光物性工学 第2回プリント 佐藤勝昭教官 99.4.13

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おわび教科書として先週、佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)と書きましたが、生協には、すでに、佐藤・越田著「応用電子物性」(コロナ社)を発注していました。

第1回の学習事項

 光物性工学には、基礎知識として電磁気学と量子力学が必要である。半年の講義は2部に分かれ、第1部では、光の伝搬を中心に光学定数、誘電率、反射率、偏光解析、磁気光学効果等について学ぶ。第2部では、物質の電子構造に基づいて、電子論から光物性に迫る。主として半導体の光学遷移について議論する。

 授業では、レーザポインタに用いられている「半導体レーザ」のこと、光ファイバ通信になぜ赤外線(波長1.3μm,1.5μm)が使われるか、太陽光発電など身近なエレクトロニクスに使われる光物性について対話型の授業を行った。また、光の波長と色についても話した。

第1回の問題:様々な光の色を3原色(赤、緑、青)で表すことができるのはなぜか。

[解答] 人間の網膜には赤の波長、緑の波長、青の波長に幅の広い感度をもつ視細胞があって、これらの細胞の刺激の程度によって色を識別している。このため、例えば、黄色の単色光を当てると、赤の細胞と、緑の細胞が同程度刺激され黄色と感じる。(参考:人間の視細胞には、錐状体と杆状体があるが、中心部にあって色を感じるのは錐状体である。)色の干渉によるという解答が2・3見られましたが、間違いです。人の目の感知能力がすごいから(門田)というようなシロート的な説明はしないでください。

第1回のQアンドA

  1. (a)光ファイバーの損失曲線のレイリー散乱について詳しく知りた.い. (b)OH基によってなぜ光吸収が起きるのか. (c) OH基を取り除く方法(H2 上田)→A.(a)ガラスを固化するときの密度揺らぎに基づく散乱です。レイリー散乱の理論では、散乱光強度はλ-4に比例するので短波長ほどよく散乱されます。(b) OH基の分子振動(回転・伸縮など)の周波数に対応する光の波長が2.7μmにありますが、その第二高調波が1.35μmにあらわれます。 (c) 石英ガラスを作製する際の原料精製プロセスにおいて水が入らないようなプロセスを用います。塩化珪素などの原料を一度気化して再凝縮することが行われます。(電子情報通信学会偏「先端デバイス材料ハンドブック」)
  2. 光ファイバーはどのくらい細くできるか(H1大和)→A.コアの直径が波長以下になると光が伝わらなくなります。
  3. EDFAについてもっと知りたい(H1伊藤)→A. 原理としては希土類元素であるEr(エルビウム)を添加した光ファイバーにポンプ光としてErイオンの高い励起エネルギーに相当する光を入射してポンピングすることにより、Erの低い励起状態を「反転分布」の状態にしておきます。ここに、1.5μmの波長の光信号が来ますと、反転分布状態のErの低い励起状態から誘導放出がおき、光の増幅作用が起きるわけです。
  4. 太陽光発電などの電力を電力会社に売れるのか(H1中村)→A.5年前に逆潮あり系統連携のガイドラインが定められ、比較的容易に発電した余剰電力を系統に供給できるようになりました。
  5. 太陽電池は採算がとれるか(H2井海)→A. 普通屋根瓦は採算がとれるかと聞かないでしょう。太陽電池は健在のつです。
  6. (a)昼太陽光発電した電力を貯めておいて夜使えないのか。(b)太陽電池で1軒の家の電力をまかなえるのか(H1藤本)→A. (a) 大容量で、損失が少なく、安価で、置き場所をとらず、寿命が長い2次電池が開発されれば、昼の電力を貯めておいて夜使えるようになるでしょう。今でも、BSや、離島の灯台、道路標識、街路灯などに2次電池を用いたものが使われています。家庭用は、まだまだ価格的にも置き場所の点でもメンテの点でも無理でしょう。{b}我が家の1ヶ月の平均発電量は300kWhですから、熱源として都市ガスなどを併用している家庭ではほぼまかなえる量です。
  7. 宇宙で発電した電力を地上で利用できないか(H2森岡)→A. マイクロ波などによって人工衛星から地上に電力を伝送する研究も行われています。まだ、実験室段階です。
  8. GaAsの太陽電池は30%の効率といっていたが、出始めはどれくらいの効率だったのか(H1杉田)→A.どんな太陽電池材料でも、研究の当初は、光起電力があるのを確認できるくらいです。0.1%以下ということもざらです。
  9. 虹は7色というが、授業の説明では6色しかなかった(H1大谷、H2桜沢)→A. 7色とは、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫です。藍色というのは深い青のことですが、面倒なので授業では青に含めて省略しました。
  10. 電気的な色の判別法を教えて欲しい(H1三原)→A. カラーテレビカメラで撮影し、NTSC信号に変換すれば、その位相から、色を指定することができます。RGB信号のままでもその比率から色を特定できますし、測色学では、数値的な座標に変換して、色を判断します。詳細は、飯村先生にお尋ねください。
  11. CDなどの進歩が激しいが、そんなに早く新しい技術が開発されるのか(H2廣瀬)→A. 高密度記録の技術の進展はめざましいものがあり、1年ですっかり様子がかわります。青色レーザの開発によりさらに高密度化が加速されるでしょう。君たちは目先のものを追っかけるのではなく、基本となることさえきちんとしておけば、そのような激しい技術革新にもついていくことができますから、ご安心ください。
  12. 佐藤先生の研究室では具体的にどんな研究をしていますか(H2宍戸)→A. 大きく分けて、半導体、磁性体、超電導の研究です。半導体の研究としては、多元化合物半導体の結晶成長と欠陥の評価(ESR, フォトルミネセンス)、ショットキー接合による半導体の光吸収の電界制御です。磁性体の研究としては、磁性人工格子の磁気光学スペクトルの研究、磁性体薄膜のエピタキシャル成長、磁性体のナノメートルサイズのドット、細線の作製と磁気光学的評価、非線形磁気光学効果による磁性体界面の研究、近接場磁気光学顕微鏡の開発、磁性体・半導体ハイブリッドの作製などです。超伝導研究としては、固有ジョセフソンデバイスの作製と評価、磁性体・超伝導体トンネル接合による新機能発現などを行っています。(ホームページをご覧ください)