JSTの新規事業「未来社会創造事業」
に携わって

研究開発改革推進部
相田俊一

 私は今年度から始まった「未来社会創造事業」に携わっています。JST勤務は3年目で、この事業の2つの募集―昨年7月のJST内の研究テーマアイディア募集、今年3月のテーマ提案募集―両方に自分でも提案しました。日本の精鋭の研究者たちが挑む課題に、私たちのアイディアが活かされるチャンスがあると思うと、ぞくぞくしますね。実は昨年度末で勤務していたJSTの部署が無くなることになり、募集に応募して未来社会創造事業の運営の一端を担うことになりました。この事業の発展、そして職場の発展、二重の期待を込めて取り組んでいます。

 未来社会創造事業の立ち上げにあたり、これまでのJST事業のいくつかが未来社会創造事業の中に入り、その事業としての新規募集が行われなくなりました。伝統ある事業での新規公募が無いのは寂しいことですが、未来社会創造事業の制度には、新しい試みと共に、さまざまなJST事業の特長や制度・経験が取り入れられており、伝統は受け継がれていると実感しています。先人達の努力を無駄にしてはならない、そんな思いで取り組んでいます。

未来社会創造事業

 この事業には図に示すように2つの型がありますが、共通する最大の特徴は、「社会の求める価値」から出発している、ということです。文部科学省が提示した「大規模プロジェクト型」の3つの技術テーマは、がん治療にも使われる粒子加速器に使う技術、医療用MRIや鉄道送電に使う超伝導技術、自己位置の高精度推定装置に使う技術、と技術の応用先が明確に示されています。

 「探索加速型」では、さらに踏み込んで「社会の求める価値」を広く一般から募集するところから出発しました。これがはじめに書いた「テーマ提案募集」です。2ヶ月間で集まった1000件以上の提案を分類整理して全体を俯瞰し、追加のヒアリングや有識者インタビューも行った後、運営統括を中心に、社会・産業が求める新たな価値にまとめ、これを「重点公募テーマ」として、7月19日締切で研究提案を募集していました。
応募する研究者には、文理を超えて学問分野を融合し、様々な機関・研究者の連携・協力を促して、社会実装を念頭に置いて「創出される社会・経済的なインパクトと、それを実現する方策や展開」を提案書に明記するよう求めています。ですから「社会の求める価値」を強く意識した提案が集まっています。

 この事業を成功させ、イノベーションを創出させるため、今までのJST事業の経験を活かして、様々な人の知恵を集める仕組みが次の様に用意されています。
 一例として、知的財産はイノベーションの土台になるものですが、多くの参画者が関わる研究チームの中で効果的に生み出され、活用しやすくするため「知的財産マネジメント基本方針」JSTが定め、これを遵守して研究されるようにしています。
 また、研究中に大きな問題が生じた場合、必要に応じて追加の研究公募を行うなどで、解決のための体制を作れます。「失敗で終わらせず、失敗を活かすチャンス」があるのです。
 5探索加速型の4つの研究領域は、それぞれの運営統括がマネジメントしますが、重点公募テーマの設定、応募提案の審査と採択に加え、採択時に研究開発代表者と目標や計画を調整し、研究中も進捗を把握し改善のための対応を行います。節目で行うステージゲート評価では、必要に応じて研究課題の中止や他課題との融合の勧告も行うなど、実効的にマネジメントできるようにしてあります。運営統括は各領域の研究開発運営会議の議長を務め、専門家の委員のアドバイスを受けて重要方針案を策定しますが、方針の決定には、未来社会創造事業の運営最高機関「事業統括会議」の審議が必要です。このように、衆知を集めて運営されるのです。

 「テーマ提案募集」で集まった1000件以上の提案については、提案者に公開の可否を確認し615件を公開しました。これらの社会ニーズ提案が広く知られ、そこから新たな種が生まれる-皆の力が集まってイノベーションを生み出す、そんな社会になることを願って、日々務めています。