感情を嗅ぎとる敏感さと、基礎科学の狭間で
~科学コミュニケーターのしごと~

日本科学未来館
 眞木まどか

 私は、日本科学未来館で働く科学コミュニケーターです。当館には50名弱の科学コミュニケーターが在籍しており。全員の専門はとても多様です。宇宙物理、地球科学、生命科学、工学など、まるで、小さな宇宙です。
文系の科学コミュニケーターも数名在籍しています。私もその1人で、博物館教育が専門ですが、人が科学技術を活用するに当たって議論しなければならない様々な側面について、ミュージアムが自由闊達に議論できる場を提供できるか、そんな可能性を模索したいと思っています。

 科学コミュニケーターの仕事内容は、イベントの企画立案から、展示場内での来館者との対話など幅広いのが特徴です。また、自分の専門に関わらず広い範囲の科学技術のトピックを扱うことを必要とされます。文系の私も例外ではありません。そんな私から、科学コミュニケーターの仕事の一つをご紹介し、そこから仕事のおもしろさを紐解きたいと思います。

 当館の科学コミュニケーターの仕事の一つに来館者の方々の前で実施する15分間の「サイエンスミニトーク」があります。私は入社後すぐのトレーニングとして、放射線に関するミニトークを担当しました。

  サイエンスミニトーク  ある日、いつも通りトークをやり終えると、一人のお母さまが私のところにやってきて「娘が全身のCTスキャンを最近2回受けたが、今の説明を聞くととても大きな放射線量を受けたことになるが、大丈夫なんだろうか」という相談をされたのです。

 私は、その質問にとてもドキっとしました。なぜって、私は放射線のことを必ずしも十分な知識をもたなかったからです。
私は、お母さまの話に耳を傾け、ポイントを整理しました。 まずは、治療の中で何回レントゲンを受けたのか確認してみること、そしてレントゲンは見えないところを可視化してくれる必要な技術であること、最後にはお医者さんと話し合いつつも、お母さんが娘さんの健康管理に寄り添い判断することをお伝えしました。助けになればと、参考図書もお伝えしました。

 「私の返答や紹介した図書があのお母さまの不安を少しでも和らげたのだろうか」、「交わした対話が、放射線リテラシーへの芽生えを摘みとることなく、育てる土壌を作れたのだろうか」、その時のコミュニケーションを今でも思い起こして不安になることがあります。それは、後悔に似た想いのときもあります。

 科学コミュニケーターは、科学者が科学技術開発をする際、社会的な重要性や需要を考えつつ研究開発を行っている旨を伝えることも忘れてはいけないと思います。しかし、それと同時に重要な仕事は、来館者の気持ちに寄り添いつつ、科学トピックが内包する論点を整理し、提示することだと思います。その時に、科学は私たちが欲しい答えをダイレクトには与えてくれず、判断はあくまで人に任せられているケースもあることを頭の片隅に置いておく必要があるかもしれません。

 来館者の声に真摯に耳を傾け、想いをくみ取るために敏感になりながらも、科学の基礎研究が解き明かした真実をぶれずに説明できる科学コミュニケーターでありたいと思っています。