電子物性工学II期末テスト (佐藤勝昭教官) 1999.2.12

問題と標準解答

 

  1. 半導体の電気伝導について以下の質問から4問を選んで答えよ。(20点)
    1. 物質の電気伝導率σ[Scm-1]をキャリア密度n[cm-3]と移動度μ[cm2V-1s-1]を用いて表せ。キャリアの電荷をq[C]とする。
    2. [解答] σ=nqμ

       

    3. あるn形半導体の室温におけるキャリア密度はn=1016[cm-3], 移動度は500[cm2V-1s-1]であった。電気伝導率σ[Scm-1]および抵抗率ρ[Ωcm]を求めよ。ここに電荷素量e =1.6×10-19[C]とする。
    4. [解答] σ=0.8 [Scm-1], ρ=1.25[Ωcm]

       

    5. この半導体の薄膜を考える。膜の厚さが1[μm]であるとする。長さ10[μm]、幅2[μm]の長方形の長さ方向の電気抵抗R[Ω]の値を書け。
    6. [解答] R=ρl/S=1.25[Ωcm]×10×10-4[cm]/2×10-8[cm2]=6.25×104[Ω]

       

    7. この半導体を液体窒素に浸したところ、電気抵抗が4けたも上昇した。抵抗が増加した原因について説明せよ。
    8. [解答] 半導体は低温になるとキャリア密度が指数関数的に減少するため高抵抗になる

       

    9. 金属と半導体の電気伝導の温度依存性はどのように異なるか述べよ。また、その物理的理由を説明せよ。
    10. [解答]

      1. 金属は、キャリア密度の変化が少ないので電気伝導の温度変化は移動度の温度変化できまり、高温になるほどフォノンによる散乱のため電気伝導率が低下する。
      2. 一方、半導体の電気伝導の温度変化は、移動度の変化よりキャリア密度の変化の方で決まっており(出払い領域とよぶ温度範囲をのぞけば)温度上昇とともに電気伝導率が増大する。

       

    11. 移動度μ[cm2V-1s-1]をキャリアの平均自由時間τ[s]と有効質量m*[g]を用いて表せ。
    12. [解答] μ=eτ/*

       

  2. 物質の光学的性質について以下の問題から4問を選んで答えよ。(20点)
    1. シリコンは太陽電池として使うことができるのに、なぜ発光デバイスとして用いられないのかについて説明せよ。
    2. [解答] シリコンは間接吸収端をもち、価電子帯と伝導帯の間の光学遷移の確率は低い。太陽電池として用いる場合には、吸収係数が低くても厚い結晶を用いれば吸収光量を大きくできるので光電変換をできるが、発光の場合は、遷移確率が低いため発光効率が悪く、ほとんどが熱エネルギーとなってしまい、デバイスに使えない。

       

    3. 蛍光灯では、(電極間の放電で電離し励起した気体原子から出る)紫外線によって励起された蛍光体から可視光線が放出される現象を利用している。なぜ蛍光体に紫外線が入ると可視光線が放出されるのかについてのべよ。
    4. [解答] 紫外線は蛍光体の発光中心に吸収され、発光中心を励起状態にする。この励起状態から基底状態に緩和するとき、そのエネルギー差を可視光線の光子として放出する。この現象をフォトルミネセンスとよぶ。吸収と発光の間にはストークスシフトとよばれるエネルギーの違いがあるため、励起光より低いエネルギー(すなわち長い波長)の光が放出される。

       

    5. 光は波長ごとに特有の色を持つことは、太陽光をプリズムで分光することによって確認できる。一方、カラーテレビジョンでは赤・緑・青の3色ですべての色を表現しているが、なぜ3色で様々な波長の光の色を表現できるかを述べよ。
    6. [解答] 人間の網膜にある視細胞には、赤、緑、青に感じる3種類の細胞があり、それぞれ、の感度曲線は広い波長領域にわたっている。光の波長ごとに、これらの3つの細胞を刺激する割合が異なっており、刺激の割合に応じて異なった色として感じる。

       

    7. 授業中に回覧したように研磨したシリコンは金属光沢を示す。これは、シリコンの反射率が高いことを示している。なぜシリコンが高い反射率を持つかについて説明せよ。
    8. [解答] シリコンにおいては、可視光線の領域の光を吸って直接遷移が起きる。この遷移強度は大きいので吸収が強い。また、強い吸収によって誘電率も大きくなっており、その結果屈折率も大きい。反射率Rは{(1-n)2+κ2}/{(1+n)2+κ2}で表され、屈折率n,吸光度κが大きいとRは大きくなる。

       

    9. 硫化亜鉛の結晶は無色透明である。このことから、この物質のバンドギャップは少なくとも何eVと見積もられるか。また、その根拠を示せ。
    10. [解答] 可視光のうちもっとも短い波長は380 nmである。これに対応するエネルギーは3.26eVである。可視光で透明ということは、Eg3.26 eV以上であるといえる。

       

    11. 金色とはどのような色であるかを反射スペクトルを用いて説明せよ。つぎに、貴金属の金はなぜ金色を示すのかについて、電子論の立場に立って説明せよ。
    12. [解答] 金色とは、緑より長い波長の光の反射率が非常に高い場合をいう。人間の目には赤・橙・黄・緑の光が合成され黄色に見えるが、反射率が高いため、周りのものが写り込んで複雑な色を示す。

       

  3. 磁気についての次の質問から4問を選んで答えよ。(20点)
    1. 磁気を帯びていない(=磁化していない)鉄でできたクリップがある。永久磁石を近づけるとクリップは永久磁石に引き寄せられくっついた。なぜ磁石に引き寄せられるようになったのかを説明せよ。
    2. [解答] 永久磁石から出る磁界によってクリップに磁化が生じる。クリップの永久磁石のN極に近い側にはSが誘起されるから、NとSが引き合って、クリップは磁石に引き寄せられる。

       

    3. 永久磁石に付いたクリップを磁石から引き離したところ、クリップは磁気を帯びており、別のクリップをくっつけることができた。はじめ、磁化を持たなかったクリップが磁気を帯びるようになった過程を、磁気ヒステリシス曲線を使って説明せよ。
    4. [解答] 永久磁石の磁界によってクリップは磁気飽和する。いったん磁気飽和したあと磁界を減少しても、もとの磁化曲線をたどらず、磁界をゼロにしても残留磁化という状態になっている。これが磁気を帯びた状態である。

       

    5. 鉄原子の磁気モーメントは互いに平行になるようそろえ合っている。(a)このような磁性体を何と呼ぶか。(b)作られたばかりの鉄は磁気を帯びていないが、その理由を「磁区」という考えによって説明せよ。
    6. [解答]

      1. 強磁性体
      2. 初磁化状態の鉄は、全体が、磁化方向の異なるいくつかの磁区に分かれており、全体として磁化をうち消している。このため磁気を帯びていない。

       

    7. 磁化した鉄クリップをある温度以上に熱したところ磁化を失った。(a)鉄が磁化を失う温度Tcを何と呼ぶか。(b)Tc以上で鉄原子の磁気モーメントはどのような状態になっているか。
    8. [解答]

      1. キュリー温度
      2. 各原子の磁気モーメントはランダムな方向を向いており、全体として磁気をうち消している。このような状態を常磁性という。

       

    9. Tc以上での鉄の磁化率χは(T-Tc)に逆比例する。このような関係を何の法則というか。
    10. [解答] キュリーワイスの法則

       

    11. ハードディスクにおいて、記録媒体と磁気ヘッドとでは、異なる種類の磁性材料が使われている。それぞれどのような磁性材料が用いられているのか。また、その理由を述べよ。
    12. [解答]

      1. 記録媒体:半硬質磁性体が用いられる。残留磁化を有し保磁力が大きいので記録した磁化状態を保持できる。
      2. 磁気ヘッド:軟質磁性体が用いられる。保磁力が小さく、磁化は磁界にほぼ比例するので、信号に応じた磁界を作り出したり、媒体からの漏洩磁界に比例した信号を取り出すことができる。

     

  4. 超伝導について次の質問から4問を選んでに答えよ。(20点)
    1. 液体ヘリウムで冷やすと鉛は超伝導を示すか。
    2. [解答] 鉛の臨界温度は約7.2Kである。一方、液体ヘリウムは4.2Kであるから、臨界温度より低いので鉛は、超伝導になる。

       

    3. 超伝導状態にある鉛に外部から磁界を印加したときの磁束の様子を図示せよ。
    4. [解答]

       

    5. 超伝導になると電気抵抗が無いので、たくさんの電流を流しても発熱しないから、細い線をたくさん巻いて強い電磁石ができるはずである。鉛は超伝導体である。しかし、鉛の導線を使って強い電磁石を作ることはできないのはなぜか。
    6. [解答] 鉛は第1種の超伝導体であり、臨界磁界も800G程度と小さいので、コイルをつくると発生した磁界によって超伝導が破れ、常伝導に転移してしまうため電磁石を作れない。

       

    7. 超伝導は巨視的に現れた量子状態であると言われるがその根拠は何か。そのことはどのような物理現象に現れているか。
    8. [解答] 超伝導において電流を運ぶクーパー対はボース粒子であり、超伝導状態とはボース凝縮の起きた状態である。このため超伝導状態は巨視的な位相をもち、接合をつくり磁界などで位相差を与えると干渉が起きる

       

    9. 超伝導を用いたデバイスを1つあげ、その動作を説明せよ。
    10. [解答] 例えば、ジョセフソン接合を用いた量子干渉磁束計などをあげればよい。

       

    11. 高温超伝導体の「高温」とは、何がどの程度高温なのか。1986年に高温超伝導が発見されたとき世の中に大変なフィーバーが起きた。高温超伝導が世の中に与えたインパクトについて説明せよ。
    12. [解答] 臨界温度が90K-130Kであり、液体窒素の沸点(77K)より高温。それまでの超伝導体を臨界温度以下にするのには液体ヘリウムが必要であったが、資源が少なく価格も高かった。これに対し液体窒素の原料である窒素は無尽蔵にあるので、値段も安く超伝導の実用価値が高まったためである。

       

  5. 次のうち4つの言葉を選んで簡単に説明せよ。(20点)
    1. 4端子法
    2. [解答] 接触抵抗の影響を避けて電気抵抗を測定する方法:電流端子と電圧端子を設けることがポイント。

       

    3. 誘導放出
    4. [解答] 光の電界により励起状態から基底状態に遷移しエネルギー差を光子として放出。反転分布をつくると、吸収より放出が増え正味の誘導放出が起きる。

       

    5. 全反射
    6. [解答] 屈折率の大きな物質から小さな物質に光が入射するとき入射角が臨界角を超えると透過せず全反射する。

       

    7. 吸収係数
    8. [解答] 物質中において光が距離とともに減衰する割合がその位置における光量に比例するとき、比例係数を吸収係数という

       

    9. ドルーデ則
    10. [解答] 自由電子の集団運動によりプラズマ周波数以下で誘電率がε=1-ωp2/ω2で表されるときドルーデの法則という。

       

    11. 磁気抵抗(MR)ヘッド
    12. [解答] 従来の磁気ヘッドは、記録媒体からの漏洩磁束を拾って磁気誘導現象でその変化を電気信号に変換していたが、磁気抵抗ヘッドでは磁化による物質の抵抗変化を利用して磁気信号を電気に変換する

       

    13. 磁壁
    14. [解答] 磁区と磁区の境界で磁気モーメントが徐々に変化していく領域のことをいう

       

    15. マイスナー効果
    16. [解答] 超伝導状態にある物体から磁束が排斥される現象。反対向きの磁化が誘起されたと見ることができる

       

    17. クーパー対
    18. [解答] 超伝導電流を運ぶ準粒子。互いにスピンと波数の逆向きの2つのキャリアが対を作っている。これにより散乱を受けない。

       

    19. ロンドンの侵入長

      [解答] 超伝導体において、外部の磁界が進入できる距離をいう。

     

  6. 電子物性工学IIの授業で佐藤先生が話したことのうち印象に残ったものを1つ書け。