電子物性工学U(佐藤勝昭教官)1996.12.12

12/05の講義内容:発光とレーザ

  • 12/05の問題:発光の種類を励起のしかたで分類せよ。

  • 標準解答: 電磁波(光、X線):フォトルミネセンス(PL)(蛍光灯、プラズマディスプレイ(PDP))
    電界:真性エレクトロルミネセンス(EL)(ELディスプレイ)
    キャリア注入:注入形エレクトロルミネセンス(発光ダイオード(LED)、半導体レーザ(LD))
    電子ビーム:カソードルミネセンス(CL)(ブラウン管(CRT)、電界放出ディスプレイ(FED))
    化学反応:ケミカルルミネセンス

    12/05の質問への回答

    [誘導放出]
    Q: 誘導放出と自然放出は対照的な現象か(H1小林)→A: 一応そう考えられていますが、次の質問の答えのように自然放出も広い意味では誘導放出の一種と考えられます。
    Q: 自然放出は揺らぎによる緩和といったが「揺らぎ」とは何か(H2青木)→A: 揺らぎとはノイズのようなものです。光の電界による励起状態から基底状態への遷移が誘導放出ですが、自然放出の場合、光の電界がないのにどうして遷移が起きるかというと、電界ゼロといってもノイズの電界があってそれによって遷移するのだと解釈されるのです。
    Q: 誘導放出でなぜ波長や位相がそろうのか(H2原嶌)→A: ある種の非線形過程が関わっています。光の場によって屈折率や吸収係数が変化を受け、強い光と同じ波長と位相の波については減衰を受けないようになるそうです。
    Q: 誘導放出で2倍のエネルギーが放出されるのはどういう仕組みなのか(H2古谷、又吉)→A:エネルギーが2倍ではありません。光子の数が2倍なのです。1つの光子によって励起状態から基底状態に遷移したとします。これによって決してはじめの光子は吸収されません。光の場が関与しただけなのです。そして励起状態から基底状態に落ちたときそのエネルギー差を光子として放出します。従って、元の光子と、遷移でできた光子とで2倍になるのです。
    Q: 誘導放出で電子が2つ落ちると光は4倍になるのか(H1新井)→A: 1個の光子で電子は1個しか基底状態に落ちません。従って光子は2個になります。2個の光子で2個の電子が遷移すれば、4個の光子になります。

    [反転分布]
    Q: 反転分布がわからない(H1坂本、手島、H2椿井)→A: ふつうのボルツマン分布では、エネルギーが高くなると分布が指数関数的に減少します。反転分布というのは、高いエネルギーの励起状態にある粒子の数が低いエネルギーの基底状態にあるものより多い場合をいいます。何らかの方法で、高いエネルギー準位に上げて、落ちる確率が低ければ、励起状態の粒子の方が基底状態の粒子より多くなります。
    Q: レーザ発振において反転分布をどのように使うのか(勝又)→A: 授業でいったように、光の電界(*1)によって基底状態から励起状態に遷移する光吸収より、光の電界によって励起状態から基底状態(*2)に遷移する誘導放出が多くなって初めて正味の誘導放出(*3)がおきます。これは基底状態の分布より励起状態の分布が多いときに起きますから反転分布が必要です。
    *1: 光の電界という意味がわからない(H2木野村)→A: 光は電磁波です。電磁波では電界Eと磁界Hが直交して振動しています。このEが光の電界です。光の強度は|E|2に比例します。強いパルスレーザでは、Eが大きいため空気中で放電が起きることがあります。
    *2: 基底状態とはどういう状態か(H2小川)→A: 量子力学系の定常状態のうち最も低いエネルギーを持ったものをいう。
    *3: 正味の誘導放出という意味は(H1小室)→A: 吸収量を引いた残りという意味です。
    Q: 反転分布はどうやって実現するか(H1有馬、久松)→A: 3準位系の状態に光ポンピングする方法、熱平衡を超えた電子と正孔を注入する方法などが使われます。(p164図4.21参照)
    Q: 反転分布は光ポンピング以外にないのか(H2鈴木伯)→A: 半導体レーザでは、大量の電子と正孔の注入により実現しています。
    Q: ボース凝縮とは何か(寺山)→A: 電子はフェルミ粒子ですから1つの状態には1つの粒子しか分布できません。これに対して、光子、クーパー対、フォノンなどは、ボース粒子ですから、1つの状態に多数の粒子が分布できます。すべてのボース粒子が最もエネルギーに低い状態を占めたときボース凝縮といいます。

    [レーザ]
    Q: レーザの発見はいつか(H2上原)→A: 1955年、アメリカのタウンズ、ソ連のバソフは独立にメーザ(誘導放出によるマイクロ波の増幅器)の動作に成功。タウンズはこの考えを拡張して1961年レーザ発振に成功した。
    Q: レーザ光が広がっていかずに集中するのは、位相がそろっていることとどう関係するのか(小島)→A: レーザ装置の中ではキャビティと呼ばれる共振器が構成されその間で光が往復するので進行方向に強い指向性をもつ。回折で広がっても位相がそろわない波は打ち消して伝わらない。
    Q: 短波長レーザが発振しにくいのはなぜか(H2上原)→A: 教科書p123の式(3.52)にあるように、短波長(高周波)では自然放出の確率が大きくなって誘導放出を上回ることが多いため発振しにくい。
    Q: レーザ光は目に悪いというがなぜか(H1大沢、H2馬場)→A: レーザはふつうの光に比べ、光のエネルギー密度が何桁も高いので目の網膜を焼いてしまうなどの損傷を与えます。
    Q: レーザ光は反射などによってなぜ波長が変わらないか(H1松川)→A: 波長はエネルギーと結びついています。通常の反射においては光のエネルギーは不変です。もちろん、ラマン散乱のように非弾性散乱が起きるとエネルギーが変化します。しかし、この成分は元の波の強度に比べ何桁も弱いので通常無視して差し支えありません。

    [レーザの応用]
    Q: レーザはどういうところに利用されるか(太田)→A: 半導体レーザは光ファイバ通信、光ディスクの光源などに利用される。気体レーザ(HeNeレーザ、Arイオンレーザ、HeCdレーザ、窒素レーザなど)は特殊照明用、発光スペクトルによる半導体評価のための励起用光源や距離計測用光源として使われます。固体レーザ(YAG:Nd、ルビーレーザなど)は、強い励起用光源、加工用光源(熱源)、医療用光源(レーザメスなど)として用いられる。
    Q: 光通信用レーザ、コンサートに使われる(特殊効果用の)レーザ、医学のレーザメスのレーザは同じものか(H2中村)→A: 光通信では、光ファイバと相性がよく波長の純度が高い赤外線(1.3 or 1.5μm)の半導体レーザが使われ、特殊効果には出力が大きく指向性の高く可視光線を出す気体レーザが使われ、医療用には大出力で容易に加熱ができる固体レーザが使われます。

    [光ファイバ通信]
    Q: 電気通信より光通信の方が伝送時間が短いというがすべてレーザになるのか(H1望月)→A:静止衛星通信では衛星が遠いところにあるので、時間がかかるだけで、電波でも光でも基本的に代わりはありません。衛星でも周回衛星を多数使う方法なら高度が低いので電送遅れは少ないです。ただ、光の周波数は高いので、電波に比べ大量の情報が運べることは確かです。一方、便利さからは携帯無線機器がよいことは明らかです。
    Q: (ファイバーアンプについて)何1000kmもある光ファイバーの増幅点に半導体はないのか(釣崎)→A: 光ポンピング用の半導体レーザが使われています。
    Q: 誘導放出で誘導する光は弱くてもよいのか(H2宮川)→A: あまり弱いと効果がありません。光通信用ファイバアンプの場合、ファイバーを伝わってくるのはレーザ光ですから弱いといっても光源の1/10程度になっているだけで、結構強い光です。
    Q: 光ファイバは全反射で伝わるのに損失があるのは理解できない(H2中田)→A:ファイバは石英ガラスですから、長波長では分子振動が、短波長ではレーリー散乱のために損失が起きるのです。

    [半導体レーザ]
    Q: 半導体レーザの干渉は閾値電流を超えないと起きないのか(H2飯島)→A: 閾値電流以下ではLEDと同じですから可干渉ではありません。超放射状態では誘導放出が起きていますが位相がそろった可干渉状態ではありません。
    Q: 閾値電流とは何か(H2窪喜)→A: LDに流す電流がある値を超えると反転分布キャリア密度がレーザ発振を起こすために必要な値を超えて誘導放出が起きるとともに、放出された光子の互いの位相がそろえあって急速に出力が増加します。このときの電流値を閾値電流という。
    Q: DH構造とQW構造のどちらが主流か(H2金子)→A:MQW(多重量子井戸)レーザはまだ特定の用途向けで、主流はふつうのDH(2重ヘテロ)構造です。

    [ルミネセンス]
    Q: ホタルの発光機構(H1井出)→A: ATP(アデノシン三燐酸)の存在下でルシフェラーゼという酵素が酸化するときに生じる化学ルミネセンスです。
    Q: くだらないことですが亀の子って何ですか(H2古橋)→A:有機化学においてふつうに出てくるベンゼン環です。
    Q: 腕時計の画面全体を光らせる機能(H2久保田)→A: フォトルミネセンスの一種で燐光というのがあります。これは、光励起された状態が基底状態に戻るのに長い時間がかかる場合をいいます。
    Q: 非発光遷移のものをどのようにすれば発光するようになるのか(H2新山)→A:非発光になる理由を調べ、それに応じて対策を立てます。励起された電子が欠陥にとらえられる場合、欠陥をなくするように工夫します。不純物のせいならば不純物を減らすようにします。
    Q: X線励起PLは人体に影響はないか(H2南條)→A:X線は人体に影響を与えますが、光は(強い光を目に受けない限り)ほとんど影響はありません。
    Q: PLの励起に紫外線やX線が使われるが人体に悪い影響はないのか(H1松木)→A:ふつうの蛍光灯やPDPに使われているガラスは紫外線を透さないので心配ありません。殺菌灯では、紫外線の透るガラスを使って紫外線を出していますから直視してはいけません。X線(によるPL)は病気の診察のためにやむを得ず使うのです。もちろんX線は人体に悪いので、なるべく弱いX線でも写真の撮れる感度の高い蛍光体を開発しているのです。
    Q: ルミネセンスは今後どのような分野に利用されると研究者は考えているのか(H1水野)→A:レーザ光としてのルミネセンスは、通信、記録、計測、評価、表示、医療、農林業に使われます。さらに、光コンピューティング、半導体LSIの光インタコネクション(光配線)にも用いられます。

    [光デバイス]
    Q: 赤い発光ダイオード(の全面のレンズ)は赤に、緑のは緑に着色されているが2色を1つで発光できるものは透明なのはなぜか(H1児玉)→A: 1色用のものは波長の純度をあげるために色ガラス(またはプラスチック)をつかっています。それでは、2色出せるものに赤とか緑のガラスを使ったらどうなるか考えてみましょう。
    Q: 黄色の発光ダイオードはあるのか(H2清水)→A: あります。
    Q: LEDの光は熱を出さないと聞いたが(鈴木大)→A: LEDの発光効率は確かに高いのですが、やはり多少は熱がでます。
    Q: SrGa2S4のELを使うとブラウン管が不要になるくらいのものなのか(H2佐宗)→A: 輝度、色純度とも、ブラウン管には及ばないようです。
    Q: 液晶ディスプレイはどうして大きくできないのか(篠原)→A:液晶の光スイッチング作用は液晶の厚みに強く依存する。2枚のガラスを広い面積にわたって一定(数μm)の面積を保つのは大変難しいし、各画素をコントロールする半導体素子を広い面積にわたり一様につけるのも難しい。
    Q: 今回の授業で使えそうな英語のテキストを紹介して欲しい(H2鳥海)→A: C. Kittel "Introduction to Solid State Physics, 6th edition"(John Wiley & Suns, New York, 1986), J.I. Pankove: "Optical Processes in Semiconductors"(Dover New York, 1971)
    Q: どうしてPDPは印刷技術でできるのか(H2鳥海)PDPについて詳しく(H1中井)→A: PDPは、多数の蛍光灯を並べたようなもので、各画素の部分で放電を起こし、紫外線を発生させて対向する部分の蛍光体を励起します。各部分で独立に放電が制御されるように壁が作られ、多数の電極が並べられています。蛍光体を塗るプロセスや、電極や壁を作るプロセスに、大面積を一様に作ることのできる印刷技術が使われるのです。
    Q: 蛍光灯の寿命の原因(H2松尾)→A: フィラメントが劣化して電子の放出が弱くなって放電が弱くなるのが寿命です。

    [光物性一般]
    Q: 放射光と放射線のちがい(藤村)→A: 「放射光」は正しくは「シンクロトロン放射光」のことです。シンクロトロンというのは高真空の環状の管中で電子を加速してぐるぐる回転させる装置です。実際には直線の管をつなぎ合わせて環状にしてあるのです。直線から次の直線へ電子を曲げるには強い電磁石を使います。曲げるときにチェレンコフ効果といって強い「白色」光が放射されます。この「白色」光の波長は、X線→極紫外線→紫外線→可視光→赤外線→遠赤外線、にわたり強い強度をもっています。一方、放射線は、放射性崩壊によって放出される高エネルギーの粒子線 (α線、β線、γ線)の総称です。
    Q: 黒体輻射について(佐藤太)→A:黒体とはすべての波長の放射を完全に吸収する物体をいう。周囲の壁が放射を完全に透さないで一定の温度に保たれた空洞の壁に、その壁に比べて十分に小さい孔をあけるとき、この孔を外部から見ると黒体と見なされる。壁の温度が一定に保たれる限り放射の場と黒体とは平衡状態にあるから、空洞の孔はその温度に相当する放射を行っている。

    [その他]
    Q: CTスキャンはPL、MRIはELを用いた機械ですか(H1青山)MRIについて知りたい(H1城下)→A: X線CTではX線を検出するのに蛍光体を使うのでなく直接ガイガー計数管などで受けます。MRIは磁界中でのプロトンの高周波による核磁気共鳴を用いた診断装置です。光は使っていません。
    Q: CTスキャンは人体に有害ではないのか(H2王)→A: X線CTではX線を使うのであまり大量に浴びるとよくありませんが、最近の検出器は感度がよいので弱いX線を使っても診断できます。


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