JST/CRDS/Separation

CRDS separation engineering team

2016.06.28 update

佐藤は、2015年度、JST研究開発戦略センター(CRDS)において、分離工学チームのメンバーとして協力した。
このページは、本グループの活動の一端の記録である。

戦略プロポーザルワークショップヒヤリング資料等 フォローアップチームメンバー

戦略プロポーザル

(戦略プロポーザル)分離工学イノベーション
~持続可能な社会を実現する分離の科学技術~

エグゼクティブサマリー

 自然界は種々の物質からなる多様な混合物で構成されており、そこでは多くの化学反応 が同時進行的に起きている。我々、生物の体内も状況は同じであり、血液中では無数の物 質が入り混じって流れている。これは自然界がエントロピー最大化に向かって流れている ことから生ずる必然の結果ともいえる。このような中で、人間が持続可能な社会を実現し、 そこで生きていくためには、混合物から有用な物質を選別して取り出し、不要物を取り除 く作業が必要となる。この作業はエントロピーを減少させる事を意味し、そのためにはエ ネルギーの投入が必用となる。このように、目的となる物質を高精度に且つできうる限り 低エネルギーに分離するプロセスは、物質合成と並ぶ化学の基本プロセスであり、産業に おいても極めて重要な位置を占めている。
 事実、例えば今後予想される世界の人口増による、著しい水資源の不足に対処するために、 廃水処理や海水淡水化での分離技術は必須になっている。シェールガス・シェールオイルが エネルギー源として大きく期待されているが、その採掘時に生ずる大量の汚染水が深刻な 環境問題を引き起こす懸念があり、ここでも有効な分離技術が求められている。
さらには福島第一原子力発電所事故に伴う大量の汚染水に含まれる放射性物質の分離、 再生可能エネルギーの一つとして期待される微細藻類からのバイオ燃料精製時の脱水分離 など、多数の社会的かつ産業的な価値を産み出す分離が重要視されている。
 これら液体に関する分離工程では、従来、蒸留プロセスが多用されてきたが、石油化学 産業の消費するエネルギー内の約40% を蒸留操作が占め、低エネルギーの分離技術が求め られている。一方、気体においてもPM2.5 のような大気汚染物質の分離が、また火力発電所 で大量に発生する温暖化ガス(CO2)の分離・回収の必要性、また将来の水素社会の到来に 伴い、高純度の水素の分離・貯蔵が産業的に重要になっている。
 固体における分離は鉱物資源の選鉱、製錬、精錬から始まるが、世界の資源国におい て良質の鉱山は減少しており、ヒ素等の有害な物質を多く含む低品の採掘に着手せざ るを得ず、目的とする物質を低環境負荷、低エネルギーで分離する事が要求されている。 このようにして得られた資源をもとに人類は多様な製品を工業的に生産し、消費していく。 使用後に廃棄される大量の製品群は、鉱石のような自然界の混合物に対し、人工的混合物 とみなすことができるが、リサイクルするためには再び分離の対象物となり、物質循環が 課題となる。現状ではこれら自然界の混合物と人工的混合物の分離を共に実現するうえで の、技術的、経済的乖離は大きいが、将来の社会において持続可能な物質循環を成立させ る意義は極めて大きく、目を背けてはならない。
 一方、生体に目を向ければ、特定の細胞、 タンパク質などの生体物質の分離においても、疾患の早期診断・治療、低侵襲治療や、医 薬品成分など、高精度で高速の分離プロセスが要求されている。これらバイオ系物質の分 離においては、分析と一体になった技術開発が必要であり、しかも上記の気体・液体・固 体の分離技術と異なり、患者の負担を減らす目的で、あるいは元々体内に少量しか存在し ないことから、極微量での分離・分析が求められてくる。

 このような中で、本提言が取り上げる分離工学イノベーションとは、複数物質の混合状 態にある混合物から、目的とする物質だけを取り出す/または不要物を取り除く等の分離 操作を、従来に比して格段に低エネルギー且つ高精度におこなうことを目指すものである。 化学工学に代表される、既存の学術体系によって構築されてきた分離プロセス・機能を、 現代の科学技術・イノベーションの観点から、そして将来社会・産業の要請から捉え直し、 異分野科学技術の連携・融合から得られる知識と技術によって革新する取り組みを提案す る。今、分離がキーとなるような社会・産業的に重要な諸課題に対し、分離過程を支配す る共通の科学的原理に立ち返りつつ、工学的手法によって目的物質の分離を実現する分離 工学イノベーションが求められている。

 一般に分離の基本原理は、機械的分離、平衡分離、速度差分離に大別される。本提言で は、近年のナノテクノロジーや先端計測技術、シミュレーション技術の飛躍的進展を活用 し、これら基本原理と、分離操作を担う媒介となる材料・デバイス・プロセスを、原子・ 分子レベルで制御することによって、従来は困難であった低エネルギー・高精度な分離操 作の実現を目指す。通常、分離対象物質の単位エネルギーあたりの処理量と分離性能は、 トレードオフの関係にあるが、分離性能を高く保ったまま、必要な処理量の分離を実現す るイノベーションが目標となる。そこでは、個別に確立されてきた技術手法だけでは突破 できない分離を、技術融合や新材料・デバイスの導入、反応との組合せなど複合化するこ とによって、大きく凌駕することが求められる。すなわち、分離工学を体系化し、横断的 な取り組みからイノベーションへ結びつけることを目指す。

 本提言で扱う分離の対象課題は、大別した3 つの主要ニーズ・方向性に分類される。
1. 気体・液体の分離、2. 鉱物資源・固体の分離、3. バイオ・医薬食農系の分離、である。 さらにこれらを横断する共通基盤的課題が重要であり、ここでは特に学術界の貢献が求め られ、例えば混合溶液中の相分離過程や結晶核形成メカニズムの解明と自在制御、それら を把握するためのその場計測技術や、計測不可能な現象を把握するためのシミュレーショ ンモデルの確立などが主要課題となる。上述の3 つの方向性は、それぞれに求められる 分離のスケール・規模や精度が大きく異なり、目的に応じて適用すべき分離技術またはそ の組合せ、システムも異なってくる。要求分離性能は用途によって決まり、それぞれの性 能を実現するためにはコストも意識した新しい分離技術・プロセスや分離素材の開発が必 要である。

 1 の気体・液体の分離では、吸着分離、膜分離、吸収分離、の各研究開発課題につき 本報告書では述べている。これらの分野では各種ゼオライトや、MOF(Metal Organic Framework: 多孔性有機金属錯体)、ナノカーボン材料といった新材料が、またイオン液 体や超臨界流体などを用いた次世代型分離技術が登場しているが、蒸留などの分離技術代 替への障壁は高く、新技術だけに頼るのではなく、既存分離技術との組み合わせによって、 プロセス・システム全体として分離性能の大幅な向上を図ることが重要となる。
 2 の鉱物資源・固体の分離では、リサイクル製錬、金属製錬・基礎学理について述べて いる。製錬技術の歴史は長く、成熟した技術分野と見られがちだが、依然として分離が困 難な重要な元素ペアが多い。近年のナノ加工・評価技術、計算科学・モデリング、データ 科学の進展を取り入れる事により、この分野は大きく変貌する可能性を秘めている。
 3 のバイオ・医薬食農系分野の分離では、感染症等の原因物質の単離や簡易検査、疾患 関連成分の精密検査、植物・食品の有効成分分離につき述べている。生体には未解明の機 能分子が多く存在し、機能分子間の相互作用の理解が十分でなく、機能的に連携する分子 群を、その機能・状態を維持したまま特異的に分離・分析する手法の開発や、解析結果を 統合して最新の情報科学によって解析することが求められている。

 以上、分離の対象によりその装置や設備のスケールはトンを超える巨大なケースからピ コリットル、フェムトリットルの超微量の世界まで多岐に渡るが、その根本原理は、ナノ メートルサイズの分子の持つ形状、物理的、化学的、電気的性質の違いに基づき、分離を 行う点で共通する。すなわち、対象物質の物理的形状や大きさに対応した物理的な構造を 用意し、対象物質の化学的親和性の違いを利用して分離していく。この意味で、これら分 離プロセスを分子レベルで理解し、新手法、新材料の開発により分離工学のイノベーショ ンを引き起こすうえで、横断的共通基盤技術の確立が重要である。これらを主体的に担う 学術界への期待も大きい。産業界と学術界との役割分担および連携がまさに求められ、そ の推進方法についても述べている。

ワークショップ「分離工学イノベーション」開催

  • 日時:2015.12.23, 10:00-17:00
  • 場所:JST東京本部別館2Fセミナー室
  • 開催趣旨
  • ワークショッププログラム プログラム
     
    ワークショップの趣旨説明「分離工学イノベーション」 永野 智己(JST-CRDS)
    第一部  気体・液体の分離
    「分離工学の現状と将来への挑戦課題 - 資源開発に関連した膜・吸着分離を例に-」一ノ瀬 泉(物質・材料研究機構)
    「分離工学イノベーションを実現するために - 膜工学からの視点-」都留 稔了(広島大学)
    「膜分離材料の現状と課題、将来展開」 吉宗 美紀(産業技術総合研究所)
    「超臨界流体を用いた分離の科学技術と諸課題」 猪股 宏( 東北大学)
    「イオン液体・超臨界流体技術における相平衡に関する研究動向と将来展開」下山 裕介(東京工業大学)
    「高度セレクティブセパレーション - 晶析の発展-」 滝山 博志(東京農工大学)

    第二部 資源・固体(元素)の分離
    「次世代固相分離技術」 大和田秀二(早稲田大学)
    「レアメタルの低エネルギー・環境調和型分離技術の課題と将来展望」     岡部 徹(東京大学)
    「これからの製錬研究」 宇田 哲也(京都大学)
    第三部 バイオ・医薬食農系の分離

    「生体物質の分離:導入に代えて」 児山 圭(JST-CRDS)
    「生体関連物質の分離・分析技術イノベーションの展望」 澤田  誠( 名古屋大学)
    「マイクロ流体デバイスによる分離技術の現状と課題」 山田 真澄(千葉大学)
    「生体関連物質の先端分離技術 - エクソソームの分離-」糸長 誠(JVC ケンウッド)

    総合討論 (ファシリテーター 永野 智己)

  • ワークショップ報告書

    (ワークショップ報告書)
    科学技術未来戦略ワークショップ「分離工学イノベーション」/CRDS-FY2015-WR-10

    エグゼクティブサマリー
     本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS) が平成27 年12 月23 日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ(WS)「分離工学イ ノベーション」に関するものである。
     自然界は種々の物質からなる多様な混合物で構成されており、そこでは多くの化学反応 が同時進行的に起きている。私たち生物の体内も状況は同じであり、血液中では無数の物 質が入り混じって流れている。これは自然界がエントロピー最大化に向かって流れている ことから生ずる必然の結果ともいえる。このような中で、人間が持続可能な社会を実現し、 そこで生きていくためには、混合物から有用な物質を選別して取り出し、不要物を取り除 く作業が必要となる。この作業はエントロピーを減少させる事を意味し、そのためにはエ ネルギーの投入が必要となる。このように、目的となる物質を高精度に且つできる限り低 エネルギーに分離するプロセスは、物質合成と並ぶ化学の基本プロセスであり、産業にお いても極めて重要な位置を占めている。
     本ワークショップは、様々な対象混合物について、目的とする物質だけを取り出す/ま たは不要物を取り除く等の分離操作を、従来に比して格段に低エネルギー且つ高精度にお こなうことを目指して「分離工学イノベーション」を掲げ、分離に関する多様な科学技術 の専門家間で議論を深めた。化学工学に代表される既存の学術体系によって構築されてき た分離プロセス・機能を、現代の科学技術・イノベーションの観点から、そして将来社会・ 産業の要請から捉え直し、異分野科学技術の連携・融合から得られる知識と技術によって 革新する取り組みを検討した。必要となる科学技術・プロセス・システム、その開発を促 進するための政策などの議論を行い、分離工学イノベーションの有効な研究開発戦略策定 の一環となることを目指して開催したものである。ワークショップではまず、JST-CRDS における調査・分析結果から得られた全体像、課題、研究開発戦略検討の仮説を提示し、 その後に分離工学イノベーションへの期待、各技術的手法の最新動向や課題、重要ニーズ に関する話題提供、最後に総合討論を行った。
     各話題提供では、主に次のような様々な分離の技術課題や先端動向、ニーズが語られた。
     
  • 世界の人口増による著しい水資源不足に対処するための、廃水処理や海水淡水化での 分離技術。
  • シェールガス
  • シェールオイルがエネルギー源として大きく期待されているが、採掘 時に生ずる大量の汚染水が深刻な環境問題を引き起こす懸念があり、採掘随伴水の有 効な分離技術。
  • 石油化学産業における従来の蒸留プロセスを代替する、あるいは膜分離等の他手法と の組合せによる低エネルギー型の分離技術。
  • 国を越えて極めて広範囲に影響がおよぶPM2.5 のような大気汚染物質の分離技術。
  • 火力発電所等で大量に発生する地球温暖化ガス(CO2)の分離
  • 回収
  • 貯蔵技術。
  • 将来の水素社会到来に伴う、高純度の水素の分離
  • 貯蔵技術。
  • 新しい分離材料としての可能性が期待されるイオン液体や、超臨界流体を用いた、医 薬品や食品成分など特定成分の分離技術。
  • 高い選択性と高純度化を実現する晶析技術。
  • 鉱物資源の選鉱、製錬、リサイクルにおける、特定固体物質の分離技術。世界の資源 国において良質の鉱山は減少しており、ヒ素等の有害な不純物を多く含む低品位鉱の 採掘に着手せざるを得ず、目的とする物質を低環境負荷、低エネルギーで分離する事 が要請されている。また、使用後製品リサイクルにおける希少元素の分離技術は、経 済性の観点が大きな課題である。
  • 特定の細胞、タンパク質などの生体物質分離。疾患の早期診断
  • 治療、低侵襲治療や、 医薬品成分など、高精度で高速の分離プロセスが求められている。近年、細胞代謝の 過程で細胞内の不要な物質を細胞外に運び出す機能を有する、細胞外小胞の1 つ「エ クソソーム」の研究が活発化している。エクソソームはがんなどのバイオマーカーと して注目されているが、高精度の有効な分離技術・定量計測法はまだ確立されていな い。生体物質の分離においては、分析と一体になった技術開発が必要であり、患者の 負担を減らす目的で、あるいは元々体内に少量しか存在しないという制約から、極微 量での分離・分析が求められる。マイクロ流体デバイスの実用化や、超臨界流体クロ マトグラフィーのさらなる技術革新が期待される。
  •  総合討論では、各分離対象によって求められるプロセス全体の最適化や、個々の分離技 術の組合せ・複合化、実証試験設備の在り方、基礎科学データの不足やシミュレーター開 発の必要性、研究環境面の課題、学協会の活性化や個々の学会を横断する議論・連携の必 要性、産学連携の方策、セクター間での問題や情報の共有方法、そして社会システム・制 度の在り方まで、極めて多岐に渡った。
     本ワークショップの議論を踏まえてCRDS では、今後国として重点的に推進すべき研 究開発領域、具体的な研究開発課題、その推進方法の検討を含めて、戦略プロポーザルと して提言を発行する予定である。

    ヒヤリング資料等

    資料分類題名・内容講演者・面談相手など
    インタビュー固相分離(1)岡部(東大)
    インタビュー固相分離(2)大和田(早大)
    インタビュー固相分離(3)大木(産総研)
    インタビュー固相分離(4)柴山(秋田大)
    インタビュー固相分離(5)中島(リーテム)
    インタビュー固相分離(6)滝山(農工大)
    インタビューバイオ分離山田(千葉大)

    フォローアップ

    種別年月日題名学会・学会誌等学協会
    講演2016.09.26「固相分離技術において分析技術に求められるもの」環境規制関連セミナー日本分析機器工業会

    メンバー

  • チーム総括:曽根純一(ナノテクノロジー・材料ユニット上席フェロー)
  • リーダー:永野智己(ナノテクノロジー・材料ユニットフェロー)
  • メンバー:佐藤勝昭(ナノテクノロジー・材料ユニットフェロー)
          緒方 寛(環境エネルギーユニットフェロー)
          関根 泰(環境エネルギーユニットフェロー)
          松田一夫(環境エネルギーユニットフェロー)
          児山 圭(ライフサイエンス・臨床医学ユニットフェロー)
          中本信也(特任フェロー)

  • 勤務先リンク
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