試験なのですが、 このとき、真空であるバイアル瓶の状態、例えば、すごく冷えているとか、結露しているとかで、 電気の流れやすさというのは変わってくるものなのでしょうか。

    「電解質溶液の温度が高ければ、導電率は大きくなる」=電気が流れやすいんですよね? これはネットで検索しても割と得られた情報なんですが、気体というか、真空である ところの空間についての伝導率は調べきれなかったものですから…。

    お忙しいとは存知ますが、ご回答をよろしくお願いいたします。
    なにぶん専門外なものですから、詳しく教えていただけると幸いです。

    ネットでの公開時には、匿名でお願いいたします。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 00:15:19 +0900
    A: T様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    真空状態の導電率については、定まった説があるわけではありません。
    放電が起きるとすれば、残留ガスが電界によって電離して、一種のプラズマ状態に なっているために、電流のパスができるわけです。このためには10^-3Torrより高いガ >ス圧が必要です。真空装置についているガイスラー管で経験をお持ちのはずです。  10^-4台ではよほど高電圧を加えないと放電がおきませんが、管壁にそって電界がか かり、ガラスが蛍光を発する場合もあります。このことは、もし、水分が残留気体と して残っており、外部から冷やされたため結露するならば、管壁に沿って電流が流れ ることになるでしょう。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 02:33:31 +0000
    佐藤様、Tです。
    お忙しい中の回答、本当にありがとうございました。
    真空状態での放電の原理が、それとなくつかめたような気がします。
    たっだ、導電率に定まった説はないとのことで、なんだか残念というか、消化不良を 起こしそうです・・・。

    そちらはいまだ冷夏なのでしょうか。
    体調にはお気をつけて、お仕事頑張ってくださいませ。
    本当にありがとうございました。
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    233.交流電場への液晶分子の配向

    Date: Wed, 30 Jul 2003 16:35:11 +0900
    Q: 佐藤 先生
    はじめまして。「物性なんでもQ&A」楽しく拝見させていただいております。最近, 液晶について興味を持ち,勉強をはじめたばかりの O(匿名でお願い致します。 東北大学の化学専攻(有機合成系) 大学院生です。)と申します。 不躾とは思いましたがご教授いただきたくメール致しました。

     配向分極の場合,電場の極性が反転すれば永久双極子モーメントの向きも反転する ものと思いますが,交流電場中に置かれた(発生した)誘起双極子モーメントはどの ように運動しているのでしょうか? 分子の誘電率の大きな軸に沿って,分子の「頭 から足の方向」と「足から頭の方向」で発生する誘起双極子モーメントの大きさが異 なれば反転運動しそうな気がするのですが,例えば液晶に関して交流電場を印加して いる系を見受けますが,液晶分子は反転運動していないように思えます。ラビング処 理による予備配向が反転を防いでいるということなのでしょうか?

    また,以下変位分極に関して,
    液晶のような凝集系に限らず,希薄かつランダムに分散しているような分子に対して 交流電場を印加したとき,分子はどのように応答(運動)するものなのでしょうか? (この際(非現実的かもしれませんが)分子には十分に大きな誘起双極子モーメント が発生し,かつ熱的な影響は無視できるものとしてお願いします。)

     基礎的な質問なのかもしれませんが,よろしくお願い致します。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 00:15:43 +0900
    O様、佐藤勝昭です。
    A: メールありがとうございます。
    通常の液晶ディスプレイの場合、電界を印加しない時には、液晶分子がラビングに よって電極表面に平行に配向させられ、さらに両電極の配向方向を直交させることに よって、90°ねじれていますが、電界をかけると垂直に配向します。この状態では交 流電界をかけてもやはり垂直配向し、応用上はあまり意味がないので、交流 的に分極を反転させる使い方はしませんが、アンカリングしていない液晶であれば、 電気双極子に振幅の大きな交流電圧を印加すると当然分極反転がおきるはずです。こ の様子は、Debyeモデルで説明されます。電気感受率の実数部と虚数部の間には、いわ ゆるコール・コールプロットの関係が成立します。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 19:31:30 +0900
    AA: 佐藤 先生
     お忙しい中,早速のご返信ありがとうございました。
    他にこのような質問をできる機会がほとんどありません。今後とも「物性なんで もQ&A」楽しみにしております。
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    234.磁性ガーネットの光学定数

    Date: Wed, 30 Jul 2003 12:39:29 +0900
    Q: 東京農工大学工学部
    佐藤勝昭先生

    現在磁性ガーネット膜のファラデー効果をシミュレーションすることを検討しています。
    この場合に磁性ガーネット膜の消衰係数 k (先生の本では消光係数だったと思います)を使うことになります。
    先生が計算される場合には、n,kの分散(特に可視域)にはどのような値を使われたでしょうか。
    参考文献などありましたら紹介願えないでしょうか。
    お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願い申し上げます。
                       ㈱リコー 桂川 忠雄
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 00:15:06 +0900
    A: 桂川様、佐藤勝昭@大阪(結晶成長学会)です。
     手元に論文がありませんが、磁性ガーネットの光学定数は、誘電率の対角成分
    εxxの実数部と虚数部のスペクトルが知られているので、それから計算可能で
    す。光と磁気に引用してあったと思いますが、
    S. Wittekoek, T.J.A. Popma, J.M. Robertson and P.F. Bongers: Phys. Rev. B12 (1975) 2777.です。
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    235.シリコンの光伝導の波長依存性


    Date: Thu, 31 Jul 2003 11:57:03 +0900
    Q: こんにちは、はじめてまして
    私は、某半導体企業に勤めるYと申します。
    職種は、生産技術を勤めております。

    早速ですが、シリコンの伝導率について質問があります。
    光をあてる事で、光伝導によりシリコン抵抗率が下がる事は 私も分かっておるのですが、 そのあてる光の波長により光伝導の特性は変化するのでしょうか?
    お忙しい所申し訳ありませんが、宜しくお願いします。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 13:29:57 +0900
    A: Y様、佐藤勝昭(大阪出張中)です。
     光伝導のスペクトルについてのおたずねですが、基本的には、バンド間遷移による 光吸収によって、電子とホールが生成されることによって、導電率が高くなるのが光 伝導の原理です。従って、吸収端(バンドギャップ)よりエネルギーの高い(波長の 短い)光に対して、光伝導が起きます。しかし、吸収端以下のエネルギーの光でもド ナー準位からの励起によって、光伝導が起きますから、光伝導スペクトルは、吸収端 以下のエネルギーまで裾を引いた形状になります。
     また、吸収端よりかなり高いエネルギーになりますと、直接遷移による強い吸収の ため光は半導体の内部に進入せず、表面付近のみでキャリアが発生するのですが、こ の場合、キャリアの寿命が短いので、光伝導の感度が低下します。そのため、吸収端 より少し高いエネルギーの付近でピークをもつ波長依存性になります。
     おわかりいただけたでしょうか。
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    Date: Thu, 31 Jul 2003 16:30:23 +0900
    AA: 佐藤教授様
    早速の回答有難う御座いました。なんとなくは、理解できます。バンドギャプは、 個人的な知識としては実際に実験しないと分からないと思っているのですが そうでしょうか?
                    以上
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    236.夕日の色の謎

    Date: Mon, 4 Aug 2003 13:04:38 +0900
    Q: HPを見て質問させてもらいます・・・。
    大迫 勇介 
    沖縄県西原町立 西原中学校 2年
    夕日の沈む時の赤く見えたりオレンジ色に見えたりするひかりの色の変化を自由研究 でやるので、変化の仕組みと、仕組みを調べる方法を教えて下さい。
    お願いします。
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    Date: Mon, 4 Aug 2003 17:10:00 +0900
    A: 大迫様、佐藤勝昭です。
     質問のメールありがとう。
    夕日の色が、赤く見えるのは、昼に比べ太陽の光が地球の空気中を進む距離が長いので、 空気による光の散乱(レーリー散乱)を受けて、青色の成分がなくなるためです。 赤だったり、橙だったり、黄色かったりするのは、空気中の水分や塵による散乱のちがい によると思います。
    ・上のことを勉強するためのヒントを差し上げましょう。
    ①地球を取り巻いている空気の層がどれくらいなのかを理科年表などで調べてご覧なさい。
    ②昼、太陽が真上から照らすときと、夕方、日没寸前とで、太陽光が空気層を通過する距 離がどれくらい違うかをしらべてご覧なさい。
    ③ひかりの色と波長の関係を調べ、青い色は波長が短く、赤い色は波長が長いことを確か めでご覧なさい。
    ④レーリー散乱は波長が短いほど強いことを、岩波の理化学辞典などで確かめてご覧なさ い。(散乱とは、もと来た方向とは異なる方向に曲げられ、もとの方向の成分が弱くなる ような現象です。)
    ⑤水の粒が空気中にあると、虹を起こすのと同じように、波長によって曲げられる方向が 異なることを勉強してご覧なさい。
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    Date: Mon, 4 Aug 2003 18:19:30 +0900
    Q2: ありがとうございました。
    沖縄県西原中大迫です。
    なかなか難しそうですが自分なりに分かりやすく実験し、まとめていこうと思いま す。少し的は外れるんですが、「夕日が真っ赤だと次の日は雨が降る。」とかいうの はどういう関係があるんでしょうか?
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    Date: Tue, 5 Aug 2003 06:50:34 +0900
    A2: 大迫様、佐藤勝昭です。
    メールありがとう。一般に夕日は太陽光のうち短い波長の成分が失われているため に、赤、橙、黄の光が強いのですが、このうち、特に赤だけが、水の粒によって分光 されて見えるのが「真っ赤」という状態でしょう。夕日がくるのは西の空ですから、 水分を含んだ空気が西にあり、天気は一般に西から東に移ってくるので、翌日に雨が 降るのでしょう。
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    237.液晶の解説書に疑問

    Date: Wed, 6 Aug 2003 15:27:58 +0900
    Q: 佐藤勝昭先生
    化学会社のMです。
    さて、今回は液晶ディスプレイ関係のことで、いくら解説本や技術 文献に当たっても解けない疑問について質問をさせていただきます。
    (1)光学補償フィルムを開発する立場からの質問なのですが、多 くの液晶ディスプレイの解説書には表示素子の種類(TN、STN、TFT 、IPSなど)とそれぞれの液晶の配向状態が図入りで説明してあります。 専門的な文献にはジョーンズ行列による説明もあります。 しかし、液晶セルの最も基本的な仕様はセル全体(液晶の集合体)と しての光学特性(屈折率楕円体とかリターデーションとか)では ないでしょうか。
     実際、No.130のQ&Aの中の「実際にはretardationの大きさが適 当であると丁度端っこで直線偏光にするように設計することができ るのです」を読むと、補償フィルムを設計するのに必要なのは、セル 内部の詳細な情報ではなく、セル全体の光学特性なのだと思いを強く します。セルから出たばかりの偏光の仕様が分かれば補償フィルムの 設計はできるはずなので。
     実は私はかつてボンド磁石開発製品に長年従事したのですが、磁気 回路設計やるのに磁石内部の微視的情報は必要なく、着磁方向の残留 磁化とリコイル磁化率さえ分かっていればたいてい間に合います。この 経験から類推したのが上の質問です。

    (2)ディレクター(director)の意味ですが、これは 巨視的には十分小さくても液晶分子の大きさに比べれば十分に 大きな領域における平均的な分子の配向方向のはずであり(よく 単位ベクトルnと表される)、分子の長軸方向そのものではない はずです。ところが多くの液晶ディスプレイの解説書では、例え ば、TN型の解説図ではよく捻れ配列した「分子」が丸棒または 矢印で描かれ、矢印で描かれた場合にはその先に「n」の文字が 付けられています。しかし、実際にはこれらの丸棒や矢印は一個 の液晶分子ではなく、分子集合体、すなわち「巨視的には十分小 さくても液晶分子の大きさに比べれば十分に大きな領域」を表す ものではないでしょうか。つまり、端的にいうとdirectorについて 誤解を招く図を掲載した解説書が多いということ?
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    Date: Wed, 6 Aug 2003 19:41:00 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
    (1) おっしゃるとおり、光は、決して分子の配向方向に沿って回っていくのではなく、 セル全体としての光学遅延などの光学的性質が重要なのです。補償版の設計もそのような 方針で設計されています。詳細は、液晶討論会などでも論じられています。本学電気電子 工学科の飯村靖文助教授が、そのような方面の専門家なので、もし詳しく知りたいのであ れば、直接質問してください。
    (2) ダイレクターについて「平均的な性質を表している」との理解は正しいと思いま す。解説の図では、ねじれ液晶の各層毎の平均的な配向をもつ液晶分子に代表させて、素 人にも理解しやすいように図を描いてあるのです。厳密に説明するより、定性的にわかっ てもらう方がよいので、通常の解説書では、あのような描き方になっているのです。
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    Date: Thu, 7 Aug 2003 11:10:46 +0900
    AA: 佐藤勝昭先生
    ご回答ありがとうございました。おかげで基本的な疑問が氷解致しました。

    >セル全体としての光学遅延などの光学的性質が重要なのです。補償版の設計も そのような方針で設計されています。
    やはりそういうことなのですね。納得しました。
    それから、飯村先生のご紹介ありがとうございます。直接質問してみます。

    (directorのこと)
    >ねじれ液晶の各層毎の平均的な配向をもつ液晶分子に代表させて、
    なるほど、「代表させて」というのがポイントですね。異方性磁石に 磁化容易軸からずれた方向に外部磁界がかかったときの磁石内部の 磁化の増減と回転をシミュレーションする時も、「微少な巨視的領域」 を考え、それ全体の磁化特性を一個の粒子で代表させるという手法を使 います。液晶でもこれと同じ考え方が使われていることがよくわ かりました。
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    238.ITO電極を用いた水の電気分解反応

    Date: Wed, 6 Aug 2003 15:58:58 +0900
    Q: はじめまして。G社のMと申します。
    下記教えて頂きたくメールさせて頂きました。
    ITO(酸化インジウム:IN2O3)に水(H2O)を接触させ、通電することで電気分解反応 が発生し、ITOが白化してしまうという現象に関して、化学式が分かりません。
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    Date: Wed, 6 Aug 2003 19:09:19 +0900
    A: G社M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。申し訳ありません。私はこの方面の専門家ではありませ んので、ご質問のような現象が起きることを始めて知りました。
    水の電気分解が起きるということですが、光は必要ないのでしょうか。白濁はInの析出 なのでしょうか。水の電気分解でOH-が生じるのであれば、In(OH)3という物質ができる可 能性もあると思いますが。また、In2O3に結晶水のついたIn2O3・nH2Oというのもあるよう です。これらはいずれも白い物質と思われるので、そのような可能性も検討されてはいか がでしょう。
     私よりもう少し近い光化学太陽電池などの関係者にお尋ねになられてはいかがでしょう か。
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    239.二酸化珪素と炭素の誘電率

    Date: Thu, 7 Aug 2003 18:51:03 +0900
    はじめまして。私は清水と申します。
    物性何でもQ&Aを見させていただき、早速、質問を送らせていただきました。
    すみませんが、下記ご質問にお答え願えないでしょうか?

    1.二酸化ケイ素の誘電率
    2.炭素の誘電率

    よろしくお願いいたします。
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    Date: Thu, 7 Aug 2003 20:14:50 +0900
    A: 清水様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。
    誘電率には、周波数依存性がありますので、どの周波数についての 値が欲しいのかわかりませんので、とりあえず低周波の値をお答えします。
    1.二酸化珪素 amorphous SiO2 (溶融石英)ε/εo=3.8 (50~100MHz) [1]
      二酸化珪素 crystalline SiO2 (水晶) ε/εo=4.5 (1kHz) [1]
    2.炭素 diamond (ダイヤモンド) ε/εo=5.68 (500Hz-3kHz) [1]
      炭素 graphite (黒鉛) ε/εo
      黒鉛は異方性があり、c面に垂直方向は絶縁体であり、平行方向は金属的です。
      このため、誘電率に異方性があり、低周波では面内成分は負の大きな値をとりますが、
      垂直成分は一定値をとります。文献[2]によると、赤外線61.99μmにおけるn,kは
      ne=2.402, ke=1.65x10-7
      no=22.42, ko=33.49
      となっていますので、
    ε(c面内)/εo=no2-ko2=-618,
    ε(c軸平行)/εo=ne2-ke2=5.76
      です。ε(c面内)はDrude則に従うので、DCに近づくと負のもっと大きな値になり、
      測れなくなります。一方、ε(c軸平行)はDCでもほぼ同じくらいの値でしょう。
    文献:[1] 理科年表 2002年版 p.427による
       [2] Handbook of Optical Constants of Solids vol.2 p.449
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    Date: Mon, 11 Aug 2003 11:20:19 +0900
    Q2: 佐藤教授殿
    早速のご回答、大変ありがとうございます。
    ご多忙中大変申し訳ありませんが、さらに以下の質問にお答えいただけないでしょ うか。よろしくお願いいたします。

    1.黒鉛の計算結果 -618と5.76は比誘電率(ε/εo)と思っていてよろしいですか?
    2.黒鉛の比誘電率のマイナスは次のように考えていてよいですか?
    (1)誘電率は交流を使用して測定する。
    (2)交流の場合、応答特性があるため、黒鉛c面の場合応答周期がずれてマイナスと なる。
    3..炭素は石炭の燃え残りであることより、黒鉛として考えたいと思うのですが、二 酸化ケイ素とこの炭素物質の中間的な比誘電率を持つ材料について、何か心当たり がありましたら、ご紹介願えないでしょうか。

    実は、私は農工大大学院(化学工学専攻なので学科が違いますが)の卒業生です。 不勉強が今にたたる卒業生ですが、よろしくお願い申し上げます。
    ------------------------------------------------------------------------ Date: Mon, 11 Aug 2003 12:13:35 +0900
    A2: 清水様、佐藤勝昭です。
    >1.黒鉛の計算結果 -618と5.76は比誘電率(ε/εo)と思っていてよろしいですか?
    正確には, 62μmの赤外線の周波数(0.02eV~10^13Hz)における比誘電率の実数部です。 ε(c面内)については虚数部が2xnoxko=1502もの大きさを持ちます。ε(//c軸)については、 虚数部はほとんどゼロです。

    > 2.黒鉛の比誘電率のマイナスは次のように考えていてよいですか?
    > (1)誘電率は交流を使用して測定する。
    > (2)交流の場合、応答特性があるため、黒鉛c面の場合応答周期がずれてマイナスと
    > なる。
    c面内は金属ですから、たぶん通常の交流測定によって誘電率を測定しようとしても、測 定できないと思います。上の値は赤外光(交流電磁波にはちがいありません)を用いて測 定した反射スペクトルから求めたものです。もし、比誘電率が実数のみで負の値をとると 反射率は100%となります。このとき反射光の電界ベクトルの位相は入射光のそれに比べて 180°応答周期がずれています。実際には、大きな虚数部があるので、適当な周期のずれ を与えます。

    > 3..炭素は石炭の燃え残りであることより、黒鉛として考えたいと思うのですが、二
    > 酸化ケイ素とこの炭素物質の中間的な比誘電率を持つ材料について、何か心当たり
    > がありましたら、ご紹介願えないでしょうか。
    炭素の粉末は、黒鉛の多結晶体と考えてよいでしょう。このときの誘電率がどうなるかは、 炭素粉の充填の仕方によっても異なるでしょう。傾斜材料として考えてみると、酸化珪素 の中に炭素微粒子を埋め込んだ場合、微粒子のサイズや、密度、埋め込み方によって、誘 電率、導電率ともに多様な値をとると予想されます。
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    Date: Mon, 11 Aug 2003 13:21:21 +0900
    AA: 佐藤教授殿

    当方のつたない質問に対して、ご丁寧な回答に感謝いたします。
    ご指導いただいた内容を参考にして、さらに検討を進めて参ります。
    今後ともよろしくお願いいたします。
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    240.マンセル明度と反射率

    Date: Sat, 9 Aug 2003 21:07:08 +0900
    反射率はなぜ5×(5ー1)=20で求められるのですか?(明度が5の場合)返事まって ます!
    勝呂優香
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 10 Aug 2003 00:57:59 +0900
    勝呂さん、佐藤勝昭です。
    マンセル明度(Munsell value)と反射率の関係は、次の表の通りです。
    明度反射率(%)
    10100
    9.588
    77
    8.567
    58
    7.549
    42
    6.535
    29
    5.524
    19
    4.515
    12
    0.1
    この関係は、単純な式では表せませんが、明度Vが3~7の付近では反射率Rは ほぼR=V(V-1)であらわせます。しかし、V=2とか、V=8,9では成立しません。 近似式だと考えて下さい。
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    241.透磁率が1でない物質の誘電率測定

    Date: Tue, 12 Aug 2003 06:05:42 +0900
    Q1: 佐藤先生

    はじめまして、HPを拝見させていただいている、 井上と申します。先生のHPは、興味深い内容が 多く、いつも参考にさせていただいております。

    さて私は現在、平行板電極に材料をはさみこみ、 そのインピーダンスを測定することで、材料の 誘電率を算出しています。そこで、先生に 質問がございます。この際、透磁率(2~10程度)をもつ 材料となった場合、この方法で正しく誘電率を測定 することは可能でしょうか。透磁率を持つ材料の場合、 材料内に誘起された電場は、もはや平行板電極に 垂直にならないような気がするのですが。

    お忙しい中、申し訳ございませんが、ご教授いただけたらと 存じます。宜しくお願い致します。

    井上
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    Date: Tue, 12 Aug 2003 13:33:08 +0900
    A1: 井上様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。
    平行平板間に挟んだ試料のインピーダンスに透磁率が関与するかというご質問です が、その材料にコイルを巻いてインピーダンス測定をしない限り、平行平板コンデン サの測定では透磁率が関与することはありません。
    磁界がかかっていないのにどうして電界が影響されるとお考えになったのか、理解で きません。
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    Date: Sat, 16 Aug 2003 12:41:38 +0900
    Q2: 佐藤様
    先日は、ご回答いただきありがとうございました。

    > 平行平板間に挟んだ試料のインピーダンスに透磁率が関与するかというご質問です
    > が、その材料にコイルを巻いてインピーダンス測定をしない限り、平行平板コンデ
    > ンサの測定では透磁率が関与することはありません。

    自分の不勉強で申し訳ございませんが、電流が流れる以上は、 磁界が発生し、透磁率を持つ物体の場合、その磁界によって 内部の電場の状態が、理想的な状態と当初予想される分極電場の 大きさ(平行板電極に垂直)とずれてくるのではと、考えたからです。
    もう少し自分で考えてみたいと思います。
    お忙しい中、ありがとうございました。
    井上賢一
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    Date: Sat, 16 Aug 2003 16:20:09 +0900
    A2: 井上様、佐藤勝昭です。
     おっしゃるとおり、マクスウェルの方程式によれば、
     rotH=∂D/∂t
     rotE=-∂B/∂t
    の関係があります。第1式は変位電流による磁界の変化を示します。
    D=εE、B=μHとし、電界も磁界もexp(iωt)の時間依存性をもつとすると、
     rotH=iεωE
     rotE=-iμωH
    Hを消去すると、
     rotrotE=(-iμω) ・(iεωE)=μεω2E
     -∇2E=μεω2 E
    この微分方程式を、境界条件のもとに解けば、試料内部のEの変動の様子を記述 できます。
    境界条件は、両側の平板電極に平行な電界成分Ex,Eyは0、平板間方向の電界成分 Ezは、z=0とz=Lにおいて等しいというものです。
    Eの解は、正弦波的な変動になります。μはその周期に影響します。両側の平板電 極の位置でEx, Eyがzero、Ezが、z=0とz=Lにおいて等しいという条件(με)1/2 ωL=nπは、低周波ではほとんど成り立たちません。なぜなら、μ=μrμo、ε=εrεoと し、(εoμo)1/2=1/cなので、左辺は
    (με)1/2ωL=(μrεr)1/2(ω/c)L=(μrεr)1/2(2πL/λ)、
    μr=10, εr=10、f=1MHz→λ=3×102[m]、L=10-2[m]として
    (με)1/2ωL=10×2π(10-2/(3×102))<<π
    従って、Eの解はEx=0, Ey=0となります。
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    242.酸化クロムの硬さについて

    Date: Wed, 13 Aug 2003 16:52:53 +0900
    Q: 佐藤殿

    はじめまして。M化学のYと申します。
    酸化クロムの硬さについて、教えていただきたくメール致しました。
    純クロムの硬さは、2700(HV)というデータは見つかりましたが、 クロムが酸化されるとどの程度の硬さになるのかわかりません。
    ご教示願います。お手数ですが、宜しくお願い致します。
    --------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 14 Aug 2003 11:15:42 +0900
    A: Y様、佐藤勝昭です。
     酸化クロムCr2O3は宝石の研磨剤にも使われるくらい硬い物質です。
    モース硬度は8、ビッカース硬度は2955kg/mm/mmです。
    モース硬度の出典:http://www.fujifilm.co.jp/kenma/itiran.html
    ビッカース硬度の出典:http://www.memsnet.org/material/chromiumoxidecr2o3bulk/
    によりますと、CRC Materials Science and Engineering Handbook, p.473に載ってい ると言うことです。

    ステンレスにはクロムが含まれていますが、表面に酸化クロムの保護層ができて、鉄 の酸化を防ぐとともに、硬度を助けていると言われています。

    なお、英文のホームページをお探しになると、もっといろいろな情報が得られますの で、試してみて下さい。Google でchromium oxide vickers hardnessと入力すると、 491ものサイトが引っかかってきます。ご参考まで。
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    Date: Mon, 18 Aug 2003 08:25:37 +0900
    AA: 佐藤様
    以下、大変参考になる情報を有難うございました。
    非常に助かりました。
    また、何かあった時は宜しくお願い致します。
    メールにて失礼致します。
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    243.金属はなぜ光る

    Date: Mon, 18 Aug 2003 18:35:35 +0900
    Q: はじめまして。
    突然、メールで失礼します。
    物性に関する質問に答えていただけると聞き、この文章を書きました。
    私がお尋ねしたいことは、
    「金属はなぜ光るのか?金属光沢の原因は何か?」
    という質問です。
    お答えいただけると幸いです。
    宜しくお願いいたします。

    佐合頼子
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    Date: Tue, 19 Aug 2003 10:18:47 +0900
    佐合様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。佐合様の御所属、受けられた教育の経歴などがわかりま せんので、理科系の教育を受けられた社会人の方で、金属に関連する企業にお勤めである としてお答えします。
     金属が「光る」というのは、いうまでもなく「反射率が高い」ということです。
    たとえば、650nm(赤色)の光に対する反射率を書き出してみると、
     金:95.5%、銀:98.5%、銅:96.6%、アルミニウム:90.3%、白金:71%、鉄:64.5%
    などとなっています。金属光沢とは、平坦な表面からの反射率が高いため、鏡のように周 囲のものを映し込むという点にあります。
     金属でなくても、半導体のゲルマニウムやシリコンは反射率が高く、620nm(赤色)の光に対して それぞれ48%、36%の反射があり、よく研磨した場合、金属光沢を示します。
    金属や半導体の金属光沢は、Webに
    「物性工学概論」で使ったPower pointのファイルがアップしてありますので、ご覧下さい。 (第3回の講義で金属の反射のようす、第6回の講義で半導体の反射の様子をご覧になれ ます。Internet Explorerでご覧下さい)
     金属の高い反射率は、金属に高密度の自由電子(1022個/cm3以上)が含まれているこ とが原因です。これが、同時に、高い電気伝導率の原因にもなっています。光は電磁波で すが、その電界が中に入ろうとすると、自由電子が動いて強い電子分極が起き、入ってき た光の電界とは逆の電束が誘起されるため、光が金属の中に入りにくくなるのです。金属 では、反射率の高い波長での誘電率は負の値を示します。これを電磁波の「自由電子によ る遮蔽」といいます。これは、金属の箱の中におかれたラジオが聞こえなくなるのと同じ 現象です。
     一方、半導体の場合には、純粋のものではせいぜい1014個/cm3くらいの密度の自由電 子しかありませんから、高い反射率は自由電子によるものではありません。半導体の場合 は、高い屈折率をもっていることが原因です。シリコンの屈折率は3.6、ゲルマニウムの 屈折率は5.3もあるのです。この高い屈折率の原因は、バンド間の直接遷移による強い吸 収が可視光領域に存在することによって、強い電子分極がおきることですが、専門知識が 必要ですので、「半導体の金属光沢は、高い屈折率による」という理解でよいと思います。
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    Date: Tue, 19 Aug 2003 18:40:34 +0900
    Q2: 佐藤様
    丁寧なお返事をいただき、ありがとうございます。
    目に見える色の話を本で読んでいた際に、例えば、赤は赤色に見える波長の光が目に 届くからだと書かれていました。それでは、金色や銀色ってどんな光なのかなと思ったのがきっかけです。
    金属光沢が金属の反射率が高いことまた、それに自由電子の存在によって光が反射されるということは、 金色とは、金に当たって反射した色をみており、金属ではより多く(といいますか、より多くの波長の光が 反射して目に届いていると理解してよいでしょうか。また、お時間のあるときで結構です。よろしくお答えください。お願いいたします。
     佐合頼子
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    Date: Tue, 19 Aug 2003 21:53:35 +0900
    A2: 佐合様、佐藤勝昭です。
     銅の赤、金の金色、銀の白色のちがいは、反射率が光の波長によって異なることから来 ています。銅では、可視光のうち、波長600nmより長い波長の光の反射率は高いが、550- 400nmの反射率が低いため、人間の目では、赤を感じる視細胞のみが強く刺激されて赤く 見えます。一方、金では、波長550nmより長い波長(赤、橙、黄、緑)に対しては高い反射 率を示すが、500nm以下の波長(青緑、青、紫)では低い反射率なので、目では赤の視細胞 と緑の視細胞が刺激され黄色に見えるのです。銀では、可視光線のすべての波長にわたっ て高い反射率を示すので、赤、緑、青の視細胞が全部刺激され、白く見えるのです。
     詳しくは、先にお知らせした「物性工学概論」の第3回講義のOHPを見て頂くか、拙著 「金色の石に魅せられて」(裳華房)をご覧下さい。
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    Date: Sat, 23 Aug 2003 15:43:19 +0900
    佐藤様
    お返事ありがとうございます。
    大変参考になりました。ありがとうございました。

                        佐合頼子
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    244.ITOの結晶構造

    Date: Tue, 19 Aug 2003 23:20:10 +0900

    Q1: はじめまして。S大学工学部 材料工学 碇辰也 と申します。
    専門はガラス材料です。
    酸化物半導体について調べていたところ、先生のHPが検索にかかり 数時間かけて見入ってしまいました。

    ふとした事から、酸化金属-酸化金属ドープ半導体を手伝う事になり、、 ITO等について調べていましたが、たこ足大学で図書館が分散してしまって いる上に蔵書も古い物が多く、難儀しています。
    ネットを使って何とか「SnO2ドープによりキャリア電子と酸素欠陥が出来る」と いう事は解ったのですが、実際にどういう結晶構造をしているか解りません。 仮に、コランダム型として考えてみましたが、酸素の結合数が違う物が どういう立体配置を持って結晶構造に入り込むのかモデルイメージが沸かない のです。また、酸素欠陥もキャリアとなる、との事でしたが酸素欠陥そのものが ホールの様に移動することでキャリアとなるという事なのでしょうか。
     加えて、企業の人がちらりと
    「2価と3価とか、偶数と奇数のドープで酸化物同士が導電性をもつ気がする」 と言った事があります。
    これは、ドープ原子一個当たりのキャリア電子が出来るだけ少なく、かつ原子も 大きさが近い方が置換が起きやすい為、2,3/4,5等の組み合わせが 良いのではないかと思ったのですが、イメージとしての仮説ですし裏付けも ありません。
    以上、
    ・ITOの結晶構造、実際の配置について(特にSnの周りがどう配座しているのか)。
    ・酸素欠陥における伝導
    ・偶数と奇数~ という事の真否とそれに対する仮説の正誤、正解。
    につきまして教えて頂きたいのです。
    本来であれば自分で勉強しなければならない範囲なのですが、どうしても解りません。
    お力添え、お願いできますでしょうか。
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    Date: Wed, 20 Aug 2003 14:31:58 +0900
    A1: 碇様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    In2O3は格子定数ao=10.118Åの立方晶系(Wyckoff:Crystal Structure vol. 2 p.5, Krieger, 1986)、SnO2は格子定数ao=4.73727Å、co=3.1863Åの正方晶系(Wyckoff:Crystal Structure vol. 1 p.250, Krieger, 1982)ですが、実際のITOでは6%程度のSnO2 を添加したIn2O3としてスパッタ法などで作製されます。その結晶構造は立方晶です。
     Frankらの研究によれば、焼結したITO粉末においては、Snの溶解度は6±2%で、Snはすべて活性化したドナーとなって電子を供給すると書かれています。(G.Frank et al. Phys. stat. Solidi A52, 231,1979) 従って、ITOはSnO2とIn2O3の混晶ではなく、In2O3にSnが ドープされたものと考えられます。Sn4+のイオン半径は0.83Å、In3+のイオン半径は0.93 Åであり、共有結合半径は同程度(1.4Å)なのでSnはInサイトに容易に置換できます。4 価のSnが3価のInを置換しドナーになるのは、4価のSiに5価のPをドープするとn型半導体 になるのと同じで自然です。「2価と3価とか、偶数と奇数のドープで酸化物同士が導電 性をもつ気がする」というのは、半導体的なセンスでいえば、上記のようなドナーを形成 する条件と見てよいでしょう。
     実際には、酸素が格子間位置に入って、Snを4+にするのを助けるとされています。(
    ノースウェスターン大学のHP) なお、高濃度にSnを添加した 混晶In2Sn2O7-x も立方晶であるという研究結果が報告されています。 (S. I. Castaneda, et al.: Journal of Applied Physics Vol 83(4) pp. 1995-2002. February 15, 1998 )
     さて、酸素欠陥がどのように寄与するかですが、高温では酸素欠陥が移動することもあ り得ますが、室温ではそのことはあまり考えなくてよいでしょう。むしろ、酸素欠陥はも とあったマイナス2価の酸素がなくなるので、正の電荷があるかのように振る舞い、電子 を1個トラップしてドナーになります。ドナーの束縛エネルギーが10meV程度であれば、 室温では活性化して、伝導帯への電子の供給源となります。
     化学系、材料系の方は、イオン的なイメージで物質を扱われるのですが、ITOなど導電 性の物質は、半導体的なバンド描像で捉える方が理解しやすいと存じます。

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    Date: Wed, 20 Aug 2003 15:20:12 +0900
    Q2: 佐藤先生、大変解りやすい解答、有り難うございます。
    ITOの構造、酸素欠陥の役割が理解出来てきました。酸素の行き場等について さんざん悩んでいたので本当に助かりました。
    もう一点だけ、大変申し訳ないのですが
    > 「2価と3価とか、偶数と奇数のドープで酸化物同士が導電
    > 性をもつ気がする」というのは、半導体的なセンスでいえば、上記のようなドナーを形成
    > する条件と見てよいでしょう。
    ここなのですが、
    例えば4価と2価という組み合わせでも、ドナー電子が供与されるという点では クリアできるように思えるのですが、それが「少なくともあまり一般的でない」 というのはどういう理由によるものなのでしょうか。
    2個供与するという事が不利な条件になるのだろうというイメージがあるのですが
    御教授、宜しくお願い致します。
    ※ 早速HPが更新されていて驚きました。
     頭が疲れてきたらギャラリーをゆっくりと拝見させていただきます。
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    Date: Wed, 20 Aug 2003 17:13:45 +0900

    A2: 碇様、佐藤勝昭です。
     シリコンの例でいいますと、5価のPでなくても6価のSでもドナーになりますが、ダブ ルドナーという状態を構成します。シングルドナーが水素原子状であるとすれば、ダブル ドナーはヘリウム原子と考えてよいでしょう。水素の電子の束縛エネルギー(第1イオン 化電位)は13.6eVであるのに対し、ヘリウムのそれは24.6eVです。シングルドナーの束縛 エネルギーは、水素の束縛エネルギーを比誘電率の2乗で割り、有効質量比(m*/mo)をかけたものに なりますから、比誘電率を3、有効質量比を0.1として150meVと見積もられます。これに対 してダブルドナーでは273meVと倍近くになります。伝導帯への電子の励起確率は、温度を Tとするとexp(-ΔE/2kT)に比例します。シングルドナーではΔE=150meV, T=300K (すなわ ちkT=25meV)では、exp(-ΔE/2kT)=0.049であるのに対して、ΔE=273meVでは、0.0042とな り、ドナーの活性化率は1桁以上悪くなります。
     やさしい言葉で言い換えますと、隣り合う価数(2と3など)の場合はシングルドナーに なり、2だけ違う価数(2と4など)ではダブルドナーになりますが、ダブルドナーは束縛エ ネルギーが大きいため電子が伝導帯に供給されにくく導電性が悪いのだと解釈できるでし ょう。
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    Date: Wed, 20 Aug 2003 17:41:17 +0900
    AA: 有り難うございます。
    疑問が全て解決致しました!
    お忙しい中、本当に有り難うございました。
    これからもしばしばのぞかせて頂きたいと思います。
    有り難うございました。
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    245.「光と磁気」p.66 図4.3

    Date: Sun, 24 Aug 2003 12:17:17 +0900
    佐藤様
    「光と磁気」で、勉強させて頂いております。大変判りやすく、かつ 最近の第一原理計算の例まで含んだ実践的な教科書と感じております。

    ところで、p66ページの図4.3ですが、横軸のスケールが原著論文と 10倍ずれております。私の勘違いかもしれませんが、ご参考までに 情報お送り致します。

            旭硝子(株)中央研究所 小高秀文
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    Date: Sun, 24 Aug 2003 12:59:02 +0900
    小高様、佐藤勝昭です。
     ありがとうございます。改訂第2版に間に合えば、訂正するよう朝倉書店に依 頼します。
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    246.ITOのキャリア密度と反射率

    Date: Wed, 27 Aug 2003 05:24:21 +0900 (JST)
    Q: 佐藤勝昭様
    HPをみました。質問をメールで御回答頂けるとのことでメール致しました。

    TK大学大学院材料工学専攻修士1年のFといいます。web upの際は、匿名でお願い致します。

    キャリア密度と反射率の関係について教えて下さい。

    強誘電体薄膜などの酸化物薄膜の研究室に所属していますが、ITOは扱っていません。
    ITOの知識はほとんどないのですが、今、個人的にITOについて調べています。

    1;ワイドギャップ半導体では、エネルギーギャップが紫外域に対応するため可視光を吸収しない。
    2;キャリア密度が1021cm-1と金属より低いため可視光を反射しない。

    インターネットで調べたところ、1,2の記述があったのですが、よくわかりませんでした。キャリア密度と反射率の関係は理論的説明があると思うのですが、私は知らないので、教えていただきたいと思います。

    2週間ほど、専門書はなく、インターネットでしか調べものができない環境にいるのですが、できるだけ早く理解したいので、メールさせていただきました。

    よろしくお願い致します。
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    Date: Wed, 27 Aug 2003 11:13:44 +0900
    A: F様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    > 1;ワイドギャップ半導体では、エネルギーギャップが紫外域に対応するため可視光を吸収しない。
    >
    ITOに限らず、半導体一般に成り立つことです。半導体には価電子帯と伝導帯があり、そ の間にエネルギーギャップ(バンドギャップともいう)という部分が存在します。光のエ ネルギーを増加(=波長を短く)していったときエネルギーギャップを超えるエネルギーに なったとき始めて光学遷移が起き、光吸収が始まります。ITOでは、エネルギーギャップ が可視光(λ=780~380nm;すなわちhν=1240/λ=1.58~3.26eV)の範囲より高エネルギーな ので、可視光線は吸収せず透過するということになります。化学系の学生さんは、エネル ギーギャップについて学んでないと思いますが、化学の言葉で言えばHOMOとLUMOの間のギ ャップと考えて差し支えありません。

    > 2;キャリア密度が1021cm-3と金属より低いため可視光を反射しない。
    >
    金属の高い反射率は、自由電子が光の電界(光は電磁波です。電界と磁界が直交して振動 しています。化学系の学生でもこのことくらいは知っているべきです)で集団運動するこ とにより逆向きの電子分極が生じて(誘電率が負になり)内部に電界を侵入させないこと が原因です。しかし、光の電界の振動数νが高くなると、電子の集団運動がついていけな くなり、光が中に入り込んで、反射率は下がります。このようすは、私のHPにおいて、物 性工学概論の講義の
    第3回のOHP の9番目のスライドにあります。金では、2.5eV付近、銅では2.2eV付近で反射率の急落が 起きています。この急落する周波数は、キャリア密度に比例し、電子の有効質量の平方根 に反比例します。(これも先ほどのスライドをめくっていくとあるはずです。)金属では 自由電子の密度は5×1022cm-3程度ありますが、ITOでは、 1021cm-3程度なので、反射率の 急落するエネルギーも0.1eV以下となって、可視光域では影響がないのです。
     それでは、キャリア密度が低いのになぜ金属的伝導があるのでしょうか?それは、電子 移動度が金属に比べて高いからです。このあたりを理解するには、固体物理学の基礎知識 が必要ですので、この機会に勉強して下さい。
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    Date: Thu, 28 Aug 2003 05:51:27 +0900 (JST)
    御回答いただき、ありがとうございます。
    基礎知識の不充分さを痛感しました。 これから、勉強していこうと思います。
    先生のHPは、とても勉強になるので、これからも見させて頂きます。
    また、メールで質問したいと思うので、その際は、宜しくお願い致します。
    それでは、失礼致します。
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    247.渦電流の発生について

    Date: Wed, 27 Aug 2003 14:20:39 +0900
    はじめまして。
    ㈱MのIと申します。
    ※誠に勝手ではございますが、匿名にてお取り扱いをお願い致します。
    HPを拝見し、メールさせていただきました。

    現在渦電流について勉強しています。
    「渦電流というのは電気抵抗の低い反磁性体に発生する」
    とHPに書かれていたのですが、カーボンというのはこの定義に当てはまるのでしょうか?

    以前磁界に置いたアルミの隔壁を、カーボンに変えたら発熱が無くなったように見えた経験があったもので、 いろいろ調べたのですが原因がわかりませんでした。
    渦電流というのは金属の場合のみ発生するものなのでしょうか?

    以上よろしくお願い致します。
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    Date: Wed, 27 Aug 2003 19:21:51 +0900
    I様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    カーボンはグラファイト(黒鉛)の粉末を固めた多結晶体です。
    グラファイトは、層状構造をしており、層面内は金属的、層間は半導体的伝導を示します。 多結晶体では、層がそろっているわけではないので、全体としての特性は、半導体的にな り、金属に比べて抵抗率が高くなります。
    磁界を有限の速度で変化させると、電磁誘導の法則によって、伝導体の内部に起電力を生 じ、電流が流れますが、これを渦電流と呼んでいます。従って抵抗率が高くなると、渦電 流が減少するのです。損失係数は形状因子、厚さの2乗、透磁率、周波数に比例し、抵抗 率に反比例します。形状因子、厚さの2乗、透磁率、周波数が同じであれば、抵抗率が高 いほど渦電流損は少ないということになります。アルミニウムの抵抗率は2.5×10-8Ωm これに対してカーボンでは10-5Ωmのオーダーですから3桁も抵抗が高く、渦電流損は 3桁も小さいことがわかるでしょう。
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    Date: Thu, 28 Aug 2003 10:32:03 +0900
    佐藤先生
    ご回答ありがとうございました。

    昨日先生に質問のメールを出した後、下のようなHPを見つけました。
    IH調理器の発熱原理の解説がされているのですが、 その中で、発熱量は材質の抵抗率と比透磁率に比例して大きくなると書かれていま す。
    例えば同じ非磁性体である非磁性SUSとアルミであっても、抵抗率の大きな非磁性SUS の方が発熱量が大きいとの事です。
    これに従うと、非磁性SUSよりも抵抗率の大きいカーボンの場合は、更に発熱大に なってしまうような気がします。
    抵抗率:カーボン(10μΩm)>非磁性SUS(0.7μΩm)>アルミ(0.027μΩm)

    先生に教えていただいた渦電流損発生の原理と、逆の原理説明になっているように思 えるのですが、何か私の理解不足または勘違いによるものなのでしょうか?
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    Date: Thu, 28 Aug 2003 12:09:34 +0900
    I様、佐藤勝昭です。
     私のご回答したのは、磁気工学ハンドブック(朝倉書店)p.25に載っている
    損失係数tanδ=μ"/μ'の式
    tanδ=kμωd2/ρ (1.4.21)
    [k:形状因子、μ透磁率、ω角周波数、d厚み、ρ比抵抗]
    に基づいたものです。変圧器の鉄心などは、抵抗を高くして渦損を防ぐために、ラミネー ト鋼板といって、表面を絶縁した薄い板を何層も重ねたものを用いています。フェライト コアは、絶縁体なので渦損が無視できるので高周波トランスによく使われています。  一方、IH鍋では、渦損を積極的に利用して加熱しようというものです。従って、抵抗損 失に比べ、渦損失が十分大きな系を考えています。抵抗が小さい系では、表皮効果を考え る必要があります。すなわち、周波数ωの高周波は、表皮厚さs=(2ρ/ωμ)1/2しか侵 入できません。渦損失kμωに表皮厚さをかけたものが表皮抵抗RsですからRsはk(2ρωμ) 1/2に比例します。もし、誘導起電力が同じで渦電流の大きさが同じであれば(この仮 定は問題がありますが)電力損失はRsに比例し、比抵抗の平方根に比例します。これが、 ご覧になったIH鍋のHPにでている式です。
     I様のカーボンのケースでは、抵抗率が高いので表皮効果が無視できます。従って、IH 鍋の式を適用するべきではないでしょう。
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    Date: Thu, 28 Aug 2003 13:39:29 +0900
    佐藤先生
    度重なる質問にお答えいただきありがとうございました。

    おかげ様でようやく理解できました。
    今まで渦電流損失というものは関係ない分野の設計をしておりましたので、いろいろ理解に苦しんでいます。

    また質問させていただくことがあるかもしれませんが、よろしくお願い致します。
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    248.ステンレスの磁化

    Date: Wed, 27 Aug 2003 14:25:47 +0900
    ホームページを拝見いたしました。
    初めてメールいたしますS社のOともうします。
    弊社は配管、圧力容器用全ねじボルトの製造をしています。
    ステンレス(SUS304)のねじを加工する際に、転造ねじ下径に冷間引き抜き加工をします。
    表層部がマルテンサイト化され、磁性を帯びることがありますが、この磁性は周辺機器に悪影響をおよぼすの でしょうか。
    それとも、化学成分と機械的性質が満足していれば問題ないのでしょうか。
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    Date: Wed, 27 Aug 2003 18:38:56 +0900
    O様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
     おたずねの件ですが、ステンレスねじが磁化していると困るような用途(たとえば、強 磁場中で用いるなど)以外には、問題になることはないと思います。ただ、ユーザは、メ ーカの意図を超えた使い方をすることがありますので、「磁性を持つことがある」という ことをカタログ等で明らかにしておかれた方が親切かと存じます。
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    249.昆虫の構造色

    Date: Sat, 30 Aug 2003 16:30:37 +0900
    Q: はじめまして。今年大学受験の星というものです。
    最近HPを見つけたのですが、非常に参考になる質問ばかりで驚いています。
     早速質問なのですが、構造色について教えて頂きたいです。
    もしかしたら専門ではないかもしれませんがよろしくお願いします。

     タマムシなどのメタリックな昆虫は構造色によるもので、薄いクチクラ層が何層も重なり、 その構造が干渉の役割をしているそうです。そして体の表面にある微細な六角形構造が 回折格子の役割をしています。

    私が研究している昆虫は、1頭1頭色が違い、主に可視光線の波長(約400~800nm) 分の色のバリエーションがあります(赤・緑・紫等)。
    そして赤い個体は青い個体よりクチクラ層が厚く、610~750nmの赤域の波長を 反射して赤を発色しています。(波長の長さとクチクラ層の厚さが比例)

    このような構造で、この種の各色の個体を、
    ①水につける ②表面に油を塗る ③セロテープを貼る
    という実験をしたところ、実際の色よりも短い波長の色を表現したのです。 (緑の個体→青緑系 ・ 赤い個体→オレンジ系 ・ 黄色い個体→黄緑系)

    私が考えているこれらの色の変化は、
    ①②③の材料が光の角度を変え、クチクラの発色構造への入射角度が変わったため、 個体の色が変化したと考えていますが、先生のご意見をお聞きしたいです。

    よろしくお願い致します。
    星 元規
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    Date: Tue, 02 Sep 2003 01:43:54 +0900

    A: 星君、佐藤勝昭です。
     メールありがとう。応用物理学会のため、出張していて、メールの返事が遅く なってごめんなさい。受験勉強の忙しい中、自分の興味あることを熱心に勉強し ているご様子、感心しています。
     さて、生体の構造による色は、生物学者たちがいろいろ研究しているようで す。例えば、構造色研究会の機関誌Structural Color Vol.2には、
    「タマムシを 用いた構造色の起源と構造色弁別機能の行動学的解析」という論文が掲載され、 詳細な解析が示されています。

    ご質問の「昆虫の構造色が、水、油、セロテープなどの被覆によってなぜ短波長 シフトするか」ですが、私は昆虫学者ではないので、クチクラ層(キューティク ル層)の詳細はわかりませんが、基本的には、屈折率の異なる層状構造の光学的 性質の問題として考えてよいと思います。先ほどの論文では、屈折率1.7と1.5の 2層が18周期も積層されたものと考えています。このような多層膜の光学的な 性質は、光学ではずっと以前に確立していて、シミュレーションが可能で、先の 論文では、520nm(緑)の反射にピークが生じることが示されています。
    このような多層膜を水や油に入れた場合どうなるでしょう。水の屈折率は1.33、 油(例えばパラフィン油)の屈折率は1.48です。
    一般に、屈折率n1とn2の2つの媒体の界面での反射率は、(n1-n2)^2/(n1+n2)^2 で表されます。従って、n2としてクチクラ層の平均屈折率1.6としてn1が空気の 場合と水や油では、反射率はすっかり変わってしまいます。屈折率差が小さいと そこでは反射が起きず、多重反射のスペクトルに微妙な影響を与えます。
    私は、(計算してみないと正確なことは言えませんが)このことが原因だと思い ます。
     星君が考えたように媒体の屈折率Nのために入射角が変わるとしましょう。空 気中の入射角θ、媒体中への出射角θ'とすると、スネルの法則によってsinθ'= sinθ/Nとなり、θ'はθより小さくなります。もし、クチクラ層のストライプが回 折格子として機能しているならば、入射角θ'に依存して強い回折が起きてよいで しょう。入射角θ'のときの回折条件は、2dcosθ'=nλ'です。θ'はθより小さいので cosθ'は大きくなり、回折条件はλ'が大きい方にずれます。また、媒体中の波長 λ'はλ/Nで与えられるので、回折が起きる波長は屈折率倍になるはずです。すな わち、長い波長で回折するはずです。
     光学薄膜の計算式などは、複素数の計算が必要なので、大学に入って数学の基 礎を学んでからでないと理解できないと思います。頑張って大学受験に頑張って 下さい。
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    250.比透磁率の膜厚依存性

    Date: Sat, 6 Sep 2003 14:30:07 +0900 (JST)
    Q: こんにちは高橋というものです。

    強磁性体Niの比透磁率はいくらでしょうか?
    本やHPで調べてみると、
      μs=1120、600、1
    など、さまざまな値でした。

    後、比透磁率は物質によって固有のものって聞いたことがあるのですが、 膜厚によって変化しないものでしょうか?

    例えば、Niの膜厚1μmと5μmとでは、変化あるのでしょうか?
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    Date: Sat, 6 Sep 2003 19:09:41 +0900
    A: 高橋様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    強磁性体の飽和磁化は物質固有の量ですが、磁化曲線の傾き、保磁力、残留磁化など は、technical magnetizationといって物質の作製法に依存する量です。強磁性体には 磁気異方性があります。また、反磁界のために形状に依存する異方性があります。こ れによって磁化曲線が薄膜かバルクか、どのような方位を向いているかで異なりま す。初透磁率は、磁化曲線の磁界ゼロ付近での磁化曲線の傾きですから、ものによっ て異なるのです。もちろん膜厚によっても異なります。
    -------------------------------------------------------
    Date: Mon, 8 Sep 2003 11:11:45 +0900 (JST)
    Q2: こんにちは高橋です。
    メールありがとうございました。

    100nm から 5μm まで膜を作って、比透磁率を測定してみますと、100nm の方が値が大きく、 5μmになるにしたがって、値が小さくなりました。

    膜厚によって比透磁率が変化するといった論文があれば教えていただきたいのですが、 よろしくお願いします。
    ---------------------------------------------------------
    Date: Tue, 9 Sep 2003 11:25:47 +0900
    A2: 高橋様、佐藤勝昭です。
     どのような方法で、透磁率を測定しておられるのでしょうか。
    もし、高周波をお使いであれば、周波数が高くなればなるほど、表皮効果が強くなって skin depthが小さくなり磁界が中に入らないので見かけ上透磁率が低下して見えることが あります。
     また、VSMなどで面内・面直の磁化曲線(ヒステリシス曲線)を測定しておられるでし ょうか。磁気異方性の膜厚依存性はないでしょうか。たとえば、コバルトでは、膜厚が非 常に薄いときは面直に磁化容易軸がありますが、厚くなると面内に磁化容易軸が変わりま す。もし面直方向の透磁率を測定していたとして、磁化容易軸が面直から面内に変化する と透磁率は減少します。
     透磁率の膜厚依存性の論文については持ち合わせていません。磁性薄膜の専門家である 東北大学の島田寛(ゆたか)先生にお尋ねになってはいかがでしょうか。
    ---------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 9 Sep 2003 16:11:35 +0900 (JST)
    Q3:こんにちは高橋です。
    透磁率の測定は磁化曲線からもとめました。
    いろいろ意見ありがとうございました。島田先生にもおききしたいとおもいます。
    またわからないことがあると思いますので、そのときまた意見お聞かせください。
    --------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 9 Sep 2003 17:06:09 +0900
    A3: 高橋様、佐藤勝昭です。
     磁化曲線の傾きは、反磁界の影響を受けます。面直方向の磁化曲線の立ち上がりは、薄 い膜ほど反磁界係数が効いてくるので、傾きが緩やかになります。きちんとした反磁界の 補正をして、内部に働いている有効磁界に対する磁化の傾きを見ないと、薄い膜では磁化 率が見かけ上減少しますので注意して下さい。
    -------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 11 Sep 2003 14:49:06 +0900 (JST) Q4: こんにちは高橋です。 文献に、「透磁率は、応力によって劣化する。」と書かれていました。 私が測定してみると、100nm より、5μm のほうが、透磁率は低かったです。 これは、膜厚が厚いほうが応力が大きいので劣化が激しく透磁率は減少したのでしょうか?
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 11 Sep 2003 15:21:50 +0900
    A4: 高橋様、佐藤勝昭です。
     一般論であなたの実験結果を説明することはできません。薄膜の技術磁化は、 いろいろなパラメータに支配されます。
     作製法、基板、基板温度、純度、膜厚、組成、結晶性のよさ、モルフォロジー、応力・・ 高橋様は、膜厚がこれらすべての原因に関係しているとお考えのようですが、単純化しす ぎです。もう少し、作製条件を教えていただかないとお答えのしようがありません。

    あなたはNiの薄膜を
     どのような方法で作製されたのですか。
      蒸着、スパッタ、MBE、PLD、電着、めっき・・・で磁気的性質は異なります
     真空プロセスの場合真空度はどのくらいでしょうか
      真空度が悪いと酸化によって膜質が劣化します。厚い膜を作るときは長く   悪い真空にさらすので酸化が進むことがあります。
     どのような基板上に作られたのですか。
      ガラス、Si、GaAs、MgO、Al2O3・・・・基板によっても膜厚依存性が異なります。
     膜の結晶性は
      薄膜は、アモルファスでしょうか、多結晶でしょうか、それとも、エピ成長
      した単結晶膜でしょうか。これによって大幅に性質は異なります。
     表面は酸化していませんか。
      AugerやXPSで見れば、どのくらい酸素を含んでいるか分かります。
     基板温度は何度でしょうか。
      製法にもよりますが、基板温度で膜の性質は大幅に変わります。
     成長速度はどれくらいでしょうか。
      高速成膜すると、膜厚の増加とともにひびが入り、膜質が劣化します。
     X線回折などで見た膜の格子定数はどうでしょう
      格子定数が、Niバルクの文献値と大幅にずれているならば、歪みによる応力
      が考えられます。一般には、もし、膜が基板にエピタキシャル成長するなら
      膜厚の薄い間は、pseudomorphicに成長するため歪みが加わっているが、
      成長するに従って、misfit dislocationが入って歪みは緩和するので、
      厚い方が歪みが少ないです。
    ----------------------------
    なお、あなたが、ある研究室の学生さんで、先生からそのテーマをもらってやっているの なら、先生とよく相談して下さい。先生にはある意図をもって、あなたにその研究をやら せているかもしれないので、私がとやかく言うのはまずいからです。
    -----------------------------------------------------------------------------

    251.αコバルトとβコバルト

    Date: Tue, 9 Sep 2003 15:37:48 +0900
    Q: 佐藤先生
    物性なんでもQ&Aのweb pageを拝見しての質問です。
    過去ログにもありませんでしたので、もしかしたら回答を頂けるかと期待し、メールを送らせて頂きます。

    単体のCoにはalphaとbetaがあるのですが、この違いは正確に言うとどういうことなのでしょうか?

    いくつかの文献、web pageを参照したのですが、定義が書いていない、もしくは両者の区別をしないで物性データを示したものが多く、非常に混乱しております。

    アシュクロフト・マーミンの固体物理の基礎
      alphaはhcp、betaはfccとあり、格子定数だけが書いてある

    物理学辞典
    T<1183Kでhcp,T>1183でfccとある
    キュリー点は1388Kとある

    いくつかのweb page(英語ページ含む)
    構造はhcpとあり、物質定数が載せてある
    T<420Kでalpha,T>420Kでbetaとある

    これらを総合すると、αとβの違いは420Kで構造相転移する 前後の相を指すと考えられるのですが、それは物理学辞典の 記述と矛盾してしまいます。

    お忙しいところ恐れ入ります。よろしくお願い致します。
    東北大学M1 M
    --------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 9 Sep 2003 16:46:51 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
     コバルトの低温相はhcp構造でα相(またはε型)と呼ばれ、高温相はfcc構造でβ相 (またはγ型)と呼ばれます。
     問題は相転移温度です。書物によって異なりますが,388-450℃の付近です。

    ○化学便覧基礎編I p.I-24にはβ相が388℃(=66K)以上で生じるとされています。
    ○Wyckoff: Crystal Structure Vol. 1 p.12によると、コバルトは室温で六方晶、立方晶 どちらも現れるが、六方晶がより安定である。450℃以上で還元法で作製されたコバルト は立方晶で冷却後もその相を保つが、粉砕すると六方晶に転移すると書かれています。表 II-2(p.11)には六方最密構造の物質の格子定数ao, coが多数載っていますが、コバルトは αCoとして記載されています。
    ○理化学辞典(岩波)第4版では、常温では六方最密構造(ε型)、400℃以上では立方最 密構造(γ型)をとると書かれています。
    ○磁性体ハンドブック(朝倉)7章に金属合金の磁性がまとめられており、7.2.13節に結 晶構造と磁性という項目があり、Coは430℃で(高)γ←→(低)εの変態があるが、粉末状 態にするとfcc相を低温でも安定化できると記載されています。
    ○物理学辞典のみ、相転移温度が高く、1183Kとなっていますが、αFe(bcc)とγFe(fcc) の転移温度が910℃(=1183K)なので、取り違えたミスだと思います。

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    Date: Tue, 9 Sep 2003 17:49:38 +0900
    AA: 佐藤先生
    全く面識がない人間、しかもただの学生からの質問に対し、 丁寧な丁寧な回答を頂きありがとうございました。
    大変勉強になりました。磁性体ハンドブックは図書館で見つけ、 教えて頂いたページを確認しました。

    ----------------------------------------------------------------------

    252.硫化銀の誘電率

    Date: Mon, 1 Sep 2003 11:35:34 +0900
    Q1: 佐藤様

    はじめまして O社中川と申します。

    硫化銀の誘電率を調べています。
    その過程でHPを拝見させて頂きました。
    塩化銀等については探し当てたのですが硫化銀については参考となる 情報を得ることができずお力を得られないかとメールさせて頂きました。

    よろしくお願いします。
    -----------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 2 Sep 2003 19:46:08 +0900
    A1: 中川様、佐藤勝昭です。
     図書館に行ってLandolt-Boernsteinのseriesの中で、Nonteterahedrally bonded semiconductorsの項でAg2Sを調べましたが、α相、β相とも、バンドギャップ、モビ リティ、キャリア密度、デバイ温度などは載っていましたが、誘電率は掲載されて いませんでした。同志社大学の大鉢忠先生がAg2Sの結晶成長を手がけておられるの で、お電話しましたところ、どこかに誘電率の文献があると思うので探してみる、と約 束して頂きました。お返事あり次第お伝えします。
    -----------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 4 Sep 2003 08:44:06 +0900
    Q2:佐藤様
    中川です。
    ご回答ありがとうございます。
    お手数をお掛けして申し訳ございませんでした。
    実測できないか等もう少し検討してみます。
    ありがとうございました。
    ------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 20 Sep 2003 02:44:54 +0900
    A3: 中川様、佐藤勝昭です。
     遅くなりましたが、同志社大学の大鉢先生から、先日次のような情報を頂きました ので転送します。
    ohachi>あまり正確でありませんが以下に出てました。10近くというのと8.8ですが ohachi>根拠がありませんでした。
    ohachi> S. Miyatani, J. Phys. Soc. Jpn., 24 328-336 (1963).
    ohachi>  a-Ag2S as a mixed conductor
    ohachi>  P. 335 右20行目   10~13
    ohachi> P. Bruesch and J. Wullschleger, Solid State Comm. 13, 9-12 (1973).
    ohachi>  Optical properties of a-Ag2S and b-Ag2S ohachi>  in the infrared and far infrared
    ohachi>  p. 11  右 6行目   8.8
    ------------------------------------------------------------------------- Date: Sat, 20 Sep 2003 14:54:19 +0900
    AA: 佐藤様
    中川です。
    頂いた情報をもとにシミュレーションし今回の現象と合うか確認していきます。
    大変ありがとうございました。
    -------------------------------------------------------

    253.ナノ結晶シリコンの発光メカニズム

    Date: Fri, 12 Sep 2003 14:24:56 +0900
    Q: 東京農工大学 佐藤勝昭先生
    突然のメールで失礼いたします。
    A社Kと申します。(尚、誠に勝手ではございますが、WEB上では氏名・会社名とも匿名での取り扱いをお願い致します。) はじめまして。
    先生のHPを拝見させていただきました。
    多岐多様な質問に丁寧にわかりやすく回答されており、興味深く読ませていただ きました。
    私の質問にも回答いただければ幸いです。

    現在、私はナノ結晶シリコン可視発光のメカニズムについて調べております。 当初、私は量子サイズ効果によるバンドギャップの拡大、結合効率の上昇によっ て可視発光するものと理解しておりました。
    しかし、いくつかの文献を読み進めていくうちに、その効果だけでは説明できな い現象があることがわかってきました。
    例えば「表面処理によって発光波長が変わる」といった現象はシリコン表層の酸 化膜が影響するようです。
    一方で、アモルファスシリコンの一部を結晶化して量子ドットを形成した場合 (つまり酸化膜の影響は無い)でも発光するとの報告もあるようです。
    いろいろと読んでいるうちに何が本当なのかわからなくなってきました。 ナノ結晶シリコン可視発光のメカニズムに関して、結論は出ているのしょうか?

    また、私が読んだ文献は定性的な議論しかなく、発光強度、発光波長についての 定量的に予測できる理論を報告した文献がありません。
    ご存知でしたらご紹介願えませんでしょうか。
    どうぞよろしくお願いいたします。
    以上
    -------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 12 Sep 2003 23:55:09 +0900
    A: K様、佐藤勝昭です。
     私の同僚でポーラスシリコンのELの草分け的存在である農工大・電気電子工学科の 越田信義教授にお尋ねしたところ、下記のようなお返事をいただきました。
    ===========================================
     ご照会の件、現状をふまえて簡単にお答えします。

  • 発光機構については、量子閉じ込めによる「k空間でのキャリア状態の緩和」 と「バンドギャップ増大」が可視発光の原因、というのが現在最も広く受け入れ られている考え方です。ただし、表面終端の完全性がその前提条件になります。

  • シリコンは有効質量が比較的大きく、もともと量子閉じ込め効果が顕著にな るサイズが小さい上に、表面が活性です。比表面積の大きい量子サイズでは、 表面活性がさらに高まり、コアの物性に強い影響を与えます。バンドギャップ が開いても、表面準位が発光センターや非発光欠陥などとして働き、発光波長 も効率が変化してしまうからです。特に酸化の場合は欠陥が複雑に働きます。

  • シリコンの発光特性が多様で機構がなかなか定まらない一つの原因は、この ようなシリコンの特質によります。表面処理によって発光波長が変化するとい うのは、シリコンでは当然といってもいいかもしれません。それに加え、実験 条件が標準化されていないという事情があります。ほとんどの発光特性測定は 空気中や管理の不十分なガス雰囲気中で行われているため、酸化などの影響が 避けられず、試料自体がaged sampleとみなされます。われわれが先に報告した ように、真空中で表面酸化のない状態をオージェなどで監視しつつ測定すれば、 サイズ制御の効果は理論予測通りに現れ、赤、緑、青の全発光が確認できます。

  • アモルファスシリコンを再結晶化して量子ドットを形成した場合でも、周囲 媒質との強い相関があり、その意味では孤立したナノ結晶と類似の表面効果を 受けています。

  • 理論計算は、表面終端種を仮定して行われており、発光特性についても定量 的な議論はなされています。ただ、表面終端が理想的すぎて、じっさいとは大 きな開きがあるのが実情です。また実験データとの比較に関しても、実験条件 がまちまちなため、1:1というわけにはいきません。

  • 以上のように、多様な実験事実があるのはシリコンの特性を反映しているだ けで、量子閉じ込め効果の枠組みみと矛盾するものではない、というのが私の 見方です。

  • なお当方の最近の解説としては

    N. Koshida and N. Matsumoto, Fabrication and Quantum Properties of Nanostructured Silicon, Materials Science and Engineering R 19, 169-205 (2002).  

    があります。ご参照いただければ幸いです。
  • ==================================================
    Date: Tue, 16 Sep 2003 11:15:45 +0900
    AA: 佐藤勝昭先生
    A社Kです。
    ご多忙の中、丁寧な回答をありがとうございました。
    紹介いただきました論文を入手し、理解の一助とさせていただきます。
    ありがとうございました。
    -------------------------------------------------------------------

    254.焼結金属材料の電気抵抗熱劣化

    Date: Fri, 19 Sep 2003 13:24:34 +0900
    Q1: 東京農工大学 佐藤勝昭様

    突然のメールで大変失礼いたします。
    T社のMと申します。
    (なおWeb上に掲載される場合には社名、名前を匿名でお願いします)
    先生のHPを拝見し質問させていただきます。

    現在磁性材料について研究を行っているのですが、絶縁処理を施した金属粉末を圧粉 成型しそれを高温状態で放置後、抵抗値を測定すると加熱前より抵抗値が下がってしまいま す。温度上昇と共に抵抗の増加が起こることは言われていますが、このような抵抗の減少 が起こるのはなぜなのでしょうか?

    お忙しい中恐縮ですが回答のほどよろしくお願いいたします。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 20 Sep 2003 02:44:57 +0900
    A1: M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。お尋ねの件は、一般性がなく、あなたの扱っている 系に特有の話ですね。状況がよくわかりません。その金属磁性体は鉄でしょうか。粉 末の粒子のサイズはどれくらいのものでしょうか。また、絶縁処理とは、その磁性微 粒子を絶縁体で覆うのでしょうか?その絶縁体は何をお使いでしょうか。このような ことがわからないとお答えしにくいのですが、ここでは、一般論として、考えられる ことをお答えしておきます。
     絶縁体で覆った金属微粒子からなる粉末を加圧成形して熱処理するとき、粒子を被 覆している絶縁体が絶縁性を保っていて、粒子間の電気伝導が、粒子内のキャリアの 粒界の障壁をホッピングすることによって起きるならば、加圧成形により粒子間の距 離が接近し障壁の高さが下がることで、抵抗が下がるでしょう。また、障壁Δを超え るホッピング確率はexp(-Δ/kT)となるので、温度上昇とともに確率が増大し、電気抵 抗は下がります。従って、あなたの観測された結果は極めて自然だと思います。
     もし、加圧成形、加熱した際に絶縁性が破れ障壁がなくなれば、金属の一般的な性 質が現れて温度上昇とともに抵抗が高くなるでしょう。「温度上昇と共に抵抗の増加 が起こることは言われていますが」というのは、この場合でしょう。
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 20 Sep 2003 10:55:46 +0900
    Q2: 佐藤 勝昭様
    T社のMです。お世話になります。
    私の説明不足の質問にも丁寧にお答えいただき真に有難うございます。
    あまり詳しくは説明できないのですが、金属材料等の条件は以下の通りです。
    ・鉄もしくは鉄系合金微粉末
    ・数μ~数百μの粒径
    ・有機樹脂を粉末にコーティングすることによる絶縁処理

    先生の回答と私の実験状況が似ていることからこの場合の抵抗の減少は 「キャリアの粒子間(粒界)の障壁ホッピング」だと思います。
    おっしゃる通り成型圧力を上げ粒子間距離が近づけば抵抗は下がります。
    キャリアが粒界をホッピングする以上、粒子にいくら絶縁コーティングを施したとこ ろで加熱により(劣化速度に差はあるものの)絶縁性の劣化は起こる、と捉えていいので しょうか?
    また加熱によりホッピングした場合それは一時的ではなく、冷却後もホッピングした 状態は継続するのでしょうか?
    ちなみに絶縁コーティングをしてないただの金属粉末の場合にも若干の抵抗の減少が 見られます。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 20 Sep 2003 19:52:43 +0900

    A2: M様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    あなたのお答えで状況がわかりました。有機樹脂のコーティングは、加熱処理で分解 していると存じます。しかし、金属粒子間の粒界に有機物の分解した物質が付着して 障壁(バリア)を作っていることは、間違いないでしょう。
     キャリアがバリアを越す確率がexp(-Δ/kT)の形であれば、高温でも低温でもホッピ ング伝導には変わりがありません。
     コーティングをしてなくても、金属の表面には薄い酸化物が出来ていて、バリアが 形成されることは同じだと思います。ただ薄いのでトンネル効果で伝導することもあ り、必ずしもホッピング伝導とはなりません。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 24 Sep 2003 10:43:32 +0900
    佐藤 勝昭様
    T社のMです。ご回答いつもありがとうございます。
    先生のお話ですと樹脂が熱分解しているとのことですが、
    私が行っている加熱温度は150℃前後なので軟化はしていますが熱分解には至らない と思うのですが?
    もしそうならばバリアが存在し低温状態でもホッピング伝導が発生しているのだと思 います。
    また今までのキャリアのホッピング確率といった内容はどのような本に掲載されてい るのでしょうか?もしお勧めの本・文献などがあればご紹介していただきたいのですが。 度々質問してしまい申し訳ありません。
    -----------------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 24 Sep 2003 13:09:23 +0900
    M様、佐藤勝昭です。
     ホッピング伝導については、1940年に出されたMott, Gurneyの古典的教科書(N.F. Mott, R.W. Gurney: Electronic Processes in Ionic Crystals, Oxford Univ. Press, Oxford (1940))や1970年代に出されたMott, Davisの教科書(N.F. Mott and E.A. Davis: Electronic Processes in Noncrystalline Materials, 2nd ed. Oxford Univ. Press, Oxford (1979))に載っていますが、入手しにくいでしょう。簡単な解説については、拙著をご覧下さい。
    佐藤勝昭、越田信義「応用電子物性工学」(コロナ社1989)2.5.5節ホッピング伝導(p.48-50)をご参照下さい。
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 25 Sep 2003 08:44:19 +0900
    佐藤 勝昭様
    T社のMです。いつも質問にお答えいただきありがとうございます。
    今回は非常に勉強になりました。ご紹介いただいた先生の本も参考にしたいとおもいます。
    また質問することもあるかもしれませんが、よろしくお願い致します。
    この度はありがとうございました。
    ----------------------------------------------------------------------------

    255.反発係数の算出

    Date: Fri, 19 Sep 2003 11:09:16 +0900 (JST)
    Q:はじめまして。F社のOと申します。
    鉄と鉄の反発係数について調べておりましたところ先生のHPに当たりました。
    119「硬さと反発係数」を読みだいぶ核心に近づけた気がしたのですが いまいち分からないところがあったのでメールさせていただきました。
    質問は以下の二点です。
    ・反発係数が硬さに依存しているということは 材料によって決まった値があるということでしょうか?
    ・実験以外で反発係数を得たい場合 ショア硬度から算出するのはメジャーな方法なのでしょうか?
    分かりましたら参考文献等を教えて頂けたらうれしいです。
    インターネット等を駆使したのですがどうしても調べきれませんでした。
    お手数ですがよろしくお願いします。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 22 Sep 2003 13:06:11 +0900
    A:F社のO様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。お返事が遅くなってすみません。私は、機械系の専門家 ではないので、この関係に詳しくなく、また文献も存じ上げませんが、私の個人的な見 解を述べさせて頂きます。
     
    なんでもQ&Aの54「硬さと表面張力」の項 にもありますように「硬さ」には明確な物理的定義がなく、現状では、「何らかの方法で 対象である材料の変形を試みて、その過程の経時変化を調べるか、最終的に変形過程が終 了して残留した形状変化によって、硬さを量的に表示する」以外にはないのです。
     一方、反発係数(跳ね返り係数)は、「巨視的な2球の衝突に際して、接触点での法線 方向の相対速度成分についての衝突前後の値の比」(理化学辞典)と定義されています。 弾性衝突では1,完全な非弾性衝突では0です。もし、衝突の際に変形が起きるとすれば、 そのために2球が衝突前に持っていた運動エネルギーの一部が弾性エネルギーとして失わ れます。これによって反発係数は1ではなくなるわけで、その意味で「硬さ」というよう な物理的に曖昧な量ではなく、「体積弾性率(bulk modulus)」との関係をもつと考える のがreasonableではないかと考えますがいかがでしょうか。

    ------------------------------------------------------------------------

    256.脆性材料の切削

    Date: Mon, 22 Sep 2003 11:50:28 +0900 (JST)
    Q: はじめまして。K大学修士1年のOと申します。
    (webにのせられる場合はすべて匿名でお願いしたいのですが…) 物性なんでもQ&Aのページを見させていただきました。
    私は今、研究で脆性材料を延性モードで切削するという実験を 行っています。脆性材料は切込みを極めて小さくすると延性モ ード加工することができます。なぜそのようなことになるのか 理論を知りたいのですが、どの文献を見ても「加工できる」と いうことしかのっておらず、はっきりと理論を理解することが できません。
     できればなぜそのようになるのか理論を教えて欲しいのです が…。または参考文献等を紹介していただければありがたいで す。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 22 Sep 2003 12:25:12 +0900
    A:O様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。私は、物理屋で、機械加工のことは専門外なので、本学 の機械システムの笹原先生に問い合わせ中です。お答えが分かり次第、ご連絡しますので 今しばらくお待ち下さい。
     ===============================================================
    Date: Sun, 28 Sep 2003 17:33:31 +0900
     笹原@東京農工大学です.
     硬ぜい材料の切削は現在でも研究が進められている状況であり,
     延性的に加工できる理由が100%解明されているわけではありません.
     変形域が小さくなるため破壊確率が小となるとか,静水圧が大きく
     なると,き裂の進展が抑えられるなどの報告があります.
     修士1年生とのことですので,研究論文を中心に現状を調査し,
     さらに硬ぜい材料の切削現象の解明の一翼を担って頂けることを
     期待しております.
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 11:26:22 +0900 (JST)
    AA: 先日、返信(回答)をいただきました。今後とも勉学に励み 実験などを進めていきたいと思います。ありがとうございまし た。なお、笹原弘之先生にもよろしくお伝えください。
    -------------------------------------------------------------------------------

    257.MBEはなぜ非平衡結晶成長なのか

    Date: Mon, 29 Sep 2003 23:25:54 +0900
    私はT大学で物性の勉強をしているR研究科一年のSというものです。ホームページでの公開は匿名とさせてください。 ホームページを拝見しメールをしました。
    実験でMBEを用いて研究を始めたのですが、MBEの特徴としてあげられている非熱平衡 における成長というところがよくわかりません。
    熱平衡での成長と非熱平衡での成長についてわかりやすく解説をしていただけたら幸 いです。
    よろしくお願いします。
    -------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 08:52:04 +0900
    S様、佐藤勝昭です。
     MBEは、超高真空において、気相の原子(例:Au)を基板結晶(例:MgO)表面に堆積すると 同時に固相に相変化させます。複数の原子(例:Ga, Al, As)を基板結晶(例:GaAs)上に堆 積し反応させて固相の化合物(例:Ga1-xAlxAs)を形成させる場合もあります。
     この過程を「熱非平衡過程」だというのは、通常の「平衡状態図」で表される結晶成長 条件からはずれているという意味です。平衡状態図は(特に表示されない限り)あくまで 1気圧の圧力下で安定な相を考えているので、MBEの条件には適応できないのです。たとえ ば、液相エピタキシャル成長(LPE)などは、この平衡状態図の条件での成長ですから、 「熱平衡での成長」と呼ばれます。
     ただし、MBEにおいてもミクロなプロセスは、超高真空条件下での熱平衡条件に従って、 エネルギー的に最も有利な反応が進んでいるわけで、本学の纐纈先生など化学の先生方は、 たとえMBEでも「非平衡」という言葉を使うべきでないとの立場をとっておられます。従 って、正確には、通常の平衡状態図に従わない条件下での結晶成長というべきでしょうが、 応用物理や電子工学の関係者は習慣的に「MBEは熱非平衡成長」という言い方をしていま す。
    --------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 13:48:43 +0900
    AA: 解説をありがとうございました。
    MBEもミクロに見れば当然のことながら熱平衡での成長なのですね。
    胸のつかえが取れました。
    --------------------------------------------------------------------------------

    258.中赤外における金属の反射

    Date: Tue, 30 Sep 2003 11:02:29 +0900
    Q: 矢崎総業の宮崎と言います。
    初めてメールさせて頂きます。
    先生のHP上の「物性なんでもQ&A」> 見させて頂きました。大変役立つ内容が多く勉強になります。
    さて 私は、現在中赤外線の金属及びメッキでの反射について調べているのですが インターネット、文献等に無く調べることができませんでした。
    ご存じであれば教えて頂きたいと存じます。

    以上 突然のメールとお願いですがよろしくお願い申しあげます。
    -------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 12:53:28 +0900
    A1: 宮崎様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    金属およびメッキという書き方はあまりにも漠然としています。
    具体的な金属名がわからないとお答えのしようがありません。
    (メッキというのは作製法の名前で、金メッキもニッケルメッキもあります。どのような
    金属のメッキなのですか)
     中赤外というのは、具体的にはどのあたりの波長を指すのですか。
    -------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 14:09:54 +0900
    A2: 宮崎様、佐藤勝昭です。
     お電話では、金属はいろいろお探しで、波長は4μmということですので、調べてみました。
    LB (Landolt Boernstein) のNew Series III 15 b Optical constants of pure metals によれば、4μm(0.31eV)における主な金属の反射率は次の通りです。
    金属名CuAgAuTiCrFeCoNiAlInPb
    反射率(4μm)97.93%98.47%98.62%78.04%93.77%87.09%87.75% 92.38%99.03%98.73%98.90%
    一般に貴金属が高く、遷移金属は低いようです。
    メッキのしやすさからいえば、Niでしょうか。 詳しくは、LBをお読み下さい。
    --------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 16:40:22 +0900
    東京農工大学工学部物理システム工学科
    佐藤勝昭 様
    矢崎総業の宮崎です
    AA: 色々とありがとうございました。
    これからもメールでの質問すると思いますがその節はよろしくお願い申し上げます
    --------------------------------------------------------------------------------

    259.表面プラズモンを理解するための本

    Date: Tue, 30 Sep 2003 17:35:20 +0900
    Q: 東京農工大学工学部 佐藤勝昭先生
    突然のメール失礼致します。
    K社のAと申します。
    (本件は研究開発に関する内容のため、HP公開時には社名・氏名を伏せて頂きたく存じます)
    インターネットを検索していたところ、幸運にも佐藤先生のHPに遭遇致しました。
    突然のメールで失礼致しますが、固体物理(特に表面プラズモン)を理解する為の初心者向きの本を御教示頂け れば幸いです。
    (シロウトの質問で申し訳ありません)
    近年、プレコート金属板の高機能化の観点から、金属/コーティング界面の解析技術に対する要望が高まっております。 小職の所属する部署では、以前からFT-IRを用いて表面および界面解析を行っておりますが、上記理由により新 たに多層系コーティングや薄膜の解析技術を開発する必要が生じてきました。
    小職は今秋からこのテーマを担当する事になりましたが、金属/コーティング界面で起こる現象(特に表面プラ ズモン)を理解するのに必要な固体物理の知識を持ち合わせておらず、どこから手をつけてよいか分からない状 態で途方にくれております。知識レベルは、化学系を専攻していたのでFT-IR装置は使った事ありますが、装置 原理についてはブラックボックス、という状態です。
    (表面プラズモンについては、
    Q&Aのコーナーで以前に掲載されていたのを拝見しましたが、小職には理解できませんでした・・・)
    以上、宜しくお願い申し上げます。
    --------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 30 Sep 2003 19:09:50 +0900
    A: A様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    固体物理学、特に、光物性は、固体の電子現象の理解だけでなく、電子運動と光波との結 合まで理解しなければならないので、量子力学、固体物理学、電磁気学の基礎知識が必要 です。素人向きにアナロジーを使って説明することはできますが、本質に迫ることができ ないので、一見わかったような気にはなっても、本当に理解できないし、応用ができない と思います。近道はありません。やはり関連する物理現象を1つずつ理解していかなけれ ばならないでしょう。「表面プラズモンを理解する為の初心者向きの本」ははっきり言っ てありません。
     応用物理系の大学院生レベルを対象に比較的やさしく書いてあるのが、大成誠之助著 「固体スペクトロスコピー」(朝倉書店1994)です。そのp.31の図2.8には、表面プラズマ の電荷揺らぎの様子が描かれています。
     しかし、そこに書いてある文章を理解しようとすると、「表面プラズモン」に到る前に、 普通のプラズマ振動を自由キャリア(キャリアというのは電気を運ぶ担い手という意味で、 電子またはホールのことです。便宜上ここでは自由電子に限ってお話しします)の集団運 動によって、「誘電率」にどのような影響がでるかを理解しなければなりません。上の教 科書では、p.27でいきなりドルーデモデルによる誘電率が示されています。
     しかし、応用物理や電気電子出身でない方にとって、「どうして急に誘電率が出てくる の?」という疑問が生じると思います。(化学の方は、おそらく、誘電率とは「平行平板 コンデンサの電気容量が空気よりも増える割合」くらいにしか理解しておられないでしょ うから、無理もありません。)なぜ誘電率なのでしょう。実は、光は物質中では、純粋の 光(電磁波)ではなくて、物質中で光と同じ振動数で振動する電気分極(正負の電荷をペ アとして考えた電気双極子モーメントの単位体積あたりの総和)を伴った波として存在す るのですが、電界が来たとき物質中に電気分極がどれくらい起きやすいかを示す量が電気 感受率χであり、χ+1が誘電率なのです。光の電磁波は電気分極とカップリングして物質 中をすすむので、誘電率を考える必要があるのです。
     一方、自由キャリアの集団運動はなぜ「プラズマ」なのでしょうか。プラズマというの は電離した気体を表す言葉です。たとえば、蛍光灯の中では、封入された気体が放電によ って電離され、イオンと電子が分離した状態になっています。固体中でも自由電子は、原 子核の正電荷によるクーロン力から解き放たれ、光(電磁波)の振動電界によって、自由 に運動します。だから、一種のプラズマと考えるのです。正電荷の持ち主は原子核ですか ら、そう簡単には動けないので、電子の運動のみを考えればよいのです。それで、自由電 子プラズマといいます。
     電子が原子核からはなれると、元々は中性だったのですから、電子と原子核との間に電 子分極が生じます。いま、光の電界Eが正の時、電子は正の方に引きつけられるので、こ の分極Pは、大きな負の値を持ちます。従って、誘電率は負の値をとります。逆に電界が 負ならば、分極は正になります。つまり、分極の振動は電界の振動と負号が反対なのです。 これが、金や銀の高い反射率を支えています。光の周波数が高くなってある値を超えると、 もはや電子分極は電界の振動についていけなくなって、誘電率は通常の正の値に近づきま す。誘電率が0になる周波数をプラズマ周波数といいます。(このあたりのところは、私 が分担執筆した「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク1993)の第4章 に書いていますが、ここでも「古典力学」の運動方程式が使われています。)
     量子力学によればどのような波動も量子化されています。量子化されたプラズマ振動の ことをプラズモンといいます。
     自由電子プラズマ振動は電子の粗密波ですから縦波です。従って、縦波である電子波と は直接カップルします(これが電子損失分光ELSとして利用されます)が横波である光とは 直接カップルせず、誘電率を通じて間接的に結びついているのです。
     金属の表面においては、面内に電子の粗密ができます。これが「表面プラズマ振動」で これを量子化したものが、表面プラズモンです。これと光を結合するには、全反射する光 学系からもれだす伝搬しない電磁波である「エバネセント波」とのカップリングが必要で す。ここでもまた「エバネセント波」という新しいコンセプトが出てきましたね。これを 解説するには、また、くどくどと説明する必要がありますので、このあたりで筆をおきま す。
     このように、表面プラズモンのコンセプトを説明するには、古典力学、電磁気学、光学、 量子力学などの知識が必要です。全体をまとめてやさしく素人向きに書いた本はありませ ん。一歩ずつ、勉強されることをお勧めします。
    -----------------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 01 Oct 2003 14:03:57 +0900
    AA: 東京農工大学工学部 佐藤勝昭先生

    ご多忙の中、ご丁寧な回答をありがとうございました。
    ご紹介頂きました本を入手し、先生からアドバイス頂いたように 一歩ずつ勉強を進めていきたいと思います。

    取り急ぎ、お礼申し上げます。
    -----------------------------------------------------------------------------

    260.高校理科における半導体関係

    Date: Wed, 8 Oct 2003 21:41:44 +0900
    小坂直史、普通科高校3年生ですが、高校で習う範囲の化学、物理の中で、材料機能 の分野、特に半導体と関係の深い部分は、強いて言えばどのような部分でしょうか?
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    Date: Thu, 9 Oct 2003 09:29:33 +0900
    小野君、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    高校「物理」の学習指導要領によりますと、「物理Ⅱ」の「(3)物質と原子」の中の「イ  原子、電子と物質の性質」の「(イ)固体の性質と電子」の項目がそれに対応すると思い ます。君たちの2年下の学年からは、指導要領が変わって、物理Ⅱに「(3)物質と原子 の③物質中の電子のエネルギー、④固体中での電子の振る舞い」が入っています。ただし (4)原子と原子核との選択になっていますので、学校によって教えないこともあります。 私は、高校で習う「化学」については、よく分かりませんので、専門の先生に伺って、後 ほど返事します。
    -------------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 9 Oct 2003 17:18:52 +0900
    小坂君、佐藤勝昭です。
     化学の先生に聞きましたところ、高校の化学では、材料の合成や作製法は教えるけれど、 その機能まではやらないようです。特に、半導体と関係の深い分野は、直接教えないと思 います。しかし、もしあなたが、将来半導体の分野に進みたいと思うなら、化学の基礎知 識が非常に重要になります。(たとえば、私の講義
    「物性工学概論」のOHPを見ていただけば、元素の周期表が出てくることに気付くでしょう。)
     私が研究している新しい磁性半導体についても、いかにして良質の薄膜結晶を合成する かが、最も重要な課題です。このためには、化学反応の基礎知識が要求されます。同じ学 科の谷先生もナノ半導体材料を化学のやり方で合成して、その光物性を測定しています。
    大学の最先端レベルでは、物理と化学の垣根はありません。
     なまじっかの先端的な知識をもつことより、物理や化学の一番の基礎をきちんと勉強し ておくことが、将来本当に役に立つと思います。
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    261.トレハロースの立体構造と旋光性

    Date: Sun, 12 Oct 2003 02:51:28 +0900
    Q: こんにちわ。私は、慶應義塾大学二年のOといいます。
    質問の内容は、旋 光性についてなのですが、私はいまいち化合物を立体的にみることができません。
    今 回、α,α-トレハロースの比旋光度やグルコースの変旋光の実験を行いました。も しα,βートレハロースだと対称面をもち、旋光性はなくなっていまいますか?立体 的に考えることができないために、旋光性をもつかどうか、それがわからないので す。ぜひ教えてください。お願いします。なお、Web上では匿名でお 願いします。
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    Date: Mon, 13 Oct 2003 10:23:36 +0900
    A: O様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。わたしは、物理が専門で、化学は専門でないので、 詳しいことは、化学の専門家の先生に聞いておきます。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 16 Oct 2003 14:00:14 +0900
    O様、佐藤勝昭です。
     化学系の先生(農学部坂野教授)に尋ねましたところ、次のようなお答えでした。
    ===================================================================
     立体構造と旋光性については、有機化学の教科書に出ていると思います。
     学生さんの質問の「もしα,βートレハロースだと対称面をもち、旋光性はなくなっていまいますか?」に対しては、
     「実際に、自分で、構造式を書いて、対称面があるか無いか確かめてください。」
     と答えてください。自分で考えさせてください。
     なお、α,α-トレハロースとα,βートレハロースの比旋光度は、
     それぞれ、+199 (20度C,5%溶液で測定)、+93.9 (20度C,2%溶液で測定)です
    ===================================================================
    ということです。

    参考: トレハロースの構造式

    カーギルのHPより

    α,αトレハロースの立体構造

    ロンドンサウスバンク大学のHPより

    a Trimethylamine N-oxide, b Proline, c Ectoine; R varying, d a,a-Trehalose, e Glycine betaine


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    262.延伸した高分子の異方性

    Date: Mon, 13 Oct 2003 03:11:38 +0900
    Q: 市川、学生、応用化学科、三年
    延伸した高分子の異方性と配向の様子はどのようになっているのですか。
    ------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 16 Oct 2003 20:05:33 +0900
    A1: 市川様、佐藤勝昭です。
     私は、化学が専門ではないので、有機材料化学科の豊田先生にお伺いしましたところ、 高分子は延伸した方向に配向し、それによって、光学異方性などが生じる。このことは大 抵の高分子の教科書に載っているはずですということでした。
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    Date: Fri, 17 Oct 2003 10:38:08 +0900
    A2:市川様、佐藤勝昭です。
     高分子の延伸について、専門の有機材料化学科の市原先生から詳しい説明をいただきま したのでお伝えします。
    分からなかったらまた、メール下さい。
    ============================================================================
  • 延伸による高分子の配向と異方性
     一つの分子としては、高分子は長い紐ないし鎖のような形をしています。この高分子が何 本も集まって凝集状態になると、異なる鎖の間に絡み合う部分ができます。高分子は分子 が長いので、一つの分子あたりの絡み合いの数はかなり多くなるのが普通です。こうして、 一本の鎖は隣り合う幾つかの鎖と絡み合いながら、それぞれの鎖は重心を中心とした球状 の空間に分布しています。
     どのような高分子に対しても延伸という操作を行うことはできますが、実用的に意味があ るのは主に結晶性高分子です。高分子が結晶化すると、数nmから数十nmといった厚みの板 状の結晶(これをラメラと呼びます)ができますが、急速に冷却して結晶化した場合には 分子鎖の広がりはあまり変化しないので、絡み合いもそのまま残ります。高分子の結晶が このように薄いものであるということは、高分子が結晶化するとき、分子鎖は多少なりと も折りたたまれなければなりません。分子鎖が折りたたまれている部分や絡み合っている 部分などは、結晶の中には入れませんから、高分子の全ての部分が結晶になることができ ません。そこで全体の中で結晶になっている割合というものを考える必要があります。こ れが結晶化度です。
     このようにして結晶化している高分子を、ある一つの方向に引き伸ばしてやる、すなわち 延伸すると、高分子は変形します。この際、力は分子鎖から別な分子鎖へと伝えられます が、それを伝えることができるのは絡み合い点、それも、ちょうど具合良く力を加えられ た方向にうまく繋がった部分ということになります。このような部分の間にある結晶の鎖 は延伸方向を向いて並びます。このとき、力を伝えるある点と次の同じような点が延伸方 向を向いた直線の上にあるとは限りませんから、結晶の配向も統計的なものです。そして 通常は、結晶の配向の程度は延伸条件できまります。
     結晶と結晶の間にある非晶部の分子鎖(これは一本の高分子ではなくその部分ですが)も 力を伝える点、すなわち絡み合い点が延伸方向を向いた直線の上に来るとは限りませんか ら、非晶部にある鎖の配向も統計的なものとなります。
    延伸方向と分子鎖のある長さの部分の間の角をθとします。そして、
      f ={3<cosθ>-1}/2
    という値、これを配向関数と呼びます。この値を結晶部分と非晶部分とに分けて測定する と、高分子によっても異なりますが、例えばポリエチレンでは、結晶部分の配向関数は延 伸によって0.9、とか0.95といった値に到達し、その後はあまり変化しなくなります。こ れに対して、同じ条件で延伸したものの非晶部分の配向関数は0.6とか0.7といった値であ り、非晶の配向関数は延伸倍率を上げるにしたがって大きくなります。
     ポリスチレンのような非晶性高分子を延伸した場合には、高分子の糸毬は球状の分布か らラグビーボール状というか、楕円体になります。
    異方性については、弾性率や強度は延伸方向には大きくなり、それと直交する方向には低 下するのが普通です。屈折率のような性質の異方性は高分子の繰り返し単位の構造によっ ても影響されます。例えば、ポリカーボネートのように主鎖にフェニレン基が入っている 場合とポリスチレンのように側鎖にフェニル基が付いている場合とでは、変化の方向が逆 になります。これは双極子の並び方の違いによるものです。
  • --------------------------------------------------------------------------

    263.希土類磁石の結晶場

    Date: Sat, 18 Oct 2003 18:30:25 +0900
    Q: 佐藤先生へ
    始めまして。
    N社のKという者です。
    企業で磁石の研究をしている者です。
    いつも先生のHPを楽しく見させていただいています。

    今回どうしてもわからないことがあり、取っ掛かりさえも見つからないので お願いする次第です。

    質問は
    「second-order crystal field parameter」とは何でしょうか。
    出典はJ.A.P.,Vol.72,No.7,1 October1992 L2989
    Title=Magnetic properties of R2Fe17CNx

    永久磁石に関する論文で、当然私どもの研究対象にもかかわりがあります。 どうも結晶場がCやNといった侵入元素により変化し、その結果としてキュリー点 や異方性が大きく変化するということらしいのですが、 second-order crystal field parameter の記述がいきなり出てきて、困って しまっています。ネットや磁石の本で当たったのですがわかりません。

    お忙しい中、申し訳ありませんが、もしご存知でしたら、どちらの方面へ当たって いけば良いか等のご教示をいただけないでしょうか。

    なお、氏名、所属等はHP上では公開を控えていただきたく存じます。
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    Date: Sun, 19 Oct 2003 02:20:24 +0900
    A1: K様、佐藤勝昭@homeです。
     希土類磁石が強い磁気異方性をもつ原因として、希土類の4f電子の空間的 な広がりの形状に起因していることはよく知られています。(飯田修一先生の言葉を 借りれば、葉巻かあんパンかです。Ce, Prなどはあんパン、Sm,Tmなどは葉巻で す)希土類・遷移金属磁石では希土類の原子位置が決まっていますが、あんパン の入る向きと葉巻の入る向きが異なります。Smではc軸方向が収まりやすいので c軸方向に磁気異方性をもちます。このように結晶の中の特定の位置の対称性で 電子軌道がモディファイされることを表すのが結晶場理論です。
    CやNなど第3の元素を導入すると、c面内の特定の位置に入り、それによる結晶 場の効果で大きな磁気異方性が発現するのです。磁気異方性の起源となる結晶場を second orderの結晶場と言っているのではないでしょうか。
    この辺りのことは、小林久里眞先生の「したしむ磁性」という教科書(朝倉書店 1999)のp.130に分かりやすく書かれているので、参考にされては如何でしょうか。 (もっとも、この教科書にはsecond-order crystal-field parameterについては 触れられていませんが・・)
    --------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 19 Oct 2003 21:55:57 +0900
    AA1: 佐藤先生へ
    見ず知らずの者に対して、こんなに早く、しかも夜も遅い時間にお返事をいただ けるなんて大感激です。当方でも、他の文献から理解するようにアプローチを 進めている最中です。小林先生の著作も持ち合わせていますので早速読んで みます。いずれにしても磁気現象を量子論から理解していく道筋を少しは たどらないと、なかなか深い理解は得られそうにない気はしています。

    余談ですが、実用永久磁石の研究者と磁気物性理論の研究者の距離が余りに も離れていると感じているのは私だけでしょうか。また今、日本のお家芸といわ れた永久磁石の、実質的な拠点が音を立てて中国にシフトしています。今こそ 原点に立ち返って、物性屋さんと実験屋さんが手を携えて新しいものを作って いかなければ、偉大な先輩たちに対して申し訳ないことになるような気がします。 先生のような教育熱心な方の薫陶を受けた、熱意ある学生が世に出て活躍する ことに期待しますし、私どもも微力ながら努力してまいりたいと感じた所存です。

    お忙しい中、私どものためにご無理をならぬようお願いします。また、今後ますます のご活躍をお祈り申し上げます。ありがとうございました。
    以上
    -------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 20 Oct 2003 13:25:48 +0900
    A2: K様、佐藤勝昭です。
     second order crystal field については、K.H.J.Buschow編のHandbook of Magnetic Material (North Holland) に記述があります。
    たとえば、
    vol.4 (1988)Chapter 1のNovel Permanent Magnet Materialsのp.47-55には結晶場理論に よる記述がありその中に出てきます。
    これによると、希土類の周辺を取り囲む結晶学的配置の特徴は、結晶場パラメータを用いて表される。 多くの六方晶、正方晶の構造では、主要な項は2次の結晶場パラメータV20である。(中略)
    希土類遷移金属化合物の磁気異方性を表現するには、結晶場の項と交換項を含むハミルトニアンが 必要である。与えられた希土類元素に対してハミルトニアンは次式で表される。
    H=Hcr+Hex=ΣBnmOnm-gJμBJ・Hm
    Bnmn<rn>AnmnVnm
    ここにθnはスチーブンス因子(n=2, 4, 6に対応してそれぞれ、αJ, βJ, γJ) 、<rn>は ハートリーフォック動径積分、Anmは結晶場ポテンシャル、Onmはスチーブンスの演算子、Hmは希土類に働く分子場である。
    と記述されています。
    また、
    vol.6 (1991)Chapter 1のTernary Rare Earth Transition Metal Compounds のp.72-75に 出ています。A20、A22などはMossbauer分光でEFG(電場勾配)から求められるようです。 いずれにせよ、Buschowらオランダのグループは、基礎的観点から永久磁石を扱っていま すので、このHandbokのシリーズは会社で購入して座右に置かれることをお薦めします。 永久磁石においては、基礎研究者と実用研究者の距離が遠いのは確かですが、もし、その 間を埋めるなら、日本応用磁気学会に専門研究会を立ち上げて、両者を結びつけることを 提案されてはいかがでしょうか。
    ---------------------------------------------------------------------------

    264.規則配列はなぜランダム配列より安定か

    Date: Sun, 19 Oct 2003 11:31:12 +0900
    Q: はじめまして。九州大学工学部2年のKeethといいます。質問をメールで御回答頂け るとのことでメールいたしました。
     「物質が結晶の形をとるのは、原子が規則正しく配列した方がエネルギーが低く、 安定だからであると思うのですが、なぜ,原子がランダムに配列した状態より、規則 正しく配列したほうが、エネルギーは低くなるのですか?」原子間の斥力と引力の点 から簡単に説明よろしくおねがいします。
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 19 Oct 2003 20:17:51 +0900
    A: Keeth様、佐藤勝昭です。
     隣接する原子が斥力と引力のバランスする原子間距離のところに来ると凝集エ ネルギーが最も低くなります。原子が規則的に並んでいないと、最低エネルギー の位置より原子間距離が長いものや短いものが分布しますが、長くても短くても エネルギーが高くなるので、規則的に並んだときに比べてトータルのエネルギー が高くなってしまうのです。
    ------------------------------------------------------------------------

    265.磁心材料の具備条件

    Date: 20 Oct 2003 11:28:00 -0000
    Q: C大学2年の鈴木です
    鉄心材料の具備条件について調べています。ネットや本で調べてみたのですが、よくわかりません。自分で調べたところでは、低鉄損、高飽和磁束密度、良好な加工性、広い材幅、高い量産技術、ではないかと思います。間違っているでしょうか?自分では、それぞれについて意味をよく理解できていないので、説明も加えていただけますか。よろしくお願いいたします。
    ------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 20 Oct 2003 21:17:38 +0900
    A: 鈴木様、佐藤勝昭です。
     「鉄心の具備条件」について調べているのは、大学の宿題(レポート)のためでしょう か。それだと、お答えするわけにいきません。ヒントだけ差し上げましょう。
    私は、磁気物性が専門なので、量産や加工のことはよく分かりませんが、磁気的に見た場 合、変圧器の磁心材料は、1次コイルを巻いて交流電流を流すことによって磁束を発生し、 この磁束変化を二次コイルにおいて電磁誘導で電圧に変換するためのものです。もし、磁 気ヒステリシス(BHカーブのふくらみ)が大きいと、ループのかこむ面積が、磁性体での エネルギー損失(鉄損)になるので保磁力の大きさがどうでなければならないか考えて下さ い。また周波数が高くなると、渦電流による損失(渦損)が発生しますので、それを抑 えるには、電気抵抗がどうでなければならないかを考えましょう。1次コイルの電流がわ ずかでも、大きな磁束密度が発生するには、透磁率がどうであって欲しいのかも考えてみ ましょう。もちろん、すぐに磁束が飽和するようでは、2次コイルには正弦波を伝えられ ないので、飽和磁束密度は高いに超したことはありません。
     参考書としては、
     佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)p231、磁心材料
     磁性体ハンドブック(朝倉書店)p1069、高透磁率材料
     磁気工学ハンドブック(朝倉書店)p450、鉄心材料
    などを参考にして下さい。ネットで得られる情報は限られています。図書館でハンドブッ ク類を調べましょう。
    --------------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon , 20 Oct 2003 21:28:10 JST
    AA:お返事ありがとうございました。先生のヒント、紹介してくださった参考書を調べてがんばってみます!
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    266.金属結合

    Date: Tue, 21 Oct 2003 16:40:44 +0900
    Q: 佐藤先生殿
    H社のKと申します。
    メールで質問失礼します。
    下記の問題ですが、ある文献から、
    「鋼線に使用される高い純度の銅は、原子同士が金属結合で束縛されている。」
    で、最後の・・・束縛されている。がよく理解できません。
    化学は全くの素人で、もう少し、分かりやすくご説明していただけたら幸いです。 お忙しいところ、すいません。
    お時間のある時で結構です。
    ----------------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 21 Oct 2003 17:09:20 +0900
    A: K様、佐藤勝昭です。
     鋼線とはスチールでできた線ですよね。それにどうして純度の高い銅が使われるのでし ょうか?
    なお、銅などの金属においては、原子から供出された電子が結晶全体に広がっており、電 子雲の海ができています。銅の原子核はこの電子が媒介となって結合をしています。この ような結合形態のことを「金属結合」というのです。
     私の講義「物性工学概論」の2003年4月15日の
    OHP の第17番目のスライドには
    「金属においては、原子同士が接近していて、外殻のs電子は互いに重なり合い、各軌道 は2個の電子しか収容できないので膨大な数の分子軌道を形成する。 電子は、それらの 分子軌道を自由に行き来し、もとの電子軌道から離れて結晶全体に広がる。これを非局在 化するという。 正の原子核と負の非局在電子の間には強い引力が働き、金属の凝集が起 きる。 この状態を指して、電子の海に正の原子核が浮かんでいると表現される。」
    と書いてあります。OHPには図もでています。

    参考:これまでにあった金属結合関係の質問

    1. 金属結合について
    2. 金属結合と共有結合
    3. 金属結合の原子モデル
    --------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 21 Oct 2003 17:29:54 +0900
    佐藤先生様
    ご丁寧な、説明、とても感謝致します。本当にありがとうございます。
    凝集(塊)=束縛(自由を奪うこと)と考えてます。
    ちなみに銅は鋼のミスプリかも知れません。
    --------------------------------------------------------------------------

    267.高耐電圧・高誘電率材料

    Date: Tue, 21 Oct 2003 20:24:00 +0900
    東京農工大学工学部
    佐藤 勝昭 殿
    S株式会社Nと申します。
    (本件は研究開発に関する内容のため、HP公開時には 社名・氏名は匿名でお願いいたします。)

    HP「物性なんでもQ&A」を拝見し先生にご質問がありメールを書いた次第です。

    誘電材料について素人で誠に恐縮ですが以下の性質を持つ材料を探しております。

    耐高電圧(直流)特性を持ち(絶縁抵抗が高い)かつ誘電分極率の高い材料

    上記のような材料についてどのようなものがありますでしょうか。
    ご存知であれば、是非お教えいた頂きたく存じます。

    大変ぶしつけで誠に申し訳ありませんがよろしくお願い致します。
    失礼します。
    --------------------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 21 Oct 2003 20:59:26 +0900
    N様、佐藤勝昭です。
     高耐電圧、高誘電率ということですが、薄膜で使うのかセラミクスでよいのか、電力用 かエレクトロニクス用か、周波数はどのあたりで使うのかなど用途によっても答は違って きます。昔は、チタバリ(BaTiO3)などが高耐圧で強誘電性があるといってよく用いられて いました。最近は、FERAM等ではPZTが研究されているようです。酸化物多結晶体は作り方 や不純物の濃度によって絶縁耐圧などは大きく変わりますので、物質定数ではないと思い ます。
     おそらく電気学会・電子情報通信学会あたりから出ているハンドブック類に一覧表がで ていると思われますので、図書館で調べてみて下さい。
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    Date: Wed, 22 Oct 2003 11:52:16 +0900
    佐藤勝昭 殿
    S社Nです。
    先日
    HP「物性なんでもQ&A」での質問誘電材料について)の件について 迅速なるご返答誠に有難うございました。

    何分手探りの中、検討を進めております為先生の貴重なご意見を是非、参考にさせて頂きたいと思います。
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    268.異方性物質のファラデー効果

    Date: Wed, 22 Oct 2003 01:12:53 +0900
    佐藤 先生
     突然のメールで失礼いたします。
    私は東京大学工学部の松原と申します。
    この度は、異方的な物質におけるファラデー回転の測定法についてお聞き致した く、メールさせて頂きました。
    現在、佐藤先生の書かれた本(光と磁気)と同じ測定系、同じ測定原理で磁気光 学の測定をしています。
    等方的物質における測定に関しては問題ないのですが、εyx が -εxy に等し くないような異方的結晶における磁気光学効果(Kerr効果、Faraday効果)の測定に関して同じような原 理で測定できるものかどうかと疑問をもっております。
    私の解釈では、このような場合直線偏光の偏光方向の違いによって、当然、サン プルから出射される光が 受ける磁気光学効果(回転角、楕円率)に違いが出てきます。しかし、現在の PEMを使用したシステムに おいては、光の偏光に変調をかけているため、特定の偏光方向が定義できず、異 方的物質における 磁気光学効果の測定を行うにおいて、同じ測定法が使えるものかどうか甚だ疑問 に感じられます。
    そこで、 このような異方的結晶において、同じような手法を用いて測定可能かどうか お聞かせ頂ければと思っております。
    理想的には、εyx と εxy を分離して測定できれば一番よいと思うのです が、そのような測定を 可能にするようなお考えをお持ちでしょうか?
    もしご存知であれば、ご面倒だとは思っておりますが教えていただけると幸いです。

    お忙しいところ誠に恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
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    Date: Wed, 22 Oct 2003 10:41:34 +0900
    松原様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。
    一般に異方性結晶の磁気光学効果の測定は、大変困難です。
    古くは、KahnらのRFeO3, 腰塚らのFeBO3の測定があります。
    異方性結晶では誘電テンソルが等方性結晶のようには3つのパラメータで表せないのです。 そのような一般の場合の解析法は、チェコのVishnovskiらが論文で展開していますが、単 純ではありません。実際の系では、Orthorhombicであってもaとbが近い場合には近似的に tetragonalとして扱ったりしていますが、その場合もc面のみでして、正確な解析は困難 です。
    円偏光変調法は一種の偏光解析なので、入射方位と入射角を変えてデータをとれば、フィ ッティングによってパラメータを得ることができるはずですが、市販の偏光解析装置でも 異方性結晶の解析はむずかしいので、面倒くさいことはたしかです。 時間があってじっくり取り組むつもりがあれば、Vishnovskiの論文を読まれてはいかがで しょうか。
    S.Visnovsky: Magneto-optical ellipsometry; Czech. J. Phys. 36, 625-650 (1996)
    S.Visnovsky:Magneto-optical polar Kerr effect in a film-substrate system; Czech. J. Phys. B 36, 834-847 (1996)
    O.Cermakova, S.Visnovsky: Birefringence in YAlO3:Nd between 2-4.7eV; Czech. J. Phys. B36 536-542 (1996)
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    Date: Wed, 22 Oct 2003 16:08:26 +0900
      佐藤 先生

     お返事どうもありがとうございました。
    東大工学部の松原です。
    異方性結晶の磁気光学効果を測定するのが大変だということが分かりました。 私が計算した結果では、以下に示しますように異方性結晶においても εxy と  εyx を分離して測定するこが できるような気がしております。
    添付ファイルにて簡単な計算結果を書かせて頂きました。

    このような測定で、磁場を反転させて出てきたシグナルの差をとれば、通常の異 方性の成分は消えるため 磁気光学効果に寄与する εxy と εyx の寄与だけを純粋に拾えることがで きるような感じがするのですが どのようにお考えになられますか?

    煩わしい式の羅列で誠にご面倒だとは思っておりますが、もしよろしいようでし たらもう一度お返事を頂けると 助かります。
    お忙しいところまことに恐縮ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
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    Date: Thu, 23 Oct 2003 15:16:36 +0900
    松原様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    式をフォローしました。
    おっしゃるように検光子の向きを変えることで、測定できますね。
    ただ、もはや、右回り円偏光と左回り円偏光とが固有状態ではなくなるので、旋光角や楕 円率については単純なものではなく、入射偏光に依存するものになります。
    そのあたりのところは、マクスウェル方程式に戻って、固有値・固有関数を求めていけば 明確になるでしょう。
     なお、光と磁気改訂版にたくさんの間違いが見つかっています。Webでご確認下さい。
    正誤表
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    269.ダイヤモンドと黒鉛の色のちがい

    Date: Thu, 23 Oct 2003 15:16:15 +0900
    Q1: 佐藤 勝昭 先生
    はじめまして。日本化学工業協会高橋と申します。
    一般消費者の方に科学を身近に感じてもらおうと、科学に関係のあるテーマについ て紹介するコラム等をつくっています。
    このたび 「ダイヤモンドと黒鉛」をテーマとして取り上げ、同じ炭素からできて いるのに外観や性質に、ものすごい違いがあるということを分かりやすく説明したいと、ウ ェブで調べているうちに、先生の素晴らしいページにめぐり合えました!
    お忙しい中恐縮ですが、御存知の範囲で構いませんので、以下の質問にお答え 頂けたらと存じます。

    質問:
    一般にダイヤモンドが透明で、黒鉛が黒いのはなぜですか?
    黒鉛が黒いのは自由電子(π電子)が光を吸収するからなのでしょうか?
    もしそうだとすると、他のπ電子リッチな物質(カロテン等)が色つき なのに、黒鉛で黒になるのはどうしてでしょうか?
    また、ダイヤモンドが無色透明なのは、すべての炭素の結合に電子が使われ(SP3) 、動ける電子がないことと関係があるのでしょうか?? 中高生にも納得できるような説明はできないか・・と思っています。
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    Date: Thu, 23 Oct 2003 20:38:56 +0900
    A1: 高橋様、佐藤勝昭です。
     身近な科学知識の普及にご努力されている由、敬服します。
    > 一般にダイヤモンドが透明で、黒鉛が黒いのはなぜですか?
     ダイヤモンドと黒鉛は結晶構造が全く違います。
     ダイヤモンドは、シリコンとおなじ共有結合結晶です。許される電子のエネルギーはバ ンドという幅のある領域に広がり、その席を(ご指摘のように)結合に使われる電子が占 有しているバンド(価電子帯)と、席はあるが(結合に使われてしまったので)電子の占 有していないバンド(伝導帯)にわかれます。価電子帯と伝導帯の間には席がなく電子が 占有できない「バンドギャップ」状態があります。光のエネルギーがバンドギャップを超 えると吸収がおきます。シリコンではバンドギャップが1.1eVなので、それ以上の光子エ ネルギーの光は吸収します。従って1.1eV以上のエネルギー(1127nmより短い波長)の光 (従って、可視光や紫外光)は透過しません。一方、ダイヤモンド無色透明なのは、バン ドギャップが6eV付近にあるため、光の吸収がおきるのは5.2eV以上の光子エネルギー(波長 238nm以下の紫外光)の光に対してなので、可視光が全部透過するからです。
     黒鉛は、蜂の巣状に共有結合した炭素の層が分子間力で緩く結びついた構造です。層の 中は金属的な伝導性を持ちますが、層間は半導体的です。層内では電子のエネルギーバン ドの席の一部しか占有しないので、赤外、可視、紫外にかけて連続的に吸収が起きて黒い のです。自由電子吸収によって黒いのではありません。

     これを中高生にわかるように説明するのはむずかしいです。バンドギャップと色の関係 は光のエネルギーと波長、人間の目の見え方などいろいろなことを理解して始めてわかる ことです。
    物性工学概論の半導体の色のところのOHPの特に、11番目のスライドをご覧下さい。
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    Date: Fri, 24 Oct 2003 12:44:48 +0900
    Q2: 佐藤 勝昭 先生
    お忙しい中、ご丁寧に回答くださり、ありがとうございます。
    しかし・・・・難しいです!
    ダイヤモンドを科学の話題として取り上げるとすれば、誰もが あのクリスタルな輝きの理由を知りたいに決まっていると思うのですが、調べても どこにも出ていませんでした・・・やっぱり難しかったんだ!と思いました。

    価電子帯、伝導帯、バンドギャップという言葉は以前、長残光性蛍光体 (根元特殊化学のルミノーバ)を調べた時に出てきた記憶があります(半導体の概念 ?)。
    そのときも、(私は化学出身、しかも不出来なもので)よくわからないなーと感じ ていました。
    『色』や『光』は身近で親しみやすく、興味を引く現象ですが、説明するのはとて も難しいですね。
    ・・・というより、日常何気なくやり過ごしている、どうってこともない現象を素 朴な疑問の眼で見ると、分からないことだらけで困ってしまいます。

    先生のページや著書を参考にさせて頂き、(なんとなくでも)理解したいと考えてい ます。ありがとうございました。また質問させていただくかもしれませんが・・・その節 はよろしくお願いいたします(すごくズーズーしいですね)
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    Date: Sat, 25 Oct 2003 00:16:59 +0900
    A2: 高橋由佳様、佐藤勝昭です。
     昨日は、本日のマグネティックス研究会の準備をしている最中にメールを頂いたの で、難しい説明でごめんなさい。
     化学出身の方であれば、HOMO(highest occupied molecular orbital)とLUMO(lowest unoccupied molecular orbital)という言い方はおわかり頂きやすいでしょう。価電子 帯はLUMO、伝導帯はHOMOです。HOMO-LUMOのエネルギー差はcovalency(共有性)の強さ を表していますよね。ダイヤモンドは、強い共有結合で結びついているので、 HOMO-LUMOのエネルギー差が大きいのです。電子がHOMOからLUMOに移るには、その大き なエネルギー差に相当する光子(これは紫外光)を吸収する必要があります。逆に言 えば、それより低いエネルギーの光(長い波長の光)に対しては光吸収が起きないの です。それで、無色透明なのです。
     なお、ダイヤモンドの「クリスタルの輝き」の原因は、屈折率が2.4近くあるため (ちなみにガラスは1.5程度)、カットの仕方次第で全反射を起こしやすいことが原因 です。屈折率が高い理由は、強い吸収が紫外領域に存在することと関係しています が、これも量子力学を学ばないと、本当の説明にはなりません。
     大学で物理の学生に、光物性を教えていますが、3年生でも十分理解できないよう で、いかに分かりやすくして興味をもってもらうかが、教員の腕の見せ所です。  物性工学概論のシラバスをご覧いただければ、その工夫の一端は理解頂けるとぞん じます。従って、中高生に正確に説明することは不可能です。中高生に分かるようだ と、大学で教える意味がありません。
     もちろんし、やさしく教える工夫を放棄してはいけないと思います。ある程度アナ ロジーで教えておき、(変にわかった気にするのでなく)これ以上のことは、「大学 で勉強しましょう」として、向学心を刺激しては如何でしょうか。
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    Date: Thu, 6 Nov 2003 16:07:15 +0900
    Q3:佐藤勝昭 先生
    先日は、より詳しくご解説くださりありがとうございました。
    自分なりになんとなく分かった気でおります。
    複雑なことはともかく、ダイヤ(透明輝きあり)と黒鉛(黒い)の違いは、「結晶の 中に束縛されていない電子があるかないか」で生じていると考えてよいのでしょうか? 色がつくということは可視光内のエネルギーで電子が動くかどうかということです よね??

    作成しているコラムは、中高生程度の内容といっても、実際の読者は化学に全く興 味のない消費者(例えば化学は得体の知れない怖いものとさえ思っている中高年の主婦等)を想定し ているので、「これ以上は大学で」ということはできず、その場限りで納得させ、完結しなけれ ばならないのです。
    したがって、色が見える仕組み、物質中の電子が光の吸収とどう係るか等、難しす ぎるとは思うのですが、「ダイヤと黒鉛のもとが同じだなんて!」はテーマとしては興味を引き面白いと思 うし(時間的な余裕もないので)困っております。

    前回メールで『ダイヤモンドの「クリスタルの輝き」の原因は、屈折率が2.4近くあるため (ちなみにガラスは1.5程度)、カットの仕方次第で全反射を起こしやすいことが原因 です。屈折率が高い理由は、強い吸収が紫外領域に存在することと関係しています』 ということですが、外から入ってきた光がダイヤの中で強く折れ曲がってしまうの と、紫外領域の吸収とどのように関係しているのでしょうか?(ガラスは同じ透明でも紫外部の吸収は ない??)
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    Date: Thu, 6 Nov 2003 18:08:09 +0900
    A3:高橋由佳様、佐藤勝昭です。
     束縛されない電子があるかどうかだけでは可視吸収の程度は決められません。
    シリコンもガリウム砒素も黒い物質ですが、これは、結合に関与して束縛されている電子 が可視光というエネルギーの小さな光でも吸収すれば自由になることができるからです。 ダイヤモンドでは、束縛が強いので、自由になるのにはかなりエネルギーの大きな光、つ まり、紫外線を吸収しなければならない、逆に言えば、ダイヤモンドでは、可視光線はエ ネルギーが不足しているので束縛電子を自由にできないので、可視光は吸収しないと考え られます。一方、グラファイトは結合に関与している電子が可視光を吸って簡単に束縛を 解かれるので、可視光線を吸収して黒いのです。もちろん自由電子もいるのですが、これ による光吸収はせいぜい赤外線なので可視光吸収に寄与することはないでしょう。
     「外から入ってきた光がダイヤの中で強く折れ曲がってしまうの と、紫外領域の吸収 とどのように関係しているのでしょうか?(ガラスは同じ透明でも紫外部の吸収はない?? )」というご質問ですが、確かに説明不足でしたね。「屈折率」とは光の曲げられやすさ と言うより、光が物質中でどれくらい速度が遅くなるかの尺度といった方がよいでしょう。
     真空での光速cを物質中での光速c'で割ったものが屈折率で、スピードが遅くなる結果斜 めに入射するときに曲がるのです。
    なぜ物質中で光速が遅くなるかというと、物質中では 光は、電子分極(電磁波の高周波電界によって物質中の束縛電子が高周波で左右に移動さ せられることによって生じるプラスとマイナスの電荷の偏り)を引きずりながら進むから なのです。量子力学を使って調べると、紫外線領域での吸収が強い物質ほど電子分極が大 きくなります。ダイヤモンドとガラスでは、光が引きずって進む電子分極の大きさが違っ ていて、ダイヤモンドの方が大きな電子分極を引きずるので光速が遅くなり、屈折率が高 く、全反射が起きやすくなるのです。紫外線の吸収はガラスの方が長い波長で起きますが、 ダイヤモンドの方が吸収強度が大きいのです。
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    Date: Thu, 13 Nov 2003 17:35:28 +0900
    佐藤 勝昭 先生
    ダイヤと黒鉛の違いについて、以下のように整理しています。
     
    性質ダイヤ黒鉛
    かたさ硬い(共有結合)軟らかい(板間はファンデルワールス結合でしかない)
    透明(電子が動かない)黒い(動きやすい電子が可視光を吸収)
    輝き屈折率が大きく、入射光が反射する量が多い屈折率
    電気伝導性ない(自由電子なし)大(自由電子(π電子)あり)
    「色」と「輝き」についていくつかお聞きしたいことがあります。
    1. ものに色がついて見える仕組みは、「電子がどのような波長の光(可視光)を吸収するかによる」と考えてよいでしょうか?
      ・・・とすると、「光の吸収は、電子の動きやすさと深く係っている」→「黒鉛は電子が動きやすく、エネルギーの低い可視光を吸収し、黒い、ダイヤは電子が動きにくく、よりエネルギーの高いUV領域で吸収が起き、可視光は透過するので透明」という説明でよいですか?
    2. 以前質問したことがありますが、例えばπ電子リッチなベータカロテンやアゾ染料等の色素に橙色や青色等の色が付いて見えるのも、可視光のうちどの光を吸収するかによるとの考え方でよいのですか?色素の分子にもバンドギャップの考え方(半導体のところで出てくる)で考えられるのですか?
    3. また、硫化亜鉛ZnS(Eg=3.5eV)は、可視光域はすべて透過するのに「白色」なのは何故ですか? (白と透明のちがい、基礎的なことが押さえられていない??)
    4. ダイヤモンドは屈折率が大きいので輝くということについて、屈折率が大きいと輝くのですか?以下のウェブのような考え方でよろしいのでしょうか?http://www006.upp.so-net.ne.jp/tasumi/idhp/ring/physics.html
    5. 黒鉛の屈折率は、ダイヤより小さいでしょうか?(調査不足でスミマセン)
    6. 屈折率と電子の状態について理解するためのわかりやすい参考書がありましたらお 教えください。
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    Date: Thu, 13 Nov 2003 18:27:55 +0900
    高橋様、佐藤勝昭です。
    1. 光の吸収と電子の動きやすさには直接関係はありません。
      たとえば、ルビーのピンク色は母体であるAl2O3(サファイア)に添加されたCr^3+イオンの 3d^3多電子系の吸収帯が緑と紫の波長領域にあるためですが、Cr^3+の3d電子は原子核に 強く束縛されていて結晶中を動き回れません。(これを局在電子系といいます。)光の吸 収は極めて局所的に起きます。結晶中におかれたCrのd電子は酸素のp電子と混成してエネ ルギーの低いt2g軌道とエネルギーの高いeg軌道に分裂しています。ルビーの緑付近の吸 収帯はt2g→egの遷移が関与しております。このような遷移を結晶場遷移といいます。こ の遷移はそれほど強くありませんが緑が吸収されて補色がピンクになるには十分な吸収強 度があります。電子が基底状態で動きやすいかどうかは光吸収に関係がありません。強い 吸収が起きるかどうかは、その光学遷移が許容であるか禁制であるかによるものですから、 一概にいえるものではないのです。ルビー、ブルーサファイア、グリーンサファイアは Al2O3におかれたそれぞれCr, Ti, Feにおける局所的な結晶場遷移により着色しています。 これは1電子系のバンド理論では説明ができません。
    2. ベータカロテンのような有機分子における光学遷移はπ電子系におけるπ→π*遷移によ り吸収が起き、透過光はその補色が見えているのです[注]この遷移は分子内で局所的に起きますから、 半導体のバンド間遷移のように結晶中に広がった電子軌道間の遷移とは異なりますが、共役二重結合の広がりの範囲が広いほど低エネルギー(長波長)の光を吸収しますから分子鎖が短いものは紫外光しか吸収しないが、長いものほど可視光を吸収しやすくなります。
    3. 硫化亜鉛に限らず、可視光に吸収のない「無色透明」な物質は、結晶では光が透過して しまいますから無色ですが、粉にするとあらゆる波長の散乱光が戻ってくるので白く見え ます。氷砂糖も岩塩も固まりは無色ですが、粉にすると白くなります。
    4. ダイヤモンドの全反射についてはご指摘のWebの考えでよいと思います。
    5. 黒鉛の屈折率は、PalikのHandbook of Optical Constants of Solids IIの455ページ以 降に表が出ています。
      常光線に対する屈折率は
      400nm(紫)では2.62, 459nm(青)では2.64, 539nm(緑)では2.67, 620nm(赤)では2.86  異常光線に対する屈折率は、可視光全般にわたって2.02です。
      従って、屈折率的にはダイヤモンドと同程度ですが、吸収が強いので、ダイヤモンドのような 輝きはありません。
    6. 屈折率と電子状態についての教科書としては、私の教科書(応用電子物性:コロナ社、機能性材料のための量子工学第4章:講談社)がよいと思います。
    以上よりダイヤと黒鉛のちがいは下記のようにしてはいかがでしょうか
     
    性質
    ダイヤモンド
    黒鉛(グラファイト)
    かたさ硬い(共有結合)軟らかい(板間はファンデルワールス結合でしかない)
    透明(電子が強く束縛されているので
    紫外線のエネルギーがないと自由にならない)
    黒い(電子の束縛が弱く可視光の吸収でも自由になれる)
    輝き屈折率が大きく入射した光が全反射しやすい吸収が強くかつ屈折率が大きいので黒光り
    電気伝導性ない(自由電子なし)大(自由電子(π電子)あり)

    注:中田宗隆:電子スペクトル(2)分子の色とπ電子;現代化学2002.10, p.56

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    270.電析膜の光学的バンドギャップ

    Date: Sat, 25 Oct 2003 5:34:54 +0900
    Q: 以前にも質問(
    電析膜の光吸収)をさせていただいた早大のIです。
    匿名でお願い致します。
    以前は親切にお答えいただきありがとうございました。

    現在もZnTeを電析でSnO2基板上に作製しており、その光学的測定をUV/ViSで行なっております。
    膜厚は100nm前後(重量法により算出)、表面状態は、顆粒状になっております。
    このような膜の光学的バンドギャップを求めたいと考えていますが、その際に、透過率及び反射率の値が必要になると思います。
    膜の表面が顆粒状であるため、光の散乱などが起こっていると考えております。
    このような場合、光吸収係数の算出に及ぼす影響はどうなのでしょうか?(算出は可能ですか?)
    そのためか、透過率の測定を行っても、急嵯な吸収の様子が測定されず、ダラダラと透過率が下がっている結果となりました。 このような場合でも、透過率と反射率を用いて光吸収係数やバンドギャップを算出しても大丈夫なのでしょうか?
    また、反射率の測定は、積分球を取り付けて反射率の測定をした方が良いのかどうかもあわせて教えて下さい。
    また、ZnTeは直接遷移の半導体なので、一般に、(αhv)2vs(hv)の関係を用いてバンドギャップを算出すると思いますが、もし、反射率を測定せず、透過率のみから算出を行なうとすると、ahvではなく、(定数*ahv)になると思います。この場合でも、(定数(αhv)2vs(hv)からバンドギャップの算出を行っても大丈夫なのでしょうか?
    質問が多くて申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
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    Date: Sat, 25 Oct 2003 10:40:34 +0900
    A: I様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。顆粒状ということですが、どのくらいの粒子のサイ ズでしょうか。光の波長に比べ粒径が十分小さければ、ほとんど散乱を受けません し、波長より十分粒径が大きくても散乱はわずかです。最も散乱が多いのは、粒径と 波長がcomparableな場合です。
     散乱が多いときは基板との境界からの反射光と膜表面からの反射光の干渉はありませんから、 反射の補正は不要で、透過光のみの評価でよいと思います。
    この散乱がレーリー散乱であれば、短波長側で散乱が大きくなりますが、 100nmもの厚みがあれば、吸収係数は十分急峻に立ち上がるので、散乱によって吸 収端が緩やかになるとは考えられません。粒子の大きさが不揃いだったり、隙間が あったりして、部分的に透過しやすいところと、透過しにくいところがあると、吸収 端の立ち上がりが緩やかになるでしょう。まずは、膜厚の均一性を高め、粒子間が ぴったりと密着しているような緻密な膜を作ることが先決です。(αhv)2vs(hv)に合 わせるなどと言うのは、十分によいスペクトルが得られてからでないと意味がありま せん。
     粒状物質の吸収スペクトルを評価する方法としては、たしかに積分反射球を用いた 散漫反射測定があり、粉体の場合に使われています。吸光度をA、透過率をT、反射率 をRとすると、A+T+R = 1と表されます。十分厚くて吸収Aが透過Tより十分大きいな らば、A=1-Rとして、吸収が評価できますが、正確なスペクトルを求められません。
     スペクトルの評価の以前に、膜質の改善にもっと努力されることをお薦めします。 粒径を大きくするには、何らかのfluxを用い、熱処理の際にfluxが融解して成長を助 けるようにするなどの工夫が必要でしょう。スクリーン印刷法やスプレー法で形成さ れたCdTeの太陽電池では熱処理の際にCdCl2がfluxとして用いられて粒径の向上に寄与 してという話を聞いたことがあります。ご参考までに。
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    271.人工オパールと天然オパールの屈折率のちがい

    Date: Sun, 26 Oct 2003 09:56:50 +0900
    Q: はじめまして。A高校 普通科 Mといいます。
     HPを拝見し、とても分かりやすく解説いただいているので、メールさせていただきま した。
     いま、趣味の一環で人工オパールについて調べています。
    最近、光ファイバーなどの通信技術にも使われるようになり、またもともと結晶構造 をもっていない非品質であるため人工でも科学的に同じ物として宝石店などで、少し 値を下げ出回っているみたいですが、そんな人工オパールの中でも可視光線で虹色に 見えるための屈折率は、鉱物であるオパールとまったく変わらないのでしょうか?  どうかお答えくださいますようおねがいもうしあげます。
    また、フォトニック結晶を理解するための資料でお勧めのものがありましたらお教え ください。
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    Date: Sun, 26 Oct 2003 12:35:19 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
    人工オパールと天然のオパールはどちらもわずかに水分を含むSiO2(二酸化珪素)の微 粒子が部分的に配列してフォトニック結晶を作っていることによってあの様な美しい 虹色が生じています。人工オパールと天然オパールは化学的組成・物理的特性・光学 的性質に、ほとんど違いがありません。天然宝石は自然環境の中で何億年という長時 間と自然環境の揺らぎの蓄積によってできたもので、限りある自然の造形物です。一 方、再結晶宝石は人工的に自然の現象を模倣し、人工的環境のもとで育てた「理想物 質」です。人工の方が不純物のインクルージョンやキズも少ないので物質としては純 粋ですが、自然界の偶然が作り出した最高級のものに比べると、見劣りがするようで す。
    京セラのジュエリー関係のホームページ を参考にしました)

    フォトニック結晶についての資料ですが、インターネットで検索すると、ずいぶんい ろいろなサイトに紹介されています。特に、宝石屋さんのサイトがわかりやすいですね。

     本も出ています[例えば、川上彰二郎著:フォトニック結晶技術とその応用(シーエ ムシー出版, 2002年、定価なんと65,000円)]が、はっきり言って高校生には基礎とな る数学や物理学の知識がないので、読みこなすことは無理でしょう。

     応用物理学会誌でも、光通信デバイスを前提にしたフォトニック結晶の解説が、馬 場先生、野田先生などによって書かれています。いずれも、物理工学系、電気電子系 の大学院生以上の研究者向けに書かれていますので、高校生には難しいと思います。

    1. 応用物理, Vol.71, No.11, p.1357-1361 (2002)
      フォトニック結晶による光子制御 (最近の展望) :野田 進・浅野卓・山本 宗継
    2. 応用物理, Vol.71, No.10, p.1251-1255 (2002)
      金属クラスターを用いたシリコンナノ円柱の加工とフォトニック結晶の作製: 多田哲也・ウラジミールV. ポボロッチ・金山 敏彦
    3. 応用物理, Vol.68, No.12,pp.1372-1375(1999)
      フォトニック結晶のレーザー動作(最近の展望):迫田和彰・井上久遠
    4. 応用物理, Vol.67, No.9, pp.1041-1045(1998)
      フォトニック結晶とその応用(最近の展望):馬場俊彦・池田充貴・神澤尚久・ハンスブロム
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    Date: Sun, 26 Oct 2003 20:39:27 +0900
    AA: ありがとうございます。
    こんなに早くお返事していただけて、とても感謝します。
    「フォトニック結晶技術とその応用」の本は、ネット検索でよくヒットするので一度 読んでみようかなと考えてもいましたが、難しいですか。
    勉強(そっち系の)しとくべきでした。
    そしたら、少しは理解出来るはず。
    まあ、理解できないながらも読んでみようとおもいます。
    先生が紹介してくださった参考書を調べてがんばってみます!
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    272.スピン依存平均自由行程

    Date: Mon, 27 Oct 2003 13:10:10 +0900
    Q: 佐藤先生
    こんにちは、始めまして。
    広島大のWと申します。
    先生のHPを見ていつも勉強になりましてありがとうございます。
    磁性体に関する事なんですが、強磁性体で伝導電子の平均自由行程が伝導電子のスピ ンがupとdownの場合違うと言ってますが、このことについて教えていただけないで しょうか?GMR効果の説明でよく出ていますが、あまりよく理解出来てないですので、よろしくお願いいたします。
    またそれが説明されている教科書などをご存知でしたら、それも一緒に教えていただ けませんか?
    お忙しいところどうもすみませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
    もしネットで公開する場合はすみませんが匿名でお願いいたします。
    以上よろしくお願いいたします。
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    Date: Mon, 27 Oct 2003 20:36:41 +0900
    A: W様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。強磁性体の内部において、up spin(磁性体の磁化と平 行のスピンをもつ)電子とdown spin(磁性体の磁化と反平行のスピンをもつ)電子とで散乱 が異なるという現象は、あまり顕著ではありませんが、磁性体/非磁性体/磁性体という GMR構造の界面においては散乱のちがいが顕著になります。この現象はspin-dependent scatteringと呼ばれています。以下に「GMR構造における伝導電子の平均自由行程のちが い」についてお答えします。
    添付の図をご覧下さい。青の層は磁性体、黒の層は非磁性体です。
    上の層はフリー層といって、外部磁場で磁化の向きが変化する層で、下の層はピン層とい って外部磁場によらず磁化の向きが一定方向にピン留めされている層です。
    左側の図は、フリー層の磁化がピン層の磁化と平行な場合です。ピン層の電子のスピンは ピン層の磁化と同じ右向きです。この電子が電界によって赤線のように移動してフリー層 に入っても、電子スピンと磁化の向きが同じなのでスピン依存散乱を受けません。
    一方、右の図は、フリー層の磁化がピン層の磁化と反平行な場合です。この場合は、ピン 層の電子がフリー層に入ると、磁化の向きが反対なので、スピン依存散乱を受けて進路が 曲げられてしまいます。従って、平均自由行程(散乱されるまでに走行する距離)が短く なります。このように、電子スピンの向きが層の磁化と平行(up spin)か、層の磁化と反 平行(down spin)かで、散乱までの距離が異なるということを表しています。
     参考になる書物としては、猪俣他編:MRAM技術~基礎からLSI応用まで~(サイペック 出版、2002、\42,000)、川西他編:磁気工学ハンドブック(朝倉書店、1998、\50,000)な どがあります。図書館に行って調べて下さい。
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    Date: Mon, 23 Feb 2004 10:34:59 +0900
    Q2:佐藤先生:
    こんにちは、広島大学のWと申します。
    返事がこんなに遅れてしまいまして、本当に申し訳ございませんでした。
    実は私も今日初めて佐藤先生から既にメールが届いていてたのを知りました。
    家で普段あまり使ってないパソコンがあるんですが、 今日たまたまメールボックスを開いて見たら、先生からのメールが中にありまして 本当に嬉しかったです。実は前から返事がいつ来るかなとずっと待っていました。
    図まで添付して送ってくださいまして、丁寧なご説明どうもありがとうございまし た。
    後で佐藤先生が推薦してくださった本を調べて見たいと思いますが、 その前に今気になっている所がちょっとありまして、とりあえずを書いて見ました。 非常に単純なことかも知れませんが、そもそもup spinとdown spinが磁性体で散乱が 異なる原因はup spinとdown spinが磁性体の磁化との相互作用エネルギー(もしこれ だとすると交換相互作用エネルギーでしょうか)がそれぞれ異なるからだと考えてよろしい でしょうか?
    それと、強磁性体内部ではup spin電子とdown spin電子とで散乱 の違いはあまり 顕著ではありませんが、GMR構造の場合は違いが顕著になるということは やっぱり界面でのなんらかの効果が大きく影響するからだと考えてよろしいでしょう か?
    お忙しいところどうもすみませんが、先生のご意見を聞かせていただけたら大きな助 けになると思いますので、是非ともよろしく御願いいたします。
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    Date: Mon, 23 Feb 2004 12:49:45 +0900
    W様、佐藤勝昭です。
    今回のご質問にお答えします。
    (1)up spinとdown spinが磁性体で散乱が異なる原因磁性体の磁化との相互作用エネル ギー(もしこれだとすると交換相互作用エネルギーでしょうか)がそれぞれ異なるからだ と考えてよろしいでしょうか?
    A:この話をする前に、金属のバンド構造について説明しなければなりません。添付図左の ように非磁性体ではフェルミ準位におけるup spinの密度とdown spinの密度は同じです。 これに対して、強磁性体においては、up spinの伝導電子のバンドとdown spinの伝導電子 のバンドは、交換相互作用で分裂して互いにシフトしています。しかし、フェルミ準位は そろっていますから、バンドの状態密度に差が生じます。(フェルミ面におけるup spin とdown spinの電子密度の差ΔnにμB(Bohr 磁子)をかけたものが金属磁性体の磁化の大き さMになります。M=(n↑-n↓)μB) 従って、非磁性体から磁性体に電子が入射するとき、 up spinとdown spinとで行き先の(空いている状態の)密度が違うのですから、当然散乱の 受け方が異なるのです。 強磁性体のバンドが交換分裂しているため、散乱ポテンシャル が異なったと考えてよいでしょう。
     
    (2)それと、強磁性体内部ではup spin電子とdown spin電子とで散乱 の違いはあまり 顕著ではありませんが、GMR構造の場合は違いが顕著になるということはやっぱり界面で のなんらかの効果が大きく影響するからだと考えてよろしいでしょうか?
    A:質問(1)にお答えしたように、非磁性体を運動してきた電子は強磁性体との界面でup sipinバンドとdown spin bandの状態密度の差を感じてスピン散乱を受けると考えられま す。ご質問の通り界面における効果です。
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    Date: Tue, 24 Feb 2004 11:24:21 +0900
    AA:佐藤先生:
    こんにちは、H大学のWです。
    ご丁寧な説明どうもありがとうございます。
    先生の説明を読んで、一番基本的なことが分かりまして、今後の勉強方向も明確になりました。
    これからもよろしくお願いいたします。
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    273.鉄の固有振動数

    Date: Tue, 28 Oct 2003 14:15:11 +0900
    物性なんでもQ&A様へ
     物性なんでもQ&A様へ質問しますので教えて頂きたく思います。
    私は現在73才になる年寄りですが此れから述べることに非常に興味を持っていま す。ぜひ教えて頂きたいと思いますので宜しくお願いいたします。
     その内容とは或る鉄の塊に振動を与えてエネルギーを得その力を利用して機械を動 かしてみたいと思っています。私は一応電気工学は専攻しましたが機械関係については全 くの素人でその知識は工業高校生以下だと思っています。どうかその程度の人にも分か る程度に解説を宜しくお願いいたします。内容は70ΦX25~50L程度の鉄の塊に振 動を与えてその振動エネルギーを利用する重さはせいぜい500g~800g程度です。

    [質問の内容]
     ①物体(特に固体)はそれぞれ振動させた場合に固有振動を持っていると思うのですが
      もしそれがあるとしたら其の振動数の求め方を教えてください。
     ②上に示す振動数は重さに関係するように思うのですが其の場合重さが同じであれば
      他の材質たとえば銅の塊でもほぼ同じと言えるのでしようか。
     ③次にもしその塊をある振幅で振動させた場合にその振動数は振幅と関係するもので
      しようか例えば振幅が大きければ振動数は低く振幅が小さければ振動数は大きくな
      る等のような現象はあるのでしょうかお尋ねします。
     ④いま考えている形状はなるべく塊として利用したいので極端に細長いとか平べった
      いとかの形状は考えていません。
     以上の件まことに勝手な質問ですが宜しく御教授ください。また10日~14日くらいの 日時で何かご返事が頂ければまことに幸いです。 まだまだ不明なことばかりですので 今後とも宜しくお願いいたします。
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    Date: Tue, 28 Oct 2003 19:56:05 +0900
    A: 石田様、佐藤勝昭です。
     ご高齢にかかわらず、研究に熱心に取り組まれているご様子敬服します。
    質問に簡単にお答えします。
    (1)固有振動数
     振動数は振動のモードにより異なります。
    最も簡単には、円筒の長さ方向に1/2波長がn個乗る場合で、 長さLとしてL=nλ/2=nc/2f ここにcは固体中での音速です。
     f=nc/2L
    となります。
    音速は縦波振動c1と横波振動c2で異なります。
    理科年表によるとc1=√{(K+4G/3)/ρ}, c2=√(G/ρ)です。
    ここにρは密度、Kは体積弾性率、Gはずれ弾性率です。
     Feではc1=5950[m/s], c2=3240[m/s]です。
     Cuではc1=5010[m/s], c2=2270[m/s]です。
    すると、L=0.05[m]として
    Feの固有振動数はf1=整数×5950/(2*0.05)=整数×59500[Hz]
    すなわちFeにおいて縦波は59.5kHzの整数倍で共鳴します。同様に横波は32.40kHzの整数 倍で共鳴します。
    一方、Cuではそれぞれ50.1kHzと22.7kHzの整数倍で共鳴します。
    このほかに軸に垂直な面内における振動モードがあります。この場合は、円筒関数で表さ れるような振動が乗るので簡単ではありませんが、計算は可能です。
    (2)振動数と重さ
    上の式にありますように重さと言うより密度ρが関係し、ρが大きいほど振動数は低くな ります。FeとCuとの音速のちがいにはρのちがいが関与しています。ρはFeで7.86, Cuで 8.96です。
    (3)振幅と振動数
     共振周波数はf=nc/2Lに振動の振幅が含まれていないことからもわかるように、 振動数と振動の大きさは無関係です。
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    Date: Sat, 1 Nov 2003 11:58:33 +0900
    AA:  東京農工大工学部教授
      佐 藤 勝 昭 様

      物性なんでもQ&Aへの御返事の御礼

     10月28日のメールにて早速に御返事を頂き本当に有難うございました。 まだまだお聞きしたい事が沢山あります。 もし出来る事ならお会いしてご相談 頂きたいくらいですがお忙しい事と存じますのでしばらくはメールか出来れば お電話で御連絡させて頂きたく思います。
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    274.カーボンの赤外透過率

    Date: Thu, 30 Oct 2003 14:10:23 +0900
    Q:佐藤先生, 先生のWeb上のQ&Aを見ての質問です。

     私は高校で地学を中心に教えているものです。
    現在、太陽面では大型黒点が出現していて、磁気嵐やオーロラ出現など地球にも いろいろと影響が出ています。
     そこで、この肉眼で容易に見える太陽黒点を生徒に見せたいと思っていますが 手軽に太陽光を減光する手段として、顕微鏡プレパラート用のスライドグラスに ろうそくの炎(内炎)でススをつけたものをサングラスにしたいと思います。

     ここで気になるのが赤外における透過特性です。

    かつてネガカラーフィルムの感光部をサングラス代わりにするのは、赤外部の透 過が結構大きいために失明の危険があると指摘されて、教材として子どもたちに 見せるのはやめようということになりました。
     私の小学校時代に、確かにガラスにススをつけて太陽を観察した思い出があり ます。太陽の赤外部のスペクトルはよく調べられているので、スス(特にろうそ くの炎で作られるもの)の赤外部の分光透過特性がわかれば、目に到達する赤外 光の強度はすぐに判明します。

     実験データでなくとも、理論的な予想でも結構ですので、何かわかればお教え ください。
    岡山県鴨方高等学校 大島修
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    Date: Thu, 30 Oct 2003 16:29:13 +0900
    A: 大島修先生、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    グラファイト単結晶は異方性が大きく常光線と異常光線とでは屈折率、消光係数ともにか なりのちがいがありますが、粉体の場合には、吸収係数の大きな常光線に対するものが支 配的になります。PalikのHandbook of Optical Constants of Solids IIのp454にあるFig. 1およびp.455-のTable Iによると、赤外部の常光線に対する消光係数kは次の通りです。
    波長λ(μm)消光係数k
    0.82661.90
    1.0332.07
    1.5502.91
    2.0663.25
    3.1003.82
    4.1334.48
    5.5555.318
    6.0615.52
    7.1435.775
    8.8566.29
    12.48.75
    15.510.8
    20.6614.02
    30.9920
    61.9933.49
    消光係数kと吸収係数αの関係は
    α=2ωk/c=4πνk/c=4πk/λ
    透過率と吸収係数の関係は厚さdとして
    T=exp(-αd)
    ですから、
    膜厚= 200nm として透過率を計算しますと
    波長λ(μm)消光係数k吸収係数α透過率T(%)
    0.82661.92.8870E+050.31072598
    1.0332.072.5169E+050.651448572
    1.552.912.3580E+050.895021773
    2.0663.251.9758E+051.922397099
    3.13.821.5477E+054.52554462
    4.1334.481.3615E+056.568376711
    5.5555.3181.2024E+059.028108014
    6.0615.521.1439E+0510.14914324
    7.1435.7751.0155E+0513.12158789
    8.8566.298.9208E+0416.79388465
    12.48.758.8629E+0416.98939865
    15.510.88.7515E+0417.37223795
    20.6614.028.5233E+0418.18345126
    30.99208.1058E+0419.76676649
    61.9933.496.7855E+0425.74051313
    となります。
    Excelファイルをアップしました。膜厚をB1に入れると
    透過スペクトルが計算できます。

    これを見ると、近赤外線はほとんど透過しませんが、中赤外線は結構透過するようです。
    参考にして下さい。
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    Date: Thu, 30 Oct 2003 18:58:08 +0900
    AA: 佐藤先生

    大島@鴨方高校です。
    早速メールのご返事をいただきありがとうございます。
    さらにお電話までいただき恐縮しています。

     太陽の観察では、可視光での減光は10-5程度が適当ですので グラファイトの膜厚はもっと厚くなります。さっそく送っていただいたExcelで 膜厚を変えて再計算してました。
    太陽を適度の明るさで見られるようにするには、ススの層の厚さは0.1mm近い 厚みが必要ですので以下の表よりももっと透過率は小さくなると思います。

    膜厚= 550 nm
    波長λ(μm)消光係数k吸収係数α透過率T(%)
    0.82661.92.8870E+051.27069E-05
    1.0332.072.5169E+059.73129E-05
    1.552.912.3580E+050.0002331
    2.0663.251.9758E+050.001907957
    3.13.821.5477E+050.020095316
    4.1334.481.3615E+050.055977003
    5.5555.3181.2024E+050.134242816
    6.0615.521.1439E+050.185216981
    7.1435.7751.0155E+050.375372612
    8.8566.298.9208E+040.739887527
    12.48.758.8629E+040.763817351
    15.510.88.7515E+040.812088509
    20.6614.028.5233E+040.920682464
    30.99208.1058E+041.15830515
    61.9933.496.7855E+042.394403289
    太陽光のスペクトルは中間赤外以遠では光量が極端に落ち、さらに地球大気減光 も効きますのでまず問題ないと思います。
    ただ、ガラス上のススは剥がれやすいので、あくまで間に合わせとしての使用に 耐えるという程度で、実際には、佐藤先生が電話でお勧めしてくださったように 金属蒸着膜によるサングラスが最適であると思います。

    なお、これらの議論は昨日から今日にかけて天文教育関係のMLで盛んに議論され ました。佐藤先生からのメールとWebサイト(もうアップロードされたのですね、 すばやい!)を引用して、定量的に決着をつけることができました。
    どうもありがとうございました。
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    275.結晶中のポテンシャル

    Date: Thu, 30 Oct 2003 14:24:34 +0900
    Q1: はじめまして,長岡技術科学大学の修士1年の高原俊二といいます。
    結晶中の電子のポテンシャルエネルギーについて調べていて,
    先生のかかれていた
    『量子物性工学第6回資料2001.5.25 配布』 を読ませていただきましたが,
    各図中にかかれている文字がつぶれていて読むことができませんでしたので そこにかかれている文を教えていただきたく メールを送らさせていただきました。
    全部の図ではなく図3.8と3.9だけでよいので教えていただけると ありがたいです。

    よろしくお願いいたします。
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    Date: Thu, 30 Oct 2003 15:51:33 +0900
    A1:]高原君、佐藤勝昭です。
     たしかにpdfの図がつぶれていますね。
    HPの該当部分に拡大した図のpdfをアップしました
    なお、この原典は、佐藤勝昭、越田信義:応用電子物性工学(コロナ社)ですので、図書館で調べて下さい。
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    Date: Thu, 30 Oct 2003 16:22:03 +0900
    Q2: 早速の返答ありがとうございました。

    >なお、この原典は、佐藤勝昭、越田信義:応用電子物性工学(コロナ社)ですので、図書 >館で調べて下さい。
    お勧めいただいた本でも調べたいと思います。

    それと先ほど書き忘れた質問があります。

    『量子物性工学第6回資料2001.5.25 配布』 の4ページの式3.12と図3.8の間の文章で,
    「φ+は原子核の+電荷の位置に大きな存在確率|φ+|2 を有し,ポテンシャルエネルギーが低いが,φ-は原子と 原子の中間で大きな存在確率を示すので,ポテンシャル エネルギーが高い。」
    という文がありますが,この理由がよくわからなかったので 教えてください。

    よろしくお願いいたします。
    ---------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 30 Oct 2003 16:33:00 +0900
    A2: 高原様、佐藤勝昭です。
     電子はマイナスに荷電しています。その電子の存在確率が原子核(正電荷)の付近で大 きければ、電子のエネルギーはクーロンエネルギーの分下がります。一方、原子と原子の 中間付近に電子がいると、先のようなエネルギーの低下がないのです。
    ------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 30 Oct 2003 16:43:20 +0900
    AA: 重ね重ね質問に答えていただいてありがとうございました。
    とても参考になりました。
    ---------------------------------------------------------------------

    276.Alの焼鈍材と圧延材

    Date: Wed, 29 Oct 2003 00:32:56 +0900
    Q: HPを見ての質問です。
    知能生産システム工学科1年MKです。
    できれば匿名でお願いします。
    Alの焼鈍材と圧延材で、降伏応力や伸びが変わるのが なぜなのかわかりません。
    教えてくださればありがたいのですが・・・・。
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    Date: Sat, 1 Nov 2003 17:11:29 +0900
    A: MK君、佐藤勝昭です。
     その質問は、授業の宿題でしょうか?焼鈍材と圧延材のちがいは、機械工学では基本的 なことなので、詳細は、授業で指定されている教科書や材料工学ハンドブックなどで調べ て下さい。ヒントとしては、
     冷間加工すると転位密度が増え転移が絡み合うために転位が動きにくくなること
     焼鈍処理すると転位密度が減る。(合金の場合はときに析出がおきることもある。)
    参考書:打越二弥「機械材料」(東京電機大学出版局)p.26, p.58, p.86
    -----------------------------------------------------------------------
     

    277.LEDの発光の原理

    Date: Sat, 8 Nov 2003 20:59:03 +0900
    Q: 佐藤 先生
    突然のメール失礼します。
    私はK大学の大学生のYと申します。
    佐藤 先生の物性なんでもQ&AのHPを閲覧して突然ながらもこのメールを出しま した。
    只今、発光ダイオード(以下、LEDとします)の勉強をしているのですが、LED の発光現象を学んでます。
    「PN接合に順方向電圧を加えP型領域に電子を、N型領域に正孔の少数キャリアが 注入されその際に電子と正孔がそれぞれの領域に再結合し光を放出すると答えまし た。」
    次にその再結合して光を放出する際の事を電磁気学で考えたところ「再結合する際に 電子と正孔が引き合い電子が移動することで電流が発生しアンペアの周回積分の法則 が成り立ち誘電体(磁束密度)が発生する。また電流が発生することは電荷が移動し ている。電荷によって作られる界、電束密度が発生する。そして最後に電子と正孔が 再結合する事により電流が失いそれにより磁束密度が消滅する。・・・」
    光は電磁波と解ってはいるのですが。この後が解らないのです。
    この件は当然担当の教員に質問したのですが、講師の方で質問するのが出来ないので す(週に1度の実験にしか来ない)。
    佐藤先生の質問にお答えできない条件を拝見しました。もしこの質問にお答えが出来 ないのでしたら、ヒントをお教えください。
    お忙しいところ誠に恐縮ですが、どうぞよろしくお願い致します。
    ------------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 9 Nov 2003 10:19:21 +0900
    A: K大学Y君
     メールありがとうございました。
    再結合して発光する現象を電磁気学だけで説明することは不可能です。
    なぜならこの現象は量子力学的な現象だからです。p型領域に注入された電子を例に とって説明しますと、注入された電子の周りには多数のホールが存在するのですが、 ホールは電子の抜け穴ですから、いつかは電子が抜け穴に入って、(ちょうど水中の 泡が水に置き換われば消滅するように)ホールは消滅します。これを再結合といいま す。この時、電子のエネルギーはホールのエネルギーよりほぼバンドギャップと同程 度のエネルギーだけ高いので、再結合の際にそのエネルギーを光子エネルギーとして 放出するのです。同じことは、n型領域に注入されたホールについても言えます。こ れが、PN接合での発光現象です。
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 9 Nov 2003 12:00:32 +0900
    AA: K大学Yです。
    返信、並びに貴重な時間を割いて貰いありがとうございます。量子力学の視点でモノ を考えていきたいと思います。大変参考になりこれからもインターネットでの活躍頑 張ってください。
    ----------------------------------------------------------------------------

    278.空気の熱膨張係数

    Date: Mon, 10 Nov 2003 14:06:46 +0900
    Q: はじめまして、V社 Sと申します。
     当社のお客様より質問があったのですが、『空気の熱膨張係数を教えてもらいたい』との事 で検索していたのですが、どうしても解らず、Q&Aのサイトを見てメールさせて頂きました。
     宜しくお願い致します。
    ---------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 10 Nov 2003 15:00:44 +0900
    A: S様。
    理想気体の熱膨張については、ボイルシャルルの法則が成り立ちます。
    pV=nRT
    もし圧力が一定ならpΔV=nRΔT
    となりますから、ΔV=nRΔT/p
    体膨張率は、
     ΔV/V=nRΔT/pV=nRΔT/nRT=ΔT/T
    となります。
    体膨張率α=(1/V)(ΔV/ΔT)=1/T
    という単純な式になります。気体の種類を問わず、定圧下での気体のαは1/Tです。室温 ではT=300Kを代入して1/300=0.00333[K^-1]
    実際には空気は理想気体ではないので多少異なり、1atm, 100℃においてα=0.003671[K^-1] です。(岩波理化学辞典による)
    -----------------------------------------------------------------------------

    279.シリコンの屈折率

    Date: Tue, 11 Nov 2003 12:10:25 +0900
    Q: はじめましてSと申します。
     私は岐阜大学で太陽電池に関する知識を勉強しております。
    去年入学して、今年博士二年生になります。
    佐藤先生のHPを拝見してメール差し上げましたが、結晶シリコンの 屈折率について教えていただきませんでしょうか。
     結晶シリコンでは、約1100nmより短い波長の光は吸収されています 吸収係数と屈折率はそれぞれ複素屈折率の虚部と実部に相当し、これ らはクラーマスークローニッヒの関係で結ばれます。しかし、複雑な ので、複素の計算ができませんでした。結晶シリコンの屈折率はどの くらいでしょうか。お答えいただければ幸いでございます。
     Webにアップする場合、匿名を希望します。
     宜しく、お願いいたします。
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    Date: Tue, 11 Nov 2003 12:35:12 +0900
    A: S様、佐藤勝昭です。
    結晶シリコンの屈折率は、E.D.Palik "Handbook of Optical Constants of Solids" (Academic Press, 1985) のp.555に載っていますので、図書館で調べて下さい。
    ここには、ピックアップして示しておきます。
    波長nm 屈折率n 消光係数k
    206.61.012.909
    2501.583.632
    300.95.023.979
    350.25.4422.989
    4005.570.387
    449.24.6820.149
    499.94.2980.073
    548.64.0890.044
    601.93.9430.025
    645.83.8580.017
    696.53.7870.013
    746.93.7360.009
    805.13.6880.006
    826.63.6730.005
    826-1120(この間のnは記載なし) 
    11203.5360
    ---------------------------------------------------------------
    Date: Tue, 11 Nov 2003 14:24:52 +0900
    AA: 岐阜大学Sです。
     早速の返答有り難うございます。
     お勧めいただいたhandbookを図書館で調べたいと思います。
    研究に大変参考になりますから、心から感謝します。
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    280.CVDラジカルの平均自由行程

    Date: Mon, 10 Nov 2003 16:30:57 +0900
    Q: お世話になります。
    佐藤様、
    Web を拝見致しました。A社Sです。
    質問があります。
    質問、
    「CVD成膜で気相された分子のラジカルが成膜基盤まで到達する場合に、どの長 さまで保持されるのでしょうか?」です。
    もちろん、ガスの種類、圧力、チャンバーの形状等の条件などがあるとは思うの ですが、計算式等を教えて頂けたら幸いです。
    宜しくお願い致します。
    Web には匿名にてお願い致します。
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    Date: Thu, 13 Nov 2003 12:39:24 +0900
    S様、佐藤勝昭です。
     私はプラズマCVDの機構については全くの専門外なので、アモルファスシリコンの成膜 プロセスを分光的に追跡しておられた本学電気電子工学科の上迫助教授に転送し検討して もらっていまたところ、次のような回答をもらいましたのでお送りします。
    ==========================================================================
  • CVDにおけるラジカルの平均自由行程についてのご質問のようですが,この問題に対する 答えを簡単な式で表すことは困難ですので,できるだけ簡単なモデルに基づいてお答えし たいと思います。
    一般にCVDでは,ラジカルの挙動を考える場合,ラジカルが他の分子と衝突すると反応に よってラジカル自身が変化してしまうため,その挙動を単純な式で表すことができません。 (反応式を用いた複雑な数値解析が必要となります。)
    そこでここでは,PVD(物理的気相蒸着法)の場合のように,分子が他分子と反応しない と仮定して考えることにします。

    最も単純な例として,チャンバー内に1種類の分子(例えば,N2,SiH4など)が存在する ときを考えますと,その分子の平均自由行程λは次式で表すことができます。(※その導 出については,放電ハンドブック(電気学会),真空ハンドブックなど,多くの図書を参 照できます。)

    λ=1/(21/2nσ)=kT/(21/2pσ)=kT/(21/2πpd2)=3.11×10-24)T/(pd2) [m]

    ここで,nは単位体積あたりの分子数,σは分子の衝突断面積(m2),kはボルツマン定 数1.381×10-12 [J・K-1], Tは絶対温度[K],pは圧力[Pa],dは分子 の直径[m]です。
    この式を用いて,平均自由行程を計算できます。例えば,N2ガスの場合,d=3.7×10-10 [m]とし,常温T=300[K]とすると,次式で計算できます。

    λ=6.8×10-3/p[m]=6.8/p[mm]

    これより,圧力1[Pa]で,平均自由行程が6.8[mm] となります。
     SiH4ガスの場合には,dを4.1×10-10[m]とすれば,同様にして計算できます。

     次に,2種類のガス分子が混合して存在する場合ですが,この場合は式が少し複雑にな ります。(その導出についてはやはり,放電ハンドブック(電気学会),真空ハンドブッ クなどを参照できます。)結果のみを示しますと次式のようになります。

    λ=1/{21/2n1σ1+n2σ12(1+m1/m2)(1/2)} [m]

    ここで,n1,n2は分子1,分子2の単位体積あたりの分子数,m1,m2は分子1,分子2の分子量を表します。また,分子1と分子1の衝突断面積σ1,および分子1と分子2の衝 突断面積σ12は,分子1,分子2の半径をr1,r2として,次のように表されます。

     σ1=π(r1+r1)2=4πr12
     σ12=π(r1+r2)2

     また,n1,n2は,分子1,分子2の分圧p1,p2を用いて,次のように表されます。

           n1=p1/kT
           n2=p2/kT

     以上の式を用いて,2種類のガス分子が存在する場合の平均自由行程を計算できます。

     ところで,反応性をもったラジカルを考える場合,瞬間的あるいは局所的には,上述の 計算式で概算できますが,詳しい挙動は反応速度式などを用いて解析する必要があります。 参考として次のような文献が挙げられます。

    1) M.E.Coltrin, et al: J. Electrochem. Soc., 133, 1206 (1986).
    2) A. Yuuki, et al: Japan. J. Appl. Phys., 26, 747 (1987).
  • ------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 13 Nov 2003 13:20:37 +0900
    AA: 佐藤様、お忙しいところありがとうございました。
    ご紹介頂きました文献等も参考にしてみます。
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    281.オパールの色とシリカ粒子のサイズ

    Date: Wed, 12 Nov 2003 16:50:11 +0900
    Q: 佐藤先生へ
    A高校Mです。
    先日はお世話になりました。このホームページでもフォトニック結晶について扱っているので、参考にさせていただいています。
    今回再度,お聞きしたいことがありましてメールしました。
    オパールの色は、シリカの大きさと近い波長が白色光から出たときに可視光線内のど の色が強く出るか決まるそうですが、(300ナノメートルくらいなら赤色、200ナノ メートルくらいなら紫)なぜ、シリカの粒の大きさと光の波長が関係しているのかが いろいろと調べてみたのですがいまいち理解できません。
    簡単でかまいませんので教えていただけないでしょうか。
    お忙しいと思いますが、宜しくお願いします。
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    Date: Wed, 12 Nov 2003 20:20:09 +0900
    A: M様、佐藤勝昭です。
     オパールの色は、規則的な粒子の並びから生じた回折現象によるものです。

    強めあって出て行く光の波長をλ、入射角φ、回折角θとすると光路長差から
      d (sinφ±sinθ)=mλ
    という回折条件が求まります。dは周期、mは整数(回折の次数)です。
    正号は入射光と回折光が同じ側にあるとき。符号は反対側にあるときです。
    (桑原:光学技術、共立1984, p.448 式11.17による)
    いま、入射光と回折光が同じ側にあるとしてφ=θ=π/6とすると1次の回折では
      2d sin(π/6)=λ
    ここで仮に周期がシリカの粒径aの2倍としましょう。d=2aとして
      2a=λ
    となります。a=300nmならλ=600nm(赤), a=200nmならλ=400nm(紫)となります。
    多少条件が違っても、どこかの角度でこのようなことが成り立つと思います。
    (高校では回折条件を学んでいるはずです。)
    ----------------------------------------------------------------------------
    Date: Wed, 12 Nov 2003 23:45:07 +0900
    AA: 回折については、習ったのですが、いまいち理解不足で、ほんの読みあさりをして少 しずつ理解をしていってるところです。
    お忙しい中、ご丁寧にお答えいただきありがとうございました。
    ----------------------------------------------------------------------------

    282.金属微粒子の赤外光物性

    Date: Sat, 15 Nov 2003 23:23:44 +0900
    Q: 初めまして。電機会社で無機材料の研究、開発を行っていますHです。大変 申し訳ないのですが、社名、名前も匿名でお願いいたします。
     酸化物バルクや薄膜合成、通電特性の評価に長く携わってきましたが、 最近、光に関連するデバイス、評価の仕事に変わりました。光学定数で 検索をかけましたら、このような素晴らしい先生のサイトに出会いました。 そして、最近疑問だらけで困っておりましたので、どうしても質問したく思いまし た。
    素人質問ばかりで、質問数が多く、大変恐縮なのですが、ご回答願 えますでしょうか。

    *1(
    質問178の延長上にある質問)
     金属(例えばAL)を微粒子化すると何色に変わるのでしょうか?(可視光では 黒ですか。)
     金属微粒子の色は微細組織に関係するということですが、赤外の吸収についても ナノレベルの凹凸効果はあるのでしょうか?凹凸を感じずに透過してしまうのでしょ うか?
     金属をナノ粒子化するとサイズに伴って光学定数が変化することはありますか?  赤外線の1/2波長5マイクロメータより金属粒子が小さくても、赤外線を反射で きますか?(光学定数が変わらなければ、反射率も変わりないと考えていいですか?) 透過してしまいますか?白金黒は赤外線のように波長が長い光に対して、どのように 振る舞いますか?
    ( カーボンブラックが黒いのは、なぜですか?)
     数nmの金属微粒子集合体、分散体は、マクロ的に赤外線を反射も透過もしない 吸収体になりえるのでしょうか?
     上記の金属微粒子集合体、分散体の吸収量と、カーボンブラックのような黒い物質 の吸収量とを比べると、どちらが大きいのですか?
    また、水、有機物のように分子運動で赤外線を吸収する場合、半導体のように( 赤外線を吸収するものがあるかどうかはわかりませんが)光を吸収する場合と 比べると上記金属微粒子集合体、分散体の吸収量は、小さいのでしょうか? (全て1000Åの厚みとする)

    *2(質問258に関連)
     中赤外の金属の反射は、”一般に貴金属が高く、遷移金属は低いようです。 メッキのしやすさからいえば、Ni”と、コメントされておられますが、表において 例外としてAlが一番反射率が高くなっています。Alの特異な振る舞いは、n、kと 電子状態から説明できるものでしょうか?

    *3
     温室が暖かくなるのは、ガラスが赤外線を吸収し、ガラスが熱くなるからですか? それとも、外からガラスを通過し内部に入った赤外線が、外に出られなくなり、内部 の空気、植物等の水分や有機物に吸収されるからでしょうか?

    *4
     Si基板上にCVDで成膜したハイドロカーボン等の有機物が多く残ってい る光学定数のわからない薄膜の膜厚をエリプソメトリで測定しました。測定レ シピとしてSiO2 on Siを使ってコーシーの式でフィティングしたところ非常によく測定 値とシミュレーションが一致し、妥当な膜厚値がえられました。n、kは500nmあたり から長波長側で小さくなり、とくにKは長波長側で殆どゼロかわずかにマイナスという値にな りました。
    他の人が吸光度計の測定値から出したKのプロファイルでは、短波長は小さく、 長波長では大きくなるという結果になっています。フィッティングがうまくいき、膜 厚が妥当であれば、n、kは妥当な値が得られていると見ていいのでしょうか。

    どうぞ、宜しくお願いいたします。
    -------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 16 Nov 2003 17:34:11 +0900
    A: H様、佐藤勝昭です。
     非常に多くの質問を頂きましたが、金属微粒子の光学的性質の詳細については、私 も余り経験がなく、ご質問に正しく答えられるか自信がありませんが、一般的なこと をお答えしておきます。

    *1(質問178の延長上にある質問)
    Q: 金属(例えばAL)を微粒子化すると何色に変わるのでしょうか?(可視光では黒で すか。)
    → A: アルミをただ微粒子化しても、灰色になるだけです。ヤスリで擦って出てきた粉末 を見たことはありませんか。これに対し白金黒も現像銀も化学的な方法で微細化して いるので、単なる微粒子化したものとは異なります。

    Q: 金属微粒子の色は微細組織に関係するということですが、赤外の吸収についてもナ ノレベルの凹凸効果はあるのでしょうか?凹凸を感じずに透過してしまうのでしょう か?
    → A: 一般に半導体などのフォノンの赤外吸収の測定では、試料を粉末にして、アルカリ ハライド粉末に混入してプレスで錠剤に成形して透過率を測定することが行われてい ます。これは、微粒子化することにより物性が変わらないことを前提としています。 白金黒のようにナノレベルの構造を作ることによって、電子構造が変わってしまった としたら、当然赤外部の電子状態間の吸収も変わるでしょうし、ナノレベルの凹凸な どによって結晶構造が変われば、格子振動(フォノン)にも変化が起き赤外吸収につ いても変わるかも知れません。

    Q: 金属をナノ粒子化するとサイズに伴って光学定数が変化することはありますか?
    → A: 金属を微粒子化して誘電体に埋め込みますと、誘電率が金属と誘電体の重み付き平 均的なものに変わって見かけの光学定数が変化します。金属微粒子を添加したガラス のカラーはマクスエル・ガーネットの理論で説明できます。例えば、赤色のガラスは ガラスに金の微粒子を均一に添加したものです。

    Q: 赤外線の1/2波長5マイクロメータより金属粒子が小さくても、赤外線を反射で ますか?(光学定数が変わらなければ、反射率も変わりないと考えていいですか?)透 過してしまいますか?白金黒は赤外線のように波長が長い光に対して、どのように振 る舞いますか?
    → A: 微粒子化した金属の有効誘電率をもとめて変わらなければ反射率も変わらないで しょう。しかし、白金黒のようにナノ構造によって電子構造が変わって自由電子がな くなったような状態になれば、光学定数も変わり、反射率も変わるのではないかと思 いますが、調べたことはありません。

    Q: カーボンブラックが黒いのは、なぜですか?
    → A: カーボンブラックは炭化水素の不完全燃焼でできる炭素の微粒子です。結晶構造は グラファイト構造をしており、光学異方性があります。グラファイトは、蜂の巣構造 の炭素の層がファンデアワールス力で結びついた層状物質です。このため、面内では 金属的電子構造、面間は半導体的電子構造になっています。グラファイトのc面に垂直 入射した光の電界に対して、誘電率は面内の自由電子のためにドルーデの式に従って 実数部が負となり、比較的高い反射率を示しますが、斜め入射した光の電界について は面内成分は金属的、面直成分は半導体的となり、反射率は余り高くありません。 カーボン微粒子のサイズが波長と同程度の凹凸を持っていたとすると、入射光は多重 散乱され、最終的には吸収されて戻ってこなくなります。これがカーボンブラックの 黒い理由です。

    Q: 数nmの金属微粒子集合体、分散体は、マクロ的に赤外線を反射も透過もしない吸収 体になりえるのでしょうか?
    → A: 微粒子の粒径、分散する母体など、さまざまな条件を考慮して最適化すると、反射 を極力抑えることが可能であると思います。吸収については十分な厚みが必要です。

    Q: 上記の金属微粒子集合体、分散体の吸収量と、カーボンブラックのような黒い物質 の吸収量とを比べると、どちらが大きいのですか?
    → A: 表面を荒らすなどして何らかの方法で反射を抑えることができれば、金属の方が赤 外吸収が大きいと思います。

    Q: また、水、有機物のように分子運動で赤外線を吸収する場合、半導体のように(赤 外線を吸収するものがあるかどうかはわかりませんが)光を吸収する場合と比べると 上記金属微粒子集合体、分散体の吸収量は、小さいのでしょうか?(全て1000Å の厚みとする)
    → A:分子振動でも強い吸収、弱い吸収があります。分子振動の吸収では、吸収のピーク 波長では吸収が強いですが、それ以外の波長では弱いです。金属の自由電子による吸 収は、波長に対して連続的で、長波長ほど大きくなります。半導体の吸収は、吸収端 より短い波長で吸収が始まり、波長が短いほど大きくなります。従って、一概にどの 吸収が一番大きいか言えません。

    >*2(質問258に関連)
    Q: 中赤外の金属の反射は、”一般に貴金属が高く、遷移金属は低いようです。メッキ のしやすさからいえば、Ni”と、コメントされておられますが、表において例外とし てAlが一番反射率が高くなっています。Alの特異な振る舞いは、n、kと電子状態か ら説明できるものでしょうか?
    → A: Al, Inは遷移金属でも貴金属でもありませんが、ともに高い反射率を示します。決 して例外ではなく、これらは3価の非磁性金属で動きやすい自由電子の数が多いこと が原因でしょう。

    >*3
    Q: 温室が暖かくなるのは、ガラスが赤外線を吸収し、ガラスが熱くなるからですか? それとも、外からガラスを通過し内部に入った赤外線が、外に出られなくなり、内部 の空気、植物等の水分や有機物に吸収されるからでしょうか?
    → A: 後者が正しいのです。ガラスは可視光線は透過するが赤外線は通しません。ガラス を通った可視光線が植物に吸収され、熱(赤外光)に変換されますが、赤外線はガラス をから外に逃げないので温かいのです。

    >*4
    Q: Si基板上にCVDで成膜したハイドロカーボン等の有機物が多く残っている光学定数 のわからない薄膜の膜厚をエリプソメトリで測定しました。測定レシピとしてSiO2 on  Siを使ってコーシーの式でフィティングしたところ非常によく測定値とシミュレー ションが一致し、妥当な膜厚値がえられました。n、kは500nmあたりから長波 長側で小さくなり、とくにkは長波長側で殆どゼロかわずかにマイナスという値になり ました。他の人が吸光度計の測定値から出したkのプロファイルでは、短波長は小さ く、長波長では大きくなるという結果になっています。フィッティングがうまくい き、膜厚が妥当であれば、n、kは妥当な値が得られていると見ていいのでしょう か。
    →A: 半導体や絶縁体ならば、吸収端があり、それより長波長ではk=0になりま す。従って、あなたの測定結果はreasonableです。(Si基板上の膜の500nm付近の吸光 度は光が通らないので不可能です。何か間違っておられるのではないでしょうか。) なお、kは負の値をとることはありません。kが負であれば、適正でないパラメータが 使われたと思われます。光学定数n,kも膜厚dもわからない物質のn, k, dを決めること は基本的には不可能です。何らかの仮定をしているはずです。装置に組み込まれたソ フトを使う前に、そのソフトがどのような原理で膜厚や光学定数を導いているのかな どを取説で良く読んで、注意しながらお使いになるようお薦めします。
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    Date: Mon, 17 Nov 2003 00:11:11 +0900
    東京農工大学工学部
    佐藤先生
     早々に、夕方にお返事を頂きましてありがとうございます。
    今日の午後は、日差しがまぶしい程の良いお天気でござい ましたが、沢山の質問の回答の為に、お時間を割いてください まして、申し訳ありません。
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    283.オペアンプ回路の飽和現象

    Date: Sun, 16 Nov 2003 01:23:14 +0900
    Q:はじめまして。僕は前川佳史といいます。18歳です。大阪府八尾市に住んでいます。
    すみませんが質問をさせて下さい。
    僕はこのまえ図1のような回路でオペアンプの実験を行いました。
    実験1
     入力にVi=0.1Vを加えてみた。VR2=1k, 10k, 100k, 1Mと切り替えてVoを測定した。
     計算値では、VR2=100kでは、
      増幅率A=VR2/R1=100k/1k=100   出力Vo=0.1×100=10Vになるはずである。
    結果1
    Vi=0.1Vのとき
    VR2実測値Vo[V]計算値Vo[V]
    10.10.1
    101.01.0
    10010.010.0
    100013.0100.0

    このように、実測値は計算値にあってないことがわかった。

    実験2
     入力にVi=0.1, 0.2, 0.3V, VR2=1k, 10k, 100k, 1Mと切り替えたときのVoを求め、縦軸に出力電圧Voをとり,横軸にVR2をとると,図2のように出力電圧が頭打ちになるグラフがえられました。
    Vi=0.1Vのとき
    VR2実測値Vo[V]計算値Vo[V]
    10.10.1
    101.01.0
    10010.010.0
    100013.0100.0
    Vi=0.2Vのとき
    VR2実測値Vo[V]計算値Vo[V]
    10.20.2
    102.02.0
    10013.020.0
    100013.0200.0
    Vi=0.3Vのとき
    VR2実測値Vo[V]計算値Vo[V]
    10.30.3
    103.03.0
    10013.030.0
    100013.0300.0


    図2

    これは,何を意味しているんですか?また,なぜこのようなことがおこるのですか?
    どうか教えてください。お願いします
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    Date: Sun, 16 Nov 2003 22:48:43 +0900
    A:前川様、佐藤勝昭です。
    質問1
    実測値が飽和するのは、出力が±電源電圧以上には出せないことに基づいていま す。もしフルに電圧が出せたとしても±15Vですが、オペアンプの中身をみると、 差動増幅器になっていますから、共通のエミッタ抵抗のことも考えると、13Vく らいで飽和するのは自然なことです。
    質問2
    一般に、トランジスタ回路が線形動作するのは小出力の場合のみです。前川様の とられたデータは、Vi=0.1Vのときは10V出力までは線形動作しています。
    私の経験から見て、あなたの回路は極めて正常に動作していると考えられます。
    --------------------------------------------------------------------------
    Date: Sun, 16 Nov 2003 23:42:41 +0900
    AA:佐藤先生ありがとうございました。
    貴重な時間を割いていただき,すみませんでした。
    電気回路って難しいです。これから頑張って電気回路の勉強をします。さようなら。
    ------------------------------------------------------------------------------

    284.水中での紫外線の減衰

    (このQ&Aは2001.5.7付のものですが、何かのミスでアップし損なったようです。ご指摘頂いたvisitorの松山様ありがとうございました。)
    Date: Mon, 7 May 2001 22:21:51 +0900 (JST)
    Q: はじめまして,横田憲司と申します。私は山形大学で光触媒の研究をしていま す。光触媒は一般に400nm以下の紫外線を吸収し,有機物を分解します。そこで ,光触媒を用い水を浄化する反応装置の設計を行いたいのですが,水中ではどの ぐらい紫外線が減衰するのか教えていただければ幸いです。
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    Date: Wed, 09 May 2001 18:13:32 +0900
    A: 横田先生、佐藤勝昭です。
      化学系の先生に教えていただいて、化学便覧基礎編IIを見たところ、p.954にH2Oの気体、液 体、固体の吸光度が出ていました。液体の光吸収の最大になる波長は139nmで、そのモル吸光係数ε(単位mol-1dm3cm-1)の対数log10(ε)は3.23と書いてあります。 スペクトルは載っていません。これからご判断下さい。(
    関連
    ------------------------------------------------------------------------------

    285.水の紫外線吸収

    Date: Mon, 17 Nov 2003 18:38:57 +0900
    はじめまして。
    H社の松山と申します。
    現在酸化チタンによる水浄化を研究しており、紫外線の水中における減衰について知りたく、 ヤフーでキーワード検索したところこのHPにたどり着いた次第です。
    しかしながら、「2001.5.07 水中での紫外線の減衰 山形大学 横田憲司さん」
    のところのリンクが切れており、内容が読めなくなっておりました。
    ぜひとも拝見したく、よろしければ再度公開して頂けないでしょうか?
    よろしくお願い申し上げます。
    ------------------------------------------------------------------------------------
    Date: Mon, 17 Nov 2003 19:26:43 +0900
    松山様、佐藤勝昭です。
     すみません。何らかの理由で、はじめからアップするのを忘れていたようです。早速、
    284番に貼り付けました。ただし、あまり、お役に立てるかどうかわかりません。
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    Date: Mon, 17 Nov 2003 19:38:15 +0900 追伸、松山様、佐藤勝昭です。
    水の紫外線の吸収係数が見つかりました。
    T. I. Quickenden and J. A. Irvin: "The ultraviolet absorption spectrum of liquid water" J. Chem Phys. 72 4416-4428 (1980)によりますと下記の通りです。
    波長(nm)吸収係数(1/cm)
    2000.007042
    2100.002565
    2200.001578
    2300.001141
    2500.000706
    2600.000575
    2700.000429
    2800.000412
    2900.000291
    300 0.000212
    3100.000194
    3200.000174

    なお、200nm-200μmのスペクトルがOregon Medical Laser CenterのHPに載っています。
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    Date: Mon, 17 Nov 2003 21:24:08 +0900
    AA: 佐藤先生。

    お忙しいところ、お手数おかけいたしまして恐縮です。
    ほんとうにありがとうございました。

    当方2ヶ月前から今の研究に取り組みはじめたところで、 まだ手探り状態というのが実状です。

    本件に関しても、少々理解に苦しんでおりますが、 これから勉強し、自分のものにしたいと思っています。

    またご連絡差し上げることもあろうかと存じますが、 今後ともよろしくご教授のほど、お願い申し上げます。
    追記:
    Q&Aのページは、ほんとうに多くの人に愛されていると感じました。
    私もこれから訪れる機会も増えそうな予感がしていますので、 大変かもしれませんが続けていってください。
    陰ながら応援させて頂きます。

    それでは、失礼致します。
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    286.可変スモークガラス

    Date: Mon, 27 Oct 2003 21:37:45 +0900
    東京農工大学工学部
    佐藤 勝昭 殿

    はじめまして、V社Mと申します。(社名・氏名を匿名でお願いします。)
    楽しくホームページを拝見させていただいております。
    早速ですが日々抱えている疑問について教えてください。

    1.アメリカのカフェにあるトイレで、一面透明ガラス張りなのですが、 レバーをひねるとその透明ガラスにスモークがかかると聞いたのですが、 (プリバット・ガラスというそうですが)どういった仕組みなのでしょうか?(電圧 をかけたりしていると思うのですが・・・)

    2.よく映画とかで空間に映像が浮かび上がってくるものがありますが、 すもーくとかがある空間だとプロジェクターみたいなもので映像を照射すれば浮き上 がってきそうですが、(何もない?)空気中に結像することはできるのでしょうか? (現在の技術で)

    3.ホログラムの原理がいまいちよくわからないのですが、わかりやすく教えてもらえ ないでしょうか?

    以上3件、わかる範囲・教えれる範囲で構いませんのでよろしくお願いいたします。 (良い書物であまり高くない物があればそれでもかまいません。)
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    Date: Sat, 15 Nov 2003 01:53:08 +0900
    M様、佐藤勝昭です。
    わかる範囲でお答えします。
    1.可変スモークガラス:液晶窓ガラス(liquid crystal window)と呼ばれ、液晶フィ ルムをガラスでサンドイッチしたものです。例えば、ラミネートテクノロジー社のHP (http://www.laminatedtechnologies.com/html/privacy_films.html)をご覧下さ い。おそらくゲストホスト型の液晶を使っているのではないかと存じます。

    2.空間に結像しても、その光が目に入らなければ、立体的には見えません。あたか も立体像から来たかのような光が作られれば、人間には立体的な像があたかも空間に あるかのごとく見えるのです。凹面鏡に像が浮かんで見えるのは、あたかも虚像から 光が来るように光が人間の目に入るからですね。

    3.ホログラフィーについても、フーリエ変換された画像に含まれる位相の情報を利 用して、参照光との干渉により、あたかも立体像から来たかのような光が目に入って くるのです。谷田貝豊彦著:光とフーリエ変換(朝倉書店)あたりがわかりやすいと 思います。
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    287.スパッタクロム膜の最適膜厚

    Date: Thu, 20 Nov 2003 11:05:50 +0900
    Q1: はじめまして。H社のMと申します。
    クロムでのスパッタリング成膜の厚みとスパッタ時に使う代表的化合物の分子サイズの関係がわかりません。
    樹脂上にクロム系スパッタをし、外観部品に使用しようと考えております。
    ご教示願います。お手数ですが、宜しくお願い致します。
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    Date: Thu, 20 Nov 2003 12:03:53 +0900
    A1:M様、佐藤勝昭です。
    Cr系スパッタということですが、金属Crではないのですね。
    分子サイズと書いておられますが、金属系では「分子」で考えることはなくグレインサ イズ(粒径)などを使うので、M様のご質問の意味がよくわかりません。Crの有機化合 物のことをおっしゃっているのでしょうか?もう少し、詳細にご説明頂かないと、お答 えできません。
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    Date: Thu, 20 Nov 2003 13:18:36 +0900
    Q2: 早々のご連絡ありがとう御座います。
    不勉強につき、正確にお伝えできず申し訳ありませんでした。
    弊社で研究中の原理・原則を考える上で必要なことである項目でしたので ご質問させていただきましたが、不勉強を露呈してしまいました。
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    現状、こちらの研究ではCr金属を樹脂に直接またはアンダーコート後にスパッタ リングし、約数百オングストロームの膜厚にて各種テストを推進中で御座います。
    コスト的には、より薄くし材料単価を抑えていきたいのですが、 Crの粒径と製法上の限界膜厚の関係が学術的に何かある(機械的結合・原子間引 力など)のかどうかを知りたかった次第で御座います。
    以上、ご連絡申し上げます。
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    Date: Fri, 21 Nov 2003 14:34:01 +0900
    A2: M様佐藤です。
     ご質問の趣旨は理解しました。一般の多結晶金属であれば粒径は膜厚と同程度になる と思います。クロムは金などと比べると付着性がよいとされています。エピタキシーで 単結晶性の薄膜を基板の格子定数と整合させて(結晶成長学用語では「pseudomorphic に」)成長させるとある膜厚からは、不整合転位などのために整合しなくなって膜独自 の格子定数に緩和します。この膜厚のことを「臨界膜厚」と呼びますが、今お話の系で は多結晶のクロムをプラスチックに付着させる話なので、「臨界膜厚」という概念は適 用できません。
     一般に金属膜は基板が十分フラットであれば1原子層でもつけることができるのです が、それでは、クロムをつけた意味(物理的性質)を発揮できません。装飾性を重視し て金属光沢があればよいのであれば、吸収係数の逆数程度の膜厚があれば(基板が透け て見えない)十分でしょう。クロムの吸収係数は波長500nmにおいて2.86×105cm-1な ので、吸収係数の逆数は349Åです。およその見当として、これより薄くなると、基板 からの光が無視できなくなるのでよくないかもしれません。耐食性などを重視するので あれば、薄いと結晶粒界から酸性の雨水などが浸透して、クロム金属を酸化クロムに変 質する可能性があるかもしれません。結晶粒の緻密さは、スパッタの際のガス圧や供給 電力、さらには、アンダーコートの種類にも影響されますので、実験によって1つ1つ解決するしかないと思います。
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    Date: Fri, 21 Nov 2003 17:35:16 +0900
    AA: 佐藤先生へ H社Mでございます。
    たいへん貴重なアドバイスありがとうございました。
    佐藤先生の計算結果からして現在設定の数百Åはまあ妥当な線と思いました。
    また、アンダーコートなしでスパッタをし、その後トップコートをかけると トップコートの溶剤がCrスパッタ面を浸透し、基板をアタックしてしまう という事象もでてます。
    もし、膜厚をあげてシンナーの進入が防げるのならとも思いましたが、 先生のご指摘にあるように結晶粒界からの浸透だとするとあまり期待もでき ないかもしれませんね。
    いずれにしても的を射たサジェスチョンありがとうございました。
    もう少し、社内テストを進め結果がでたらまたご報告させていただきます。
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    288.ステンレス鋼の耐酸性

    Date: Fri, 21 Nov 2003 11:03:20 +0800
    Q:佐藤研究室様

    HPを見て質問をいたします.
    ステンレススチールの耐酸性について教えていただきたいと思います.
    建築に携わるものですが、クリーニングに使用した酸を含む洗剤によると思われるさ びがステンレス部に発生し、その原因について詳しく調べています.
    よろしくお願いいたします.

    ㈱竹中工務店 海外作業所

    結城  勇

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    Date: Fri, 21 Nov 2003 13:37:01 +0900
    結城様、佐藤勝昭です。
    メールありがとうございます。ステンレスはFeとCr(12%以上)の合金を基本としますが、 さびないといっても空気中の酸素に対してさびないので、HClのような酸に対してさびな いというわけではありません。Crをたくさん含むステンレス鋼にNiを添加すると耐酸性が 向上するということです。なにしろ、ステンレス鋼といっても材質は千差万別で耐食性に ついても組成比や製造工程(焼き入れの有無など)のちがいによってかなりの特性のちがい があります。私はこの方面の専門家ではないので、金属工学の専門家にお尋ねになるとよ いかと存じます。
    ステンレスを含め金属材料のわかりやすい教科書としては、打越二弥「機械材料」(東京 電機大学出版局)がよいと思います。ステンレスについては、p159-164に記述されていま す。
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    Date: Mon, 24 Nov 2003 10:43:32 +0800
    佐藤様
    ご丁寧にありがとうございました.
    参考にさせていただきます.

    ㈱竹中工務店
    結城 勇
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    289.金属の臭い

    Date: Thu, 27 Nov 2003 14:08:11 +0900
    Q: 拝啓,佐藤先生.
    K大学博士課程後期3年Iというものです.
    -質問公開の価値有り判定の折には,匿名でお願いします.-
    修士課程まで物理学科で,博士課程から工学めいたことをしております.
    一年程前まで,連続体仮説に基づいて物質界を学んでいました.

    私は現在,金属結合に興味を持ちまして研究活動を行っています.
    そこで疑問がわきました.
    博士課程の端くれとして研究活動を行っているてまえ自力解決が本分なのは承知の上で,お尋ねいたします.

    金属には,種類によって固有の臭いがあるように思われます.
    これのことは金属材料を実験的に調べている,友人にも確認を取りました.
    しかしながら,金属結合の安定性を考えると,微小量の金属原子が固体から常に蒸発しているとは思いがたいのです.
    そこで,次のような仮説を考えてみたのですが,臭いの金属の種類に関する依存性を考えるとご都合主義的に思われます.

    仮説とは,次のようなものです.

    「金属の臭いとは,金属表面に付着したごみを嗅覚細胞が検知しているに過ぎない. 金属ごとに臭いが違うのは,金属ごとにその表面の帯電状態が異なり, 結果,表面に吸着しやすいイオンが金属ごとに異なっている.」

    この仮説をご都合主義だというのは,次のような理由です.
    表面の帯電状態の違いは,吸着イオンの質ではなく量的な違いを結果するのではないか.
    (困ったことにこれも根拠のない予測に過ぎません.)

    以上の疑問にお答えくだされば幸いです.

     追伸:先生のH.P.非常に勉強になります,原子論の世界は,奥深く魅力的です.

         以上,よろしくお願いします.
    敬具
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    Date: Thu, 27 Nov 2003 22:16:12 +0900
    A: I様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    「金属の臭い」についてのご質問ですが、個人的見解ですが、いくつかの原因が考えられ ます。
     一つは金属自身の化学反応です。金属には一見安定に見えても、表面は空気を構成する 酸素、窒素の他、空気中に含まれる微量な気体と反応しています。その証拠に、ほとんど の金属の表面をAugerなどで分析すると酸素や炭素が見られます。アルミニウムも表面層 は酸化物の層が覆っていますが、これが不働態を作ってそれ以上の酸素の侵入を抑えてい ます。このことは、金属の表面は活性で、さまざまな物質と反応しやすく、その結果微量 の化学物質が生じている可能性を示唆しています。これが臭気として感じられる原因ではな いでしょうか。
     もう1つは触媒作用です。かなり多くの金属が化学反応を促進する触媒として用いられ ます。空気を構成する酸素、窒素の他、空気中に含まれる微量な気体の分解や結合の反応 を促進して、独特の化学物質が生成されている場合です。最近は光触媒反応なども注目さ れています。Ti, V, Mo, W, Pd, Ptなどの遷移金属は、触媒としてよく用いられますが、 1つには、これらの遷移金属は容易に価数を変えるため、付着物質と電子のやりとりをし て、触媒反応を進めるのではないかと愚考します。
     金属を手で持ったあとの独特の臭気も、おそらく皮膚上にあるさまざまな化学物質との 反応、または、空気と化学物質との触媒反応によって、微量の反応生成物が気体となって 発散しているのではないでしょうか。
     金属結合は安定ですが、表面では、必ず結合が切れています。これをダングリングボン ドといいますが、それは安定ではないので、原子の再構成(reconstruction)が起きて、独 特の結合状態にあります。あるいは、空気中では、酸素や窒素、あるいは水を分解して水 素が付着した形で表面の電子状態を安定化しているのです。
     あなたは物理屋の端くれなのですから、ご都合主義的な議論に陥ることなく、ここに述 べたような表面の結合という観点から、もう一度調べなおしてみてはいかがでしょうか。
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    Date: Fri, 28 Nov 2003 10:15:12 +0900
    AA: 拝啓,佐藤先生.
    「金属の臭い」について質問した,Iです.
    興味深い見解を示唆していただき,どうもありがとうございます.
    シナリオの定量的裏づけを目指して,すこし研究してみようかと思います.
    どうも有り難うございました.
    また,何かあったら,ご教授お願いします.
    敬具
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    Date: Fri, 28 Nov 2003 13:30:45 +0900
    A3: 追伸、I様、佐藤勝昭です。
    Googleで、metal smellとして検索したら56800件かかってきました。
    その中で
    Metal ions may play a big role in how we sense smellsというサイト は人間の嗅覚との関係で詳細に述べていて、参考になると思われます。
    ご参考まで。
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    Date: Fri, 28 Nov 2003 21:21:55 +0900
    拝啓,佐藤先生.
    Iです.
    興味深い資料を教えていただきいたこと,ありがとうございます.
    固体物性を研究するうえで「嗅覚」にまで考察を広げるなどということは, 全く新鮮で参考になりました.
    ありがとうございます.

    全くずうずうしいようですが,先生のギャラリーを見せていただいたて気に入ったものを述べさせていただきます.
    -実は,絵画を見るの好きなんです.-
    私は次ぎの作品が気に入りました,

    平成9年44回日府展出品作
    作品名:花市の朝

    大変色鮮やかできれいです.
    機会があれば,一度は,実物をゆっくりと鑑賞してみたいです.

    もうひとつ印象に残ったものは,
    平成15年9月秋の日府洋画部展(2003.9.16-22)出品作
    作品名:「王宮の見える風景」
    サイズ:20号M

    です.大きい絵はいいです.

    ・・・実を申しますと,まだ全ての作品を閲覧させていただいたわけではありません.
    研究活動の合間合間に,拝見させていただきます.

    それと,
    僕の感覚からいうと,東洋の風景の西洋画はなんかしっくりときません.
    東洋風景は水墨画が一番だと思います.
    ステロなすりこみ?なんですかね.

    それでは失礼いたしました.

    どうも有り難うございます.
    敬具
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    290.緩和弾性率

    Date: Wed, 26 Nov 2003 18:37:04 +0900
    Q: 初めてメールをさせていただきます.S社のKと申します.
    貴兄のHPをいつも拝見させていただき,業務はさることながら個人的興味が沸くようなQ&Aが多く大変有益な情報をいただいております.お忙しい中,質問への回答,並びにHPの更新等大変かとは存じますが今後ともHPの継続を切に希望致す一人であります.
    お忙しいところ大変失礼ながら下記質問をさせていただきたくよろしくお願い致します.

    「動的粘弾性測定装置にて貯蔵弾性率E',損失弾性率E'',損失正接tanδを測定(周波数一定,温度は数点)した後,時間変化による緩和弾性率へ変換する方法が知りたい」

    当方FEMを使用した構造解析プログラムにてクリープ解析を行いたいのですが,その際入力データとして緩和弾性率が必要となっています.しかしながらプログラムの説明書等には動的粘弾性のデータから入力データへ変換する説明は無く,困っているところです.
    お忙しいところ誠に恐縮ですが何とぞご教授よろしくお願い申し上げます.
    #なお,WEBへアップする際は匿名でお願い致します.
    ----------------------------------------------------------------------------------
    Date: Thu, 27 Nov 2003 22:18:33 +0900
    A:K様、佐藤勝昭です。  粘弾性については、私の得意とするところではないのですが、学科内に流体に詳しい先生 がおられますので、そちらに教えてもらいますので、今しばらくお時間をいただきたいと 存じます。
    ------------------------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 28 Nov 2003 14:52:54 +0900
    A2: K様、佐藤勝昭です。
     本学科の佐野理教授(sano@cc.tuat.ac.jp)から教わりましたので、お答えします。
    ===========================================================================
    複素弾性率(貯蔵弾性率E',損失弾性率E"を複素数にまとめたもの)をE*、緩和弾性率をGと すると
    E*=E'+iE"=iωG/(G/μ+iω)
    tanδ=E'/E"
    と表されますから、これより、
    |E|=μωG/{G2+(μω)2}1/2
    tanδ=ωμ/G
    連立して解けば、
    μ=(|E|/ω){1+(tanδ)2}1/2
    G=|E|{1+(tanδ)2}1/2/tanδ
    これを周波数を変えて測定し、フーリエ変換すれば緩和弾性率の時間変化が求められるの ではないでしょうか。
    ============================================================================
    ということです。
    参考になれば幸いです。
    ------------------------------------------------------------------------
    Date: Fri, 28 Nov 2003 14:57:37 +0900
    AA: S社のKです.
    素早い御回答ありがとうございます.
    周波数可変の実験とフーリエ(逆)変換が必要という事ですので追実験を行いたいと考えます. お忙しい中丁寧にご回答いただきありがとうございました.
    大変参考になりました.
    今後ともHPを参考にさせていただきます.
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    291.金属光沢の魅力

    Date: Sat, 29 Nov 2003 16:43:48 +0900
    Q1: 佐藤勝昭 先生
    ホームページを見てメールをしています。
    私は日本航空専門学校で非破壊検査を教えている教員です。 金属の持つ独特の光沢は何か怪しい魅力を持っています。 金属の性質とどのような関係があるのかを知りたくて、先生の 著書「金色の石に魅せられて」を読ませていただきました。 自由電子の運動による選択反射によって金属光沢が生じること を知りました。
    金属の反射率が大くなる原因、金や銅はプラズマ周波数の違いに よって反射率が急激に落ちるところが可視光の範囲にあるので 色として見えてくる、ということは理解できました。
    ここまできたら金属の怪しい光沢の原因まで知りたくなりました。
    たとえば
    CGなどで物体の表面を金属らしく見せるときに反射率と光沢 を大きくするだけでなく、ハイライトの近くに急に暗くなる部分を 作るとか、光沢の分布をわざと乱す、ということをします。
    このようなあたりも自由電子の運動から説明できるものなので しょうか。
    妖しい魅力の光沢を説明してほしい、という工学的でない質問で
    申し訳ありませんが、教えていただければ幸いです。
    谷村 康行
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    Date: Sun, 30 Nov 2003 00:14:30 +0900
    A1: 谷村康行様、佐藤勝昭です。
     私も絵描きの端くれなので、金属光沢を表現するのに、同様の手法を使います。こ れは、金属光沢と言うよりは、周りの映り込みを表現しているといった方がよいで しょう。たとえば、真っ白なまるい部屋の中央に金属の円筒があって、壁に一様な照 明がされていれば、単に白い円柱に見えるでしょう。実際の場合には、部屋にあるさ まざまな物体や、窓からの光、天井のランプなどが、映り込みます。特に円柱や球面 体であれば、凸面鏡の原理でそれが圧縮された形に見えますからハイライトのすぐ隣 に暗い影が見えたり、(金属表面が完全に平らでなければ)像がゆがんだり、散乱し てぼやけたりします。しかし、平板の金属のoptically flat (波長の程度にまで平坦) な面であれば、単に鏡があるだけで、妖しい金属光沢には思えないでしょう。
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    Date: Sun, 30 Nov 2003 01:16:35 +0900
    Q2: 佐藤勝昭 様

    返信ありがとうございました。
    メールを読みながら「金色の石に魅せられて」の裏表紙にある 写真を見ていると合点がいきました。
    明暗のコントラストが大きいのは正反射での光源と観察ポイント の位置関係によるものですね。
    CGでも物体にエッジをつけてエッジからの反射を表現すると 金属らしく見えてくることを思い出しました。
    真っ白い紙の反射率は90%を超えていたと思いますので、 乱反射ではなく正反射をして反射率が高いものは自由電子が 関係する金属の反射以外には少ない、と理解してよろしいので すね。
    金属表面での微妙な曲がりなどが周囲の写り込み仕方を敏感に 反映するほど正反射率が高い、これが怪しい光沢の源であると 分かりました。

    お忙しいなかまことにありがとうございました。
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    Date: Mon, 1 Dec 2003 12:54:25 +0900
    A2: 谷村康行様、佐藤勝昭です。
     金属でなくても反射率が高い物質が、鏡面研磨されていれば、金属光沢が見られます。
    シリコン、ゲルマニウムは半導体で、自由電子はそれほど多くないですが、十分金属光沢 を示します。私の物性工学概論の
    講義OHP(2003.5.20) の6,7番目のスライドをご覧下さい。
    また、「金色の石に魅せられて」をよく読んで頂ければ、黄鉄鉱FeS2の金属光沢は、自 由電子の関係する色ではなく、赤から緑にかけての波長に対する強い吸収帯の存在のため に高い反射率をもたらしていることが記述されています。(p.70付近)
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    Date: Wed, 3 Dec 2003 00:33:57 +0900
    AA: 佐藤先生
    金属以外で金属光沢のあるものについて教えていただき、ありがとうございました。 私は小学生のころ黄鉄鉱をもらってその金ぴかが嬉しくてずっと宝物にしていまし た。
    後にどこかの温泉の土産物屋の店頭に黄鉄鉱がひどく安値で並んでいたのにショッ クを受けた記憶があります。
    「金色の石に魅せられて」は黄鉄鉱のことが書いてあるので何気なく買い求めたも のでした。読んだはずでしたが難しかったのかあまり記憶に残っていませんでした。 今回ひょんなことから読み返して、金属光沢のメカニズムから、先生のサイトにたど り着いて金属結合の話まで興味深く勉強をさせていただきました。
    金属の怪しい光沢はあまり怪しくないという結論は、ちょっと拍子抜けでした。 黄鉄鉱の金色は赤から緑にかけての強い吸収帯が高い反射率をもたらしている というのはなかなかピンときませんが、「深き闇にこそ光あり」というようなパラド キカルな魅力を感じます。黄鉄鉱をもう一度机の中に入れておくことにしようかと思って います。
    佐藤ギャラリーも拝見しました。油絵「港町の朝」がお気に入りです。
    ありがとうございました。
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    292.酸化タンタルの色

    Date: Mon, 1 Dec 2003 17:09:41 +0900
    Q:ホームページを見てメールを送らせていただきます。今大学の課題実験で、実際使わ れている材料を未知試料とし、その物性などを各班が知りたい情報を得るため、実験 計画書を作成し、その公開された実験結果のデータ(データはすべての生徒に公開さ れます)から一年かけて分析していく実験を行っています。
    今の時点で、タンタル、酸素、リンが存在することや、主成分がタンタルであるこ と、酸化皮膜が存在することなどからタンタル電解コンデンサーであるだろうという ところまでわかっています。
    ここで質問の本題なのですが、タンタルが光沢のある銀色で、酸化タンタルが白色 なのになぜこの未知試料が黒いのか(削ると光沢があります)という疑問にいきつき ました。
    よく調べてみると、タンタルコンデンサーは陽極酸化することで酸化皮膜である Ta2O5を生成していて、この構造は一番上の層が電解液中の負イオンを(おそらくP) 酸化膜中に取り込み表面層をP型にしている。中間層はTa2O5に近い領域となってい る。最後にタンタルと酸化物の界面にはタンタル原子が過剰なn層になっている。と いうことまで行き着きました。
    表面が黒く見えるのはP型層が自由電子が少ない状態だからなのでしょうか?それ とも、層になっていることで界面が何らかの影響を互いにしているため黒くなるので しょうか?それともこれ全体が半導体になっているためバンドギャップが小さいため 黒いのか?それともぜんぜん違う理由なのか、教えていただければうれしいです。
    東京理科大学3年住大依子
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    Date: Mon, 1 Dec 2003 18:41:07 +0900
    A1:住大依子様、佐藤勝昭です。
     タンタル原子が化学量論比より多いと何が起きるでしょう。もし結晶構造がそのままな ら、それは酸素の空孔を作ります。空孔はあたかも正の電荷があるかのように振る舞い、 電子をトラップします。これを色中心(color center)といいます。電子が正電荷に捕まっ た状態は、光を吸収します。これが着色の原因ではないでしょうか。
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    Date: Wed, 03 Dec 2003 15:29:34 +0900
    AA1:東京理科大学の住大です。この度は本当にありがとうございました。
    確かに試料表面は真っ黒というよりは少し茶色がかっているような気もします。
    もう一度よく検討してみたいと思います。
    今回はこの試料にかかわらず、物質の色がどうしてそのように見えるのか?と いうことが完全ではないですが理解することができたと思います。本当にありが とうございました。
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    Date: Tue, 2 Dec 2003 13:09:28 +0900
    A2:住大依子様、佐藤勝昭です。
     追伸、先ほどの答は単純すぎたようです。酸化タンタルは格子欠陥で黄色に着色するよ うですが、黒くなることは考えにくいのです。そこで、タンタル電解コンデンサーに関し て検索したところ
    山形大学の
    仁科辰夫先生のすばらしいサイトに行き当たりました。その中の 「タンタル電解コンデンサ」の項目の記述によれば、
    「タンタルはアルミニウムと違って耐食性があり、エッチング加工が困難なので粉体を焼 結したペレットをアノードにします。アノード酸化して誘電体を形成したに直接金属を蒸 着したり、炭素分散液を塗ったりすると、皮膜欠陥部からショートしてしまいます。そこ で皮膜欠陥部を覆うためさらに酸化マンガンやポリ(3-アルキルチオフェン) などを つけ、さらに炭素ペースト、銀ペーストなどで対極を形成します。
    タンタルはエッチング加工が難しいので粉末を焼結成形したペレットを使います。皮膜の 修復性がほとんど期待できず、耐電圧をえるために皮膜を厚くしなければならない問題な どがあります。」と書かれています。
    従って、材料が上記のような複合剤で覆われていて、炭素ペーストなどが電極剤として使 われているならば、黒く見えるのも、削ると中身が金属光沢なのも納得がいきます。
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    Date: Fri, 05 Dec 2003 16:40:21 +0900
    AA2:理科大学の住大です。
    お忙しい中たくさんの質問に答えてくださり本当にありがとうございました。
    ----------------------------------------------------------------------------

    293.ファラデー効果はなぜ起きる

    Date: Sun, 7 Dec 2003 15:21:52 +0900
    Q: はじまして
     室蘭工業大学4年生の佐藤大介といいます。
    ファラデー効果はなぜ起こるのですか?そして、磁化が膜面に垂直な方向をむく ための条件を教えてください。おねがいします。
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    Date: Sun, 07 Dec 2003 20:41:23 +0900
    A: 佐藤大介様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございました。

    (1)強磁性体のファラデー効果について述べます。ファラデー効果とは、直線 偏光が磁化された磁性体に入射して偏光方向が回転する効果です。(正確には、 直線偏光が楕円偏光になり楕円の主軸がもとの直線偏光の向きから回転する効果 です。)添付ファイル(a)にありますように、直線偏光の電界ベクトルは、右回 りに回転する円偏光の電界ベクトルと、左回りに回転する円偏光の電界ベクトル に分解できます。もし、この光が磁性体の中を進むとき、(b)のようにどちらか の円偏光の速度が速いと、磁性体を通り抜けたときに、合成した電界ベクトルの 軌跡は、もとの直線偏光から傾いた直線偏光になります。一方、(c)のように、 右円偏光と左円偏光の電界ベクトルの振幅に違いがあると、出てきた光の合成電 界ベクトルの軌跡は楕円になります。一般には、偏光回転の効果(旋光性)と、楕 円偏光になる効果(円二色性)の両方があるので、(d)のように主軸の傾いた楕円 偏光になります。
     それでは、なぜ磁性体の中で、右回り偏光と左回り偏光の回転速度が違うので しょうか。それは、磁化した物質中では、上向きスピンの電子状態と下向きスピ ンの電子状態のエネルギーが異なるのですが、それだけでは、左右円偏光の回転 速度の違いには結びつきません。磁性体ではスピン軌道相互作用のため、右回り の電子軌道と左回りの電子軌道のエネルギーに違いが生じます。
     光学遷移の選択則のため、右円偏光は、軌道角運動量0の基底状態(回転しな い電子軌道)から軌道角運動量1の励起状態(右回り電子軌道)への光学遷移を もたらし、左円偏光は、軌道角運動量0の基底状態(回転しない電子軌道)から 軌道角運動量-1の励起状態(左回り電子軌道)への光学遷移をもたらすので、右 回りの電子軌道と左回りの電子軌道のエネルギーに違いがあると、光学遷移のエ ネルギーが異なり、結果として回転速度の差や振幅の差をもたらすのです。  このことを、きちんと説明するには、数学的な扱いが必要です。詳細は、拙著 「光と磁気(改訂版)」(朝倉書店2002年)をお読み下さい。

    (2)磁化が膜面に垂直に向く条件ですが、一般には、膜に垂直に磁化がある と、反磁界のため静磁エネルギーが高くなりますから、なるべく面内に向く傾向 があります。何らかの理由で、垂直磁気異方性エネルギーが反磁界の静磁エネル ギーより大きければ、磁気容易軸は膜面に垂直になります。
     垂直磁気異方性は、成膜時の成長誘導異方性や、結晶粒の配向性などによって 生じます。一方静磁エネルギーは磁化が小さいと減少します。
     このあたりのことは、磁性体として何を用いるかによって変わってきます。こ のあたりのことは、近角聡信「強磁性体の物理」をご参照下さい。
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    Date: Mon, 8 Dec 2003 08:23:49 +0900 (JST)
    AA: こんなにも丁寧な説明ありがとうございました。よく理解することができました。 また、わからないときに質問したいと思います。本当にありがとうございました。
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    294.インダクタンスと磁気

    Date: Sun, 7 Dec 2003 10:46:20 +0900
    Q: 佐藤先生
    株式会社セルバックの大沢と言います。
    34年前に機械工学を学び、以来機械設計畑の仕事を行ってきたのですが、 機械工学だけでは装置の設計が出来なくなってきました。
    必要に迫られて電気・磁気の勉強を再開している状態です。
    先生のWEBは大変興味深く拝見させて頂いています。
    参考書を読み直している時にテーマにヒットする話題に出会うと 急に視野が広がったような気がしてゲームのレベルが上がったような気がします。

    さて、中空コイルを製作をしました。(適当にです)
    このコイルが高周波でどの様に挙動するものか計算してみようと 教科書をひっくり返しているのですが、どうも良くわかりません。

    前段がながくなりました。

    円形で1巻のコイルの中心の磁場は H=1×I/2/r とされていますが、 ビオ・サバールの式から計算するとコイルの中心しかこの値になりません。
    表計算ソフトで値を計算してみました、電流素片に近い程磁場が強くなります。
    インダクタンスはこの様にして求めた 磁場の強さ×透磁率×断面積/dZ
    ⊿H×μ×⊿S/dZ を足し算してよいのでしょうか?
    磁場強度からインダクタンスの分布も計算されます、 意味があるのでしょうか?
    持っている参考書には L=μ×N^2×A/l とあります。
     L:自己インダクタンス
     μ:透磁率
     A:ソレノイド断面積
     l:平均長さ
    磁場の強さがコイルのなかで均一でないと このようにはならないと思います。

    変な質問で申し訳ありません
    断片的な事とコイル全体の事とがゴッチャになっているようにも思います、 インダクタンスの概念を必死に参考書を読んで理解しようとしてる段階です、 (参考になる資料があれば教えて下さい。)
    頭が固くなっていることは隠しようもありません。
    よろしくお願いします。
    なお、参考書としているのは「絵ときでわかる 電気磁気」です。
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    Date: Sun, 07 Dec 2003 23:13:02 +0900
    A: 大沢様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    インダクタンスを電磁気学から見直してみるというのは、大変素晴らしいことで す。というもの、電気工学では単に電流の変化と誘導される電圧の関係式の係数 としてしか扱わないからです。すなわち、V=Ldi/dtの係数Lです。
    しかし、基礎に帰ってみると、次のように考えられます。コイル1ターンのルー プに誘導される電圧は、コイルの中にある全磁束φの時間変化、つまり、dφ/dtに 等しい。Nターンのループがあれば、全電圧はV=Ndφ/dtとなります。
     一方、コイルの中に透磁率μの一様な媒質があったとすると、回路の2つの位 置s,s'にある線要素をds, ds'として、φ=∫∫(μi/4π|s-s'|)dsds'と表されます(∫ はループについての一周積分)。
    従って、μiは積分の外に出せるので、L=φ/iとして、
     L=(μ/4π)∫∫dsds'/|s-s'|
    のように積分形で書けます。
    なお、ソレノイドの式で求めたlocalな磁束密度をループ について面積分しても同じことになると思います。
    参考書としては、たとえば、宮原恒あき著「電磁気学入門」(共立出版)第12章をお読み下さい。
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    295.絶縁体のバンドギャップ

    Date: Sat, 6 Dec 2003 12:11:41 +0900 Q: 東芝三菱電機産業システム(株)田畑です。 半導体材質のバンドギャップはありますが、絶縁物であるアルミナセラミック、石 英、ガラスのバンドギャップを知りたいのですがありませんでしょうか? アルミナセラミック、石英、ガラス材質の違いによるバンドギャップ(ホウケ イ酸ガラス、鉛ガラス等)
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    Date: Mon, 08 Dec 2003 00:33:53 +0900
    A1: 田畑様、佐藤勝昭です。
    セラミクスのデータベースのサイトおよび 材料データベースのサイト にバンド間遷移強度のスペクトルが載っています。
    これによるとサファイア(αAl2O3)単結晶の吸収は8eVから始まっています。
    αAl2O3の詳細なスペクトルは
    M. E. Innocenzi, R. T. Swimm, M. Bass, R. H. French, A. B. Villaverde, M. R. Kokta, "Room Temperature Optical Absorption in Undoped a-Al2O3", Journal of Applied Physics, 67, 12,7542-46 (1990). にあります。
    これによると弱い吸収は、もっと低いエネルギーから始まっています。
    セラミクスは、不純物による吸収や粒界による散乱があるので、もっと低いエネ ルギーで始まると思います。
    また、同じサイトによると 水晶(SiO2)の吸収は4eVくらいから始まっています。しかし、 半導体の何でも屋 によるとSiO2(多分溶融石英)の吸収端は8eVと書かれいます。
    また、コーニングのサイト によりますと、SiO2は結晶でもアモルファスでも9eV付近にバンドギャップがあ るが、いろいろの不純物のために185nm(6.7eV)より短波長は透過しないと書かれています。

    ガラスの吸収端は、ITMEの光学ガラスのサイトによると
    tantalum-niobium-lanthanum; LaSF type: 300-350nm
    zirconium-silicate: 280-300nm
    alkaline boro-silicate BK type: 250-280nm
    PbO-Bi2O3-Ga2O3: 465nm
    と書かれています。(吸収端は必ずしもバンドギャップではありません。)
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    Date: Mon, 8 Dec 2003 17:54:03 +0900
    A2: 追伸、田畑様、佐藤勝昭です。

    サファイア(αAl2O3)のバンドギャップについて古いデータですが、1435Å(=8.64eV)とい うデータが
    D.F.Heath and P.A.Sacher: Appl. Optics 5 (1966) 5.にあります。
    また、A.H.Laufer et al.: J. Opt. Soc. Amer. 55 (1965) 61によれば、強い温度依存性 があるようです。
    新しいデータとしては、PalikのHandbook of Optical Constants of Solids (vol.2) のp. 761にあります。
    Energy nk
    10.0eV2.5190.629
    9.02.3380.108
    8.02.0740.032
    7.01.9390.007
    6.01.834-----
    となっているので、band gapは7eV付近と考えられます。

    SiO2については、PalikのHandbook of Optical Constants of Solids (vol.1) p.719にα SiO2(水晶)の光学定数が、p.749にSiO2(glass=溶融石英)の光学定数が載っています。

    SiO2(Crystalline)
    Energynk
    8.8eV1.9993.1x10^-3
    8.71.9711.0x10^-3
    8.61.9462.3x10^-4
    8.51.9223.5x10^-5
    8.41.8992.7x10^-6
    8.31.844----
    となっていますので、水晶のバンドギャップは8.4eVとしてよいでしょう。

    SiO2(glass)
    Energynk
    8.8eV1.8501.32x10^-2
    8.71.8251.09x10^-2
    8.61.8038.38x10^-3
    8.51.7835.57x10^-3
    8.41.7643.17x10^-3
    8.31.7471.40x10^-3
    8.21.7304.63x10^-4
    8.11.7161.22x10^-4
    8.01.7023.2x10^-5
    7.81.6764.7x10^-6
    7.61.653-----
    となっているので、溶融石英のバンドギャップは7.8eVとなります。

    絶縁物のバンドギャップのデータにはかなりのばらつきがあるようですから、実際にお使 いになるものについて、独自に測定されますようお勧めします。
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    Date: Tue, 9 Dec 2003 22:35:48 +0900
    Q2: 東京農工大学工学部
    佐藤勝昭教授殿
    田畑です。
    先週から出張していましてメールが見られませんでしたので連絡が遅くなって申し訳 ありません。
    早々にメールをもらいありがとうございました。勉強させて頂きます。 まだ詳しく見ていないのですが、メールからの第一印象としては、下記のように解釈 しました。

    サファイア(αAl2O3)単結晶は7から8.64eVですか?非常に大きな値ですね。サファ イアーもしくはアルミナを励起するには180nm以下の真空紫外光が必要なのですね。 我々の装置では、酸素をメインにしてアルゴン、ヘリウム、N2ガスを用いた誘電体 バリアー放電を行っていて、誘電体の励起現象について検討していますが、上記のような高いバンド ギャップであれば、全く、誘電体の励起現象は無視できそうです。安心しました。

    石英についても同様ですね。

    tantalum-niobium-lanthanum---300-350nm→4.13~3.54eV
    zirconium-silicate ----280-300nm→4.43~4.13eV
    alkaline boro-silicate ----250-280nm→4.96~4.43eV
    Pbo-Bi2O3-Ga2O3 ----465nm→2.67eV

    上記の4つの絶縁物であれば、吸収波長が比較的長くて、酸素をメインにしてアルゴ ン、ヘリウム、N2ガスを用いた誘電体バリアー放電によって誘電体が励起される可 能性があると解釈してよろしいのでしょうか?
    特に、Pbo-Bi2O3-Ga2O3は465nmという可視光で励起されるのでしょうか?
    ガラスでも添加物質によって光の吸収波長(物質の励起?)がずいぶん変わるのです ね。
    光の吸収=物質の励起と考えてよろしいでしょうか?バンドギャップ以下の光波長を 照射(吸収)した場合はバンドギャップのエネルギーは物質の励起に寄与し、余分の 光エネルギーは熱として吸収されると解釈してもよろしいでしょうか?(全く素人考 えで申し訳ありませんが。。。。。)

    もう一つ教えてほしいのですが、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウム、窒素ガスが放 電した場合の光の発光スペクトルが分かるデータシートもしくはハンドブックがあれば教えて下さい。
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    Date: Wed, 10 Dec 2003 00:57:27 +0900
    A2: 田畑様、佐藤勝昭です。
    >上記の4つの絶縁物であれば、吸収波長が比較的長くて、酸素をメインにしてアルゴ >ン、ヘリウム、N2ガスを用いた誘電体バリアー放電によって誘電体が励起される可 >能性があると解釈してよろしいのでしょうか?
    記載されている4つのガラスの吸収端がバンドギャップを超える吸収であるのか、局在 した状態における遷移なのかわかりません。もし局在遷移なら、励起はされますが弱い でしょう。

    >光の吸収=物質の励起と考えてよろしいでしょうか?バンドギャップ以下の光波長を
    >照射(吸収)した場合はバンドギャップのエネルギーは物質の励起に寄与し、余分の
    >光エネルギーは熱として吸収されると解釈してもよろしいでしょうか?(全く素人考
    >えで申し訳ありませんが。。。。。)
    というご質問ですが、光子エネルギーhν、バンドギャップEgとすると、ΔE=hν-Egのエ ネルギー差は結局格子振動の形で物質にトランスファーされ、最後は熱になります。

    >もう一つ教えてほしいのですが、酸素ガス、アルゴンガス、ヘリウム、窒素ガスが放
    >電した場合の光の発光スペクトルが分かるデータシートもしくはハンドブックがあれ
    >ば教えて下さい。
    >
    気体のスペクトル線については、理科年表にAr, Cd, K, Xe, Kr, Hg, H, Na, Ne, Heの データが出ています。
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    Date: Wed, 10 Dec 2003 01:04:33 +0900
    A3: 佐藤勝昭です。
    Googleでgas discharge spectrumとして検索したら、
    http://home.achilles.net/~jtalbot/data/elements/
    というサイトが出てきました。大変便利なサイトです。訪れてみて下さい。
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    296.スチール缶とアルミ缶

    Date: Tue, 9 Dec 2003 17:18:34 +0900
    Q: 佐藤 勝昭 先生
    お世話になっております。化学製品PL相談センターの高橋です。
    このたび、飲料缶においてスチール缶・アルミ缶が使い分けられていることを 通して、それぞれの金属の特性が活かされているということについて、取り 上げたいと思っております。
    実際には、お茶・果汁・コーヒー飲料等にはスチール缶(高温殺菌後に脱気 して封をして冷却されると、外からの圧力がかかるため、それに耐える硬い スチール缶が有利)が、コーラやビール等の炭酸飲料やにはアルミ缶(内から かかる圧には、軟らかいアルミは強い)が使われています。
    そこで、何故アルミは軟らかく、スチール(鉄)は硬いのかをそれぞれの金属の 原子の構造、電子配置、結晶構造等からもし説明できるのであれば、教えて頂き たいのですが・・・。

    金属の結晶構造が体心立方の場合(鉄)は、硬く、面心立方(アルミ、金銀銅) だと軟らかいといわれているようですが、格子模型から感覚的に理解することは できますでしょうか?(面で滑りやすい??)

    また、外からかかる圧力と内からかかる圧力の違いについてですが、アルミの ように軟らかいものは一般的に外圧には弱い(すぐにへこむ)が、内圧(膨らませよ うとする力)には強いと考えて構わないでしょうか?

    先生のウェブで、金属に関するQ&Aなるサイトを見つけ、またまた質問させて頂き ます。すぐにお分かりの範囲で構いませんのでお教えいただければと存じます。 ご多忙中、恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
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    Date: Tue, 9 Dec 2003 20:45:58 +0900
    A: 高橋様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。金属の硬さ・軟らかさは面白いテーマだと思います。 私は、物理屋なので、金属工学の観点からのお答えはできないので、本学で金属加工を専 門にしておられる桑原先生に教えを乞うていますので、後ほどまたご連絡します。
    以下では、物理屋の観点からコメントさせて頂きます。
     さて、 遷移金属であるFeはなぜ通常金属のAlより硬いのでしょうか。ここでいう硬さ は、弾性限界内の話で、塑性変形を起こす場合(展性、延性など)は含みません。
     金属の凝集(原子が集まって固体を作ることを凝集といいます)は、金属結合によると いうことが知られています。金属結合は、原子の外殻電子のうちs,p電子が結晶全体に広 がることによって全エネルギーが低下することが原因ですが、このことが通常金属(Na, Mg, Alなど)や貴金属(Cu, Ag, Au)の柔らかさをもたらします。一方、 Fe, Tiなど遷移金 属の結合にはd電子が寄与しています。遷移金属では、原子あたりの電子数が多く、電子 の海に供給する電子数が多いことが結合の強さをもたらし、高い融点と硬さをもたらして います。因みに、外殻電子の数は、Naは3s電子がが1個、Mgは3s電子が2個、Alは3s電子が 2個と3p電子が1個の計3個ですが、Feでは3d電子が6個、4s電子が2個の計8個です。Cuは3d 電子10個と4s電子1個ですが、3d殻が詰まっているので内殻として働き、電子を供給する のは4s電子1個です。従って「外殻電子数が多い」ものは、弾性率の観点から「硬い」と いっても差し支えないでしょう。
     次に、結晶構造と硬さの関係ですが、
    Li,Na,β-Ti, V, Cr, α-Fe, Mo, W, β-Zr, Nb は体心立方格子(bcc)
    Al, Ca, γ-Fe, Ni, Cu, Sr, Ag, Pt, Au は面心立方格子(fcc)
    Be,Mg,α-Ti, Zn, Y, α-Zr, Cd は最密六方格子(hcp)
    であり、たしかに、bccに硬いものが多いようですが、Liのように軟らかいのも混じって いて、一概にはいえません。bccでは、原子の占める体積は68%, 隙間は32%です。これに 対してfccとhcpでは原子の占める体積は74%, 隙間は26%で稠密に充填されています。bcc のほうがスカスカで一見硬くなさそうですよね。

     アルミ缶に使うAlは純粋のものではなく、わずかですがMgやSiなどを添加して硬度と強 度を稼いでいます。合金化することで、Feと同じくらいの硬さをもっています。
     一方、純粋のFeそのものは結構軟らかく強さも大きくありません。鋼(スチール)にして 初めて強く硬くなります。スチールというのはただのFeではなく炭素Cとの合金です。鋼 は熱処理によって硬さを変えることができます。Fe-C合金にはγ相(fcc)とα相(bcc)の間 の相変態がありますが、熱処理で相変態を起こすとともに、変態の際にCの濃度が変化す ることが、重要なポイントだということです。炭素鋼を急冷するとマルテンサイト変態を おこして体心正方(bct)に転移します。マルテンサイトは非常に硬いがもろいといわれて います。そこで焼き戻しというプロセスを経て、加工性を改善するのです。鋼に関する限 り、bcc, bctはfccより硬いようですね。

     すべり易さのことに言及されていますが、結晶の硬さより強さに関係します。ダイヤモ ンドは硬いですが、叩くと簡単に割れて(正確には劈開して)しまいます。これは、格子の 滑りやすさによるものです。鋼にも同じことがいえます。金属を強化するのに鍛造といっ て叩くのですが、これは、dislocation(転位)をたくさん導入して、転位線同士がぶつか り合って絡み合い動かなくすることで、すべりを起こしにくくするのです。
     硬いものは外圧(圧縮応力)に強いが、軟らかいものは内圧(引っ張り応力)に強いかとい う質問ですが、これも一概にいえないような気がします。

     いずれにせよ、最近の技術で、アルミもスチールも同じくらいの強度を持つようになっ てきたので、どちらがどれに優位ということはなく、コストや重量など別の面での問題の ほうが大きいのではないでしょうか。
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    Date: Mon, 22 Dec 2003 17:00:25 +0900
    佐藤 勝昭 先生
    お返事頂きありがとうございました。(ご連絡が遅れ、申し訳ございませんでした 。)
    鉄鋼メーカー等に問い合わせてみても、アルミと鉄、各々の違いと結晶構造や電子 配置を結びつけるのには、少々無理がありそうだと分かりました。(中には、面心立方 格子は滑りやすく、よって軟らかく、加工しやすいのだとおっしゃる方もいらっしゃいま したが・・・)
    しかし、熱伝導性(アルミは鉄の約3倍)に関しては、自由電子の動きやすさによる と考えてよろしいのですよね??(ダイヤモンドの熱伝導性が高いのは、原子間の強固な共 有結合により、振動でいち速く熱が伝わるようですが・・・)
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    Date: Mon, 22 Dec 2003 18:32:17 +0900
    高橋様、佐藤勝昭です。
     熱伝導率と電気伝導率の間には、Wiedemann-Franzの法則が成り立ちます。
    すなわち、熱伝導率をK、電気伝導率をσとすると
     K/σ=8{(π2)/3}{(kB/e)2}T=LT
    となり、Lは金属によらず2.0-2.5×10-8[WΩ/K2]位の値になります。

    T=300KでFeではK=0.8[W/cm K],σ=1.02×105-1/cm]
        AlではK=2.37[W/cm K],σ=3.65×105-1/cm]
    FeとAlの熱伝導率のちがいは電気伝導率のちがいと同じ原因ですから、キャリアの密度と 散乱までのキャリアの平均寿命に比例します。調べたところ、散乱寿命はAlもFeも1×10 -14[s]程度ですが、キャリア密度はAlの方がFeの約4倍も大きいので、こちらが効いてい るようです。
    従って、ここでは、キャリアの動きやすさではなく自由キャリアの密度のほうで説明すべ きでしょう。なお、Alでは、ホールが電気伝導に寄与しているようなので、電子といわず キャリアという言い方をしましたが、一般向けには「単位体積あたりの自由電子の数が、 FeよりAlの方が多い」と説明すればよいでしょう。
    (なお、キャリアの動きやすさ(移動度)μと散乱寿命τの関係は、μ=eτ/m*となりま す。ここにm*はキャリアの有効質量です。金属ではm*=mとして差し支えありませんが、半 導体ではm*=0.1m程度の小さな値になります。)
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    297.太陽電池の温度上昇による効率低下

    Date: Sat, 13 Dec 2003 10:10:20 +0900
    Q: M高専専攻科2年の学生で名前はOといいます。匿名希望です。
     質問内容は
    なぜ、太陽電池のセル温度上昇によって太陽電池の発電効率が下がるのでしょうか? やはり、光源の輻射熱とジュール熱が太陽電池の発電電力に損失要因に関係している のでしょうか?
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    Date: Sat, 13 Dec 2003 20:31:30 +0900
    A:O様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    太陽電池は半導体デバイスなので温度上昇によってIsc(短絡電流)は0.1%/℃くらい増加 しますが、Voc(開放端子電圧)はシャント抵抗の減少によって0.3%/℃くらいの割合で低 下します。FF(形状因子)は、温度とともに0.1%くらい減少するもの(結晶系)と0.03%程度 増加するもの(アモルファス)があります。
    変換効率η=Voc×Isc×FFで与えられるので、トータルとして、0.2-0.4%/℃くらいの 割合で効率が低下します。

     温度上昇の原因としては、太陽の輻射熱が考えられます。pn接合を逆バイアスした時 に流れる電流によるジュール熱による加熱はほとんど無視できるでしょう。
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    298.溶液の吸光係数

    Date: Fri, 12 Dec 2003 21:33:40 +0900
    Q: 佐藤 先生
     「物性なんでもQ&A」楽しく拝見させていただいております。T大学の O(所属・氏名は匿名でお願い致します。有機合成化学を専攻する大学院生です 。)と申します。
     ご教授いただきたくメール致しました。

     今,遷移双極子モーメント μ(ν) を持つ分子が溶けた溶液の可視吸収スペクトルを測定します。Z軸方向から入射する測定光に非偏光を用いたとき,振動数νにおけるモル吸光係数?(ν)は,溶液が等方的であることから  ε(ν) ∝ |μx2+|μy2 = (2/3)*|μ(ν)|2  一方,測定光に偏光を用いた場合には,  ε(ν) ∝ |μx2 = (1/3)*|μ(ν)|2 とできると思います。しかし,溶液が等方的であるかぎり,非偏光・偏光いずれでも吸収スペクトルに違いはなく,吸光係数は同じであるはずと思います。  上のような考え方のどこに矛盾があるのでしょうか? 単純な見落としや勘違いと思われるのですが,周りには有機合成の専門家しかおらず,思うような助言が得られません。
    宜しくお願い致します。
    -------------------------------------------------------------------------
    Date: Sat, 13 Dec 2003 20:31:27 +0900
    A: O様、佐藤勝昭です。
     メールありがとうございます。
    矛盾すると思われるのは、吸光係数の定義の問題だと思います。
     あなたは、ε(ν) ∝ |μx|2+|μy|2 = (2/3)*|μ(ν)|2としましたが、  果たしてこれでよいのでしょうか。
    吸光係数ε(ν)の溶液(1モル)をz方向にzだけ進む光に対する透過光強度をIo、入射光強 度をIiとすると、
      Io=Ii exp(-ε(ν)z)となりますが、
    偏光を考える場合は、電界で考えなければなりません。I=AE2です。(比例係数をAと置 いておきます)
    x偏光については、
      Eox=Eix exp{-εx(ν)z/2}であらわされます。
    y偏光については
      Eoy=Eiy exp{-εy(ν)z/2}であらわされます。
    εx ∝ B|μx|2, εy ∝ B|μy|2, 等方性なら|μx|=|μy|=μとなります。
    x偏光の吸収を考えると
    Io=AEox2, Ii=AEix2とすると、ε=Bμ2となりIo=Ii exp(-Bμ2z)と書けます。
    非偏光の場合
     Io=A(Eox2+Eoy2)=A{Eix2・exp(-Bμ2z)+Eiy2・exp(-Bμ2z)}
      =A(Eix2+Eiy2)exp(-Bμ2z)
        Ii=A(Eix2+Eiy2)と書けます。従って、
     Io=Iiexp(-Bμ2z)
    このように、偏光に対しても、非偏光に対しても、入射光と出射光の比率は同じです。
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    Date: Sun, 14 Dec 2003
    Q2: 吸光係数の定義の問題だということですが、
    (1)「等方性なら|μx|=|μy|=μ 」とした値と,私が予めおいた分子の遷移 双極子モーメントμ(ν)の値は等しいということでしょうか?
    (2)もし試料が等方的でない場合,例えばx軸方向に分子が一軸配向しているもの の,分子の配向軸と分子の遷移双極子モーメントがθ°だけ傾いているような場合 には,どのようになるのでしょうか?
    吸光度を予測できるものでしょうか?
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    Date: Sun, 14 Dec 2003 18:15:22 +0900
    A2: O様、佐藤勝昭です。各質問にお答えします。
    (1)あなたの定義された双極子モーメントμ(ν)はベクトルでその長さは |μ(ν)|= {|μx|2+|μy|2+|μz|2}1/2 となっています。光学遷移を考えるとき、z方向に進む波を考えている限り、μzは考え る必要がありません。x偏光に対する遷移双極子の大きさをμとするなら
    |μ(ν)|= μ×21/2
    となります。
     等方性の溶液では、x偏光、y偏光は互いに独立な固有ベクトルとして扱えます。一般 の角度の直線偏光は単に座標軸を回転させただけで、x偏光として、あるいは、等価なy 偏光として扱えます。非偏光は、x成分とy成分の両成分が時間的空間的に揺らいでいる ので、回転させても特定の向きの直線偏光にできません。x成分y成分は独立して物質と 相互作用しますから、吸収を考えるにも、別々に扱わねばなりません。
     また、もし等方性の溶液に磁界がz方向に加えられておれば、x偏光、y偏光は系の固 有ベクトルではなくなり、x+iy偏光(右回り円偏光)およびx-iy偏光(左回り円偏光)が固 有ベクトルになります。この場合は右回り円偏光に対する遷移双極子モーメントと左回 り円偏光に対する遷移双極子モーメントを考え、独立に扱わなくてはなりません。  このように、予め「遷移双極子モーメント」があるのではなく、物質中の光の固有状 態にあわせた遷移双極子モーメントを考慮して解析しなければなりません。

    (2)配向の軸と遷移双極子モーメントが傾いているケースですが、もし光がz方向に進んで いるとき、系に複屈折やキラリティがなければ、非偏光についてはx成分とy成分に分け て、それぞれについて光の減衰を考えて、出口で強度を合計し、それより全体の吸光係 数を評価するべきでしょう。
    ここでは、あなたのように、予め「遷移双極子モーメン ト」があって、x軸からθだけ傾いているという描像に従っておきます。モーメントの長 さをμとしますと吸収係数はμ2に比例します。比例係数をBとします。
     Ii=A(|Eix|2+|Eiy|2);非偏光では|Eix|2=|Eiy|2=Ii/2
     Eox=Eix exp{-Bz(μcosθ)2 /2};
     E0y=Eiy exp{-Bz∫dφ(μsinθcosφ)2 /2∫dφ}=Eiy exp{-Bz(μsinθ)2 /4}
     Io=A(|Eox|2+|Eoy|2)
      =A{|Eix|2 exp{-Bz(μcosθ)2}+|Eiy|2 exp{-Bz(μsinθ)2 /2)}
      =(Ii/2)[exp{-Bzμ2(1+cos2θ)/2}+exp{-Bzμ2(1-cos2θ)/4)}]
     吸光係数ε=log10(Ii/Io)/z
     =(log10[exp{-Bzμ2(1+cos2θ)/2}+exp{-Bzμ2(1-cos2θ)/4)}/2])/z  となり、めんどうな式になりました。
    きれいな結果にならないで申しわけありません。
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    299.粗さの単位KA

    Date: Mon, 15 Dec 2003 16:58:02 +0900

    Q: はじめまして。
    私は法政大学工学部電気電子工学科4年 高松幸雄と申します。

    LiGaO2に関する論文を読んでいたところ、不明な点があったので、この度質問させて頂きます。

    LiGaO2の表面をmechano-chemically polishingを用いて 研磨したところ、表面の粗さ(Surface roughness)のグラフがありました。
    そして、その粗さの単位が[KA]となっておりました。
    色々と調べたところ、おそらくKifchhoff Approximationと思われます。
    このKAとはどういったものなのでしょうか?
    また、KAを別の単位に変換はできるのでしょうか?
    ご教授お願い致します。
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    Date: Mon, 15 Dec 2003 17:43:51 +0900
    A: 高松君、佐藤勝昭です。  いろいろな先生方に聞いたのですが、表面粗さの単位としての「キルヒホフ近似」を使 うということは聞いたことがないとのことです。KAはひょっとして、kÅ(=10^3Å=100nm) の英語表記ではないでしょうか。そのつもりで読み直して見て下さい。
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    Date: Fri, 19 Dec 2003 14:01:26 +0900
    AA: 東京農工大学 佐藤勝昭様
    こんにちは。先日物性Q&Aへ質問をしました法政大学栗山研究室4年 高松幸雄です。

    わざわざ色々な先生方に聞いていただいて、ありがとうございます。

    論文を[kÅ]として読むと、図の意味が理解できました。
    長く悩みの種であった謎が解決したので、ほっとしております。

    どうもありがとうございました。
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