光物性工学(H1,2コース),物性物理学(Pコース),佐藤勝昭教官1998.6.9配布資料

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教科書:山田・佐藤他著「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク)第4章「光機能」

第6回(98.6.2)の授業の要点

光学現象の微視的機構、電子分極と誘電率(教科書p.159-160)

  1. 塩化ナトリウムでは、直流比誘電率εr=5.9であるのに対し、屈折率nの2乗n2=2.25となり大きく異なっている。一方、ダイヤモンドでは直流比誘電率εr=5.68, 屈折率nの2乗n2=5.68、となって両者は等しい。この違いはなにか?
  2. 電子分極というのは、電子分布の重心と原子核の正電荷の分布が等しい系に電界が加わったとき、電子分布がずれて、双極子を生じることによっておきる。
  3. 物質に電磁波が入射したとき、物質中では電磁波は電子分極の波を引きずりながら進む。
  4. 自由電子の運動方程式を解く:電子散乱(摩擦項)がなければ、εr’’は常にゼロ、一方、εrはω→0では負の大きな値をとるが、ω=ωp(プラズマ周波数)で0を横切り、ω→∞では1に近づく。(ドルーデの式)εr<0のとき反射率は100%となる。これが、金属の高い反射率の原因。電子散乱のある場合、εr’’は有限のωに対し急速に減少→図4.6
  5. 半導体の自由電子吸収(4.65)式
  6. 束縛電子の運動方程式を解く:εrは共振曲線のようなベル型、εrはS字型の分散型曲線となる。図4.7

第6回の問題回答

問題 金属の自由電子系において摩擦項(散乱)が無いときの誘電率εrの表式を書け。また、この式をグラフに示せ

→解答  (グラフは省略)

質問への回答

Q.薄い金箔を透かして見ると緑色に見えるというのは、緑色の周波数の部分で誘電率が高くなっているからか(H1平野)どうして緑だけ通るのか(H2チュア)→A. 誘電率の虚数部が光の損失(=物質による吸収)を与えますが、緑(正確には青緑)の波長に相当する周波数付近で自由電子によるドルーデ項の吸収がなくなり、その代わり束縛電子によるローレンツ項の吸収が始まります。両方の吸収のちょうど境目が青緑なのです。

Q.式の誘導の過程を考えながら黒板を写していると先生の話の内容が聞けない。どうすればよいか(H2細谷)→A.永遠の問題ですね。原理的には、ほとんどの内容は教科書に出ているので写さなくてもよいのです。(だから教科書のページまで書いているのです。)しかし、たまには教科書に載っていないことも話します。(例えば、上記の授業の要点第1項)そこはぜひノートして欲しいのです。 そのためには予習が必要ですよね。日本の大学生にそこまで期待するのはどうかな。

Q.授業中はわかった気になるが1週間経つと、言われてやっとわかる。マジックをかけられているようだ(H1石川)→A.君だけではありません。昔から、先生の話は、聞いたときは分かった気になるが、あとで考えるとよく分からないと言われています。 マジックではなく「レトリック」なのです。でも授業中全くわからないよりはましだとは思いませんか。

Q.水は双極子があって配向分極であるが、NaClはイオン分極だといったが、違いがわからない(H2米満)→A.水にもイオン分極があります。NaClでは正負の電荷は格子位置にあって自由な向きを向けませんが、水では正負の電荷の位置が結晶格子に固定されておらず自由な配向を向きうるので配向分極が生じるのです。

Q.束縛電子系のグラフの表している意味を説明して欲しい(H2米満)→A.本日の授業でやります。

Q.最近東芝のCMでフラットなディスプレイのことが出ているがプラズマディスプレイとは違うのか (H1天野)→A.あれは、ブラウン管の表面をフラットにしたというだけで、従来の技術の延長にあるものです。フラットフェースブラウン管はソニーがベガというブランドで昨年売りだして話題になりましたが、東芝はこれをフォローしたものです。

Q.黒板に当たる光の関係で後ろの席から字が見えにくい(H2高森)→A.教室の構造上仕方がありません。最近は、出席数が少なくなったので、前の方にも席が空いていますからなるべく詰めて座って下さい。

Q.屈折率が負とはどういうことか(H2渡邊(整))→A.ごめんなさい。X線の波長では、nが1より小さいというところを間違えてnが負と言ってしまいました。n2=εr=1+χですが、X線領域ではχがわずかに負なので、屈折率がわずかに1より小さな値をとるのです。

Q.プラズマ周波数のプラズマって何か、プラズマ周波数の意味は何か(H2林辺、遠藤、H2水澤)→A.プラズマというのは、正負の電荷が分離した状態で、蛍光灯の中の放電状態、電離層の中などでは、気体のプラズマ状態ができています。電離気体のプラズマ周波数というのはこの周波数以下では電磁波により正負電荷の相対的な運動が誘起されるが、これ以上になると応答しなくなる周波数として定義されています。電離層においてはプラズマ周波数以下の電波(短波など)は反射されますが、それ以上の周波数の電波(VHFなど)はそのまま通り抜けてしまいます。金属の自由電子はしばしば自由電子ガス(気体)と表現されますが、(4.53)式が気体プラズマの粒子の運動方程式と全く同じ形で表されるからです。金属の自由電子は正電荷(原子核)にあまり束縛されていないので、電離気体と状況が似ているのです。

Q.授業ではやや複雑な式が多く出てくるが概念だけを理解するだけではいけないか(H1川原)→A.古典力学の運動方程式は「煩雑」ではあるが決して「複雑な式」とは言えません。概念がばっちりわかれば、式が誘導できなくても結構ですが、本質を理解する上で多少の定量性があった方がよいと思うのですが…。

Q.誘電率の虚数の意味が分からない。(H1登守)→A.誘電率の虚数部は損失、吸収を与えます。ε’’=2nκというのは以前の授業で説明しましたね。κと吸収係数αの関係はα=2ωκ/cですから、誘電率の虚数部εr =(nω/c)αと書けます。

Q.摩擦項のあるなしで何が変わるのか(H1登守)→A.例えば、(4.68)でτ→∞としたとき、ω=ω0でεは発散しますね。ところが有限のτに対しては、発散せずS字型になります。

Q.反射率Rのグラフがわからなかった(H2塩谷)→A.確かに説明不足ですが、単純な数学なので自分でフォローしてみて下さい。解析的には示しにくいのですが、表計算ソフト(EXCEL,ORIGINなど)を使って簡単にグラフを描いてみることができますよ。

Q.χとは何か。(P祖父江)→A.χは電気感受率といって、電界を加えたときどのくらい分極Pが生じやすいかを表す物理量で、P=χε0Eと定義されます。5/26の授業の最初の方に説明しました。教科書(4.51)式を見て下さい。


本日の授業内容
光学現象の量子論
量子力学は一応知っているとして進めます。

教科書第1章を予習しておくこと!