Crystal Letters No.4 (1996) 3-4.


幹事長退任の挨拶
「そして、春近し」

佐藤勝昭 (農工大工)


「冬来たりなば春遠からじ。」これが、1994年の私の幹事長就任の挨拶のタイトルでした。あれからはや2年。あっと言うまでしたが、なんとか大役を果たして、久保寺幹事長に引継ができることをうれしく存じます。
思えば、この2年間は財政再建を含む分科会のReconstructionの期間でした。財政状況が逼迫し、赤字決算が予想されました。このため不本意ながら会費の値上げに踏み切らざるを得ませんでした。値上げを機に会員サービスの向上をはかりました。まず、会誌をCrystal Lettersと改題し投稿規程を整備し学術誌として再スタートしました。(これに伴い第四種郵便物の指定を受けることができました。)編集担当の松本、北原両幹事の努力の結果です。次に、研究会等テキストの年間予約購読制度を発足しました。これは、遠隔地あるいは多忙などのため研究会等に参加できない会員へのサービスとして発足したものです。この企画は好評で、60名を越える予約購読の申込がありました。これに伴う事務量の増加にご協力いただいた事務局の森職員に感謝します。また、会員のニーズにあった企画をという要望にお応えして、従来の講習会を、初心者向きの結晶工学スクールと、専門家向けの結晶工学セミナーに分け、対象をはっきりさせるとともに、内容の充実を図りました。スクールにおいては、学生の参加費を格安に設定し、新任の挨拶に書きました「結晶工学予備軍の育成をはかる」というお約束を実行しました。実際、多数の若者の参加を得て、活気あふれるスクールとなりました。スクールおよびセミナーの企画は、若い中山幹事の大胆な提案と実行力によって支えられました。
また、新任の挨拶に書きました中高生相手の「おもしろ結晶教室」のお約束は、もっと低年齢層を対象とした「ふしぎ体験結晶教室」として結実しました。(Crystal Letters No.2および応用物理65, No.1, 78-80, 1996をご参照下さい。)雄山幹事、寺嶋幹事の奮闘に感謝します。
このほかの企画もほぼ順調で、各イベントへの企業からの参加者数も徐々に増加しています。ようやく春が近づいて来ました。テキスト広告は相変わらず低調ですが、財政的には、広告収入に頼らないでもやっていける体質改善を図りました。95年度は、94年度の赤字をカバーし、若干の繰り越しをすることができました。この不況の間もしっかりと本会財政を支えていただいた賛助会費あればこそと、会員各社に感謝いたしております。
私が結晶工学分科会の幹事になったのは1979年。当時私はNHK技研の研究者でした。あれから、足かけ18年、その間私はNHKを去り農工大の教官になりました。そして、いま、ついに幹事会に別れを告げる時がやってきました。就任当時、256kbitのVLSIを目指してSiテクノロジーが急速に進展しつつありました。その後のMBE, MOCVDさらにはALEなどのエピタキシャル技術の進展は、非常に急速でした。当分科会は、場合によっては技術革新を先取りし、場合によってはその結晶工学的意義を問い、常にこのような先端技術をウオッチしながら今日まで進めて参りました。私は常に1専門家の目ではなく、むしろ門外漢の「素人っぽさ」と「好奇心」にもとづいて、企画の提案をしてきました。さらに、幹事会を単なる「儀式」にしないで、議論の場にする雰囲気を作るよう努力して来ました。議論を通じて、学ぶことの多い楽しい幹事会でした。この雰囲気は、ぜひとも今後とも残していただきたいと存じます。
最後に、私のやり残したことがあります。ここ数年、財政再建が至上命題になり、どちらかと言えば、営業的センスで、なるべく多数の会員に受けるテーマを選んできました。本当は、参加者が少数であっても学問的に大切なテーマを取り上げるべきだったのですが、きちんとした研究会としてテキストを作り会場を確保しますと50人以下の参加者では採算割れになり、踏み切れなかったのです。原点に返ってもっと気軽な小さな専門的な研究会をやってはいかがでしょうか。大学や企業の会議室を使って、テキストもコピーを20-30部講演者自ら用意するような気軽なものです。こういうところから、結晶工学の新しいパラダイムを拓くことができればいいなと存じます。
新しい年度は久保寺幹事長、松本副幹事長のコンビでイメージを一新します。久保寺新幹事長は、 NTT研究所での重責と多忙にかかわらず、これまで会計担当として分科会の苦しい財政をきりまわし、繰り越しがでるところまで再建していただいたほか、幹事長に代わって何度も理事会などに出席いただき、分科会のおかれた状況を旧幹事長よりもよく把握しておられるベテランです。無理を承知で幹事長を引き受けていただきました。松本副幹事長は、1979年当時の本会の原点を知る数少ない研究者です。結晶工学ニュースの改革、Crystal Lettersの創設に力を尽くしていただきました。このお二人にお任せすれば、ヤングパワーの台頭著しい幹事会をまとめ、新しい企画を打ち立てて結晶工学の第2の黄金時代を拓いていただけるものと期待しております。よろしくお願いします。