Q: 複雑な形の物質での磁区回転はその形に沿うのか(H2南條)→A: 複雑な形の磁化の振る舞いはコンピュータ・シミュレーションで予測できます。必ずしも形に添うわけではないようです。
Q: 一度単一磁区になってしまうと、初磁化状態に戻すのは難しいということだが、戻したり、それに近づける方法はないのか。(H1佐藤太)→A: 強磁性体を磁化のない状態にするには、(1)キュリー温度より高温にして磁界のない状態の中で冷却する方法(熱消磁)と、(2)交流磁界によって磁化しその振幅を徐々に減少させて0に近づける方法(交流消磁)の2つがある。(近角:強磁性体の物理下巻p237) テレビ受像機ではブラウン管内のシャドーマスクが地磁気により磁化するため方向を変えたりすると色の再現が悪くなることがある。たいていの受像機ではブラウン管のまわりにコイルが巻いてあってスイッチがONになった瞬間に電流が流れ、徐々に振幅を減少して磁化を消去している。
Q: 磁区とはどのような構成単位で存在するのか(H2金子)→A: 磁性体を連続体と考えてよいくらいの大きな寸法で存在します。ただし、磁壁は上に述べたように数原子層の単位で存在します。
Q: 環流磁区と縞状磁区はどんな特徴があるか、何に使われているか(湯本)→A: 形状、磁気異方性、磁気ひずみの違いによって環流磁区になったり、縞状になったりします。縞状磁区の場合、弱い磁界を印加すると円柱状の磁気バブル(泡磁区)になります。これを用いて1970年代にバブルメモリという可動部分のない不揮発性磁気メモリがIBMによって開発されましたが、転送速度やビット密度の点で半導体に劣るため、結局使われなくなってしまいました。
Q: 磁区の数は物質によってきまっているか(H1和賀井)→A: 材料の作り方や、材料の不完全性(欠陥。不純物など)によって決まります。このため、磁区や磁化曲線の問題を技術磁化過程とよんで、物質固有の性質と分けて論じているのです。
磁性の基礎
Q: 電子スピンでなぜ磁性が出るのか(H2鳥海)→A: 電子の自転により生じた回転電流による磁気モーメントにたとえられるが、これは正確ではない。Diracの相対論的量子力学方程式を解くとその固有関数としてspinが得られる。
Q: 磁界と反磁界は打ち消しあわないか(H2鳥海)→A: 磁化Mをもつ磁性体内部での実効的な磁界はHeff=H−NMで表されます。Nは反磁界係数です。HがNMを超えないと反磁界の方が強くなっています。
Q: Text p.55の図で、磁界によってEfが変化するとなっているが、スピンとバンドギャップの関係はどうなっているのか。(H2金子)→A: up spin bandとdown spin bandの相対的なエネルギー位置が交換相互作用によってシフトします。両bandでEfを一致させようとして占有状態密度に違いが生じるのです。
Q: 磁力線や磁束は仮想的なものではなく物理的に存在すると聞いたが本当か(H2椿井)→A: 電子線ホログラフィという方法(日立の外村博士が開発)で見ると線として見ることができます。ただ、これも電子線の干渉像として見たものですから実体といってよいのか、仮想といってよいのか、
MOやMDに関するもの
Q: 光磁気ディスクに何で記録し何で読んでいるのか(H2新山)→A: レーザ光の熱によってキュリー温度以上の高温まで加熱し磁化を失わせ、冷却の過程で磁界を印加することにより磁気記録する。記録の再生は、磁気光学効果によって磁性を偏光の回転を通して光信号の強弱に変換することによって行う。
Q: MDではキュリー温度まで加熱するがディスクが温度差で壊れることはないのか。(H1石亀)
A: レーザを0.8μmくらいに絞り部分的にキュリー温度(220C)より上まで加熱するのですが、極めて局所的に加熱するのでディスクが壊れることはありません。また、冷却時に周りの磁界にならって記録するので素早く熱拡散して冷却してくれなくてはなりません。従って、熱伝導はある程度早い方がよいのです。それで、MOディスクでは、プラスチック基板の上に保護層/磁性層/保護層/アルミ層の4層構造の膜をつけています。アルミ層は反射層として働くほか、熱拡散にも寄与します。
Q:MDと同時期に発売されたDCCとはなにか。(H2伊藤)
A: オランダのPhilipsから発売されたdigital compact cassetteの略で、ディジタルカセットテープです。DAT(digital audio tape)とちがって、非可逆の情報圧縮を行っています。圧縮の方式はMDとよく似ています。
Q: MDは信頼性のおけるメディアか(H1柳川)→A: 比較的信頼性のあるメディアだと信じています。
Q: MOとHDDの棲み分けはどうなるか(H2中田)→A: MOは転送速度が遅いという欠点がありますし、容量的にもHDDが2.5"で2GB、3GBになりますとなかなか勝てません。しかし、長期保存、可搬(removable)、信頼性(head crashの心配なし)などの点からは、MOは魅力的です。青紫色レーザが出現すればMOを用いたDVD-RAMがかなり有利になるはずです。HDDとは違った用途が出るのではないでしょうか。
その他磁性に関するもの
Q: 永久磁石とはどんなものか(H1小野寺) 強力な永久磁石はどうやって作るか(H2篠原, H1松木)
A: 永久磁石というのは、硬質磁性体のうちで特に保磁力Hc、残留磁束密度Brが大きく、一度磁化したらその残留磁化を強く保つ磁性材料のことです。要するに電磁石のように電気を流したときだけ磁石というのではないふつうの磁石のことです。決して永久に磁化しているわけでなく、残留磁化と逆向きに強い磁界を加えれば、減磁してしまいます。永久磁石の性能の良さはB-H曲線におけるB×Hの最大値(最大エネルギー籍)を評価の尺度にします。
次世代記録
Q: 垂直磁気記録はなぜうまくできないか(H2鳥海)→A: 媒体、ヘッドともにほぼ技術的にクリアされています。しかし、面内磁気記録でもまだ限界までいっていません。また、すでに完成したシステムがあるとき、新しいシステムを導入するにはよほどメリットがないと困難なのです。
Q: MOに続く新しい記録媒体はつくられているのか(H1長島)→A: 近接場記録など革命的に高密度の記録システムのプロトタイプが提案されています。また、フォトケミカル・ホール・バーニング(PHB)という可動部分のない記録方式も研究されています。
Q: 磁気をつかわずに大容量を保存できる媒体はないのか(H1松川)→A: PC(相変化記録)では、結晶と非晶質の変化を利用して記録します。
Q: DVDの録画用が将来でるそうだが、記録方式はMDと同じようになるのか(H1田口)→A: ディジタル記録ですからNTSCの場合はMPEG2という圧縮方式で記録します。HDTV(Hivision)はHPEGという方式で圧縮して記録することになります。画像の圧縮はMDのような音声の圧縮に比べ遙かに複雑です。