H1,2コース 光物性工学 佐藤勝昭教官1997.6.17配布資料


第7回の授業の内容:

● GaAs(正式には砒化ガリウム;俗称ガリウム砒素)の単結晶の実物回覧。
● 量子力学概説:あらゆる量子状態は複素数の波動関数で表される。絶対値の二乗が存在確率という意味。
  物理量には演算子が対応。観測される物理量はその演算子を波動関数で挟んで全空間で積分した期待値
  で表される。このことを自由電子の平面波を用いて例示。
● 誘電率の量子論:分極とは「電界を受けて基底状態(ground state)に励起状態(excited state)が混成
  すること」であると解釈できる。


第7回の問題

問題1:波動関数は観測できないが、電子が波であることはどうやって確かめることができるか

解答:X線と同様に結晶に照射すると電子線回折が起きます。これは、隣り合う格子面で反射された電子波が干渉することから確かめられます。電子顕微鏡で物体が観測できるのは光と同様の性質を持つからです。
 今回の授業では話しませんでしたが、結晶格子の周期ポテンシャルによってエネルギーバンドが生じることからも、電子が波であることが確かめられます。電子物性工学で「半導体の電子はk空間で取り扱えること」を学んだはずですが、波数kで記述できるということは、波で表せるということを支持しています。


質問への回答

Q1. 規格化するとはどういうことか(H2落合)→A.規格化するとは、関数のノルムを1にすることです。すなわち、竹ψ|2dx=1とすることです。たとえば、ψ=Asinkxという波動関数を考えると竹ψ|2dx=A2痴in2kx dx= A2畜(1-cos2kx)/2}dx= A2/2となります。そこで、A=√2としておけばこの波動関数は規格化されるのです。
Q2.自由電子の存在確率が一定になるというのは何を意味しているか(H2釣崎)→A.平面波というのは波として物質全体に広がっていることを意味しています。存在確率が一定というのは、どの位置にも均一に電子が見いだされることを意味しています。平面波は波数(従って運動量)は正確に定義できるけれど、その位置がどこであると言えないのです。
Q3.電子線回折を使った電子顕微鏡とトンネル電子顕微鏡とは全く別物か(H2鳥海)→A.電子顕微鏡では、電子ビームを「電子レンズ」によって見たい物質に集束し、そこから回折された電子の干渉で結像して観測します。(走査型電子顕微鏡の場合は電子ビームで物質上を走査し、跳ね返った電子を検出して物質の像を見ます。)一方、トンネル(電子)顕微鏡では、金属の針の先端を物質に近づけ、流れるトンネル電流を一定にするように針の高さをアクチュエータで制御します。アクチュエータに流れる電流を観測すればでこぼこがわかります。
Q4.今日出てきた期待値とは統計学などで出てくるものと同じ意味か (H2渕上)→A.はい。たとえば、i番目の事象の確率をPi、確率変数をXiとすると、期待値はΣPiXiで表されます。量子力学の場合Pi=ψ*ψで表されること、Xiが演算子であることから、確率変数の期待値は茶ユ*Xiψdxとなるのです。
Q5.[半導体にはバンド性(共有性)と局在性(イオン性)の両方があるといったが]GaAsはどの程度局在性があるのか(H2宮川)→A.化合物半導体における電子の局在性(イオン性)は、構成元素の電子陰性度の差Δχで評価できます。GaAsのΔχは0.44であるのに対し、ZnSeでは0.88となっている。このことは、佐藤。越田共著「応用電子物性工学」(コロナ社)p130をご覧ください。
Q6.種結晶の作り方は(H2原嶌)→A:これまでに作製した良質の結晶を使います。
Q7.電気関係の分野はもうほとんど知り尽くされた分野で新しい技術的進歩はないのか(H1松川)→A.心配ご無用。原理としては知り尽くされていても、実用的なものを安くつくったり、ソフトウェアと組み合わせてインテリジェントなものを開発したり、コンピュータを小型軽量にしたり、光や電波を縦横に組み合わせたり、技術的にはまだまだ研究の余地があります。理学と工学の違いといえます。
Q8.ガリウム砒素は高価なのに使う利点があるのか(H1松川)→A.移動度が高いので、高速電子デバイスに向いています。また、直接遷移半導体なので、発光デバイスとして都合がよいのです。
Q9.ソーラーグレードシリコンとはふつうのシリコンとどこが違うのか(H1松木)→A.LSIに使うシリコン単結晶では、不純物の濃度を極限まで減らしてあります。LSIグレードではten nineという純度ですが、solar gradeではsix nine程度でよいので、かなり安く作れるはずです。
Q10.液晶を作るときなぜガラス基板を洗浄するのか (H2望月)→A.ガラス基板にはゴミや油が付着していて、この上に配向剤を塗布してもムラになったり、ピンホールができたりして液晶がきちんと配向しない原因になります。
Q11.プラズマディスプレイ(PDP)の原理 (H1和賀井)→A.微小な蛍光灯をたくさん並べたものと考えてください。平行なガラス板の間の真空中に気体が封入されていて、多数の微小電極が並んでいて、微小な領域で放電が起きるようになっています。放電でできた紫外線が前面ガラスの裏に塗られた蛍光体を励起して発光します。ブラウン管では画面の走査は電子ビームで行いますが、PDPでは各画素を順次選択して光らせます。
Q12.変光サングラスの原理(H2寺山)→A.フォトクロミズムといって、紫外線によって電子状態が変わって着色するような色素があります。このような色素をガラスまたはプラスチックに混ぜてあるのです。
Q13.なぜアモルファスシリコンは光劣化するのか(H1冨澤)→A.これは、ステブラー・ウロンスキー効果といって、20年以上昔から知られている現象で、光によってダングリングボンド(未結合手)ができるのです。原因についてはさまざまな研究が行われていますが、まだ解明されていません。また、解決法も見いだされていません。
Q14.次世代ディジタルカメラのCMOSイメージセンサの原理(P勝又)→A.いままでは、CCDといって、アナログ的な電荷をバケツリレーのように次々隣の画素の方へと送り出して順次信号として取り出します。CCDは、送る機能はありますが信号増幅の機能がないので、スイッチングノイズなどが動作限界を決めます。CMOSを用いたイメージセンサでは、増幅作用やディジタル化、画像処理の機能を持たせるとともに、バケツリレーではなくアドレシングによって信号を取り出せるようになります。

光物性工学へ