電子物性工学U 佐藤勝昭教官 96.11.21
11/7の問題解答
問題:金色はどういう色か、金はなぜ金色か
標準解答:金色というのは、赤から緑の波長の光を選択的に強く反射する場合に見える色で、反射率が高いため周囲の色を反映して複雑な色に見える。金は高い密度(1022cm-3程度)の伝導電子を有するが、光の電界を受けると伝導電子は集団運動をする。プラズマ周波数(金の場合、波長500nmに対応する周波数)より低い周波数の光ではこの集団運動が電界と逆方向の分極を作るために光の電界が遮蔽されて中に入り込めないが、プラズマ周波数以上では電子の集団運動は電界の変化に追いつけなくなるため完全には遮蔽されず光は金属中に入り込む。(やさしい解説は、佐藤勝昭著「金色の石に魅せられて」裳華房を、詳しく知りたい方は山田、佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク)第4章を参照。)
11/7の質問への回答
Q: TVやプロジェクタでは赤、緑、青で構成されているが、プリンタでは黒、黄、シアン、マゼンタで構成されているものがあるが、この違いは何か。(石亀)→A: 原色を混ぜて任意の色を作る方法に加色混合と減色混合があります。カラーテレビは加色混合、カラースライドは減色混合です。加色混合の3原色はR(赤)、G(緑)、B(青)ですが、減色混合の3原色はY(黄)、C(シアン=空色)、M(マゼンタ=赤紫)です。RGBを加色混合すると白になりますが、YCMを減色混合すると黒になります。ただ、混ぜ具合でいろんな黒になるので、プリンタの場合、黒を別途加えているのです。(黒の作り方についての質問がH2佐藤慎君からありましたが、上の説明でもうおわかりと思います。
Q: たしか、色の3原色は赤、青、黄だったような気がするが・・(H2佐藤和)→A: 上に述べたように減色混合の場合の3原色はYCMなのですが、C(シアン)、M(マゼンタ)はなじみのない色なので、小中学生に教える場合、Cの代わりにGを、Mの代わりにRを使って説明するのです。
Q: 緑は目に優しい、赤は活動的、青は心を落ち着かせるなどといわれるがこれは波長、反射率どちらに関係があるか。(H2相澤)→A: ものの色は、白色光のうちどの波長をよく反射または散乱するかによって決まっています。この色がどのような心理的効果を持つかは、物理的な性質ではなく人間の心理学的な性質です。
Q: TVでは真の色は表せないといったが、人間も真の色を見ていないということか。(H1佐藤太)→A: 人間が見ることのできる色の範囲を全部は表現できないという意味です。
Q: 金属の色は自由電子の集団運動が原因だということだが、半導体の色はどのように見えるのか。(H2青木)→A: 半導体の色は、主として光学吸収端の波長で決まります。どのような波長領域の光を透過するかで色が決まります。本日の講義で説明しますが、詳しく知りたい方は山田、佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク)第4章の問4.17の略解(p.196)も参照してください。
Q: 黒に熱が集中するのはなぜか。白の場合はどうなるか(H1新井)→A: 黒は可視光のすべての波長の光を吸収する場合の色です。吸収された光のエネルギーは熱に変わるので、熱が集中するように思えるのです。白というのは、可視域の波長を波長にかかわらず同程度反射または散乱する場合をいいます。したがって、白色の物体は光を吸収しないので光をあててもあまり加熱されません。
Q: 金銀銅の自由電子の重さが違ってくるというのはどういう意味か。(H2飯島、H2佐藤和)→A: 話をわかりやすくするために有効質量が違うとして説明したのですが、この説明は正確ではありません。実際にはプラズマ(角)周波数ωPは、ωp2=Ne2/m*ε∞で与えられ、実効的な誘電率が物質によって異なることからωPの違いが生じています。
Q: 吸収係数の単位はm-1でなくてcm-1なのか。(H1井出)→A: 正しくはm-1を用いるべきなのですが、以前cgs単位系を用いていたため、慣習的に実用レベルではcm-1が使われています。
Q: 金銀の方が全反射の白より輝いて見えるのはなぜか。(H1井上 幸)→ A: 白として見えるのは、透明な物体の表面がざらざらしていて光が散乱される場合です。散乱された光を全部集めれば、100%の反射率ですが、実際にはある特定の方向から見ているので反射光は入射光の数%しかありません。これに対し、銀は、可視光の選択反射がないという意味では白なのですが、表面が滑らかなので、鏡面となり入射光をほとんど反射しますから輝いて見えるのです。
Q: CDや光ディスクが虹色に輝いて見えるわけは。(H2上原)→A: 光ディスク(CD、MO、DVDなど)には、マイクロメータ(μm)以下の幅の狭い溝があって、溝と溝の間隔もμmの程度なので、あたかも回折格子のような働きをして干渉によって分光され虹の色が付くのです。(「金色の石に魅せられて」参照)
Q: ディジタルとアナログの違いがわからない(H1大沢)→ A: 時計でいえば、数字ででるのがディジタル、針が回るのがアナログです。電気回路では、ディジタルの場合、すべての量を0,1の組み合わせで 表しますから、1に相当する信号の電圧はたとえば5Vという一定の値です。これに対し、アナログの信号は、いろんな大きさの電圧を持ちます。
Q: プリズムはガラスでできているのか(H1小野寺)→A: 屈折率が波長によって異なる物質であれば何でもよいのです。可視光線ではガラスが、紫外線には石英ガラス、フッ化マグネシウムなどが、赤外線には臭化カリウム、塩化ナトリウムなどを用いることができます。
Q: 太陽電池が光エネルギーを電気エネルギーに変換する割合はどれくらいか(H2久保)→A: 変換する割合のことを変換効率といいます。チャンピオンデータでは、GaAs系で30%、単結晶Siで20%、アモルファスSiで14%、CuInSe2系で17%程度です。
Q: ブラウン管ではRGBを使ってすべての色を写しだすが、投影式のようになっているのか。(H1栗田)→A: 多くの投影式TVでは、3つのブラウン管からの光をスクリーン上で合成しています。ブラウン管では、画面上に多数のRGBの蛍光体が塗布されており、RGBの強さに応じて制御された電子ビームによって蛍光体を励起して光らせています。ルーペでブラウン管の表面をよく見てください。
Q: 光によって入り込める距離は変わるのか。(H2小島)→A: その通りです。金を薄く(200ナ程度)蒸着したガラス版を透かしてみると青緑色に見えます。つまり、赤の光は吸収されますが、青緑の光は十分入り込んで、通り抜けてくるのです。
Q: 光を受けると電気が流れる素子とはどういうものか。(H1児玉)→A: 光導電という現象を使った素子で、夕方になると街灯がひとりでに点灯しますが、光導電素子を使って固体リレーを働かせ、電灯をオンオフしています。
Q: p95のSiの吸収スペクトルにおいて、低いエネルギーで吸収が増える理由がわからない(H1小林一)→A: Si結晶の格子振動による吸収です。
Q: 鉄のことをなぜ黒金というのか(H2佐宗)→A: 鉄には自由電子が少ないので、プラズマ振動数は赤外線の波長領域にあって、可視光線の波長では反射率がかなり低くなっています。それで、黒く見えるのです。鉄をよく磨くと鈍い銀色になります。
Q: 吸収端が500nm付近にある金属があれば緑に見えるのか。→A: 金属では可視光領域にバンドギャップがありませんから、吸収端もありません。
Q: バンド間遷移とは何か(H2近村)→A: 価電子帯にある電子が光のエネルギーを吸って、伝導帯に励起されることをバンド間遷移といっています。
Q: 光を粒子としてみたとき、運動量や質量があるのか、物質に当て続けたとき1秒あたりいくつの光子が当たったというのか(H2鳥海)→A: 運動量は定義できますが、質量は定義できません。微弱光を測定するときにはホトンカウンティング法という方法で、光子の数を数えて光の強さに変換しています。
Q: 光は波か粒子か(H2新山)→A: もともと2面性を持っていて、観測の仕方によってどちらかの性質が強く現れるのです。
Q: LCのフィルタは学んだが、バンドパスフィルタは習っていない。(H2鳥海)→完全に矩形状のフィルタを作るのはむつかしいのですが、ローパスフィルタとハイパスフィルタを組み合わせてカットオフ周波数をずらしておけば、バンドパスにすることができます。
A: 太陽は水素のかたまりなのに連続した波長の光がでるのはなぜか。(橋上)→太陽光は高温の物体からでる黒体輻射なのです。ただし、水素やヘリウムによる吸収(フラウンホーファ線)のため、連続光にはなっていません。
Q: 反射されずに吸収された光は最終的にどうなるのか(H2原嶌)→A: 熱エネルギーに変わります。
Q: プリズムの原理(H2又吉)→A: 屈折率に波長依存性があり、短い波長ほどよく曲がるから白色光を単色光に分解できるのです。
Q: ある色をじっと見つめて目に焼き付くまで見つめた直後に白い紙を見るとその補色が見えるのはなぜか。(H1松川)→A: 目の神経システムの情報処理の混乱のためにおきている現象です。エッジが強調されて見えるマッハ効果はよく知られていますが、それと同様の効果です。網膜の視神経系の第二段階の神経細胞は、第1段階の視細胞からの刺激を増強する入力と、刺激を抑止する方向の入力が加わっています。抑止入力は刺激に対し時間応答の遅れがあります。このため、正の刺激がなくなっても負の刺激が残るので、補色が見えるのです。(詳しくは、大森先生に聞いてください)
Q: 光をすべて吸収してしまったり、反射を全くしなかったらいったい何色になるのか(H1松木)→A:それを黒というのです。黒体というのは光が入ったきりでてこないような理想的な物体をいいます。
Q: TV画面は3原色の集まりで出来ているが、いろいろな色ができる仕組みを知りたい(H2三沢)→A:TVシステムでは、テレビカメラにはいっている撮像管またはCCDからでてきたRGB信号をいろいろ処理してI信号、Q信号に変換し、I sin pt + Q cos ptのような形でカラー用の搬送波をつくって、白黒画面に重畳して送っています。受像器では、重畳されたカラー信号を分離し、I信号とQ信号にもどし、白黒信号とのマトリクス回路からRGBに戻しています。ブラウン管には3つの電子銃が入っていて、それぞれの電子ビームが独立にR信号、G信号、B信号によって強度が変調されます。ブラウン管のシャドウマスクではそれぞれのビームが精密にRGBの蛍光体を刺激するように調整されているので、RGBがビームの強度に応じて発光するのです。
Q: 赤外線、紫外線の波長の程度→A: 可視域(380-780nm)の外の内、380nm以下のものを紫外線、780nm以上のものを赤外線といいます。
A: 光の色は光子の色か、目の細胞の感じる色か(H1湯本)→目の感じる刺激を人間は色として見ているのです。
Q: 蝶にはなぜ紫外線が見えるのか(H1村上)A: 受容器の刺激される波長が紫外の方にのびているだけです。
Q: 太陽電池について寿命は(H1藤村)→20年以上といわれています。
A: 光の周波数、エネルギーを測る仕組み(H1柳川)→波長を測れば、f=c/λによって求められます。
Q: 普通のガラスとUVカットガラスの違い→普通のも紫外線のうち330nm以下の波長のものは通しませんが、少し不純物を入れることによって400nm以下の光を吸収します。これがUVカットです。
Q: なぜ反射率が金属によって違うのか(H1井口)→A:物質ごとにバンド構造が異なり、電子の質量、フェルミ面での電子の密度、誘電率が異なるからです。
Q: オートフォーカスカメラで透明なガラスでピントが合う理由(H1小野)→ A: フォトダイオードがガラスを反射してきた赤外線に感じるからです。
Q: 同じ物質でも有効質量が異なれば反射が違ってくるか。(H2金子)→A:自由電子による反射の場合はそうですが、有効質量よりキャリア数や誘電率の方がもっと効いてくるようです。
Q: 完全に光を反射する金属は存在するか。(H1谷口)→A:金も銀も1μmより長波長では100%反射すると見なせるのではないでしょうか。
Q: 鏡はどの程度反射しているのか(谷口)→A:90−95%程度でしょう
Q: 格子振動による吸収はなぜなめらかに変化しないか。(H2馬場)→A: 特定の振動数にピークを持ちます。格子振動にはいろいろな振動モードがあるのでギザギザになるのです。