本提言では、物質内、生体内、あるいはデバイス内で起きている化学的、生化学的あるいは物理的な動的 現象を実際の使用環境、動作環境、製造環境のもとで計測し、その現象がもたらす対象の機能の解明に直接 的につなげていこうとする計測技術について述べている。このような計測は「オペランド計測」と呼ばれ、材料・ デバイスの開発における重要なツールになると期待され、すでに触媒や電池材料などへの適用が試みられてい る。
従来の非使用状態、非動作状態における静的で断面的な材料やデバイスの計測情報とは質的に異なる有 益な情報が得られるようになっているが、材料やデバイスの特性・機能により直接的に迫るだけの情報は得ら れておらず、オペランド計測が本来持っているポテンシャルが十分に発揮されているとは言えない状況にある。 また、現状でオペランド計測が適用されている技術領域も限られており、より広範な材料・デバイス分野、さ らには生体内の生化学的な動的現象の計測によりバイオ・ライフサイエンス分野へも展開可能と考えられ、そ の可能性への期待は大きい。加えて、このような材料、デバイス、生体の機能に迫る深い科学的な情報が得 られることで、新たな科学分野が開拓される可能性も期待される。
本提言では、これまでのオペランド計測が機能解明に十分踏み込めていなかったのに対し、機能の核心に 迫る計測、また触媒や電池などの特定の分野・領域が中心だったのに対し、他の材料系、デバイス、さらには 生体にまで踏み込めるよう手法を革新させた計測、の2 点が計測技術に求められている期待であると考え、 これらを満足する計測を「次世代オペランド計測」と称する。
次世代オペランド計測技術によって、材料・デバイス・バイオなどの分野における研究開発で 先行を図るとともに、動的対象の機能を解明することで産み出される新しい科学技術の知見を通じて、我が 国産業の国際的な高い競争力につなげていくことが可能となる。その実現に向かい、現状のオペランド計測 が持ついくつかの問題点を明らかにし、その解決手段について以下に提案する。
近年、環境・エネルギー問題の観点から、温暖化対策に有効な燃料電池や二次電池などのデバイス、省エ ネルギー・低環境負荷を促進する触媒材料などの新規開発や性能向上が強く求められている。それら社会か らの要求に対し、対象となる材料やデバイスの機能解明につながる計測技術であるオペランド計測が急速に 進展してきた。計測技術や計測機器の著しい技術進展もあり、優れた研究成果がすでに得られつつある状況 である。しかしながら、現状のオペランド計測にはいくつかの問題点があり、必ずしも喫緊の社会課題に対す る解決ニーズに十分に応えられていない。例えば、ナノの計測が実用サイズの機能に結びついていない、計 測結果が実環境での本質的な問題点を捉えきれていない、計測の空間・時間分解能が不十分、機能改善に 必要な材料特性を得る計測・解析プロセスが難解、などである。
計測技術に対する期待と現状の間に存在するこれらの「ギャップ」によって、必ずしも計測対象の機能解明 に十分に踏み込めていなかった。さらには適用対象が非常に限定的であり、オペランド計測が本来持つ高い ポテンシャルを幅広い分野・領域に適用できていなかった。本提言は、現状のオペランド計測が持つ上記の ギャップを解消することで、材料やデバイスの機能を解明するための情報を提供しうる、さらには他の材料 やデバイス、加えてバイオ・ライフサイエンス分野なども含め、広範な分野・領域にも展開しうる、次世代 オペランド計測の確立を目指すものである。
上記のギャップを解消し、計測技術に対する期待に応えうる次世代オペランド計測を実現するために今後取 り組むべき研究開発課題として、計測・解析技術に関する3つの課題と、データ科学技術に関する1つの課 題を取り上げる。具体的には以下の4つである。
【❶新たな科学の開拓や社会的課題の解決に向けた分野融合・連携】
これらの方策を実施することで次世代オペランド計測が実現すれば、計測対象の機能を解明することで、喫 緊の社会課題に対する解決ニーズに応えることが可能になる。一方で、新しい計測手法は常に新たな科学的 発見を誘起してきた。次世代オペランド計測の主な計測対象である、不均質・不安定・過渡的な複雑系に対 する計測技術駆動の新しい学術分野の創出・発展につながる。様々な分野での科学的発見の歴史を振り返れ ば、この新しい計測手法が革新をもたらし、新たな分野を切り拓いていくことが期待される。