H1,2コース 光物性工学 佐藤勝昭教官1997.6.24配布資料


第8回の授業の内容:

● 半導体など固体のバンド構造(k空間表示)
* 横軸:電子の波数k→電子波の空間周波数に対応
   長波長の波:小さなk、短波長の波:大きなk
   Γ、X、Lなどの記号:ブリルアンゾーンの特異点につけられた名称(空間群の既約表現)
* 反射スペクトルのピークE1、E2:直接光学遷移


第8回の問題

問題1:電子の波数と光の波数を比較せよ。電子の波数はブリルアン域の端の値とする。格子定数a=5Å、光の波長は緑500nmとする。

解答:電子k=π/a=π/(5×10-10m)=6.3×109m-1
   光 K=2π/λ=2π/(5×102×10-9m)=1.26×107m-1
従って、光の波数は電子の波数に比較してはるかに小さい。


質問への回答

Q1.NECはDRAMをもうこれ以上大容量にすることはできないといっているがメモリの限界は近いのか (H1藤村)→A.キャパシタの材料としてシリコンの酸化膜SiO2を使っている限りは限界に近いのですが、誘電率の大きなPZTなどの強誘電体を使うともっと大容量にできます。半導体の上に強誘電体を作る試みは、多くの研究機関で行われています。東京農工大学では、上野研などで研究が進んでいます。
Q2.12cmディスクに入る容量はDVDが最大であると言えるか(H1藤村)→A.現在入手可能な赤のレーザを用いる限りは限界に近いのですが、青紫色のレーザを使うと3倍に高められます。また、MOを用いるとMSR(磁気誘起超解像)の技術が使えるのでさらに2倍以上の高密度にできます。常に、現時点での「最大」です。ブレークスルーがあると限界は超えられます。
Q3.X線、電子線回折は危険なものだと思うが結晶に当てて物理化学作用は起きないのか(H2渕上)→A.X線が危険なのは、人間にとって危険ということです。もちろん結晶にも強いX線を照射すると格子欠陥ができることがあります。しかし、我々が研究用に使っているX線で結晶が壊れることはありません。電子線は、真空中でしか発生・伝搬することはできません。従って、人体に直接照射することはないので電子ビームが危険ということはありません。ただ、強い電子ビームが物質に当たるとX線が発生しますので、これが危険です。鉛の板などで防ぐことができます。また、薄膜に強い電子ビームが当たると欠陥が生成することがあります。
Q4.光がガラス中で減速するとどうなるのか (H1川口)→A.真空中の光の速度c、ガラス中の速度をc'とすると、屈折率はn=c/c'となります。このため斜め入射したときに、スネルの法則に従って折れ曲がります。
Q5.化合物半導体で毒性のあるものにどんなものがあるか (H2落合)→A.一般に重金属は毒性がありますから、重金属(As, Sb, Bi, Pb, Se, Te, Cd, Hgなど)を含む化合物は毒性があります。
Q6.半導体の発熱の冷却方法は水しかないのか(H1児玉)→A:ペルチエ素子を用いたもの、ヒートパイプを用いて効率的に熱を輸送し空冷する方法などがあります。
Q7.バンド間遷移の直接遷移と間接遷移の違いは半導体の吸収スペクトルにどう影響を及ぼすか(H2釣崎)→A.今回の授業で説明します。
Q8.反射に直接遷移しか見えない理由がわからない( H2釣崎)→A.反射率Rは{(n-1)22}/{(n+1)22}で与えられます。直接遷移ではκが大きな値をとるとともに、nが大きな変化をします。このため、Rにもはっきりした構造として現れるのです。
Q9.直接遷移と間接遷移の吸収スペクトルの違いは、遷移の通り道が直接遷移では1つで間接遷移では多数ということから来るのか (H2宮川)→A.いいえ、今回話しますが、間接遷移では、遷移にフォノン(格子振動の量子)が関与して始状態と終状態の波数の違い(従って運動量の違い)をフォノンの波数で補っているのです。このため、遷移強度が弱いのです。
Q10.バンド図は温度とか測定した状態で変化するのか(H1和賀井)→A.温度で変化しますが、その大きさはkTの程度ですから、バンド図の全体から見ればほんのわずかの変化にすぎません。それでも、電界による変調(エレクトロリフレクタンス)など感度のよい測定をするとその変化が観測できます。
Q11.Feのk-ω図でFeの電子が局在的とか自由電子的というのはどこを見ればよいのか。(阿部)→A.k空間で平坦なk-ω分散関係を持つバンドは局在性の高いバンド、放物線型の分散関係を持ち、上下に広がっているバンドは自由電子的です。
Q12.バンドダイアグラムの分散曲線はどういう測定で検証できるのか(H2早田)→A.(Good Question!)反射スペクトル、光電子スペクトル、逆光電子スペクトル、X線吸収スペクトルなどを総合して検証できますが、最もよく情報を与えるのは、角度分解光電子スペクトルです。これは、当てる光のエネルギーを変えながら光電子放出の大きさを測定するのですが、飛び出してきた電子の方位角を測定することにより、固体内での電子の波数を推定する方法です。
このほか、音楽CDの容量(74分と78分)についての質問がありましたが、残念ながらわかりません。

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