物980123
電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1998.1.23
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第4回(1997.11.7)の学習内容
おわび:うっかりしてものの色は「透過光の補色」と書いてしまいました。もちろん、「吸収される光の補色」が正解です。このため、大変頭が混乱した方もおられたようです。お詫びして訂正します。

光のエネルギーE=hνと波長λの関係を説明。
選択反射について反射率の式(教科書3.40式)を使って、吸収が非常に強くても反射率が高くなることを説明。
選択吸収について、光を吸収して基底状態から励起状態への電子遷移がおきることによっておきることを説明。
電子遷移として、1電子バンドモデルにおけるバンドギャップを越えるような遷移(例:半導体の色)と遷移元素などのイオンにおいて起きる多電子状態での電子の組み替えによって起きる遷移(宝石の色)の2種類があることを説明。
もし、暇があれば、佐藤勝昭著「金色の石に魅せられて」(裳華房;ポピュラーサイエンス・シリーズ)を読んでみて下さい。


第4回の問題
GaPのバンドギャップは2.2eVである。この物質は何色に見えるか。また、その理由を述べよ。

標準解答
バンドギャップに相当する波長は563nm。563nmは緑がかった黄であるが、これより短波長の光(緑、青、紫)は吸収してしまうので、透過光は、赤と橙の混色である。試料が薄い(0.5mm以下)では橙色に見えるが、厚い試料では赤く見える。


学生からの質問と回答
「透過光の補色」は「吸収される光の補色」の間違いです。このため、「透明な色がわからない」と言う質問になったと思います。(柴生田、渡邊君、Tingさんごめんなさい)

光物性
Q: 励起した電子は基底状態に戻って光を放出する他はどのようになるのか(H1天野)→A: 正確にいうと、励起状態から基底状態に戻る場合に、「発光遷移」と「非発光遷移」とがあります。前者では光が放出されるが、後者では、エネルギーは熱に変わります。
Q: レーザの発光時間に限度があるのは何故か(H2内田)→A: レーザの寿命の事でしょうか?誘導放出によって強い光が物質内に存在すると、それによって格子欠陥が誘起されて半導体が劣化するのが原因です。
Q: ガラスについての説明がわからなかった(H2岡野)→A: ガラスは無色透明で光の吸収はありませんが、ガラスと光の間に全く相互作用がないかというと、そうではなく、光は物質中を分極波として伝わるのです。「分極」を量子物理的に説明すると、励起状態にvirtualな遷移が起きていると考えられます。このことによって、光の振幅は変わらないが位相が変化する(言い換えれば、速度が変化する)現象がおきます。これが屈折率です。[山田、佐藤他著:「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク)p163参照]
Q: 反射のことがよく分からなかった(H2坂本)→A: 電磁波の反射の現象は、分布定数回路におけるインピーダンスのミスマッチ(不整合)と同じように考えればよいということを授業で話しました。詳細は3年次の光物性工学でやります。[山田、佐藤他著:「機能材料のための量子工学」(講談社サイエンティフィク)p194問題4.6参照]
Q: グリーンサファイヤ、ブルーサファイヤは天然に存在するのか人工的に作ったものか(H1白澤)→A: 天然モノを分析してみたらFeやTiが原因だったということです。今では人工的に作ることができます。
Q: Al2O3はどこで産出されるか(H2鈴木隆)→A: サファイヤは、世界中の鉱山で産出されます。花崗岩に含まれていることもあります。
Q: R,U,B,Yの吸収帯があるのはルビーだけか(H1谷端)→A: YAlO3やMgAl2O4にCrを添加してもよく似たスペクトルを示します。しかし、結晶場が少しずつ違うので、各遷移のエネルギー位置は微妙に違います。
Q: バンドギャップが小さく可視光をすべて吸収するものは黒く見える。このときは反射率が高いと言えるか。(H2辻本)→A:  R={(n-1)2+κ2}/{(n+1)2+κ2}ですが、nに比べてκが大きくなければそんなに反射率は高くなりません。一例としてGaAsをとりますと緑の波長(540nm)でn=4.1, κ=0.32ですから反射率はほとんどnで決まっています。
Q: 光合成している植物の色はなぜ緑色か(H2東條)→A:太陽光のエネルギー分布を調べると緑のあたりで最大になる緩やかな波長分布となっています。葉緑素はなるべく太陽光をたくさん取り入れるのに都合のよい色素だといわれています。
Q: なぜ透過するかわからない。(H1登守)→A: バンドギャップより低いエネルギー(波長とエネルギーの関係は反比例なので、バンドギャップ波長より大きな波長)の光を当てても光学遷移が起きず吸収が起きないから透過するのです。
Q: 宇宙空間の色は何色か(H2林辺)→A: ほとんど真空なので色はありません。しかし非常に大きなスケールで見ると、まったく色がないのではないという測定結果もあります。今後の解明の仮題でしょう。
Q: 光のエネルギーといってもどんなモノかはっきり認識できない。太陽光に当たって暖かいのも光のエネルギーか(H1宮下)→A: 振動数(の光子はh(だけのエネルギーをもっています。太陽光はいろんな振動数の光を含んでいますから、さまざまなエネルギーの光子を含んでいます。暖かく感じるのは赤外線の光子を受けたからで、目がものの明るさや色を感じるのは、可視光線の振動数の光子が吸収されてそのエネルギーが目の細胞に伝わったからです。
Q: GaAsの吸収スペクトルは上に凸なのにSiはなぜ下に凸か(H2山崎)→A: 次回お話しする予定の直接遷移と間接遷移とのちがいです。教科書p111-112を参照して下さい。
Q: Al2O3にTi,Cr,Fe以外の元素をいれると別の色の宝石ができるか(H1山下)→A: できますが、きれいな色とは限りません。

光デバイス・材料
Q: プラズマディスプレーとブラウン管の違いは何か(H1中埜)→A: プラズマディスプレーは小さな蛍光灯がたくさん並んでいると考えて下さい。
Q: TFT液晶とは何か(H1富塚)→A: TFTとはThin Film Transistorの頭文字です。液晶に印加する電圧を画素ごとにトランジスタでスイッチすることによってクリアで高速な応答の画面をもたらしています。
Q:DVDに変わる新規格について (H2田中)→A: DVD-ROMについては、合意が得られたのですが、DVD-RAMについては、今規格が定められた2.6GB片面では容量が少なすぎるといって、ソニーがもっと高密度の規格を作ってしまったのです。詳細は、日経エレクトロニクスを参照して下さい
Q: 太陽電池の種類を教えて欲しい。(H2松田)→A: バルク(=薄膜でない)単結晶シリコン系、バルク多結晶シリコン系、薄膜アモルファスシリコン系、薄膜多結晶シリコン系、バルクVX族化合物系、薄膜VX族化合物系、薄膜UY族系、薄膜CIS系などが主に研究されています。
Q: CCDカメラはどうやって3色にわけているのか(H2田口)→A: 有機材料でできたカラーフィルタを印刷技術で貼り付けてあります。3つのCCDを使ったシステムでは、CCDに入る前にダイクロイックミラーによって3色に切り分けています。
Q: コピー機の光が目に悪いというがどんな害があるのか(H1川原)→A: 光強度が強いのと、紫外線までの広いスペクトルを含んでいるので、スキーの「雪目」みたいな現象が起きるのです。
Q: MDはCD並みの音質か(小田島)→A: MDでは、1clock4bitに圧縮していますので、完全にはもとの音声信号波形を再現していません。人間の耳の特性を利用して、人間があまり認識できない音をカットしているのです。このため、耳の肥えたオタクの人が聞くと、気になるようです。

学習法他
Q: 電子物性工学を学ぶには化学の知識はある程度必要か(H1中村)→A: 大いに必要です。有機化学の知識もあるに超したことはありませんが、少なくとも物理化学あるいは無機化学の知識は必要です。