光物性工学 第6回プリント 佐藤勝昭教官 99.5.18

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教科書:佐藤・越田著「応用電子物性」(コロナ社)

第5回の学習事項

光学活性 教科書p.90

旋光性:直線偏光を回転させる性質:右円偏光と左円偏光の間に位相差(速度差)がある時、

円二色性:直線偏光を楕円偏光にする性質:右円偏光と左円偏光の間に振幅差(強度差)がある時、

光学活性のいろいろ:自然活性、電気光学効果、磁気光学効果

非線形光学効果:誘電率が電界の関数であるようなときの光学応答:SHG、パラメトリック過程、光整流

第5回の問題:

左円偏光が右円偏光より強く吸収される物質があるとき直線偏光はどのような偏光となるか 

[解答] 吸収されないで残っている偏光としては右円偏光が強いので、右回りの楕円偏光となる

第5回のQアンドA

  1. 直線偏光は左右円偏光に分けられるが、分ける必要があるのか (H2小井)→A. 誘電率テンソルの非対角成分の無いときには、円偏光はマクスウェル方程式の固有解になりませんから、左右円偏光に分けて考える必要はありません。
  2. 楕円偏光のベクトルの説明が分からない。同心円を2つ描いてベクトルを表すのはなぜか(H2替地)→A. ベクトルの先が円上を回転していることを表したかったのです。p.91の図3.4をそういうつもりでもう一度眺めてみて下さい。
  3. 円偏光のイメージがつかめない(H1古賀)→A. 電界のx成分Exとy成分Eyを、それぞれオシロスコープのx軸とy軸に入力してリサージュ図形を描くことを思い起こして下さい。ExとEyがin phaseであれば、奇跡は直線ですが、90゚位相がずれていると円になりますね。
  4. ショ糖の他にも身の回りで偏光の回転するものはあるか(渡壁、高橋聡)→A. 水晶が自然旋光性を持つことで有名です。
  5. 左右円偏光に対する物質の応答の違いは巨視的にはεテンソルによると教科書にあるが、微視的にはどうなのか(H2外山)→A. 誘電率をミクロに見ると、分極のしやすさを表していることが分かります。電磁界による電子分極のメカニズムは、山田、佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社1995)p.161。光学現象の量子論を読んでみて下さい。理解するには、時間を含む摂動論の考え方が必要です。物理的意味は、同書p163にあります。
  6. 磁気光学効果がMOやMDの読み出しに使われるといったが、具体的にはどのようにその効果を利用するのか(H1編 福田)→A. 記録された磁化の方向により、偏光の回転の方向が変わるのでその変化を検出して、電気信号に換えます。(詳しくは、佐藤勝昭著「光と磁気」(朝倉書店1988)p.151, 佐藤勝昭著「金色の石に魅せられて」(裳華房1990)p。97、佐藤他著「光磁気ディスク材料」(工業調査会1993)p.7、寺尾他著「光メモリの基礎」(コロナ社1990)p。13参照
  7. 左右円偏光や楕円偏光の応用例(H1大和) 円偏光は何に必要か(H1中山)→A. 現象として存在していることを話しただけで、それ自身が応用されていないこともあります。BS放送の電波の場合、直線偏光よりもアンテナの形状の影響を受けにくいので円偏波が使われます。(CSは直線偏波です)。UHFサテライト放送では左右円偏波が直交していることを利用して、混信防止にも使います。円偏光だけを利用した例はあまり無いと思いますが、実際にMDでは直線偏光の回転だけでなく楕円になる現象も起きています。両方の効果を最大限に用いるように、読み出しには位相補償子を用いています。
  8. テンソルとは各方向によってパラメータの値が異なると言うことか(H2小林孝)→A. 理化学辞典(岩波)によれば、「複数の成分を持ち、空間の座標変換に対していくつかのベクトルの成分の積に対応した変換を受けるものをいう。」とあります。誘電テンソルは2階のテンソルですが、電界のj成分Ejと電束密度のi成分Diを結びつけるのでDi=εijEjのように表します。ここに繰り返される添え字については和をとるということが暗黙の内に約束されています。ひずみはテンソルです。j方向の長さLjのものがi方向にΔLiひすんだとするとそのときのひずみはSij=ΔLi/Ljと表され、やはり2階のテンソルです。圧電効果のように電界EkによりひずみSijが生じる場合圧電係数dijkを用いて、Sij=dijkEkとかけます。dは3階のテンソルです。石原繁著「テンソル-科学技術のために-」(裳華房2900円)参照
  9. 強く吸収される方がベクトルの大きさが大きいのか小さいのか分からない。(H2綾、三戸)→A. 強く吸収されたら透過光は当然弱くなるでしょう。
  10. CDは10年経つと腐るというのは本当か(H1溝口)→A. 腐ることはありません。ただ、世の中がDVD全盛になり、さらに青色レーザの普及でもっと高密度になると、CDをかける装置が無くなる可能性があります。
  11. SHGについてよく分からない(H2工藤)非線形光学効果が分からなかった(H1細田)→A. ちょっと難しかったかな。具体的には、例えば赤外線(見えない!)の1.06μm(=1060nm)の光をADP, KDP, LN, KTPなどの「非線形結晶」に入力すると、周波数が2倍(波長が1/2:530nm緑)の光が出力します。
  12. 非線形光学効果はエネルギー増幅に使えるか(H1中山)→A. エネルギー保存則から言って増幅することはあり得ません。
  13. ε(E)をフーリエ変換したものは使われないか(H2佐藤良)→A EやDはtの関数ですが、フーリエ変換によってωの領域で表すとき、誘電率もωの関数となります。非線形効果の場合ε(ω312)のような表し方をします。
  14. R, G, B以外の色を使ってすべての色を表すことが出来ると雑誌で読んだが本当か(編、稲倉)→A. YES.
  15. 物質で吸収された光は、出た後もそのままなのか(H2宍戸)→A. 出た途端に強くなる理由は無いでしょう。(波長については、物質中で短くなっていたものが、出た途端に元の波長に戻りますが)
  16. フラッシュカメラで写真をとると目が赤く写る現象はなぜか(H1杉田)→A. 暗いところでは、瞳孔が開いているからです。
  17. マジックミラーの原理を知りたい(H1 Sakchai)→A. 普通のハーフミラーです。明るい側から見ると暗い側からくる透過光より、反射光の方が強くて中が見えないだけです。明かりを逆にすれば、逆の部屋からよく見えなくなります。
  18. 太陽光をレンズで絞って太陽電池に当てれば狭い場所で大きな電力が得られないか(山中)→A. 実際に齋藤研では集光型の太陽電池のためのレンズ設計をしています。
  19. 写真のフィルムの現像にレーザをどのように使うのか(上田)→A. フィルムの「現像」には使いません。印画紙への焼き付けに使います。印画紙のRGB感光色素をRGBそれぞれ変調されたレーザで照射して印画します。
  20. 高専のとき卒研で携帯電話の電磁波を測定したが、通話時に最も強い電波がでており、それ以外では問題ないと思うがどうか(H1花田)→A. 自分の位置を基地局に伝えるための電波が周期的に出ています。