物980206
電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1998.2.6
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第6回(1997.1.30)の学習内容
レーザについて学習。
  1. レーザの物理:誘導放出、光増幅、反転分布
  2. レーザの性質:可干渉(コヒーレント)、直進性、広がりの少なさ、単一波長(波長純度の高さ)、高エネルギー密度
  3. レーザの材料:気体(HeNe, Ar, HeCd, CO2など)、固体(Al2O3:Cr, Al2O3:Ti,Y3Al5O12:Nd など)、半導体(GaAs, GaAlAs, GaN, InGaN, GaInP, etc.)
  4. レーザの用途:照明、記録、通信、医療、加工

第6回の問題
正味の誘導放出が起きるためには、反転分布が必要であることを説明せよ。


標準解答 誘導放出も、光吸収も、光の電界を受けて2つの状態間に遷移が起きる点は同じである。従って、もし、通常の熱平衡におけるボルツマン分布であれば、吸収される光子の方が誘導放出される光子の数より多くなって、決して正味の誘導放出は起きない。従って、励起状態の方が基底状態よりも多く分布する状態(反転分布)を作らないと、誘導放出による光増幅は起きない。


学生からの質問と回答
  • Q: 半導体レーザは物理と言うよりずっと工学に近い内容だと思った(学芸大:高橋(春))→A: どんなレーザも原理の所は物理なのですが、実際のモノを作るとなると、工学というか技術が重要になります。
  • Q: 誘導放出を刺激するための光は本当に励起前と変化しないのか。(H2阿部、岡野)→A: 透明な物質において分極を作る効果と同じです。量子力学的に述べると、光の電界の摂動を受けて励起状態に基底状態が部分的に混じってきたような状態が生じます。これは、励起状態の波動関数の形をひずめるだけで、エネルギーは使われないのです。
  • Q: 3準位レーザのところで、4A2準位から4T2準位に励起後、エネルギーの低い2E+2T1準位に移るが、スピンの関係でここから基底状態の4A2に遷移するのが時間がかかるといったが、4T2から2E+2T1の遷移はスピン禁止を無視して遷移するのか。 (H1天野)→A: どきっ。スルドイ所をつきますね。実は、スピン軌道相互作用が重要なのです。基底状態4A2は軌道縮退が無いのでスピン軌道相互作用が無視できるのですが、4T2, 2T1ともに軌道は3重縮退,していてスピン軌道相互作用が働くためもはやスピンはよい量子数になっていないことが、4T2→2T1の遷移をしやすくしている原因と考えられます。(分からなくても結構です。)
  • Q: 「光の電界」がわからなかった。(H1石川、H2内田)→A: 光は電磁波です。ということは、電界と磁界が直交していて、それぞれが振動しています。この電界のことです。普通の光だと、電界は大変弱いのですが、レーザとくにパルスレーザでは数万V/cmというような強い電界を作ることが出来ます。レーザの通り道の空気が絶縁破壊されて、バチバチ音を立てることもあるのですよ。
  • Q: 超高出力レーザで全ての物が切断出来るか(H1石川)→A: 一概にYes Noで答えられません。与えるエネルギーと、物質の熱容量、熱伝導率などを総合して考えなければなりません。また、レーザを吸収する物質でなければなりません。
  • Q: レーザが目に当たると失明する可能性があると言われたがなぜか(H1加藤、H2東條)→A: レーザは単位面積当たりのエネルギー密度が高いので強い熱が発生して網膜を破壊するのです。もちろん、紫外線では光化学反応を起こすこともあります。
  • Q: ダブルヘテロ接合がよく分からなかった。(H2川崎、H1川場)→A: GaAsの両側をバンドギャップの大きなAlGaAsではさんだのがポイントです。電子と正孔を効率よくGaAsのところに集めると共に、出てきた光も閉じこめるのが巧いところです。詳細は教科書p.148を丁寧に読んで下さい。越田先生の教科書にも詳しく書いてありますよ。
  • Q: レーザを学ぶにはどんな知識が必要か(H1川原)→A: 基本的には、電磁気学、量子力学と光学の知識があれば十分です。半導体レーザについては、電子デバイスの知識があった方がよいでしょう。
  • Q: 気体、固体、半導体レーザの使い分けはどうなっているか。レーザの用途を知りたい(H2坂本、H1中野他多数)→A: 従来は、気体レーザが比較的安価で波長も赤外から紫外まで広範囲にカバーしていたのでよく使われたが、最近は、半導体レーザが改善されてきたので、ますます広い領域に使われるようになると思います。大体の使い分けは、照明・計測:気体レーザ、加工・医療:固体レーザ、通信・記録・計測:半導体レーザとなっています。
  • Q: キセノンランプを詳しく知りたい(H2坂本)→A:希ガスの一種であるキセノン(Xe)を封入した放電灯です。可視領域のスペクトルが平坦(白)で輝線が少なく、太陽光のエネルギー分布に近いので照明によく使われます。また、固体レーザの励起光限としてもよく使われます。
  • Q: レーザの医療への応用について知りたい(H2鈴木隆司、山崎崇)→A: レーザは光ファイバを通して伝えることが出来るので狭い場所にまで導くことが出来、ガンなどの患部のみをねらい打ちすることができます。ほとんどのガン細胞は、50℃くらいに加熱すると死にますが、周りの細胞も殺すとまずいので、レーザはもってこいの熱源なのです。もちろんメスとして患部を切り取ることにも使われます。
  • Q: 目の治療に使われるレーザについて知りたい(毛鳥)→A: 私は、こちらの専門でないのでよく分かりません。ある程度パワーがあればどんなレーザでも使えると思います。
  • Q: GaAsはなぜ高価なのか(H2田澤)→A: Siと違って化合物なので、成分比が1:1で欠課の少ない単結晶をつくるのが大変難しいのです。また、Siほど(LSIなどの形で)大量に使われませんから、量産効果もないのです。
  • Q: レーザ光はなぜ可干渉なのか(H1登守)→A: 普通の光は、波束の長さが短く、波束と波束の間の位相の関係がバラバラなのですが、レーザでは、全ての光子の位相が揃っていて、巨視的な量子状態を作っていると考えられています。これが可干渉性の起源です。
  • Q: レーザ核融合とは何か(H1中野)→A: レーザ光を何段にも増幅して強くして水素等に当て、その強いエネルギーによって原子核を融合してヘリウムを作る核反応をおこそうというものです。
  • Q: レーザで銃を作れるか(林辺)→A: エネルギーの供給源が必要ですから、銃のような簡便な物は出来ないでしょう。もっとも、アメリカのレーガン政権時代に宇宙戦争用のレーザの開発をやろうとしましたが、結局出来ませんでした。
  • Q: レーザでMDに記録再生できるのはなぜか(H1山下)→A: 本日の授業でやります。
  • Q: 液体レーザがないのはなぜか(山本)→A: 液体では励起状態に反転分布を作ることが難しいのではないかと思います。