「ふしぎ体験結晶教室」体験記

結晶工学分科会幹事長 佐藤勝昭(農工大工)

 今年の金沢の夏は暑い。この日(8月25日)の金沢も強い日差しが照りつけ、日中の気温は35゜C以上。まして、冷房のない金沢大学工学部の物理、化学実験室の暑さはすさまじいものでした。(学術講演会が開かれた私立の金沢工大の教室は冷房が効いて快適でした。念のため。)その中で、応用物理学会の第1回科学と生活フェスティバルの「ふしぎ体験結晶教室」が、80名の小中学生、20名以上の保護者の皆さんをあつめて行われました。この教室が開かれることになったいきさつについては、前号のCrystal Lettersで詳細に述べた通りです。プログラムを掲げておきます。


 講演会:「くらしの中の結晶」(秀峰会館:ここは冷房完備)
   宝石のふしぎ:砂川一郎(山梨県宝石貴金属専門学校長)
   雪と氷の世界-結晶は語る:古川義純(北海道大学低温科学研)
   先端技術と結晶:寺嶋一高(湘南工大)

 展示:
   オールド・セラミクス・ニュー・セラミクス(石川県工業試験場)
   太陽電池であそぼう(三洋電機提供)
   シリコン単結晶(ニッテツ電子、新日鐵)
   光通信のしくみ(金沢大学工学部)

 体験教室:(午後、対象は小学校高学年および中学1、2年生、参加定員100名)
  A教室
   結晶と遊ぼう(結晶を光らせよう、たたくと電気の出る結晶、形を変える結晶)
  B教室
   光で遊ぼう(LEDパネルで絵を描こう、レーザで遊ぼう)
   光デバイスと結晶(LEDに電気を流してみよう、偏光と結晶)
  C教室
   結晶をつくろう(きらきら光る結晶をつくる)
   結晶成長の観察(硫化銀、ヨウ化銀)

 ちょっと教室を覗いてみましょう。A教室に近づくと、とんとんという大きな音が廊下にまで響いてきます。そうです、音は「たたくと電気の出る結晶」のコーナから聞こえてくるのです。みんなこの暑さの中で元気いっぱい、PZTを木槌でたたいて、電気を起こしネオンランプを点灯しようとしているのです(図1参照)。子どもたちはみんな元気があふれているので、さすがのPZTセラミクスもボロボロになるものが続出でした。
 このテーマは、田中昭幹事が、実験の本をみて提案したものです。しかし、提案にあったロッシェル塩はいまやどこを探しても手に入りません。水晶を日本電波からお借りしたのですがあまり圧電効果は大きくありません。単結晶にこだわらず多結晶セラミクスのPZTを使うことは、京大の塩崎先生からサジェスチョンを受けました。いろいろ予備実験を繰り返していただいた雄山幹事の奮闘に敬意。
 となりの机をみましょう。この暑いのにお湯の入った四角いビーカの周りには子どもたちがわれがちに針金をつっこんでいます。実はこの針金、形状記憶合金の針金です。針金でコイルをつくってお湯につっこんで元に戻る様子を観察しているのです。(図2参照)
 子どもたちに人気の形状記憶合金、実は提案者の寺嶋教授も実際にさわるのは初めて!(これでテキストを書くのですからさすが大物です。)でも、寺嶋幹事の努力で、安く仕入れた形状記憶合金を1本づつおみやげにもらって子どもたちはニコニコ顔でした。
 あっと驚いたのは、お湯を入れるだけでくるくる回る形状記憶合金の仕掛けを作って展示してあったことです。石川県教育センターで以前に作っておられたものを持ってこられたのでした。
 はしっこでは、ブラックライトや殺菌灯で蛍光の実験をしています。(図3参照)「ふつうのマジックで書いた文字、蛍光ペンで書いた文字、洗濯機用洗剤の液に筆を付けて書いた見えない文字。ブラックライトを当てるとどういう封に違って見えるかな。」-そうです。子どもたちに示すには、比べて見せるのが一番。さすが、理科教育研究会の先生方はポイントをつかんでいます。同じように赤いルビーとビー玉、ブラックライトを当てると光るのはルビーの方。ホンモノの真珠とイミテーションの真珠。ブラックライトで光るのはイミテーションの方でした。
 おや、先生が2枚の千円札を出しました。ブラックライトを当てると、あれっ、赤い印鑑のところが、1枚はオレンジ色に光るのに、もう1枚は光りません。「どっちがホンモノかな。」と先生。「光る方!」「光らない方!」・・・。「残念でした。どっちもホンモノ。年によってインクが違うのだね。」
-どうです。理科の先生、実にうまいですね。思わず引き込まれて見とれてしまいました。大学の授業もこんなふうにすれば、机に伏せて寝ている学生はいなくなるのですが・・。
 B教室に行ってみましょう。レーザを水槽に入射して屈折する様子や、鏡で曲げられて教室の端っこまで届く様子を観察しています。先生が屈折の説明をしています。そばに行って聞いてみましょう。「みんなが朝御飯のとき、お茶を入れた湯飲みにお箸をつっこむと折れ曲がって見えるね。知っている人!」「ハーイ」「レーザ光線が水槽に入ると折れ曲がります。みんなが、2列に並んで真すぐ歩いていたときに、内側の人が急にゆっくりしたら、行列は曲がりますね。光もそれと同じようにして曲がるのです。」(ホンマかいな)-とにかく、分かったような気にさせるのが大切です。
 実は、この実験に使ったレーザポインタ、私が懇意にしている会社にお願いしてその日だけお借りしたものです。お願いしたのがだいぶ前だったため忘れておられ、前の日になって「届いてないよ」と現地からファックスをいただいて、急遽、夕方空港に出発する直前に私のもとに届けていただきました。危ないところでした。
 となりの机では中学生が5cm角に切った偏光シートを使って、スライドグラスで反射された光が偏光している様子を観察しています。(図4)実は、小生はテキストの原稿に「金属板で反射させて反射光が偏光している様子を見てみよう」なんて書いていたのです。原稿を現地に送りましたところ、「このとおりやってみたが、金属板ではうまくいきません。スライドグラスではOKです。原稿を書き換えてください」というお返事。考えて見れば、金属の場合、屈折率の虚数部(つまり、消光係数)が大きいので、理想的なブリュースター条件にならないのです。よく考えれば当然のことなのですが、いかに小生が、日頃机上の空論をやっていたかということがばれたわけで、恥じ入った次第です。
 別棟にあるC教室では、子どもたちが熱心に、試験管を振るってKClを溶かし、氷水に入れたあと軽く叩くと、KClの微結晶がキラキラ光りながら沈殿していく様子を観察しています。石川テレビという地元のローカル局が取材にきて、子どもたちが生き生きと実験に取り組む様子をビデオに納めて行きました。夕方のローカルニュースで放映されたそうです。
 最後には、再び講演会場に戻り、アンケートに記入してもらうとともに、アンケートと引き替えにテキストの最後のページにある修了証書に応用物理学会の角印を校長(かくいう私)が押して、一人一人の子どもたちを励ましました。きっと思い出として長く残るものと期待しています。
 こんな具合に、いろいろ冷や汗ものでしたが、現地実行委員の完璧なフォローにより、無事すべての行事が終わりました。幹事一同、学ぶところの多い体験教室でした。準備期間の短い第1回目のフェスティバルとしては、大成功といえるのではではないでしょうか。
このような体験学習が、いろんな都市で、いろんな学会によって行われ、一人でも多くの子どもたちが理科好きになってくれればいいなと思いました。私たちの経験を活かして、もっと楽しく充実した体験学習が今後とも続いていくことを願っています。

 おわりになりましたが、この企画に加わったり、ご協力いただいた結晶工学分科会の現幹事、元幹事長の方々、楽しい講演をしていただいた講師の方々、稲部先生(金沢大)、中村先生(石川県教育センター)をはじめ現地実行委員会の方々、とくに子どもたちの指導に当たっていただいた石川県理科教育研究会の先生方、送料を負担して展示、教材提供にご協力をいただいた企業の方々、テキスト作成のための費用をご協賛いただいた各企業、終始温かく励ましていただいた応用物理教育分科会の大澤、岡島両先生、裏方として細かい詰めの作業をこなしていただいた応用物理学会事務局の苅米さんに感謝いたします。
 テキストご希望の方は、応用物理学会事務局苅米さんにお申し出下さい。