白石研究者は、炭素でできたグラフェンにスピンを流すという非常に挑戦的な課題に挑んだ。彼は、多層グラフェンにおいて4端子非局所法を使った地道で慎重な実験によって、世界で初めて信頼性のある純スピン流の注入と、それによる巨大磁気抵抗効果を室温で検証した。
さらに単層グラフェンでも純スピン流の注入に成功し、ゲート電圧によってスピン注入電流が制御できるというスピントランジスタ動作にも成功した。スピン拡散長が予想されるより、かなり短いという謎は期間中に解明には至らなかったが、所期の成果は十分得られたと評価したい。
彼は、さらに分子にスピン流を流す研究に挑戦をつづけているが、なかなか実現の道のりは遠い。その代わり、副産物として、フラーレン・コバルト微粒子ナノコンポジット材料で、低温ながら磁気スイッチング現象と140万%におよぶ巨大磁気抵抗効果を発見し、応用への貢献が期待されている。世界の分子スピントロニクスの先導者として、この分野を引っ張っていってくれる存在になると大いに期待している。
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