光物性工学・物性物理学(佐藤勝昭教官) 期末テスト 1998.7.28

持ち込み可:教科書(または参考書)1冊、A4判のレポート(自筆に限る)1枚


問題1 半導体の光学的性質について

(1)半導体には、ある波長より短い波長の光を吸収して通さなくする性質があります。光が通らなくなる波長(または、対応する光子エネルギー)を(光学)吸収端と呼びます。半導体が吸収端を持つ理由について電子バンド構造に基づいて説明して下さい。(7/14の授業)

[解答] 半導体には、電子でほとんど占められた価電子帯とほとんど電子に占有されない伝導帯があり、その間にバンドギャップというエネルギー領域がある。光のエネルギーがこのバンドギャップのエネルギーEgより小さいと価電子帯から励起された電子は遷移する行き先がないため吸収が起きないが、Egより大きいと吸収が始まる。これが吸収端である。

(2)半導体の吸収端における光学遷移には、直接遷移と間接遷移とがあります。直接遷移と間接遷移とはそれぞれどんな光学遷移ですか。半導体のk空間におけるバンド構造の違いによって説明して下さい。(7/14の授業)

[解答] k空間表示で、価電子帯の頂と伝導帯の底が、直接遷移では同じ位置にくるので遷移強度が大きいが、間接遷移では両者が異なる位置にくるため遷移にはフォノンの介在を必要とし、強度が小さい。

(3)硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、ガリウムリン(GaP)、ガリウム砒素(GaAs)のバンドギャップはそれぞれ、3.6 eV, 2.42 eV, 2.25 eV, 1.43 eVです。これらの半導体(厚さ1mm程度)の透過光の色は、それぞれ何色ですか。色とその根拠も書いて下さい。(光が透過しない場合には、不透明と書いて下さい。)

[解答] ZnS (無色透明:すべての可視光が透過)、CdS(黄色:青緑より長波長の光[緑、黄、橙、赤]を透過)、GaP(赤橙色:黄色より長波長[橙、赤]を透過)、GaAs(不透明:赤外線のみ透過)

(4)シリコンは半導体であって金属ではないのに、研磨したシリコンのウェーハは、銀色の鈍(にぶ)い金属光沢を示しています。その理由を書いて下さい。(7/14の授業)

[解答] シリコンのバンドギャップは赤外域にあるため、光が透過しない。このため研磨したシリコンは反射のみが見えるのであるが、可視光領域では直接遷移のため遷移強度が強く、反射率が40%程度あるため、金属光沢を示す。

(5)塩化ナトリウムでは、直流比誘電率εr=5.9であるのに対し、屈折率nの2乗n2=2.25となり、εrn2とは大きく異なっています。一方、シリコンでは直流比誘電率εr=11.7, 屈折率nの2乗n2=11.7、となって両者は等しい。この違いの原因を両物質の結合にもとづいて説明して下さい。(6/2の授業)

[解答] シリコンの結合は共有結合のためイオン分極がない。従って、εr=n2であるが、NaClはイオン結合のため誘電率にイオン分極の寄与があるためεrn2となる。

問題2 質量m,電荷qの粒子が格子点にバネで束縛されているような系による電気分極を以下の手続きに従って計算してください。[教科書4.2節](6/2の授業)

(1)まず、電界がなく、摩擦力が無視できものとすると、粒子に働く力は粒子の平衡点からのずれuにもとづくバネの復元力だけとなります。バネ定数をKとしとして、(古典力学の)運動方程式を立てて下さい。質量×加速度=バネの復元力

[解答] md2u/dt2 + Ku = 0

(2)この運動方程式を解いて、この系の固有角振動数ω0mKの式として求めなさい。

[解答] ω0=(K/m)1/2

(3)つぎに、この粒子が電荷qをもっていたとし、角振動数ωの周期的な電界E=E0exp(-iωt)が加わった場合を考えます。この場合の運動方程式を立ててください。

[解答] md2u/dt2 + Ku = qE

(4)この方程式の解として、u=u0exp(-iωt)の形の解を考えたとき、変位u m、ω、ω0(または、m, K)、qEの関数として表して下さい。

[解答] u=qE/m(ω022)

(5)この粒子の運動によって生じた分極Pm、ω、ω0(または、m, K)、qEの関数として表してください。(ただし、Nを粒子の密度として分極はPNquで表されるものとします)

[解答] P=Nqu=Nq2E/m(ω022)

問題3 偏光について次の質問にお答え下さい。

(1)ガラスに斜め入射した場合の反射光はかなり偏光しています。ある入射角ではp偏光が消滅しs偏光のみとなります。p偏光、s偏光とはどんな偏光ですか。(5/12の授業)

[解答] p偏光:入射面に平行な偏光、s偏光:入射面に垂直な偏光

(2)上の場合の入射角のことをブリュースター角と呼びます。ガラスの屈折率を1.5としたときブリュースター角を求めなさい。(5/19の授業)

[解答] θ=tan-1 N = tan-1(1.5)=56.3゜

(3)MD(ミニディスク)では偏光を使って磁気記録された情報を読み出しています。なぜこの様なことが可能なのか説明して下さい。(5/19の授業)

[解答] 磁化された物質に直線偏光を入射したときに、その透過光が入射光の偏光の方向から回転する効果(磁気光学効果:ファラデー効果)を利用して,偏光の回転を光の強度の変化に変えて読み出している。

(4)自然旋光性と磁気旋光(ファラデー効果)の違いについて説明して下さい。(5/19の授業)

[解答] 自然旋光性は回転が光の進行方向に関して決まるので相反であるが、ファラデー効果は、回転が磁化の方向に関して決まり非相反であるので、透過光を鏡で反射させて媒質中を往復させるとき、自然旋光では回転前の偏光に戻るのに対し、ファラデー効果では回転角が2倍になる。

問題4 GaPのフォトルミネセンス・スペクトルの測定について答えてください。(7/21の授業)

(1)この実験のためのセッティングを模式的な図として示してください。

[解答] レーザ→クライオスタット(試料)→フィルタ→分光器→検出器→エレクトロニクス

(2)吸収端より少し低いエネルギーの領域にある励起子発光について研究したいのですが、このときの励起光源として最適なものは次のどれか、それはなぜかを答えてください。 (a)半導体レーザ(780 nm), (b)YAG:Ndレーザ(1060 nm), (c)Ar+レーザ(488nm, 514nm)

[解答] (c): GaPのバンドギャップ以上の光子エネルギーの励起が必要だから。

フォトルミネセンス・スペクトルの測定はなぜ低温で行う必要があるかを考えて下さい。励起子の束縛エネルギーと熱エネルギーの相対関係を考えてみましょう。

[解答] 励起子の束縛エネルギーは数meVという小さい値なので、室温(25meV)では解離してしまい測定できない。励起子スペクトルを観測するには、束縛エネルギーに相当する温度以下で測定なければならない。

問題5 ルミネセンスとレーザについて

(1)ルミネセンスを励起の仕方によって分類して下さい。また、それぞれの例または実用的な応用を示して下さい。(7/21の授業)

[解答]
  1. 光による:フォトルミネセンス:蛍光灯、プラズマディスプレー
  2. 電子線による:カソードルミネセンス:ブラウン管
  3. 電界による:エレクトロルミネセンス:ELディスプレイ、LED
  4. 化学反応による:ケミカルルミネセンス:縁日の風船

(2)レーザ作用が起きるためには反転分布が必要であるといわれる。反転分布とは何か、反転分布が必要である理由を述べよ。(7/21)[教科書4.4.2]

[解答] 電磁波の電界を受けて、励起状態から基底状態への遷移の方が基底状態から励起状態への遷移より多くならないと正味の誘導放出を観測できない。励起状態の分布を基底状態の分布より多くすることを反転分布という。

(3)半導体レーザにおいて、閾値以下の電流では、発光ダイオードの動作ですが、閾値を超えるとレーザの動作になります。発光ダイオードの状態とレーザの状態とでは何が違っていたのですか。(7/21の授業)[教科書4.5節]

[解答] それまで位相がそろっていなかったものが、閾値を越えると位相がそろって可干渉な状態になった。

(4)半導体レーザが低いしきい電圧で動作するようになったのは、二重ヘテロ構造をとることで電子正孔密度を高めると共に、活性層での光の密度を上げることが出来たからだと言われています。二重ヘテロ構造とはどのような構造であるのか、何故光の密度を上げることが出来たかについてお答え下さい。(6/16・7/21の授業)

[解答] GaAs活性層の両側を屈折率の低いGaAlAsクラッド層で挟むことにより、電子・正孔を閉じこめるとともに、全反射の状態によって光の密度を上げて誘導放出が起きやすくしている。

問題6 4/28の講義で話したように物質の色には多くの原因があります。下のそれぞれについて、色の原因を文章で説明して下さい。

  1. シャボン玉の色
  2. [解答] 薄膜の両面での光の干渉

  3. コンパクトディスク(CD)の反射光が虹のように色が見える理由
  4. [解答] 多数のガイド溝の凹凸のために光の回折が起きるため

  5. 晴天の日の空が青く見える理由
  6. [解答] 空気によるレイリー散乱によって太陽光が散乱されるが、散乱光の青成分が多いため

  7. 「金」(きん)が金色に見える理由
  8. [解答] 自由電子のプラズマ振動による強い反射が赤、黄、緑の波長領域に存在し、黄色の選択反射がおきるが、反射率が高いため周りの色が映り込んで複雑な色に見える。

  9. ルビーのピンク色
  10. [解答] コランダムAl2O3に添加されたCr3+イオンの3d3電子配置における局在遷移のため、黄色ー緑の波長領域が選択吸収を受け、その補色が見えるため紫がかった赤に見える。

  11. 虹の色

問題7 光物性工学の授業で印象に残ったことやご意見、ご希望があれば書いてください。