物970207
電子物性工学U 佐藤勝昭教官 1997/02/07
2/6の学習内容のキーワード
臨界温度Tc、第一種超伝導体、臨界磁界Hc、マイスナー効果、第2種超伝導体、上部臨界磁界Hc2、下部臨界磁界Hc1、フラクソン(磁束量子)、ロンドンの侵入長λ、コヒーレンス長ξ、高温超伝導、液体ヘリウムの沸点4.2K、液体窒素の沸点77K、Bednorz, M ller、BCS理論、クーパー対、

2/6の質問に対する解答
超伝導の物理に関するもの
Q: クーパー対、BCS理論がわからない(H1井上、H2清水、P勝又)→A: クーパー対は、電子と電子またはホールとホールが格子振動を媒介として結びついた素励起(準粒子)です。BCS理論は、フェルミ気体における電子束縛状態の安定性を論じたクーパーの理論を用いて、バーディーンとシュリーファーが超電導機構を説明しました。本質的に多体問題なので難解で、きちんとした説明には量子力学とくに第2量子化という概念が必要です。この理論から、超伝導ギャップなどの概念が導かれました。たとえば、Kittel: "Quantum Theory of Solids"(1963)Chap. 8, p150-178.参照
Q: 30Kを越えると格子振動が強くなってクーパー対が壊れるといったが、超伝導状態では物質がどのような状態になっているのか(H2飯島) →A:上の質問と関係しますが、超伝導状態では、電子はもはや単独のフェルミ粒子としては存在せず、クーパー対を作ってボース粒子となります。そしてボース凝縮に近い状態になると、全てのクーパー対の位相がそろって、巨視的な量子状態が実現します。これが超伝導なのです。
Q: ロンドンの浸入長のロンドンとは何か(H1柳沢) ロンドンの侵入長だけ磁束が入る理由は何か(H2三沢)→A: F. LondonとH. Londonという2人のLondonさんが超伝導を解析し、Londonの方程式を得ました。London方程式はMaxwell方程式に電流がベクトルポテンシャルに比例するという大胆な仮定を付け加えることによって導かれます。この方程式を解きますと、磁界はある長さを特性長とする指数関数で表されることが導かれます。(たとえば、佐藤勝昭編著「応用物性」p280参照)
Q: ロンドンの浸入長は具体的にどれくらいか(H2新山) →A: スズ(Sn)では34 nm程度ですが、高温超伝導体のYBa2Cu3O7-dでは100 nm程度です。
Q: マイスナー効果(超伝導で磁束が入らない効果)の原因は何か(H2小島、宮川) →A: 先に述べましたが、マイスナー効果は、London方程式の帰結です。一方、BCS理論によれば、クーパー対を作る2つの電子のスピンは互いに逆向きでうち消し合っています。磁界が入らない限り2つの電子のエネルギー差はありませんが、磁界があると磁界に平行なスピンと反平行なスピンとではゼーマンエネルギーだけのエネルギー差が生じるのでクーパー対は安定には存在できなくなると考えられます。
Q: 超伝導の臨界温度は何Kまで高くなりうるのか(H1石亀、川口)常温超伝導は理論的に可能か(H1坂本) →A:現在までのところ理論的には予言できません。なぜなら、高温超伝導体でクーパー対をつくる原因が特定されていないからです。
Q: 第1種超伝導の常伝導と超伝導の境目は(H1松木) →A: 両状態は共存できないのでパッと変化します。
Q: 超伝導の臨界電流が存在する理由(H2チン) →A: 電流のつくる磁界がまわりの超伝導状態の部分に入り込もうとするからです。高温超伝導体ではコヒーレンス長が大きいので、常伝導の領域が重なり合うと超伝導が壊れてしまいます。
Q: 超伝導体を磁界中で臨界温度以下に冷却したときと、冷却してから磁界を加えたときでどう違うか(H2鳥海) →A:磁界中冷却しますと、その磁束を磁束量子として内部に閉じこめてしまうので、磁界を切ってもあたかも強い強磁性体のように振る舞います。
Q: 磁性体と超伝導体の特性には類似点があるように思えるが、磁性体にも磁束量子はあるのか(H2金子) →A:磁性体には対応するものはありません。

超伝導の利用に関するもの
Q: 身近なもので超伝導が利用されているのは何か(H2笹木、久保) →A: 身近なものにはまだありません。
Q: 超伝導は広く実用化されるか(H1石亀)、将来どういう用途に使われるか(H1松川、水野) 超伝導の利用法には授業で話した以外にどんなものがあるか。(清水、H2上原、馬場) 超伝導を応用した電子デバイスについて(H2椿井)
→A: 今のところ電磁石の巻き線としての用途が最も多く、MRIやリニアモータカー使われます。抵抗値が低いことを利用してQ値の高いフィルタ回路用の導体として利用されたり、磁束が進入できないことを利用して磁気シールドに利用されたりしています。ジョセフソン効果を用いたSQUIDは高感度の磁界センサとして、脳の計測、血流の計測などにり使われています。電子デバイスとしてはジョセフソン接合を利用した論理素子やメモリ素子、交流ジョセフソン効果を利用したマイクロ波やミリ波の発振器や遠赤外線検出器などが研究されており、一部は実用化されています。スケールの大きいところでは、超伝導コイルに永久電流を流して電力を貯蔵することや、送電線を超伝導にしたりする話が進んでいます。超伝導体の交流送電の研究も行われています。
Q: リニアモータカーにおいて超伝導はどのように使われているか(H1田口)、リニアモータカーの研究はどのくらい進んでいるか(H2篠原) →A: リニアモーターカーでは、電車の車体を磁気的に浮上するために強い磁界が使われます。また、同じ磁界を推進にも使います。推進力は、線路の壁に付けた普通の電磁石の電流を次々に切り替えてできる移動磁界を用いているそうです。(鹿野先生にお伺いしました。)リニアモータカー自身は完全に実用レベルまで来ています。
Q: MEと超伝導体の共通点(H1小野) →A:MEはmicroelectronicsの意味でしょうか?超伝導電子デバイスと半導体のマイクロエレクトロニクスでは概念が違うので、あまり共通点はありません。
Q: 材料ごとに特徴を生かした応用分野が開けつつあると応用物理学会誌に書かれていたが、今後どう展開するのか(H2金子) 超伝導の研究は行き詰まっているのか(H2佐藤和)→A: 一時的なブームは去り、今はじっくりとできることから足下を固めようと言う状態です。今のところほとんどの応用は昔ながらの金属・合金系のものが使われていますが、高温超伝導体は電子デバイス応用にはY系が、電磁石用はBi系が使われています。
Q: 授業で黒板に書いたU字型のものの図がわからない。(H2窪喜) →A:あれは液体ヘリウムを入れる魔法瓶の構造を示したものです。
Q: 高温超伝導体のメリットは(H2石黒) →A:値段の高く資源が乏しい液体ヘリウムを使う必要がないこと、Hc2が高いので、かなり強い超伝導電磁石を作れることなどがあります。

その他
Q: 液体窒素は空気に触れても大丈夫か(湯本) →A:長い間ふれていると、酸素が液化していつの間にか液体酸素の比率が高くなって危険な場合があります。
Q: 将来何か事業をしたいが研究され尽くした電子工学の分野ではやはり難しいか。(匿名希望) 今後の電子関係の研究の動向を予測して欲しい(H2木野村) →A:まだまだ、いろんな展開があります。マルチメディアなどソフトとハードの融合した分野、医療や福祉に関連した分野、環境やエネルギーに関連した分野、遊びやゆとりをサポートする分野。工夫次第で、ベンチャーのチャンスはいっぱいあります。
Q: DVDを超える大容量のものはすぐに製品化されるか、DVDはそれまで買わない方がよいか(H1長島) →A:市場に出るまであと2年くらいはかかるでしょう。現在発売されているDVDは再生専用ですから、これについては、CDがそうであるようにしばらくは同じ規格がそのまま使われるでしょう。
Q: 多結晶やアモルファスのエネルギーレベル(H2鳥海) →A:半導体に限ってお答えしますと、多結晶と単結晶ではエネルギーレベル的にはほとんど同じです。アモルファスでは周期構造がないためにバンド構造が結晶とは異なります。また、乱れがあることによるギャップ内状態が生じるのがアモルファス半導体の特徴です。