電子物性工学U 佐藤勝昭教官 96/11/7

フェルミ準位、バンド構造
Q: フェルミ準位とは何かわからない。(勝又、H2清水,古谷,H1笠原)フェルミ準位を詳しく説明してほしい(H2石黒,H1中井)一言で説明するとどういえばよいか(H2田口)。フェルミ準位が移動する理由(H2馬場,栗原) ドナーをドープするとフェルミ準位はどちらに近づくか(H1小林(一))→A: 電子物性工学Tで学習したはずです。教科書「応用電子物性工学」p26−31を読んでください。フェルミ準位とは、フェルミ分布において電子の存在確率が1/2になるエネルギーです。[f (EF)=1/2となることを確かめてください。]絶対0度ではフェルミ準位以下の状態は完全に占められ、それ以上では完全に空です。従って、フェルミ準位は固体中に存在する全電子の最大のエネルギーです。従って、不純物をドープしてn型にすると、電子が増えるのでフェルミ準位は上昇します。
Q: フェルミ準位を動かす具体的方法(H2原嶌)→A: 上に述べたように、ドナーを添加してn型にするとフェルミ準位が伝導帯に近づき、アクセプタを添加してp型にするとフェルミ準位は価電子帯に近づきます。(ちなみに、ドナーを高濃度ドープしますと、フェルミ準位が伝導帯の中に潜り込み、金属的になります。このような半導体を縮退半導体とかn+状態などといいます。アクセプタの場合でも同様に縮退p+状態にすることができます。トランジスタのソースやドレーンに金属電極をつけるとき、半導体と金属のオーム性接触をとるには、半導体を縮退状態にすることが行われています。)
Q: 不純物準位が価電子帯の中にくることがあるのか。(H1小野)
A: 単純なバンド構造を仮定し、不純物状態に有効質量近似を適用した場合は、不純物状態は必ずバンドギャップ内にきますから、価電子帯の中にくることはありません。(やや高度の話になりますが、Fe、Crなど遷移金属イオンのd電子系のような局在電子状態の場合には電子相関のために不純物準位が伝導帯や価電子帯の中に生じる場合があります。) Q: 電子の重さはどうやって測るか(H2宮川、H2馬場)→A: まさか、電子を秤にかけるわけにいきませんね。電界や磁界下での電子の運動の様子を調べれば、電子の重さを推定できます。たとえば、サイクロトロン共鳴といって、磁界中でマイクロ波のキャビティにおいたとき、ω=eB/m*の関係が成り立つとき共鳴が見られます。これよりm*を決定できます。
Q: バンドギャップがわからない(H2太田, H1笠原)→A: 電子物性工学Tで学んだはずです。教科書「応用電子物性工学」p16−26を読んでください。それでもわからないときは、研究室に質問にきてください。
Q: 状態密度の式(P佐藤(賢))→A: 教科書p27をよく読んでください。N(E)=CE1/2 ここにC=8・21/2m3/2π/h3
Q: フェルミ準位の考えは、電子物性以外の分野で役立つことはあるか(H1水野)→A: 電子材料、デバイスを理解するには必要ですが、回路システム関係や、電力エネルギー関係ではほとんど使うことはありません。しかし、電力系でも、大電力用サイリスタの開発などにタッチすると、フェルミ準位やバンド構造は常識として必要になります。
Q: 半導体にあるエネルギーE(電圧とか光)を与えるとEDにある電子が自由電子になると考えてよいのか(H1青山)
A: ドナーの束縛電子は熱エネルギー(室温でkT〜25 meV)で束縛を解かれることがふつうです。赤外線でもOKですが電界で解離するのはよほど強い電界を加えた場合のみです。 Q: バンドギャップ中に不純物準位が全くなければ、電子にエネルギーを与えても伝導帯にいかないのか。(青木)→A: バンドギャップのエネルギーより大きなエネルギーを持った光子を与えると伝導帯にジャンプします。
Q: ドナー、アクセプタについて辞書には「不純物のやりとりをする」とあったが、どういう意味か。(H2飯島)→A: 不純物と電子のやりとりをするということの誤解でしょう。辞書は文系の先生が書くので間違いがあるかもしれません。
結晶、結晶構造、格子定数について
Q: 結晶についての勉強はH2でできるか。化学科の講義になるか(鳥海)→ A: H2では結晶学の講義はありません。Pコースの固体物理学(東理大石田先生)では結晶のことも教えているそうです。C1コースではX線結晶学の講義があります。
Q: ダイヤモンド構造など結晶の構造によって物質の性質は特徴づけられるのか(H1有馬)→A: その通りです。同じ炭素でも、ダイヤモンド構造をとるとあの無色透明の硬い宝石になりますし、グラファイト構造をとると、鉛筆の芯のように柔らかくて真っ黒な黒鉛になります。電気的にはダイヤモンドは絶縁体、黒鉛は金属です
Q: シリコンの原子がダイヤモンド構造の配置をとることと、電気的性質との間に関係があるのか(H2小川)→A: ダイヤモンド構造では外殻電子はsp3混成軌道を作り安定し、かつ、結合軌道と反結合軌道との間にギャップができて非金属になります。(このことは、教科書p5−7、p17−18を復習してください)
Q: 格子定数はどのような要因で決まるか。(H2椿井)→A: 電子の全エネルギーは、結晶構造が決まればあとは格子定数の関数です。全エネルギーが最も低くなる格子定数が実現しているのです。
Q: ダイヤモンド構造で、断面を切ったとき
(図省略)(a) (b) (c) (d) となるといわれるが、(a),(c)がわからない。(H2出来, H1小林真)
A: ダイヤモンド構造の単位格子の原子位置は、左下角を原点にとり、格子定数を1とすると、(a)の座標は(1/4,1/4,1/4)、(3/4,3/4,1/4)、(b)の座標は(1/2,0,1/2), (0,1/2,1/2), (1,1/2,1/2), (1/2,1,1/2)、(c)の座標は(3/4,1/4,3/4), (1/4,3/4,3/4)、(d)の座標は(0,0,1),(1,0,1),(0,1,1),(1,1,1),(1/2,1/2,1) と表されます。(d)のコーナーにあるすべての格子点は原点からx,y,z方向の長さ1の並進ですから、原点と等価です。これがダイヤモンド構造における原子の配置です。
Q: 単位胞の内部の4つの位置がよくわからない。(H2窪貴, 笹木、H1井出)、原点から1/4入ったところにある原子がわからない(H1松木)→A: 上の図で(a),(c)の位置にある原子は、単位胞の中にすっぽり入っています。
Q: 原子によって面心立方になったり体心立方になったりするのか(岩倉)→A:YES, Fe, Co, Ni, Cuを見るとそれぞれbcc(体心立方), hcp(六方稠密), bcc, fcc(面心立方)となっています。1原子層の超薄膜を作るとFeもCoもfccになります。<P> シリコン
Q: Siと同じような性質の物質はほかになにがあり、どのように利用されているか(H2鈴木伯)→A: GeがSiとよく似た性質を持っています。バンドギャップが0.7eVで、Siよりかなり小さいので、耐熱性はよくありませんが、電子移動度が高いので、高速デバイスに利用されます。
Q: Siは不純物を含む率が少ないそうだが、なぜ、Siはそんなにうまくできるのか(山口)→A: 研究の歴史が長く、半導体デバイス材料として商売になるので、多くの会社が巨額の研究費を投じて研究したからです。もちろん、SiはGaAsとちがって単体なので熱処理で欠陥が増えたりしませんから、取り扱いが容易だという点もメリットでしょう。
Q: Si中の不純物を取り除いたり加えたりする方法を知りたい(藤村、H1望月)→A: 不純物の除去は帯域精製法(zone refining)といって、融液が固化するとき不純物がはじき出される性質を使います。不純物の添加は、原料にはじめから仕込んでおく方法、Si結晶に不純物を蒸着して、熱処理によって拡散させる方法、イオン注入装置を使って打ち込みあとで熱処理する方法などが使われています。
Q: Siに2価、6価の不純物を入れたものはあるか。(小島)→A: 2価の不純物はダブルアクセプタを、6価の不純物はダブルドナーを作ります。シングルドナーは水素原子に、ダブルドナーはヘリウム原子に相当します。実用には使われません。
Q: 授業でやっているシリコンと、舞の海が頭に入れたシリコンは同じものか(H1小室)→A: 舞の海のはシリコーン樹脂といってSiを含む高分子です。

その他の質問
Q: 電子物性Tがよくわかってないのだが大丈夫か(H1栗田、長島)→A: シラバスに書いたように、この講義は電子物性Tを学んだことが前提になっています。この講義をちゃんと理解するためには電子物性の復習をきちんとしてください。
Q: もう少し早く進まないと終わらないのではないかと心配(金子)→A: 社会人経験者は厳しいですね。おっしゃる通りです。電子物性Tを理解していない人が多すぎます。今後は、それぞれの講義の中で適宜復習を入れたいと思っています。
このほか、CDとDVDの違い、ROMの焼き付け、CRTのこと、TVの水平解像度、タッチエントリー入力などに質問がありましたが、この講義の主題からはずれますので、それぞれ、専門の雑誌、書物に譲りたいと思います。

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