</FONT>電子物性工学U 期末テスト標準解答</font>1997.2.13
電子物性工学U 期末テスト標準解答 1997.2.13
(教科書、参考書どちらか1冊、およびA4のレポートを見てよい。電卓使用も可。)

問1 次の問に対し数値または数式を答えよ。[計20点]
(1)液体ヘリウムの沸点および液体窒素の沸点はそれぞれ何Kか。(2+2点)
液体ヘリウム4.2K, 液体窒素77K
(2)Siのバンドギャップに対応する波長は1117nmである。バンドギャップをeVで表すといくらか。計算式と答えを書け。(2+2点)
Eg=1239.8/λ、Eg=1.11eV
(3)波長λと波数Kの関係式を書き、波長500nmの光の波数Kの大きさをcm-1を単位として表せ。(2+2点)
K=2π/λ、K=2π/(5×10-5cm)=40000π=-1.26×105cm-1
(4)ある物質の吸収係数(は1000 cm-1であった。光がこの物質の中を1000nm進んだとき強度ははじめの何分の1になったか。(4点)
I=I0×exp(-αd)、I/I0=exp(-1000×10-4)=exp(-0.1)であるから、1.105分の1
(5)上記物質に対し光が空気中から垂直に入射したときの反射率Rは10%であった。この物質の厚みが10μmとすると、光が垂直に入射したときの透過率Tは何%か。(4点)
T=(1-R)2exp(-αd)、T=(1-0.1)2exp(-1000×10-3)=0.81/e=0.298であるから T=29.8%


問2 ある半導体の吸収係数をαとしたとき、吸収端付近において(α・E)2を縦軸、Eを横軸にとってグラフを描いたところ直線で表され、その直線がE軸を横切る位置が1.43eVであった。この物質は、Si、GaAs、GaPのどれであるか。また、そう考えた根拠は何か。(E=hνは光子のエネルギーである)[10点]
物質=GaAs、
>理由:α={(E-Eg)/E}1/2であるから直接遷移、Si、GaAs、GaPのうち直接遷移はGaAsのみ。


問2 レーザに関連した問題 (2問選択: 各10点)
(1)誘導放出と自然放出の違いについて述べよ。
誘導放出は、光の電界を受けて励起状態から基底状態に遷移が起きる。自然放出では、電界の助けを借りることなく励起状態から基底状態に緩和する。
(2)レーザ作用が起きるために反転分布が必要である理由を述べよ。
光の電界を受けて励起状態から基底状態に落ちる誘導放出の確率のほうが、光の電界を受けて基底状態から励起状態に上がる吸収確率より高くなければ正味の誘導放出は起きないからである。
(3)レーザの反転分布を実現するためのポンピングの方法を2つ以上あげよ。
気体中での放電によるイオンの衝突励起、強い光励起、電子・正孔の高密度注入
(4)半導体レーザにおいて、閾値電流Ithの前後でどのような変化があるか。
閾値以下ではLED(発光ダイオード)の動作である。スペクトルは幅が広い。閾値に近づくと超放射状態になっている。閾値を越えるとスペクトルが鋭くなり、発光強度も急に増大する。


問3 光ファイバ通信に関連した問題 (2問選択: 各10点)
(1)光ファイバ通信に1.3-1.5 (mの赤外線が使われる理由を述べよ。
光ファイバに使われる石英ガラスの性質のため、上記波長より短い波長ではレーリー散乱が強く、上記波長より長はでは原子振動が強い。1.3-1.4μm付近で伝搬損失が最小にできるからである。
(2)光ファイバ中を光がほとんど減衰せず進む理由をファイバの構造に基づいて述べよ。
光ファイバは、コアとクラッドから構成され、両者の屈折率の違いから、コアの中を進む光は、界面で全反射を受けて、減衰せずに進むことができる。
(3)光ファイバ通信で光を光のまま増幅するファイバアンプについて知るところを述べよ。
光ファイバアンプというのは、エルビウムErやプラセオジウムPrなどの希土類イオンを薄く添加した光ファイバを用い、半導体レーザ光をポンプ光として希土類イオンを励起し、反転分布を作り出して、ファイバを通ってくる信号を増幅するものです。
(4)光ファイバ通信で戻りビームがレーザに入らないようにする装置について説明せよ。
光アイソレータといって、互いに透過方向が45゜傾いた2つの偏光子の間にファラデー素子を置いて、磁界を印加してファラデー素子で偏光が45゜回転する様にした光学部品である。


問4 磁性体に関する問題 (3問選択: 各10点)
(1)強磁性体はTc以上の温度では自発磁化を消失し常磁性になる。Tcのことを何と呼ぶか。Tc以上の常磁性状態で磁化率χと温度Tとの間に成り立つ法則について述べよ。
Tc: キュリー温度、法則:キュリーワイスの法則χ=C/(T-θp)と表される。
(2)強磁性体の初磁化状態では巨視的な磁化が0となっているのはなぜか。この状態に磁界を印加すると磁化が誘起されてついに一定の値(飽和磁化)に近づく。この磁化過程を磁区の変化によって説明せよ。
磁性体の表面に磁荷が誘起されると反磁界のために静磁エネルギーが高くなるので、全体が磁区という細かい領域に分かれて、初磁化状態では全体として磁化を打ち消している。磁界を印加すると磁界の方向に磁壁移動が起き、磁界方向の磁化が強まる。さらに磁界を強めると、磁区内で磁化回転が起き、ついに単磁区になり磁気飽和する。
(3)磁区と磁区の境界を磁壁という。磁壁の中における磁気モーメントが変化の様子を説明せよ。
磁壁の中で磁気モーメントは互いに少しずつ傾いて何原子かの間に回転して元と反転する。
(4)磁気記録においては、記録媒体と磁気ヘッドでは異なった種類の磁性体が使われる。それぞれ、どのような磁性体が使われるのか。その理由は何か。
記録媒体:(半)硬質磁性体が使われる。電気信号を残留磁化として記録するためである。
磁気ヘッド:軟質磁性体が使われる。記録に際しては、電流に比例した磁界を作り出す必要があり、再生の際には記録媒体から漏れ出す磁界に比例した磁化がヘッドに誘起される必要があるから。
(5)ハードディスク(HDD)の情報の記録再生には、高速回転する磁気ディスクの上にわずかに浮上する磁気ヘッドが用いられる。 HDDのヘッドの浮上量は何μmくらいか。また、最近の高密度HDDに用いられる再生専用ヘッドはどのような原理を用いているか。
>ヘッドの浮上量は0.08μm以下である。最近の高密度記録用再生ヘッドにはMR (magnetoresistance)を利用して磁界の変化を抵抗値の変化に変えて検出することが行われる。
(6)光磁気ディスクではなぜ光を使って磁気記録できるのか、光磁気ディスクではなぜ光を用いて磁気記録した内容が読めるのか説明せよ。
光磁気ディスクでは、レーザ光を集光して媒体を加熱して磁化を消滅させ、冷却の際に外部から加えた磁界にならって磁気記録される。一方、磁気記録された内容を光で読み出すためには、磁気光学効果を用いる。これは、偏光が磁化に応じて回転する現象である。磁化による偏光の回転を偏光子を使って光の強度に変えて読み出している。


問5 超伝導についての質問 (2問選択: 各10点)
(1)超伝導のもとになっているクーパー対について知ることを述べよ。
2つの電子、または、2つの正孔がフォノンなどの助けを借りて対を作り、準粒子として振る舞う状態をクーパー対と呼ぶ。クーパー対はボソンである。クーパー対を壊すために必要なエネルギーが超伝導ギャップである。
(2)第2種の超伝導体を磁界中で臨界温度以下に冷却したとき磁束はどうなるか。
磁束は超伝導体中に磁束量子として凍結され、磁界を取り除いても磁束が存在し、あたかも強磁性体のように振る舞う。
(3)第1種の超伝導体を使って超伝導電磁石を作ることが困難である理由を述べよ。
第1種の超伝導体ではHcが低く、自分の作った磁界が超伝導体に及ぶとたちまち超伝導を破壊してしまう。これに対し第2種超伝導体では、磁束量子として超伝導体の中にはいることができるので、超伝導が直ちに壊れることはない。
(4)ジョセフソン接合について知ることを述べよ。
2つの超伝導体の間に数nmの薄い絶縁体を挟んだ超伝導体/絶縁体/超伝導体構造の接合をジョセフソン接合という。電圧を与えると最初は超伝導電流が流れ、ジョセフソン臨界電流Icを越えると超伝導状態を保ったまま接合部に電圧が出はじめ(このとき交流ジョセフソン効果が起きる)、これがある電圧を越えると常伝導になる。この状態から電圧を減らすと、2Δ/eの電圧で電流は0となる。Icは磁界に敏感なので、ジョセフソン効果を用いた論理素子を作ることができる。
(5)超伝導は巨視的に現れた量子状態である。そのことはどのような現象に現れているのか。
巨視的な位相を持つので、ジョセフソン接合を作ったとき臨界電流が磁界に対して光の干渉縞のような変化を示す。


問7 電子物性工学Uの授業についての感想、受講して印象に残った内容があれば書いてください。