電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1998.10.16

E-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp, Home page: http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/; 教科書:佐藤勝昭編著「応用物性」(オーム社)

第2回(1998.10.9)の学習内容

質問に答えて

 電子物性工学は電子回路など他の科目とどのように関係するか

  コンピュータを例として、

   システム、デバイス、回路、材料、物性、物理・化学・数学などの関係を述べた。

   また、この過程で、バスライン、バイポーラトランジスタ、MOSトランジスタ、

   ラッチ、フリップフロップ、トライステートゲート、HEMTなどの専門用語が出る。

電子物性工学Tの復習

 移動度(mobility) μ :単位[cm2/Vs]

 電界E [V/cm]が印加されたときにキャリアの平均速度v[cm/s]を決める係数。v=μ E

 導電率σ =neμ;nキャリア濃度[cm-3]、e電荷素量[C]、μ 移動度[cm2/Vs];

導出法:σ =J/E=Qv/E=nev/E=neμ E/E= neμ 第2回の問題

 HEMTにおいてソースドレイン間の距離lが20μmであるとき、ソース・ドレイン間に1Vの電位差を与えたときのキャリアの平均速度vと移動時間tを求めよ。ただし、HEMTの移動度を5×105 [cm2/Vs]であるとする。

[解答] E=V/l=1[V]/20× 10-4 [cm]=5× 102 [V/cm] ; v=μ E=5×105 [cm2/Vs] ×5× 102 [V/cm]=2.5× 108[cm/s]

t=l/v=2× 10-3/2.5× 108=8× 10-12[s]=8[ps]

第2回の質問・印象・要望

Q: なぜ携帯電話にGaAsが使われるのか(伊藤(健))→A: 携帯電話は小さなアンテナで100MHz-1GHzにおよぶ高周波を送受信する必要があります。特に高出力な送信機として用いることのできる高周波トランジスタの材料は今のところGaAsしかありません。

Q: GaAsは毒性が強いから(携帯)電話(の高周波トランジスタに)使うのは危険ではないのか。(原田)→A: 砒素化合物がすべて亜砒酸のように危険なわけではありません。GaAsは安定な化合物で、1000℃を越える高温に曝されたりしない限り、Asが分解することはありません。さらにトランジスタやIC(集積回路)では、缶の中に入れられたり、プラスチックにモールドされますから、携帯電話に入っているから危険という発想はとても技術者の発想とは思えません。GaAsが危険ならば、CDプレーヤもMDプレーヤもGaAs系のレーザを使っているのですから危険でしょう。

Q: Ga-Si系化合物が存在するかどうかわからないといったが無重力で作れば存在するのではないか(杉田)→A: 確かに無重力では2つの材料の比重が違いすぎる場合に均一に混ぜ合わすことが可能です。比重はGa 0.86, Si 2.34ですから地上では混ざりにくいので宇宙では混ざることは可能です。しかし、混ざるからといって化学結合ができて化合物を作るとはかぎりません。たとえば、FeとAuは熱平衡過程で作る限り、金属間化合物は作らず2層分離することがHansenの状態図からも明らかです。ただ、最近、非平衡過程でFeを1原子層、Auを1原子層堆積してそれを100回も繰り返して作った人工格子は、天然に存在しないFeAuの新しい物質であることが明らかになりました。

Q: ソース、ゲート、ドレインがよくわからない(外山)→A: MOS-FETの仕組みを勉強してください。電子デバイスの講義で使う教科書を読んでください。

Q: bipolarではエミッタE、ベースB、コレクタCといい、MOSではソースS、ゲートG、ドレインDと呼び方が違うのはなぜか(吉岡)→A: bipolar transistorはもともと点接触transistorから発展しましたので、E,B,Cはそのときにつけられた名称です。EからBへの少数キャリアの注入と伝送、さらにそのキャリアのCへの収集という概念です。MOSはbipolarと動作が違い、SからDへの多数キャリアの移動をGで制御します。それで名称を変えています。

Q: 気体レーザのエネルギーはどのくらいか(外山)→A: キミはエネルギーということばで「パワー」を聞いているのですか、それとも「光子エネルギー」を聞いているのですか。パワーに関しては、どんなものでも作ることができます。むしろ価格、メンテナンス、安定性、寿命などを総合して判断すべきものです。これが「工学」なのです。従来、パワーでは同じ値段なら気体レーザの方がやや大きいものが得られることが多かったのですが、最近では、同程度のパワーのものが半導体レーザや固体レーザでも得られるようになってきました。たとえば、加工用の赤外線レーザでは連続でもkWクラスからパルスならGWまで可能です。光子エネルギーに関しては、先週もいったように、赤外から紫外までどんな波長も得られるのですから、0.1-4eVの範囲を容易にカバーできます。

Q: レーザを絞り込んだメリットは何か(中村(洋))→A: 授業で青色レーザのところで説明しました。

Q: マンガでみたレーザの武器は可能か(大和)→A: 技術的には鉄でも切断できる殺傷力のある強力なレーザはできますが、大きくなりますし、携帯用兵器としては電力の供給の点でも難しいかと思います。

Q: ポテンシャルとは何か(原山)→A: 力学で学んだ筈ですが、ポテンシャルエネルギーとは、位置に依存するエネルギーのことです。重力のポテンシャル、クーロンエネルギー、バネのエネルギーなどがその例です。

Q: 潮解とは何か(米光)→A: NaCl, KBr, CaCl2などのイオン結晶では、大気中の水分を吸って水溶液になります。このような現象を「潮解」といいます。

Q: 超伝導について、高温超伝導の課題について(星乃)→A: 超伝導の授業でやります。

Q: 今年の学生の学力は昨年に比べどれくらい低いのか(匿名希望)→A: テストの成績は同じ問題でやっているわけではないので客観的に比較できませんから、どれくらいといわれても定量性はありません。授業での反応などから教官がなんとなく肌で感じているだけです。

I: 教科間のつながりのイメージが頭の中に描けた。大局的な視野から物性を眺めると違った興味が沸くと思った。(庄司)

I: 教科書の内容や講義の詰め込みでは何の役にも立たないことがわかった。(渡辺)

I: 電子物性1をほとんど覚えていないので復習が必要だと思った。(深沢)

I: 電子回路で学んだバイポーラトランジスタやMOSが回路においてどのような役割をしているのかわかったような気がする。