科学と生活フェスティバルへの協力について

結晶工学分科会幹事長 佐藤勝昭

 若者の理工系ばなれが、深刻になっている。受験生が理工系を避けるようになってから久しい。それは、バブル期に一気に進んだ。難しい受験勉強をしてやっと入った理工系学部。文系は遊びまくっているのに、理系は大学に入ってもしっかりと勉強しなくてはならない。卒論で毎晩徹夜なんて話も聞く。それだけの努力をしても、技術者の受け皿の自動車会社も電気会社も化学会社も鉄鋼会社も、文系が中心の銀行や生保や証券会社やマスコミよりはるかに安月給である。その自動車産業だって、バブル最盛期には財テクによる収入が自動車生産による収入を上回った会社もあったという。それが、理工系学生の金融機関への就職ブームとなって表れた。今の大学3、4年生は、そのまっただ中で受験期を迎えていた。今、就職難の時代になって、受験生の若干の理工系回帰が見られるものの、まだ本物ではない。
 そればかりではない。子どもたちは、小学生の頃は決して理科嫌いではないのに、高校くらいになると物理嫌い化学嫌いになるという事実は、無味乾燥な受験勉強にも一因があるが、やはり実験を中心とした楽しい理科教育が行われていないせいではないだろうか。いつか結晶工学ニュースで岩手大の重松先生が指摘しておられたように、中高生の理科を教える先生の育成が危機を迎えている。教員養成学部は、文科系に分類されていて理工系に興味をもてない理科教師を養成しているというのだ。
 平成6年12月12日、第52回科学技術会議本会議は「科学技術系人材の確保に関する基本方針」という諮問第20号を内閣総理大臣に答申、その対策として、第2章1項1-1「科学技術が身近にとらえ考えるための多様な機会の提供」の中に、(1)生き生きとした情報の発信、(2)自然とふれあう機械の重視、(3)魅力ある博物館等の整備・充実、(4)マスメディアの期待と各種メディアの活用、(5)家庭への期待 を挙げている。(1)の中の「科学技術活動を実体験できるような機会の提供」という項目には、「高度な機能を持った製品が家庭や職場のいたるところで使われるようになるなど、今日、人々の生活は科学技術と多くの接点をもつようになっている。しかし、製品の内部構造や動作原理が分かりにくいものになっていることから、その機能を利用しながらも、内部構造やそこに用いられている原理などについては興味や科学の対象としてとらえられていないように見受けられる。したがって、人々が科学技術をより身近に感じ、興味や関心の対象としてとらえることができるよう、正負や地方公共団体のほか、大学、研究機関、工場、学会などの科学技術活動の主体から積極的に情報を発信していくことが重要である。」と書かれている。
 遅ればせながら応用物理学会もことの重大さに気がついたようである。応用物理2月号に特集されたように、理科離れは技術立国ニッポンにとっても重大事態である。応用物理学会教育企画委員会では、「科学と生活フェスティバル」という形のイベントを今後継続的に開催し、理科離れ対策に乗り出すことになった。遅ればせながらというのは、日本化学会などの取り組みに比べてということである。同会ではなんと数年前から、巨額を投じて「夢化学21」をはじめとする多数の企画に取り組んできたのである。
 私は、昨年の結晶工学ニュースの幹事長新任の挨拶に、「おもしろ結晶教室の開催」を提案していたこともあって、1/31の企画教育委員会において結晶工学分科会が教育・企画委員会にご協力する旨お約束したのである。当分科会からは、私のほか、寺嶋、雄山両幹事が運営委員会に参加することとなり、全幹事にテーマの提案をお願いした。
 科学と生活フェスティバル運営委員会は、我々の他、教育企画委員会の石川、後藤両先生、応用物理教育分科会の大澤、岡島両先生、北陸支部の稲部先生、石川県教育センターの中村さん、石川県工業試験場の吉田さん、日本物理教育学会の霜田先生から構成され、3/6、4/28の2度開かれた。この結果、次のように方針が決定された。


(1)第56回応用物理学会学術講演会の会期(8/26-29)の前日、金沢大学工学部秀峰会館、化学実験室、物理学実験室において開催する。

(2)全体のタイトルは、「ふしぎ体験結晶教室」とする。内容は、
講演会:「暮らしの中の結晶」
(午前、講師3名、参加定員250名)(以下のタイトルはいずれも仮題)
   宝石のふしぎ:砂川(山梨県宝石貴金属専門学校長)
   雪と氷の結晶:古川(北海道大学)
   先端技術と結晶:寺嶋(湘南工大)
展示:
   オールド・セラミクス・ニュー・セラミクス(石川県工業試験場)
   太陽電池で遊ぼう(三洋電機提供)
   光通信のしくみほか(金沢大学工学部)
体験教室:(午後、対象は小学校高学年および中学1、2年生、参加定員100名)
(以下のテーマは検討中のもの)
Aコース(小学校高学年向き)
 結晶と遊ぼう(光る結晶、叩くと電気の起きる結晶、形を覚える金属)、光で遊ぼう
 (LEDパネルで遊ぼう・レーザで遊ぼう)、結晶を作ってみよう(塩化カリウム)
Bコース(中学生むき)
 結晶の観察(蛍光の観察、顕微鏡観察、光像で見る結晶)、光デバイスの原理を知ろう
 (偏光と液晶パネル、ウェハー上のLEDを光らせよう)、結晶の作製(硫化銀など)

(3)テキスト
講演:図中心に各3ページ程度
実験:各テーマ2ページ程度(メモ含む)
(4)参加者募集の周知:石川県教育委員会を通じ、石川県理科教育研究会の教室に参加している児童生徒を中心に募集。マスコミにも協力を依頼する。
(5)費用は、応用物理学会が200万の予算を用意する。


 以上のように、応用物理学会にとっての新しい一歩を踏み出すことになった。結晶工学分科会は、全力をあげてそのお手伝いをする予定である。会員各位の暖かいご支援をお願いしたい。